広報・ホームページ部

レセコン&オンライン資格確認システム 1台のPCで運用した場合の メリットとデメリットは?

WEBに係る歯科関連の法令やトラブル対応などについて、
歯科専門にサイト制作、運用、コンサルディングを手掛ける専門家が解説する本連載。
今回は「
レセコン」と「オンライン資格確認システム」を1台のPCで運用した場合のメリットとデメリットについて―。

 歯科診療所の床面積と同様に、PCを購入する資金にも限りがあることは言うまでもありません。同じ機密情報を取り扱うなら「レセコンとオンライン資格確認システムのPCを同じものにして運用したい」と思うのが自然ではないでしょうか。今回はこの2つの役割を1台のPCに集約した場合のメリットとデメリットを考えてみます。
 まず前提として、厚労省はレセコンと同一の院内ネットワークを使うことを想定してオンライン資格確認システムの導入を義務化しています。既にIP-VPNに接続されているレセコンを使用している診療所では、既存の院内ネットワークを利用することで新たな院内ネットワークやインターネット回線を増設する必要はありません。
 管理者は、管理すべきPCの設置が1台に限定されるので、気持ちとして負担が軽くなるでしょう。さらに、スペースが限られる診療所では、複数台のPCを置くことが難しい状況もあるでしょう。院内がIT企業のように、多数のPCが並ぶ無機質なレイアウトになりづらいという点もメリットです。メリットについてはある程度容易に想定できると思いますが、問題はデメリットに対する考え方です。
 まず最もネックになるのは、レセコンにも接続されたPCを受付に設置して、常に患者さんの目に触れる場所で運用しなければならないことです。受付は、お昼休みや夕方の混雑する時間帯にたくさんの患者さんが通ります。顔認証端末が繋がったPCが、レセコンにも繋がっているのです。受付のスタッフが目を離すタイミングがあれば、それなりのリスクを伴います。センシティブに扱うべき情報が、患者さんから見えてしまう危険性も排除できないでしょう。
 それだけではありません。盗難、破損ほか、PCに何か不具合が生じると、その瞬間からレセコン、オンライン資格確認のどちらも使用不能になるという危機的な状況に陥ります。これは、診療所運営に大きなダメージになる可能性がありますので、管理の手軽さだけでなく、「めったに起こらない最悪のケース」を〝想定外〟とみなさずに、常に想定してリスクを意識しながらどのように回線を引き、どのようにPCを配置するかを再検討してみてください。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2023年3月号4面掲載)

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)2月1日

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)2月1日

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【新聞2月号】

【1面】

1.オン資システムの原則「義務化」撤回を厚労省に要請
2.【実態調査】現行の保険証廃止「反対」の声 6割超
3.チタン冠やCAD/CAM冠など 診療報酬 適用拡大を要望
4.「探針」
5.ニュースビュー

【2面】

6.オンライン資格確認導入に関しての経過措置/ポイントがよくわかるフローチャート
7.「オンライン資格確認」の経過措置について
8.共済部だより

【3面】

9.所得税改正/2022年分確定申告のポイント・注意すべき「改正点」(税制経営研究所)
10.冊子「保険医の経営と税務 2023年版」
11.2022年分確定申告個別相談会
12.東京歯科保険医協会Facebookご案内
13.「新聞に投稿してみませんか?」機関紙投稿ご案内

【4面】

14.経営・税務相談Q&A第401回/青色事業専従者給与
15.デンタルブックご案内
16.医科歯科連携研究会2022
17.法律相談ご案内

【5面】

18.研修会・行事のご案内

【6面】

19.日本薬科大学・岩堀禎廣氏インタビュー「大切なのは『対患者コミュニケーション』―歯科はもっと家庭内や地域に出て啓発を」

【7面】

20.【Special Serial No.5】社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み/適正なレセプト請求に向けて あるべき水準の歯科医療を/山本光昭氏(社会保険診療報酬支払基金 理事)
21.会員投稿「声」摂食嚥下リハと食支援/五島朋幸氏
22.「かかりつけ医」機能が発揮される制度整備に
23.歯科疾患管理計画書2022年版

【8面】

24.歯周治療成功のキーワードは「チーム医療」と「患者との共同作業」/第2回学術研究会
25.オンライン請求の医療機関は注意が必要/4月から返戻の再請求はオンラインのみに
26.「一般名処方加算」「外来後発医薬品使用体制加算」4月から引き上げ 期間は12月まで
27.厚生労働省が地方厚生局に事務連絡/高点数の個別指導の再開を示唆/2023年度は予定通り中止に
28.新名称は「東京科学大学」24年度統合目指す 医科歯科大・東工大
29.保険収載されたサージセルMD

【9面】

30.症例研究/歯科がない病院から依頼された場合の周術期等口腔機能管理料(Ⅰ)・(Ⅲ)

【10面】

31.連載/歯科界への私的回想録⑤(オクネット代表・奥村勝氏)「歯系大学は受験生獲得イメージ戦略立案を 明大の『都市型大学宣言』と『子どもクリニック』経営を参考に」
32.教えて!会長!!Vol.67 全国からオン資義務化撤回、保険証廃止反対の声
33.理事会だより/2022年度第17回理事会
34.協会活動日誌/2023年1月

【11面】

35.歯科の総枠拡大を求める署名/2月末までに返送を
36.抽選でカタログギフトが当たる!患者さん向けアンケートにもご協力を
37.医療費 歯科が占める割合は横ばい/患者数も増加せず
38.第2回保団連代議員会
39.東京歯科保険医新聞のバックナンバーが読める/協会HPご案内

【12面】

40.通信員便りNo.130
41.神田川界隈/ある歯科医師のつぶやき(呉橋美紀理事/大田区)
42.会員優待ご案内
43.東京歯科保険医協会は、先生方の身近なコンシェルジュ/入会案内
44.書籍「医院経営と雇用管理」/1冊無料配布ご案内

Special Serial No.5/完 社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み/適正なレセプト請求に向けて あるべき水準の歯科医療を

 「東京歯科保険医新聞22年10月号(第631号)」より始まった本連載。医師であり社会保険診療報酬支払基金理事である山本光昭氏にご寄稿いただいた。今回が最終回となる。

 今回は、実施した処置などが認められず、疑問や不満等をお持ちになることが多々あるかと拝察いたしますので、審査結果(査定)に対する疑問等への対応について紹介させていただきます。

医学的妥当性が重要

 まずは、審査結果理由に目を通していただいて、保険診療に照らして自院の診療と請求内容に妥当性があると判断できるならば、各都道府県に設置された審査委員会に確認し、必要があれば、面談して意見交換をしていただければと思います。そこで個々の症例について歯科医学的妥当性が確認されれば、請求通りの復活もあるはずです。
 一方、審査委員会との面談の結果でも納得できない場合には、支払基金のホームページのトップ画面に「相談窓口のご案内」があり、そこから「審査に関する苦情等相談窓口」で電子メール・ファクシミリ・郵送で本部に対して照会することもできます。同窓口は、「審査結果に関する疑問・不満・苦情等」に関する照会窓口で、本部では、照会を受けた内容について、全国における状況も確認しながら、当該審査委員会に対して、より丁寧な対応をするように指示しております。
 なお、厚生労働省の定めた明確な「算定ルール」は絶対的なものとなりますので、仮に歯科医学的に、あるいは現実に問題が大きいならば、所属学会などを通じて国へ算定ルールの改定要望を出していただくことが大切だと思います。これによって、次回診療報酬改定時に算定ルールが見直され、さらに質の高い歯科医療になると考えております。

むすびに

 査定自体は「目的」ではなく適正なレセプト請求に向けての「手段」でしかありません。本来めざすべきは、審査を通じて、あるべき水準の歯科医療を全ての国民が享受できるための支援を行うことだというのが私の考えです。仮に、標準的な治療が行われていないということがあれば、あるべき水準の診療を行っていただくという働きかけがあっても良いのではないかとさえ思っております。
 世界の中で最も優れているといえるわが国の公的歯科医療保険制度を維持し、さらに歯科医療の質を高めていくために、引き続き、東京歯科保険医協会の皆様方のご理解とご支援をいただければと思います。
私も皆様方の診療現場の声を良くお聞きして、微力ながら、尽力してまいります。今後ともよろしくお願いいたします。

山本光昭 / 社会保険診療報酬支払基金 理事

やまもと・みつあき 1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、20157月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。

【教えて!会長!! Vol.67】全国からオン資義務化撤回、保険証廃止反対の声

ついにオンライン資格確認システムの経過措置が示されました。

 昨年末12月23日の中医協総会でオンライン資格確認システム(以下、「オン資」)導入に関する経過措置が示され、加藤勝信厚労大臣に答申されました。「止むを得ない事情」の具体例として6例の経過措置を2023年1月号本紙第2面に掲載したほか、本号第2面にも関連記事を載せていますので、ご参照ください。まだカードリーダーの設置などオン資に未対応の先生は、ご自身が経過措置に該当するか否かを確認してください。会員の先生によって、診療所の置かれている状況が様々だと考えられますので、不明な点があればどんな内容でも結構ですので協会までご連絡いただければ幸いです。

そのほかの全国の各保険医協会・医会での意見や対応状況などを教えてください。

 本稿執筆時は開催前ですが、1月29日に2022〜23年度第2回全国保険医団体連合会(以下、「保団連」)代議員会が開かれます。この代議員会は、全国51の協会・医会で構成される保団連において、2年に1回開催される「大会」が保団連の最高決議機関であり、「代議員会」は大会に次ぐ決議機関です。2年間で半年ごとに3回開催され、今回は年度内2回目の代議員会となります。なお、本会からは私を含め3名の代議員が参加します。
 代議員会では、各協会・医会を代表する代議員が、保団連や各協会・医会に様々な発言・意見を述べ、議論を行います。既に事前配布資料で本会を含めた発言通告が明らかになっていますので、オン資や保険証廃止の関連についてテーマ名を抜粋して紹介します。


