理事会声明

声明 政府は健康保険証廃止法案を撤回し、健康保険証の継続を

 政府は3月7日、健康保険証を廃止して、マイナンバーカードと健康保険証を一体化(以下、マイナ保険証)するとしたマイナンバー法など関連法改正案を閣議決定し、本日、4月14日の第211回通常国会に提出した。2023年4月から医療機関にオンライン資格確認システムの導入を義務化し、2024年秋には健康保険証を廃止するとしている。デジタル改革の推進のもとに行われているマイナンバー法やオンライン資格確認システム導入の義務化、現行の健康保険証の廃止は、取得が任意であるはずのマイナンバーカードを事実上義務化させることになり、選択の自由と国民皆保険制度を壊しかねない問題である。

 そもそも、国民皆保険制度は、「いつでも」、「どこでも」、「誰でも」、日本国内で等しく医療が受けられるものである。健康保険証を廃止し、マイナ保険証を取得しない国民は、「資格確認書」を申請しなければ、公的医療が受けられなくなる。さらにマイナ保険証で資格確認ができない場合に患者の窓口負担金が増加することも公的医療の平等性から問題である。

 昨年11月に全国保険医団体連合会が実施したオンライン資格確認システムに対する調査(回答:8,707件)では、「有効な保険証でも『無効』と表示された(62%)」、「カードリーダーの不具合があった『41%』」など、システムトラブルが多く発生している。システムトラブルにより資格確認ができない場合に、健康保険証の提示がないと、患者には窓口負担金を一時的に10割で支払いをしてもらうことになるなど、患者も不利益を被っている。また、全国世論調査(読売新聞社2022年11月4日~6日)では、2024年秋に健康保険証を原則としてマイナンバーカードに一本化する政府の方針について、「賛成」44%、「反対」49%と意見が分かれている。

 国民、医療現場での理解が十分に得られないまま、健康保険証を廃止することはやめるべきだ。国の責務として国民の声を受け止め、健康保険証廃止法案の撤回を求める。

 

2023年4月14

東京歯科保険医協会 理事会

 

20230414理事会声明(健康保険証廃止法案を撤回し、健康保険証の継続を)

談話 「防衛費ではなく医療・社会保障を充実させ平和な日本を」

12月5日岸田首相は、防衛費を5年間で総額43兆円とするよう指示しました。現行の防衛費予算を倍にしようというもので、相手国のミサイル発射拠点をたたく反撃能力の整備などにあてるとしています。専守防衛を国是としてきた日本が、相手国を射程範囲に含める戦力を保持するということは、相手国に脅威を与え、ひいては果てしない軍拡競争に突入してしまう恐れがあります。

防衛費増額の財源は、歳出改革、剰余金や税外収入の活用、税制措置などを挙げています。実際に政府の有識者会議では財源の一つに国立病院機構と地域医療機能推進機構の積立金合わせて約1,500億円の早期返納を挙げています。歳出の削減では医療費や社会保障関連費用が狙われています。自民党幹部からは「社会保障の水準を切り下げも議論」という意見も出ています。首相も2027年度約1兆円強の増税を示しました。東日本大震災からの復興予算にあてるため、所得税に上乗せされている「復興特別所得税」の一部を活用する案も出ています。

世界銀行が公表したデータによれば、2022年9月現在の合計特殊出生率世界ランキングで日本は187カ国中174位です。このままでは少子化で日本が亡びてしまいます。内閣府の子育て予算国際比較(対GDP比)ではスウェーデン2.9%、フランス2.8%、イギリス2.2%、ドイツ1.9%、日本0.6%となっています。防衛費を増やすより、少子化対策や医療・社会保障の改善が急務です。今が岐路の時です。私たちの医療や社会保障を守る運動は本当の意味で「国を守る」ことにつながっていくのです。

東京歯科保険医協会は命と健康を守る医療人としての立場から、あらゆる戦争に反対します。引き続き、憲法を守り、社会保障の充実、平和な日本を目指す活動を行っていきます。

 

2022年1214

東京歯科保険医協会

反核平和担当理事 矢野 正明

談話 健康保険証の廃止は今後大きな禍根と問題を生じさせる

政府は2024年秋に、健康保険証を廃止してマイナンバーカードと一本化するとの方針を発表した。確かに、国民全てが所持している健康保健証を一本化すれば、一気にマイナンバーカードを普及させることができるであろう。

歯科保険医の中でもその評価は分かれている。時代の流れであるとして賛成する意見が散見される一方、今の健康保険証には問題が無く廃止する意味が解らないなど様々である。

しかし、健康保険証は、医療機関の窓口で提示をすれば、いつでも、どこでも、だれもが、日本国内で等しく医療が受けられる大切なものとして広く国民に定着している。これをマイナンバー普及の手段として利用し、いきなり廃止するということは、国民の命と健康の維持に重大な影響を与えることになる。国はその重要性を認識するべきだ。

そもそもマイナンバーカードは普及が進んでいない。その背景には、政府に個人情報管理を委ねることに対する不信感がある。2024年秋までに全国民に取得させるのは、時間的にもあまりにも無理な計画である。

河野デジタル大臣は1013日に記者会見でマイナンバーカード未取得者への医療提供を問われ「広報する」と回答した。その後1028日には岸田首相が「新たな制度を用意する」と方針を変更した。しかし、新生児の健康保険証発行の問題、要介護者がマイナンバーカードを取得できるのかなど、これから検討する課題も多く、まずは試験運用を行い、多くの問題を解消してもらいたい。

国民の医療を受ける権利を保証する健康保険証を拙速に廃止してマイナンバーカード取得を実質義務化のために一本化する政府方針は、今後に大きな禍根と問題を生じさせることは明らかである。我々医療人はこの問題を注視して行く必要があり、健康保険証廃止には反対である。

 

20221028

東京歯科保険医協会 

政策委員長 松島良次

理事会声明 オンライン資格確認システム導入の義務化撤回を

 中医協総会で、医療等におけるオンライン資格確認システム導入が、20234月から原則義務化される方針案が了承され、厚生労働大臣に答申された。

 この義務化は、療養担当規則において紙レセプト請求以外の医療機関にオンライン資格確認システムの体制整備を義務付けるとともに、診療報酬の変更、補助金の内容を見直して体制整備を強制する内容である。

 システム導入普及率の遅れを取り戻すべく政府・行政は、「電子的保健医療情報活用加算」から「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」に10月から再編するなど、医療機関から提供する医療サービスへの対価であるべき診療報酬の在り方を歪めた。

 現在、全医療機関における運用段階に至った割合は現状26%、医科診療所では17.5%、歯科診療所では18.1%である。20233月末までに義務化となれば、その導入準備は困難を極める。

 オンライン資格確認システムを導入した医療機関からは、システムの不安定さや情報漏洩のリスク、院内ネットワークの障害、患者への窓口対応、医療機関での導入コスト、ランニングコストの問題も指摘されるなど、問題点は残されたままだ。

 ほかにも訪問診療や生活保護の患者さんへの対応もできておらず、システム改善が行われない状況では、導入を義務化すべきではないという意見が上がっている。

 政府・行政は場当たり的な施策によって医療機関、また国民に負担を強いるのではなく、コロナ禍で疲弊した医療機関等の立て直しに向けて施策すべきだ。医療機関と国民に疑念を抱かせたことに猛省を促したい。オンライン資格確認システム導入の義務化の撤回を求める。

2022年98

東京歯科保険医協会

10回理事会

理事会声明 オンライン資格確認システムの導入“義務化”に反対する

 マイナンバーカードを利用したオンライン資格確認システムの運用を開始した医科・歯科医療機関及び保険薬局数は2022年5月22日時点で44,284機関、参加率は19.3%となっている。そのうち、全国の歯科医療機関数は9,263機関、同13.1%、東京の歯科医療機関数は903機関、同8.4%にとどまっている。協会には実際に導入している歯科医療機関からオンライン資格確認システムの利用者は月1~2人の利用者しかいないという声も寄せられている。

 導入した医療機関には毎月のランニングコストの負担や受付の患者対応などの負担がかかる。そのため、診療報酬改定で、電子的保健医療情報活用加算が新設された。

 しかし、政府は患者負担が増えることが報道されると、同加算の廃止を早々と打ち出した。加算が廃止されればオンライン資格確認システムのランニングコストなどは完全に医療機関側が負担することとなる。また、診療報酬の諮問機関である中医協を飛び越えて、政府が方針を打ち出すのはいかがなものだろうか。

 また、患者負担があるため、オンライン資格確認システムの利用者が少ないという声もあるが、そもそもマイナンバーカードの全国普及率は5月1日時点で44.0%であり、東京では47.8%である。健康保険証利用登録が済んでいるのは全人口でわずか7%未満に過ぎない。いったい、マイナンバーカードを健康保険証として持ち歩く国民がどの程度いるだろうか。

 現行システムでは、資格確認以外の薬剤情報や特定健診記録などの医療情報へアクセスするためにはマイナポータルでの登録が必要である。マイナポータルの利用規約にはすべてのトラブルについて「自己責任」での解決をすることが定められており、全ての責任を利用者に押し付ける内容となっている。医療機関にあるオンライン資格確認システムのカードリーダーはその場で健康保険証とマイナンバーカードの紐づけができるため、医療機関で紐づけを行えば、医療機関側がマイナポータルの利用規約への同意を促してしまうことになる。また、一旦紐づけが完了してしまえば取り消すことはできないため、取り消しを希望する患者さんとの間で新たなトラブルともなりかねない。

