きき酒 いい酒 いい酒肴

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.40『<最終回>お酒を通じ礼節を身に着け精神性高める』(機関紙2020年1月1日号/No.598号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.40『<最終回>お酒を通じ礼節を身に着け精神性高める』(機関紙2020年1月1日号/No.598号)

新年明けましておめでとうございます。平成2年、2020年を迎えました。昨年は、年号が「令和」に代わり、新しい時代がやってきたことに期待が込められた年だったと思います。この年末年始、会員の先生方はどのようにお過ごしでしょうか。ご家族やご友人方と賑やかに過ごしたり、もしくは、お一人の時間を静かに楽しんでいることでしょう。新年を祝う席には、お屠蘇やシャンパンが用意されているかも知れません。

◆人類とお酒の歩み

最初に人類が酒類を作った時期は諸説あります。ワインは約7000年前、ビールは約5000年前からだと言われています。

コーカサス地方から始まったワイン作りは、ローマ時代にヨーロッパ全土に広まりました。中世のヨーロッパでは、ワインは「キリストの血」と言われ、神に捧げるお酒として大変神聖で貴重なものでした。

一方、ビールは古代メソポタミアやエジプトから始まりました。当時のビールは、大事な栄養源で、古い壁画にもビール造りの様子が残されています。メソポタミアで起こったシュメール文明では、すでにビールが飲まれていました。初期のビールの製法は、まず麦を乾燥して粉にしたものをパンに焼き上げ、このパンを砕いて水を加え、自然に発酵させるという方法だったようです。後に現在のヨーロッパに伝えられ、地形や気候により、それぞれの地方特有のビールが生まれました。現在、ビールは100種類以上あるといわれています。

中世に入ると醸造酒を蒸留する技術が確立され、蒸留酒が造られます。麦からウイスキー、ブドウからブランデー、芋類からウォッカ、リュウゼツラン(竜舌蘭/多肉植物)からテキーラなど、世界各地で蒸留酒が次々と誕生しました。

◆風土の中で変化へ

このように、お酒は各地の風土の中でさまざまな進化を遂げ、人々に愛されてきました。古代ギリシャではワインの神バッカス、ビールの神ガンブリヌス、日本では大物主大神(おおものぬしのおおかみ)が祀られてきました。昔から宗教的な儀式やお祝いの行事でお酒を用いるなど、単なる飲み物ではなく、文化や習慣において重要な要素であったのです。

◆日本人の最初のお酒

日本人にとっての最初のお酒は、野生のブドウが自然発酵したものだったそうで、縄文時代には酒造が行われていたという説もあります。奈良時代には米と麹を用いた醸造法が確立されましたが、主に特権階級が飲むものでした。お酒が庶民でも入手できるようになったのは、造り酒屋ができ始めた鎌倉時代以降のことです。江戸時代になると、現代と同じような醸造法で作られたお酒が流通し、日常的に楽しむようになりました。明治維新後は、西洋の食文化とともに、ビール、ワイン、ウイスキーなどが日本に入ってきました。

古来、日本ではお酒を神々にお供えすることにより、神聖なものとして扱ってきました。現代でも、お酒は神棚へのお供え、お清め、儀式や行事に用いられ、神様と人々をつなぐ役目を果たしています。日本人はお酒に対して飲みもの以上の価値や嗜み方を高めてきました。古来の日本では酒を造る行為そのものが神事として行われてきました。酒造りの工程毎に、専用の祠(ほこら)が用意され、祝詞を読み上げて執り行われていました。神様への敬意とともに、儀式としての意味合いが強かったのでしょう。江戸時代の随筆を集めた「百家説林」には、日本人の飲酒の考え方が記されています。「礼を正し、労をいとい、憂を忘れ、鬱をひらき、気をめぐらし、病を避け、毒を消し、人と親しみ、縁を結び、人寿を延ぶ」とあります。また、足利時代に生まれたとされる「酒道」は「酔うのを目的とするな酒は優雅で素晴らしいもの」を基本精神に、お酒を通じて礼節を身に付け、精神性を高めようとしました。

桜や月、紅葉など、四季の花鳥風月を愛でながらお酒を楽しむのも、日本人らしい優雅な風習です。現代の私たちにも、先人たちよりお酒にまつわる美意識や研ぎ澄まされた感性が受け継がれているはずです。

//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 ☆最終回に寄せて☆

早いもので、「きき酒 いい酒 いい酒肴」は、2014年より隔月で連載を始めて6年が経ちました。お酒は単に酔うものではなく、人と人をつなぎ、長い歴史の中で楽しみだけではなく、苦しみも生んできたものです。神聖なものをして崇められ、絵画や彫刻といった芸術、オペラや歌舞伎といった舞台、クラシックやジャズなどの音楽とも密接に関わってきました。

また、元日のお屠蘇や桜の季節の花見酒などの四季折々の年中行事、人生の祝い事の乾杯、亡き人を偲ぶ献杯など、人々の暮らしとともに心をつなぐ架け橋となっています。そんな世界観を少しでもお伝えできれば幸いです。

長い間、ご愛読ありがとうございました。

【 早坂美都 】

・東京歯科保険医協会理事

・フランスボルドーワイン委員会デュプロマ  C.I.V.E.Diploma

・パリフェミナリーズワインコンクール審査員

・ジャパンウィスキーコンベンション審査員

・スピリッツコンベンション焼酎部門審査員

・FBO 認定  FBO公認講師

・SSI認定 利酒師  日本酒学講師  酒匠

・ANSA認定  ソムリエ

・BSA認定  ビアアドバイザー  スピリッツアドバイザー

・CCA認定  チーズコーディネーター

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.39『秋の味覚 香り高いトリュフ』(機関紙2019年11月1日号/No.596号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.39『秋の味覚 香り高いトリュフ』(機関紙2019年11月1日号/No.596号)

少しずつ秋が深まってきました。この季節になると、茸類が美味しくなります。良い香りの代表として、世界三大珍味の1つであるトリュフがあげられるでしょう。トリュフには、黒トリュフと白トリュフがあり、特に有名なのが黒トリュフで、流通量が多いのも黒トリュフです。

黒トリュフの旬は6月から11月と12月から翌年2月の年2回あります。それぞれ、サマートリュフ、ウインタートリュフと呼ばれ、年間を通じて産出されますが、旬は秋から冬にかけてのものがもっとも上質とされています。この季節に採れたものは、優雅な香りがいたします。ヨーロッパ産のものがほとんどで、フランスのプロヴァンス地方がその本場です。他にもスペイン、イタリアなどで産出されています。

 「黒いダイヤモンド」と称される黒トリュフは生でも食べますが、主に加熱することが多く、パスタやパン、お肉などと相性が良いので、幅広く利用されています。

トリュフには、消化酵素の一種であるジアスターゼが含まれています。

メインのお肉料理に添えられることが多いですが、でんぷんを分解するため、ご飯やパン、パスタといった主食を食べる時に良い食材です。

また、トリュフには椎茸などにも多く含まれるビタミンDも含まれています。ビタミンDは、腸でカルシウムが吸収される働きを高め、血中のカルシウム濃度を向上させる効果があり、骨を丈夫にすることにつながります。

一食で摂取するトリュフの量は少量ですが、このような効果があることも、頭の片隅に置いておくのも良いかも知れません。

料理だけではなく、ケーキにもトリュフが使われることがあります。今年の帝国ホテルのクリスマスケーキは、「料理人がつくるクリスマスケーキ」というコンセプトで、旬の高級食材であるトリュフをケーキの素材とするそうです。

トリュフの入ったダコワーズ生地に、キルシュ香るホワイトチョコレートを合わせたクリームでダークチェリーをはさみ、チョコレートムースで包んだ「フォレノワール」風のケーキです。ケーキの上部には、トリュフのムースを中に入れたトリュフの形をしたチョコレートを飾り、さらに枝や枯葉、鳥の羽の形をチョコレートで彩ることで森を表現し、さらにスライスした本物のトリュフも添えた豪華なケーキです。

昨年の春、私は、フランスの深い森が広がるランドック地方のワイナリーを訪問しました。ここはトリュフの産地です。トリュフの採れる森の近くにあるブドウ畑から作った美味しいワイン。地元の人たちの誇りでもあることから、「テロワール・ドゥ・トリュフ 」というワインが生まれました。

このワイン、実は、今まで日本に輸入されていなかったのですが、とても美味しかったので、知り合いのワイン輸入業者の方に「ぜひ日本に輸入してください」とお願いしました。現地に足を運んだバイヤーの方が「これなら間違いない」と判断し、昨年の秋より日本に輸入されることが決定されたのです。トリュフの森の近くで作られたワインと、トリュフを挟んだチーズとの相性はとても良いです。秋ならではの贅沢な楽しみです。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.38『はんなりとした吟醸香 伏見の銘酒「玉乃光」』(機関紙2019年9月1日号/No.594号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.38『はんなりとした吟醸香 伏見の銘酒「玉乃光」』(機関紙2019年9月1日号/No.594号)

先日、夏の暑い盛りに京都の「愛宕神社千日詣」に参加する機会に恵まれました。愛宕神社とは、京都愛宕山の山頂に鎮座し、全国に約900社ある愛宕神社の総本社で、火伏せ・防火に霊験のあることで知られています。731日の夜9時より始まる夕御饌祭(ゆうみけさい)から81日の早朝2時から始まる朝御饌祭(あさみけさい)までに参拝すると、千日分の御利益があるそうです。今回、夜11時に登山開始、早朝2時前に登頂し、山頂の愛宕神社ご神事後、「火迺要慎(ひのようじん)」の御札をいただいて下山しました。参道は多くの参拝の方々であふれ、夜の山道はたくさんの灯りがともされています。ご縁があって、祇園の芸妓さんたちと登りましたが、彼女たちは何十枚というたくさんの御札を受け取っていました。挨拶回りに持参するそうです。ちょうど、81日は「八朔(はっさく)」となります。八朔というのは、旧暦で81日(八月朔日ついたち)を指します。もともと「田の実の節」といって、実った田の稲穂に感謝し、豊作を祈ったところから始まっているそうです。「田の実」は「頼み」に通じることから、芸妓さんや舞妓さんが、芸事の師匠やお茶屋などに、日ごろの感謝の気持ちを伝える祇園の年中行事となっています。

猛暑の中の登拝後、水分補給をして少し落ちついたところで無事下山をしたことを祝い、冷たい清酒で乾杯しました。京都市南の玄関口、伏見の銘酒「玉乃光」です。伏見は、かつて「伏水」とも書かれていて伏流水が豊富な土地です。桂川、鴨川、宇治川に沿った平野部と、桃山丘陵を南端とする東山連峰からなっています。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

伏見の歴史は古く、「日本書記」には「山城国俯見村」として記されています。

平安時代には、風光明媚な山紫水明の地として皇室や貴族の別荘が置かれ、安土桃山時代には豊臣秀吉が伏見城を築城し、一大城下町を形成しました。その後、京都と大坂を結ぶ淀川水運の玄関口として栄え、幕末には坂本龍馬をはじめとする勤王の志士たちとともに、近代の夜明けの舞台となりました。

玉乃光で酒造りに使われている水は、豊臣秀吉が醍醐の茶会の時に汲み上げたといわれている御香水(ごこうすい)と同じ伏流水で、「日本の名水百選」にも選ばれています。

また、「祝(いわい)」という京都産酒造好適米を使っています。「祝」は、良質酒米として伏見の酒造で多く使用され、丹波・丹後で栽培されていましたが、稲の背が高く倒れやすく、収量が少ないことなどが原因で、姿を消してしまいます。しかし、伏見酒造組合の働きかけによって、府立農業総合研究所などで栽培法を改良、試験栽培が始まりました。その後、1990年には農家での栽培が始まり、1992年には「祝」の酒が製品化されました。口に含むと優しい吟醸香がひろがります。また、すっきりとした旨味は料理を引き立て、京都ならではの食材との相性が素晴らしいのです。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.37『ゴールドの輝きをはなつオーストリアのワイン』(機関紙2019年7月1日号/No.592号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.37『ゴールドの輝きをはなつオーストリアのワイン』(機関紙2019年7月1日号/No.592号)

