きき酒 いい酒 いい酒肴

きき酒 いい酒 いい酒肴⑩ロマネ・コンティの隣~グランドリユ

きき酒 いい酒 いい酒肴⑩

ロマネ・コンティの隣~グランドリユ

ロマネ・コンティというワインの名前を聞いたことがあると思います。ばらつきはありますが、一本100万円くらいする高級ワインです。ヴィンテージ(製造年)によっては、もっと高いものもあります。実は、ロマネ・コンティとは、畑の名前なのです。フランスブルゴーニュ地方のコートドニュイ地区にある、ヴォーヌ・ロマネ村のロマネ・コンティという特級畑からとれたブドウのみを使ったワインなのです。
名前は聞いたことあるけれど、飲んだことはない…大部分の方がそうだと思います。個人ではなかなか難しいので、ロマネ・コンティを飲む会を年に1度ほど、時期を決めて開催しているレストランがあります。味見してみたい、という場合は、1人10万~20万円くらいで、ロマネ・コンティとその仲間のようなワイン(ラターシュ、エシェゾー、モンラッシュなど)を7~9種類くらい飲むことができます。
ブルゴーニュのワインというのは、抜栓してから時間とともに、味わいが変わっていくのも特徴ですが、その変化を味わうのは、試飲会ではなかなか難しい。かといって、1人で1本なんて、とてもとても…。と思っていましたが、お隣の畑だったら、なんとか手が届きそうです。ロマネ村の地図を見ると、ロマネ・コンティとラターシュ(ここも特級畑です)に挟まれた「グランドリュ」というブドウ畑があります。ここのワインは、醸造家の名前をとって「ラマルシュ」といいます。ロマネ・コンティとの距離はあぜ道一本、約7mです。それは広大な畑の中のたった7mにすぎず、土地全体はつながっているのだから、そんなに変わらないでしょう、と勝手に思い、ラマルシュを購入し、自宅で開けてみました。
しかし、これは素人の考えで、ブルゴーニュの醸造家アンリ・ジェイエは、グランドリュについて次のように語っています。
…このクリマ(畑、区画)は、小さな道を挟んでロマネ・コンティに隣接している。しかし、この道は偶然に敷かれたものではなく、そこを境として地形学的に大きな違いがある…。

早坂先生3月号写真:ロマネ・コンティIMG_20140330_220919

 

 

 

 

 

 

 

確かに、地層の断面図を見ると、ジュラ紀における粘土石灰岩の表層の出方が違います。
細かいことをいい出すときりがないので、とにかくラマルシュを抜栓しました。抜栓直後、ものすごくいい香りがします。これは期待できる、と一口飲んでみましたが、なんだか、薄い?どうしたのだろう、と思いました。しかし、その40分くらいあと、不思議なことに、香りが変わってきたのです。香りのピークを2時間半の間に2回ほど感じられました。色は明るいガーネットのようで、少し酸味があって、ラズベリーのような芳香、喉こしは滑らかで、あまり渋みがなく…。言葉にするのは難しいですね。妖艶なワインは不思議と、香り、味を時間とともに変えていきました。これがブルゴーニュの魅力なのでしょう。
(早坂美都/通信員/ 世田谷区)

きき酒 いい酒 いい酒肴⑨/江戸の地酒 豊島屋「金婚正宗」「屋守」

きき酒 いい酒 いい酒肴⑨/江戸の地酒 豊島屋「金婚正宗」「屋守」

東京の地酒、というと、何を思い浮かべるでしょうか。

現在、東京都酒造組合には10軒の蔵元が登録しています。その中でもお気に入りが「金婚正宗」「屋守」を代表銘柄とする、東村山市の豊島屋さんです。私が所属している「女唎き酒師軍団」では豊島屋さんにお力を借りて、年に3回「軍団酒」なるものを出荷しています。限定品なので、店頭で見ることはほとんどないかも知れません。先日、豊島屋さんの酒蔵へ、冷おろしの瓶に軍団ラベルを貼る作業に行ってきました。作業のあと、蔵見学させてもらい、モロミ発酵の勢い、蒸しあがったばかりの酒米の奥深い旨みを楽しみました。

