【IT相談室】 歯科医院の効果的なチャットアプリ活用と労働基準法の遵守 その1

近年、SNSやチャットアプリ(以下、SNSなど)がコミュニケーション手段として広く活用されるようになりました。歯科医院においても業務の効率化やスムーズなコミュニケーションの手段として活用するケースが増えています。しかし、SNSなどを活用した業務連絡等については、一斉に連絡ができるなど便利な反面、注意しなければいけない点があります。これらの点について解説し、適切な運用方法について考えてみましょう。

【労働条件とチャットアプリの関係】

労働基準法は、労働者の権利保護と健全な労働環境の確保を目的として制定された法律です。この法律に基づき、就業規則や労働契約などが結ばれ、賃金や労働時間、休憩時間など労働条件が定められます。さて、労働基準法や就業規則、労働契約など(以下、労働基準法等)で定められている就業時間とは、始業時刻から終業時刻までの時間のことであり、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。休憩時間や終業時刻以後の時間は、労働者は使用者の指揮命令下にはありません。このことを念頭に少し考えてみたいと思います。

【就業時間との関係】

就業時間外にSNSなどを使って業務連絡を行う場合には注意が必要です。仕事に関する連絡は簡単な場合であっても〝仕事〞であり、賃金支払いの対象となります。また、就業時間外に送られたSNSなどの連絡を「見なければいけない」「必要に応じて返信をしなければいけない」など、あらかじめ定めておく必要もあります。これらを事前に定めておくことで、業務連絡としての活用が可能となるでしょう。これらの取り決めがない場合は、見るも見ないも受け手任せになり、業務連絡としての役割を果たすことができません。また、緊急連絡としての機能も果たせなくなります。前提として、就業時間外にSNSなどを利用した業務連絡を行う場合には、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)の締結・届出が必要になります。36協定の締結・届出がない場合には、就業時間後や休日にSNSなどを活用した業務連絡は違反行為になりますので注意が必要です。

【自己判断による労働の回避】

SNSなどで業務連絡を行ったところ、スタッフが気を利かせて、就業時間外に自主的に翌日の準備を行った。仕事への意欲については褒めたいところですが、この場合も時間外労働として賃金が発生する可能性があります。明確な指示はなくとも、SNSなどの連絡が〝指示〞と取られれば、時間外労働と解釈されかねません。

【利用の制限】

36協定を締結・届出し、SNSなどの利用について取り決めをしてもそれだけでは不十分です。先輩スタッフが後輩スタッフに、就業時間外にSNSなどを活用して仕事のアドバイスをするなども考えられます。就業時間外にメモのつもりで行ったSNSなどの投稿を見た後輩スタッフが、そのことでやり取りを行うなどした場合には、業務と取られる可能性があります。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞20239月号11面掲載)

※「東京歯科保険医新聞」7月号の「IT相談室」はお休みました。