2019年は、日本・オーストリア友好150周年に当たる記念すべき年です。これを祝うべく、ウィーン・ミュージアム、ウィーン美術史博物館、オーストリア・ギャラリー・ベルヴェデーレが日本で特別展覧会を開催しています。開催地は東京都、大阪府、愛知県です。東京では上野の東京都美術館が、420日より711日まで「クリムト展 ウィーンと日本1900」が開催されています。足を運ばれた会員の先生もいらっしゃるでしょう。東京開催のあと、723日からは愛知県の豊田市美術館で巡回開催されます。

大日本帝国とオーストリア・ハンガリー二重帝国の間には1869年、日墺修好通商航海条約が締結され、友好関係がスタートし、日本は1873年にウィーンの万国博覧会に公式参加したのでした。

クリムト展に行かれた方はご覧になったかと思いますが、「ベートーベンフリーズ」という大作の複製が展示されています。これは、ベートーベンに捧げるクリムトのオマージュとして有名で、ベートーベンの交響曲第九番に沿って製作されています。「幸福への憧れ」、「敵対する力」、「詩」、「この接吻を全世界に」の大きな4つのテーマで成り立つ長い壁画です。この作品に接し、本物を見たくなり、先の連休にウィーンに行きました。「ウィーン分離派館」という建物の地下に展示してある壁画を見た時の感動もさることながら、上野で展示してある複製の技術力の高さに驚きました。しかも、展示室のスピーカーから、小さな音でベートーベンの交響曲第九番「歓喜の歌」が流れているのです。気持ちが大変盛り上がり、日本ならではの素晴らしい展示方法だと感じました。

ウィーン分離派館での展示は、地下ながら自然光に近い明るさです。クリムト独特のタッチ、きらびやかなゴールドの輝き、ゆったりとした空間と時間の流れを感じさせる巻物のような美しさ。分離派という変わった名前は、若手芸術家たちによって作られたものです。世紀末のウィーンで展示会場を持っていたのはクンストラーハウスという芸術団体だけでしたが、その保守性に不満をもつ若手芸術家たちがクリムトを中心に結成したのが造形美術協会、のちの分離派となるのです。

日本でも、クリムトの絵画がラベルになった美しいワインが見かけることがあります。オーストリアワインの多くは辛口の白ワインで、主にグリューナー・ヴェルトリーナー種(Grüner Veltliner)というブドウから製造されています。スパイス、リンゴやパイナップルのような果実の香りが感じられます。このブドウは、オーストリアでは最も生産量の多く、辛口から高貴な甘口まで、大変幅広いワインとなります。有名なワイングラスメーカー「リーデル」の本社もウィーンにあります。日本オーストリア友好150周年に当たる令和元年。世紀末を駆け抜けた若い芸術家たちの思いを感じながら、オーストリアの味わいを楽しむのはいかがでしょうか。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.36『立夏~竹笋生(たけのこしょうず)』(機関紙2019年5月1日号/No.590号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.36『立夏~竹笋生(たけのこしょうず)』(機関紙2019年5月1日号/No.590号)

若葉が美しく、爽やかな季節になって来ました。連休が終わった頃から、2週間ほどの間を「立夏」といいます。正確にいうと、2019年は56日(月)より520日(月)までの期間です。

立夏は、「太陽が黄径四五度に達した時」と定められており、地球から見た太陽の動きは、地球の自転や公転によって毎年ずれがあるので、立夏の日は毎年変わります。立夏の文字を見ると6月から7月頃の初夏と勘違いしそうですが、立夏と初夏は違います。立夏は二十四節気の穀雨(こくう)から数えて15日目に当たり、春の風が去って天候が安定し、過ごしやすくなる頃です。二十四節気をさらに細分化した七十二候において、立夏は、蛙始鳴(かわずはじめてなく)、蚯蚓出(みみずいずる)、竹笋生(たけのこしょうず)と分けられます。おたまじゃくしから成長した蛙が鳴き始め、冬眠から目覚めた蚯蚓(ミミズ)が活動し始めます。

「笋」は、音読みが「ショウ」、訓読みが「たけのこ」で、異体字(同じ意味、読み方を持つが字体が異なる文字のこと)に「筍」が挙げられます。日本古来種の筍の、瑞々しい旬の味わいを楽しめる季節となります。

掘ってすぐの若い小ぶりな筍でしたら、茹でただけで歯ざわりよく、軽いえぐみも楽しめます。また、青々とした若竹は、食器や酒器としても活躍します。

「竹酒」とは「かっぽ酒」のことで、竹酒器に入れられたお酒のことをいいます。青竹の節を切り抜き、お酒を入れて提供されます。この時、氷を敷き詰めた入れ物に入れれば竹の香り爽やかな冷酒を楽しめますし、火にくべて熱燗にすれば竹の香りとともに、竹の油がお酒にしみ込んで、旨味が際立つ味わいとなります。

竹酒といえば竹酒器に入れられたものを指しますが、竹そのものを入れ物にしているお酒もあります。不思議なことに、お酒が入っている竹には、穴が開いていないのです。「竹に入った水を飲むと不老長寿になる」という話を聞いて、竹の中に酒を入れることを思いついた方がいました。最初は、竹に穴をあけてお酒を入れて試したようですが、うまくいかず、竹を酒に漬けたりしてみましたが、失敗の連続だったようです。試行錯誤して専用の減圧機を開発し、竹を減圧機にかけて節の中を真空に近い状態にした後に、一晩、酒の中に漬けると、節の中に酒を満たすことに成功しました。飲む時には、錐やアイスピックのようなもので竹の節に穴をあけます。

青葉が美しいこの季節、旬の筍とともに、香り高い竹のお酒もいかがでしょうか。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.35『春を告げる❝いちご❞』(機関紙2019年3月1日号/No.588号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.35『春を告げる❝いちご』(機関紙2019年3月1日号/No.588号)

少しずつ気温が高い日が増えてきました。3月の旬の食材で人気なのは、「いちご」だそうです。クリスマスに多く見られますが、本来の旬は春なので、赤く色づいた美味しいいちごが出回る季節でもあります。

この季節はいちご狩りに出かける方もいらっしゃるでしょう。小さなお子さんだけではなく、大人も楽しい行事です。また、ホテルやレストランでいちごビュッフェと称して、いちごを使った料理やスイーツが並ぶイベントも、見るだけでも心浮き立つ気持ちになります。

いちごは、バラ科の植物で林檎や梨と同じ科目に属する多年草です。栄養素としては、ビタミンC、カリウム、マグネシウム、葉酸など含まれています。苗を購入し、家庭菜園やプランターでも割と気軽に作ることができるので、病気や害虫に注意すれば、可憐な白い花を眺め、少し酸っぱい実を味わうことができます。

スイーツに使われることが多いですが、ホワイトリカーやウィスキーに漬け込むことによって、香り高いいちご酒を楽しむことができます。梅酒をつくる時と同じように、熱湯消毒したガラス瓶にいちごと氷砂糖、レモン、ホワイトリカーもしくはウィスキーを入れて漬け込みます。一週間目くらいから飲めますが、できれば2カ月ほどお待ちください。梅酒は半年ほどかかりますが、いちご酒は短い期間でできあがります。漬け込んだいちごは、色が抜けて白くなっています。捨てずに砂糖と煮詰めると色が赤色に戻り、いちごジャムができます。

市販品のいちご酒もあります。1872年創業の栃木県小林酒造の「鳳凰美田」というお酒です。このお酒は、日光連山の豊富な伏流水に恵まれた美田(みた)から命名されたそうです。小林酒造では、桃、杏、柚子といったリキュールも作っています。日本酒に使用される麹がもつ酵素の働きにより、いちごの細胞膜を破砕せずに液状化しています。そこにわずかな乳製品をブレンドすることによって、いちごミルクのような味わいになっています。

また、いちごの花の酵母を使用した日本酒もあります。花酵母といって、ナデシコ、サクラ、ヒマワリなど、さまざまな花から抽出した酵母があるのです。花酵母のお酒はそれぞれの花の香りがするわけではありませんが、フルーティな味わいとなることが多いです。軽快な飲み口、甘みとコク、爽やかな酸が拡がったあと、最後にアルコール独特のわずかな苦みと米の旨味、濃醇な味わいを楽しみことができます。

いちごの花言葉には、「幸福な家庭」、「尊敬と愛情」、「先見の明」があります。赤い実をたくさんつけて根を張ることで「幸福な家庭」、キリスト教の聖ヨハネとマリアにいちごが捧げられたことにより「尊敬と愛情」、いちごの根や葉を水につけて目を冷やすと視力が回復すると信じられていたことより「先見の明」という言葉が選ばれたそうです。ちなみに、331日は「いちごの花」の日です。

この季節ならではの旬の味を、さまざまな方法で召し上がってみてください。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.34『新年の乾杯はバカラとともに』(機関紙2019年1月1日号/No.586号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.34『新年の乾杯はバカラとともに』(機関紙2019年1月1日号/No.586号)

新年おめでとうございます。2019年を迎えました。年末年始はいかがお過ごしでしたか。

新しい年をお祝いするのに、ぴったりなチーズ「バラカ」をご紹介いたします。馬蹄型を意味するフランスのチーズです。バラカとは、もともとアラビア語に起源を持つ言葉でしたが、ヨーロッパでは馬の蹄鉄は幸運をもたらすと言い伝えられています。個性的で目立つ形をしているので、デパートのチーズ売り場でご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

外見は、厚みのある綿毛のような白カビに包まれており、脂肪分が60%ほどで、クリーミーでバターのような風味があり、クセが少ないので、とても食べやすいです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

チーズの原料となるミルクに生クリームを添加して、よりクリーミーなチーズを作ることがあります。こうした乳脂肪分が60%以上のものをダブルクリーム、70%以上のものをトリプルクリームといいます。バラカは、ダブルクリーム製法で作られています。

温めたミルクに乳酸菌を加えた後にレンネット(凝乳酵素。牛の胃や微生物から抽出されるミルクを固めるための酵素。これをチーズの原料乳に加えると、ミルクが凝固し、水分が分離されます。レンネットは熟成中にも、蛋白質の分解に大切な働きをします)を加えて、カゼイン(乳蛋白質)が凝固したもの(凝乳)からホエイ乳清(チーズを作るときに出る水分のこと。チーズには不要。90%以上が水分ですが、ミルクに含まれる乳糖はほとんどこちらに出てしまうので、牛乳でおなかがゴロゴロする乳糖不耐症の人もチーズなら安心しです)を除去したヨーグルト状のものをカードといいます。このカードを専用のおたま(ルーシュ)ですくい、型に入れて水切りし、そのあと型から出して塩漬けにします。

白カビは、後からスプレーで吹きかける方法と、ミルクの段階で入れる方法があります。その後、温度・湿度が調整された熟成庫で、白カビを表面に繁殖させます。

バラカに合わせるワインは、シャンパンがお奨めですが、日本酒もとても合います。特にお正月には金箔が入ったお酒も出回るので、気分を盛り上げるのにぴったりです。また、軽めの赤ワインも合いますし、濃厚なミルクの風味があるため、濃く淹れた紅茶やコーヒーとも相性が良いです。

バラカを使った簡単なお祝いケーキもよろしいかと思います。馬蹄形のバラカの上面に、苺やブルーベリー、林檎などのフレッシュフルーツや、無花果や干し葡萄といったドライフルーツを彩りよく盛り付けるだけです。のせるフルーツ類は、リキュールに漬け込んでも香りよく仕上がります。濃厚な味わいなので、酸味のあるフルーツと一緒にいただくと、さらに味が引き立ちます。

また、乳成分が多いため、常温に置いておくとすぐに柔らかくなってしまいます。バターと同じように考えて、できれば冷蔵庫から出してすぐにいただくか、あるいは食卓ではクラッシュアイスの上に置いたほうが、最後まで形を楽しむことができます。ぜひ、縁起の良い馬蹄形のチーズで、美味しいひとときをお過ごしください。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.33『焼酎 その世界に誇る気品あふれる味わいを…』(機関紙2018年11月1日号/No.584号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.33『焼酎 その世界に誇る気品あふれる味わいを…』(機関紙2018年11月1日号/No.584号)

