教えて!会長!!

【教えて!会長!! Vol.80】 難解な2024年度診療報酬改定/ ぜひ「新点数説明会」にご参加を

難解な2024年度診療報酬改定/ぜひ「新点数説明会」にご参加を

2024年度診療報酬改定をどう評価しますか。

 別件となりますが、会員の先生方におかれましては、日常の歯科医療のほかに政府、厚生労働省、東京都などからのさまざまな案件への対応に苦慮されているのではないでしょうか。私事ですが、並べてみると、①日常でのオンライン資格確認への対応、ならびに在宅診療時のためにモバイル端末での対応をどうするか(本紙5面参照)、②CDでのレセプト請求から9月末期限のオンライン請求にいつ切り替えるか、それとも猶予届出を出すか、③東京都による医療機関への物価高騰緊急対策支援金への対応、④生活保護法指定医療機関一般指導への対応、⑤厚労省の医療機関等情報支援システムGMISへの対応、などがあります。日々患者さんのために〝ちゃんと〞歯科医療に注力したいだけなのに、これらへの対応に時間・心身ともに拘束されています(もし、このほかにお困りなこと、疑問に思うことなどがありましたら、協会にご連絡、お問い合わせください)。

そして現在、複雑で難解な2024年度診療報酬改定の内容を会員の先生方に分かりやすくお伝えするために、まず私をはじめ役員と事務局員で理解を深めています。繰り返しになりますが、今次改定は複雑で難解だからです。本紙3面に改定の評価に関する政策委員長「談話」を掲載していますので、ぜひご参照ください。今次改定に向けて、当協会会員からの「声」を厚労省に届けた結果、初・再診料の引き上げ、外来環の分離、口腔機能管理での小機能・口機能の指導の評価、麻酔薬剤料の適用拡大、CAD/CAM冠の適用拡大、歯科技工士の処遇改善につながる新たな評価NI-TIロータリーファイル加算の要件緩和、歯科訪問診療1の20分要件廃止など、多くの要望が反映されました。しかし、残念ながらすべての項目で十分な評価、緩和が実現したわけではありません。さらに、スタッフに対する政府の賃上げ要求に応えるためのベースアップ評価料への対応を余儀なくされます。

 

いま、何をすべきでしょうか。

 本原稿を執筆している2月末時点では、詳細が不明な点が数多くあります。4月改定ですので3月中に多くの疑問が解決されるでしょう。また、実際に今次改定内容に基づく請求がスタートするのは6月ですからある程度の理解は進むでしょう。しかし、今次改定には施設基準の届出や研修の受講が必要な項目などが複数あります。したがって、6月まで何らアクションを起こさないでいると対応が困難になる可能性があります。そのため、現時点での、ご自身の診療所の状況把握が必要です。一例を挙げると、スタッフの雇用状況・給与・直近で昇給した年月日の把握、施設基準の届出状況、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所であるか否か、口腔機能管理の小機能あるいは口機能の算定状況および指導方法の実際と検査機器の所有状況、在宅診療を行っているか否かなど、今次改定は何も対応しないでいると自院にとってマイナス改定になってしまうので、必要な対策を講じる必要があります。

今次改定に対応する協会の新点数説明会は計3回、会場参加型での開催を準備しています(本紙12面参照)。ぜひ、先生ご自身の大切な医院のため、そして患者さんへのより良い歯科医療の円滑な提供のため、説明会にご参加いただき、充分な対策を講じていただきたいと思っています。

また、実施が本年122日に決まった健康保険証廃止への反対、健康保険証の存続を求める署名を行います。これ以上、患者・国民のための日々の歯科医療を滞らせないため、ぜひ一筆でも結構ですので署名にご協力ください。よろしくお願い申し上げます。

  東京歯科保険医協会

  会長 坪田有史

【教えて!会長!! Vol.79】 エンドクラウンについて

【教えて! 会長!! No.79】 エンドクラウンについて 

◆大臼歯CAD/CAM冠(エンドクラウン)とは。

 本年1月日に開催された厚生労働省の医療技術評価分科会で、「大臼歯CAD/CAM冠(エンドクラウン)︶﹂が﹁診療報酬改定において対応する優先度が高い技術」と判定されました。この判定により、2024年度改定で「大臼歯CAD/CAM冠(エンドクラウン︶﹂が保険収載される可能性が高くなりました。なお、本技術は既存のCAD/CAM冠の適応拡大として、公益社団法人日本補綴歯科学会が医療評価提案書として昨年6月に厚労省に提出しています。 

提案書に記された内容を一部改変して以下に示します。

◆中医協で「大臼歯CAD/CAM冠について、要件を見直す」とされていましたが。

 協会から厚生労働省が公募した「令和6年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理」に関するパブリックコメントで、本件に関連したコメントを提出しました。

「歯科用金属アレルギー患者以外の第一大臼歯CAD/CAM冠の現行の算定要件は明確なエビデンスに裏付けられていない要件であり、歯科医師の裁量権が制限されていて問題である。一方、医療技術評価提案書に対して、『大臼歯CAD/CAM冠(エンドクラウン)』が診療報酬改定において対応する優先度が高い技術とされている。これまでの議論の整理(案)では、『大臼歯CAD/CAM冠について、要件を見直す』とあるが、エンドクラウンを保険収載することのみを指しているのであれば承服できない。対合が義歯などで咬合力が低くCAD/CAM冠の強度に不安がないケースなど、歯科医師の診断ならびに裁量権に基づく算定要件の緩和が必要である」という内容です。

厚労省が「骨太の方針」にしたがって、金パラの代替材料による歯冠修復を推進することに対して、協会は全面的な反対はしていません。しかし、患者・国民の安心・安全のためにエビデンスが低い技術の保険収載には慎重であるべき、また歯科医師の裁量権を制限する算定要件を緩和すべきと、今後も意見していきます。

 

東京歯科保険協会

会長  坪田有史

(東京歯科保険医新聞20242月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.78】 PEEK冠の基本的な考え方

【教えて!会長!! Vol.78】 PEEK冠の基本的な考え方

◆日本補綴歯科学会からPEEK冠に関して発表があったそうですが。

 12月1日発行の「東京歯科保険医新聞」第645号「『PEEK 』について」に引き続き、会員から多数の問い合わせがある「PEEK冠」について今回も取り上げます。202312月付けで公益社団法人日本補綴歯科学会(以下、補綴学会)から「PEEK冠に関する基本的な考え方(第1報)」(以下、「PEEK冠の考え方」)が発表されました。詳細は、補綴学会のホームページを参照していただくこととして、その内容をピックアップして紹介します。なお、「PEEK冠の考え方」は「1.概要」、「2.保険診療におけるPEEK冠について」、「3.PEEK冠の製作」、の3項目で構成されています。

 

◆「概要の記載」はどのようなものでしょうか。

 まず「概要」では、以下のようにPEEK冠の特徴を記載しています。「PEEK冠は、非金属性のPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を材料としてCAD/CAMシステムを用いて歯冠修復する医療技術である。PEEKは生体安全性が高く、高強度で破折リスクが少ない材料。生体親和性が高く、成分の溶出量が少なく、金属アレルギー患者にも適用できる」とし、続けて「一方、ハイブリッドレジンと比較して、高い破壊靱性があるため、支台歯形成においてCAD/CAM冠に比べて、全部金属冠程度に歯質削除量が少なく咬合面やマージン部の厚みが小さくても破折しにくい。従って、上下顎大臼歯に適用可能である。歯冠色にすることはできるが、光透過性を付与することが困難な材料である、現行のCAD/CAM冠に相当するような審美性は有していない。20症例の最後方臼歯を含む大臼歯(23装置中11装置は最後方大臼歯)に装着し、6カ月の経過観察で脱離、破折はなく、咬合接触が維持され治療法として有効であることが報告され、装着後2年の経過観察でも破折や脱離は認められていない」としています。

 

◆「保険診療におけるPEEK冠について」は。

 保険診療に関しては、「適応症は、保持力に十分な歯冠高径があること、過度な咬合圧が加わらないこと等が求められる。部分床義歯の支台歯については、適応症とするためのエビデンスが得られていない。適応症は、大臼歯の単冠症例で上下顎両側の大臼歯。第二大臼歯が欠損して事実上の最後方大臼歯になった第一大臼歯も適用」としています。

 

◆「PEEK冠の製作」については。

 PEEK冠の製作の記載は、CAD/CAM冠との相違点にアンダーラインを付記して説明しています。「支台歯形成は、1.01.5㎜以上の咬合面クリアランス。軸面テーパーは片側610°の範囲におさめる。マージン形態は、ディープシャンファーとし、そのクリアランスは、軸面で1.0㎜以上、辺縁部で約0.8㎜以上にする。鋭利な部分がないように丸みを帯びた形状にする。研磨は、シリコーンポイント後につや出し用研磨剤を用いてバフ研磨を行う」としています。続けて「装着は、接着性レジンセメントを使用することが必須であり、(1)口腔内試適後、PEEK冠内面を弱圧下(0.10.2MPa)でアルミナサンドブラスト処理することが必須である、(2)乾燥後に専用プライマーを塗布し光照射を行う(PEEKは光透過性がないため)、(3)乾燥後に接着性レジンセメントをPEEK冠内面に塗布して装着する、(4)PEEKは光透過性がないため光照射によるクラウン内面の重合は期待できないため化学重合型かデュアルキュア型のセメントを使用する。トレーサビリティシールの管理は、診療録に貼付するなど、保存して管理すること」などとしています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

以上、補綴学会の「PEEK冠の考え方」について、紙面の都合もあり改変、ピックアップしながら紹介しました。既に、PEEK冠の内面への接着レジンセメントの接着が困難であることや弾性率が低いため、外力で撓たわみやすく、脱離・脱落の可能性が低くないのでは、との懸念が指摘されています。臨床エビデンスも十分とはいえないため、今後、眼前の患者さんに説明できる高いエビデンスの蓄積が望まれます。

東京歯科保険協会

会長  坪田有史

(東京歯科保険医新聞20241月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.77】 「PEEK」について

<東京歯科保険医新聞2023年12月号8面掲載>

▼PEEKに関する過去の「教えて!会長!!」はコチラ
【教えて!会長!! Vol.53】PEEKによる大臼歯歯冠修復物

◆12月から保険適用となった「PEEK」とは。

11月22日の中医協でCAD/CAM冠材料(Ⅴ)として「松風ブロックPEEK」レジンブロックが保険医療材料として承認されました(本紙2面に関連記事)。「ポリエーテルエーテルケトン」の頭文字で「PEEK」と呼称されます。熱可塑性樹脂の中に機械的強度や耐熱性に優れたエンジニアリングプラスチックがあり、さらに優れた性能を有するものがスーパーエンジニアリングプラスチックと分類され、その中に「PEEK」は位置しています。この「PEEK」ですが、その優れた性能から金属の代替材料として医療機器、自動車部品などでも注目されています。すでに歯科領域では前装冠のコーピングやインプラント上部構造用フレームとして使用され、その生体安全性や口腔内環境に適した材料といわれています。その理由として、高い機械的強度、高靱性(割れにくく粘り強さを持つ)、耐摩耗性があり、吸水性が低い、耐熱性があり衝撃吸収能を有し、密度が金属材料やジルコニアと比較して小さいため、非常に軽いなどの特徴があるためです。

◆2年に1度の診療報酬改定前年の12月1日から保険適用となるのはなぜですか。

2年ごとの診療報酬改定ではない3・6912月に保険適用になることを「期中収載」と呼称しています。日本補綴歯科学会が2022年度診療報酬改定に向け、21年に保険未収載技術として「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)による大臼歯歯冠修復物」の申請技術名で医療技術評価提案書を提出しています。22年度改定の時には「PEEK」のレジンブロックが保険医療材料ではないため、医療技術評価分科会では評価されませんでした。今回、保険医療材料等専門組織で「『松風ブロックPEEK』レジンブロック」が可と判定され、中医協において承認されました。なお、24年度改定に向けて日本補綴歯科学会が申請技術名「PEEKによる大臼歯歯冠修復物」で再度提出していますが、24年度改定の提案書が反映された訳ではありません。また、2223年の「骨太の方針」に「市場価格に左右されない歯科用材料の導入を推進する」と明記されました。これが、本適用に影響したと推測されます。今後、比較的早期に「PEEK」レジンブロックを販売している他メーカーの製品が保険適用されるでしょう。