・「オン資義務化」「保険証廃止」撤回に向け、国民とともに大きな運動を継続しよう(山口)
・保険証廃止、マイナンバーカードによる資格確認 等システム導入の「義務化」を全国一体となり、必ず阻止しよう(東京)
・オンライン資格確認義務化と保険証の原則廃止を 何としても食い止めよう(兵庫)
・オンライン資格確認導入原則「義務化」・保険証廃止撤回させよう(福岡歯)
・オンライン資格確認システム義務化施策遂行上の問題点(埼玉)
・オンライン資格確認システムの導入を義務ではな く任意に!(東京歯)
・保険証とマイナンバーカードの一体化に反対(群馬)
・保険証廃止反対の世論を盛り上げよう(愛知)
・2024年秋の保険証廃止の撤回を(和歌山)
・政府は国民・医療側の声を直接聞くべき(東京歯)


 そのほか、10万7千名の医師・歯科医師が所属している保団連の各協会・医会から多数(関連25通)の意見を出しています。そして次に、その声を多くの国民にも届けることが必要です。
 「政府が決めたことに反対しても無駄」と諦めず、アンケート調査の結果などを活用しながら、会員の先生方の声を厚労省、国会議員などの各方面に伝えたことにより、今回昨年末発表された経過措置の内容に対し、少なからず影響を与えたと考えます。ここではそのほかの案件に触れることを避けますが、「政治の劣化」が進んだことを感じている昨今、声を上げなければ無視されることを私は危惧しています。
 現在を含め、将来のすべての歯科医療関係者のために、今後も協会活動にご理解を賜り、会員アンケートや署名活動などへのご協力をよろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年2月号10面掲載)

 

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歯科界への私的回想【NARRATIVE Vol.5】 歯系大学は受験生獲得イメージ戦略立案を

明大の「都市型大学宣言」と「子どもクリニック」経営を参考に

毎年23月は、大学受験のピークです。大学は少子化の影響を直接受けますが、その事情は私立の歯科大学や総合大学の歯学部も同様で、各校とも志願者・受験生の獲得に必死です。

◆受験生獲得の一手を

ところで、医学部や歯学部などの専門家養成機関ではないものの、発想やヒントの参考事例として、明治大学(以下、「明大」)の取り組みの一部を紹介したいと思います。医療系学部を併設していない明大ではありますが、総合大学として真剣に検討してきたと理解しています。

明大志願者数が初めて全国1位になった2010年度、マスコミがその取り組みを取り上げました(2014年度からは9年連続で近畿大学)。ポイントの一つに、都心から郊外への移転が主流になった1980年代、当時の納谷廣美教授の「都市型大学宣言」の影響があったようです。日本で初めて、大学の高層ビル化を図った明大の都市型キャンパス「リバティタワー」建設以後、入試改革、新学部創設、地方学生の確保などが進められました。まさにブランドイメージの大転換が受験生から評価されたようです。当時、郊外へ移転した大学は、近年は都心部に回帰しています。まさに、大学は現在の社会状況や受験生の価値観を捉えることが重要のようです。なお、私立歯系大学の某教授は、納谷教授の講演を傍聴し、さっそく教授を学内に講師として招き、改めてご講演をいただいたと、数年前に告白していました。

◆医歯薬系学部のない明大が「子どもクリニック」

また、新たな〝時代〟を実感したのは20211月で、駿河台キャンパス内に「明治大学子どものこころクリニック」が開設された時でした。その趣旨は、児童・思春期は、学生が臨床実習をする上でアプローチしやすい年齢層のため、新たな教育効果が期待できる、オリジナルの教育システムを有することで、公認心理師・臨床心理士養成大学として全国でも先進的な存在となる、大学院では臨床心理学専修の学生への教育(臨床実習)機能、文学部では臨床心理学専攻の学生への教育(実習)機能がそれぞれ拡充されることで、大学本体にもシナジー効果が期待できる―という3点でした。

◆今後の社会に期待される イメージ創りと発信を

さらに、もう一つのポイントは、認知症患者を含む在宅医療に深く取り組んでいる医師で、全国在宅支援医協会や日本在宅ケアアライアンスなどの会長を務める新田國夫氏を明大の講師に招いていたことです。

新田氏は当時について「依頼があったので、何も考えず素直に受けただけでした。講義も在宅療養ではなく、単に地域についてでした。明大で医師の講義が珍しいのか、受講生は意外に多くいたと記憶していますし、試験もしましたよ。まあ、大学が私に何を期待したのかは不明でしたが」と当時を振り返っていました。志望大学決定の理由は様々ありますが、そこでの大学の〝イメージ〟の存在は看過できませんし、高校の進路指導の教員・学生に影響を与えています。かつて前明大学長の土屋恵一郎氏は退任前に、「大学として社会保障分野の研究がないのが今後の課題」と打ち明けていました。

一方、歯科では、17歯系大学が加盟する日本私立歯科大学協会が尽力しています。株式会社大学通信の取材で歯系大学の今後の可能性を羽村章専務理事が、歯科への理解・イメージアップを期待して、ホームページ上で「予防がクローズアップされる時代/歯科医師が地域の健康を支える」と強調。さらに「大学教授ほか大学人も、時代が変わったことを意識してほしいです」と指摘していました。また、事務局長の白石薫憲氏も「今後、社会から期待される〝歯科〟であり、そのイメージの提供は大きいです」と述べています。

看護学部を新設する大学や歯学・栄養学の連携授業を実施している大学などで既に新しいイメージ創りが図られています。確かにイメージは変わりつつありますので、地味ながらも真摯な活動が求められます。なお、前鶴見大学学長の大山喬史氏は、当時「地域の商店街などのイベントには可能な限り出席。歯科の括りから一歩踏み出して地域貢献です」と示唆に含んだコメントをしていました。

今後の歯系大学・歯科医療界に期待したいです。

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想【NARRATIVE Vol.4】 「たかが事務局、されど事務局」 組織を支える“事務局”の重要性を理解

新年、2023年がスタートしました。マスコミは一斉に業界・企業の「今年はコロナ禍の課題を踏まえながらも、新規スタートの年にしていきたい」との趣旨の新年挨拶文や名刺広告で紙面を埋め尽くしているはずです。

そこで、従来の新年挨拶は他紙に譲り、今回は特異な観点から話を進めます。新年の挨拶回りは恒例行事であり、歯科界では、日本歯科医師会(日歯)、日本歯科商工協会、日本歯学図書出版協会、さらに歯科学会の多くの担当部(事務局)が置かれている一般財団法人口腔保健協会もその一つです。

1月15(旧成人の日)以降、業界組織の新年会が開催され、「今年も新たな気持ちで、歯科界は一致団結して飛躍する年になるように頑張りましょう」などの挨拶で活動が始まるのですが、それは事務局のお世話になるということでした。

特に、日歯事務局(医療課・調査課・広報課)は重要視していましたし、同時に地元歯科医師会の行事、日本歯科医学会所属学会の学術大会、企業展示会などの取材でお世話になるのは、いつも地元歯科医師会事務局でした。

香川県歯科医師会主催の会合を取材した際、まず会長から事務局長を紹介されました。その中で、「本県歯は、事務局に全幅の信頼を置いて会務活動をしています。最終的な責任は会長・役員にあるのは当然ですが、事務局員は県歯の一部です」と発言していたことが記憶に残っています。

民間企業でも、確かに対外的に目立つ部署があります。以前、日本歯学図書出版協会の新年会で、某社長が「企画、編集、広報などは目立つ部署なのは事実。同時に地味ですが、総務、庶務、経理等なども組織を支えており、まさに組織は一つ。その点を新たに自覚してほしい」と理解を求めていました。

かつて、厚生労働省(旧厚生省)は、求める部署に直接伺うことができ、時間があれば歯科保健(旧歯科衛生)課長と意見交換・雑談することが可能でした。しかし0811月に起きた元・厚生事務次官の殺害事件以後は、警備員配置や来庁者のチェックが行われ自由な出入りができなくなりました(厚生省職員が同伴する場合は可能)。事前予約を取り、庁舎の受付でチェックを受け、許可されて入場できるようになりました。日歯でも以前は担当課に直接行き、雑談を交わすことができましたが、現在は担当者が受付に降りて要件を確認することが基本になっています。

以上のような様々な場面、経緯を事務局員は知っています。だからこそ「たかが事務局、されど事務局」であり、その重要性は変わらないと考えます。現実的には、会員とそのスタッフの把握、労働環境、対外的対応、理事会などの資料作成、予定外の対応など様々で、日々の労務・作業のボリュームは、想像以上のものと理解しています。

今年は、会場対面方式とオンライン方式の両者を兼ね備えたハイブリッド方式による会合が主流になるとの観測もありますが、コロナ感染管理においては事務局の責務も出てきます。

以前、某日歯役員に1日同行させていただきましたが、確かに激務でした。そして、そこで黙して淡々と事務作業しているのが事務局員。「これが重要であり、組織を支えているのだな」と理解した場面でした。組織ですから、会員数の相違があります。221130日現在、東京都歯科医師会(1種会員5865)から島根県歯科医師会(1種会員227)まで、約26倍の開きがあります。しかし、少数会員の組織でも、事務局は、懸命に諸作業に取り組み、運営しています。

また、私は自分の経験から日本医師会、日本薬剤師会、日本看護協会など、歯科に関連する団体の広報担当部とのパイプ構築は必須と判断し、事務局への挨拶は絶えず意識しています。事務局にも歴史がありますので、その評価は難しいですが、忘れてはならないのは、繰り返しとなりますが「たかが事務局、されど事務局」です。

新年の始動に際し、歯科医療関連の各団体に改めて期待しています。

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

Special Serial No.4 社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み 適正なレセプト請求に向けて5つの留意点

今回は、適正なレセプト請求に向けてご留意いただきたいことを紹介させていただきます。

(1)保険診療には「算定ルール」が存在すること

 保険診療においては、療養担当規則、診療報酬点数表に係る算定告示、留意事項通知、疑義解釈資料に示されたいわゆる「算定ルール」がありますので、それに従う必要があるとともに、その内容は改定されることも多いので、日頃よりご確認いただければと考えております。
 特に、歯科診療報酬点数表は、個々の診療行為ごとに細かい要件に加えて算定単位が設定されています。なお、算定単位や算定回数は診療行為によって異なりますので、「算定ルール」として示されている、例えば「1歯につき」「1顎につき」「1口腔につき」「月1回に限り」などのルールを良く確認した上で請求することが重要ですので、よろしくお願い申し上げます。
 また、支払基金では審査の透明性をより高めるため、審査における一般的な取扱いについて「審査情報提供事例」として取りまとめ、支払基金のホームページで公表しておりますので、これも参考にしていただければと思います。