今年も霜月、11月に入り、気温も低くなり日も短くなりました。太陽が西に傾くと、あっという間に沈んでいきます。まさに、「つるべ落とし」という季語がぴったりの季節です。井戸から水を汲む時、滑車が回って落ちていくつるべ。「つるべ落とし」はどこにでも井戸があり、日々の暮らしに欠かせないものであった時代に生まれた季語なのです。

秋はお酒にとって新年度となります。101日は日本酒の日、111日は「本格焼酎&泡盛の日」に制定されています。1987年、酎ハイブームで焼酎の需要が急速に拡大した後に、本格焼酎の啓蒙を目的に設けられました。本格焼酎とは、単式蒸溜機を使って蒸溜されます。原料の香味成分が溶け込みやすく、独特の芳香、風味があります。それに対して連続式蒸溜機というものを使って蒸溜したものを焼酎甲類と呼びます。こちらはいわゆる酎ハイに使われるものとなります。また、単式蒸溜焼酎の中でも、黒麹を用いた沖縄特産の焼酎を「泡盛」と呼びます。

例えば「芋焼酎」ですが、さつまいもの収穫時期は8月から10月で、収穫後すぐに蔵元に運ばれます。焼酎の仕込みは、9月から12月頃まで行われるのですが、そのまま商品になるのではなく、前年度から熟成させてきた原酒とブレンドされるのが一般的です。しかし、例外的に「新酒」として出荷されることもあり、10月下旬から11月上旬に当たります。新酒の出荷にあわせて蔵を開放してお祝いを行う蔵元もあります。かつて、焼酎の新酒は地元にのみ出荷されていましたが、最近では首都圏にも出回るようになりました。

九州のイメージが強い焼酎ですが、実は東京都内でも地酒として多くの焼酎が造られていることをご存じでしょうか。

東京の焼酎造りの歴史は古く、江戸時代末期の1853年、薩摩の回送問屋主の丹宋庄右衛門が密貿易の罪で八丈島に流されたことに遡ります。当時の島は食料事情が悪く、主食の米を使った酒造りは禁止されました。そこで、さつまいもを使った焼酎を島に伝えたのです。その後、蒸溜技術は三宅島、大島、青ヶ島、神津島へと広がり、各島で個性豊かな焼酎が造られるようになりました。近年、小笠原諸島ではラム酒、島酒を造っているほか、府中市では地元の水田で収穫した黒米を玄米のまま使った焼酎などあります。

府中市の大國魂神社の境内に、「大山昨命おおやまくのみこと」を祭る「松尾神社」があります。本社は京都の「松尾大社」で、大社社殿の背後に湧く水を酒に混ぜる風習が京都では残っています。大國魂神社境内の松尾神社は、江戸時代後期に勧請(かんじょう)されたものです。神道では神霊は分けることができるとされており、勧請とは分霊を移すことをいいます。

先日、400種類もの焼酎を置いているお店で新酒をいただきましたが、大変香りが高く、気品あふれる味わいでした。このような世界に誇る日本ならではの蒸留酒を、以前よりも手軽に飲めるようになってきたのは嬉しいことです。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.32『「生々流転」横山大観画伯が愛した広島の銘酒「醉心」「生々流転」「せいせいるてん」』(機関紙2018年9月1日号/No.582号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.32『「生々流転」横山大観画伯が愛した広島の銘酒「醉心」「生々流転」「せいせいるてん」』(機関紙2018年9月1日号/No.582号)

一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。本来、すべての物は絶えず生まれては変化し移り変わっていくことで、「生生」は物が次々と生まれ育つこと、「流転」は物事が止まることなく移り変わっていく意味があります。

また、明治元年に生まれた日本画の巨匠、横山大観画伯(1868~1958年)の大正期の名作で、日本一長いとされる画巻の題名「生々流転」でもあります。

今年は横山大観画伯生誕150年に当たり、去る2018年4月14日より5月27日まで「生々流転」は、東京国立近代美術館に展示されていました。 深山幽谷から水の滴が生じて集まり川となり、水量を増して雄大な大海に注ぎ、最後には竜の姿となって昇天していくという水の一生を描いた絵です。全長は実に40.7メートルにも及び、全巻をひと続きで見られるのは9年ぶりとのことでした。

ところで、横山大観画伯に縁深い酒蔵が広島県三原市にあります。創業万延元年(1860年)の「醉心(すいしん)」です。三原のお酒は、古来は万葉集の歌に「吉備の酒」として詠まれており、また、瀬戸内海沿岸山陽側のほぼ中央に位置し、毛利元就の三男、小早川隆景の築いた三原城の城下町で、海上・陸上の交通の要衝でした。

大観が生涯、最も愛飲したお酒が「醉心」でした。大観にとって醉心は主食であり、米飯は朝軽く茶碗一杯口にする程度で、その他は「醉心カロリー」を採っていたといわれています。

昭和初期のことです。東京神田の「醉心山根本店 東京支店」に連日お酒を買いに来る上品な女性がいらっしゃいました。その方が大観の夫人だったのです。醉心三代目山根薫社長が大観の自宅に伺ったところ、「酒造りも絵画も芸術だ」と意気投合し、感動した薫社長が一生の飲み分を約束したのだそうです。それ以来、大観は醉心に毎年一枚ずつ作品を寄贈するようになり、「大観記念館」ができ上がりました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

大観は1958年(昭和33年)に89歳で生涯を終えましたが、第二次世界大戦の時にも「醉心は主食である」と、東京まで酒を送ってほしい旨を山根社長に手紙をししため、当時の五島慶太大臣に運送の取り計らいを依頼したこともあったということです。 晩年、薬や水さえ受け付けなくなり重態となった時でも、醉心だけは喉を通り、それをきっかけに翌日からは果汁やお吸い物、一週間後にはお粥を食べられるまでになったという記録も残っているそうです。

広島の酒造りは「軟水仕込み」が特徴で、ミネラル分が少ない軟水で造られた酒は、醗酵が穏やかに進み、口当たりのまろやかな味わいになります。

なお、9月末に東京歯科保険医協会で開催される女性会員交流会では、醉心の蔵元さんが遠路はるばる広島より駆けつけてくださいます。横山大観画伯に「醉心のお酒は一つの芸術だ」と評された甘露な旨味を、ぜひ記念すべき生誕150年の年に、蔵元さんの貴重なお話しとともに、楽しんでいただきたいと思います。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.31『全体に優しく品があり しなやかな味わい』(機関紙2018年7月1日号/No.580号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.31『全体に優しく品があり しなやかな味わい』(機関紙2018年7月1日号/No.580号)

前回掲載したフランスのトゥールーズでの日本酒講義のあと、フェミナリーズワインコンクールのためにパリに向かいました。途中、国鉄と航空会社の一部がストとなり、延泊後、1日遅れでパリに到着しました。フェミナリーズコンクールの審査員は全員女性です。

フランスをはじめイタリア、ドイツ、スペイン、オーストラリアなど世界15カ国から、1250社、4300アイテムのワインが出品されました。そのうち12社、34アイテムは日本からの出品です。審査員も世界28カ国から約450名が集結した大きなイベントで、日本からは私を含む四名の審査員が参加いたしました。銘柄を隠したワインがずらっと並び、香り、色などチェックして点数をつけていきます。

フランスのワインジャーナリストの方から、以下のようなお話を聞くことができました。

「日本のワインは、全体に優しく品格があり、しなやかな味わいを感じました。甲州は、特に青い植物や柑橘系の香りを感じます。蛸とシブレット(フランスの小ねぎ)の軽い料理に合わせたいです。岩手の赤ワインは、野菜のような香りで味わいのバランスが素晴らしく、タンニンもしっかりあり、余韻がとても長い。サクランボのような赤系果実の風味を楽しめます。軽くローストしたビーフにぴったりです」と、素敵なコメントを下さいました。食材の例えとして「蛸」を挙げた理由を聞くと、独特の食感があり、噛むほど味が出てくるので、少し塩味を感じる日本の白ワインにぴったりだとのことでした。また、「飲み慣れない味わい」というのが山形の山ブドウを使ったワインです。「乾いた木の香と塩味を感じ、マルベック(赤ワインとつくるときのブドウの一種)のような個性を感じます。赤ワインですが、魚介類と合わせたいです」。

従来、肉料理に赤、魚料理に白、という定番でしたが、最近では魚介料理に赤ワインを合わせることも多くなってきています。

先日、コンクールの結果が出ました。日本のワインで金賞受賞は、以下の7銘柄となりました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1、楠わいなりー 日滝原 2017

2、楠わいなりー シャルドネ 2016

3、林農園 エステートゴイチ メルロー 2015

4、大和葡萄酒 ハギースパーク 重畳 2017

5、シャトレーゼベルフォーレワイナリー勝沼 等々力甲州 2016

6、エーデルワイン ドメーヌ・エーデル ツヴァイゲルトレーベ 2015 天神ヶ丘畑

7、岩の原葡萄園 レッド・ミルレンニューム 2016 辛口

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

審査の合間に交流会がありました。フランス国内からはもちろん、アメリカ、チリ、南アフリカなど世界のワイン醸造家やソムリエたちが集います。彼女たちのパワーの素晴らしさや前向きな生き方を、肌で感じることができました。最近の日本女性には「奥ゆかしい」という言葉が似あわないような風潮がありますが、世界から見れば、まだまだ大人しいと思いました。それでも、女性の活躍はめざましいもので、歯科医療界では今年の歯科医師国家試験の合格者の43%が女性となっています。

もうすぐ、各国の審査員が選んだワインが店頭に並ぶのが、楽しみです。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.30『日本の醸造と食文化/切っても切れない「麹」の話~トゥールーズで考えたことあれこれ』(機関紙2018年5月1日号/No.578号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.30『日本の醸造と食文化/切っても切れない「麹」の話トゥールーズで考えたことあれこれ』(機関紙2018年5月1日号/No.578号)

東京で桜が満開だった2018年4月の初め、フランスのパリ、トゥールーズに行ってきました。パリではワインコンクールの審査員として、トゥールーズでは、日本酒の講師としてお役目を果たしてきました。昨年、日本酒学講師という資格をとったのですが、これは日本酒利き酒師をとってから3年以上経過、その間に蔵元実習やティスティングの講習などを受けてから、受験できるものです。年齢とともに、覚えが悪くなってきています。とても難しかった試験です。

講師になると、日本酒ナビゲーター講座という授業を任されます。今回、初の講師としてのお仕事は、なんとフランスのトゥールーズでした。

フレンチと日本酒の組み合わせは、東京でもさまざまなレストランでみることができます。料理との相性もそうですが、果たして日本独特の「麹」のことがどこまで伝えられるか、少々不安でした。

「麹」は大きく分けて「黒麹」、「白麹」、「黄色麹」に分けられます。味噌、醤油、酒をつくるのが「黄色麹」です。「黒麹」や「白麹」は、クエン酸を多く生成するので、気温の高い地域で泡盛や焼酎を作る時に使われることが多いです。

醸造とは、酵母によって糖分がアルコールと二酸化炭素に分解されることです。ワインを作るときには、もともと葡萄の実に糖分があり、皮に天然の酵母があるので、自然とアルコール発酵を始めます。しかし、米のデンプンは、そのままでは糖になりません。そこで、「麹」の力が必要になってくるのです。デンプンを糖に変えていくのが麹の役目です。蒸した大豆や米に麹菌を振りかけ、温度や湿度を適切に保つことによって、きれいに均一に繁殖するのです。まるで米や大豆が、緑や黄色の絨毯のようなふわふわの状態になります。

