きき酒 いい酒 いい酒肴No.26『秋の気分を味わえる秋刀魚と米焼酎』(機関紙2017年9月1日号/No.570号)

きき酒 いい酒 いい酒肴No.26『秋の気分を味わえる秋刀魚と米焼酎』(機関紙2017年9月1日号/No.570号)

昔から食卓に秋刀魚がのぼる季節になると、夏ばてがおさまると言われてきました。

秋刀魚には頭が良くなるといわれているDHA(ドコサヘキエン酸)や動脈硬化を防ぐといわれるEPA(エイコサペンタ)が、ワシやバに次いで多く含まれており、目の劣化予防となるビタミンEや風邪防止のビタミンA、貧血予防のビタミンB12 なども豊富にあります。秋の初め、漁場は道東あたり。その後、三陸、常磐、房総の沖へと南下して行きます。

三陸地方では、生秋刀魚の水揚とともに新酒が出始めるこの時期に、旬の生サンマを思う存分楽しんでほしいという思いから「秋刀魚専用酒」を販売しているところもあります。五五%精米した山田錦を用いた氷温瓶の吟醸酒は、確かに生の秋刀魚刺身によく合います。

しかし、塩焼きには秋刀魚の脂に負けない焼酎を合わせていくのもなかなかです。麦、芋、などさまざまな原料を使った焼酎がありますが、独特のにおいが苦手という方にもお勧めなのが米焼酎です。

その中でも、熊本の球磨焼酎の個性あふれる味わいには驚かされます。

お米を麹と酵母で発酵させた醪(もろみ)を蒸溜するのが米焼酎です。蒸溜というのは、アルコールと水の沸点の違いを利用したものです。醪を加熱すると、先に沸点が低いアルコールが気化します。それを集めたのが焼酎です。中でも、減圧蒸留という製法を使った「鳥飼」という米焼酎は、焼酎の概念を越えています。大気圧よりも低い気圧なので、 沸点が下がります。すると、低い温度から抽出される雑味少ない素晴らしい芳香が得られます。リンゴ、白桃、バナナ、メロンのような甘く華やかで、蜜がたっぷりなフルーツの香りが印象的です。その香りに反して、味わいは大変ドライです。シャープで切れが良く、吟醸酒のような焼酎です。日本酒用の酒造好適米「山田錦」と五百万石を吟醸酒なみに磨き、麹(黄麹菌といいます)と自家培養の吟醸酵母によって醪を作り、減圧蒸留を行っています。

秋刀魚といえば思い出されるのが、佐藤春夫氏の有名な「さんまの歌」です。 

あはれ/秋風よ/情(こころ)あらば伝へてよ/――男ありて/今日の夕餉(ゆふげ)に ひとり/さんまを食(くら)ひて/思ひにふける と。/さんま、さんま/そが上に青き蜜柑の酸(す)をしたたらせて/さんまを食ふはその男がふる里のならひなり…(中略)…さんま苦いか塩つぱいか…(後略)…。

「さんまの歌」の背景には、詩人作家としての人生が込められ、象徴的な意味合いがあり、 大変興味深いのです。佐藤氏は和歌山の出身なので、もしかしたら脂が抜けた秋刀魚を食べていたのかも知れません。道東から寒流に乗って熊野灘まで南下してきた秋刀魚は、脂がほどよく抜けており、寿司にするのにちょうどよいのだそうです。「青き蜜柑」というのは、熟する前に収穫した「青切りみかん」のことです。

今夜は、詩人の人生に思いを馳せながら、脂がのった旬の秋刀魚と、香り高くやや辛口な米焼酎を試してみてはいかがでしょうか。

(協会理事/早坂美都)