(2)医薬品には適応疾病が定められていること

 審査にあたっては、医薬品の処方について、医薬品添付文書に記載されている効能、または効果の欄の適応疾病との不一致が問題視されます。特に、ジェネリックも普及しているなかで、有効成分が同じでも、効能又は効果の適応疾患が異なることが多々あり、歯科医学的には効果があり妥当性があっても、保険診療では適応外と審査されることもあり得ます。そのため、医薬品の添付文書は今一度良くご確認をお願いできればと思います。

(3)「画一的又は一律的」「傾向的」と思われる過剰な診療行為は請求内容が認められない場合があること

 本来、個々の患者の病態や個人差などによって診療内容はバリエーションがあるはずにも関わらず、ある特定の歯科医療機関では他の歯科医療機関と比較して、「画一的又は一律的」「傾向的」と思われる過剰な処置の実施などが際立つ場合などがあり、「返戻」を行ない、その妥当性を確認したうえで、請求内容が認められないことがありえます。

(4)提出されたレセプト からの情報で審査が行われること

 審査委員は、提出されたレセプトに記載された情報のみで審査を行っており、カルテに記載されている個々の診察の詳細がわからない状況にあります。審査は同じ専門性をもつ歯科医師によるピア・レビュー(同僚評価)ですので、個々の患者の口腔内の状況に合わせた診療かどうかを「症状詳記」という形でご提出いただくことで、妥当性を認めることがあります。

(5)審査委員は、診療側と支払側との板挟みになっていること

 査定に関しては、「一連」や「同一部位」といった文言などの厚生労働省の定めている一部の算定ルールに曖昧さがあることなどが、診療側(歯科医療機関)と支払側(保険者)との間で常に問題となっています。
 支払側(保険者)は、歯科医学的な知識や経験を必ずしも持ち合わせていません。そのため、支払側の再審査請求は、文書等に記載されたルール等との整合性について厳密さを求める傾向にあり、審査委員が苦労されることが多いことにご理解をいただければと思います。

 次回は、審査結果(査定)に対する疑問等への対応について、紹介させていただきます。

山本光昭 / 社会保険診療報酬支払基金 理事

やまもと・みつあき 1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、20157月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。

【教えて!会長!! Vol.66】マイナポータルで閲覧可能な内容とは

患者さんから「過去の診療情報を調べました」と言われました。どういうことですか?

 本紙2022年11月号の本稿で「医療情報を確認できる仕組みの拡大」の題名で、22年9月11日以降、患者側がマイナポータルで閲覧可能な項目が増えたことをお伝えしました。なお、11月号執筆の時点では、保険医療機関から提出された電子レセプトの内容が反映されるタイミングの問題で患者側が実際にどのような内容を閲覧できるかは不明でした。

実際にどのような内容を閲覧することができるのでしょうか?

 マイナポータルで閲覧可能となった項目は、医療機関から毎月請求される電子レセプトから抽出した情報の中の項目(診療情報)が対象となっています。対象となるのは22年6月以降に提出されたレセプトから抽出を開始し、以後3年間分の情報が閲覧可能です。診療情報について、患者側のメリットとして「マイナポータルにアクセスすることで、患者自身が医療機関で受けた診療行為などの情報をいつでも閲覧可能」と示されています。表に、ある患者さんが実際に確認した結果を示します。
 表を確認していただくと明細書とほぼ同じ内容であることが分かります。保険医療機関が治療ごとに領収書とともに明細書を発行していれば、保険点数の記載がない以外の内容が閲覧できると考えてよいようです。しかし、レセプトの情報には病名や歯式の診療情報が入っていますので、今後、閲覧できる情報が増えていく可能性があります。
 明細書発行は、明細書発行体制加算として、レセプト電子請求を行っている診療所で、医療費の明細書を無料で発行している場合は、再診時に1点を加算するものです。この明細書発行は、20年度診療報酬改定で、公費負担医療にかかる給付による自己負担がない患者(全額公費負担の患者を除く)についても、患者側から求めがあった場合、明細書発行機能がないレセコンを使用しているなど、正当な理由がある医療機関においても明細書発行が義務付けられています。

マイナポータルの利用規約の問題がニュースになっていますが、何が問題だったのですか。

 マイナポータルは、行政サービスの手続きや年金の確認など、様々なオンラインサービスの総合窓口になるデジタル庁が運営するウェブサイトです。昨年11月にマイナポータル利用規約の「システム利用者の責任」の項に、利用者に損害が生じても「所管するデジタル庁が一切の責任を負わない」との記載があることが国会質疑で取り上げられました。全国保険医団体連合会は、すでにこの問題を半年以上前に指摘しています。
 保険医療機関は、マイナポータルを利用してのトラブルが発生した場合、その責を負わなければならないとされています。例えば、マイナポータルには、患者側ができれば知られたくない医療情報が記載されている場合でも医療機関側は確認できてしまいます。このような不必要な内容まで把握できてしまうことは、保険医療機関にとってリスクとなる可能性があります。
 河野太郎デジタル大臣は、11月30日の参院予算委員会で22年内の修正を目指すと答弁していますが、本稿の執筆時点(12月19日)では、修正の発表がありませんので、どのような文言修正になるか不明です。修正が発表されましたら、デンタルブックメールや本会ホームページでお知らせします。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年1月号10面掲載)

 

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【お詫び】「東京歯科保険医新聞」第634号(2023年1月1日)発送の遅れについて

平素より東京歯科保険医協会の諸事業、諸活動にご協力をいただき、御礼申し上げます。

当会が発行しております「東京歯科保険医新聞」第634号(2023年1月1日)につきまして、一部会員の方への未達が生じておりましたが、状況を確認の上、改めて発送いたしました。

お手元に本紙が届いていない方にはご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません。到着まで今しばらくお待ちください。

また、お手元に本紙が届いていない会員の方がいらっしゃいましたら大変お手数ではございますが、協会事務局 広報・ホームページ部(電話:03-3205-2999)までお問合せください。

この度は大変ご迷惑をおかけいたしますが、何卒、ご理解賜りますようお願い申し上げます。

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)1月1日

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)1月1日

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【新聞1月号】

【1面】

1.「叢(KUSAMURA)」石原正道/写真家・歯科医師
2.会長「年頭所感」
3.「探針」
4.ニュースビュー

【2面】

5.オン資システム4月開始間に合わず/経過措置示される
6.すべての歯科医療機関が安心して診療できるように
7.関ブロ要望書提出
8.談話/防衛費ではなく医療・社会保障を充実させ平和な日本を
9.法律、経営&税務相談

【3面】

10.新春号特別企画/2023年新春を飾る投稿写真/テーマは「未来」
11.歯科医師・写真家として活躍巻頭写真飾った石原正道氏
12.施設基準のための講習会を開催
13.IT相談室/歯科医療機関に届く企業を騙った偽メール
14.3年ぶりに改訂版完成 冊子「医院経営と雇用管理」

【4面】

15.経営・税務相談Q&A第400回/医療安全・健康診断について
16.謹賀新年名刺広告(4、5面)
17.研究会行事案内①
18.会員優待サービス

【5面】

19.研究会・行事案内②

【6・7面】

20.慈恵病院理事長兼院長・蓮田健氏インタビュー「望まぬ妊娠に直面する人/罪なき赤ちゃんを救いたい」

【8面】

21.【Special Serial No.4】社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み/適正なレセプト請求に向けて 5つの留意点/山本光昭氏(社会保険診療報酬支払基金 理事)
22.協会史を振り返り現在・未来を見つめるvol.6 「長期継続管理」と「か強診」(中川勝洋氏)

【9面】

23.症例研究/総合医療管理加算について

【10面】

24.連載/歯科界への私的回想録④(オクネット代表・奥村勝氏)「『たかが事務局、されど事務局』組織を支える“事務局”の重要性を理解」
25.教えて!会長!! Vol.66
26.「保険でよい歯を」東京連絡会総会を開催
27.協会活動日誌/2022年12月

【11面】

28.歯科の総枠拡大を求める請願署名 ご協力をお願いします
29.オン資「義務化」の撤回求める/立民・党本部、与野党議員に要請
30.医科歯科医療安全講習会/エイズは減少 梅毒は増加
31.経営管理研究会
32.通信員便りNo.129
33.理事会だより
34.共済部だより

【12面】

35.“金銀パラジウム合金”は引き上げ/“銀合金”は一部引き下げに
36.神田川界隈/ご存知ですか?歯科診療報酬と「健康日本21」(高山史年理事/豊島区)
37.第2回学術ベーシック講座/下顎半埋伏智歯抜歯の基本を伝授 
38.院内感染防止対策講習会/3月までの受講をお忘れなく!
39.電子書籍デンタルブックご案内
40.2022年分確定申告個別相談会
41.(一社)日本接着歯学会開催2022年度学術セミナー「現在の接着修復を整理する」
42.入会案内/東京歯科保険医協会 

長期維持管理政策の歴史 vol.6/完

「長期継続管理」と「か強診」

1.歯管と初・再診料の変更

 歯管の初診月の引き下げとバーターで初診料の引き上げを実施。以前から支払側が問題としている初診時に歯管を算定し、3カ月以内に来院がない患者の割合が50%以上である歯科診療所が25%もあることに対し、「実際に継続管理を行った場合に算定すべき」との主張があった。これへの返答として、初診月の歯管は100点から80点とし、再診月は100点のままとするとともに初診から2カ月以内の算定開始の縛りをなくし、初診から2カ月以上経ってから最初の歯管を算定しても良い扱いとした。また、初診から6カ月を超える継続的な管理には、か強診の場合120点、か強診以外の場合100点の長期管理加算を認めるとした。初診料251点→261点、再診料51点→53点への引き上げに関して支払側は前回18年改定で十分ではないかとの意見であったが、歯科は中医協の調査でも明らかなコストを評価すべきとの主張を展開していた。2019年後半からの欧米での「コロナ禍」の急拡大、日本での感染者の拡大もあり、感染防止対策として受け入れたと思われる。