◆「枯れ木に花を咲かせましょう」

まさに、花咲か爺さんのお話しのようなことが起こるのです。

「分かりにくいかな」と思っていた「麹」の話を、受講生の方たちは一番興味深く聞いてくれました。日本食は、発酵文化の集大成のようなものです。味噌、醤油、味醂、日本酒、納豆など、すべて発酵食品なのです。「だから、チーズとも相性がいいのですね」と聞かれました。まさにその通りです。同じ発酵食品ですので、さらりとして香りが高いタイプの日本酒は、シェーブル(山羊)の熟成が浅いあっさりとしたものとぴったりですし、熟成が進んだモンドール(冬季限定の濃醇なタイプ)などは、熱燗にうってつけです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

トゥールーズでの講習では、日本酒とともに、日本食や素材の話がとても人気でした。この時、日本からは酒粕や味醂も持っていき、酒粕と使った料理や、味醂と屠蘇散を用いて、お屠蘇を作り、皆さんに味わってもらいました。フランスのシェフの方や、ワインラベルデザインの方たちにも、無事に「日本酒ナビゲーター」の修了書を手渡しして、今度はワインコンクールの審査のためにパリに向かいました。パリでのワインコンクールで感じたことなどは、次の機会にいたします。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.29『蒼い氷河の氷でオンザロック―パタゴニアのペレト・モレノ氷河にて』(機関紙2018年3月1日号/No.574号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.29『蒼い氷河の氷でオンザロック―パタゴニアのペレト・モレノ氷河にて』(機関紙2018年3月1日号/No.574号)

何万年もの歴史を刻む氷河。その氷で美味しいオンザロックを楽しめたら、どんなに素晴らしいでしょう。そんな夢をかなえるべく、日本の裏側、南米のパタゴニアに行きました。

パタゴニアは南北に連なるアンデス山脈を境に、チリとアルゼンチンの両国にまたがる南緯四十度より南の地域のことをいいます。面積は日本の二倍、域内には五十を超える氷河があり、秘境として世界的に知られています。年間を通して気温が低く風が強く、一九五〇年代にこの地に足を踏み入れた英国の探検家、エリック・シプトンは「嵐の大地」と呼んだそうです。大西洋と太平洋と南極、三方向からの強い気流の影響を受けています。

日本から十二時間かけて北米ダラスに到着。六時間の乗継ぎの時間を経て、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスまで十時間、その先の南極大陸に向かう船が出る港町ウィシュアイアに行ってから、マゼラン海峡を渡って陸路八百キロを移動。氷河ツアーやトレッキングの拠点となる南緯五十度の「エルカラファテ」という小さな町に到着しました。ここから、世界で三番目に大きい「ペレト・モレノ氷河」へ向かいます。参考までに、世界で一番大きい氷河は南極の氷河、二番目はアイスランドの氷河だそうです。

ペリト・モレノ氷河は、別名「生きた氷河」と呼ばれており、世界中の氷河がどんどん収縮していく中、珍しく崩壊と成長を繰り返している氷河なのです。あまりにも美しい澄み切った蒼い色に、皆、言葉を失っていました。アイゼンを装着して、いよいよ氷河トレッキングです。ところどころにクレバスがあり、信じられないくらい蒼い色の氷河の水が流れていました。雪山とは違う足の感触です。「大きな粒のかき氷を踏むような」といえば少しは近い表現でしょうか。想像よりも柔らかく、アイゼンが食い込んでいきます。風の大地としてはとても珍しい晴れた穏やかな天候で、美しい青空と氷河の蒼さが織りなされ、まさに絶景としかいえない風景が広がっていました。

氷河トレッキングの後は、ガイドさんがピッケルを使って氷河を割り、スコッチウイスキーで最高のオンザロックを作ってくれました。グラスの中で、太古の空気を閉じ込めて何万年も生き続けていた氷河の氷はどこまでも透き通っていて、陽の光に輝いています。

パタゴニアの大自然の中に、未来の地球を救うかもしれないヒントが隠されているそうです。強い風を利用した風力発電で、水から二酸化炭素を出さないエネルギー「水素」を作り出し、それを日本へ運ぶという構想があるそうです。水の惑星の地球の原子番号一番の水素。そのエネルギーが地球温暖化を防ぐキーワードの一つになるかもしれないのです。そんなロマンを感じながらの氷河オンザロックでした。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴No.28『新年を彩るオペレッタ、ワルツ、シャンパン』(機関紙2018年月1日1日号/No.574号)

きき酒 いい酒 いい酒肴No.28『新年を彩るオペレッタ、ワルツ、シャンパン』(機関紙2018年月1日1日号/No.574号)

新しい年の始まりです。何かと気ぜわしいですが、明るい気持ちにさせてくれる音楽やオペラはいかがでしょうか。オペラの中でも、年末年始によく上演されるのがワルツ王ヨハン・シュトラウス世によるオペレッタの最高傑作「こうもり」です。オペレッタはセリフも柔軟でアドリブもあり、それがオペラ専門とオペレッタも歌う歌手が異なるゆえんともなっています。

「こうもり」は、当時のオーストリアの典型的な富裕階級の生活を描いているのですが、オペレッタの創始者ともいえるジャック・オッフェンバックの影響もあり、それまでの喜劇スタイルのオペラの要素を含みながら、粋なウィンナ・ワルツやお洒落なポルカであふれています。

オペラに比べてオペレッタは娯楽性の要素が強いのですが、「こうもり」は失いがちな気品を伴ったオペレッタの最高傑作です。ウィーンの芳香にあふれ、シュトラウスの個性に満ちた音楽性豊かな大傑作となり、オペレッタの王様ともいわれています。

その中でも、いつ聞いても楽しくなるシャンパンの歌という曲があります。

葡萄酒の火の中に 楽しい生活が燃え立つ

王様や皇帝は名誉を愛するが 何より葡萄の甘い精を愛する

乾杯! 声を合わせて酒の王を讃えよう

乾杯 乾杯!

王者の地位は皆の認めるところ

シャンパンは酒の王と呼ばれる

王者シャンパン 万歳!

すべての国が讃える 遠い所の人も讃える

シャンパンは苦しみを洗い流す!

賢い領主は酒を絶やさない!

登場人物の間で悲喜こもごも、さまざまな事件が起こるのですが、最後はすべてシャンパンのせい、シャンパンの泡のように忘れようという結末になっています。

シャンパンというのは、フランスのシャンパーニュ地方で作られた発泡性のワインのことをいい、他の地方で作っている発泡性のワインのことをクレマンといいます。しかし、元々シャンパンの原型といわれる飲料は、フランスの南西(ラングドッグ&ルーション地方で、カルッカソンヌに近い)リムー(Limoux)という町から始まったのです。太平洋と地中海の二つの海の影響を受け、日照に恵まれて雨も比較的多く降ります。世界最古のスパークリングワインの産地として、ワイン史においてとても有名です。昨年、リムーのワイナリーに行きましたが、そこの資料館に「1531年には修道士がモーザックという品種からスパークリングワインを作っていた」という記録が残っていました。

それぞれの農家が持ち寄ったワインを集めて、再発酵させて発泡ワインを作ったのが始まりです。

お正月恒例のウィーンのニューイヤーコンサートも、日本にいながらテレビで楽しめます。毎年、これを聞かないと一年が始まった気がしない方も多いことでしょう。ニューイヤーコンサートの最後は「美しき青きドナウ」と「ラデッキー行進曲」がお決まりです。会場一同の拍手に合わせ、テレビを見ながら一緒に拍手して新年を迎えるのも楽しいです。美味しいシャンパンやクレマンを開けて、これからの歯科医療界が明るくなることを願っていきたいです。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴No.27『シングルモルトと牡蠣』(機関紙2017年月11日1日号/No.572号)

きき酒 いい酒 いい酒肴No.27『シングルモルトと牡蠣』(機関紙2017年月11日1日号/No.572号)

少しずつ寒さが増して、牡蠣が美味しい季節になってきました。

牡蠣には何を合わせますか?と聞かれて、日本酒好きの方は「熱燗」と答えるかもしれませんし、ワイン好きな方は「シャブリ」と答えるかも知れません。意外かも知れませんが、生牡蠣にスコッチウイスキーがとても相性が良いのです。

今年の夏に、スコットランドのウイスキー蒸留所を回ってきました。日本の淡路島と同じくらいの面積、人口四千名弱のアイラ島が一番の目的で、現在は八つの蒸溜所があります。

その中でも最も古いボウモア蒸溜所は、1779年の開設から200年以上も伝統的な製法を守りながら、アイラモルトの女王と言われる「ボウモア」をつくっています。

「ボウモア」はゲール語で、「大きな岩礁」の意味があります。

◆ボウモアの貴重なNo.1

Vaults(第1貯蔵庫/ヴォルトとは地下貯蔵庫)を見せてもらいましたが、そこは海に面していて、波打ち際の岩盤を削り取ったうえに作られています。庫内の床は海面下に位置し、半地下のようなつくりです。特殊な設計で、原酒樽熟成に理想的な環境をおよそ240年以上保っているそうです。ほのかに漂う潮の香、最適な湿潤。これらの条件が原酒の熟成を進ませ、香味要素の役割を担っていることが想像できました。まさに、海のシングルモルトです。

アイラモルトの女王と言われるだけあって、エリザベス女王との縁も深いのです。

1980年、ボウモア蒸溜所に女王エリザベス世が初訪問され、女王の前で新酒が樽詰めされました。その後、2002年の女王戴冠50周年のお祝いに「BOWMORE THE QUEEN’S CASK」ボトル648本が誕生しました。645本は王室へ献上され、残り3本のうち1本は蒸溜所へ、1本はモリソン・ボウモア社の研究室へ、もう1本はチャリティーを目的としたオークションにかけられたのだそうです。

宿泊したホテルのレストランで、素敵な楽しみ方を教えてもらいました。目の前にある美しい海で採れたばかりの生牡蠣に、ボウモアをかけていただきます。潮の香がするシングルモルトと、新鮮な生牡蠣の風味。どちらが主張するでもなく、寄り添うような絶妙なバランスです。

帰国後、他の様々なウイスキーでも試してみました。生牡蠣が難しいときには、牡蠣のウイスキー蒸でも良いと思います。できれば、海の香りがするアイラモルトが一番良く合うようです。都内のオイスターバーでも、生牡蠣にボウモアを添えて出してくれるところも多いようです。

◆日本にも海の近くの蒸留所が

日本でも、海の近くの蒸留所として昨年、北海道の厚岸に厚岸蒸留所ができました。厚岸といえば、素晴らしい牡蠣と乳製品があるところ。今、熟成中のウイスキーが目を覚ます何年か後、スコットランドのアイラ島のように、厚岸の生牡蠣に厚岸のウイスキーをかけて楽しみたいものです。

きき酒 いい酒 いい酒肴No.26『秋の気分を味わえる秋刀魚と米焼酎』(機関紙2017年9月1日号/No.570号)

きき酒 いい酒 いい酒肴No.26『秋の気分を味わえる秋刀魚と米焼酎』(機関紙2017年9月1日号/No.570号)

昔から食卓に秋刀魚がのぼる季節になると、夏ばてがおさまると言われてきました。

秋刀魚には頭が良くなるといわれているDHA(ドコサヘキエン酸)や動脈硬化を防ぐといわれるEPA(エイコサペンタ)が、ワシやバに次いで多く含まれており、目の劣化予防となるビタミンEや風邪防止のビタミンA、貧血予防のビタミンB12 なども豊富にあります。秋の初め、漁場は道東あたり。その後、三陸、常磐、房総の沖へと南下して行きます。

三陸地方では、生秋刀魚の水揚とともに新酒が出始めるこの時期に、旬の生サンマを思う存分楽しんでほしいという思いから「秋刀魚専用酒」を販売しているところもあります。五五%精米した山田錦を用いた氷温瓶の吟醸酒は、確かに生の秋刀魚刺身によく合います。

しかし、塩焼きには秋刀魚の脂に負けない焼酎を合わせていくのもなかなかです。麦、芋、などさまざまな原料を使った焼酎がありますが、独特のにおいが苦手という方にもお勧めなのが米焼酎です。