豊島屋さんが発祥の江戸文化には、鏡割りや蕎麦と酒の組み合わせがあげられます。

豊島屋さんの歴史の始まりは、関ケ原合戦(1600年)以前にさかのぼります。慶長元年(1596年)初代豊島屋十右衛門は、神田・鎌倉河岸(現在の神田橋付近)に「豊島屋」の屋号で酒屋兼居酒屋を始めました。これが豊島屋本店創業に当たります。時代は豊臣秀吉から徳川家康へと政権が移ったとき。全国から集まった武士や商人、職人たちで江戸が活気を帯び始めた頃です。

結婚式やお祝い事で行われる「鏡開き」もその始まりは豊島屋さんです。当時としては、相当斬新なアイデアだったのではないでしょうか。現在でも「金婚」の名前が入った樽はよく使われます。

また、当時の江戸っ子に人気だった蕎麦に酒を合わせることを勧めたのも豊島屋さんだといいます。蕎麦にふくまれるルチンという物質は有名ですが、良質なたんぱく質とナイアシンも豊富なのです。酒と一緒に楽しむことで、胃壁を守ってくれますし、なにより蕎麦の歯ごたえや歯触りなど物理的要素と酒のもつ旨味が合うのです。豊島屋さんはこのふたつの組み合わせを江戸で最初にすすめたせいなのか、今でも豊島屋さんのお得意先には蕎麦屋さんが多いのです。私のお気に入りの蕎麦屋さんにも、「屋守」が置いてあります。

豊島屋さんのお酒は、「鬼平犯科帳」「銭形平次」など人気時代小説にもさまざまな場面で取り上げられており、江戸文化の一つといってもいいでしょう。そして、「金婚正宗」は、明治神宮や神田明神、日枝神社の御神酒として使用されています。素晴らしいですね。蔵見学も予約すれば快く引き受けてくださいます。酒蔵で映画会なんて企画もあります。

東京の地酒めぐり、というのも、休日の楽しい過ごし方だと思います。

(早坂美都/通信員/世田谷区)

1月号向け写真:「豊島屋」

きき酒 いい酒 いい酒肴⑧/温めて飲むビール リーフマンス グリュークリーク

きき酒 いい酒 いい酒肴⑧/温めて飲むビール リーフマンス グリュークリーク

さわやかな喉越しを楽しむのがビールの醍醐味。けれども、これから徐々に寒くなってくると、あまり冷たいものを飲む気がしなくなってきます。そこで、温かいビールはいかがでしょうか。日本酒は熱燗、ワインはホットワインですが、ビールも温めて飲むことができるのです。

実は、お燗するためのビールというのがあります。多いのはヨーロッパで、その中でも、冬の寒さが厳しいドイツやベルギー、北欧などでは、ホットワインもそうですが、ホットビールを飲んでいるそうです。私が気に入っているのは、ベルギーの甘味と酸味がある冬季限定ビール、ベルギーリーフマンス醸造所の「リーフマンス グリュークリーク」。

◆麦汁の温度調節によって変わる風味

ビールを造る時に、麦汁の温度をあげるのですが、その時に90度、12時間をキープ。 その間にスパイスを投入します。 スパイスはアニス、シナモン、クローヴの3種類です。 その後、スタンダードのクリーク(リーフマンのスタンダードビールの名称)とブレンドされます。わが家では、お燗の時に使う錫のちろりと酒温度計を使って、湯煎で温めています。温度の低い時にはスパイスのシャープな香りが際立っていますが、温度が高くなるにつれスパイスとクリークの香りがバランスよくまとまります。50~60度が最適。甘過ぎの感がなく、心地よい酸味があり、 後味もバランスよく長く続きます。

◆ピルスナータイプはよりまろやかに

そのほか、甘味を感じやすい黒ビールもお勧めです。温めた黒ビールにシナモンスティックを入れると、たちまちクリームのような細やかな泡が立ってきます。また、ごく普通の日本のビールも案外お勧めです。日本のピルスナータイプのビールを温めると、麦茶のような感じです。焼きたてのパンのような香りがするだけではなく、ホップもまるでハーブのように香ってきます。そして、温めることによって、苦味がまろやかになります。ドライなタイプのビールも、軽快に楽しめますし、蜂蜜、黒砂糖などの甘味、柚子、蜜柑、レモンなどの酸味を加えても美味しいです。紅茶に砂糖やレモンを入れるような感覚です。

温める時には、電子レンジですとふきこぼれることもあるので、湯煎もしくは小さい鍋でゆっくりと温度をあげていくのがいいと思います。12月に入りますと、7日は大雪、22日は冬至と、気温が下がる季節となります。ヨーロッパの方たちのように、温かいビール、いかがでしょうか。