◆臨床上のエビデンスについて。

広島大学で行われた2023ケースの大臼歯の6カ月の臨床追跡調査が報告されています。その結果は、臨床的に問題がなく、金属によるクラウンの代替材料として期待できるとされています。そのほかの臨床研究の報告は現時点では見つけられないため、2023ケースの半年の臨床応用の結果のみで、保険適用が承認されたこととなります。今後、患者さんに説明できる高いエビデンスとなる臨床研究が報告されることに期待します。

東京歯科保険協会
会長 坪田有史
(東京歯科保険医新聞2023年12月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.76】日弁連の10.6「決議」

日弁連が最近の人権と医療、医療のアクセス権に関する「決議」を発表したようですが、その経緯、主な内容について。

政府は本年7月25日に、「令和6年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」(以下、「概算要求基準」)を閣議決定しました。そこには、社会保障費の伸びを抑制する方針を明記
しています。その方針を背景として本年10月6日、日本弁護士連合会(日弁連/小林元治会長)が「人権としての『医療のアクセス』が保障される社会の実現を目指す決議」を発表しました。以下に、その抜粋をご紹介します。なお、ネット上には全文が掲載されていますので、ぜひご一読していただきたいと思います。
◆ 「決議」抜粋

「国民健康保険の滞納者は約195万世帯、全利用世帯中の約11%におよぶ。民間の調査によれば、保険料滞納や窓口負担が払えないなどの経済的理由から医療を受けることができずにいのちを落とす人が後を絶たない。(略)国や地方自治体には、人権としての医療へのアクセス権を実効的に補
償するため、医療保険制度、医療提供体制、公衆衛生体制などを整備、拡充する責務がある。(略)当連合会は、国及び地方自治体に対し、医療へのアクセス権を保障するため、医療費日弁連の10.6「決議」抑制ありきの政策を転換して、次の諸施策を実施することを求める。     
1 誰もが必要な医療を受けられる医療保険制度の構築
経済的理由等により医療へのアクセスが阻害されることのないよう、⑴必要な医療を受けられずに多くのいのちが失われている危機的状況を踏まえ、医療費の窓口負担のない対象者の範囲の拡大を行うこと⑵多くの保険料滞納世帯が存在することを踏まえ、国民健康保険料の減免範囲を拡大するとともに、(略)保険料についても応能負担を貫徹する施策を速やかに行うこと⑶保険料滞納者にも正規の保険証を交付するとともに、マイナンバーカードと健康保険証の一体化に大きな不安を抱く市民も多いことも踏まえ、現行のままの健康保険証を選択する権利を認めること      
2 医療提供体制の充実 
3 公衆衛生体制の充実 
4 地域を支える存在としての医療・公衆衛生の重要性          
5 社会構造上の要因と公的取組

(略)当連合会は、医療と法的支援の相互の協働によって個人の権利を擁護することの重要性に鑑み、今後はより一層、医療関係者との連携を広げ、(略)医療者を起点とした前記の社会的要因に対する取組との協働を進めつつ、人権としての医療へのアクセスを保障するため、力を尽くす決
意である。
以上のとおり決議する。
2023年(令和5年)10月6日

日本弁護士連合会
 

東京歯科保険協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年11月号11面掲載)

【教えて!会長!! Vol.75】2024年度診療報酬改定

2024年度診療報酬改定の進捗状況を教えてください。

本年8月30日に開催された第553回中央社会保険医療協議会総会(以下、中医協)において、本年月から行われてきた2024年度(令和6年度)診療報酬改定の論点や議論などが整理されました。
これらで整理された内容により、2024年度改定に向けた具体的な議論がさらに進み、具体的な改定内容が決まっていきます。
なお、厚生労働省のホームページに資料が掲載されていますので、検索していただければ詳細を確認できます。
多くの項目が取り上げられていますが、本稿では、いくつかの項目をピックアップして改定内容について推測してみます。中医協の資料には、各項目での「現状と課題」のあとに「論点」「主な意見」が記載されています。以下に、例としてかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(以下、か強診)、口腔機能管理料、歯科衛生実地指導料(以下、実地指)についての記載を示します。
【歯科医療提供体制】   
1.現状と課題/か強診について
・ライフステージに応じた継続的な口腔の管理や医療安全の取組、連携に係る取組に積極的に取り組む歯科医療機関として、平成28年度診療報酬改定においてか強診を新設し、以降施設基準の見直しなどが行われており、施設基準の届出医療機関数は年々増加している。
・か強診の施設基準には歯科疾患の重症化予防や歯科訪問診療に関する実績要件などが必須とされており、小児の歯科治療に関する要件は設定されていない。
《論点》
・かかりつけ歯科医に求められる機能や病院における歯科医療など、歯科医療機関の機能・役割に応じた評価について、どのように考えるか。
《主な意見》
・ライフコースに応じた歯科疾患の重症化予防や地域包括ケアシステムにおける連携などが重要であり、か強診にはこれらの役割が求められている。一方で患者にとっては、か強診とそれ以外の歯科診療所の違いが分かりにくいという指摘もあり、か強診がどのような役割を担うべきか考える必
要がある。

・歯科医療機関の機能分化や連携を適切にすすめ、地域の状況に応じた歯科医療提供体制を構築すためにも、在宅歯科医療、医療安全や院内感染対策など関連する施設基準を整理・検討すべき。
◆私の推測
厚労省側は政策として、か強診の届出医療機関数を増やしたいのか、抑制したいのかなどの方向性が不明である。
厚労省が示す論点からは、小児の歯科治療の実績について追加されるなど施設基準の変更が行われる可能性があり、歯科医師側からみるとか強診の施設基準は厳しくなる可能性がある。

2.現状と課題/口腔機能管理について     
・小児および高齢者に対する口腔機能管理については、2022年度(令和4年度)診療報酬改定において対象患者の見直しを行ったが、算定状況は低調である。
《論点》
・口腔疾患の重症化予防や年齢に応じた口腔機能管理をさらに推進するため、診療報酬のあり方について、どのように考えるか。
《主な意見》
・口腔機能の管理については、口腔機能管理の中で行われる口腔機能獲得や口腔機能向上のための訓練に対する評価について検討すべき。          
◆私の推測
厚労省側は小児および高齢者に対する口腔機能管理について、算定数を増やすための方策を提示するものと考えられる。
また、以前からの課題とされていたが、診断して病名をつけた後、口腔機能に対する訓練の評価が新設されるかについて注目される。

3.現状と課題/実地指について
・歯科衛生士による実地指導を評価した実地指は、平成8 年に新設されて以降、平成22年の障がい者に対する実地指導の評価新設を除き、大きな見直しは行われていない。
《主な意見》
・歯科衛生士による実地指は重症化予防の観点から非常に重要である。近年は、ブラッシング方法の指導等だけでなく口腔機能や生活習慣などの観点からも歯科保健指導が行われており、実態に応じた評価を検討すべき。
◆私の推測
歯科衛生士の雇用などに関して様々な問題が生じていることに対して実地指を変更するが、影響率が高くなるので実地指の点数を単純に増点することは困難な状況であり、時間要件、あるいは内容によって応じた点数配分が設定されるといった見直しが行われると推測される。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

協会は、今後も2024年度診療報酬改定について検討し、よりよい改定が行われるよう行政側に要望していきますので、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会
会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年10月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.74】 半世紀を迎えて

協会設立から50周年とのこと。

東京歯科保険医協会は、国民皆保険制度を守るとともに、保険診療の充実を図るため、歯科保険医の要望に応えるべくして50年前にスタートし、50周年を迎えました。過去から現在までのすべての会員の先生方、事務局員、そして協会にご協力、ご支援を賜った方々に対し、協会を代表して心から御礼申し上げます。直前に迫っておりますが、2023年9月10日(日)に都市センターホテル(千代田区平河町)で東京歯科保険医協会設立50周年記念として、記念シンポジウムならびに記念レセプションを開催します。「これからの歯科を考える」と題しての記念シンポジウムに引き続き、記念レセプションでは参加されたすべての方に記念品のプレゼント、また豪華景品が当たる抽選会、ミニデンタルショーなどを企画しました。詳細は、このホームページにも記載しています。スタッフやご家族の方も無料で参加できます。協会が設立以来半世紀を迎えることができたことを多くの方をお迎えし、ともに喜びを分かち合いたいと思います。奮ってご参加のほど、よろしくお願い申し上げます。

協会の経緯と現状を教えてください。

今から50年前、第1回の総会は1973年4月22日に開かれ、当時の会員数は180名と記録されています。そして、10年前となる40周年に作成した記念誌「『現在過去未来へ』2」に、当時の松島良次会長が挨拶文で「あと数十名で歯科会員5,000名となる予定」と記されています。すなわち、40年間で約28倍の会員数となり、東京都の多くの歯科医師の先生方にとって協会が必要とされてきたことが分かります。

本年6月18日に第1回から数えて51回目の第51回定期総会が開催され、その直前に会員数は6,000名を超え、現在の会員数は、6,024名(2023年8月25日現在)と直近10年間で1,000名以上の先生がご入会されました。この会員増は、さまざまな要因がありますが、その一つには既会員の先生からのご紹介によるものも少なくありません。新たな会員をご紹介いただいた会員の先生に対して、この場をお借りして感謝申し上げます。

現在の協会は、日々の保険診療についての会員の疑問に答えるとともに、開業医の医院経営のサポート・共済保険・税務・学術・スタッフ教育・平和運動まで幅広い活動を行っています。保険請求のサポートのため「電子書籍デンタルブック」を無料提供し、さらに行政などが発する情報を速やかに共有するため、デンタルブックニュースとしてメールで随時会員に配信しています。

一方、厚生労働省や東京都に対しては一人の歯科医師が個人で意見を届けることは容易ではありません。そこで、特に保険制度や歯科医業にかかわる要望を中心に協会は、多くの歯科医師で構成されている一団体としてさまざまなアプローチを行っています。それらのアプローチをするためには、バックアップするツールが必要です。例えば、会員アンケートの結果、あるいは先生方に署名していただいた紙署名用紙の束を持って、国会議員や行政に会員の声を要望として届けています。今後もご協力よろしくお願い申し上げます。

また、歯科界のあらゆる情報をチョイスして、できるだけ迅速に会員へデンタルブックニュースとしてメール配信、あるいはFAX、協会ホームページなどを通じて発信しています。その際、行政などから発出される少し難解な文章を平易に解説し、さらにその文章の裏、そしてその先を読んだ上で、情報を会員と共有することに努めています。来年は改定年度で「トリプル改定」が行われますので、先生方にとって情報を知ることが特に重要と言えます。

我々は、2020年前半から長期に渡って新型コロナ感染症による影響を受けてきていす。そして、本年になってオンライン資格確認の原則義務化、マイナ保険証への対応、電子処方箋の導入、続けてオンライン請求の義務化、そして電子カルテの導入など、さらに順番にさまざまな項目が強制されることが予定されています。すなわち、歯科保険医の環境は現在から将来に向かって、対応が困難となる可能性がある案件が控えています。協会は会員のため、これらの案件への対策、対応を行う所存です。

未だ会員になられていない先生がいらっしゃいましたら、ぜひ入会をご検討ください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これからも東京歯科保険医協会は、歯科医師が保険で安心してきちんとした診療が日々できるよう、そして患者・国民から信頼される歯科診療を提供するためのサポートを行なっていきます。重ねて半世紀と長きに渡って協会を大きく成長させてくださった先輩方や会員の先生方に心より感謝申し上げます。今後も協会のさらなる発展のためご協力をよろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年9月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.73】 「電子カルテ」とは その3

さらに「電子カルテ」について教えてください。

電子カルテについて、これまで639号から2回にわたって取り上げてきました。電子カルテには先月号で解説した「電子保存の三原則」である「真正性」「見読性」「保存性」を備える必要があります。また、「電子保存の三原則」とともに「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」にも対応していなければなりません。電子カルテに詳しい識者の方にお聞きしたところ、歯科において「電子保存の三原則」ならびに「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠し、適切に許容できる市販システムは、現時点では数少ないとのことでした。

「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」とは?