その中でも、熊本の球磨焼酎の個性あふれる味わいには驚かされます。

お米を麹と酵母で発酵させた醪(もろみ)を蒸溜するのが米焼酎です。蒸溜というのは、アルコールと水の沸点の違いを利用したものです。醪を加熱すると、先に沸点が低いアルコールが気化します。それを集めたのが焼酎です。中でも、減圧蒸留という製法を使った「鳥飼」という米焼酎は、焼酎の概念を越えています。大気圧よりも低い気圧なので、 沸点が下がります。すると、低い温度から抽出される雑味少ない素晴らしい芳香が得られます。リンゴ、白桃、バナナ、メロンのような甘く華やかで、蜜がたっぷりなフルーツの香りが印象的です。その香りに反して、味わいは大変ドライです。シャープで切れが良く、吟醸酒のような焼酎です。日本酒用の酒造好適米「山田錦」と五百万石を吟醸酒なみに磨き、麹(黄麹菌といいます)と自家培養の吟醸酵母によって醪を作り、減圧蒸留を行っています。

秋刀魚といえば思い出されるのが、佐藤春夫氏の有名な「さんまの歌」です。 

あはれ/秋風よ/情(こころ)あらば伝へてよ/――男ありて/今日の夕餉(ゆふげ)に ひとり/さんまを食(くら)ひて/思ひにふける と。/さんま、さんま/そが上に青き蜜柑の酸(す)をしたたらせて/さんまを食ふはその男がふる里のならひなり…(中略)…さんま苦いか塩つぱいか…(後略)…。

「さんまの歌」の背景には、詩人作家としての人生が込められ、象徴的な意味合いがあり、 大変興味深いのです。佐藤氏は和歌山の出身なので、もしかしたら脂が抜けた秋刀魚を食べていたのかも知れません。道東から寒流に乗って熊野灘まで南下してきた秋刀魚は、脂がほどよく抜けており、寿司にするのにちょうどよいのだそうです。「青き蜜柑」というのは、熟する前に収穫した「青切りみかん」のことです。

今夜は、詩人の人生に思いを馳せながら、脂がのった旬の秋刀魚と、香り高くやや辛口な米焼酎を試してみてはいかがでしょうか。

(協会理事/早坂美都)

きき酒いい酒いい酒肴No.25『鯉のぼりを眺めたしなむ「菖蒲酒」の楽しみ』(機関紙2017年5月1日号/No.566号)

きき酒いい酒いい酒肴No.25『鯉のぼりを眺めたしなむ「菖蒲酒」の楽しみ』(機関紙2017年5月1日号/No.566号)

—若葉の香りで清々しい気持にさせてくれる先人の知恵

◆端午の節句
五月晴れの青空に、鯉のぼりがみられる季節になりました。5月5日は端午(たんご)の節句です。古来、午月(うまづき)にあたる5月は凶の月とされていたそうです。そのため、月初めの午の日である「端午」には「菖蒲酒」を飲み、「菖蒲湯」につかり、粽(ちまき)を食べれば、邪気が払われ、疫病が除かれるといわれていました。中国伝来のしきたりで、屋根に菖蒲をかけて蓬でつくった人形(ひとがた)を門戸に飾ることがあります。この慣習は、日本でも普及したそうです。

◆端午の節句の変遷―鎌倉時代
その後、鎌倉時代には、走る馬の上から的を射る「流鏑馬(やぶさめ)」の競技が武士の間で行われるようになります。「菖蒲」が「勝負」「尚武」に通じるということ、そして、菖蒲はその葉形が刀剣に似ているので、邪気を斬り払う力を持つとされていました。子どもたちが地面を打ち合う「菖蒲打」という遊びも現れ、菖蒲の葉を「菖蒲刀」として使います。

◆端午の節句の変遷―室町・江戸時代
室町時代には「兜人形」がつくられ、江戸時代になると、立身出世のシンボルとして「滝登り」をする鯉を布でつくり、その「鯉のぼり」を庭に立て、子どもの健康と出世を祈る祭りへと変身していきました。

◆菖蒲の効果効能
そんな古い時代から習慣があった菖蒲湯や菖蒲酒ですが、単に厄除けとかの意味合いだけでなく、体に与える効能効果にはどんなものがあるでしょうか。
まず、よく使われるのは葉の部分ですが、実は葉よりも根茎部分の方に アザロン、オイゲノールなどの精油成分が多く含まれています。その独特の香りが邪気を払うと信じられ、厄除けとして使われていたようです。漢方では、菖蒲の根茎部分を天日干ししたものを「菖蒲根」といって使います。鎮痛、血行促進、リラックス効果があります。

◆植物学的に見る菖蒲
ショウブ、アヤメ、ハナショウブ、カキツバタ…。これらは外見が似ており間違いやすいのですが、違う品種となります。ショウブ(菖蒲)はショウブ科で、以前はサトイモ科に分類されていました。そして、アヤメ(菖蒲)、ハナショウブ(花菖蒲)、カキツバタ(燕子花、杜若)はいずれもアヤメ科です。漢字で書くとショウブもアヤメも「菖蒲」と書きます。漢字は同じですが、植物学的にはまったく違う品種です。ここが、日本語の不思議で面白いところだと思います。有名な尾形光琳の屏風は、燕子花です。
さて、菖蒲酒の作り方ですが、本来は菖蒲の根茎の部分を刻んで清酒に漬け込みます。しかし、なかなか根茎は手に入りにくいので、お酒に菖蒲の葉を浮かべて飲むだけでも、楽しむことができます。若葉の香りを楽しみ、清々しい気持にさせてくれる先人の知恵を現在の生活の中にも取り入れていきたいものです。


(協会理事/早坂美都)

 

きき酒いい酒いい酒肴No.24『春色のロゼ~梅や桃や桜のお花見をするように…』(機関紙2017年3月1日号/No.564号)

きき酒いい酒いい酒肴No.24『春色のロゼ~梅や桃や桜のお花見をするように…』(機関紙2017年3月1日号/No.564号)

日差しが少しずつ柔らかく暖かになってくると、春めいてきます。「春告草(はるつげぐさ)」と呼ばれる梅から桃に花の主役がかわってきます。


✿バラ色の…
戸外に目がむかうようになってくるこの季節。春色のロゼワインを楽しむのに良いころです。
ロゼワインとはピンク色のワインで、「ロゼ」というのはフランス語で「バラ色の」という意味です。白ワインのさっぱりした味と、赤ワインの渋みが合わさったような味で、飲みやすく、いろいろな料理に合います。春の花の色合いが豊富であるように、ロゼワインも白に近い淡いピンクから紅色に近いイチゴのような濃いピンクまで、多くの美しい色合いがあります。


✿赤と白のブレンドではない
ロゼワインは赤ワインと白ワインのブレンドではありません。赤ワインと同じような種類のブドウから作られます。しかし、赤ワインほど色素を出さないため、ピンク色になります。大きくわけて、3つの方法で作ります。

✿醸造法は3つ
1つ目はマセレーション法といって、途中まで赤ワインと同じように作る方法。まず、ブドウをつぶして、果実・皮・種をすべて発酵タンクに入れます。この後、赤ワインの場合は発酵を進めるのですが、ロゼを作る際には、発酵が開始し、果汁に色がついた段階で、果実・皮・種をすべてろ過して、そのあとに低温で発酵を進めます。この方法が最も一般的な方法といわれています。
2つ目は直接圧搾法といって、白ワインのように作る方法です。赤ワインで使われるブドウの果汁を絞り、あとは白ワインと同じように低温で発酵させます。
3つ目は混醸法といって、黒ブドウ(赤ワインをつくるブドウ)と白ブドウを混ぜて、白ワインと同じように作ります。
EUの規定によって、赤ワインと白ワインを混ぜてロゼとすることは、一般に禁じられていますが、その中で例外があります。フランスのシャンパーニュ地方に限っては、赤ワインと白ワインを混ぜる方法が許可されており、ロゼのシャンパンが作られています。少数ながら非発泡のロゼワインも生産されています。


✿ほどよいタンニンときれのいい酸味
赤ワインと白ワインのいいところを受け継いでいるロゼワインは、口中でほどよいタンニンと、きれのいい酸味が広がるので、食材の旨みを引き立ててくれます。イチゴやラズベリーなどの赤ベリー系の香り、ブラックベリーやプラムなど黒ベリー系の香りにしっかりとした酸味もあるので、肉料理にも合いますし、醤油ベースの和食にも意外なことに海老チリなどの中華にも合います。春の主役フキノトウなどの山菜のえぐみや香りにも合います。
ブドウの色素による美しい色合いが、桃のピンク、桜のうす紅、梅の移白(うつりじろ)移紅(うつりべに)のように見えるのです。ロゼといえば南フランスのプロヴァンズのイメージが強いようですが、日本の春にもぴったりなのです。
ぜひ、明るい春の日差しのもとで、梅や桃や桜のお花見をするように、美しいロゼワインを楽しんでみてください。
  (協会理事/早坂美都)

きき酒いい酒いい酒肴No.23『二十四節気に響くブレンダ―の気概』(機関紙2017年12月1日号/No.562号)

きき酒いい酒いい酒肴No.23『二十四節気に響くブレンダ―の気概』(機関紙2017年1月1日号/No.562号)

年末年始は、いかが過ごされましたでしょうか。慌ただしい時間の合間に、ゆっくりと自分のためにくつろぎたい。そんな時に、ぴったりなのがジャパニーズウィスキーです。日本人の繊細な味覚より生み出されたウイスキーは、世界的に人気となり、手に入りにくくなってきています。


◆注目集めるジャパニーズウイスキー
ジャパニーズウィスキーは、1918年よりスコットランドに留学した竹鶴政孝によってスコッチ・ウイスキーの伝統的製法が持ち帰られたことが端緒です。竹鶴は壽屋(現サントリー)に在籍し、1923年開設の山崎蒸溜所の初代所長となり、後に「ニッカウヰスキー」を創業した方です。


◆冴えるブレンダ―の腕
中でも、「響」シリーズは海外で大変な人気です。響は、モルト原酒を何種類もブレンドしたものです。これこそ、日本人の味覚の鋭さ、ブレンダーの腕が冴えるものです。
モルト原酒は、大麦の麦汁を糖化・発酵させた発酵液を蒸溜し、熟成させることでつくられ、その味わいは、材料となる水や大麦の個性や気候条件、ポットスチル(蒸溜釜)や貯蔵樽の材質などによって変わってきます。たとえば、ポットスチルにはストレート型、ランタン型、バルジ型(ひょうたん型)といった形状の違いがあり、ストレート型は重厚な酒質を、ランタン型やバルジ型は軽快な味わいの酒質を生み出すとされています。
できたてのウイスキーの原酒は無色透明ですが、樽に貯蔵することによって熟成を重ねていきます。樽に使われるオーク材からリグニンやタンニンが原酒に溶け出します。リグニンはバニラの主成分であるバニリンなどの芳香物質となり、これが樽由来の甘い香りとなります。
響のボトルは、24面カットのデキャンタボトルです。24という数字は、1日24時間、1年二十四節気の意味がこめられているそうです。立春より、雨水、啓蟄、春分、清明、穀雨、立夏、小満、芒種、夏至、小暑、大暑、立秋、処暑、白露、秋分、寒露、霜降、立冬、小雪、大雪、冬至、小寒、大寒、という日本古来の季節を24四に分ける美しいならわしを表しています。
響を作ったブレンダーは、ブラームスの交響曲をイメージしたといいます。
美しい日本の二十四節気を何巡りもして醸し出されたウイスキー。その琥珀色を眺めながら、「今年1年をどんな年にしていこうか…」と、思いを巡らすのも大切な時間になることでしょう。
 (協会理事/早坂美都)

きき酒いい酒いい酒肴No.22『アイリッシュコーヒー/アイルランドが誇るアイリッシュウイスキーを入れたコーヒー』

きき酒いい酒いい酒肴No.22

『アイリッシュコーヒー/アイルランドが誇るアイリッシュウイスキーを入れたコーヒー』

11月になると、各地で紅葉の便りが聞かれるようになります。寒さが増してくるとき、診療がおわったあとに、いつものコーヒーにアイリッシュウイスキーを入れたアイリッシュコーヒーが身体に沁みます。