(早坂美都/通信員/世田谷区)

12月号向け写真:「温めて飲むビール」IMG_20141005_104229

きき酒 いい酒 いい酒肴⑦/テタンジェ サッカーとジェームズ・ボンドの世界

きき酒 いい酒 いい酒肴⑦/テタンジェ サッカーとジェームズ・ボンドの世界

ジェームズ・ボンドとシャンパンは、切っても切れない関係にあります。

シャンパンとは、フランスのシャンパーニュ地方で造られたスパークリングワインのことをいいます。

「シャンパン」「シャンペン」「シャンパーニュ」…呼び方はどれでも間違いはないのですが、日本では慣習的にお酒のことを「シャンパン」、地方のことを「シャンパーニュ」と呼ぶのが分かりやすいようです。

「From Russia, with love(ロシアより愛をこめて)」(1963年公開/日本での公開は1946年)の前年に日本公開された「Dr.NO(ドクター・ノオ)」におけるシャンパンはドン・ペリニヨン(Dom Perignon)でしたが、「ロシアより愛をこめて」ではテタンジェ(Taittinger)が登場します。テタンジェは、フランス国内はもとより海外においてもシャンパーニュの代表的なブランドとなっています。

フランス大統領の主催する公式レセプションにはテタンジェが用いられ、フランスおよび世界の一流レストランの極上のワインリストにも、必ずテタンジェの名前を目にすることができます。1734年創業のシャンパーニュ・テタンジェ社は、経営するファミリーの名前を社名に掲げる、今日では数少ない家族経営のシャンパーニュ・メゾンです。

◆6月に開催されたFIFAワールドカップ

ブラジル大会。その「公式シャンパン」として選ばれたのが、このテタンジェです。これまでFIFA(国際サッカー連盟)が公式に認めたシャンパンはなく、史上初の栄誉となります。

ホログラムを用いての美しいデザインのテタンジェ。まさにサッカーの試合中の湧きあがってくる高揚感と、シャンパンが演出する華やかさを感じられます。よく冷やしたテタンジェは、晴れた日のブランチに最高です。チーズや木の実、テリーヌなど持って、近所の公園のベンチであけました。

きめ細かな泡立ち。青林檎のような芳香と、心地よい酸味。「007」の世界とサッカーの世界を、一度に味わったような、そんな贅沢な気分にひたれました。

(早坂美都/通信員/世田谷区)

きき酒 いい酒 いい酒肴⑥/「獺祭」 8割近く米を削るお酒  磨き2割3分との出会い

きき酒 いい酒 いい酒肴⑥/「獺祭」 8割近く米を削るお酒  磨き2割3分との出会い

今から10年ほど前。「多摩独酌会」というものに参加しました。地酒の蔵元が集まって、さまざまな銘柄を試飲する会です。

そこで、「どれが大吟醸か」というブラインドテストがありました。5本ほど、銘柄をかくした一升瓶が並んでいます。

その中で、これは!と驚いたお酒がありました。今まで経験したことのない滑らかな口当たり、上品で穏やかな吟醸香、甘み。

獺(かわうそ)に祭と書き「獺祭(だっさい)」と読むお酒です。この頃は、すっかり有名になったので、ご存知の方もいらっしゃるでしょう。山口県の岩国市で造られている地酒です。

◆名前の由来は

カワウソは捕えた魚を岸に並べる習性があり、その姿はお祭りをしているように見えるそうです。また、詩や文をつくる際、多くの参考資料等を広げちらす様子と共通することから、「獺祭」とは書物や資料などを散らかしている様子を意味します。

学者で俳人でもあった、正岡子規は、自らを獺祭書屋主人と号しています。日本文学に革命をもたらしたように、変革と革新の中からより優れた酒を創り出そうという志。そして地元の地名「獺越」にも「獺(カワウソ)」の文字があることから「獺祭」という酒名が付けられたそうです。

◆多様な精米歩合

私が独酌会で飲んだ獺祭は、磨き2割3分といって、山田錦というお酒用の玄米の8割近くを削ったものから造ったものだったのです。その当時、2割3分ときいて「80%近くもお米を削るなんて、罰当たりだ」と思いましたが、削ったものはほかの商品になっています。