厚生労働省が策定した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」とは、個人情報の中でも厳重な保護が必要とされる患者の電子カルテなどの医療情報を適切に管理するために国が定めたガイドラインです。本ガイドラインは、2005年に第1版が公表され、患者の個人情報を守るため、個人情報保護法、e文章法、医療法、医師法などを根拠として作成されています。なお、改正個人情報保護法の施行など、法律の改正に合わせて版を重ね、直近のガイドラインは、本年5月に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」として公表されています。本改定は、本年4月から保険医療機関・薬局でオンライン資格確認の導入が原則義務化されたタイミングでネットワーク関連のセキュリティ対策がより多くの医療機関などに求められるため、実施されました。すなわち、保険医療機関としてガイドラインの理解が求められています。ガイドラインの詳細は、下記QRを読み込みご覧ください。

電子カルテに変更を余儀なくされるのはいつ頃ですか?

2030年に普及率90%という数字が示されていますが、未だ不明ですし、歯科では難しいのではないかと思います。歯科医療機関の経済的な問題以外に、理由の一つとして医科に比較してレセプト作成と連動させる必要性がある歯科にとって、標準化した規格を作成することのハードルが高いのではと考えます。したがって、電子カルテは現時点ですぐに対応しなければならない訳ではありませんが、オンライン資格確認の導入から始まった国が考える医療DXの先にある「電子カルテ」について、本会は情報収集、知識向上を今後も図っていきます。「電子カルテ」が現在使用しているレセコンに代わって原則義務化となり、強制的に導入しなければならなくなった時、国に正しい意見、要望ができるよう、さらに会員に明確に説明できるよう今後も準備を進めます。会員の先生方におかれましては、質問あるいはご意見があれば本会までお寄せください。

東京歯科保険医協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年8月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.72】 「電子カルテ」とは その2

 今、なぜ、電子カルテを取り上げるのですか。

前号の電子カルテの普及率には、驚きました。前回の続きで電子カルテについて解説します。今年4月の中医協総会で「医療DX」として全国の医療機関・薬局において、電子カルテ情報の一部の共有、閲覧を可能とする電子カルテ情報交換サービス(仮称)の構築に取り組み、医療機関における標準規格に対応した電子カルテの導入を推進することが示されました。「診療報酬改定DX対応方針取組スケジュール(案)」では、病院、診療所、薬局などが対象であることが示されており、診療所の対象には歯科の表記があり、歯科医療機関にも電子カルテの導入が予定されています。

医療機関に光回線によるオンライン環境を構築させるためのオンライン資格確認システム、マイナ保険証、そして環境構築後にオンライン請求、電子処方箋と、次々に強権的な義務化が予定されています。これらの先に、電子カルテ導入が予定されています。

前号の電子カルテの普及率には、驚きました。

厚労省の医療施設調査の結果を示しました(下記参照)。直近の2020 年(令和2年)の調査(聞き取り調査)では、歯科診療所の電子カルテの普及率は48.7%と示されています。先日、協会会員の新規開業医相談会において、事前アンケートでの「カルテの作成方法は?」との問いに対し、電子カルテを導入していると回答された先生を担当させていただきました。お話しを聞いたところ、電子カルテではなく、レセコンから紙に印刷されていました。なお、その時の相談者全体で事前に電子カルテを導入していると回答された会員は6月13日時点で46%でしたが、すべての会員が電子カルテでなく、レセコンでの対応でした。したがって、多くの方がレセコンと電子カルテを間違えて認識されていることがわかります。恣意的ではないにせよ、行政側が現実とまったく違う数字を利用して電子カルテ導入を推し進めることができないようにすることが必要です。したがって、電子カルテとレセコンを間違えないよう、ご確認をよろしくお願い申し上げます。なお、協会は近々、厚労省に対して、正確な調査を行うように要請する予定です。

「電子保存の三原則」とは。

従前、紙媒体による管理が義務付けられていた診療録などが、1999年(平成11年)4月の厚生省通知「診療録等の電子媒体の保存について」によって規制緩和され、いわゆる「電子保存」が認められました。この通知では、医療情報システムの安全管理に加えて、診療に供する情報を扱うため、医療固有の要求事項が示されています。これが「電子保存の三原則」と呼ばれ、「真正性」「見読性」「保存性」の3つの要件で構成されています。

「真正性」とは、第三者からみて作成者の責任の所在が明確であり、かつ、書き換え、消去・混同、改ざんを防止していることです。また、記名・押印が必要な文書については、電子署名、タイムスタンプを付すことが必要です。

「見読性」とは、診療に用いるのに支障がないことと、監査などに差し支えないようにすることで、必要に応じて肉眼で見読可能な状態にできること、直ちに書面に表示できることです。

「保存性」とは、記録された情報が法令に定める保存期間内、復元可能な状態で真正性を保ち、見読できる状態で保存されることです。

将来、電子カルテの導入を強いられた時のため、電子カルテを十分に理解した上で、正しいカルテの記載や算定要件に沿った請求を知識として持つ必要があります。そして協会は、導入費用やランニングコストなどの歯科医業に関係するさまざまな問題に対して、現場の意見を行政側に訴えていきます。

 

東京歯科保険医協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年7月号8面掲載)

 

【教えて!会長!! Vol.71】 「電子カルテ」とは その1

▼「教えて!会長!!」バックナンバーをチェックする

 

 「医療DX令和ビジョン2030」をさらに教えてください。

 前号で、自由民主党の政務調査会が昨年5月に発表した「医療DX令和ビジョン2030」の提言の概要を紹介しました。その中で「電子カルテ」に触れましたが、詳細を知りたいとの会員の声が多数ありました。そこで今回は、「電子カルテ」の現状を取り上げます。
「医療DX令和ビジョン2030」では、日本の医療分野の情報の問題点や課題を根本から解決するため、
①「全国医療情報プラットフォーム」の創設
②電子カルテ情報の標準化(全医療機関への普及)
③「診療報酬改定DX」
以上3つの取り組みを同時並行で進めるとしています。

電子カルテ情報の標準化とは。

 当然ですが、まずは医科がターゲットです。しかし、歯科も電子カルテを推進することになっています。電子カルテ情報の標準化とは、国際基準になりつつある標準規格準拠(HL7 FHIR規格でのデータ・情報ができる)を活用して、共有すべき項目の標準コードや交換手順を厚労省が定めます。すなわち、一般診療現場での必要な情報の標準化(統一)を行政側が明確に示すことを指しています。
 表に、厚労省の医療施設調査から電子カルテの普及率を示しました。直近の2020年では、歯科診療所における電子カルテの普及率は48・7%となっています。驚きませんか?データでは半数近くがすでに電子カルテを導入していることになっています。行政の調査結果です。本当なのでしょうか。
 レセコンと電子カルテを間違えて回答しているのでは?と思ってしまいます。そうでないと、私の周囲の状況と整合性が取れません。レセコンと電子カルテは違うのです。これらのデータは厚労省からのもので、データ通りに歯科の半数近くが電子カルテを導入しているならば、あと半分だから高いハードルではないと、厚労省が都合よく考えて義務化するのではと懸念しています。

レセコンと電子カルテの違いは。

 紙面の都合上、このご質問は次号で詳細に回答しますが、レセコンはレセプトを作成することを主目的にしています。これに対し電子カルテとは、患者さんの情報を電子データとして保存するもので、すべての情報が一元管理されます。特に、電子カルテには「タイムスタンプ」があります。「タイムスタンプ」とは、入力された時間が記録されることを指します。したがって、カルテ入力を行った後に、整備のための入力を行うと、治療の流れとは違う不自然なタイムスタンプが刻印され、不正請求が疑われる危険性があります。この機能がレセコンにはないことが、もっとも大きな違いです。
 5月17日の参議院地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会(本紙1面参照)などを契機にして、その後のテレビや新聞などのメディアが、「マイナ保険証」「オンライン資格確認システム(以下、オン資)」などを取り上げ、その問題点を指摘しています。東京保険医協会(須田昭夫会長)が中心となって起こした「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」は、1千名を超える原告団となりました。そして、現在第3次訴訟の原告団への参加を呼びかけています(本紙7面)。オン資により回線ネットワークを構築させた上で、オンライン請求の義務化、そして標準化した電子カルテで情報を瞬時に集めることを目標としていることが示されています。そうです。すべての入り口はオン資義務化なのです…。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年6月号3面掲載)

【教えて!会長!! Vol.70】 自民党の提言 「医療DX令和ビジョン2030」

▼「教えて!会長!!」バックナンバーをチェックする

 

自民党の提言「医療DX令和ビジョン2030」がニュースになっていましたが。

 政権与党である自由民主党の政務調査会は、昨年2022年5月に「医療DX令和ビジョン2030」の提言(以下、「提言」)を発表しています。そしてさらに本年4月13日付けで、同提言の実現に向けた新たな提言「(同提言の)実現に向けて〜保健医療情報のデジタル活用により、すべての国民が最適な医療を受けられる国へ〜」をまとめました。
 自民党の提言は、政府に対して強い影響力があり、また政策を進めるために発出されますので、医療機関にとっての今後の方向性を見据えるうえで注目すべきと思います。

提言、そのほかについて教えてください。

 現在、「マイナンバーカード普及」「マイナンバーカードの健康保険証利用」「オンライン資格確認義務化(以下、「オン資」)」「マイナポータル活用」「オンライン請求義務化」「電子処方箋導入」「電子カルテ情報の標準化」「診療報酬改定DX」「医療DX」の推進などは、具体的な政策として進められています。これらは実際、日々の歯科臨床に直接関係がないため、拒否感を持っている先生が少なくないと思います。
 この中で「医療DX」を厚労省は、「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療、薬剤処方、診断書などの作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることと定義できる」としています。そこで自民党の「提言」の概要を示します(表参照)。


 政府では昨年10月に総理を本部長とする「医療DX推進本部」を設置しました。この政府の動きを踏まえ、自民党政務調査会などは医療DXの取組みを力強くかつ速やかに進めるべく、本年4月に「実現に向けて」の提言を発表したのです。
その主な内容は、以下の4項目となっています。

(1)グランドデザイン:医療DXを通じたより効果的かつ効率的で質の高い医 療の提供の実現など
(2)ガバナンスの強化:厚労省の司令塔機能を有する部署の確保など
(3)全国医療情報プラットフォーム:オンライン資格確認などシステムの拡充など
(4)電子カルテ情報の標準化など:標準化に関する集中的な取組みの実施など

 要は、すべて前述した進行中などの案件は既に仕組まれていて「力強くかつ速やかに進める」の文言により速いスピードが求められているのです。その結果、拙速感が強く、説明不足などにより、我々医療機関、そして国民の多くがついていけないのが現状ではないでしょうか。
 今後、歯科においても「オンライン請求」「電子カルテ」などの「義務化」が要求される可能性が高いと考えています。現在、協会は「義務化反対」の立場で様々な活動を行っていますが、提言などからさらに医療機関に押し付けてくることが推測されます。現在、「オン資」を導入されている会員へ「報告フォーム」により、トラブル事例を募っています。さらに多くの先生の回答結果を受けて、問題点をまとめ、よりよい改善に向けて行政などに訴えます。
 この「報告フォーム」は、すでにデンタルブックメールニュースでお知らせしています。また、協会ホームページからも回答できます。ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年5月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.69】オン資運用時 イレギュラーへの対応

▼「教えて!会長!!」バックナンバーをチェックする

 