◆温めた器に白ザラメを入れ…
温めた器に白ザラメを入れ、アイリッシュウイスキーをいれ、熱いコーヒーを注ぎます。そのうえに生クリームを浮かべてできあがりです。
先日、秋深まるアイルランドでパブ巡りをしてきました。店によって、アイリッシュコーヒーの味が違いました。寒いとき、店に入ったら、まずアイリッシュコーヒー、そしてギネス、最後にアイリッシュウイスキーで仕上げ、というのが定番のコースでした。

◆ウイスキーとコーヒーの相性
ウイスキーとコーヒーは意外と合いますので、京都祇園にある「幾星」というお店では、コーヒーをチェイサーにウイスキーを出してくれるそうです。アルコールの刺激が和らぎ、舌触りがなめらかになります。

%e6%97%a9%e5%9d%82%e5%85%88%e7%94%9f11%e6%9c%88%e5%8f%b7%e7%94%a8%e5%86%99%e7%9c%9f20161006_221325

 

 

 

 

 

 

 

 

◆「覚醒の酔い」を招くウイスキー
ウイスキーの酔いは、開放感や酩酊といった分類ではありません。サントリーの元ブレンダーで原酒生産部にいらした三鍋昌春さんに、お話を伺う機会がありました。酔っているのに思考力、想像力が研ぎ澄まされ、頭脳が活発に動き出すのを実感できる不思議な「覚醒の酔い」だそうです。華麗なシャトーで生まれるワインと違って、飲み手の知性を引き出し、自我に向かっていざなってくれるのです。ウイスキーを飲みながら原稿を書く作家が多いというのもうなずけます。
19世紀までは、ウイスキー界ではアイリッシュが中心でした。今では、スコッチ、ジャパニーズのほうが、人気があるようです。

◆アイリッシュウイスキーの醸す歴史
アイルランドの歴史はとてもつらいものが多いです。1845~51年にグレートファミン(大飢饉)が起こり、人口が800万人から650万人まで減り、アメリカや英国への移民によって、1911年には440万人に激減しました。苦難の歴史を耐え忍ぶ中で、アイルランドの人たちにとって、ウイスキーが心の支えになってきたのです。
現在、アイルランドは昔のケルト時代以来の繁栄を迎え、アイリッシュウィスキーの蒸溜所も次々と新設されています。
スコッチウイスキーに比べて、蒸溜回数が3回と多いためなのか、わりと単調に感じます。アイリッシュウイスキーのテイスティングのとき、「オイリー」という言葉がよく使用されます。口に含んだときの独特の滑らかな感触を表現しているようです。
秋が深まるこの季節、身体を温め、「覚醒の酔い」をもたらしてくれるアイリッシュウイスキーを使ったコーヒーはいかがでしょうか。
(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴No.21 『「秋晴れ」「秋栄え」菊正宗』

きき酒 いい酒 いい酒肴No.21

『「秋晴れ」「秋栄え」菊正宗』


◆神戸市西宮の宮水
残暑厳しい九月です。この季節ならではの「秋晴れ」もしくは「秋栄え」といわれる日本酒があります。春にできあがった新酒は、夏を越し、秋になって熟成し、まろやかな味と芳香を放つよい酒となります。神戸西宮の宮水を使った日本酒特有の仕上がりです。宮水は天保時代に発見された鉄分の少ない酒造りに適した硬水で、カルシウム、リン、カリウムを多量に含んでいるのが特長です。
この宮水は、西宮神社(戎神社)の東南の一地区に湧出する水で、六甲山に源を発する戎伏流と法安寺伏流との混合によってできています。先日、神戸の菊正宗酒造に行った際、宮水をいただきました。京都伏見の軟水と比較して硬水といわれますが、飲み口がやわらかく口中でふわりとした感触でした。

◆杉材を使った樽酒がおすすめ
たくさんの銘柄を作っている菊正宗酒造ですが、中でも樽酒がおすすめです。樽酒は清酒を杉樽に貯蔵することによって杉材由来の成分を清酒に付与したものであり、杉特有の香りを楽しむことができます。熟成した原酒(アルコール分19~20度)を72リットルの杉樽(赤味樽)に詰め、香りのよい飲み頃に取り出して濾過の後、割水して瓶詰をします。
歴史的にも古い樽酒ですが、近年、健康への関心が高まる中、植物の葉、種子、花、樹木などに人間の健康を増進する有効成分が存在することが明らかになりつつあり、有効成分を利用されてきています。森林浴やヒノキ風呂、漢方、アロマセラピーなどです。
樽酒の香り(樽香)には、さまざまな成分が含まれていますが、その中でもセドロールという成分は、アロマセラピーで用いられる精油中の有効成分として、リラクセーションやストレス軽滅などの作用が知られています。
漢方薬の薬効成分のひとつであるβ―オイデスモールは、胃酸を抑える効果があることが知られていますが、このβ―オイデスモールが、樽香に含まれていることが明らかとなりました。今西二郎博士(日本アロマセラピー学会名誉理事)によりますと、「森林浴も広い意味でのアロマセラピーの1つであり、森林浴では、植物が生産するフィトンチッドという成分の香りにより、リラクセーション、疲労回復を起こします。フィトンチッドは、さまざまな成分を含んでいますが、中でも重要な働きをしているのがセスキテルペンとよばれる一群の物質です。これらの物質にはセドロール、エレモール、オイデスモールといったさまざまな成分が含まれる」そうです。
菊正宗では、樽酒中の成分をガスクロマトグラフ質量分析計(GC―MS)で分析したところ、多くの種類のテルペン類が含まれることが確認されたそうです。
テルペンとは、樹木や植物に含まれる物質で、通常の清酒にはまったくみられませんので、これらは清酒を杉樽に貯蔵している間に樽から自然にしみだしたものということになります。
樽酒は、まさに都会での森林浴なのかも知れませんね。
   (協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 ⑳「初夏にぴったりなチーズと白ワイン~クロタン・ド・シャヴィニョルとサンセール」

きき酒 いい酒 いい酒肴 ⑳

「初夏にぴったりなチーズと白ワイン~クロタン・ド・シャヴィニョルとサンセール」


◆シェーブル
山羊のミルクで作られたチーズの総称をシェーブルといいます。年中店頭で見かけますが、伝統的なシェーブルの旬は初夏だといわれています。
母親の山羊たちが若く青々とした草を食べるのに関係します。青い草やハーブをたくさん食べた母親山羊が出すミルクは、一年で一番フレッシュな味わいだからです。干し草を食べている季節とは違います。
その中でも人気があるのがクロタン・ド・シャヴィニョル(「シャヴィニョル村のクロタンチーズ」という意味)というチーズです。これを焼いて野菜の上にのせるサラダがフランスのヌーベルキュイジーヌをうたうレストランで人気です。すっきりとした酸味の中に、ミルクの甘みが感じられ、冷やした白ワインにぴったりです。

◆シャヴィニョル村そしてロワール川
シャヴィニョル村は、フランスのロワール川中流地域の銘醸ワイン「サンセール」の生産地域にある村です。ロワール川は、フランスの中心部から大西洋に流れていて、川沿いに多くの名城が残されていることでも有名です。
フランスの庭と呼ばれているこの地域では、バリエーション豊かなワインが作られています。ソーヴィニョンブランという白ブドウを主に使っているのですが、独特な酸味、果実味を感じられ、上品な柑橘系の味わいがあります。
ロワール川沿いは、石灰岩質から粘土質まで、さまざまな土壌がモザイク状に入り組んでいるため、畑によってかなり味わいが違ってきます。
ピノ・ノワールという黒ブドウも作られ、赤ワインも生産されています。

◆奥深いクロタン・ド・シャヴィニョル
クロタン・ド・シャヴィニョルの若いうちはサンセールの白、熟成したらサンセールのロゼ、赤を合わせるのがおすすめです。
若いフレ(フレッシュ)、ドゥミ・セック(十二日間熟成)、クードレ(十八日間熟成。全体が粉っぽい)、ブルーテ(二十一日間熟成。所々青かび)、ブルー・ムワルー(五週間熟成)、ブルーセック(六~八週間熟成)、ブルートレ・セック(二カ月以上熟成。乾燥している)、ルパセ(壷に入れて熟成)と、熟成度合によって味わいが変わる奥深いチーズです。

◆取り合わせと良い熟成
その中でも、若いフレとサンセールの白の取り合わせは、この季節にぴったりです。また、辛口ワインとのマリアージュ(「結婚」や「とりあわせ」の意味)もいいですが、ロワール地方の甘口ワインとも合います。
シュナン・ブラン種という白ブドウから作られる果実味ふくよかな甘口のワインと一緒だとデザート感覚で楽しめます。
フランスではチーズの熟成士という職業があり、その中でも優れた技を持つ方には「M・O・F(MEILLEUR OUVRIER DE FRANCE)」=「フランス最優秀職人」の称号を与えられます。良い熟成は、食べ物だけではなく、私たち人間にも大切ですね。

(協会理事/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴 ⑲ / “團菊祭”そしてバロナーク

きき酒 いい酒 いい酒肴 ⑲ / “團菊祭”そしてバロナーク

5月といえば、歌舞伎や伝統芸能がお好きな方は團菊祭という言葉を思い浮かべるかもしれません。明治時代の歌舞伎役者九代目市川團十郎(いちかわ・だんじゅうろう)、五代目尾上菊五郎(ごだいめ/おのえ・きくごろう)、初代市川左團次(いちかわ・さだんじ)の三氏が築いたのが「團菊左時代」です。写実的な演出や史実に則した時代考証などで歌舞伎の近代化を図る一方、伝統的な江戸歌舞伎の荒事を整理して今日まで伝わる多くの形を決定。ともに歌舞伎を下世話な町人の娯楽から日本文化を代表する高尚な芸術の域にまで高めることに尽力した方々です。この九代目團十郎、五代目菊五郎の功績を顕彰すべく歌舞伎座が始めたのが「團菊祭」です。

市川團十郎

市川團十郎

尾上菊五郎

尾上菊五郎

初代市川左団次

初代市川左団次

 

 

 

 

 

 

 

 

現在では、市川團十郎さん(逝去後、海老蔵さん)と尾上菊五郎さんが出演する五月の歌舞伎を指しています。
故十二代目市川團十郎さんは、2001年日本ソムリエ協会の名誉ソムリエに就任しており、ことのほかワインがお好きでした。中でも、バロナーク(写真下)が好きで、ご子息の市川海老蔵さんの披露宴でもこの銘柄をお出ししたそうです。ボルドーの五大シャトーで有名な「シャトー・ムートン・ロートシルト」を所有するバロン・フィリップ・ロートシルト社が、アメリカの「オーパス・ワン」やチリの「アルマヴィーヴァ」に続き、選んだのがフランスのラングドック・ルーション地方のリムー地区でした。そこで、バロナークが作られるようになったのです。

フィリピーヌ・ドゥ・ロートシルト男爵夫人が歌舞伎に興味があり、故市川團十郎さんと出会い親交を深めてらっしゃったそうで、バロナークといえば團十郎さんのワインというイメージができました。
昨年の夏、ワイン研修のために、一週間ほどボルドーに滞在しました。そこで、ムートン・ロートシルトのシャトーをたずね、素晴らしい醸造設備に驚き、案内してくださるスタッフの方たちのホスピタリティーにも心温まりました。使っているブドウは、大西洋品種80%(メルロー、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニオン)地中海品種20%(シラー、マルベック)という比率です。
深みと輝きのある美しいルビー色。ブラックベリーやラズベリー、樽由来のトースト系の香りがします。ムートンは価格的もなかなか買えないのですが、バロナークでしたら、割と気軽に購入できます。醸造過程や樽熟成においても全く同じ方法がとられているので、味わいはムートンに負けないくらい濃くて、バランスがいいワインです。教養と知性にあふれた中世の騎士のイメージです。ワイングラスではなく、銅酒器で豪快に飲むようなそんな力強さも感じられます。
“五月病”という言葉があるくらい、疲れがでてくる季節です。江戸から伝わる荒事を楽しみながら、力強いワインを楽しむのも、明日の活力につながるかと思います。