 さらに、昨今の半導体不足の影響で、オンライン資格確認システムに使用する機器なども不足しており、導入まで半年以上待たされているという医療機関も存在する。半導体の世界的需要の高まりやウクライナ情勢の影響で、物資供給が不安定な中で優先的に導入を進めていくべきものなのかは甚だ疑問である。

 オンライン資格確認システムの最大のメリットは健康保険の資格確認がその場でできることとされてきたが、2021年10月より支払い側で資格喪失後のレセプトの振替などの作業を行っており、返戻は減りつつあるため歯科での導入のメリットは少ない。導入を義務化すれば、必要のない新たな負担を強いられるなどのデメリットが大きくなる。

 コロナ禍で経済的に打撃を受けている医療機関に対し、マイナンバーカードの普及率の低さを解消するため、オンライン資格確認システムの導入を“義務化”し、負担を強いることが今求められていることなのか。マイナンバーカードの普及については、政府が正しく運用するのであれば、新型コロナウイルスに係る給付金などに活用をすることができることなどから、推進をしていく必要性もあると思われるが、現状ではさまざまな点で不安が払しょくできない。そもそも医療をマイナンバーカード普及の出しに使うことについて、国民に理解を得られているとは到底考えられない。

以上よりオンライン資格確認システムの導入“義務化”に反対する。

2022年6月9日

東京歯科保険医協会 第5回理事会

理事会声明「プラス改定を感じられない」

全体でみればプラスにならない

 今次改定では、かかりつけ歯科医機能、訪問診療及び医科歯科連携の拡充が行われ、わずかだが基礎的技術料が引き上げられた。しかし、歯科の改定率は+0.29%と近年まれにみる低い改定率となっており、初・再診料を引き上げるために日常診療の点数が犠牲になるなど、点数の付け替えが行われた。

 「一物二価」との批判のあった歯周病安定期治療の() ()が統合されたが、これまで歯周病安定期の治療に真摯に取り組んできた歯科医院の努力を置き去りにした改定の手法には納得がいかない。

 長期化する新型コロナウイルス感染症により、治療の中断あるいは受診を手控える状況が頻繁に起きている。その結果、徐々に患者が減少し、医院経営をあきらめざるを得ない会員も出ている。

 今次改定は、感染対策によりコストがかかる歯科医院経営からみて、不十分と言わざるを得ない改定である。

金銀パラジウム合金の原価割れが解消されていない

 金銀パラジウム合金(以下、金パラ)の原価割れの解消を求めて、協会は改善を求める署名を厚生労働省に提出した。今次改定では乖離幅に係らず3か月ごとに歯科用貴金属価格が改定されるほか、その元となる素材価格の参照時期のタイムラグが改定の3ヶ月前から2ヶ月前までに短縮される。タイムラグの短縮により市場価格との乖離は多少改善されるが、会員が求めていたのは原価割れが生じない仕組みである。

 今次改定で償還価格が1g当たり3,149円に引き上げられるが、ロシアによるウクライナ侵攻などによって特にパラジウムが高騰し、医療機関での金パラの購入額はこれを超えて赤字のままである。改定があっても赤字が解消されない異常事態だ。

 厚生労働省は、今次改定の附帯意見の中に、随時改定の見直し後の影響を検討することを盛り込まなかった。消極的である。まずは、7月の随時改定を待つことなく、早急な対応を図る必要がある。

 金パラの高騰で患者負担も増えるため、国が責任をもって金パラの配給を行うなどの対策を講ずるべきである。今次改定でレジン前装チタン冠が導入されたが、製作は鋳造に限られているため、鋳造欠陥が発生しやすい。粗悪な補綴物を提供できないため歯科技工士を悩ませている。また、チタンによるブリッジは保険適用外であり、レアメタルを含む金パラを使用することは、心も懐にも痛みを感じる。

 CAD/CAMインレーの導入も金パラの代替としての評価はするものの、金パラに比べ耐久性が劣る。再製作となればその分医療費が増えることや患者の信頼を損なうことに繋がる。

医科歯科連携や訪問診療の推進が小幅

 医科歯科連携では、総合医療管理加算の施設基準の廃止及び対象疾病にHIVを追加、ならびに医科が歯科に訪問診療を依頼する際の診療情報提供料()の加算の対象拡大などが行われた。しかしながら、総合医療管理加算の対象疾病の追加は1疾病のみ、さらに周術期等口腔機能管理料に関する推進策がないなど、改善は小幅である。

 訪問診療では、在宅療養支援歯科診療所2の施設基準の要件が引き下げられたが、訪問診療に取り組む医療機関を推進する策は示されていない。

総枠拡大をしなければ、歯科の展望は開けない

 今次改定で歯科改定率が0.29%と低値であったが、重要項目に十分な評価がされなかった。歯科が国民に果たす役割を発揮させるためには、相応の財源を確保した上で、評価の充実を行う必要がある。

 本声明は、歯科の低い改定率で不十分な評価がされていない問題を指摘し、根本的な問題である歯科医療費の総枠拡大を求めるものである。

 

2022年310

22回理事会

決議

 2022年度歯科診療報酬の歯科改定率は、僅か0.29%の引き上げに留まった。改定財源の確保のため、歯周基本治療処置、SPTⅡなどの点数の廃止ならびに点数の付け替えが行われた。今次改定では、院内感染防止対策をさらに推進するための初・再診料及び抜髄などの基礎的技術料の引き上げなど、個々では改善が図られているが、全体でみればとてもプラスを実感できる内容ではない。

 また、金銀パラジウム合金(金パラ)の原価割れの解消を目指し、歯科用貴金属価格の随時改定の仕組みが変更されるが、市場価格と保険償還価格の差額が発生するという根本的な問題は全く解消されていない。この不十分な対策をあざ笑うかのように、ロシアのウクライナ侵攻を起因としたパラジウムの著しい高騰を受け、既に多くの医療機関で原価割れに陥っている。適切な医療を提供するために公的資金を導入してでも価格の安定を図るべきである。

 一方、患者の受診状況は、コロナ禍も加わり、経済的な理由による治療の中断あるいは受診を手控える状況が多数起こっている。こうした状況の中、政府は今年10月から「75歳以上の医療費窓口負担2割化」を実施しようとしている。

 私たちは、診療報酬の引き上げとともに、患者負担増の中止及び患者窓口負担の軽減を求め、以下の事項を要望する。

一、歯科医療費の総枠拡大を行い、安心安全な医療を提供できるよう診療報酬を改善すること

① 歯科保険医の診療対価としての基礎的技術料を更に引き上げること

② 診療報酬の複雑すぎるルールを是正すること

 

一、金銀パラジウム合金の原価割れを公的資金導入により解消すること

 

一、「75歳以上の窓口負担2割化」の方針を撤回し、患者窓口負担を軽減すること

2022年3月 東京歯科保険医協会 新点数説明会

参加者一同

談話 都内全域への「子ども医療費助成制度」の拡充を求める

 この度、東京都が「子ども医療費助成制度」の対象を所得制限付きで中学3年生から高校3年生までに拡大すると発表した。協会はこれまで保険で安心してきちんとした診療を受けられるようにという目的と、急速に超高齢社会が進む日本において、将来を担う子ども達を健全に成長させることは社会が果たすべき責任であるという理由から10年以上にわたり東京都へ子ども医療費助成制度の拡大を要望し続けてきた。この度我々の想いがついに実った。

 全国保険医団体連合会が2020年に全国的に実施した「学校健診後治療調査」でも、健診後に「要受診」と判断された生徒の未受診率が全診療科で特に高校生において顕著に表れた。大半の市区町村が、15歳の年度末までを医療費助成の対象としており、対象外である高校生において、受診抑制が生じていることがこの結果からうかがえる。

 この対象年齢の拡大は、「高校生の未受診率」の減少や「高校生になると一部負担金が3割になることから、中学生のうちに治療を終わらせるように案内を出しているという」現場の意見の解消にも繋がり、大いに評価できるものである。

 そのような前進がある一方で、多摩地区の多くの市・町では、子どもの一部負担金が1回の外来受診について200円を負担しなければならない問題は、いまだに解決されていない。

 2017年に当協会が実施した「学校歯科治療調査」では、学校歯科健診で「要受診」と診断された後の歯科医院の受診率は、一部負担金の有無により、大きな差が表れている。また、一部負担金が課せられている地域の養護教諭からは、「要受診」と学校で診断されても、「一部負担金があることで受診勧奨をしにくい」等の声も多く挙がっていた。

 協会は、居住地によって子どもが必要な医療を受けられないような医療費助成制度ではなく、すべての子どもたちがいつでも安心して必要な医療を受けられるよう、今後も一部負担金の廃止を求めていく。

2022年3月10日

東京歯科保険医協会

地域医療部長 横山靖弘

声明 ロシアのウクライナ侵略を断固非難する

 ロシアのプーチン大統領は、2月24日、ウクライナ各地へロシア軍を侵入させて攻撃を開始した。主権国家に対する武力による侵略は国連憲章、国際法を踏みにじる行為であり、いかなる理由であれ許されるものではない。

私たちは、罪もなき一般市民を殺傷し、いわれの無い理屈で一方的に戦争を仕掛けたプーチン大統領を断固非難する。ロシア軍は即刻、軍事行動を中止し、ウクライナから撤退すべきである。

私たちは、国民の命と健康を守る団体、唯一の被爆国として、人の命を奪う戦争や核兵器使用で世界の諸国を威嚇するいかなる行動にも断固として反対する。

2022 年 3 月 4 日

東京歯科保険医協会 理事会

 