オンライン資格確認システム(以下、オン資システム)の導入が進んでいますが、トラブルが気になります。

 本年3月31日までに原則導入とされてきたオン資システムですが、経過措置の猶予届出書を出された本会会員は少なくないようです。しかし、一定期間猶予されるだけのため、オン資システムを運用している医療機関のほか、これから運用を開始する医療機関は、時間経過とともにオン資対応の機会が増加していくでしょう。
 運用開始後のトラブルについては、全国保険医団体連合会(以下、保団連)が行った調査結果を2022年11月に公表しています。この調査結果は同年12月の本紙で紹介しましたが、運用されている医療機関が増加していますので、厚労省が昨秋に示した「イレギュラーなケースへの対応」とともにお伝えします。
 また、調査結果によると、運用開始済みの医療機関のうち「トラブルがあった」と回答した中で、最も多かったのは、「被保険者情報が迅速に反映されない(有効な保険証でも『無効』と表示された)」が62%。次に多かったのは、「カードリーダーの不具合」の41%と報告されました(N=855)。どちらのトラブルも診療ができない、確認に時間がかかるなどの影響があり、患者さんの待ち時間が長くなる、治療が滞る、治療時間が短くなるなど、オン資運用前には起こらなかったトラブルが発生しています。

イレギュラーなケースへの対応方法を教えてください。

22年10月に「イレギュラーなケースへの対応の整理について」として5つのケースが厚労省から示されています。ここでは発生する可能性が高い3つのケースを取り上げます。


ケース①…マイナンバーカードまたは被保険者証、両方を不持参の場合
現行の被保険者証を忘れた場合と同じ対応で、一時的に患者が10割分を医療機関に支払い、後日、資格確認を医療機関で確認した上で自己負担割合に応じた額を患者に返金する。


ケース②…カードリーダーが故障などした場合
患者に被保険者証を提示してもらい、資格情報を確認し、負担割合に応じて手続きをする。被保険者証が提示されない場合、コールセンターに連絡し、資格確認(システム障害・大規模災害時)機能を起動することにより、検索が可能となり、患者情報により検索し、資格確認を行う。


ケース③…転職などにより保険者を異動した直後の場合
マイナンバーカードを持参した場合、資格確認を行うと「無効」と表示される。患者が新保険者発行の被保険者証を持っている場合は、被保険者証に基づき自己負担分を請求する。被保険者証を持っていない場合は10割を請求し、後日、資格情報を確認した上で自己負担割合に応じた額を患者に返金する。


 以上、3つのケースが示されていますが、コールセンターについて既に以下が示されています。
・オンライン資格確認等コールセンター(0800―080―4583・通話無料)月〜金 8時~18時、土 8時~16時(いずれも祝日を除く)
・「緊急時医療情報・資格確認機能」開放までおよそ30分間程度かかる

 多くの医療機関は、18時以降も診療をしていますが、時間外は対応してくれません。また、対応に時間がかかることが示されていますので、その間患者さんを待たせるのでしょうか。さらに既にトラブルがあって電話された会員に聞くと、「全く電話がつながらなかった」とのことでした。
現在、医科の団体である東京保険医協会が国を相手に「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」を起こしています。本会会員、さらに全国の医師、歯科医師が原告団に加わっております。詳細は本紙3月号、デンタルブックメールニュースにて既にお知らせしていますが、「内容を詳しく知りたい」などのお問い合わせは協会までご連絡ください。
 また、既にオン資を導入されている先生から、様々なトラブル事例が協会まで寄せられています。国会議員や厚労省に対して、義務化撤回、改善要望・要求を行うにあたり、トラブル事例を多く集める必要があります。4月初旬を目指して、発生したトラブル、困ったことなどを協会に報告できるシステムを構築する準備を進めています。詳細は、デンタルブックメールニュース、協会ホームページでお知らせしますので、生じたトラブルやお困りの事例などをぜひ、協会までお知らせください。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年4月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.68】フッ化物配合歯磨剤の利用方法

▼「教えて!会長!!」バックナンバーをチェックする

 

フッ化物配合歯磨剤について学会から提言が出されましたね。

 2023年1月1日に「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法について」、4学会(日本小児歯科学会・日本口腔衛生学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会)から合同の提言が発表されました。私を含め、多くの先生は国際歯科連盟(FDI)や世界保健機関(WHO)が作成しているガイドラインを参考にフッ化物配合歯磨剤の利用方法について患者や保護者に説明していると思います。今回の提言は、これらのガイドラインを参考にして、さらに日本の状況を考慮して4学会からの推奨として作成されています。

特に強調されている点はどこでしょうか。

 本提言で今までの認識と変更されている点は、6歳未満においてフッ素濃度が500ppmの歯磨剤の使用が推奨されていましたが、歯が萌出してから6歳未満までフッ素濃度1000ppmの歯磨剤の使用が推奨されています(表)。そのほかには、以下の項目などが記載されています。
 高齢者において、う蝕予防の観点からフッ化物配合歯磨剤の利用が推奨できる。
 高濃度で酸性のフッ化物歯面塗布にはチタンインプランを腐食させる可能性があるが、低濃度で中性のフッ化物配合歯磨剤ではその可能性はないと考えられる。(中略)そのため、天然歯へのう蝕予防効果を考え、インプラント患者にもフッ化物配合歯磨剤の利用が推奨されている。
 なお本提言の詳細は、各学会のHPに掲載されていますのでご確認ください。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年3月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.67】全国からオン資義務化撤回、保険証廃止反対の声

ついにオンライン資格確認システムの経過措置が示されました。

 昨年末12月23日の中医協総会でオンライン資格確認システム(以下、「オン資」)導入に関する経過措置が示され、加藤勝信厚労大臣に答申されました。「止むを得ない事情」の具体例として6例の経過措置を2023年1月号本紙第2面に掲載したほか、本号第2面にも関連記事を載せていますので、ご参照ください。まだカードリーダーの設置などオン資に未対応の先生は、ご自身が経過措置に該当するか否かを確認してください。会員の先生によって、診療所の置かれている状況が様々だと考えられますので、不明な点があればどんな内容でも結構ですので協会までご連絡いただければ幸いです。

そのほかの全国の各保険医協会・医会での意見や対応状況などを教えてください。

 本稿執筆時は開催前ですが、1月29日に2022〜23年度第2回全国保険医団体連合会(以下、「保団連」)代議員会が開かれます。この代議員会は、全国51の協会・医会で構成される保団連において、2年に1回開催される「大会」が保団連の最高決議機関であり、「代議員会」は大会に次ぐ決議機関です。2年間で半年ごとに3回開催され、今回は年度内2回目の代議員会となります。なお、本会からは私を含め3名の代議員が参加します。
 代議員会では、各協会・医会を代表する代議員が、保団連や各協会・医会に様々な発言・意見を述べ、議論を行います。既に事前配布資料で本会を含めた発言通告が明らかになっていますので、オン資や保険証廃止の関連についてテーマ名を抜粋して紹介します。


・「オン資義務化」「保険証廃止」撤回に向け、国民とともに大きな運動を継続しよう(山口)
・保険証廃止、マイナンバーカードによる資格確認 等システム導入の「義務化」を全国一体となり、必ず阻止しよう(東京)
・オンライン資格確認義務化と保険証の原則廃止を 何としても食い止めよう(兵庫)
・オンライン資格確認導入原則「義務化」・保険証廃止撤回させよう(福岡歯)
・オンライン資格確認システム義務化施策遂行上の問題点(埼玉)
・オンライン資格確認システムの導入を義務ではな く任意に!(東京歯)
・保険証とマイナンバーカードの一体化に反対(群馬)
・保険証廃止反対の世論を盛り上げよう(愛知)
・2024年秋の保険証廃止の撤回を(和歌山)
・政府は国民・医療側の声を直接聞くべき(東京歯)


 そのほか、10万7千名の医師・歯科医師が所属している保団連の各協会・医会から多数(関連25通)の意見を出しています。そして次に、その声を多くの国民にも届けることが必要です。
 「政府が決めたことに反対しても無駄」と諦めず、アンケート調査の結果などを活用しながら、会員の先生方の声を厚労省、国会議員などの各方面に伝えたことにより、今回昨年末発表された経過措置の内容に対し、少なからず影響を与えたと考えます。ここではそのほかの案件に触れることを避けますが、「政治の劣化」が進んだことを感じている昨今、声を上げなければ無視されることを私は危惧しています。
 現在を含め、将来のすべての歯科医療関係者のために、今後も協会活動にご理解を賜り、会員アンケートや署名活動などへのご協力をよろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年2月号10面掲載)

 

▼「教えて!会長!!」バックナンバーをチェックする

【教えて!会長!! Vol.66】マイナポータルで閲覧可能な内容とは

患者さんから「過去の診療情報を調べました」と言われました。どういうことですか?

 本紙2022年11月号の本稿で「医療情報を確認できる仕組みの拡大」の題名で、22年9月11日以降、患者側がマイナポータルで閲覧可能な項目が増えたことをお伝えしました。なお、11月号執筆の時点では、保険医療機関から提出された電子レセプトの内容が反映されるタイミングの問題で患者側が実際にどのような内容を閲覧できるかは不明でした。

実際にどのような内容を閲覧することができるのでしょうか?

 マイナポータルで閲覧可能となった項目は、医療機関から毎月請求される電子レセプトから抽出した情報の中の項目(診療情報)が対象となっています。対象となるのは22年6月以降に提出されたレセプトから抽出を開始し、以後3年間分の情報が閲覧可能です。診療情報について、患者側のメリットとして「マイナポータルにアクセスすることで、患者自身が医療機関で受けた診療行為などの情報をいつでも閲覧可能」と示されています。表に、ある患者さんが実際に確認した結果を示します。
 表を確認していただくと明細書とほぼ同じ内容であることが分かります。保険医療機関が治療ごとに領収書とともに明細書を発行していれば、保険点数の記載がない以外の内容が閲覧できると考えてよいようです。しかし、レセプトの情報には病名や歯式の診療情報が入っていますので、今後、閲覧できる情報が増えていく可能性があります。
 明細書発行は、明細書発行体制加算として、レセプト電子請求を行っている診療所で、医療費の明細書を無料で発行している場合は、再診時に1点を加算するものです。この明細書発行は、20年度診療報酬改定で、公費負担医療にかかる給付による自己負担がない患者(全額公費負担の患者を除く)についても、患者側から求めがあった場合、明細書発行機能がないレセコンを使用しているなど、正当な理由がある医療機関においても明細書発行が義務付けられています。

マイナポータルの利用規約の問題がニュースになっていますが、何が問題だったのですか。

 マイナポータルは、行政サービスの手続きや年金の確認など、様々なオンラインサービスの総合窓口になるデジタル庁が運営するウェブサイトです。昨年11月にマイナポータル利用規約の「システム利用者の責任」の項に、利用者に損害が生じても「所管するデジタル庁が一切の責任を負わない」との記載があることが国会質疑で取り上げられました。全国保険医団体連合会は、すでにこの問題を半年以上前に指摘しています。
 保険医療機関は、マイナポータルを利用してのトラブルが発生した場合、その責を負わなければならないとされています。例えば、マイナポータルには、患者側ができれば知られたくない医療情報が記載されている場合でも医療機関側は確認できてしまいます。このような不必要な内容まで把握できてしまうことは、保険医療機関にとってリスクとなる可能性があります。
 河野太郎デジタル大臣は、11月30日の参院予算委員会で22年内の修正を目指すと答弁していますが、本稿の執筆時点(12月19日)では、修正の発表がありませんので、どのような文言修正になるか不明です。修正が発表されましたら、デンタルブックメールや本会ホームページでお知らせします。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年1月号10面掲載)

 

▼「教えて!会長!!」バックナンバーをチェックする

【教えて!会長!! Vol.65】電子処方箋って?

