きき酒 いい酒 いい酒肴 No.33『焼酎 その世界に誇る気品あふれる味わいを…』(機関紙2018年11月1日号/No.584号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.33『焼酎 その世界に誇る気品あふれる味わいを…』(機関紙2018年11月1日号/No.584号)

今年も霜月、11月に入り、気温も低くなり日も短くなりました。太陽が西に傾くと、あっという間に沈んでいきます。まさに、「つるべ落とし」という季語がぴったりの季節です。井戸から水を汲む時、滑車が回って落ちていくつるべ。「つるべ落とし」はどこにでも井戸があり、日々の暮らしに欠かせないものであった時代に生まれた季語なのです。

秋はお酒にとって新年度となります。101日は日本酒の日、111日は「本格焼酎&泡盛の日」に制定されています。1987年、酎ハイブームで焼酎の需要が急速に拡大した後に、本格焼酎の啓蒙を目的に設けられました。本格焼酎とは、単式蒸溜機を使って蒸溜されます。原料の香味成分が溶け込みやすく、独特の芳香、風味があります。それに対して連続式蒸溜機というものを使って蒸溜したものを焼酎甲類と呼びます。こちらはいわゆる酎ハイに使われるものとなります。また、単式蒸溜焼酎の中でも、黒麹を用いた沖縄特産の焼酎を「泡盛」と呼びます。

例えば「芋焼酎」ですが、さつまいもの収穫時期は8月から10月で、収穫後すぐに蔵元に運ばれます。焼酎の仕込みは、9月から12月頃まで行われるのですが、そのまま商品になるのではなく、前年度から熟成させてきた原酒とブレンドされるのが一般的です。しかし、例外的に「新酒」として出荷されることもあり、10月下旬から11月上旬に当たります。新酒の出荷にあわせて蔵を開放してお祝いを行う蔵元もあります。かつて、焼酎の新酒は地元にのみ出荷されていましたが、最近では首都圏にも出回るようになりました。

九州のイメージが強い焼酎ですが、実は東京都内でも地酒として多くの焼酎が造られていることをご存じでしょうか。

東京の焼酎造りの歴史は古く、江戸時代末期の1853年、薩摩の回送問屋主の丹宋庄右衛門が密貿易の罪で八丈島に流されたことに遡ります。当時の島は食料事情が悪く、主食の米を使った酒造りは禁止されました。そこで、さつまいもを使った焼酎を島に伝えたのです。その後、蒸溜技術は三宅島、大島、青ヶ島、神津島へと広がり、各島で個性豊かな焼酎が造られるようになりました。近年、小笠原諸島ではラム酒、島酒を造っているほか、府中市では地元の水田で収穫した黒米を玄米のまま使った焼酎などあります。

府中市の大國魂神社の境内に、「大山昨命おおやまくのみこと」を祭る「松尾神社」があります。本社は京都の「松尾大社」で、大社社殿の背後に湧く水を酒に混ぜる風習が京都では残っています。大國魂神社境内の松尾神社は、江戸時代後期に勧請(かんじょう)されたものです。神道では神霊は分けることができるとされており、勧請とは分霊を移すことをいいます。

先日、400種類もの焼酎を置いているお店で新酒をいただきましたが、大変香りが高く、気品あふれる味わいでした。このような世界に誇る日本ならではの蒸留酒を、以前よりも手軽に飲めるようになってきたのは嬉しいことです。

(協会理事/早坂美都)