声明「ロシアのウクライナ侵略を非難する」PDF

談話 大多数の保険医はがっかりしている

中央社会保険医療協議会(中医協)総会は2月9日、2022年度診療報酬改定案について、厚生労働副大臣に答申を行った。改定案の中身を見て多くの保険医は、肩を落とした。

コロナ禍でリスクの高い場所だと敬遠され、赤字収支となった企業はたくさんあり歯科医院も例外ではない。多くの歯科医療機関の収入の中心は保険診療である。保険診療は算定ルールが定められているため、個人の努力では打開策や診療体制の充実も図れない。2年に1度の診療報酬改定だけが是正のチャンスであり、コロナの影響をはねのけるような改定を期待していた。

先般、厚労省に寄せられたパブリックコメント数では、歯科医師からの意見が49.4%と半数を占めた。これをみても保険医の診療報酬に対する不満の大きさが現れている。しかし、改定率がプラス0.29%に留まり前回(プラス0.59%)の約半分となっていることも影響しているが、改定内容に対する工夫が乏しすぎる。

新興感染症に対する対策の研修を行った歯科医療機関に対して初・再診料にプラス3点となったが、歯周基本治療処置10点が廃止になったためトータルでは実質減点となる。 また、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所におけるSPT算定時の加算がプラス120点しかなく大幅なダウンとなる。これでは、施設基準を辞退する歯科医療機関が増える恐れもある。 口腔機能管理の対象範囲の拡大を行ったが、一番必要だと思われる対象年齢での算定率をみても、増える気配は全く感じられない。外来でのフレイル予防が進まなければ、施設や在宅での口腔機能低下は悪化の一途を辿るであろう。口腔機能管理料は、対象年齢の範囲を広げることで推進を図るのではなく、管理料を算定しやすくするべきではないだろうか。

そして、総合医療管理加算に至っては、HIV感染症の患者さんだけを対象患者に追加したが、もっと総合的医療管理が必要な患者はたくさんいる。総合医療管理加算の対象疾患を患者・国民のため、HIV感染症だけでなく広く認めるべきで、この項目が医科歯科連携の突破口のはずなのに周術期の口腔管理とともに算定率は伸び悩むであろう。 ただ、財源が少ない中、根管治療等の基礎的技術料に僅かながら加点して戴いたことは評価したい。

2025年には4人に1人が75歳以上となり、在宅医療のニーズが大幅に上昇するだろうと言われ、その備えとなる地域包括ケアの確立は急務だ。しかし、在宅訪問診療や医科歯科連携の推進も今次改定の内容では期待できない。中医協のメンバーや厚労省の担当者は、もっと現場に降りてきて保険医の苦悩を見てほしい。歯科診療現場の実態、臨床の場に立つ保険医の声に合致した診療報酬にするため、机上の空論ではなく実態に即したより一層の創意工夫を熱望する。

2022年225

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

会長年頭所感/2022年1月1日

2017年6月の総会の日に会長を拝命し、5回目の年頭所感として、新年のご挨拶をさせていただきます。日頃、会員の先生方には本会会務に対してご理解とご協力をいただき、心から感謝申し上げます。

4年前の年頭所感で本会会員数5277名とご報告し、その後2018年度診療報酬改定での施設基準の要件などを背景として、3年前は前年比431名増の会員数5708名、一昨年は5815名、昨年は5900名、今年は5937名(12月1日付)と、本会会員数は順調に増加しております。この会員増の一因には、既会員の先生方からの多くのご紹介があり、この場をお借りしまして先生方のご協力に厚く御礼申し上げます。

2021年は、2020年初頭から続いた新型コロナウイルス感染症への対応に追われた年といえます。この約2年間、多くの歯科医療機関は新型コロナウイルス感染症に対応しながら、歯科医療に従事されたと存じます。第5波は、9月上旬に新規感染者数の減少があり、その後ピークアウトしたとされました。しかし、本稿執筆時(2021年1219日)には、海外から入国された方から新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染者が複数確認され、水際対策として濃厚接触者とみなされる人が増加し、待機宿泊施設が足りないとのニュースさえ流れています。

日本では、冬場、年末年始の人の移動などを理由に、第6波の発生が心配されています。その対策のため、希望される方への3回目のワクチン接種が進められ、すでに2021年4月に優先接種した医療従事者の3回目のワクチン接種が12月から始まっています。今後、新型コロナウイルスの感染が早期に収束へと向かい、人類にとって脅威とならない感染症になることを心から願っています。

協会の大きな事業の一つとして、2年ごとに実施される診療報酬改定に対する「新点数説明会」があります。2020年度診療報酬改定時には急遽、集合型を中止し、動画配信に切り替え、改定内容の周知に努めました。この対応は、簡単なことではなかったですが、結果的に大きな混乱とならず、会員の先生方に感謝しております。

現在、本年4月の診療報酬改定に向けて、「新点数説明会」の準備を鋭意進めています。可能であれば、4年前のように集合型で「新点数説明会」を開催したいところですが、コロナ禍の状況が読めないため、ハイブリッド開催、動画配信など、全方向で検討を行っています。会員の先生方には、ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会の目的は、「歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上を図ること」です。その目的を達成するために、会員の先生方とともに役員、部員、事務局員は会務を行っています。コロナ禍により、理事会や部会をWEB開催、研究会などもハイブリッド形式などで対応して、ネット環境やデジタル化が急速に進みました。今後も様々な情報を適時、詳細に、デンタルブックメールニュース、協会ホームページ、FAX、機関紙などで発信していきます。特に、スピードが必要な情報発信では、デンタルブック登録者へのメール配信が大変有効なツールです。今後、さらに多くの会員にデンタルブックの登録を済ませ、様々な情報を入手していただくことを望んでいます。

今年も会員の先生方の訴えや要望などを各方面に届け、改善を図ることを協会活動の大きな柱と考えて積極的に行っていきます。会員の皆様のご支援、ご協力を賜りますよう、何卒、よろしくお願い申し上げまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

 

 2022年1月1日

東京歯科保険医協会会長

坪田 有史

談話 医療提供体制を立て直し、国民へ良質な医療を提供できる社会政策への転換を

2022年度診療報酬の改定率が、診療報酬本体はプラス0.43%(国費約300億円)とされた。前回の2020年度診療報酬の改定率はプラス0.55%で、前回より低い水準の引き上げとなっている。わずかな引き上げに加え、政策的配分が行われてきた結果、医療従事者の処遇改善、およびコロナ対応で疲弊した医療提供体制を立て直すには程遠い診療報酬改定となった。

 

―歯科は0.29%

歯科においては、わずか0.29%のプラス改定に止まった。このような改定率は歯科の現状を見ていないばかりか、歯科軽視の結果である。第23回医療経済実態調査では、歯科診療所(個人)の損益率は、前年度に比べマイナス1.2%で、コロナ補助金を加えても、医業収益の落ち込みは明らかである。歯科材料費は前年度より6.8%増加し、衛生材料をはじめ院内感染防止対策に関わる資材、金銀パラジウム合金などの高騰が医院経営の重荷となっている。

コロナに対して歯科は、標準予防策を遂行し、感染拡大を抑えるなど国民の健康に貢献してきた。しかし、飛沫による感染リスクが高い職種だと言われ、医療従事者の離職や患者離れが発生した。患者減は未だに改善できず、閉院に追い込まれた歯科医療機関も出るなど、深刻な状況が続いている。

 

―社会保障費の自然増を定量的に抑制

財務省は、国のコロナ補助金投入の影響で「経営実態は近年になく好調」と主張してきた。だが、実態は経費が増加し医業収益が減少したため、経営状況は厳しい。これは医療経済実態調査に現れている。にもかかわらず、補助金投入で「好調」だとする財務省は、医療に対する意識が乏しいだけでなく、実態に目を背けていると言わざるを得ない。

また、社会保障費については、精緻化・適正化のもとに、定量的に抑制をしてきた。今回改定においても、国費を約1300億円削減し、概算要求で示された社会保障費の自然増約6600億円を約4400億円程度に抑えようとしている。国民の福祉を忘れた財源ありきの政策により、国民のいのちが危機にさらされている。

 

―「国家の福祉」とは国民の生活の安定を図ること

国家が目指すべき福祉とは、社会保障制度の整備を通じて国民の生活の安定を図ることだ。このまま社会保障費の抑制政策と削減が続けば、医療提供体制はおろか、地域医療体制、国民のいのちと健康は守れない。

歯科はこれまで8020達成や、高齢者への口腔ケアを重視してきた。その結果、高齢者の入院リスクを減少させるなど、総医療費の削減にも貢献をしてきた。今後、高齢者の増加に従い健康寿命の延伸が重要となるが、歯科はこの点において大きな役割を担うことが明らかになっている。歯科が重視される医療提供体制を構築するためには、まずは実態に即した診療報酬の引き上げが必要不可欠である。

今後、議論は財源の配分に移っていく。今回の改定率では、歯科の窮状は改善を望めないが、医療技術評価分科会で日本歯科医学会から提案された76項目の新規技術導入と、重症化予防の推進について、適切に評価されることを強く望みたい。医療提供体制を立て直し、国民へ良質な医療を提供できる社会政策への転換を改めて強く求める。

2021年1223

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

談話 医療経済実態調査の適正な実施と診療報酬の引き上げを求める

20211124日に発出された『第23回医療経済実態調査』はコロナ禍での調査となっており、今回の調査では新型コロナ関連の補助金を除いた医業収益まで調査をしている。