電子処方箋について教えてください。

 「電子処方箋」とは、電子的に処方箋の運用を行う仕組みです。そのほか、複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤された情報の参照、それらを活用した重複投薬などのチェックなどが行えると紹介されています。運用開始は2023年1月からですから、来月からスタートします。
社会保険診療報酬支払基金から11月の振込通知書が送付された封筒に「電子処方箋の導入準備をはじめましょう!」との案内が同封されていました。また、オンライン資格確認のために顔認証付きカードリーダーを申し込むために登録した「医療機関等向けポータルサイト」からも、「電子処方箋」の導入を促す内容のメールが届いています。それらに反応して、当会会員から協会に「電子処方箋」についての問い合わせの数が増加しています。

先電子処方箋の導入に必要なものは?

 まずHPKIカードの発行申請が必要です。歯科医師は一般財団法人医療情報システム開発センターに発行申請を行います。そこからはシステム事業者へ発注し、パソコン(オンライン資格確認の機器など)の設定などを経て、運用開始します。その後、補助金申請という流れが示されています。

HPKIカードとは?

 HPKIカードは資格証明書です。所持する人が医師・歯科医師・薬剤師の資格を有する者であることを証明するカードです。電子処方箋を導入すると、従来のハンコによる記名押印、あるいは署名ではなく、HPKIカードの電子証明書の情報を用いて、電子的に署名を行うので、電子処方箋を導入する場合は、HPKIカードが必要になるのです。なお、HPKIカードの発行手数料は、5万5000円(税込み)で、カードの有効期限は約5年です。また更新料は5万5000円で、継続するためにはランニングコストが発生します。

歯科にも必要ですか?

 行政は、電子処方箋を医療機関・薬局の多くに導入してもらうことを目指しています。歯科医療機関もその対象です。行政側は、歯科医療機関への導入メリットを示しています。しかし、私見ですが、処方の頻度が高い薬剤が、抗生剤や消炎鎮痛剤のみであったり、また院内処方を行っている歯科医療機関に導入のメリットが多くあるのでしょうか。HPKIカードの発行手数料からそのランニングコストと効果にも疑問があります。概要は、「オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関等向けポータルサイト(QRコード)」の中にある電子処方箋の案内ページをご覧ください。
 今後も適宜、本紙をはじめ、デンタルブックメールニュース、協会ホームページなどでお知らせします。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年12月号4面掲載)

 

▼「教えて!会長!!」バックナンバーをチェックする

【教えて!会長!! Vol.64】医療情報を確認できる仕組みの拡大

直近のマイナンバーカード関係の状況を教えてください。

 協会は、医療の将来を考え、医療のICT化やデジタル化を進めること自体には反対していません。一方、政府が推し進めているマイナンバーカードの問題点を以前から指摘してきました。そして、現在はオンライン資格確認システム(以下、オン資)導入の″原則義務化〟の撤回を訴えてきました。本紙9月号から今号まで会員の先生方からの疑問、困惑、不満などを紹介し、9月8日に理事会声明「オンライン資格確認システム導入の義務化撤回を」を発出して、国会議員、厚生労働省、メディアなどに発信してきました。
 政府・行政は、2023年4月という期限を決め、オン資の導入を様々な方策で医療機関に迫っています。しかし、8月10日の中医協総会において、「オンライン資格確認の原則義務化に対する答申(答申書付帯意見)」で、実際に予定していた普及率を下回っているためか、「令和4年末頃の導入の状況について点検を行い、地域医療に支障を生じるなど、やむを得ない場合の必要な対応について、その期限を含め、検討を行うこと」と示しています。
 正確にはどの時点の導入の状況(普及率)を調査するかは不明ですが、年末までのどこかのタイミングでの普及率によって、期限などその後の方針を変更するなどの決定がされる予定です。したがって、普及率の数字が重要であることをぜひ認識してください。

 9月14日には日本医師会の長島公之常任理事が、「医療機関側として対応できない事態を根拠に経過措置の対象や期間を求めることになる」と発言され、医師会会員からの様々な声に医師会が応える姿勢をみせたと理解できます。
 また、10月13日には、河野太郎デジタル大臣が現行の健康保険証を2年後の2024年秋に廃止してマイナンバーカードを代わりに使う「マイナ保険証」に切り替えると発表しました。この件についての協会の意見は、政策委員長談話を参考にしてください。
河野大臣の発表後、多くの反対意見が出たためか、同24日の衆議院予算委員会で岸田文雄首相は、「カードを持たない人については、資格証明書でない制度を用意する」と発言され、混乱と迷走していると感じています。
 以上、本稿執筆時までのトピックスをできる限り客観的に記したつもりです。

 

先日、患者さんから「過去の診療情報を調べました」と言われましたが、どういうことですか?

 9月5日の厚生労働省・社会保障審議会医療保険部会で示された「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」でその理由が分かります。そこには薬剤情報に係る「医療機関名」および「薬局名」に加え、9月11日以降、患者側がマイナポータルで閲覧可能な項目が増えたことが示されています(表参照)。


 

 

 

 

 

 

 すなわち、患者自身が医療機関を受診し、医療機関から毎月請求される電子レセプトから抽出した情報の中の項目(診療情報)が対象となり、閲覧可能な項目が拡充されています。この診療情報について、メリットとして「マイナポータルにアクセスすることで、患者が医療機関で受けた診療行為などの情報をいつでも閲覧可能」と示されています。したがって、すでに表に示した診療情報をオープンな状態で患者サイドが直接見て確認することができます。
 患者・国民からみれば、確かに多くのメリットがあることは理解できます。しかし、デメリットとして医師・歯科医師と患者との間での理解や認識の違いによる問題が起こり、互いの信頼関係が損なわれる可能性が危惧され、今後、大小様々な問題まで生じないか一抹の不安を感じるのは私だけでしょうか。
 引き続き、協会では会員の先生方からのご相談、ご意見、ご要望に可能な限りお応えしますので、直接協会までお寄せください。


東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年11月号8面掲載)

 

【教えて!会長!! Vol.62】現在、当協会が取り組んでいる活動

—東京歯科保険医協会が行っている主な活動を教えてください。

坪田有史会長:当協会は会員のため、そして患者・国民のために「保険で安心してきちんとした診療をできるようにしよう」をキャッチフレーズにして日常活動を行っています。特に、電話やメールなどで当協会宛に届いた会員のご意見や疑問に対して、先生方に代わって厚生労働省、東京都、国会議員、都議会議員など多方面に回答を求めたり、要請などを行ったりしています。現在の主な活動を抜粋して、以下に紹介します。

①オンライン資格確認システム義務化の撤回に向けて
 現在、会員から最も多くご連絡をいただいているオンライン資格確認システムについてです。現在の状況、自由意志でなく「原則義務化」であること、ならびに示されているスケジュールでは対応できない医療機関が少なくないことへの懸念、さらに運用上、さまざまな混乱が想定されることなどを本紙の多くのスペースを使って、詳細にご提示しました。政府が進めるマイナンバーカードの普及促進のため、診療報酬のオンライン請求とともに医療機関に多くの対応を強いるこの「原則義務化」には多くの疑問があります。なお、本件について、全国で新たな署名の募集を開始します(3面参照)。署名内容にご賛同いただければ、ぜひご協力のほど、お願い申し上げます。

②新型コロナ感染症第7波への対応
 多くの感染者を出している第7波において、多数の問い合わせが当協会に寄せられています。医療機関において歯科医師やスタッフに感染者が出た、あるいは濃厚接触者になった、感染している疑いのある患者への対応など、感染の拡大により、さまざまな相談が見受けられます。特に濃厚接触者の定義、さらに医療従事者の濃厚接触者の特例など、時間経過とともに変更されるルールに混乱しているのが現状です。本紙7面に詳細を、なお、労務対応についてまとめましたので参考にしてください。

③75歳以上の負担割合2割化反対
 当協会が反対してきましたが、来月から多くの75歳以上の患者の負担割合が1割から2割になります(2面参照)。なお、各方面からの意見によって、配慮措置が設けられましたが、複雑な点があり、医療機関での混乱、受診抑制によるQOLの低下、口腔内環境の悪化などが懸念されます。さらなる対策を講じるように要望していきます。

④東京都への要望
 東京都の2023年度予算の審議に合わせて、都議会の各会派、都の行政側に多くの要望を行っています。例えば、「コロナ禍における医療提供体制の確保について」「歯科衛生士の復職支援や就学支援について」「在宅歯科医療の推進について」「子ども医療費助成制度における一部負担金の地域格差の是正」「個別指導への要望」などです。

⑤一会員の声を届ける
 「歯科衛生士、歯科技工士の人材確保について」「金パラの代替材料の保険適用について」「CAD/CAM冠・インレーの適用拡大について」「財務省の予算調査で国保の高額医療費制度の廃止について」「物価・光熱費高騰による医療機関の影響への対策」などについて、検討中、あるいは今後検討予定です。
 現在、行政等が進めている、あるいは今後予定されていることには、残念ながら理解しにくいことや、理解に苦しむ案件があります。確かに政策などの方針を変更させることが困難なことは、重々承知しています。素直に迎合した方が楽かもしれません。
 しかし、おかしいと思うこと、疑問を感じたことを、初めから諦めるのではなく、歯科の将来のため、患者・国民のため、黙っておらずに意見として、私は声に出したいです。声を出さなければ届くことはなく、伝わることもありません。
 冒頭で申し上げましたが、会員の先生方は、ご意見や疑問のどんなことでも当協会にお寄せください。約6,000名の歯科医師の団体として声をあげます。私も当協会の一会員です。会員の先生方と思いを共有して、今後も活動していきますので、ご理解、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。


東京歯科保険医協会
会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2022年9月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.61】CAD/CAMインレー

—4月の診療報酬改定でCAD/CAMインレーが保険収載されました。

坪田有史会長:新しい技術が保険収載された場合、今まで多くの技術で医療技術評価提案書を提出した学会や関連学会から診療指針(ガイドライン)が示されてきました。現時点でCAD/CAMインレーに関しては学会からの診療指針が示されていません。4月の改定以降、本会にCAD/CAMインレーに関して会員から多数の質問や問い合わせがあります。そこで今回、臨床的な視点でCAD/CAMインレーについて解説します。

—診療報酬上の算定について教えてください。

坪田:CAD/CAMインレーを保険で行うにはCAD/CAM冠と同じく、施設基準の届出が必要ですが、既に4月の改定前からCAD/CAM冠の届出を行っている医療機関は再度の届出は不要です。院内掲示物の名称を、「CAD/CAM冠」から「CAD/CAM冠及びCAD/CAMインレー」に変更してください。
「表1」に22年7月現在のCAD/CAMインレーとメタルインレーの比較を示します。なお、12%金銀パラジウム合金(以下、「金パラ」)の材料料の点数は、10月1日に予定されている随時改定により変更される可能性があります。
CAD/CAMインレーの適用は、小臼歯と第一大臼歯の複雑窩洞に限られます。なお、上下左右すべての第二大臼歯が残存し左右の咬合支持があり、過度な咬合圧が加わらない場合に第一大臼歯に適用できます。歯科用金属アレルギー患者はすべての臼歯部に適用できますが、大臼歯については医科と連携の上、診療情報提供に基づく場合に限られます。

—窩洞形成の注意点を教えてください。

坪田:図にCAD/CAMインレーの窩洞形成について示します。表内の形成量には注意が必要です。「表2」に窩洞形成の注意点を示します。
間接法で作業模型からの製作のみが認められているため、精確な印象採得を行い、製作されてきたCAD/CAMインレーの装着は、必ず接着性レジンセメントを使用し、装着前処理として接着面にアルミナ・サンドブラスト処理およびシラン処理(内面処理加算1:45点)を行うことが推奨されます。

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2022年8月号8面掲載)

 