このお酒は、最初25%精米の計画だったそうです。六昼夜かかって25%まで精米したあと、急遽23%に変更となり、その最後のたった2%を磨くために24時間かかったそうです。この7日間×24時間、都合168時間という精米時間は今もほとんど変わらないそうですし、仕込んだ山田錦すべてが2割3分として出荷できないそうです。

今では、あちこちのメディアに取り上げられているせいか、手に入りにくくなってきています。わが家の地下収納庫には、出荷時期をみて購入した獺祭のさまざまな種類が眠っています。精米歩合は50%、48%と45%(50%と39%をあわせたもの)、39%、23%とあります。お燗専用の「あたため酒」、シャンパンみたいな「発泡」、おりがうっすら浮いている「寒造早槽」など、どの種類も、なんともいえない心がなごむような上品な旨みがあるのです。

昨年10月、安倍晋三首相によって、ロシアのプーチン大統領の61歳の誕生日に、4月にはオバマ大統領にプレゼントされ、JALのファーストクラスのお客様にも提供されている獺祭。初めて飲んでから、10年たち、ますます美味しさに磨きがかけられて
いるように感じます。常に上を目指していく姿勢を見習わねば、と飲むたびに思います。

(早坂美都/通信員/世田谷区)

早坂先生「獺祭」差替え写真IMG_20140330_215748

きき酒 いい酒 いい酒肴⑤/上面発酵と下面発酵 和食にラガーは合わせにくい?

きき酒 いい酒 いい酒肴⑤/上面発酵と下面発酵 和食にラガーは合わせにくい?

ラガーというのは、大手メーカーのビールの商品名ではありません。「貯蔵する」という意味で、下面発酵ビールのことをいいます。

ビールを作る時に、必ず必要なのがイーストという菌ですが、その活動できる温度帯や副産物によって、味わいが違ってきます。

ラガーイーストは下面発酵酵母で、4~10℃で活動し、発酵が進むにつれて発酵タンクの下に沈んでいきます。エールイーストは上面発酵酵母で、16~21℃の温度帯で活動し、発酵中に表面に浮かび上がってきます。

歴史的にみていくと、紀元前6000年ほど昔、自然に浮遊していた野生酵母を使った上面発酵のほうが先です。下面発酵酵母の発見は15世紀になってからです。

下面発酵酵母のビールをラガーといい、日本のビールの主流になっていますが、実は案外和食に合わ ないのです。

ラガーには硫化化合物が含まれることが多いのです。そして、醤油にはさまざまな旨味成分のひとつに、メチオノール(硫化化合物)があげられます。そして、生魚にもメルカプタンや硫化水素が含まれています。お刺身に醤油とラガービール…。硫黄臭が増強されてしまうのです。

大豆製品も案外、相性がよくありません。ビールに枝豆は定番ですが、青臭く感じたりしやすいです。

「じゃあ、何が合うのですか?」

ということになりますが、エールがぴったりします。エールビールには、副産物として硫化化合物はほとんどありません。わりと手に入りやすいのは、ヒューガルデンというベルジャンホワイトエールです。エールのもつフルーティな香りや乳酸が、醤油のもつ旨味成分とぴったり合ってくるのです。「ラガーと枝豆」よりは「エールと枝豆」がぴったりです。

実は、和食におすすめなのは上面発酵ビール。でも、これも各自の好みなので、和食のときにラガーとエールと、どちらがマッチするか、飲み比べてみるのも楽しいのではないかと思います。

(早坂美都/通信員/世田谷区)