2.20年度改定での重点は長期継続管理による重症化予防

 「2020年度診療報酬改定では、①かかりつけ機能の評価を進める口腔機能低下への対応の充実、②口腔疾患の重症化予防、③生活の質に配慮した歯科医療の推進―に取り組むとされた。具体的には継続管理対象者の拡大の狙いでSPTの対象とならない歯周病患者へ歯周病重症化予防治療(P重防)が導入され、3カ月に1回算定できるとした。

【対象者】 対象者は、①2回目以降の歯周病検査を終えていること、②ポケットは4㎜未満である多くの部分は正常だが、部分的に限局した炎症またはBOPを認める「病状改善」した状態に対して、スケーリング・歯清・P基処等を行う―となる。G病名も対象だがP混検の患者は対象外である。目的はSPTの「症状安定」とP重防の「病状改善」とでほとんど全ての歯周病患者をカバーする形で重症化予防を進めるとともに初診料の繰り返しを抑制することが目的と思われる。

3. 世代別の口腔機能管理の再編

口腔機能管理・小児口腔機能管理は歯管の加算から独立した管理料と緩和された。また「特疾管」「歯在管」「周Ⅲ」の点数も引き上げ、管理への誘導を図った。

4. CAD/CAM冠の適応を上顎6番まで拡大

18年に下顎6番に導入されたCAD/CAM冠を上顎6番まで拡大しメタルフリーの一助としたが、1810月以降歯科を悩ましているのは12%金パラの逆ザヤ問題である。19年10月に1グラム1,675(税込)に改定した時点でも販売価格との逆ザヤは460円に達していた。この状態は今なお続いており、最大1グラム当たり1,000円に達する時もあった。協会・日本歯科医師会の粘り強い運動もあり素材の変動率による改定を1月・4月・7月・10月と、年4回行うこととなり、価格の参照時期も3カ月前から2カ月前の素材価格と短縮されたが、純パラジウムは価格の変動が激しく、円の上下もあり12%金パラの流通価格および素材価格とはかなり乖離した動きで高止まりのままである。22年度改定ではチタン冠やCAD/CAMインレーが導入された。硬さや強度に問題があるものの、対応策の一つとしてアピールする狙いが伺える。

5.22年は「コロナ禍」のなかでの改定となった

初・再診料を前回に続けて増点をしたが、P基処10点の廃止とセットでいつものやり方、スクラップアンドビルドである。2022年のテーマは地域包括ケアの推進であり、在宅歯科医療の改定が行われた。具体的には、以下の2点の通り。

  • 歯援診2の要件を引き下げるとともに、20分未満の診療の減算を一人だけの場合は70100から80100と減算幅を縮小し、訪問診療の増加を意図した。
  • 訪問口腔リハの内容変更。摂食機能障害に加えて20年改定で導入した「口腔機能低下症」の対象を65歳以上から50歳以上へと拡大。在宅への訪問診療を増やすための施策を次々と出してくるが、訪問専門ではない一般診療所では外来診療の合間にしか対応できない現状では拡大は難しい。

6.「か強診」の変更

SPT(Ⅰ)とSPT(Ⅱ)の統合が行われ、SPTとなり、か強診の届出の有無によって点数に差がつけられた。か強診の届出をしていない医療機関は、SPTの算定は3カ月に1回、歯周外科を実施した場合は月1回算定できる。か強診を届け出ている医療機関は毎月算定することができる。

【最後に…】

過去30年にわたる診療報酬改定の流れを雑誌「歯界展望」への拙稿から振り返ってみました。疾病治療から予防管理への流れの中で、行政の姿勢・方向に対し、開業医としての意見を届ける協会活動の大切さを改めて感じています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

中川勝洋
東京歯科保険医協会 第3代会長、協会顧問

なかがわ・かつひろ:1967年東京歯科大学歯学部卒業、1967年桜田歯科診療所開設、1981年東京歯科保険医協会理事、昭和大学医学部医学博士授与。1993年協会副会長、2003年協会会長、2011年協会会長を辞し理事に。2022年理事を勇退し協会顧問に就任。

 

東京歯科保険医新聞/新春号特別企画(2023.1月号)

東京歯科保険医新聞では、2023年1月号の紙面を彩る写真を先生方から募集しました。

この度は多数のご応募をいただき、誠にありがとうございました。

今回のテーマは『未来』。会員の先生それぞれが表現する“未来”をご覧ください。

 


▼以下、1月号の紙面に掲載した作品をご紹介します。※敬称略、順不同

「暗闇の先には輝き」/撮影:東京都中央区/臼井 伸行(葛飾区)

 

「干支にちなんで飛躍の年となります様に」/撮影:新潟県湯沢町/川本 弘(足立区)

 

「光の道」/撮影:神奈川県三浦市/神澤 晃(杉並区)

 

 

「躍動」/撮影:富山県立山町/吉田 真理(武蔵野市)

 

会長「年頭所感」/2023年1月1日

2023年 東京歯科保険医協会会長
年頭所感

2017年6月の定期総会で会長を拝命し、6回目の年頭所感として新年のご挨拶をさせていただきます。

5年前の年頭所感で本会会員数5277名とご報告し、今年5951名(1月1日現在)と会員数は順調に増加しております。この会員増には、既会員の皆様から多くのご紹介があり、この場を借りて先生方のご協力に厚く御礼申し上げます。また、未入会員の皆様におかれましては、本会へのご入会によって多くのメリットがあると自負しております。今一度、ご入会のご検討をよろしくお願い申し上げます。

さて、振り返ると22年はさまざまな出来事がありました。新型コロナウイルス感染症は、 20年初頭から全世界、日本国民、そして我々歯科医療機関を苦しめ、今年で4年目に突入します。22年、年明け早々に、それ以前にないレベルの「第6波」となる急激な感染拡大、さらに7月からの「第7波」は感染者が20万人を超える日も多く、日本の新規感染者数が7月末から4週連続で世界最多とWHOから報告されました。そして、「第8波」の中にある現在、全数調査が行われていないため患者数の把握は困難ですが、感染拡大は進んでいます。

しかし、この3年間、歯科医療機関において感染拡大に繋がる大きな問題は報じられておらず、歯科医師やスタッフの方々の日々の対応が評価されるべきです。対策のための物品費や感染対策に時間を割くスタッフに対する経費は、残念ながら22年度診療報酬改定の中で十分な評価が得られたとは言えません。本会が実施した会員アンケート結果では、22年度診療報酬改定が「良かった」と回答した方は6.5%と少なく、さらに新興感染症の対策としての初・再診料の各3点引き上げについては「感染対策に見合う評価ではない」との回答が93%でした。次期改定に向けて、本会としてさらに現場の実情を国会議員や厚労省に訴えていきます。

オンライン資格確認の原則導入の期限が本年4月に迫ります。導入の原則義務化に対する会員アンケート結果は、78%が「反対」でした。会員の声を背景に本会が訴えてきた「原則」の撤回、ならびに配慮措置・経過措置については昨年末の中医協総会で決定されましたが、様々な理由で導入が困難な医療機関への配慮が必要であることは引き続き訴えていきます。また、10月に開始される「インボイス制度」のほか、「電子帳簿保存法」「マイナ保険証への一体化」「電子カルテの導入」「物価上昇」など、今後も数多くの課題が山積しています。

会員の声の大小に関わらず国会議員、行政、自治体、そしてメディアを通じて国民に伝え、歯科医療の改善の力となれるよう、引き続き活動して参ります。また、今後も会員の皆様の声を集めるため、アンケートをはじめ、各種調査を行いますので、その際はご協力賜りますようお願い申し上げます。

そして、本年は本会設立50周年を迎えます。今後も倍旧のご支援をよろしくお願いいたします。

 

 2023年1月1日

東京歯科保険医協会会長

坪田 有史

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)12月1日

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)12月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)12月1日 第633号

【1面】

   1.オンライン資格確認・マイナ保険証/課題山積 医療機関に募る不安
   2.オンライン資格確認システムの導入に係る補助金支給
   3.多発する医療機関へのサイバー攻撃/ランサムウェア被害が増加傾向 厚労省が注意喚起
   4.オンライン資格確認の原則義務化・保険証廃止に関する実態・意識調査ご協力の御礼
   5.「探針」
   6.ニュースビュー

【2面】

   7.2023年1月 歯科用貴金属価格改定 金パラは引き上げ・銀合金は引き下げ
   8.昨年度 高点数による個別指導の実施はゼロ
   9.オン資とマイナ保険証等で強い抗議/保団連関ブロ協議会が決議と特別決議
   10.12月より新たな局所止血材が保険収載
   11.オーラ注が8~9月に出荷調整
   12.東京歯科保険医協会ホームページご案内

【3面】

   13.ドクター・スタッフ講習会~シャープニング・SRP実習~開催/“スタッフ教育にご活用を”
   14.第4回メディア懇談会“オン資”原則義務化・健康保険証廃止など医療機関側の負担を主張
   15.義歯政策の基本を伝授/第1回若手歯科医師向けベーシック講座
   16.会員寄稿「声」未だ見えぬ歯科医療の行方~患者さんを想いながら~(矢澤奈保美氏/大田区開業)
   17.「歯科医療費の総枠拡大」で一致/保団連歯科全国交流集会を開催
   18.休業保障制度ご案内
   19.共済部だより

【4面】

   20.教えて会長!! No.65「電子処方箋って?」
   21.経営・税務相談Q&A No.399「年末調整・領収書の再発行」
   22.IT相談室/オンライン資格確認システム導入で気を付けたい「無駄な投資」永田康祐(クレセル株式会社)
   23.法律相談、経営&税務相談
   24.東京歯科保険医協会 Facebookご案内

【5面】

   25.研究会・行事案内
   26.会員優待のご案内
   27.年末年始 協会事務局休務のお知らせ

【6・7面】

   28.ヴィンヤード多摩・森谷尊文氏インタビュー「ぶどう栽培から広がる共生社会 社会貢献に想い馳せる」
   29.東京歯科保険医協会 資料請求ご案内

【8面】

   30.【Special Serial No.3】社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み/審査結果の不合理な差異解消に向けて 山本光昭氏(社会保険診療報酬支払基金 理事)
   31.協会史を振り返り現在・未来を見つめるvol.5 「口腔機能管理と『か強診』」(中川勝洋氏)