(世田谷区/広報・ホームページ部員/早坂美都)

きき酒 いい酒 いい酒肴⑱ / 白酒と桃花酒

きき酒 いい酒 いい酒肴⑱ / 白酒と桃花酒 3月3日は桃の節句です。待合室に雛人形を飾っている先生もいらっしゃると思います。桃の節句とは、中国から伝来した五節句のひとつで、「上巳(じょうみ)の節句」とも呼ばれています。上巳とは、3月の最初の巳の日という意味で、邪気に見舞われやすい日とされており、水辺で穢れを払う中国の風習が、平安時代に日本に伝わりました。その風習が、本人の身代わりとして穢れを紙の人形に背負わせ、川に流す「流し雛」になり、「雛(ひいな)遊び」という紙製の人形を使ったままごと遊びが貴族の女の子たちの間で盛んになりました。 やがて男女一対の紙製立雛が誕生し、時代とともに変遷しながら、江戸時代には豪華な雛人形を雛壇に飾るようになりました。 「あかりをつけましょ~」で始めるひな祭りの歌。その一節に  少し白酒めされたか  赤いお顔の右大臣 という歌詞があります。 ◆白酒と甘酒         「白酒」と「甘酒」を同じものと思っている方が多いようですが、白酒は甘酒とは違って、蒸したもち米に味醂、米麹、焼酎などを混ぜて仕込み、一カ月近く熟成させて、すりつぶしたもので、アルコール度は一〇度前後、酒税法ではリキュールになります。 【白酒】には読み方が三通りあり、それぞれで意味が異なります。「しろざけ」はひな祭りに用いられる甘味の強い酒のこと。「しろき」は神事に供される酒。「はくしゅ」とはどぶろくなどのことです。 中国酒にも「白酒(バイチュウ)」という種類があるのですが、こちらは透明な蒸留酒です(アルコール度数は本来五〇度以上ですが、現在は三八度程度)。 甘酒は見た目が白酒のようですが、作り方が違います。ご飯やお粥に米麹を混ぜて保温し、糖分をひきだした飲み物でアルコールはほとんど含まれていません。酒粕に砂糖、水、生姜を加えて作ったものも甘酒を呼ばれていますが、こちらはアルコールを含んでいます。 白酒:豊島酒造250pix ◆ももとせ また、「桃花酒(とうかしゅ)」というものもあります。桃の花をひたしたお酒のことをいい、平安時代にはじまりました。桃は「百歳(ももとせ)」に通じることより、病気や痛みを取り払い、顔色をよくするといわれていました。中国に桃の花が流れる川の水を飲んだら、三百歳の長寿を得られたという故事があるそうで、平安の貴族たちは曲水の宴を催して桃花酒を飲んでいたそうです。白酒は江戸時代に始まったのですが、それまでは桃の節句には桃花酒がつきものでした。   ◆大切にしたい風情 白酒ではないのですが、特別純米無濾過生原酒の一つに「博多練酒(はかたねりざけ)」というお酒があります。太閤秀吉が三大美酒に数えたという博多名産の自伝酒を、今に復刻させたお酒です。 戦国時代には出陣の景気づけに飲まれ、その後も博多では祝いの席や諸節句などに用いられていたものを、室町時代の文献『御酒之日記』より復刻。七〇%にまで精白した米ともち米を乳酸発酵させ、この乳酸液に米麹と蒸した米、水を入れて再び発酵させたものです。乳白色でアルコール度は四度ほど。 このようなにごり酒や、ワインに桃のはなびらを浮かべた現代版桃花酒で風情を楽しむひとときを大切にしたいですね。 (広報・ホームページ部/ 早坂美都/世田谷区) 雛祭り写真450pixDSCN4454

きき酒 いい酒 いい酒肴⑰ 年に一度の楽しみ ボジョレー・ヌーボー

きき酒 いい酒 いい酒肴⑰ 年に一度の楽しみ ボジョレー・ヌーボー

11月近がくなると、「ボジョレー・ヌーボー予約開始」という宣伝や特設コーナーが設けられます。フランスの新酒ワインですが、イタリアでは新酒ワインを「ヴィーノ・ノヴェッロ」、オーストリアでは「ホイリゲ」と呼び、それぞれ10月30日、11月11日に解禁されます。ボジョレー・ヌーボーとは、フランスのブルゴーニュ地域のボジョレー村で作られる新酒(ヌーボー)のことですが、歴史的に古くからあったそうです。
収穫したばかりのガメイ種(ブドウの種類のひとつ)から造られるワインは、1800年代から日常のお酒としてボジョレー周辺の地元住民を中心に楽しまれていた「地酒」です。1951年、フランス政府によって公式に11月15日を解禁日とされたのを期に、パリのレストランを中心にブームになりました。そして1970年代に入ると、日本を含め世界中に知られることとなりました。

⑰ヌーヴォー
◆もともと解禁日は聖人の日
現在、ボジョレー・ヌーボーの解禁日は毎年11月の第3木曜日ですが、もともとサン・マルタンの日という聖人の日である11月11日でした。その後11日は、無名戦士の日に変更されてしまったため、サン・タルベールの日である11月15日に解禁日を移しましたが、フランス政府が1984年に、「11月の第3木曜日」という、毎年変動する解禁日に設定しました。

◆炭酸ガスでの醸造でフレッシュに
ボジョレー・ヌーボーは、単なる新酒だけではなく、造り方の上でも大きな特徴があります。それは「マセラシオン・カルボニック」「炭酸ガス浸潤法」という醸造方法です。
通常は収穫したぶどうを破砕しますが、マセラシオン・カルボニック法では、破砕せずステンレスタンクに上からどんどん入れてしまいます。タンクの下の方のぶどうは重さでつぶれ、果汁が流れ出て自然に発酵が始まり、炭酸ガスが生成されます。酵素の働きによってリンゴ酸が分解され、アルコール、アミノ酸、コハク酸などが生成されます。タンニンが少ない割には色が濃く、渋みや苦味が少なくなります。炭酸ガスによって酸化が防止されるのでワインがフレッシュに仕上ります。

◆魚介類と合わせて楽しむ
不思議と肉よりも魚介類に合うのです。ガメイというブドウは、ワインにすると黒胡椒のようなスパイシーな香り、そして、赤い色のベリー系果実の香りがします。
パリのレストランでは、この季節ならではの生牡蠣に黒胡椒を少しかけてボジョレーと合わせるそうです。和食では、脂ののった秋刀魚の塩焼きがスパイシーな香りに合います。ベリー系のお菓子も赤い果実のような香りに合います。
なんとなく飽きられていた感じもする解禁日ですが、せっかく年に1度のお祭りみたいなものなので、楽しみたいですね。
(早坂美都/広報・ホーム   ページ部員/世田谷区)

きき酒 いい酒 いい酒肴⑯ 重陽の節句「菊酒」

きき酒 いい酒 いい酒肴⑯ 重陽の節句「菊酒」

まだまだ暑い日が続きますが、暦の上では、そろそろ秋の行事がはじまるころです。
旧暦の9月9日は、五節句のひとつ「重陽の節句」です。菊を用いて不老長寿を願うことから別名「菊の節句」といいます。
五節句とは、江戸時代に定められた5つの式日(現代でいう祝日)をいい、1月7日の人日の節句(七草粥)、3月3日の上巳の節句(桃の節句/雛祭り)、5月5日の端午の節句、7月7日の七夕の節句、9月9日の重陽の節句をさします。

早坂先生9月号写真

◆重陽の節句には長寿繁栄を願う
古来より、奇数は縁起の良い陽数、偶数は縁起の悪い陰数と考え、その奇数が連なる日をお祝いしたのが五節句の始まりで、お祝いとともに厄祓いもしていました。中でも一番大きな陽数(九)が重なる9月9日を、陽が重なると書いて「重陽の節句」と定め、不老長寿や繁栄を願う行事をしてきました。
主なものとして菊酒、菊湯、菊枕、菊合わせなどがあります。
菊酒は、本来は菊をお酒に漬け込んで作りますが、お酒に菊の花びらを浮かべてみるだけでも、風流な気分が味わえます。
菊湯は、湯船に菊を浮かべます。冬至の柚子湯のような感じです。
菊枕は、本来菊を詰めた枕で眠り、菊の香りで邪気を祓うのですが、菊の花びらを枕元においてもいいと思います。
菊合わせとは、菊を持ち寄って優劣を競います。菊まつりや菊人形展のことです。
 
◆食用菊には時節柄抗菌作用も
重陽の節句の食べものの代表が食用菊です。「もってのほか」の名前の由来は、「天皇の菊の御紋を食べるとはもってのほか」「もってのほか(想像以上に)美味しい」と言われています。
おひたし、お吸い物、サラダなどに使われ、お刺身の盛り付けの黄色い菊は、優れた抗菌作用で食中毒防止の役割もあります。また、江戸時代から重陽の節句に栗ごはんを食べる習わしがあり、「栗の節句」とも呼ばれています。
診療に追われる日々を送られているかと思いますが、忙しいときほど、古くからの日本の美しいならわしを楽しむのもよろしいかと思います。
(早坂美都/広報・ホーム  ページ部員/世田谷区)

きき酒 いい酒 いい酒肴⑮ 国産のキャビアとウォッカ

きき酒 いい酒 いい酒肴⑮ 国産のキャビアとウォッカ

夏の暑い日、冷凍庫から取り出した冷たいウォッカは、定番のビールとはまた違った涼しさをもたらしてくれます。ウォッカのお供といえば、頭に思い浮かぶのがキャビアです。キャビアといえば、ロシアが有名です。
以前に、ウラジオストクからハバロフスクまでシベリア鉄道で移動したことがあります。ハバロフスクの地元のお店でキャビアを買おうとしたときです。「それは美味しくないから、やめたほうがいいよ」と年配の女性に言われました。どうやらキャビアには当たり外れがあるようです。
日本で国産のキャビアが売られていることをふるさと納税で知りました。さっそく、香川県東かがわ市に寄付して、記念品としておくられてきた国産キャビアを味見しました。生臭くなく、一粒ごとに艶があり、イクラをぎゅっと固めたような味わい、といえば少しは近いでしょうか。

◆社長の母校でチョウザメの養殖
これは、東かがわ市の引田中学校跡地にある旧体育館で養殖されているチョウザメから作ったものです。直径約3mの円形水槽四基が並び、体長数10㎝のチョウザメ約2000匹が泳ぎ回っています。
養殖業者の社長さんが、中学校跡地を選んだのは自身が同校の卒業生で、跡地の活用について市が募集をしていたのがきっかけ。「自分が過ごした校舎が朽ち果てていくのは忍びなかった」と土地と建物を購入したそうです。
活用策はキャビアと学校跡地という意外な組み合わせですが、その背後には既存設備の活用による、投資の抑制があります。旧体育館はそのまま活用して水槽を設置し、成長に合わせて体育館とプールを使い分けます。体育館では鳥などから守るため育て始めたばかりのチョウザメを養殖し、成長した後はプールに移すという具合です。

◆奥飛騨ウォッカは首相に選ばれる逸品
国産のキャビアには、国産のウォッカが似合います。奥飛騨ウォッカは、原料が米です。ウォッカを作った奥飛騨酒造は、飛騨金山町に江戸時代享保5年に創業した酒蔵です。飛騨地区の「しらかば」炭にて濾過し、6年以上貯蔵、熟成させています。
見た目も香りも味わいも、すべてにおいて限りなくクリアなお酒です。アルコールは55度、これだけ強いと冷凍庫に入れても凍りませんので、ひとくちサイズのグラスとセットで一晩凍らせ、ストレートでグイッとやります。なめらかで、甘みの残る口当たり、喉をトロッと流れて行く感触が楽しめます。
以前、小泉首相の頃、ロシアへサミットに出かける時に、お土産として当蔵の45年物のまろやかウォッカを持って行かれた…という逸話もあるお酒です。
最近は、地域包括、地域振興といった言葉を聞かない日がないくらい地域に目がむけられています。地域おこし協力隊の力を借りなくても、それぞれの地域の方たちが創意工夫されて、ものつくりをしているのを感じられる国産のキャビアとウォッカでした。
(早坂美都/広報・ホーム  ページ部員/世田谷区)

