きき酒 いい酒 いい酒肴 No.36『立夏~竹笋生(たけのこしょうず)』(機関紙2019年5月1日号/No.590号)

きき酒 いい酒 いい酒肴 No.36『立夏~竹笋生(たけのこしょうず)』(機関紙2019年5月1日号/No.590号)

若葉が美しく、爽やかな季節になって来ました。連休が終わった頃から、2週間ほどの間を「立夏」といいます。正確にいうと、2019年は56日(月)より520日(月)までの期間です。

立夏は、「太陽が黄径四五度に達した時」と定められており、地球から見た太陽の動きは、地球の自転や公転によって毎年ずれがあるので、立夏の日は毎年変わります。立夏の文字を見ると6月から7月頃の初夏と勘違いしそうですが、立夏と初夏は違います。立夏は二十四節気の穀雨(こくう)から数えて15日目に当たり、春の風が去って天候が安定し、過ごしやすくなる頃です。二十四節気をさらに細分化した七十二候において、立夏は、蛙始鳴(かわずはじめてなく)、蚯蚓出(みみずいずる)、竹笋生(たけのこしょうず)と分けられます。おたまじゃくしから成長した蛙が鳴き始め、冬眠から目覚めた蚯蚓(ミミズ)が活動し始めます。

「笋」は、音読みが「ショウ」、訓読みが「たけのこ」で、異体字(同じ意味、読み方を持つが字体が異なる文字のこと)に「筍」が挙げられます。日本古来種の筍の、瑞々しい旬の味わいを楽しめる季節となります。

掘ってすぐの若い小ぶりな筍でしたら、茹でただけで歯ざわりよく、軽いえぐみも楽しめます。また、青々とした若竹は、食器や酒器としても活躍します。

「竹酒」とは「かっぽ酒」のことで、竹酒器に入れられたお酒のことをいいます。青竹の節を切り抜き、お酒を入れて提供されます。この時、氷を敷き詰めた入れ物に入れれば竹の香り爽やかな冷酒を楽しめますし、火にくべて熱燗にすれば竹の香りとともに、竹の油がお酒にしみ込んで、旨味が際立つ味わいとなります。

竹酒といえば竹酒器に入れられたものを指しますが、竹そのものを入れ物にしているお酒もあります。不思議なことに、お酒が入っている竹には、穴が開いていないのです。「竹に入った水を飲むと不老長寿になる」という話を聞いて、竹の中に酒を入れることを思いついた方がいました。最初は、竹に穴をあけてお酒を入れて試したようですが、うまくいかず、竹を酒に漬けたりしてみましたが、失敗の連続だったようです。試行錯誤して専用の減圧機を開発し、竹を減圧機にかけて節の中を真空に近い状態にした後に、一晩、酒の中に漬けると、節の中に酒を満たすことに成功しました。飲む時には、錐やアイスピックのようなもので竹の節に穴をあけます。

青葉が美しいこの季節、旬の筍とともに、香り高い竹のお酒もいかがでしょうか。

(協会理事/早坂美都)