医療経済実態調査に関しては、以前より、恣意的な調査であることが問題となっている。歯科医療機関全体の調査結果では調査施設数が298機関、平均医業収益が約7,300万円となっており、保険診療を中心とした大多数の開業医の経済実態を対象としているとは到底考えられない。また、東京23区に限れば、歯科医療機関数約10,600機関中、調査施設数は27機関(約0.3%)、平均医業収益が約6,000万円となっている。適正な調査を行うためにはサンプル数を増やして実施することを検討すべきではないだろうか。

以上を踏まえたうえで、今回の調査結果では、東京の歯科診療所は新型コロナ関連の補助金を含めても、医業収益の伸び率は-2.2%となっており、医業経費の伸び率が-1.1%となっている。恣意的にも思える調査結果であっても、医業収益はマイナスとなっており、患者の受診抑制による、診療収益の減少をこれまで以上の経費削減をすることで何とか持ちこたえていることがわかる内容である。実際に会員からは「補助金がないと経営が厳しい」「感染対策の経費は増え、補助金で何とかしのいでいる」といった声が寄せられており、一時的な財政支援である補助金も医療機関の存続の一助となっている。しかし、今後も感染防止対策の補助金が交付されるかは不明である。

一部ではコロナの補助金により多くの医療機関が黒字化しているためマイナス改定になるという報道がされているが、以上の調査結果からすれば、東京の歯科医療機関は補助金があっても苦しい状況にあることは明確である。

12月3日に行われた中央社会保険医療協議会(以下、中医協)の「医療経済実態調査の結果に対する見解」の資料(診療側・2号側委員)では「地域歯科医療を担う約 8 割を占める個人立歯科診療所の経営は、コロナ関連補助金を加味しても依然として厳しい状況が続いている」「既に経営努力や経費削減努力は明らかに限界に達している」と歯科医療機関の置かれている状況の記載がみられる。また、2021年5月に行った協会の会員アンケートでは、コロナ禍以前よりも医業総収入が減少したと答えた会員は約61%であった。会員アンケートの結果と、医療経済実態調査の結果、中医協の資料を踏まえれば、国民の健康を守る歯科医療機関が安定した経営を行うために、診療報酬の引き上げは不可欠である。

以上より、国に対し、医療経済実態調査の適正な実施と診療報酬の引き上げを求める。 

20221213

経営管理部部長
相馬 基逸

談話 地域医療体制を維持するには診療報酬のプラス改定は不可欠

 財政制度等審議会は、「令和4年度予算の編成等に関する建議」の中で、2022年度診療報酬改定について、改めて「診療報酬本体のマイナス改定を続けることなくして医療費の適正化は到底図れない」と強調した。財務省は、「躊躇なくマイナス改定をすべき」との姿勢を崩しておらず、相当な決意がうかがえる。

 しかし、診療報酬(医療費)の伸びは高齢人口の増加や、医療費の高度化等による医療費の自然増を示すものに過ぎず、医療機関の経営実態を示したものではない。また、コロナ禍が経営に与えている影響も大きい。新型コロナウイルス感染症の感染者数は減少傾向にあるが、医療機関においては感染症対策が不要になったわけではなく、引き続き、感染対策にかかる物品の確保や人材確保等の費用の支出が見込まれ、診療報酬のプラス改定は不可欠である。

 厚生労働省が11月24日に公表した病院や医療機関の経営状況を調べた第23回医療経済実態調査の結果でも、医科・歯科ともに新型コロナウイルス感染症関連の補助金を除いた医業収益が悪化している。歯科においては、医業収益が「個人」でマイナス1.2%、「新型コロナウイルス感染症関連の補助金 (従業員向け慰労金を除く)」を除いた場合はマイナス3.0%で、保険診療収益はマイナス1.9%となった。医療法人を含めた「全体」でも、医業収益がマイナス0.1%、「新型コロナウイルス感染症関連の補助金 (従業員向け慰労金を除く)」を除いた場合マイナス1.2%で、 保険診療収益はマイナス1.5%と前年度よりも下回っている。さらに歯科材料費は前年度よりも全体で3.9%上昇しており、医療機関の厳しい経営をさらに圧迫している。一時的な補助金や支援金ではなく、診療報酬本体の引き上げなくして、安定した地域医療の維持は困難であることは瞭然たる現実だ。

 遠からずして政府は2022年度診療報酬の改定率を閣議決定する。当協会では、引き続き実態に即した改定と地域医療体制を維持するために、診療報酬のプラス改定を求めていく。

2021年12月7日

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

第49回定期総会「決議」(機関紙2021年7月1日号<No.616>掲載予定)

第49回定期総会「決議」(機関紙2021年7月1日号<No.616>掲載予定)

決議 

協会が厚生労働省に行った歯科用金銀パラジウム合金の原価割れに関する改善要求から、昨年7月に歯科用貴金属に関する「随時改定Ⅱ」が新設された。しかし、原価割れは依然続いており、問題は一向に解決していない。医療機関の経営は更に厳しさを増しており、歯科医療に従事する人材を維持・確保できなくなる恐れがあるなど、医療提供体制の崩壊が懸念される。

昨年から続く新型コロナウイルスの感染拡大や度重なる緊急事態宣言で、医療用物資の高騰や患者の受診抑制が続いている。4月から「歯科外来等感染症対策実施加算」が新設されたが、従来株よりも感染しやすい変異株が蔓延しつつある状況では、診療間隔を空けて密を避けるなどの対策を徹底・強化している。そもそもコロナ禍以前より院内感染防止対策に係る診療報酬の評価は十分とは言えず、さらに当該加算は今年9月診療分までの時限的な対応となっている。国は速やかに院内感染防止対策の適切な評価を行い、当該加算の算定期間を延長するべきである。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、厚生労働省は、今年度の集団的個別指導に選定した医療機関に対して、高点数による個別指導を実施しないことにした。これは、協会が廃止を求めてきた成果の1つであり、必要性が乏しいことを厚生労働省は認めたと言える。萎縮診療にもつながる当該指導は、速やかに廃止すべきである。

国は、一定の収入がある75歳以上の国民(約370万人)の負担割合を、1割から2割に引き上げる。2025年には団塊の世代が75歳に至り、在宅医療の医療提供や健康寿命の延伸が喫緊の課題となる中で、その負担割合を引き上げる動きには反対である。

世界保健機関(WHO)憲章に掲げられた、人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権の1つであるとの理念を踏まえ、健康と平和を脅かす動きに反対する。

また、政府が推し進めている今後爆発的に増える高齢者のために一人当たりの社会保障費を削減する動きや、患者への安心安全な医療の実現を妨げる動きに断固反対し、国民の生活と歯科医療のより一層の充実に向けた運動を国民とともに力を合わせ、推進するために、以下の要求を国民、政府及び歯科保険診療に携わる全ての方に表明する。

 

 

一.国は、現行の社会保障を後退させず、世界の国々が模範とする日本の社会保障制度や自治体が実施する歯科保健に関する事業などを更に充実させること。

一.国は、これ以上の患者負担増計画は中止し、医療保険や介護保険の自己負担率を引き下げること、または公費助成を充実させることにより、国民負担を軽減すること。

一.国は、院内感染防止対策の評価がコストに見合っていないなど診療報酬の問題を改善すること。

一.国は、歯科用金銀パラジウム合金の原価割れが生じないよう、制度改善を行うこと。

一.国は、高点数の保険医療機関を対象とした指導を廃止すること。

一.私たち歯科医師は、命と健康や平和を妨げるすべての動きに反対する。

2021年6月13日

東京歯科保険医協会 第49回定期総会

 

理事会声明「今こそ歯科界全体として歯科技工士問題に取り組むべきである」(機関紙2021年4月号<613号>2面掲載)

理事会声明

「今こそ歯科界全体として歯科技工士問題に取り組むべきである」

歯科技工士を取り巻く環境は、長時間労働・低賃金などの諸問題が長らく放置され、養成学校への入学志願者も減少している状況である。そこで、東京歯科保険医協会は、改めて実態を把握するとともに、問題解決に向けた方策を検討すべく、歯科技工士問題検討委員会を立ち上げた。

20209月に東京都23区に所在する歯科技工所に対し実施した「歯科技工所アンケート」では、長時間労働、低賃金の過酷な状況が改めて示された。週の労働時間が、過労死ラインといわれる60時間を超えているとの回答が48%あり、60%が週1日以下の休日と回答した。また、可処分所得は200万円以内が22%と最も多く、特に個人開業では54%が300万円以内であると回答している。歯科技工物の価格が安くなる原因と思われるものでは、「歯科技工所間のダンピング競争」「補綴関連の低診療報酬」「歯科医療機関による値下げ圧力」「歯科医療機関の経営悪化」全ての項目で半数以上が「そう思う」と回答しており、歯科技工所の置かれている状況の厳しさが浮き彫りになった。また、保険診療制度に対して今後望む方向として、「保険請求の技工所直接請求」が65%と最も多く、特に 二十代~五十代で技工所が保険請求を直接行うことを求める声が多かった。

歯科技工所、歯科技工士が抱えている問題点については、長時間労働、低賃金だけでなく、歯科技工士の社会的評価の低さや、歯科技工士の業務範囲の狭さ、歯科技工物の低診療報酬、歯科技工士のなり手の少なさや離職率の高さなど多岐に渡っている。

現状のままでは、個人開業の歯科技工士がいなくなる未来もありえる。そうなれば、地域に根差した歯科医療の提供が難しくなる。歯科保険診療の中で歯冠修復、欠損補綴に関わる治療は40%前後を占めており、歯科技工なくしての歯科治療は存在しない。歯科技工所、歯科技工士を取り巻く環境改善には、業務範囲の拡大、保険請求の技工所直接請求や73問題の改善などの診療報酬の仕組みの見直し、教育機関の充実などが考えられる。