【教えて!会長!! Vol.60】第50回定期総会を終えて

― 6月19日、中野サンプラザ(東京・中野)で第50回定期総会を開催されました。

坪田有史会長:まず、本会定期総会にご出席いただいた先生方、また委任状を提出していただいた先生方に御礼申し上げます。定期総会では、審議をお願いした議案に、複数のご質問をいただき、それぞれ回答させていただいた上で、全7議案すべてを承認していただき、感謝いたします。
定期総会の位置付けは、本会規約第5章、第14条に「総会は本会の最高議決機関であり、会長が招集する」と記されています。すなわち、総会は本会の中で最も高い位置付けとなります。今回、定期総会が「第50回」という節目の数字となりました。本会がスタートした1973年の会員数は180名と過去の資料に記録されています。その後、会員数が着々と増加し、2022年6月1日現在、5938名と本会スタートから半世紀で約33倍の会員数になっています。この場をお借りして、会員の先生方、会務を担当された先輩方、そして歴代の事務局の方々のご努力に心から感謝申し上げます。
なお2023年は、本会が50歳、すなわち50周年にあたります。本会50周年を迎えるにあたり、会員の先生方と共に祝う感謝の会を現在企画中です。その際は、多くの会員の先生方に参加いただきたいので、よろしくお願いいたします。

― 2022年度の活動計画を教えてください。

坪田:詳細は、総会に向けて郵送させていただいた「第50回定期総会議案書」をご参照いただきたいのですが、ここでは先生方と共有しておきたい具体的な活動計画をいくつか述べさせていただきます。

1 新型コロナウイルス感染症対策
 ・助成金、支援金の申請の補助、労務上の相談へ対応する。
 ・歯初診の研修である院内感染防止対策講習会を複数回、開催する。
2 歯科医療改善の取り組み
 ・今次診療報酬改定の内容を分析し、問題点や不合理な点の是正、改善を厚労省に求める。
 ・オンライン資格確認の導入、マイナンバーカードの保険証利用についてメリット、デメリット   
  を検討し、会員への周知に努める。
3 審査、指導の対策
 ・コロナ禍で一時中断されていた各個別指導が再開されており、会員からの相談に適宜対応す
  る。
 ・レセプト審査が公正・公平に行われるよう情報収集し、問題があれば改善を求める。
4 講習会・説明会などの開催
 ・コロナ禍により始まったオンライン、ハイブリッド形式などを活用し、充実した講習会などを
  開催する。
 ・コロナ禍で中止していた地区懇談会を7月に3地区で開催し、会員との懇談を行う。
5 共済制度の普及・充実
 ・安心して診療に従事できるよう、共済制度の充実、免責事項の改善などに努める。
6 医療改善を求める
 ・患者・国民のため、さらに「保険でよい歯科医療」が進むよう活動を行う。
 ・一部の75歳以上の患者への医療費窓口負担2割化阻止に向けた活動を行う。
 ・都立・公社病院独法化に対して反対する活動を行う。
7 「健康まつり」の開催
 ・コロナ禍で延期していた東京保険医協会と本会とが主催する「保険医協会 健康まつり2022」を
  10月23日(日)、12〜16時、東京都新宿区西新宿の新宿駅西口広場イベントコーナーで開催す
  る予定で準備を進めている。開催目的は、①医療団体として健康増進をアピールする、②医
  師・歯科医師の連携をアピールする、③医科歯科両保険医協会を広く認知してもらうようアピ
  ールする、④国民皆保険制度の重要性をアピールする―などである。

以上、2022年度も引き続き会員の先生方のご理解、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史

(東京歯科保険医新聞2022年7月号6面掲載)

【教えて!会長!! Vol.59】日本歯科技工士会 2021歯科技工士実態調査報告書

― 日本歯科技工士会が歯科技工士実態調査報告書を公表したと聞きました。

坪田有史会長:本年4月に公益社団法人日本歯科技工士会(杉岡範明会長/以下、「日技」)は、「2021歯科技工士実態調査報告書」(以下、「2021報告書」)を公表しました。この調査は、日技が3年ごとに調査を実施しています。
既に会員の先生方は認識されていると思いますが、以前から本邦の歯科技工士周辺には様々な問題があり、「技工士問題」として取り上げられています。歯科技工士の長時間労働、低賃金、そして離職や歯科技工士養成校の廃校、定員割れなどによる就業歯科技工士数の減少など、将来、歯科医療全体に影響を及ぼす可能性が高いと言えます。
そのため、本会は歯科技工士問題検討委員会を発足し、歯科技工士側の実態を知る目的で、2020年9月に都内23区の歯科技工所(1126件)に対して、アンケート調査を行い、その内容を2021年1月に公表しました(※)。
そして、今回公表された「2021報告書」を含め、歯科医療の一翼を担っていただいている歯科技工士の方々の調査時点の実態調査により、歯科技工を委託する側の歯科医師がその内容を知り、理解する必要があると考えています。なお、「2021報告書」は日技のホームページから閲覧できます。2022年度診療報酬改定では、金パラの代替材料として、新たにCAD/CAMインレー、チタン前装冠が保険収載され、委託する技工物の種類が増えました。「2021報告書」は、これらの技術が保険収載される以前の調査ですが、多くの興味深い結果が示されています。本会としては、会員の先生方に、そして本稿を読んでいただいた全国の歯科関係者に、将来の歯科医療を考えるため、「2021報告書」の内容を確認していただきたいです。

※=参照:歯科技工所アンケート 報告書が完成しました!

― 歯科技工問題への行政側の対応は?

坪田:厚生労働省は、「歯科技工士の養成・確保に関する検討会」の報告書を2020年3月に公表し、その後、「歯科技工士の業務のあり方等に関する検討会」の第1回目を2021年9月に開催し、本年2月に中間報告を公表しています。その内容をみると、「歯科技工のリモートワーク」と「歯科技工士間の連携」が検討されています。これらが、現在の「歯科技工問題」や「2021報告書」での歯科技工士側からの改善要求に必ずしも合致しているとは私には思えません。歯科技工士側を守っているとは言えない医療保険制度の仕組みや、委託する側の歯科医師側の問題など、多くの課題があることを承知の上ですが、結局「歯科医療費の総枠拡大」がなければ、これらの現実的な諸問題の解決に繋がらないと考えます。これからも本会は、歯科医療の将来のため「歯科技工問題」を考え、行動します。ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年6月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.58】F局の適用拡大

― 今次改定でF局の対象が変更になりました。

坪田有史会長:「エナメル質初期う蝕(傷病名:Ce)」は改定前からの変更はありませんが、う蝕多発傾向者(傷病名:C管理中)の対象年齢が引き上げられ、判定基準が緩和されました。したがって、う蝕多発傾向者に対する指導である「フッ化物洗口加算(F洗)」の対象年齢は、「4歳から13歳未満」が「4歳から16歳未満」となりました。また、「フッ化物歯面塗布処置(F局)」の対象年齢も、「0歳から13歳未満」が「0歳から16歳未満」に引き上げられました。F洗、F局ともに乳歯や萌出直後の永久歯のう蝕抵抗性を高め、う蝕予防の効果に高いエビデンスがあります。F局の場合、歯科医師や歯科衛生士が多く扱っているフッ化物歯面塗布剤は、フッ化物濃度として9000ppmと高濃度といえます。とくに低年齢時の使用時には、急性中毒を避けるため、使用量に注意が必要です。例として小児の場合、1回の塗布に使用する薬剤の量は2gとされています。多くの歯科医療機関で問題ないと思いますが、今次改定を機会に院内でF局の実際の処置について確認することをお勧めします。一方、対象年齢と判定基準を覚えられない私の場合、治療スペースに「2022年改定の要点と解説」の41ページの表をコピーしていつでも確認できるようにしています。

― 初期の根面う蝕のF局については?

坪田:初期の根面う蝕のある患者へのフッ化物歯面処置は、2014年度(平成26年度)改定で在宅などでの療養患者に限られていましたが、今次改定で外来受診の場合でも歯管を算定した65歳以上の患者であれば算定可能となりました。この適用拡大は、2014年度改定時から長年、在宅療養患者だけでなく外来での患者にも認めるべきであると本会は厚労省に要望してきました。そのほか、保団連を始め、各団体の臨床現場の声が認められ、日本歯科医学会から提出される医療技術評価提案書にはない項目として適用拡大されました。このことは65歳以上の口腔内の健康維持を図り、健康寿命の延伸のために歯科診療を行なっている歯科医療機関にとって、評価できる適用拡大といえます。
我が国の高齢化は、さらに一層進みます。高齢者の根面う蝕の罹患率は高く、さらに年齢が高くなるにつれて根面う蝕が増加することには複数の報告があります。また、日本歯科保存学会の「う蝕治療ガイドライン 第2版」では、根面う蝕の対応として「欠損の浅い初期活動性根面う蝕の場合は、まずフッ化物を用いた非侵襲的治療を行って再石灰化を試み、う蝕を管理するよう推奨される」と記載されています。したがって、各高齢者の様々な口腔内の状況に対し、定期的なメインテナンスを行うにあたり、初期の根面う蝕が重症化しないように予防・管理のため、適切なF局による処置が必要と考えます。今次改定で評価できる項目の一つであるF局について、理解を深め、正しい運用によって患者のう蝕予防に役立てましょう。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年5月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.57】歯科初・再診料の増点

― 2022年度診療報酬改定で初・再診料が増点されましたね

坪田有史会長:歯科初診料の注1(以下「歯初診」)の届出医療機関は、歯初診の施設基準を満たす院内感染防止対策の現行の研修項目に、新興感染症への対応および標準予防策が追加され、基本診療料である初診料が3点、再診料が3点、それぞれ増点され、初診料が264点、再診料が56点となりました。他方、歯初診の未届出医療機関の場合、初診料240点、再診料44点と変更されませんでした。その結果、届出の有無による差は初診料で24点、再診料で12点とさらに点差が広がりました。この扱いは、厚生労働省として院内感染防止対策を推進する観点から、すべての歯科保険医療機関が歯初診の届出を行うことを目指していると理解できます。
初・再診料を1点ずつ上げるには約40億が必要とされていますから、初・再診料を上げるには多くの財源が必要です。なお、今次改定の歯科の改定率は、プラス0.29%で前回改定時の改定率のプラス0.59%と比較すると0.3ポイントも下回った値になりました。なお、プラス0.29%は、概算で約90億円と言われていますのでかなり財源的に厳しい状態です。そこで厚労省は、初・再診料を増点するための財源に、歯周基本治療処置(P基処)10点の廃止・包括分で充てたのです。財源が少ない中、仕方がないという見方もありますが、日常診療の点数を犠牲にしたことには疑問があります。

― そこまでして初・再診料を引き上げる理由は

坪田:長年、歯科側は、医科との基本診療料の格差是正を望んでいます。そこで、院内感染防止対策、および新興感染症への対策を理由として、18年度改定から今次改定まで、初・再診料の増点が行われています。なお、医科は21年から消費増税への対応のみの増点で、実質初・再診料は据え置かれています。しかし、未だ医科歯科格差は解消されていないのが現状です。
歯科初・再診料は、点数だけみると12年の初診料218点、再診料42点から、10年経過した今次改定で初診料264点、再診料56点と各46点、14点増点していますが、その内、初診料30点、再診料6点は、消費税率引き上げへの対応です。したがって、院内感染防止対策および新興感染症への対策のための今次改定までの増点は、初診料16点、再診料8点となります。

― それを聞くと、引き上げ幅が少ないような…

坪田:その通りです。10年間で院内感染防止対策および新興感染症への対策を理由とした増点は、初診料で16点、再診料で8点です。この増点を院内感染防止対策のコストに限ってみると、そのコストについては、2007年の中医協では、268.16円や、19年に中医協で出された意見が約568円ですから、実際にかかっている院内感染防止対策のコストに見合っているとは思えません。
結局、改定財源がなければ、院内感染防止対策のコストを十分に補完することはできません。したがって、「歯科医療費の総枠拡大」が進まなければ、希望は叶わないのです。
国民医療費に占める歯科医療費の割合は、私が歯科医師になった平成元(1989)年では10%ありました。それが30年後の令和元(2019)年では6.8%です。この間、高齢化が進んで国民医療費の全体が増加しましたが、その中で歯科医療費の割合が減少していったのです。もし、10%のまま維持できていたならば、現在の歯科医療費の3兆円は、4兆円になっていたはずです。今更ながら残念なことです。
しかし、過去は変えられません。よりよい未来にするために声をあげていきましょう。声が小さくても、集まれば大声になります。現在全国の協会とともに取り組んでいる署名を含め、協会活動にさらなるご理解、ご協力をお願いします。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年4月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.56】CAD/CAMインレー