きき酒 いい酒 いい酒肴⑭「ロックで飲む吟醸酒 Ice Breaker」

きき酒 いい酒 いい酒肴⑭「ロックで飲む吟醸酒 Ice Breaker」

梅雨もそろそろあけるかも、というこんな時期。そんなときに飲みたい日本酒があります。京都府の木下酒造「Ice Breaker(アイスブレーカー)」です。アイスブレーカーを直訳すると、氷を砕く。そこから転じて、人間関係の緊張を溶かすもの、という意味があるそうです。このお酒も、そんな願いを込めて作られています。
酒瓶にはお酒の紹介カードがついているのですが、それによると「お酒が入るとリラックスして、付き合いが楽しくなるもの。そんなふうに緊張感をほぐし、座を和ませるものを『アイスブレイカー』といいます。」と、杜氏さんの性格がにじみでています。

 

 

 

◆氷入れるからこそ美味しい

純米吟醸、香りはフルーティーでさわやかです。お酒自体は、蔵内で半年の低温熟成を経て出荷された無濾過生原酒となります。最初は“てるてる坊主”という名前で発売されましたが、次の年から麹米を日本晴から五百万石に変更し、名前も“アイスブレーカー”に変更されました。このまま飲むのも良いですが、グラスに氷を入れて飲むと、さらに美味しくなります。
お酒自体は、しっかりとした濃い旨みと飲みやすさを見事に両立させた、夏酒です。旨み、甘味によって、氷で割っても味が壊れたりしません。それどころか、氷が溶けるほどに味が微妙に変わり、涼しげな音とともに耳と目も楽しませてくれます。この日本酒はあらかじめロックで飲むことを想定して造られています。

◆仲間とのアイスブレイクをきっかけに
日本酒っぽくないネーミングの「Ice Breaker」ですが、杜氏さんはイギリスの方で、フィリップ・ハーパーさんという明るく楽しい方です。もともとは、教師として来日し、そこで日本酒に惚れ込み、最終的には杜氏になってしまったという方です。
日本に来た当時、まだ日本語を全く話せなかった彼が、最初に職場の仲間とコミュニケーションを取れた場が、銘酒がたくさん置いてある居酒屋だったそうです。そこで、初めて日本酒と出会い、職場の仲間と打ち解けるきっかけを作ってくれた日本酒の世界に興味を持つようになりました。
アイスブレーカーはフィリップさんが日本酒を通じて、仲間を増やしていったのと同様、大勢の仲間と、わいわいがやがやと飲んで楽しんでもらおうという時にぴったりの純米吟醸酒です。夏はビールも良いですが、こんな日本酒が爽やかな気分にさせてくれます。
このような日本酒の開発に到るまでには相当の研究が必要でしょうね。日本人を超えた外国人杜氏さんに感服してしまいます。どの世界でも、お客さんを「まいった!」と言わせる技量が必要ですね。私たちも日々の努力と勉強を続けていこう、と思わせてくれるような日本酒です。
(早坂美都/広報・ホーム   ページ部員/世田谷区)

きき酒 いい酒 いい酒肴 ⑬ ヨードの香り「 アイラウイスキー」

きき酒 いい酒 いい酒肴 ⑬ ヨードの香り「 アイラウイスキー」

お酒なのに、診療室で嗅いでいるような香りがする。そんな不思議な香りのウイスキーがあります。アイルランドのアイラ島という小さな島で蒸留されたウイスキーです。初めて飲むと、「消毒薬?」と驚かれる方がほとんどです。
近年、シングルモルトウイスキーの人気が世界的に上昇しています。NHKの連続小説の影響もあるのかもしれませんが、ウイスキー市場が世界的に縮小傾向にあるなか、直近五年で一五%以上、消費の伸びがあるのはこの消費不振の時代に驚異的な数字でしょう。

アドベック写真


◆アイラ島とは…
アイラ島は、Isle of Islayと表記され、Isle(アイル)は島を表し、IslayはEye-la(アイラ)と発音します。島の位置はグラスゴーの西120㎞、北アイルランドアントリム州から35㎞にあり、面積は日本の淡路島とほぼ同じです。大西洋に面していて、沖合いを流れるメキシコ暖流の影響で気候は温暖湿潤、年間気温の変動が小さい島で、1830年頃には人口1万5000人に達していましたが、現在は約3500人です。今も減少が続いていて過疎化が懸念されています。
最近は島の魅力である豊かな自然や歴史遺産、伝統の農業、漁業、ウイスキーを関連させた観光に力を入れているようです。
どのようにしてウイスキーの蒸溜が始まり、なぜ主要な生産地域になったのでしょうか。まず地理的にアイラ島はアイルランドに極めて近く、アイルランドから蒸溜の技術が早い時期に伝えられたといわれます。
そして、ウイスキー造りに必要な大麦、水、燃料のピートが容易に手に入ったことも大きいです。ピートとは水苔、水草、へザーなどが湿原に堆積し炭化したものです。アイラのピートは燃えると強い薬品のような香りのする煙を発生します。

◆ウイスキー製造は貧困農家の生活糧
また、これも地理的要因ですが、エジンバラやグラスゴーから極めて遠隔のアイラには、ウイスキーに対する課税が導入されてからも徴税官は不在。大量のウイスキーが密造されていたようです。貧しい農家が生きてゆく手段でもあり、アイラでのウイスキー密造はスコットランドの他の地方より長く19世紀半ばまで続いていきます。19世紀後半から盛んになったブレンデッドウイスキー用に、グラスゴーやエジンバラのブレンダーはアイラモルトを重用します。そのピーティー、スモーキーで力強い性格は、ブレンドの特色を出し、隠し味の素としても必須モルトであり続け、現在はその独特の個性が愛好家を増やしているのです。
作家の村上春樹さんもその一人。彼の著書「ぼくらの言葉がウイスキーであったなら」では、アイラウイスキーの魅力を美しい言葉と写真で綴っており、私の大好きな一冊です。

◆歯科医師おなじみの独特の香り
身体や心の疲れを感じた時にアロマオイルはもちろんですが、歯科医師である私たちは、お馴染の消毒薬独特のヨード香に、案外ほっとするかもしれません。
(早坂美都/広報・ホーム   ページ部員/世田谷区)

きき酒 いい酒 いい酒肴⑫「日本のピルスナーは世界でもトップレベル 5月9日はゴクゴクの日」

きき酒 いい酒 いい酒肴⑫

「日本のピルスナーは世界でもトップレベル 5月9日はゴクゴクの日」

5月9日は、「ゴクゴクの日」。嚥下関係の日と思いましたが、おいしい飲み物をゴクゴク(5959) 飲み、かつ、水資源に恵まれない地域でも水をゴクゴク飲めるよう水環境について考えようという日だそうです。みんなでビールをゴクゴクしましょうというイベントもあるようです。
これから気温があがってきて、喉越しの良いビールが美味しくなる時期です。喉越しの良さといえば、ピルスナータイプが一番だと思います。

◆ピルスナーの起源は19世紀に遡る
ピルスナーの原形は、ボヘミアンピルスナーで、その代表格が1842年にチェコのピルゼンで造られたピルスナーウルケルというビールです。低温乾燥させたモルトと、ピルゼンの軟水、ボヘミア産のホップによる上品な味わいが特徴です。ボヘミアングラスの中で立ち上る白い細かい泡は、当時、大変美しく人びとの目に映ったことでしょう。
またたく間に、メソポタミアに始まった、ビール史上全く新しいタイプのビールが広がっていきました。

 

 

◆プレミアムモルツは世界トップレベル
もともとこの製法は、ドイツから持ち込まれ、ボヘミアンピルスナーを逆輸入したのがドイツピルスナーです。ドイツピルスナーは、現在、大手メーカーのピルスナーのお手本になっています。中でも、日本の大手メーカーのプレミアムモルツは、世界でもトップレベルのピルスナーといっても過言ではないと思います。
ピルスナーウルケルと飲み比べてみると、日本人ならではの旨みを感じます。 ホップの苦味はやや強いのですが、爽やかで軽やかです。麦芽の甘味、芳醇な味わいが感じられるため、苦味も穏やかになります。わずかなダイアセル(バタースコッチキャンディのような香り)もありますが、ほとんど気にならない程度です。そして、絹のような滑らかな喉越しを感じます。
これらの繊細な味わいや喉越しのよさのため、日本のビールのレベルの高さにヨーロッパでは驚きの声が上がっているようです。

◆のど越しと嚥下機能
のど越しの良さを感じられるのは、健康な証拠です。口腔内の食物や飲み物を舌の上に集め、咽頭に送りこむ口腔相。食物や飲み物が咽頭内に入ると、反射的な筋収縮によって鼻、口、耳への逆流が防がれ、声門も閉じて気道に入りこまないようにする咽頭相。同時に喉頭が舌骨に引きつけられるとともに舌骨も前上方に動く。これらのどこが欠けても、嚥下という行動は成り立ちません。
5959の日は、美味しいピルスナー、美味しいお茶や水で、健康に嚥下できることに感謝して、笑顔で乾杯しましょう。
 (早坂美都/広報・ホーム   ページ部員/世田谷区)

きき酒 いい酒 いい酒肴 ⑪ 日本ワイン「甲州」 和食に合う控えめな香り 稀有な個性

 

きき酒 いい酒 いい酒肴 ⑪  日本ワイン「甲州」  和食に合う控えめな香り 稀有な個性

赤紫色をしたブドウ、「甲州」は生食にもワインにもなります。山梨の作り手の努力が実り、2010年に正式にワイン醸造用ブドウとして国際機関OIVに認定されました。醸造の仕方で、大きく四つに分けられます。爽やかなシュールリータイプ、木樽熟成をしたモダンタイプ、苦味を取り込んだグリタイプ、伝統的な甘口タイプがあります。白ブドウとしてはフェノール類、つまり渋み成分を豊富に含んでいるため、独特な味わいになります。和食にはとても合うワインです。
一般的に、白ワインにお刺身や干魚を合わせると、生臭く感じることが多いようです。その原因は、ワイン中に含まれる鉄イオンです。鉄イオンには二種類ありますが、そのうち「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」がその原因物質です。通常、飲料中にはもうひとつの形態「鉄(Ⅲ)イオン(Fe3+)」で残る場合が多いですが、ワインの場合には「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」の方が多いようです。一体、その鉄イオンが何をするのでしょうか? 魚介類にはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)と呼ばれる脂肪酸が存在しています。魚介の過酸化脂質と「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」が反応すると生臭み成分(E・Z)‐2・4‐ヘプタジエナールが瞬時に発生します。つまり、過酸化脂質が含まれる魚介類を食べた後、「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」が存在するワインを口に入れると生臭みが発生して、それが鼻へ到達して臭みと感じるわけです。
醸造過程において、酵母は発酵を終了すると下に沈んでいくのですが、それを「澱」や「リー」と呼んでいます。その酵母をそのままにしておくと、ワイン中の鉄分が少なくなったそうです。

日本ワイン「甲州」IMG_20141009_072235

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ワイン酵母が魚介類の生臭みを消す
その原理を研究したところ、アルコールに浸漬させた酵母を果汁やワインに添加すると、液体中の鉄が酵母の中にからまって澱のように落下することが分かったそうです。この方法は、「シュール・リー」といわれ、甲州ワインの特徴でもあります。渋みやえぐみを生かすグリタイプは、山菜、貝類、川魚など灰汁があるような食材とよく合い、クローブのような穏やかな香りがシンプルな味付を引き立たせます。
ドイツのラインガウでも甲州が栽培され始め、ロンドンではグリド甲州がたいへんな人気ワインとなっているなど、勝沼のワイナリーに行くと、楽しい話題がたくさんです。世界に誇れる日本の甲州ワインを、気軽にご家庭でも楽しまれてはいかがでしょうか。
(早坂美都/広報・ホーム   ページ部員/ 世田谷区)