 根本的な問題は、約20年間ほとんど増点されず消費税増税分を考慮すると逆に減点されている歯科補綴関連の診療報酬の低さにある。新規技術が保険導入されたとしても、低い点数での導入であり、小規模ラボでは機材購入に踏み切れず技工物の製作が不可能である。そもそも、日本の歯科保険診療報酬は低く抑えられており、世界と比較しても5分の110分の1程度しかないことが問題である。

東京歯科保険医協会は、以前より要求しているように次期診療報酬改定でも、歯科補綴関連の技術料の引き上げを中心とした診療報酬総枠拡大を引き続き求めていく。また、歯科医師のパートナーである歯科技工士、歯科技工所とより一層の対話を深めながら、チェアサイドや訪問診療などでの業務範囲の拡大、診療報酬の仕組みの見直しなどに取り組んでいく。

今こそ歯科界全体が一丸となり、歯科技工士問題に取り組むことこそが解決の一歩になると確信している。

2021年3月26日

東京歯科保険医協会

第21回理事会

地域医療部長談話「新型コロナウイルス感染症蔓延下でもニーズに応える歯科訪問診療体制の整備を」(機関紙2021年1月号<610号>2面掲載)

新型コロナウイルス感染症蔓延下でもニーズに応える歯科訪問診療体制の整備を

2020年4月、新型コロナウイルス感染症に対する「緊急事態宣言」発出に合わせ、厚生労働省の「歯科訪問診療を含む歯科に対する診療の自粛(延期)を促す」通達が出され、メディアからも「歯科の受診は新型コロナウイルスへの感染リスクを高める」と報じられた。その影響により、外来診療をはじめ、歯科訪問診療でも受診控えが広がり、患家や施設への外部からの立ち入りを禁止されるケースもあった。

そこで、東京歯科保険医協会地域医療部では、歯科訪問診療の抑制による在宅患者または施設入所患者の口腔内への影響を把握すべく、部内関係者が歯科訪問診療を行っている東京近郊の在宅または施設(有料老人ホームや特別養護老人ホーム等)を対象にアンケート調査を行った。

アンケート結果では、口腔内のことで困った利用者が「いた」、「少しいた」との回答が約90%、「緊急事態宣言」の発令とともに歯科訪問診療の中止を余儀なくされたものの、「歯科訪問診療の必要性を感じた」との回答が約90%に及んだ。また、施設のスタッフから「患者の口腔内に変化があった時に即座に対応できないことへの不安」の声や「継続的な歯科訪問診療を必要」、「食形態の判断が難しかった」との声が多いことが特徴的であった。

さらに、個々の患者の口腔内に目を向けると、歯周病の悪化や嚥下機能の低下、歯の動揺の増加や歯根破折により抜歯になるケースがあった。これまで継続的に行っていた歯科訪問診療を自粛(延期)したことが少なからず患者の口腔内に悪影響を与えたことが窺えた。

歯科医師・歯科衛生士の行う専門的口腔ケアは、QOLの維持・向上をもたらすことや、誤嚥性肺炎やインフルエンザの予防に効果があるとのエビデンスがある。歯科訪問診療の中断は、歯科疾患の重篤化や誤嚥性肺炎をはじめ、新型コロナウイルス感染への悪影響が懸念される。今回のアンケート結果からも継続的な歯科訪問診療の必要性が示された。

地域医療を担う歯科医師として、第3波に屈することなく、ニーズに応える歯科訪問診療体制の整備が必要である。

2021年1月1日

東京歯科保険医協会

地域医療部長 横山靖弘

運動本部長談話「後期高齢者の窓口負担は原則1割とし応能負担は保険料や税に求めるべき」(機関紙2020年12月号<609号>2面掲載)

後期高齢者の窓口負担は原則1割とし応能負担は保険料や税に求めるべき

75歳以上の患者が医療機関で支払う窓口負担について、現在の原則1割を2割に引き上げる「後期高齢者の窓口負担案」が、内閣府、財務省、厚生労働省(以下「厚労省」)で具体案が示された。

厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会医療保険部会(以下「社保審」)において、複数案が提示されており、早ければ年内に議論をまとめ、後期高齢者の負担割合を引き上げる法案が、来年の国会に提出される見通しとなっている。

◆財政審は「2割」、社保審は「原則2割」を主張

75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担をめぐって、10月8日の財政制度等審議会財政制度分科会(以下「財政審」)では、①75歳以上になると他の世代に比べ、1人当たり医療費や要支援・要介護認定率は大幅に上昇すること、②2025年、2040年にかけて、医療・介護費用は大きく増加していくこと、③現役世代の保険料負担がますます重くなること―などの理由を挙げ、財務省は現在1割負担となっている後期高齢者の医療費の窓口負担を、2割負担に引き上げることを主張した。

また、11月12日の社保審では、保険者の委員から現役世代の保険料負担軽減を図る観点から、年収383万円未満の人のうち、一定所得の人を2割に見直すことを改めて主張した。

◆医療費負担が多い高齢者

現在、75歳以上の窓口負担は、年収383万円以上の人は「現役並み」として窓口負担は3割となっているが、年収383万円未満の人の負担割合を1割から2割に引き上げれば、高齢者の受診抑制に繋がりかねない。

厚労省の「医療保険に関する基礎資料(平成29年度実績に基づく推計値)」によれば、すでに後期高齢者は一人当たりの医療費が高く、75歳以上の1人当たりの年間一部負担額の平均は6.4万円(75~79歳)で、年収に対する患者一部負担の割合は約3.6%(9月16日 社会保障審議会医療保険部会資料「年齢階級別の平均年収」と「年齢階級別1人当たり医療費、自己負担額及び保険料の較(年額)」より試算) となっている。この割合は50歳~54歳の約1.3%と比べて高くなっており、高齢者の生活を圧迫していることを示している。

また、11月19日の社保審で厚労省から示された資料によれば、窓口負担が1割の後期高齢者について、窓口負担を2割に引き上げた場合、医療機関の窓口で支払う額は年間11.5万円で3.4万円増える見込みとなっている。

社保審の保険者の委員からは、高額療養費制度等があるため、単純に自己負担額が倍になるとは言えないとしているが、高額療養費制度の上限に達しない場合は、自己

負担額が2倍になる。

◆新型コロナ禍で窓口負担増は国民の理解を得られない

現在、新型コロナウイルスの影響で、高齢者は受診を控えている状況にある。窓口負担を二割に引き上げれば、窓口負担が重荷となり、新型コロナウイルスによる受診控えに加え、負担増によっても受診控えを起こすことになる。ひいては持病の重症化など健康への影響が心配され、国民の理解を得られない。

◆国は安心して医療を受けられる体制を

収入や所得に応じた応能負担は、保険料および税で求めるべきであり、国民の窓口負担から応能負担を求めるべきではない。

とくに後期高齢者の負担割合については、高齢者の生活や心身の状態なども十分配慮し、国は国民が安心して医療を受けられる体制を維持することが重要だ。

そのため、当会は後期高齢者の負担割合は、現在の原則1割を堅持することを要求する。

2020年11月27日

東京歯科保険医協会

運動本部長 坪田有史

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◇関連資料


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理事会声明「準強制わいせつ罪に問われている乳腺外科医の裁判において最高裁には慎重な判断を求める!」(機関紙2020年10月号<607号>3面掲載)

理事会声明

「準強制わいせつ罪に問われている乳腺外科医の裁判において最高裁には慎重な判断を求める!」

7月13日、東京高等裁判所は、準強制わいせつ罪に問われた乳腺外科医の控訴審の判決で、一審の無罪判決を破棄し、逆転有罪判決を言い渡した。

この裁判では、①わいせつ行為が行われたとされる時点で患者がせん妄状態であったのか、②事件後に採取したとされる唾液からのDNA鑑定結果には証拠能力があるのか―などが問われ、それらの総合的判断から有罪とされた。

しかし、せん妄状態であったかについては専門医の判断も分かれており、DNA鑑定試料が保存されていないことなどを鑑みれば、疑問が生じる判決である。また、術前、術中、術後に投与された薬剤の副作用によるせん妄発生のリスクが検討されていない。さらには術後患者の状態を看ていた看護師の証言を取り上げていないなど、高裁の判断には疑問な点が多い。

医療行為にかかる裁判での、検証可能かつ決定的な証拠もない中での有罪判決は、今後の医療行為への影響が大きいと危惧せざるを得ない。

最高裁判所は改めて全ての証拠を再検討し、有罪に問うべき行為が本当に存在したのかを慎重な判断をするよう求める。

2020年8月28日

東京歯科保険医協会

第8回理事会

理事会声明「東京都の感染拡大防止に向けてPCR検査の一層の拡充を」(機関紙2020年9月号<606号>2面掲載)