― 4月の診療報酬改定でCAD/CAMインレーが保険収載されますが。

坪田有史会長:本紙2・3面(※)に、2022年度診療報酬改定の主なポイントを掲載しました。その内容は、本稿の執筆時点と同じく、2月9日の中医協総会で「答申」が佐藤英道厚生労働副大臣に提出された段階のものです。なお、3月24日開催予定の第1回新点数説明会の前に本会会員に送付させていただく「2022年改定の要点と解説」を全国の協会・医会の担当者・事務局員とともに、現在、鋭意作成中です。今次改定の新規項目や変更点を分かりやすく解説し、会員の先生方の理解が深まる内容となるよう議論し、編集を進めております。今しばらくお待ちください。
なお、今次改定で新たに保険収載されるCAD/CAMインレーについて、すでに協会や私にも多くの質問が寄せられており、注目されている項目といえます。臼歯部1歯につき技術料は750点ですが3月上旬に保険医療材料、すなわちCAD/CAMインレー用に使用できるレジンブロックの材料料が通知されるため、現時点では合計点数は示すことができません。また、拘束力はありませんが、大臣告示(1988年5月)による歯科技工士の製作技術料7割、歯科医師の製作管理料3割からみると、歯科技工士への委託製作技工料は5250円となり、歯科医師側は2250円になります。歯科技工士に委託しないで歯科医師自身がレジンインレーを製作すれば、レジンインレーの複雑な点数が、改定後も材料料が同じと仮定すると、今次改定で220点(2200円)と同等になります。厚労省の担当者は、そこまで考えて技術料を決めているのでしょうか。
現在、特定保険医療材料の機能区分として、CAD/CAM冠用材料は小臼歯部、大臼歯部および前歯部により、ⅠからⅣまでに区分されていますが、CAD/CAMインレー用材料がどの区分のレジンブロックを使用できることになるかは、まだ分かりません。一方、すでに市販され、保険治療で使用されているCAD/CAM冠用のレジンブロックの複数製品の添付文書を調べると、多くの製品で使用用途に「インレーの歯冠修復物」の記載があります。すべての市販の製品は調べられませんでしたが、保険医療材料の多くの製品がすでに「インレーの歯冠修復物」として薬機法の承認を得ていると推測されます。

※参照=東京歯科保険医新聞3月号

― 関連する点数を。

坪田:3月の通知を待たなければいけませんが、歯冠形成は修形120点、あるいはKP「単純なもの」60点、「複雑なもの」86点、印象採得料は、連合印象で64点、咬合採得料は18点、装着材料料と現行のメタルインレーやレジンインレーと同じと考えられます。装着時の装着材料料は、歯科用合着・接着材料Ⅰ(接着性レジンセメント)になるので17点、装着料45点に加え、装着前に接着面に対して内面処理(アルミナ・サンドブラスト処理とシランカップリング処理)を行った場合、内面処理加算1.45点が算定できます。余談になりますが、この内面処理加算1は、今次改定でCAD/CAD冠、高強度硬質レジンブリッジ、そしてCAD/CADインレーのみで認められることになりますが、レジンインレー、硬質レジンジャケット冠の装着時にも通常行っている処理なのに、これらの修復物には算定が認められていない点には疑問があります。認めないのならば、その理由を明確に示すべきです。

― 窩洞形成での形成量はどうなりますか。

坪田:特定非営利活動法人日本歯科保存学会が医療技術評価提案書(保険未収載技術用)で「CAD/CADインレー修復」を作成し、昨年6月に日本歯科医学会から厚労省に提出されました。したがって、通称「学会ルート」による保険収載となります。その提案書には、「従来通りの間接法による2日法および口腔内スキャナーでの光学印象採得で行う1日法も可能である」と記載されています。すなわち、「CAD/CADインレー」と併せ、口腔内スキャナーによる光学印象採得の保険収載も希望した文章になっています。
ご質問の窩洞形成での形成量は「レジンインレーと同様にインレー歯冠形成を行い…」と記載されているのみです。レジンインレーに使用する材料よりも既存のCAD/CAD冠用レジンブロックの機械的強度は高いので、レジンインレーよりも形成量が少なくて済むことはあっても、増えることはないでしょう。なお懸念される歯髄症状に対しては、その対策として有効な象牙質レジンコーティングが、歯冠形成の生PZのみでの算定で、修形やKPでは算定できず、窩洞形成後に象牙質レジンコーティングを行っても無償サービスとなることは問題です。
歯学教育の教科書である「保存修復学21 第3版」(永末書店)のコンポジットレジンインレー修復の章には、「メタルインレー修復窩洞よりも深めに形成し、小窩部で1.5mm、インレー体に平均2mmの厚みを持たせる。特に、Ⅱ級窩洞ではイスムス部で破折しやすいので、十分な厚みを与える」と記載されています。なお今まで保険に新しい技術が収載された際は、日本歯科医学会から臨床指針が発表されています。したがって、4月の改定時前後にCAD/CADインレーの臨床指針が示されると思われますので、参考にしてください。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年3月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.55】パブリックコメントの報告

― 1月14日からパブリックコメントの募集があったそうですが。

坪田有史会長:2年ごとの診療報酬改定が実施される年に、中央社会保険医療協議会(以下、中医協)からパブリックコメントの募集(意見公募)が行われます。今回も1月14日付で中医協からの募集要項が厚生労働省のホームページに掲載され、電子メールで1月14日〜21日と約1週間の期間に提出するように示されました。これは中医協で2022年度診療報酬改定に向けて議論されてきた改定の基本方針や内容について、医療関係者や患者をはじめとしたすべての国民が、意見できる機会を与えられているのです。国民である我々が正式なルートで、中医協の議論の内容について、自分の意見を中医協や行政側に直接言えるのは、パブリックコメントの提出が唯一の機会といっていいでしょう。しかし、健全な民主主義を掲げる我が国にとっては当然のこととはいえ、周知方法、募集期間・方式など、すべての国民に低いハードルで広く意見を募集しているのかは、少々疑問があります。
協会は、1月14日の募集要項の発表を待って、同日の夜8時過ぎにデンタルブック・メールニュースで会員の先生方にパブリックコメントについての詳細な情報を配信し、意見の提出をお願いしました。メールには、「現場からの声をパブリックコメントとして提出してください。改定への意見をあげることができる最後のチャンスです。1件でも多く意見を出せば、反映される可能性は大いにあります。ぜひパブリックコメントをお出しください」と記載いたしました。
協会では、全国組織の保団連とともに会員の声を国会議員や行政側に伝えるため、署名活動を行っています。活動をご理解のうえ、毎回たくさんのご協力をいただき心から感謝しています。国民や歯科業界にとって、歯科医療の様々な問題に改善要求を行う署名活動も重要なツールです。一方、診療報酬改定時のパブリックコメント提出も非常に重要な位置付けと考えています。すでに提出していただいた会員の先生方に感謝申し上げるとともに、今回は提出できなかった先生方には、2年後の機会にぜひお願いしたいです。

― では会長が提出した内容について教えてください。

坪田:私は、全部で10本のパブリックコメントを提出しました。紙面の都合で、すべては紹介できませんが、参考までに下記にて、いくつか概要をお示しします。

・現在の院内感染防止対策の評価は全く十分ではないため、実際の院内感染防止対策のコストにか
 かる調査を多施設で行った上で、その結果と相当な評価を基本診療料で評価されなければならな
 い。裏付けのない評価には反対する。
・国民の健康ならびに将来の歯科において、歯周病安定期治療および歯周病重症化予防治療は重要
 な項目であるため、歯科保険医療機関が取り組みやすく継続しやすい要件と評価にするととも
 に、同一初診内の1回のみといった算定回数の制限を緩和するべきである。さらに、同項目の重
 要性を広く国民に周知をする必要がある。
・歯周基本治療処置(P基処10点)の廃止により、歯周基本治療処置の所定点数を基本診療料に包
 括するならば、従前の歯周基本治療処置の所定点数に相当する額を基本診療料に加えるべきであ
 る。
・歯科用金銀パラジウム合金の随時改定は、中医協で示された論点に加え、実際には歯科医療機関
 は市場価格で歯科用金銀パラジウム合金を購入している。したがって、素材価格を参考にした随
 時改定を行うことは全く理解できず、市場価格を参考に改定を行うべきである。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年2月号4面掲載)

【教えて!会長!! Vol.54】2022年度診療報酬改定に向けて

― 中央社会保険医療協議会で歯科医療(その2)について、議論されたとのこと。

坪田有史会長:8月4日の歯科医療(その1)に引き続き、2022年度診療報酬改定に向けて12月10日に歯科医療(その2)が中医協で取り上げられました。そこで協会では、公表された中医協資料を読み解き、現時点での改定の方向性や内容について議論し、問題点を検証するために12月19日にZoomを使用して、ハイブリッド方式で役員・部員・事務局員による政策学習会を開催しました。本政策学習会は、2022年度診療報酬改定が歯科保険医にとって、悪影響を及ぼすことがないか検証し、混乱を招いたり、問題となる可能性がある改定内容があったりする場合、歯科医療の現場の声として、厚労省サイドに改善を求めることを目的としています。

― 歯科医療(その2)の内容について、教えてください。

坪田:12月10日の中医協の資料を紹介します。その内容は、3大項目に分類されています。その3大項目とは、「1.歯科医療を取り巻く状況について」「2.地域包括ケアシステムの推進について」「3.生活の質に配慮した歯科医療の推進など」です。
 「1.歯科医療を取り巻く状況について」は、4年前の改定で用いられた図を使って、歯科治療の需要の将来予想として、治療中心型から、治療・管理・連携型へのシフトの必要性が再度示されています。その上で、「地域包括ケアシステムにおける歯科医療機関などの役割」「あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割」「具体的な医科歯科連携方策と歯科疾患予防策」について詳細な目標などが明示されています。
 「2.地域包括ケアシステムの推進について」は、新型コロナウイルス感染症の発生を受けて、地域における歯科医療機関と施設・行政など関係機関との連携の必要性があることから、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の施設基準の見直し、特に要件の一つである自治体が実施する歯科保健に係る事業への協力について、介護老人保健施設などにおける歯科疾患に対する取り組みの推進などと関連付けながら明確化するなど、改定を進めようとしていることが窺えます。
 医療機関間の連携の一つとしては、障害者歯科治療を推進するための連携に関係する歯科診療特別対応連携加算の施設基準の見直しなどが行われそうです。
 また、安心・安全で質の高い歯科医療の推進のためにICTの活用として、歯科衛生士が訪問による訪問歯科衛生指導を実施する際に、遠隔の歯科医師が口腔内の状況を確認することで、より詳細な指導ができるとし、オンライン診療の一つとして評価されそうです。
 「3.生活の質に配慮した歯科医療の推進など」は、いくつかの項目があります。一つには歯周病安定期治療(SPT)と歯周病重症化予防治療(P重防)の包括範囲の区別と整理が行われるようです。また、う蝕の重症化予防として、訪問診療の患者に限定されていた根面う蝕に対してフッ化物歯面塗布が外来にも適応拡大が検討されています。
 一方、各ライフステージに応じた口腔機能の評価として、小児口腔機能管理料と口腔機能管理料の対象年齢が見直されそうです。
 歯周基本治療処置(P基処)について、比較的簡単な処置であり、平均所要時間が比較的短いとしており、改定の財源確保のために包括化するのではないでしょうか。
 中医協資料を読み解いた上で、2022年度診療報酬改定の内容について検討しましたが、まだ決定したわけではなく想像の域に過ぎません。しかし、この段階で疑問があれば、現場の声を行政側に伝えることが望まれます。その結果、歯科医療と国民のために、よりよい改定になることを願っています。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年1月号4面掲載)