早坂先生:ヒューガルテン写真

きき酒 いい酒 いい酒肴④/バイロイトにて~その②「フランケン地方の赤ワイン/シュペートブルグンダーのこと」

きき酒 いい酒 いい酒肴④/

バイロイトにて~その②「フランケン地方の赤ワイン/シュペートブルグンダーのこと」

バイロイトは、ドイツのバイエルン州オーバーフランケン行政管区の郡独立市です。
◆アイスワインとワーグナーワイン
ドイツのフランケン地方というと、もっぱら白ワインのイメージがあります。この地方は寒冷地なので、「アイスワイン」という寒波で氷結してシャーベット状になったブドウを搾った甘口ワインが有名。そのイメージ通りなのか、劇場のカフェには白ワインは何種類かあっても、赤ワインはありませんでした。
ホテルの近くのワインとチョコレートを売っているお店にいくと、「ワーグナーワイン」なるものが売っていました。見ると中身は赤ワイン。「ワーグナーワイン」は、フランケン地方独特のボックスボイテルという丸くて平たい形のボトルに、ワーグナーの横顔が描かれていました。
ワーグナーワインは、お土産用としても、フランケン地方の普段のワインが飲みたくなって、そのまま地元のスーパーに足を運びました。そこで売っていたのは、750ccあたり1ユーロもしない格安のワインばかり。試しに赤ワインを買ってみました。
フランスブルゴーニュで作られている「ピノ・ノワール」というブドウは、ドイツでは「シュペートブルグンダー」というシノニム(別名)で呼ばれます。ブルゴーニュのワインというと、エレガントでしなやかで官能的。主張が強く、孤高なので、あわせる料理によってはぶつかってしまったりします。
◆ピノ・ノワールのワインの特徴は…
バイロイトで飲んだピノ・ノワールのワインは、完熟した果実味、ミネラル感、華やかなベリー系の香り、何の料理でも合うような、そんなのびやかな味わいでした。
感動したのは、その味もさることながら、価格がミネラルウォーターよりも安いことです。
ワーグナーワインは、ボトルのデザインが好きなので飲まずに飾っていますが、すっかりドイツの赤ワインに魅了されてしまったので、さっそく何本かお取り寄せしました。当然、値段は地元のワインとは違います。ボックスボイテルに入って綺麗なエチケット(ラベル)で飾られた洗練されたシュペートブルグンダーは、ブルゴーニュのピノ・ノワールとはまた違う風格を醸しだしていました。もちろん美味しいのですが、地元で飲んだ赤ワインの自然なのびやかさが懐かしく感じられ、やはりあの味は、その土地に行って飲むしかないのかな、と思いました。

(早坂美都/通信員/世田谷区)

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きき酒 いい酒 いい酒肴③/バイロイトにて~その①「カップ酒」

きき酒 いい酒 いい酒肴③/バイロイトにて~その①「カップ酒」

私は、実はオペラが大好きで、家にいる時間のほとんどはクラシカジャパンというクラシック専門チャンネルをつけっぱなしにしています。
そんな私の休日の一番の楽しみは、劇場でのオペラ観劇。そして、幕間のために、カップ酒を持っていくのです。幕間に、シャンパンやワイン片手に談笑しているお洒落な方たちの間で、カップ酒を楽しむのが好きなのです。
リヒャルト・ワーグナー生誕二百年の昨年。思い切ってドイツのバイロイト歌劇場に行ってきました。ここは、ワーグナーを崇拝するいわゆる「ワグネリアン」の集まるところ。タキシードや、ロングドレスの素敵な方たちにまざって、私も単衣の和服を着ていきました。
バイロイトは小さな町です。ミュンヘンから飛行機でニュルンベルグへ。そこからさらにバスで一時間。真夏の日本と違って、湿気が少なくからっとしています。
上演日は、とても華やかな雰囲気になりますが、休演日は、静かな公園の一角となっています。
休演日、ホテルから歌劇場まで、散歩してみました。ワーグナーが愛したこの土地。短い夏の一時を楽しむように、ゆったりと時間を過ごす人たち。
早坂先生:カップ酒雪中梅300pixDSCN6741
◆オペラの聖地で新潟小千谷の吟醸純米
ここで新潟小千谷の吟醸純米酒「越の寒中梅」をあけました。小千谷の銘酒「長者盛」を醸している新潟銘醸株式会社から出ているお酒です。厳冬期にゆっくりと低温で発酵させたため、豊かな味わいと軽快さを楽しむことができます。バイロイトの爽やかな空気の中で上越の高い山々を水源とする伏流水からできた「越の寒中梅」は、身体の中にすっとなじんでいきました。
有名な小千谷の錦鯉の飼育にも使われているその伏流水は、有機物が少なく、無色無臭でミネラルの少ない軟水であり、酵母の発酵を促進する成分が適度に含まれています。仕込み水に用いると醪(モロミ)がおだやかに発酵し、淡麗な酒質となり、柔らかくなめらかな酒に仕上がるのです。
流れるように雄大なワーグナーの楽曲。素直な吟醸酒。ワインももちろんいいですが、観劇にカップ酒も、なかなかいいですよ。
 (早坂美都/世田谷区)