【9面】

  32.症例研究/居宅での訪問診療

【10面】

   33.連載/歯科界への私的回想録③(オクネット・奥村勝氏)「マスクが教える『世界文化の相違』と『着用者の深層心理』」
   34.通信員便り No.128
   35.理事会だより
   36.協会活動日誌/2022年11月

【11面】

   37.「患者さんの声を集める」待合室キャンペーン開始/アンケートに答えた患者さんにカタログギフトが当たる!
   38.衆・参両院の与野党 国会議員に要請実施/オン資導入「選択の自由」と75歳以上2割化の中止を求める
   39.加藤厚生労働大臣に要望証/日歯
   40.歯科技工シンポジウム10・29 大臣告示7:3問題
   41.保険でより良い歯科医療実現を/いい歯デー宣伝行動を巣鴨で実施
   42.目の前に実物保存の「第五福竜丸」
   43.書籍案内

【12面】

   44.年末年始 休診案内ポスター&卓上型プレート
   45.神田川界隈/国民が求める歯科医療界(藤野健正監事/渋谷区)
   46.特別企画「今年の漢字」2022応募結果発表
   47.「歯の健康の大切さに気付けた」などの声が!保険医協会 健康まつり2022

長期維持管理政策の歴史 vol.5

口腔機能管理と「か強診」

 2018年4月は6年に1度の医療・介護の同時改定であり、地域包括ケアシステムの構築を目指た内容で、歯科においても、

①かかりつけ歯科医の機能の評価

②周術期等の口腔機能管理の推進

③質の高い在宅医療の確保

などを行うとともに、安心・安全な歯科医療の充実として、

㋑院内感染防止対策の推進

㋺ライフステージに対応した口腔機能管理の推進

㋩全身的な疾患を有する患者に対する歯科医療の充実

が取り上げられた。

 また、「院内感染防止対策の推進」としては初・再診料の見直しが行われた。これは14年、および17年に口腔内で使用する機器(タービン等)について、患者ごとの交換に関する記事が新聞掲載されたことに対する厚労省の対応で院内感染防止対策を推進するとして初診料に対する施設基準の新設と併せて、10月1日以降に初・再診料の見直しを行った。初診料3点、再診料3点の引き上げだが、歯科外来診療環境体制加算(外来環)を算定している歯科医療機関は1点の引き上げで世間向けのポーズである。

 20年度改定でも感染防御への対応として初・再診料ともに引き上げられ初診料は261点、再診料は53点となったが中医協の論議での1回あたり268円のコストには見合ってはいない。「かかりつけ
歯科医機能の推進」として各種医科との連携関係の管理料が見直され、管理がより強く打ち出された。また、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)の施設基準見直しが行われた。
初期齲蝕およびSPTの管理実績の追加、研修内容の見直しおよび地域連携の参加実績の要件を追加した。

①フッ化物歯面塗布処置又はエナメル質初期齲蝕管理加算あわせて10回以上

②SPT(Ⅰ)またはSPT(Ⅱ)があわせて30回以上

③訪問診療1または訪問診療2が5回以上

④情Ⅰ又は診療情報連携共有料の算定が5回以上

⑤地域連携に関する会議への参加実績

など、大変細かな条件が追加され、施設基準の届出を行う歯科医療機関には高いハードルとなり、既届出医療機関も20年3月
31日までに新しい要件を満たすことができなければ返上というルールで選別を図った。

質の高い在宅医療の確保
 20分要件を厳格化し、20分に満たない場合の70/100算定を取り入れる一方、一人のみの訪問の評価は引き上げるとともに歯科訪問診療移行加算を新設。また、歯科衛生士同行の評価としての歯科訪問診療補助加算(訪補助)も歯援診に限っていたものを歯科訪問診療を行う医療機関へと拡大し、かかりつけ歯科医として在宅診療にも積極的に取り組むよう誘導した。
 また、「歯援診」を1と2に分化するとともに「歯在管」および「訪問口腔リハ」を見直して在宅に関しては「歯援診」届出医療機関を「か強診」届出よりも重視している様子が見て取れる。
歯科衛生士が訪問する場合の患者が住む建物の概念を同一建物から単一建物へ変更、「同一日」ではなく「同一月」に何人を診療したかによって算定する方式に変更され、かかりつけ歯科医の訪問には手厚いが訪問専門の保険医療機関には厳しい内容となった。

 ライフステージに対応した口腔機能管理の推進15歳未満の子どもの口腔機能発達不全、および65歳以上の高齢者の口腔機能の低下に対して「口腔機能発達不全症」「口腔機能低下症」の新しい病名を導入し、歯管に対する加算100点を新設した。低下症の診断基準の検査項目として新たに「咀嚼能力検査」「咬合圧検査」「舌圧検査」を導入した。「咀嚼能力検査」「咬合圧検査」は有床義歯咀嚼機能検査1・2にも利用されエビデンスに基づく算定を強化した。


メタルフリー修復の拡大
 先進国で臼歯部にメタル歯冠修復をする国は少なく、以前からメタルフリーが求められていたが、下顎第一大臼歯に限りCAD/CAM冠が導入された。条件は厳しく上下左右の第二大臼歯が全て残存し、左右の咬合支持がある患者とされた。20年にはパラジウム合金の逆ザヤ問題もあり上顎第一大臼歯にも拡大されたが脆弱性の問題がある。
20年改定に向けて歯科では「長期継続管理による重症化予防」がメインで「歯管」の見直しとともに、初・再診料の引き上げを行った。支払側は前回で十分ではとの意見であったが診療側はコストを重視して欲しいと要求、10 点・2点の増点とされたが、この時点では「コロナ禍」は認識され
ておらず20年4月を迎えた。

 

中川勝洋
東京歯科保険医協会 第3代会長、協会顧問

なかがわ・かつひろ:1967年東京歯科大学歯学部卒業、1967年桜田歯科診療所開設、1981年東京歯科保険医協会理事、昭和大学医学部医学博士授与。1993年協会副会長、2003年協会会長、2011年協会会長を辞し理事に。2022年理事を勇退し協会顧問に就任。

 

【教えて!会長!! Vol.65】電子処方箋って?

電子処方箋について教えてください。

 「電子処方箋」とは、電子的に処方箋の運用を行う仕組みです。そのほか、複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤された情報の参照、それらを活用した重複投薬などのチェックなどが行えると紹介されています。運用開始は2023年1月からですから、来月からスタートします。
社会保険診療報酬支払基金から11月の振込通知書が送付された封筒に「電子処方箋の導入準備をはじめましょう!」との案内が同封されていました。また、オンライン資格確認のために顔認証付きカードリーダーを申し込むために登録した「医療機関等向けポータルサイト」からも、「電子処方箋」の導入を促す内容のメールが届いています。それらに反応して、当会会員から協会に「電子処方箋」についての問い合わせの数が増加しています。

先電子処方箋の導入に必要なものは?

 まずHPKIカードの発行申請が必要です。歯科医師は一般財団法人医療情報システム開発センターに発行申請を行います。そこからはシステム事業者へ発注し、パソコン(オンライン資格確認の機器など)の設定などを経て、運用開始します。その後、補助金申請という流れが示されています。

HPKIカードとは?

 HPKIカードは資格証明書です。所持する人が医師・歯科医師・薬剤師の資格を有する者であることを証明するカードです。電子処方箋を導入すると、従来のハンコによる記名押印、あるいは署名ではなく、HPKIカードの電子証明書の情報を用いて、電子的に署名を行うので、電子処方箋を導入する場合は、HPKIカードが必要になるのです。なお、HPKIカードの発行手数料は、5万5000円(税込み)で、カードの有効期限は約5年です。また更新料は5万5000円で、継続するためにはランニングコストが発生します。

歯科にも必要ですか?

 行政は、電子処方箋を医療機関・薬局の多くに導入してもらうことを目指しています。歯科医療機関もその対象です。行政側は、歯科医療機関への導入メリットを示しています。しかし、私見ですが、処方の頻度が高い薬剤が、抗生剤や消炎鎮痛剤のみであったり、また院内処方を行っている歯科医療機関に導入のメリットが多くあるのでしょうか。HPKIカードの発行手数料からそのランニングコストと効果にも疑問があります。概要は、「オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関等向けポータルサイト(QRコード)」の中にある電子処方箋の案内ページをご覧ください。
 今後も適宜、本紙をはじめ、デンタルブックメールニュース、協会ホームページなどでお知らせします。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年12月号4面掲載)

 

▼「教えて!会長!!」バックナンバーをチェックする

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)11月1日

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)11月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)11月1日 第632号

【1面】

   1.オン資導入「義務化」は撤回を/導入しない自由必要
   2.来年秋 健康保険証廃止/全国で批判の声相次ぐ
   3.オンライン資格確認の原則義務化・保険証廃止に関する実態・意識調査ご協力のお願い
   4.「保険医協会 健康まつり2022」約800人来場し大盛況
   5.「探針」
   6.ニュースビュー

【2面】

   7.談話/健康保険証の廃止は今後大きな禍根と問題を生じさせる(政策委員長 松島良次氏)
   8.「事務負担増」「情報漏洩」オン資「義務化」に疑問の声
   9.歯科診療所 利点わずか/電子処方箋システム
   10.東京歯科保険医協会ホームページご案内

【3面】

   11.75歳以上2割化 10月から開始/窓口業務に多大な混乱
   12.開業歯科会員アンケート/今次診療報酬改定 4割が評価せず
   13.第1回学術研究会/スタンダードプリコーションと飛沫対策の強化が有効
   14.これから始める歯科訪問診療講習会/踏み出そう!歯科訪問診療!
   15.「保険でよい『歯』を」東京連絡会2022講演会
   16.新規開業医講習会/最新の指導情報を解説 講習内容は毎回リニューアル
   17.書籍案内「歯科疾患管理計画書(初回用)」

【4面】

   18.経営・税務相談Q&A No.398「書類等の保存期間~電子カルテの保存ルールは?~」
   19.研究会・行事のご案内①
   20.法律相談、経営&税務相談

【5面】

   21.研究会・行事のご案内②

【6面】

   22.東京大学・本田由紀氏インタビュー「残存する『戦後日本型循環モデル』打開で新たな社会の構築を」

【7面】

   23.【Special Serial No.2】社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み/審査支払に関する業務の概要 山本光昭氏(社会保険診療報酬支払基金 理事)
   24.保険医協会 健康まつり2022/詳報(1面続き)