理事会声明「東京都の感染拡大防止に向けてPCR検査の一層の拡充を」

新型コロナウイルスは、2020年1月に国内1例目が報告されて以降、日本全国に感染が拡大した。多くは軽症のうちに快癒するが、重症化する患者もいる。
特効薬や、ワクチンの開発が出来ていない現在、何よりも感染を拡大させないことが重要であり、マスクの着用や手洗いの推奨、外出自粛など様々な予防対策が取られてきた。
しかし、6月以降新型コロナウイルスの東京都における感染者は日々増加し、第2の波が広がりつつある。
感染防止対策には「検査・追跡・隔離」の徹底が有効であることはすでに知られている。広く検査を行い、感染者を特定、感染ルートを明らかにし、陽性者が陰性になるまで外部との接触を制限することが重要で、早くから検査の拡充が求められてきた。
しかし、PCR検査の実施件数は、東京都では7月30日付の7日間平均値は抗原検査と合わせても3,182.4件でしかない。米国ニューヨーク州では、居住者に対し1日70,000件の検査を実施している。無症状であっても無料で何度でも検査を受けられるようにしたことで、感染者数、死亡者数の激減を実現した。
秋冬にはインフルエンザの流行期を迎える。その前に新しい検査の導入・拡充が必要である。
東京歯科保険医協会は、東京の歯科医療を担う歯科保険医の団体として、新型コロナウイルス感染防止のために、国、東京都に対し、PCR検査の拡充をはじめとした諸対策の早急な実施を求める。

・希望者に対しPCR検査を、国や都の責任のもと無料で実施すること
・早急に新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を都内のすべての区市町村で実施すること
・歯科を含む医療従事者に対して優先的で定期的なPCR検査の実施を認めること
・新型コロナウイルス感染症対応の専門病院を構築して医療施設をすみ分けること
・重症患者数の増加に備え,病床数ならびに人工呼吸器など機材を拡充すること
・中等症患者数の増加に備え,病床数を拡充すること
・軽症患者対象の隔離用宿泊療養施設(ホテルなど)を拡充すること
・新型コロナウイルス感染症の治療を担っている医療機関と医療従事者への経済的支援を行うこと
・各保健所への人的支援を行うこと

2020年7月31日
2020年度第7回理事会

社保・学術部長談話「逆ザヤとならない、歯科用貴金属の安定供給を求める」(機関紙2020年9月号<606号>3面掲載)

社保・学術部長談話「逆ザヤとならない、歯科用貴金属の安定供給を求める」

7月22日の中医協総会で、10月に随時改定を行い、歯科鋳造用金銀パラジウム合金に係る点数を引き下げることが承認された。今年4~6月において、素材価格の変動幅が告示価格よりも5%以上も下落したため、1グラム2662円から1グラム2450円に引き下げるとしている。30グラムで換算すると、7万9860から7万3500円への引き下げである。
しかし、最近の素材価格の状況をみると、7月末頃からパラジウム、金および銀ともに高騰し始めている。このまま金パラの点数引き下げが行われれば、10月以降に逆ザヤになることが強く懸念される。
昨年から続く金パラの高騰に対し、当会は全国の保険医協会・医会とともに、全国保険医団体連合会の市場実勢価格調査「金パラ『逆ザヤ』シミュレータ」に協力し、「逆ザヤ」の実態を明らかにして改善を訴えてきた。その結果、4月および10月に行う随時改定Ⅰに加えて、素材価格が告示価格のプラス・マイナス15%を超えた場合に七月および1月に行う随時改定Ⅱが作られ、今年7月に金パラの引き上げが行われた。
しかし、価格の参照期間と改定時期との乖離の問題は、未だ残されたままである。このまま素材価格が高騰すれば、新型コロナウイルス感染拡大の影響から回復しきれていない歯科医療機関の経営は、再び逼迫する。中医協総会でも、反映させる時期にタイムラグがあるとして、スピーディーな対応を求める意見が出ている。厚労省は、逆ザヤにならないよう、改定は速やかに行うべきである。
また、乖離で言えば、随時改定では金銀パラジウム合金ではなく素材価格を参照することになっている。合金自体の市場価格を参照しない点についても、改めるべきである。
根本的な問題は、投機対象になるパラジウムや金が保険医療材料になっているため、市場価格の変動が保険医療機関の経営に大きな影響を生じさせる点である。このようなことがないように、厚労省の責任で買い取って管理・確保するなど、歯科用金属の安定供給を可能とする公的な仕組みを構築するべきである。
また、6月にチタン冠が保険収載された。新しい材料が保険収載されることは喜ばしいことだが、当初歯科用金属アレルギー患者や臼歯部で補綴的に咬合高径が保てない症例に対して適用を限定して保険収載されると聞き及んでいた。チタン冠は金パラに比べて鋳造によって均質性が取りにくいなどの理工学的特性があり、金パラの代替材料として用いるのは難しい。適切な臨床エビデンスの結果の下、代替材料の保険収載について検討されるべきである。
この談話は、金パラの価格改定に伴う問題の改善を求め、歯科用金属の安定供給を求めるものである。
2020年8月7日
東京歯科保険医協会
社保・学術部長 本橋昌宏

政策委員長談話「2020年度診療報酬改定/世代毎の口腔管理の評価が不十分」(機関紙2020年7月号<604号>2面掲載)

 

政策委員長談話「2020年度診療報酬改定/世代毎の口腔管理の評価が不十分」(機関紙2020年7月号<604号>2面掲載)

2017年12月6日の中医協総会で示された「歯科治療の需要の将来予想(イメージ)」では、歯科の疾病構造が変化しており、将来さらに進むその変化に対応するために「治療中心型」から「治療・管理・連携型」へと歯科治療の構造変革が必要と示された。

2020年度診療報酬改定では、SPTの対象とならない歯周病患者の管理を評価した「歯周病重症化予防治療」(以下、「P重防」)が新設された。しかし、改定直前の疑義解釈で混合歯列期歯周病検査(以下、「P混検」)により治療を行っている患者を対象外にしたことで、乳歯列期やP混検で治療を行っている混合歯列期の患者がP重防の対象から除かれた。2019年4月10日の中医協総会においては、2018年度の5~17歳の患者の歯肉の炎症は全年齢でそれ以前の2008年度と比較して減少しているものの、炎症がある者の割合は依然として年齢とともに増加傾向であると指摘されている。学童期・思春期における口腔管理を推進するため、P混検の対象の患者であってもP重防を認めるべきである。

一方、高齢期の患者については、口腔機能に関する評価が歯科疾患管理料から独立した評価になったこと、あるいは日本歯科医学会の「基本的な考え方」の改定に伴う変更や診断に必要な舌圧検査の要件緩和に留まり、評価の引き上げや要件緩和は行われなかった。これでは、健康寿命を延ばすための高齢期の口腔機能に関する診療は現場で普及しない。

また、8020の達成者は2016年度で51.2%に達した一方で、う蝕歯の未処置歯・処置歯保有者率が年々増加しており、高齢者に特異的な根面初期う蝕の重症化予防治療の必要性が指摘されてきた。しかし、2020年度改定では何も対応されておらず、問題である。

在宅患者については、口腔機能の維持向上を推進するための対応が論点であった。しかし、実際にその対応として行われたのは非経口摂取患者口腔粘膜処置の新設のみである。6月超の継続管理をした場合の長期管理加算も、歯科疾患在宅療養管理料には加算できず、在宅での口腔機能の取り組みが推進されていない。

国は、全世代型社会保障を掲げているが、2020年度改定の内容は不十分と言わざるを得ない。早期の改善を求める。

2020年7月1日

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

第48回定期総会「決議」(機関紙2020年7月1日号<No.604>1面掲載)

 

第48回定期総会「決議」(機関紙2020年7月1日号<No.604>1面掲載)

決議 

新型コロナウイルス感染症の影響で受診抑制が拡がり、歯科医療機関の経営は厳しさを増している。このままでは経営が立ち行かなくなる歯科医療機関が多くなるだけでなく、歯科医療に従事する人材を確保できない恐れがあり、地域医療の崩壊が懸念される。

第2波が想定される中で、感染拡大防止のため、診療間隔を空けた上で患者の体調のチェックを行い、感染防止対策に必要な機材を多用するなどの体制整備を強化している。現状の診療報酬の評価だけでは、とても足りない、国や都は、速やかに必要な補償と医療物資の供給を行うべきである。

患者が減ったことにより、多くの歯科医療機関で平均点数が高くなっている。高点数を理由に行う指導は、必要な医療の提供を歯科医療機関にためらわせるため、高点数による指導は廃止するべきである。

2020年診療報酬改定では歯科点数表の初診料の注1に規定する施設基準を届け出した場合の初・再診料が引き上げられるなど評価する面もあるが、依然として歯科診療に対する適切な評価には程遠い点数のままとなっている。全世代での口腔管理が実現していないなど、今後の課題も明らかになっている。

私たち歯科医師は患者と共に健康に向き合い、国連の「平和と公正をすべての人に」(持続可能な開発目標SDGs)という目標を共有する。

私たちは、政府が推し進めている社会保障費を削減する動きや、患者への安心安全な医療の実現を妨げる動きに断固反対し、国民の生活と歯科医療のより一層の充実に向けた運動を国民とともに力を合わせ、推進するために、以下の要求を国民、政府及び歯科保険診療に携わる全ての方に表明する。 

 

一.国や都は、新型コロナウイルス感染症拡大に伴って、診療時間の短縮や受け入れ患者の減少により生じる減収などに対して補償を行うとともに、診療に必要な医療用マスクや消毒用アルコールなどの供給体制を整備すること。

一.国は、院内感染防止対策の診療報酬上の評価がコストに見合っていないことや歯周病重症化予防治療の対象が限定されているなど、歯科の診療報酬の問題点を改善すること。

一.国は、少なくとも現行の社会保障を後退させず、世界の国々が模範とする日本の社会保障制度や自治体が実施する歯科保健に関する事業などを更に充実させること。

一.国は、これ以上の患者負担増計画は中止し、医療保険や介護保険の自己負担率を引き下げ国民の負担を軽減し、公費助成を充実させること。

一.国は、高点数の保険医療機関を対象とした指導を行わないこと。

一.私たち歯科医師は、命と健康や平和を妨げるすべての動きに反対する。

 