きき酒 いい酒 いい酒肴②/「失楽園」とシャトーマルゴー

きき酒 いい酒 いい酒肴②/「失楽園」とシャトーマルゴー  

渡辺淳一先生の「失楽園」はドラマ化、映画化、流行語大賞も受賞するなど、一時は社会現象にまでなりました。

 

 …あらかじめ材料を用意していたらしく、茸とベーコンにサラダに、鴨とクレソンの小鍋をあたためて食卓テーブルに並べる…

 

危険な情事の2人の主人公は、このあと、高級ワイン「シャトーマルゴー」の中に青酸カリをいれて心中するのです。

◆ブドウはカベルネソーヴィニョン

シャトーマルゴーとは、フランスボルドー地方のワインです。ここは、きらびやかな高級ワインを産出するシャトーが目白押し。それら「ワインの貴婦人」を生み出すブドウがカベルネソーヴィニョンです。小粒で黒味を帯びた厚く硬い種皮。

フランスだけではなく、カリフォルニア、オーストラリア、チリ、南アフリカでも栽培されており、いかにも「赤ワイン」らしいフレーバーを作り出すことができるのです。

「失楽園」に登場する鴨とクレソンの鍋には、レシピは書いていません。イメージだけで自宅で作ってみました。赤ワインをたっぷり鍋に入れ、市販の「白だし」を少々。鴨とクレソンだけでは寂しいので、焼いた長ネギを入れてみました。シャトーマルゴーは、さすがに高いので、手ごろな値段のボルドーを合わせてみました。

早坂先生ワインボトル写真

ほどよく脂がのった鴨には、さっと熱を加えただけのクレソンがよく合います。そして、カベルネソーヴィニョンのもつ強いタンニン、カシスに似た香り、かすかなメントールの香りがほどよく感じられ、爽快感を与えてくれます。

 「失楽園鍋」は、当院に勤務する衛生士のふたりにも食べてもらいました。「美味しくて、元気が出ますね!」のお褒めの言葉。あれ?元気がでるのなら、この鍋を食べて心中しようとは思わないかも…?

  (早坂美都/通信員/世田谷区)

 

 

 

 

きき酒 いい酒 いい酒肴① 「とりあえずビール」からの卒業/自然発酵ビール“ランビック”

きき酒 いい酒 いい酒肴①

「とりあえずビール」からの卒業/自然発酵ビール“ランビック”

 

1日の診療が終わったあとの1杯…というと、やはり「とりあえずビール」ということになることがほとんどです。お酒を飲む日本人で、ここ何年もビールを飲んだことがない、という人はいないくらい、「最初の1杯」に定着しているのがビールかと思います。

ビールとは、何でしょう?簡単にいうと、麦からできる醸造酒。これが基本で、そこにホップ、イースト、水などが加えられていくのです。

きき酒師、ワインソムリエと、趣味で公認資格をとった私のところに「もっと知識を深めるため“ビアアドバイザー”の勉強はいかがですか」というお誘いがきたので、正直、あまり興味がなかったのですが、せっかくの機会なので、1日だけの講義とテイスティングに出席してみました。

ビールの起源は、メソポタミア文明のころにさかのぼります。そんな話を朝からほとんど休憩なしで聞き、午後からテイスティング。20種類ほどのビールが並べられ、まず驚いたのはその豊富な色と香り。最初にテイスティングして、「すっぱい!臭い!」強烈なインパクト。それが、野生酵母による自然発酵ビール〝ランビック〟との出会いでした。ベルギーのブリュッセルで作られたものだけに「ランビック」の呼称が認められています。意図的に古いホップを使っているそうで、チーズくさくて、酸っぱくて濁っていてカビのような埃のような香りすらします。日本のきれいなビールとはかけ離れていますが、はまると大変。とりつかれてしまう魅力があります。このビールに合うのは「ムール貝のランビック蒸し」。ムール貝には白ワインが定番だと思っていましたが、ビールで蒸されたムール貝は、磯の香りがたまらなく、同郷の酸っぱいビールによく合うのです。

かくして、猛勉強?の甲斐もあり、無事、ビアアドバイザーの試験に通り、私はお酒の資格三冠を達成しました。家の中は、地下収納庫に入りきれなくなった日本酒、ワイン、ビールが溢れかえる悲惨な状況になり、業務用ワインセラーを購入することになってしまいました。

ランビック写真350pix

(早坂美都/通信員/世田谷区)