【8面】

   25.教えて!会長!!Vol.64「医療情報を確認できる仕組みの拡大」
   26.IT相談室/“どうしても気になる”検索順位…SEO対策 Vol.2「SEOの本質」永田康祐(クレセル株式会社)
   27.中川勝洋氏連載、お休みのお知らせ

【9面】

   28.症例研究/Ni-Tiロータリーファイルを用いた加圧根管充填処置

【10面】

   29.連載/歯科界への私的回想録②(オクネット・奥村勝氏)「歯科業界マスコミの限界と期待」
   30.理事会だより
   31.生活保護指定医療機関 一般指導を実施/指定更新の医療機関中心に動画配信・受講確認票の提出が必要
   32.電子書籍「デンタルブック」ご案内
   33.協会活動日誌/2022年10月

【11面】

   34.会員寄稿「声」歯科医師と地域のつながり~町会長として地元を想う~(貝塚浩二氏/葛飾区開業)
   35.インボイス制度の正体【後編】制度の概要と影響(協会顧問税理士・荒川俊之氏)
   36.平和の尊さ訴える/3年ぶり現地開催「反核医師のつどい」
   37.休業保障制度お申し込みご案内
   38.共済部だより

【12面】

   39.医療研究フォーラム/会場・オンラインで同時開催 馬場副会長・相馬理事が発表
   40.神田川界隈/自分の歯は自分で?(半田紀穂子理事/台東区)
   41.通信員便り No.127
   42.新春号特別企画・「今年の漢字2023」募集中
   43.年末年始 休診案内ポスター&卓上型プレート

第18回/最終回 それでも保険制度に守られている?

【今後の技術革新を保険制度の変革につなげるには…】

1年半にわたるこの連載も、今回で最終回です。そこで、多くの歯科医療者が感じているであろう保険制度への不満と、技術革新がそうした状況を打破できるのかについての考察をまとめます。

◆70年代から「保険は限界」とされた

東京歯科保険医協会が東京都23区内に届出のある歯科技工所の経営実態を調べた調査(2021年1月18日公表、有効回答211件)によれば、2019年度の売上で「80%以上が保険」という回答が52%でした。そして、「総売上500万円以内」という回答が27%であるなど、個人ラボを中心に低収入で長時間労働、という実態を浮き彫りにしました。

以前から、保険技工の不採算性が問題でしたが、テナント料、人件費など固定コストが高い23区内の歯科技工所でも保険技工を中心にしているところが意外に多いことが印象的です。

私が歯科業界に入った1990年代の終わり頃から、「保険では食べられない」、「保険ではちゃんとした治療ができない」という声をたくさん聞いてきました。

こうした「保険診療限界説」は医科ではあまり聞きませんが、歯科ではかなり昔から語られてきました。『日本歯科新聞』の1977年5月11日号には、諸外国に比べて日本の歯科の保険診療単価が極めて低く抑えられていることを示す表が掲載されました。その号のコラムのタイトルは「限界に来た保険制度」というもの…。低単価政策に悩まされながらも、多くの歯科医師、歯科技工士らが保険診療を担ってきました。月刊『アポロニア21』に掲載した完全自費診療に移行した歯科医師のエッセイに、「保険扱い」の文言を看板に入れられなくなるのが不安、という一節があったのを覚えています。

◆技術革新は制度を変革するか?

保険制度には不満がある、けれども保険の仕事は続けたいという本音がある中、技術革新がさまざまな矛盾を解決してくれるとの期待も大きいようです。

その代表格がCAD/CAM技術。10年ほど前、院内用CAD/CAMを導入したドイツの歯科診療所を取材した際、「委託技工の工賃が上がって、単冠のクラウンならこうした機械に頼るしかないんだ…」との院長の率直なコメントに、同行してくれたメーカーの方の顔が凍り付いたのを思い出します。その後、機器やソフトの精度が飛躍的に向上し、「デジタルデンティストリー」の隆盛に繋がっています。

当時から、「光学印象データを海外に飛ばす国際流通が進むだろう」、「作業工程が効率化され、歯科技工士不足が解消されるだろう」などの予測が見られま 技術革新は制度を変革するか?した。日本はCAD/CAM冠を積極的に保険診療に導入している特異な国ですが、現状、保険技工では海外委託が(表向き)認められておらず、歯科技工士の不足はより深刻化しています。

逆に、治療効率が上がることによるオーバートリートメントを心配する意見も。アメリカ歯科医師会(ADA)のご意見番、ゴードン・クリステンセン氏は『JADA』(2013年10月号)に「2012年の1年間で全米で5450万本のクラウンがセットされた」との論文を掲載。CAD/CAMで簡単にクラウンが作製できるようになり、充填処置で済む症例でも「簡単で価格も高い」という理由から、より侵襲の大きいクラウンが選択されたと批判したのです。技術革新が、必ずしも患者利益には結び付かない例だと言えます。

今後の技術革新を保険制度の変革につなげるのであれば、歯科業界の都合だけで議論するのではなく、患者利益の視点が大切なのだと考えています。

(最終回)

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第17回 コロナに強い医療制度はどこにあるか?

【各国の医療システム運営の違いで長・短所が如実に】

新年早々、首都圏の四都県に「緊急事態宣言」が再発令されました。「このままでは医療崩壊が現実化する」という危機感が医療従事者の間で共有されていますが、「なぜ、はるかに感染者数が多くて病床が少ない他国で、医療崩壊が報じられていないのか?」と疑問を呈する意見も見られます。なぜ、日本は危機的な状況に陥ったのでしょうか。

◆病床の割り振りが難しい背景には

地域によって、「コロナ患者を収容する病床が不足している」と連日報道されます。周知のように、コロナ前の日本では、病床の偏在、過剰が問題になっていました。

しかし、余っていると思っていた病床の多くが、肝心な時に使えないことが分かったのです。中小病院や精神科病床が多い日本では、コロナ禍に即応する機能を持つ病床が限られていたことが問題だとされています。

これに対して、歴史的経緯から公的機関や慈善組織が所有する病院が多いアメリカや、ほとんどの病院が国営医療のNHSで運営されているイギリスでは、緊急事態での政府との連携が図りやすく、病床の割り振りが効率的だったという側面は無視できません。

かといって、「だから日本はダメなのだ」という話にはなりません。病床配分が効率的な欧米のほうが、民間病院主導の日本、韓国、台湾などよりも、コロナ対策の面で成功してい

るとは、到底、言えないからです。

今回のコロナ禍で、「日本の弱点が露呈した」と言われていますが、日本に限らず「医療先進国」といわれる国々が予期せぬ感染症に脆弱だったことは否めません。

すでに指摘(第9回)したように、日本を含めた先進国の公的医療システムが、NCDs、高齢化といった課題に対応してきた反面、ややもすると感染症を「過去の病気」かのように

軽視してきたためだと言えます。

結果、コロナ禍のような緊急事態で、医療提供が逼迫する事態となりました。

かくいう私も、がんの再発に備えて定期的な検査を受けていますが、常に「病院機能がマヒしたらどうしようか?」と、コロナ感染以外にも不安を覚える毎日です。

◆かかりつけ医制度とコロナ禍

一方、「かかりつけ医(歯科医)機能」とコロナ対策を関連づける意見もあります。強制力のある「かかりつけ医制度」がない日本は、効果的に感染者を隔離・収容するシステムが上手く機能しなかったとの批判です。

日本では、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」に代表されるように、一部の医療機関が届出をして保険制度上の優遇を受けられるようになっていますが、地域住民のすべてが決められた歯科診療所を受診することを強制されるわけではありません。

これに対して、かかりつけ医が医療制度にビルトインされている欧州諸国では事情が違います。

スウェーデンやイギリスといった、税金を主な財源とする公的医療システムの国の場合は、地域住民すべてが決められた「かかりつけ医」(家庭医)を通さないと、公的医療を受けられない仕組みです。

患者さんの選択肢は狭まりますが、かかりつけ医が地域の状況を把握しやすいメリットがあるとされます。しかし、「かかりつけ医制度がコロナを防いだ」とする信頼性の高いエビデンスはありません。

医療経済学者の二木立氏(日本福祉大名誉教授)は、70歳以上で8割もの人がかかりつけ医を持っていることに着目(日医総研、2020年10月調べ)。強制力のある制度がなくても、人々が必要に応じてかかりつけ医を見つけていることから、安易に「かかりつけ医制度が未整備だ」と、日本の弱点のように考えるのを戒めています。

このように、公的医療システムの問題点は、「簡単に結論の出る話ではない」、ということでしょう。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第16回 「歯科先進国では〇〇」ってホント?

【日本はもう少し自信を】

よく、「アメリカやスウェーデンなどの歯科先進国に比べると、日本は…」といった、日本を卑下するような論調を聞くことがあります。しかし、「歯科先進国」というのは定義が曖昧で、イメージが先行しているようです。

歯の健康意識や歯科疾患の実態を見ると、日本はもう少し自信を持って良いように思えてきます。

◆「アメリカ人の歯は悪かった」の理由

2015年に「アメリカ人の歯は、イギリス人より悪い」というニュースが話題になりました。国際的な医学雑誌「BMJ」が、同年のクリスマス版(左記表紙参照)で「25歳以上、の成人の欠損歯数を比較したところ、アメリカ7.31本に対して、イギリス6.97本だった」という記事を掲載。各国のメディアが取り上げました。

これがニュースになった理由は、欧米人の間で「イギリス人は、歯の健康に無頓着で、歯が汚い」、「アメリカ人は、歯の健康への意識が高く、歯がキレイ」というのが共通のイメージになっており、予想と異なる結果だったためです。

こうした比較はデータ元によって大きな違いが生まれるものですが、いずれにしても、日本(65〜69歳で平均6.7本、厚生労働省2016年)より良好とはいえない数字です。

アメリカの歯の健康度が低いのは、主として人種間格差によるものと考えられています。白人、アジア系に比べ、ヒスパニック、黒人の健康度が低く、それが全体のレベルも下げている構造になっているのです。公的医療が未整備で、社会経済的なリスクが表面化しやすいと言えます。

