きき酒 いい酒 いい酒肴 No.38『はんなりとした吟醸香 伏見の銘酒「玉乃光」』(機関紙2019年9月1日号/No.594号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.38『はんなりとした吟醸香 伏見の銘酒「玉乃光」』(機関紙2019年9月1日号/No.594号)

先日、夏の暑い盛りに京都の「愛宕神社千日詣」に参加する機会に恵まれました。愛宕神社とは、京都愛宕山の山頂に鎮座し、全国に約900社ある愛宕神社の総本社で、火伏せ・防火に霊験のあることで知られています。731日の夜9時より始まる夕御饌祭(ゆうみけさい)から81日の早朝2時から始まる朝御饌祭(あさみけさい)までに参拝すると、千日分の御利益があるそうです。今回、夜11時に登山開始、早朝2時前に登頂し、山頂の愛宕神社ご神事後、「火迺要慎(ひのようじん)」の御札をいただいて下山しました。参道は多くの参拝の方々であふれ、夜の山道はたくさんの灯りがともされています。ご縁があって、祇園の芸妓さんたちと登りましたが、彼女たちは何十枚というたくさんの御札を受け取っていました。挨拶回りに持参するそうです。ちょうど、81日は「八朔(はっさく)」となります。八朔というのは、旧暦で81日(八月朔日ついたち)を指します。もともと「田の実の節」といって、実った田の稲穂に感謝し、豊作を祈ったところから始まっているそうです。「田の実」は「頼み」に通じることから、芸妓さんや舞妓さんが、芸事の師匠やお茶屋などに、日ごろの感謝の気持ちを伝える祇園の年中行事となっています。

猛暑の中の登拝後、水分補給をして少し落ちついたところで無事下山をしたことを祝い、冷たい清酒で乾杯しました。京都市南の玄関口、伏見の銘酒「玉乃光」です。伏見は、かつて「伏水」とも書かれていて伏流水が豊富な土地です。桂川、鴨川、宇治川に沿った平野部と、桃山丘陵を南端とする東山連峰からなっています。

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伏見の歴史は古く、「日本書記」には「山城国俯見村」として記されています。

平安時代には、風光明媚な山紫水明の地として皇室や貴族の別荘が置かれ、安土桃山時代には豊臣秀吉が伏見城を築城し、一大城下町を形成しました。その後、京都と大坂を結ぶ淀川水運の玄関口として栄え、幕末には坂本龍馬をはじめとする勤王の志士たちとともに、近代の夜明けの舞台となりました。

玉乃光で酒造りに使われている水は、豊臣秀吉が醍醐の茶会の時に汲み上げたといわれている御香水(ごこうすい)と同じ伏流水で、「日本の名水百選」にも選ばれています。

また、「祝(いわい)」という京都産酒造好適米を使っています。「祝」は、良質酒米として伏見の酒造で多く使用され、丹波・丹後で栽培されていましたが、稲の背が高く倒れやすく、収量が少ないことなどが原因で、姿を消してしまいます。しかし、伏見酒造組合の働きかけによって、府立農業総合研究所などで栽培法を改良、試験栽培が始まりました。その後、1990年には農家での栽培が始まり、1992年には「祝」の酒が製品化されました。口に含むと優しい吟醸香がひろがります。また、すっきりとした旨味は料理を引き立て、京都ならではの食材との相性が素晴らしいのです。

(協会理事/早坂美都)