2020621

東京歯科保険医協会

48回定期総会

 

 

 

政策委員長談話「言葉だけでの推進で、現場の要望が反映されていない」(機関紙2020年3月号<600号>1面掲載)

政策委員長談話「言葉だけでの推進で、現場の要望が反映されていない」(機関紙2020年3月号<600号>1面掲載)

◆コストを無視した評価で負担を現場に押し付けている 

 職員研修を要件に、歯初診を届け出した場合の初・再診料が引き上げられる。しかし、消費税増税対応分を除いて、2018年改定時を含めても初診料は13点、再診料は5点しか引きあげられておらず、2007年の中医協で示された院内感染防止対策に必要なコスト分(268.16円)に遠く及ばない。ただでさえ新型コロナウイルスの影響でこれまで以上に高いレベルの院内感染防止対策が求められる中、十分な対策を行うために医療機関の持ち出しとなっている状況は解消されない。

 同様に、金銀パラジウムの高騰が現場では問題となっており、パブリックコメントで「市場実勢価格を踏まえた適正な評価に近づけていただきたい」との意見も233も寄せられていたが、何も改善策が示されなかった。

 現場では、仕方なく銀合金やCRで対応する歯科医師も増えてきていると聞く。

◆口腔機能管理や歯科衛生士の評価が不十分

 口腔機能管理に関する評価は要件緩和にとどまっており、診断に必要な検査をすべて保険収載することや管理料のさらなる評価は見送られた。重点課題であるはずの口腔機能低下への対応の充実には、不十分な評価だ。

 また、歯科衛生実地指導料など歯科衛生士に関する診療報酬の引き上げは行われなかった。ここ数年で給与は十数%上昇し、人材紹介会社を利用した場合の金額は180円というところもある。人件費の上昇に見合った改定とすべきである。

◆地域での連携がほとんど評価されていない

 2018年改定では、診療情報連携共有料など医科歯科連携の評価があったが、今次改定では医科が算定する周術期等口腔機能管理の依頼や予約に対する評価ぐらいで目立ったものがない。

 周術期や医科歯科連携は、もう何年も言葉だけが独り歩きして、一向に進まない。

◆課題が残ったままの長期管理の評価

 今次改定では、歯周病重症化予防治療や歯管に対する長期管理加算が新設される。歯科医療の将来の需要は、補綴が減り、重症化予防などの管理が増える方向へとシフトする中での評価である。

 しかし、一初診一回限りの算定となっている治療が多くある中で、再度その治療が必要になった場合はどうなるのか、再度の初診行為があった場合に初診料が算定できるのかといった課題は残されたままである。これでは実際の治療で多くの問題が起き、それにわれわれが振り回されることになるだろう。

 これらは、行政の政策が現場を見ずに、まさに机上の空論で改定を行っていることに根本的な問題がある。このしわ寄せが、最終的に患者さんに行かないことを切に望む。

 この談話は、今次改定の問題点を明らかにし、現場で混乱を生じないよう改善を求めるものである。

2020年2月25日

東京歯科保険医協会政策委員長

松島良次

 

経営管理部長談話「医療経済実態調査を基礎資料とした診療報酬改定に抗議し現場に即した診療報酬のさらなる引き上げを求める」(機関紙2020年1月1日号<No.598>2面掲載)

経営管理部長談話「医療経済実態調査を基礎資料とした診療報酬改定に抗議し

現場に即した診療報酬のさらなる引き上げを求める」(機関紙2020年1月1日号<No.598>2面掲載)

20191217日に発表された2020年度診療報酬改定の改定率は、歯科で0.59%の引き上げとなった。この数字は、20191113日に発出された『第22回医療経済実態調査』を基礎資料としている。医療経済実態調査は「病院、一般診療所、歯科診療所及び保険薬局における医業経営等の実態を明らかにし、社会保険診療報酬に関する基礎資料を整備することを目的とする」とされており、今回の調査は2018年度の結果を2017年度と比較している。

調査対象の歯科診療所の有効回答数は625件であり、青色申告者を含む個人立て歯科診療所の回答数は481件と、限られたサンプル数の中で診療報酬改定の基礎資料としている。この中で東京23区の回答数は62件であり、都市部と地方では収益や経費の構造は大きく異なる上、サンプル数も少ない中では本当の医業経営の実態を反映しているとは考えにくい。この点では、当会が20198月から10月に行った有効回答数1002件の「会員の意識と実態調査」の方が、医療経済実態調査の62件よりも多く、より正確な歯科診療所の医業経営の実態を表していると言えるだろう。

その上で、今回の『第22回医療経済実態調査』の内容を分析すると、青色申告者を含む歯科診療所全体の直近2年の平均値の伸び率が、医業収益はプラス1.2%、保険診療収益はプラス0.7%となっている。しかし、東京23区に目を向けると、医業収益はマイナス0.3%、保険診療収益はマイナス3.1%、最頻値(最も頻繁に出てくる値)が医業収益はマイナス1.6%、保険診療収益はマイナス1.9%であり、医業収益、保険診療収益ともにマイナスで、歯科医院の医業経営が厳しくなっていることがわかる。また、昨今、金銀パラジウム合金の高騰が主な原因となり、歯科材料費が上がっており、経営をさらに悪化させている状況にある。

なお、全体の平均値、中央値(小さい順に並べたとき中央に位置する値)、最頻値を比較すると、一部の医業収益が高い層が全体の数値を底上げしていることがわかり、この底上げが医療経済実態調査の「実態」ではないだろうか。

ちなみに、協会が実施した「会員の意識と実態調査」の「以前と比べた医業経営の状況」の質問では「苦しくなった」が39.7%、「変わらない」が49.0%、「楽になった」が8.8%で、医療経営実態調査の医業収益の平均値の伸び率がプラスなのに対して、「苦しくなった」、「変わらない」の回答がほぼ九割を占めている。

恣意的に見えてしまう平均値を示した上、サンプル数の少ない医療経済実態調査を基礎資料とし、診療報酬改定を行うことは、さらなる社会保障費の削減を招き、多くの歯科医院が経営難に陥り、超高齢社会において、需要が高まっている歯科医療を国民が満足に受けることができなくなってしまう事態になりかねない。一部の医業収益が高い層を除けば、保険診療収益が減少し、歯科材料費の高騰などで経営が厳しくなっていることから、2020年度診療報酬改定の0.59%引き上げでは現場に即しているとは言えず、さらなる診療報酬の引き上げは喫緊の課題である。

以上より、現場に即していない『第22回医療経済実態調査』を基礎資料とした診療報酬改定に断固抗議し、国民が安心して歯科医療を受けることができるように診療報酬のさらなる引き上げを求める。

202011

東京歯科保険医協会

経営管理部部長 相馬基逸

 

政策委員長談話「歯科の改定率0.59%は不十分」(機関紙2019年1月1日号<No.598>4面掲載)

政策委員長談話「歯科の改定率 0.59%は不十分」(機関紙2010年1月1日号<No.598>4面掲載) 

 2020年診療報酬改定の改定率が発表され、歯科は0.59%のプラス改定となった。財務省は、この間全体(ネット)だけではなく本体についてもマイナス改定を求めていたが、協会は全国の保険医協会・保険医会と協力し、「診療報酬の引き上げと患者窓口負担の軽減を求める医師・歯科医師要請署名」を行い、国会議員に提出してきた。 本体がプラス改定となったのは、このように医療界全体でプラス改定を求めてきた成果だと言えるだろう。

 しかし、プラスになったとはいえ、0.59%という数字は2006年改定後のプラス改定の中では、2番目に低い。換言すれば、0.59%は、再診料を5点ほど引き上げれば無くなるようなわずかなプラスであり、不十分と言わざるを得ない。

 改定にむけて、中央社会保険医療協議会総会では、口腔機能管理や歯周病などに関する継続的治療を評価する方向性を示している。疾病構造の変化などを考えれば、歯科界にとって重要な視点である。しかし、財源を確保せずに低い評価で導入されては、現場での取り組みは進まない。先日の医療経済実態調査では、東京23区の医業収益の伸び率はマイナス0.3%であり、歯科材料費の伸び率も20.8%となるなど、東京の医療機関の経営は非常に厳しい状況である。金パラ高騰の中で、まさに身を削る思いで患者に必要な医療を提供し、医療機関を維持している。今後、議論は財源の配分に移っていくが、歯科疾患管理料や歯科訪問診療料3などの点数を引き下げて、それを他の点数に振り替える迂回改定のようにならないよう注視していきたい。

 また、歯科本体が十分なプラス改定にならないのは、ネットの改定率がマイナスのため、薬価等の引き下げ分が本体に十分充当されないためである。ネットの改定率は、今回で四期連続のマイナス改定である。歯科医療が必要な患者に安心・安全な医療を提供するためには、総枠拡大をし、これを転換することが必要である。

 この談話は、歯科の低い改定率、およびその原因となるネットのマイナス改定に対し、強く抗議するものである。

20191224

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

 

社保・学術部長談話「医科歯科連携の啓発と推進を求める」(機関紙2019年11月1日号<№596>3面掲載)

 

 

社保・学術部長談話「医科歯科連携の啓発と推進を求める」(機関紙2019111日号<№5963面掲載) 