◆歯科先進国は18世紀にもあった

「歯科先進国ネタ」は、かなり以前から見られます。18世紀の終わり、ロンドンやバース(日本で言えば熱海のようなところ)で、歯科医院を開業していたシュバリエ・ラスピーニは、イタリアの大学で外科医のライセンスを取ったと宣伝。「イギリスと違い、イタリアやフランスでは、人々の歯への意識が高い」として、イタリア直伝の歯みがきや精油を手広く販売していました。ラスピーニは、インドなどにも通信販売ビジネスを展開し、さらにはフランスの最先端技術だった陶製人工歯のイギリス、アメリカへの伝播にも一役買ったとされています。

当時、イタリアやフランスは先進国で、イギリスなどは辺境の途上国とされました。これらの先進国から来たものであれば、多くの人が競って商品やサービスを購入したため、「イタリア、フランスでは…」が通用したのです。

◆「歯科先進国」の健康意識

歯科先進国の意識の高さを反映するとされる定期受診率も、再検討の余地がありそうです。「スウェーデンでは、国民の歯科保健意識が高く、国民全員が歯科健診を受けている」とされますが、赤司征大氏(ホワイトクロス代表・歯科医師)が、欧州各国における過去1年間の歯科受診経験を比較したところ、デンマーク78%、ドイツ77%などに対して、スウェーデンは71% でした。このうち、予防目的の受診の割合はノルウェーの79%、イギリス72% に対して、スウェーデンは60% でした(『アポロニア21』2016年11月号「安田編集室」)。これを掛け合わせると、予防目的で定期受診しているスウェーデン人は四

2.6%となります。日本の31.3%(日本歯科医師会、2018年)より高いものの、「国民全員」というのとはだいぶ差がありそうです。

あるスウェーデンのインプラント専門医が「インプラントも残存歯に含めることがある」と講演で指摘したのを聞いたことがあります。国際比較では基準を合わせるのも難しいのです。

自分たちの立ち位置を知るために、外国をベンチマークすることには一定の意義があるとは思いますが、実態をきちんと理解した上で議論することが大切ではないかと感じます。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第15回 集団免疫と社会保障のシステム

【注目されるその後のスウェーデン】

日本も含めて各国で新型コロナの感染者数が増加。「第3波が到来」との危機感が高まっています。深刻な感染拡大が続いたヨーロッパの中で、これまでロックダウン(都市封鎖)のような強い対策を取ってこなかったスウェーデン政府が、11月16日に「9人以上の集会を禁止」などの行動制限に踏み切りました。緩かった対策の背景には、人口の一定割合が感染すれば、それ以上の感染が広がらないという「集団免疫」への期待もあったとされます。集団免疫への期待は妥当だったのでしょうか。

◆冷静な判断と情報開示!?

スウェーデンは、ヨーロッパ全土でコロナ禍が広がった後も、他国で試みられたような強い措置を取らなかったことが知られています。コンサートなどは中止、映画館でも席を空けて

座るように求めるなど、まったく放置した訳ではないそうですが、飲食店の多くは自粛せずに営業を続けました。

結果、感染者数、死者数が周辺諸国より高い状態が続き、10月までの人口10万人対累積死者数はノルウェーの11倍、フィンランドの9倍に上っています(ジョンズ・ホプキンス大学)。

無為無策のように批判されたスウェーデンですが、7月17日には政府が「わが国は新型コロナウイルスに対する集団免疫を獲得したようだ」と発表。それまで北欧で問題児とされた防疫施策が、一転して評価されるようになりました。

特筆すべきなのは、学校が通常通り授業を続けたことです。「防疫上のリスクを考慮しても、学ぶ権利を侵害する事態ではない」と判断されたそうですが、新型コロナウイルスについては、若年層の感染・重症化リスクが低いことは、当然、考慮されたものと考えられ、その意味では冷静な判断がなされたといえるでしょう。

「集団免疫宣言」の後、世界中のメディアが「ひょっとして、スウェーデンの方策は正しかったのではないか」と論評を始めました。日本では、「スウェーデン政府は、悪い情報も含めて情報開示して国民からの信頼が高かった」と、日本政府の隠蔽体質を暗に批判する論調も見られました。

しかし、10月以降の感染再拡大により、ついに強い措置(それでも、周辺諸国よりは緩いが…)に踏み切らざるを得なかったということです。

◆医療改革で「制度のはざま」に

ただし、スウェーデン政府が未知のウイルス感染症に対しても、積極的で大規模な措置を講じなかった理由を考える必要があります。

スウェーデンでは、1922年のエーデル改革によって、「医療はランスティング(県)」、「介護福祉はコミューン( 市町村)」と、運営主体と財源を整理しました(下記表を参照)。ハーバード大学公衆衛生学大学院のデービッド・ジョーンズ氏らが「ランセット」(2020年9月19日)に掲載した論文「集団免疫の歴史」では、今を去ること110年前、1910年に起こった家畜の集団流産に始まり、その後、ヒトのジフテリアから学問的に観察されるようになった集団免疫について論述した上で、ワクチンなどがない段階では、人々の接触を減らすなどの措置が優先されるべきで、人々を感染させても構わないとする集団免疫を目指す施策は難しいと指摘しています。

現在も世界各地で「みんなで免疫を付ければ良いのだ」と、集団免疫を目指そうという人々がいるのは事実です。しかし、こうしたことは、公衆衛生の専門家から見れば望ましくないのかもしれません。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第14回 その後の歯科医師需給問題はどうなっている?

【歯科医師削減の先行例、オランダはいま】

◆歯科衛生士がう蝕治療

日本歯科医師会が、人口10万人当たりの理想的な歯科医師数として考えているのは50人台だとされています。これは、小児う蝕の蔓延に対して、歯科医師数が不足していた頃の数字で、現在、オランダが同程度となっています。

当然、オランダでは深刻な歯科医師不足となっており、ドイツなどEU圏内の諸国から歯科医師を受け入れて来ました。しかし、外国人歯科医師は数年で帰国してしまう傾向にあるため2020年から歯科衛生士が簡単な歯科治療を行う制度がスタートしました。

政策決定の段階で「タービン、抜歯鉗子を持たせるのか?」と話題になりましたが、そこまでではなく、C1程度の初期う蝕の治療が歯科衛生士業務となったのです。エア・アブレージョンの技術革新で非切削によるう蝕治療が可能になったことが、制度改革を後押しした面もあるようです。

う蝕、歯周病の大半の治療、メインテナンスを歯科衛生士業務とし、歯科医師は、より高度で難易度の高い診断、治療に特化する方向性といえます。

◆日本で歯学部廃止はありうるか

なぜ、オランダは歯科医師業務の見直しを迫られるまで歯科医師不足になったのでしょうか。

「むし歯、欠損が減れば歯科医療が縮小する」と予測し、歯科大学の廃止に踏み切ったものの、予想に反し、歯周管理や摂食機能療法、口腔がんへの対応など、歯科医療需要がむしろ拡大したのが最大の原因でしょう。

もともと、オランダは日本以上の歯科医師過剰国として知られていました。そこで、暫定的にすべての歯科大学を閉鎖。その後、四校だけを再び開設して調整した経緯があります。

こうした大がかりな調整は、教育システムへの国家の関与の度合いが大きいから可能になったことであり、学校経営の独立性の高い私立大学が歯科医師育成の主軸を担っている日本とは明らかに風土が違います。私立大学の場合、学校運営上、国の施策だとしても簡単には定員削減には応じられないためです。

日本でも1990年代、歯科医師需給問題が真剣に議論されました(左記の入学定員削減状況の表参照)。その際、対応策とされたのが以下の三つです。

①歯科大学の定員削減

②歯科医師国家試験の難関化

③(保険医)定年制

その後、実現したのは歯科大学の定員削減、歯科国試の難関化に限られます。

定員削減の一方で、多くの国立大学の歯学部附属病院が医学部に吸収され、基礎系科目の共通化なども進みました。また、高齢化の影響もあって医科との連携が必須となり、国家試験でも医科準用の問題が増えました。歯学部の医学部化が進んだのは事実でしょう。

オランダのように、一時的とはいえ完全に歯学部を廃止してしまうと、その後、歯科医療の業態が多様化して需要が拡大しても対応が難しくなって来ますから、現実的な処方箋が求められます。

医学部化が難しい単科大学では、「母国での受験失敗組を含む留学生枠を拡充」(神歯大)、「幅広く医療関連の専門職大学を目指す」(大歯大)など、国内の歯科医師育成だけに留まらない領域を拡大し始めています。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第13回 個別指導・監査はなぜ必要か

【悪質な逸脱を未然に防ぐ仕組みは?】

個別指導、監査の現行制度を批判する意見の中に、「戦前の行政手続がそのまま残されている」というものがあります。多くの保険医にとって恐怖の対象である個別指導、監査は、何が根本的な問題なのでしょうか。

◆個別指導、監査の運用改善

戦前の法制度では、行政官の裁量権が広く解釈されており、行政手続の権限を制限する仕組みも未整備だったとされますが、健康保険制度では、戦前の制度が現在まで引き続いているとの指摘があります。例えば、

①個別指導で「いつでも監査に移行するぞ」と脅す

②理由なく頻繁に指導を中断して精神的に圧迫する

③「お土産」的意味合いでの自主返還を暗に求める

などの事例は、「厚生労働行政の組織が戦前の制度を引きずっていて、警察官が検事や裁判官を兼ねているようなものだから」との指摘もあります。

こうした健康保険法の不備を改善して、保険医、保険医療機関の権利を守るべく活動している健康保険法改正研究会(石川善一、井上清成共同代表)は、弁護士が積極的に個別指導、監査に関与する活動を推進しています。

同研究会では、個別指導と監査を峻別し、「懇切丁寧を旨とする個別指導」と「行政処分の意味合いがあり証拠保全、尋問などが必要となる監査」とは、担当者も分けるべきだと主張しています。さらに、請求ルールからの逸脱の程度と、それによる処分の重さとのバランスを取るよう、求めています。実際には、そうした制度そのものを変えることには相当なハードルがありますが、現行制度のもとでも経験値の高い弁護士が関わることで保険医、保険医療機関の利益が守られる面も大きいようです。

◆いっそ、公営医療にしてみたら…

歯科メディアで仕事をしていると、「〇〇県で、個別指導で自殺者が出たようだ」などの話が寄せられることがあります。自殺と個別指導との因果関係が明確でなければ、報道は難しいため、こうした情報のほとんどが「お蔵入り」となります。しかし、その傍らで「そもそも、なぜ厚労省がこうした監視を行う必要があるのか」と疑問を持ちました。

保険制度は、原則的には保険者と医療側との契約なので、両者間の契約違反があれば契約解除、賠償請求というルールさえあれば良いはずです。しかし、日本では多額の公費が充当されているため、保険点数の改定、保険ルールの監視も行政が行う仕組みになっています。

さらに、時々、指導医療官の一部も豪語するように「オレたちが医療費削減の役割を担う」という意味合いも、あるのかもしれません。

本当に国が関与するのであれば、イギリスや北欧のような公営医療(NHS)の仕組みとして、年間予算の範囲で医療提供すれば、指導の行き過ぎはなくなるかもしれませんが、本

当にそれが医療従事者にとっても、患者さんにとっても、幸せなことかといえば疑問も残ります。

自由開業医制の良さを生かすためにも、ルールからの逸脱を予防し、「本当のワル」のみを未然に排除する仕組みを改めて模索する時期に来ているかもしれません。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第12回 医療保険ではちゃんとした治療ができない?

