きき酒 いい酒 いい酒肴 No.40『<最終回>お酒を通じ礼節を身に着け精神性高める』(機関紙2020年1月1日号/No.598号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.40『<最終回>お酒を通じ礼節を身に着け精神性高める』(機関紙2020年1月1日号/No.598号)

新年明けましておめでとうございます。平成2年、2020年を迎えました。昨年は、年号が「令和」に代わり、新しい時代がやってきたことに期待が込められた年だったと思います。この年末年始、会員の先生方はどのようにお過ごしでしょうか。ご家族やご友人方と賑やかに過ごしたり、もしくは、お一人の時間を静かに楽しんでいることでしょう。新年を祝う席には、お屠蘇やシャンパンが用意されているかも知れません。

◆人類とお酒の歩み

最初に人類が酒類を作った時期は諸説あります。ワインは約7000年前、ビールは約5000年前からだと言われています。

コーカサス地方から始まったワイン作りは、ローマ時代にヨーロッパ全土に広まりました。中世のヨーロッパでは、ワインは「キリストの血」と言われ、神に捧げるお酒として大変神聖で貴重なものでした。

一方、ビールは古代メソポタミアやエジプトから始まりました。当時のビールは、大事な栄養源で、古い壁画にもビール造りの様子が残されています。メソポタミアで起こったシュメール文明では、すでにビールが飲まれていました。初期のビールの製法は、まず麦を乾燥して粉にしたものをパンに焼き上げ、このパンを砕いて水を加え、自然に発酵させるという方法だったようです。後に現在のヨーロッパに伝えられ、地形や気候により、それぞれの地方特有のビールが生まれました。現在、ビールは100種類以上あるといわれています。

中世に入ると醸造酒を蒸留する技術が確立され、蒸留酒が造られます。麦からウイスキー、ブドウからブランデー、芋類からウォッカ、リュウゼツラン(竜舌蘭/多肉植物)からテキーラなど、世界各地で蒸留酒が次々と誕生しました。

◆風土の中で変化へ

このように、お酒は各地の風土の中でさまざまな進化を遂げ、人々に愛されてきました。古代ギリシャではワインの神バッカス、ビールの神ガンブリヌス、日本では大物主大神(おおものぬしのおおかみ)が祀られてきました。昔から宗教的な儀式やお祝いの行事でお酒を用いるなど、単なる飲み物ではなく、文化や習慣において重要な要素であったのです。

◆日本人の最初のお酒

日本人にとっての最初のお酒は、野生のブドウが自然発酵したものだったそうで、縄文時代には酒造が行われていたという説もあります。奈良時代には米と麹を用いた醸造法が確立されましたが、主に特権階級が飲むものでした。お酒が庶民でも入手できるようになったのは、造り酒屋ができ始めた鎌倉時代以降のことです。江戸時代になると、現代と同じような醸造法で作られたお酒が流通し、日常的に楽しむようになりました。明治維新後は、西洋の食文化とともに、ビール、ワイン、ウイスキーなどが日本に入ってきました。

古来、日本ではお酒を神々にお供えすることにより、神聖なものとして扱ってきました。現代でも、お酒は神棚へのお供え、お清め、儀式や行事に用いられ、神様と人々をつなぐ役目を果たしています。日本人はお酒に対して飲みもの以上の価値や嗜み方を高めてきました。古来の日本では酒を造る行為そのものが神事として行われてきました。酒造りの工程毎に、専用の祠(ほこら)が用意され、祝詞を読み上げて執り行われていました。神様への敬意とともに、儀式としての意味合いが強かったのでしょう。江戸時代の随筆を集めた「百家説林」には、日本人の飲酒の考え方が記されています。「礼を正し、労をいとい、憂を忘れ、鬱をひらき、気をめぐらし、病を避け、毒を消し、人と親しみ、縁を結び、人寿を延ぶ」とあります。また、足利時代に生まれたとされる「酒道」は「酔うのを目的とするな酒は優雅で素晴らしいもの」を基本精神に、お酒を通じて礼節を身に付け、精神性を高めようとしました。

桜や月、紅葉など、四季の花鳥風月を愛でながらお酒を楽しむのも、日本人らしい優雅な風習です。現代の私たちにも、先人たちよりお酒にまつわる美意識や研ぎ澄まされた感性が受け継がれているはずです。

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 ☆最終回に寄せて☆

早いもので、「きき酒 いい酒 いい酒肴」は、2014年より隔月で連載を始めて6年が経ちました。お酒は単に酔うものではなく、人と人をつなぎ、長い歴史の中で楽しみだけではなく、苦しみも生んできたものです。神聖なものをして崇められ、絵画や彫刻といった芸術、オペラや歌舞伎といった舞台、クラシックやジャズなどの音楽とも密接に関わってきました。

また、元日のお屠蘇や桜の季節の花見酒などの四季折々の年中行事、人生の祝い事の乾杯、亡き人を偲ぶ献杯など、人々の暮らしとともに心をつなぐ架け橋となっています。そんな世界観を少しでもお伝えできれば幸いです。

長い間、ご愛読ありがとうございました。

【 早坂美都 】

・東京歯科保険医協会理事

・フランスボルドーワイン委員会デュプロマ  C.I.V.E.Diploma

・パリフェミナリーズワインコンクール審査員

・ジャパンウィスキーコンベンション審査員

・スピリッツコンベンション焼酎部門審査員

・FBO 認定  FBO公認講師

・SSI認定 利酒師  日本酒学講師  酒匠

・ANSA認定  ソムリエ

・BSA認定  ビアアドバイザー  スピリッツアドバイザー

・CCA認定  チーズコーディネーター