【教えて!会長!! Vol.53】PEEKによる大臼歯歯冠修復物

<東京歯科保険医新聞2021年12月号8面掲載>

▼他、PEEKに関する記事はコチラからチェック
【教えて!会長!! Vol.77】「PEEK」について 

― 医療技術評価提案書の最初の段階の結果が出されたそうですが。

坪田有史会長:11月4日に医療技術評価分科会が開催され、来年4月の診療報酬改定に向けて今年の6月に日本歯科医学会から厚生労働省に提出された日本歯科医学会所属の専門分科会、認定分科会が作成した医療技術評価提案書の第一段階の結果が出されました。この結果で、歯科関係全体では76項目が「評価の対象となるもの」とされ、来年の改定に向けて、学会が作成した医療技術評価提案書を初めて確認できました。なお、通常、最終結果は来年1月に発表されます。したがって、今回の「評価の対象となるもの」とされたすべての項目が、診療報酬で評価される訳ではありません。最大の障害は改定財源といえます。しかし、今回の結果により、各学会が保険治療で評価を望んでいる項目・内容の詳細が判明することと、行政側が考えている方向性を知ることができ、注目すべき結果といえます。
また、前回の最終結果で「評価の対象となるもの」の中には、4月の診療報酬改定時ではなく、その後に期中収載された「チタン冠」「前歯CAD/CAM冠」「磁性アタッチメント」がありました。これらは、材料自体が保険適用材料でないため、企業から各材料を保険適用材料として認可するように要望がなされ、中医協総会で審議・承認を得る必要がありました。そのため、4月の診療報酬改定から月日が経過して、保険収載されています。

― 今回、「評価の対象となるもの」の中で「PEEKによる大臼歯歯冠修復物」がありますが。

坪田:今回の結果、(公社)日本補綴歯科学会から提出された医療技術評価提案書「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)による大臼歯歯冠修復物」が「評価の対象となるもの」とされました。この結果をみた複数の会員から「PEEK」とは?との質問を受けたので、ここで解説します。

PEEK材は、高機能プラスチックと称されています。まず、医療技術評価提案書に記載された内容の一部を紹介します。
医療技術の概要の項には、「大臼歯歯冠の歯質を大きく喪失した患者に対し、生体安全性が高く、高強度で破折リスクがない非金属性のPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を材料として、CAD/CAMシステムを用いて歯冠修復物を製作し、治療する医療技術である(一部省略)」と示されています。
有効性・効率性の項では、「既存のハイブリッドレジンによる大臼歯CAD/CAM冠は、適用条件があるが、PEEKはハイブリッドレジンに比較して高い靭性値があり、支台歯形成においてCAD/CAM冠に比べて、歯質削除が少なくてもよく、咬合面やマージン部の厚みが小さくても使用できる。大臼歯CAD/CAM冠が使用できない最後臼歯においても、また第2大臼歯が欠損している場合にも、第1大臼歯に使用可能である。物性値としての硬度(ビッカース)はハイブリッドレジンより小さいが、摩耗性は同等であるというデータもあり、対合歯に対しては摩耗させにくく、過度の咬合力に対して緩衝作用もあるという特徴を有し、歯根に過度の負担がなく生理的で歯の寿命に有利であることが期待できる。さらに、吸水性が低く、変着色のリスクも少ない。PEEKは生体親和性が高く、成分の溶出量が少なく、医科分野では医療機器やカテーテル、体内インプラントなど生体埋入の実績もある(一部省略)」として、期待できることが記載されています。

― 実際にはどうですか?

坪田:実際に研究が進み、学会で様々な報告がありますが、臨床研究では、最後臼歯を含む大臼歯にPEEKによる冠を20症例に装着し、6カ月間の観察の結果、問題は生じなかったとの広島大学病院での報告があります。20症例、6カ月間の臨床研究の結果が、国民に広く臨床応用することを認めるエビデンスとして十分かどうかは賛否両論があるでしょう。現在、さらに複数の機関で臨床研究が進んでいると聞いています。
国内では、2019年にULTI-Medicalが薬事認証を取得し2021年から松風が販売を開始しています(商品名:松風PEEK)。現在は保険適用外ですが、PEEK材によるインプラントのアバットメント、あるいはインプラントの上部構造、クラウンのコーピング、ブリッジのフレームなどで、すでに臨床応用されています。しかし、現時点でPEEK材自体が保険適用材料でないため、来年4月の改定時での保険収載は時間的制約があり、難しいと思いますし、財源的視点から期中収載が望ましいと考えています。高機能プラスチックであるPEEK材の保険収載によって、金パラ原価割れの問題への一助、歯科用金属アレルギー患者への歯冠修復など、間接法歯冠修復の選択肢が増えることに期待します。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2021年12月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.52】あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割

― 厚生労働省で歯科医療の提供体制に関して、定期的に検討会が開かれているそうですね。

坪田有史会長:10月7日、オンラインによる「歯科医療提供体制等に関する検討会」が開催されました。本検討会は、第1回(2月19日)、第2回(6月2日)、第3回(7月29日)に開催されており、今回の検討会は第4回の開催です。主に「あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割」が議論されました。われわれ歯科医師にとって重要な将来の歯科保健医療の提供のあり方について検討しています。
これらの議論は、社会保障制度のあり方にも通じ、次期診療報酬改定にも影響すると考えられ、当会も同検討会の議論に高い関心を持って注視しています。 

― この検討会の目的を教えてください。

坪田:2017年(平成29年)12月にまとめられた「歯科保健医療ビジョン」において、高齢化の進展や歯科保健医療の需要の変化を踏まえ、これからの歯科保健医療の提供体制について、歯科医療従事者などが目指すべき姿を提言されました。その中身は、地域完結型歯科保健医療の提供のため、「あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割」「歯科疾患予防策」「具体的な医科歯科連携方策」「地域包括ケアシステムにおける歯科医療機関などの役割」について検討されました。
その2017年に「歯科保健医療ビジョン」でまとめられた提言は、その後、少子高齢化などのわが国の将来を考慮すると、高齢化による医療の需要拡大への対応、生産年齢人口が減少する中での地域医療の確保、健康寿命の延伸へ向けた取り組みを進めることが重要とされ、歯科保健医療の提供のあり方について、改めて検討することを目的としています。

― 検討会が議論する論点を教えてください。

坪田:歯科医療提供体制等に関する検討にあたっては、以下①~⑦の論点および「歯科医療提供体制等事業」における調査結果をふまえつつ、具体的に議論を行うこととしています。
まず、歯科医療提供体制については、①歯科疾患の予防、重症化予防の推進とかかりつけ歯科医の役割、②歯科医療機関の機能分化と連携、かかりつけ歯科医の機能、③地域包括ケアシステムの構築における歯科の役割(食べる機能の維持・回復への支援)、他の関係職種(医療・介護)との連携、要介護高齢者などへの在宅歯科医療の推進など、④地域における障がい者(障がい児)への歯科医療提供体制、⑤行政の取り組み―等です。
次いで歯科専門職の需給については、⑥今後の歯科医療のニーズを踏まえた歯科医師の需給、⑦今後の歯科衛生士の業務のあり方と需給―です。
今後の歯科医療提供体制の検討スケジュールは、歯科医療提供体制に関する議論に関しては進捗状況により、必要に応じて開催することとしており、2022年(令和4年)3月ごろまでに新たな歯科保健医療ビジョンをとりまとめる見込みです。歯科医師、歯科衛生士の需給に関する議論は、歯科医療提供体制に関する議論の状況をみつつ、2022年3~4月ごろに検討会を開催する方向です。
 歯科技工士の業務のあり方と需給については、別途議論を行う場で検討することとしており、9月30日に第1回歯科技工士の業務のあり方等に関する検討会が開催され(3面)、歯科技工所の業務形態改善について、「歯科技工所におけるテレワークのあり方」「歯科技工所間の連携のあり方」等を議論することとしています。開催回数を重ね、議論がある程度進んだ段階で、歯科技工士に関する検討会の内容を紹介します。

― 開業医の立場からは、「かかりつけ歯科医」が気になります。

坪田:ここでの「かかりつけ歯科医」は、保険制度上での限定的な「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」を直接的には議論はしていません。通常、「かかりつけ歯科医」は、患者側からみて「定期的に歯科健診を受けるなど、自分の歯や口の状態を管理してくれている歯科医」「困った時に診てくれる歯科医」であるとされています。
しかし、行政側が示している「かかりつけ歯科医」とは、地域包括ケアシステムの推進を前提としていることから、「歯科保健医療サービスを提供する時間帯、場所、年齢が変わっても、切れ目なくサービスを提供できる」「患者が求めるニーズにきめ細やかに、安心、安全な歯科保健医療サービスが提供できる」とされています。このことを背景として、かかりつけ歯科医自体を評価するのではなく機能を評価するとし、歯周病安定期治療(Ⅱ)(SPT(Ⅱ))、エナメル質初期う蝕管理加算などを行政誘導として用い、多数の施設基準を満たす医療機関を「か強診」として評価しています。「か強診」は、その施設基準から、複数回の在宅歯科診療を行い、積極的に地域包括ケアシステムに参画する歯科医療機関に対しての評価といえます。
現在、中医協において、この「か強診」の現状、特に訪問診療の実績の要件が低いことに対して疑問視する発言が見受けられます。
そのため、「か強診」、そして「か強診」以外の「かかりつけ歯科医」が行う長期管理について、次期診療報酬改定で何らかの措置を講じてくる可能性があると考えています。その際、国民側・歯科側の双方にとってより良い改定になることを強く望んでいます。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2021年11月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.51】2022年度 診療報酬改定に向けて

― 2022年4月の「2022年度診療報酬改定」まで6カ月ですが、改定はどうなりそうですか。

坪田有史会長:現在までに、中央社会保険医療協議会総会(以下、「中医協」)で、「歯科用貴金属価格の随時改定について」「歯科医療(その1)」「在宅(その1) について」が議論され、9月15日に「診療報酬改定に係る議論の中間とりまとめについて」で中医協委員から出された主な意見がとりまとめられています。
8月4日の中医協で厚生労働省側は、「歯科医療に係る歯科診療報酬上の評価について」として、下記のようにまとめています。
これらの論点を受けての中医協委員の発言を踏まえ、私見を述べさせていただくと、以下のようになります。

▼かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)や在宅療養支援歯科診療所(歯援診)の役割
 や要件が、行政側の目指している地域包括ケアシステムの推進に対して十分でないとの意見があ
 り、現在の施設基準などの見直しが行われる可能性があります。
▼歯科側は、さらなる重症化予防や口腔機能の継続管理について評価を求めていて、一定の成果は
 認識されている。しかし、治療と予防の境界線を明瞭にすべきとの意見があり、将来の歯科医療
 を考えれば、継続管理の重要性をさらに訴える必要があります。
▼歯科矯正治療は、原則保険給付外ですが、小児の口腔機能の改善を含め、必要性が認められ、保
 険での矯正治療の適用範囲拡大が議論される可能性があります。
▼歯科用貴金属の代替材料について、現時点ではその範囲は限定的であるため、さらなる代替技
 術・材料への推進が必要とされています。今回の改定には難しいですが、PEEK材などの研究を産
 学臨の協働により進め、高いレベルでのエビデンスを構築した上で保険適用が望まれます。

 紙面の都合上、そのほか多くを記せませんが、行政側が明確に決めていることは、まだないと考えています。今後、「歯科医療(その2)」などの中医協の議論に注視する必要があります。

― より良い改定になるためにできることはありますか。

坪田:協会は、今月から保団連が全国で行う「疲弊した医療提供体制を立て直す診療報酬改定を求める医師・歯科医師要請署名」に賛同して会員の先生方に署名をお願いします。より良い改定を求めるため、日々歯科医療を提供している先生方のご意見をぜひお寄せください。多くの先生方の声を集め、行政・立法側に要請しますので、よろしくお願い申し上げます。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2021年10月号8面掲載)