【保険診療の憲法上の根拠は第13条の幸福追求権】

よく、「保険ではちゃんとした治療ができない」、「保険診療は貧困層向け」という考えを示す歯科医師がいます。

しかし、不思議なことに、医科では、そういった声を聞くことはめったにありません。これは、なぜなのでしょうか。

保険診療の質に懐疑的な歯科医療従事者の多くは、公的医療保険制度が社会保障の1つという点から、「保険診療の憲法上の根拠は、憲法第25条の生存権だ」と考えているようです。しかし、憲法第25条は、生活保護(と、これに付随する医療給付など)に関する規定だとされています。

仮に、保険診療が生存権によるものだとすれば、1億円を超えるような高額な薬剤が収載されたり、貴金属を使用しているのに歯科医療従事者の評判が悪い「金パラ」で歯冠修復したりする必要はないはずです。

◆二木氏による「幸福追求権」とは

医療経済学者の二木立氏( 日本福祉大学名誉教授)は、保険制度を議論する際の大前提として、「保険診療の憲法上の根拠は、第十三条の幸福追求権だ」と説明します。

幸福追求権は、プライバシー権などで持ち出されることが多い比較的新しい人権ですが、質の高い保険診療が担保されるための権利だと言えます。

さらに二木氏によれば、「過去、医療費の削減を進めた政権でも、最適な医療保障という基本を外れたことはない」とのこと。日本の医療政策が「保険診療は最低限の医療」という考え方で実施されたことはないというのです。

◆「救貧法」の原則

保険診療を含めた社会保障を、貧困者向けの最低保障と見なすか、高度な質を保証するべきと考えるかは、各国の社会制度の成立過程によって違います。

例えば、地域包括ケアシステムを比較すると、イギリス、アメリカ、カナダなどは貧困者救済のニュアンスが強く出る傾向にあります。いずれの組織も対象者を厳しく絞り、徹底して費用対効果を重視します。

カナダ・ケベック州を中心とするケア組織「PRISMA」の担当者によれば、地域包括ケアシステムの「顧客」はサービス利用者ではないとのことで、納税者である地域住民の負担軽減のための活動と位置づけています。

どの組織も対象は主に貧困層。日本のように地域の高齢者全員を見守るという発想は希薄です。これらアングロサクソン系の国は、エリザベスⅠ世時代(17世紀初め)の救貧法(Poor Laws)からの伝統で、地域の貧困は地域の責任、貧困者への給付は必要最小限に、という原則が出来上がってきました。その後、大きな改正を経たものの、こうした原則が、社会保障の考え方に大きく影響しているものと考えられます。

そのため、公営医療(NHS)を持つイギリスにしても、民間保険中心のアメリカにしても、「必要最小限の給付が望ましい」とする発想は共通しているようです。

これに対して、幸福追求権を根拠として公的医療保険制度を運営している日本では、患者さんにとって最適、最良の医療を提供することが求められます。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第11回 なぜ、 歯科を給付しない国が多いか?

【歯科疾患は罹患者数が多く社会の損失も大きい】

2019年に、国際的な影響力のある医学雑誌「ランセット」が口腔保健の特集を掲載しました。その際、「歯科疾患は罹患者数が多く、社会の損失も大きいのに、各国政府は無視してきた」と指摘しました。これは、「公的医療システムでの歯科給付が必要だ」との訴えです。

では、なぜ歯科を給付しない国が多かったのでしょうか。

◆「治す医療」が給付対象

ヨーロッパを見ると、日本と似た構造を持つドイツなどは成人にも歯科給付がなされますが、租税を財源に公営医療を運営するイギリスや北欧諸国の歯科給付は原則、未成年まで。南欧諸国では、それすらも一般的ではありません。

近年では、歯周病や根尖病巣などの歯科疾患が、他の臓器にも影響することが知られるようになりました。このことは、医療制度の中に歯科給付を位置付けていく方向性にあると見られますが、長らく、「歯科治療はぜいたく品であり、公的給付になじまない」という考え方があったのは事実のようです。

そのため、成人の歯冠修復は公的給付の対象外で、給付対象となる未成年でも、ステンレススチールの乳歯冠などが一般的だったなど、徹底的にコストカットが図られてきました。これらは、かなりの富裕国でも見られる傾向のため、財政難が理由ではなさそうです。

1つ考えられるのは、公的医療システムが「治すための医療」を給付するように設計されてきたのに対し、歯科医療が、必ずしも「治す」ことだけに留まらない性質を持っていたことが挙げられます。

最初に公的医療システムが整備された1920年代、医療技術はまだまだ未発達な状態で、日本を含め、怪我や病気になった場合の所得補償(傷病手当)が、保険給付の主軸に据えられました。

その後、1940年代以降に公営医療が整備された頃には、医療技術の発達により、病院や保健所などでの傷病治療への給付ができるようになります。

こうして「治す医療」の発展と同時に、医療保険制度が整備されてきましたが、歯科は、必ずしも「治す」ことをゴールにしておらず、病院や保健所でのサービス提供にもなじまなかったといえます。

◆「補綴を含めてこそ」という主張

歯科医療従事者の中にも「欠損補綴や歯冠修復は修理(直す)であって、治療(治す)ではない」と考える人が少なくありません。矯正の対象となる歯列異常も、医学的な定義はまちまちで、医療現場ですら「正常でないから異常だ」という循環論法がまかり通っています。 さらには、「最終補綴」といった用語に見られるように、何かの完成品をセットすることをゴールと考える向きもあり、術後管理、経過観察といった、「治す医療」で一般的なあり方とは一定の距離があったのも事実でしょう。

そのため、公的医療システムに、歯科をフルカバーで入れる国が少なかったのではないかと考えられます。

翻って、日本で成人の欠損補綴も含めた給付が行われてきた背景には、保険制度発足当初から、歯科医師会などからの「補綴を含めてこその歯科医療」との主張が強かった点が挙げられます。

現在、諸外国で拡充が検討されているのは、欠損補綴よりも歯科検診や口腔ケアなどの予防管理、歯周疾患や根尖病巣などの慢性炎症対策が主軸になっているようです。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第10回 「患者負担無料化」に関する効果とコスト考

医療従事者と社会保障政策研究者の見解】

日本では、保険診療を受診する際、患者さんが窓口負担を支払う仕組みを採用しています。 この窓口負担を軽減すれば、経済的理由による受診抑制がなくなり、健康格差が是正されるはずだ、との考え方があります。今回は、この効果と、そうした「患者負担無料化」のコストを誰が支払うのか、などについて考えてみます。

◆患者負担無料化と予防意識の関係

東京歯科保険医協会では、小児の患者負担がない東京23区と、一部負担のある多摩地域での口腔の健康状態を比較。患者負担がない23区のほうが健康の度合いが高いことを示唆しました(2018年発表)。

このように、患者負担を軽減、またはゼロ負担にすることが望ましいという考え方が医療従事者の間に多く見られますが、社会保障政策の研究者からは、疑問の声が呈されることがあります。例えば、慶応大学総合政策学部教授(政策科学)で、元中医協委員の印南一路氏は、「患者負担軽減策は良いが、ゼロ負担はバラマキに過ぎず、健康増進に寄与しない」と批判しており、一定の支持を得ています。

窓口負担の軽減が受診抑制を緩和する一方で、完全に「タダ」にしてしまうと、健康づくり、予防への動機づけがなくなってしまうことも事実のようです。実際、23区内の子どもが歯科受診する際、まったくお金を持ってこない場合も少なくなく、TBIで推奨する歯ブラシを購入させることもできないという話を聞きました。

歯科診療所側では、窓口負担に関係なく診療報酬単価は変わりませんから、予防を徹底しなくても収益面では困りません。そのため、「また、悪くなったら来てください」で済ませてしまう歯科診療所が多くなるのではないかという懸念があります。

京都市では、小児へのむし歯治療(=予防ではない)の無料化が早くから実施されていますが、当初から「予防へのインセンティブが弱まる」という批判が見られました。

◆予防コストを診療所が負担

実は、無料化と予防への動機づけを両立させるために、「むし歯になったら、歯科診療所が損をする」というシステムを採用している国があります。

スウェーデンは、未成年(対象年齢は23歳まで/2019年から)の歯科の自己負担が無料ですが、そのコストの大半は歯科診療所が担っている構造です。ストックホルム市開業のヘーク・利香氏によれば、「地域住民の保健医療に責任を持つランスティンゲット(県に相当)から、子ども1人について人頭割りで歯科診療所に払われる健診料(約1万円)が、小児の診療報酬のすべて」とのことです。

この費用の範囲で詳細な定期健診を行い、もし、受け持ちの子どもが歯科疾患を発症したら、治療費は診療所の持ち出しとされています。健診だけでも年間1万円でペイできるとは思えませんが、むし歯治療が必要になれば大変な損失になります。時折、「スウェーデンの歯科医師は予防に熱心で」などといわれますが、そうしなければ大赤字になってしまうのです。

このように、「誰がコストを負担するのか」によって、制度の在り方が大きく変わることがあります。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。