きき酒いい酒いい酒肴No.25『鯉のぼりを眺めたしなむ「菖蒲酒」の楽しみ』(機関紙2017年5月1日号/No.566号)

きき酒いい酒いい酒肴No.25『鯉のぼりを眺めたしなむ「菖蒲酒」の楽しみ』(機関紙2017年5月1日号/No.566号)

—若葉の香りで清々しい気持にさせてくれる先人の知恵

◆端午の節句
五月晴れの青空に、鯉のぼりがみられる季節になりました。5月5日は端午(たんご)の節句です。古来、午月(うまづき)にあたる5月は凶の月とされていたそうです。そのため、月初めの午の日である「端午」には「菖蒲酒」を飲み、「菖蒲湯」につかり、粽(ちまき)を食べれば、邪気が払われ、疫病が除かれるといわれていました。中国伝来のしきたりで、屋根に菖蒲をかけて蓬でつくった人形(ひとがた)を門戸に飾ることがあります。この慣習は、日本でも普及したそうです。

◆端午の節句の変遷―鎌倉時代
その後、鎌倉時代には、走る馬の上から的を射る「流鏑馬(やぶさめ)」の競技が武士の間で行われるようになります。「菖蒲」が「勝負」「尚武」に通じるということ、そして、菖蒲はその葉形が刀剣に似ているので、邪気を斬り払う力を持つとされていました。子どもたちが地面を打ち合う「菖蒲打」という遊びも現れ、菖蒲の葉を「菖蒲刀」として使います。

◆端午の節句の変遷―室町・江戸時代
室町時代には「兜人形」がつくられ、江戸時代になると、立身出世のシンボルとして「滝登り」をする鯉を布でつくり、その「鯉のぼり」を庭に立て、子どもの健康と出世を祈る祭りへと変身していきました。

◆菖蒲の効果効能
そんな古い時代から習慣があった菖蒲湯や菖蒲酒ですが、単に厄除けとかの意味合いだけでなく、体に与える効能効果にはどんなものがあるでしょうか。
まず、よく使われるのは葉の部分ですが、実は葉よりも根茎部分の方に アザロン、オイゲノールなどの精油成分が多く含まれています。その独特の香りが邪気を払うと信じられ、厄除けとして使われていたようです。漢方では、菖蒲の根茎部分を天日干ししたものを「菖蒲根」といって使います。鎮痛、血行促進、リラックス効果があります。

◆植物学的に見る菖蒲
ショウブ、アヤメ、ハナショウブ、カキツバタ…。これらは外見が似ており間違いやすいのですが、違う品種となります。ショウブ(菖蒲)はショウブ科で、以前はサトイモ科に分類されていました。そして、アヤメ(菖蒲)、ハナショウブ(花菖蒲)、カキツバタ(燕子花、杜若)はいずれもアヤメ科です。漢字で書くとショウブもアヤメも「菖蒲」と書きます。漢字は同じですが、植物学的にはまったく違う品種です。ここが、日本語の不思議で面白いところだと思います。有名な尾形光琳の屏風は、燕子花です。
さて、菖蒲酒の作り方ですが、本来は菖蒲の根茎の部分を刻んで清酒に漬け込みます。しかし、なかなか根茎は手に入りにくいので、お酒に菖蒲の葉を浮かべて飲むだけでも、楽しむことができます。若葉の香りを楽しみ、清々しい気持にさせてくれる先人の知恵を現在の生活の中にも取り入れていきたいものです。


(協会理事/早坂美都)