前回の2018年診療報酬改定により診療情報連携共有料(以下、「情共」)が新設されたことにより、医科への照会はし易くなった。医療連携に対する一定の評価をしていただけたことは非常にありがたいことである。しかしながら医科歯科連携の指標の一つとして情共の算定率を参考に考えると、医科歯科連携は思いのほか進んでいないのが分かる。2018年社会医療診療行為別統計(20186月審査分)によると、情共の算定回数は15273回で、特に有病率の高い歯科の後期高齢者の1月あたりの算定回数は7936回となっている。後期高齢者の1月あたりの再診の算定回数などから患者数を約230万人と試算すると、わずか0.3%ほどの算定率になる。患者数と情共の算定には大きな隔たりがあると言わざるを得ない数字である。  

歯科治療や口腔衛生、口腔機能管理を行うことで、有病者の治療の効率化、入院期間の短縮や重症化予防につながることが明らかになっている。医科歯科連携がこれからも更に増加する高齢患者の安心・安全のためには決して欠かすことのできないことであることは誰しも周知のことと考えるが、どうしてこのようなことが起きているのであろうか。それには大きな原因として2つ挙げられると考える。

1つはこれまでの歯学教育においては血液検査データの理解などの医学的な教育、訪問歯科診療や摂食機能療法などの在宅医療に関する教育が決して十分ではなかったこと、また医科においても歯科に対する知識や理解が十分得られていないこと、すなわち医科も歯科もお互いのことに対して知り得ない点が多く存在するため、患者に反映させることができていないという結果を招いているのではないであろうか。医科と歯科相互の対象疾患に対する最新のガイドラインやポジションペーパーの理解が大切である。

もう1つは連携に対する更なる診療報酬の評価である。連携と管理には通常の患者よりも手間や時間がかかるため、その分の適切な評価を行うことが必要である。連携に対し診療報酬によるインセンティブを医科・歯科ともに与えることにより推進が図れるものと確信している。

当協会では、まずは歯科から理解を広げるべく、医科歯科連携に関する啓発と教育のための講習会を企画し開催してきた。また顔の見える連携も大切なため医科歯科合同での講習会も実施している。今後は、患者にも安心・安全な医療の提供には医科歯科連携が重要であることに理解を頂くこと、さらには治療の効率化や期間の短縮、重症化予防がなされれば医療費の削減の点から考えても、推進にはメリットがあることを国や保険者に訴えていきたい。

協会は、今後更に求められる医科歯科連携を推進することを目的に、患者や医師・歯科医師相互の理解の深まりと、診療報酬の更なる評価を求めるものである。

20191025

東京歯科保険医協会

社保・学術部長 本橋昌宏

 

地域医療部長談話「大規模災害に備え、歯科医院の十分な体制整備を」 (機関紙2019年9月1日号<№594>2面掲載)

 

 地域医療部長談話大規模災害に備え、歯科医院の十分な体制整備を (機関紙2019年9月1日号<№594>2面掲載)

2011311日に発生した東日本大震災は、大きな地震による直接的な被害に加え、津波や福島原発事故等により、大きな被害をもたらした。東京でも震度35の揺れが起き、交通機関が麻痺し、多くが帰宅困難者となり、物流にも影響が見られた。

協会は20114月~8月にかけ、宮城県石巻市周辺の避難所における医療・保健活動や現地の歯科医療に繋げる活動、歯科医療ニーズの収集等、計十回の歯科医療支援活動を行った。発生から3週間経過していたが、避難所は被災者でいっぱいであった。ライフラインはまだ復旧しておらず、水は自衛隊、電気は大型発電機によって供給されていた。口腔衛生状態の不良は肺炎やインフルエンザ等の呼吸器感染症を起こしやすくなることが多いとされており、被災地における口腔清掃、口腔管理は非常に重要である。

近年日本では、大きな災害が立て続けに起こっており、今後も各地で大規模な災害が起こる可能性は高い。今まで、被災地を支援する立場にあった私たちが、被災者になることも十分考えられる。

災害時には、医療従事者として、医療提供体制の整備を優先して行う必要がある。併せて、自分自身や家族、スタッフ、診療所を守ることも大切である。その上で、地域医療へと役割を拡げていけるものと考える。ゆえに、日頃から十分な心構えと準備、地域や行政等との連携体制の構築も重要である。

東京医科歯科大学の中久木康一氏は、歯科医院での災害対策について、「自院のリスクを知る」ことと「災害時における歯科医療従事者に求められる役割」を日頃から意識することが大切であると指摘している。首都中枢機能への影響が懸念される首都直下地震ならびに関東から九州の広い範囲で強い揺れと高い津波が懸念される南海トラフ地震が発生する確率が今後30年以内に70%と高い数字で予想されている現在において、大変重要な指摘である。

関東大震災が発生した91日は防災の日である。改めて、災害対策を見直すに大変いい機会である。災害は防げるものではないが、備えることはできる。いつ起きてもおかしくない大規模災害に備え、歯科医院でも十分な体制整備について考え、備えて欲しい。

当協会では、今後も災害対策に関し、機関紙やHPを通じ、情報発信や研究会の開催などに取り組んで行く。その取り組みのひとつとして、中久木康一氏の執筆による「災害対策」に関する内容で20199月号機関紙より連載企画を行う。ぜひ、お読みいただきたい。

201991

東京歯科保険医協会

地域医療部長

横山靖弘

 

理事会声明「口腔機能に関するガイドラインと診療報酬での評価を求める」(機関紙2019年9月1日号<No.594>6面掲載)

 

理事会声明「口腔機能に関するガイドラインと診療報酬での評価を求める」(機関紙2019年9月1日号<No.594>6面掲載) 

歯科疾患実態調査などから、小児う蝕の減少や高齢者の残存歯数の増加などが既に起きている。これらは、歯科の果たす役割が形態の回復から口腔機能の管理へとシフトしつつあることを示している。健康寿命の延伸、低栄養や筋肉の低下の問題解決には、口腔機能が低下している高齢者の機能を維持・回復させることが重要である。また、その対極にある口腔機能の発達に遅れがある小児に機能を獲得させることについても取り組むべきものである。

こうした中、2018年度診療報酬改定で、小児を対象とした口腔機能発達不全症と高齢者を対象とした口腔機能低下症の管理が保険収載された。しかし、収載されて1年以上が経ち、協会は研究会など通して周知してきたが現場で広がっている実感はない。口腔機能の重要性が国民に広く浸透できていないことや、「治療時間や経費がかかるのに評価が低い」、「診断後に具体的には何をしたらよいのかが明らかでなく、取り組みにくい」など患者に提供する上での課題もあり、普及していかないのが現状だ。このままでは、口腔機能発達不全症や低下症の患者が、必要な管理を受けられずに見過ごされてしまうだろう。

解決するためには、「口腔機能低下症に関する基本的な考え方(平成303月)」などに加え、医療機関の実態に即したより分かりやすく管理方法を示したガイドラインの発出が早期に求められる。また、診断に必要な検査や管理を、診療報酬でさらに評価し、対応できる医療機関を増やすことも必要である。

この声明は、口腔機能の発達不全症・低下症である患者に必要な医療を提供することを目的に、ガイドラインの発出と、診断および管理に関する診療報酬の更なる評価を求めるものである。

201991

東京歯科保険医協会理事会

 

共済部長談話「保険医への休業時の公的保障を求める!」 (機関紙2019年8月1日号<№593>2面掲載)

共済部長談話「保険医への休業時の公的保障を求める!」 (機関紙2019年8月1日号<№593>2面掲載)

全国保険医休業保障共済会(以下、「休保共済会」)は、201981日付で保険医休業保障共済制度(以下、「休保制度」)の約款改定を行い、制度が改善された。

過去、休保制度は2006年の保険業法改定により、募集停止しなくてはならなくなった。これに対し、当協会の会員を始め、全国から制度存続への強い要望が出され、全国保険医団体連合会(以下、「保団連」)を中心に、署名活動、国会要請などの運動を行った結果、2013年に保険業法が再改定された。これは、一定の要件を満たせば認可を受け、以前と同じ制度を継続できるというものである。保団連は要件の一つである休保共済会を設立し、認可特定保険業者として認可を受け、制度を包括移転することで、募集再開を達成した。その後、全国から寄せられた要望を踏まえ、休保共済会を中心に制度改善の議論を行ってきたが、改定には金融庁の認可が必要であり、多くの時間が必要であった。

そもそも休保制度は、病気により長期療養を余儀なくされた開業保険医が、休業中に公的保障を受け取ることができず、生活に困窮し、果ては生活保護に頼らざるを得なかったことを契機に発足した制度である。開業保険医は公的医療を国民に提供しているにもかかわらず、休業時の公的保障がないため、長期休業時には生活に支障をきたしてしまう。さらに状況によっては閉院せざるを得なくなり、本人だけでなく、従業員の生活にまで支障をきたす可能性すらある。また、閉院は通院している患者の治療中断を招き、転院再治療や患者が治療を放置することで医療費の拡大につながるなど、地域医療にも大きな影響を与える。そのため、病気にかかっても療養することを選択できず、不幸な結果になってしまったケースもある。

本来であれば、公的医療を提供し、国民の健康を守っている開業保険医に対して、国は公的保障を用意し、安心して診療に従事できる環境を整えるべきである。協会、保団連は開業保険医の休業に対する不安を解決するための公的制度の確立を長らく求めてきたが、その実現には至っていない。

今後も保団連、全国の保険医協会・医会と協力し、地域医療を守る会員が安心して診療ができるよう、休保制度の充実に努めるとともに、改めて国に対し、休業時の公的保障の確立を求める。

201981日 

東京歯科保険医協会共済部部長

川戸二三江