広報・ホームページ部

【Health Care】 No.3 アドヒアランスを制することが次世代の目標

医療経済学の専門家で東京大学大学院特任教授の田倉智之氏による連載の3回目。今回のテーマは「アドヒアランスを制することが次世代の目標」。

 アドヒアランスは、医療者から患者等への一方通行ではなく協同のもとで、患者が治療の必要性について理解し、自発的、積極的に参加する姿勢を指す概念である。WHOの定義(2003年)を意訳すると、「人間の主体的な健康行動が適切(医療専門家の方針と一致)であること」になる。なお、狭義の生物学面や疾病機序が同様でも、長期予後に差異が生じるケースは散見するが、その背景として、患者固有のアドヒアランスの存在も想像される。以上から、アドヒアランスの見える化とそのコントロールは、健康寿命や社会経済に大きな恩恵をもたらすと期待される[]

例えば、服薬コンプライアンスや患者モラルハザードは、臨床成績と密接に関係し、健康行動だけでなく医療費などの社会経済的要因にも大きな影響を与えることが明らかになっている[2、3]。つまり、これらの向上は、患者の慢性疾患の負担だけでなく、経済的負担も軽減するわけである[ ]。特に、自己管理やヘルスリテラシーを含む広義のアドヒアランスは、疾病予防行動に影響を与える[]。このような中、限られた共有財の枯渇を避け、医療資源の配分の公平性を管理する必要もある厚生政策では、有害事象につながる可能性のある重複受診に伴う医療費の増加も懸念されている[1、5、6]

以上を整理すると、アドヒアランス(健康関連行動)の定義は、議論の立場によってやや変わるものと考えられる。つまり、公共市場を背景に集団の健康を論じる場合は、「自主/積極性」に「社会協調性」「モラルハザード」も関係してくるわけである。そこで、ここからは、広義のアドヒアランスの見える化とともに、その長期の臨床経済効果を検証した我が国の研究を紹介する[ ]。この研究は、定量化されたアドヒアランス(10水準のASHRO*スコア:低いと良い)が長期(48カ月間)の医療・介護費用や生命予後、他の臨床指標に与える影響を48,456人(循環器領域)のコホートで検証しつつ、予測モデルを開発している。

ASHROスコアは、収縮期血圧、LDLコレステロール、HbA1c、eGFR等の因子とも有意な相関関係を担保しつつスコア化されている。危険因子を揃えた予測モデルの全死亡に対する検証の結果、スコアの低い群と高い群の間には、3年以上後の累積死亡率に統計学的有意な差が認められている(2vs.7%、p< 0・001)。また、生命予後(全死亡)に対するASHROスコアのオッズ比は、1.860 95 % CI:1.740- 1・980、p<0・001)である。さらに、48カ月後の医療・介護費用の変位は、アドヒアランスが悪い群(スコア10)は、平均(スコア5)に対して、一定の精度のもとで将来の医療介護の累積費用が140%以上増加することを示している()。

ここまでの話しを医療保険財政のひっ迫等を背景にまとめると、やや大げさに聞こえるかもしれないが、アドヒアランスを制することで、将来、医療システムの安定供給を手に入れられると考えられる。すなわち、医療制度において国民のもっとも重要な財産(価値)を安定供給と見なした場合、アドヒアランスの向上が大きな価値を育むことになる。

田倉 智之(たくら・ともゆき):博士(医学)、修士(工学)東京大学 大学院医学系研究科 医療経済政策学講座 特任教授。1992年に北海道大学大学院工学研究科修了。東京大学医学部の研修を経て、2010年より大阪大学大学院医学系研究科 特任教授。2017年より現職。厚生労働省(中医協)費用対効果評価専門組織 委員長、内閣府 客員主任研究官、大阪大学医学部招聘教授、東邦大学医学部客員教授、日本循環器学会 Circulation Reports Associate Editor、日本心臓リハビリテーション学会 評議員など歴任

 

*Adherence Score for Healthcare Resource Outcome

【文献】

1 Takura T, et al. Development of a predictive model for integrated medical and long-term care resource consumption based on health behaviour: application of healthcare big data of patients with circulatory diseases. BMC medicine. 2021;19(1):15.

2 Cleemput I, et al. A review of the literature on the economics of noncompliance. Room for methodological improvement. Health Policy. 2002;59:65‒94.

3 Robertson CT, et al. Distinguishing moral hazard from access for high-cost healthcare under insurance. Plos One. 2020;15:e0231768.

4 Neiman AB, et al. CDC grand rounds: improving medication adherence for chronic disease management̶innovations and opportunities. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2017;66:1248‒51.

5 Hassanally K. Overgrazing in general practice: the new tragedy of the commons. Br J Gen Pract. 2015;65:81.

6 Porco TC, et al. When does overuse of antibiotics become a tragedy of the commons? Plos One. 2012;7:e46505.

【IT相談室】 歯科医院の効果的なチャットアプリ活用と労働基準法の遵守 その1

近年、SNSやチャットアプリ(以下、SNSなど)がコミュニケーション手段として広く活用されるようになりました。歯科医院においても業務の効率化やスムーズなコミュニケーションの手段として活用するケースが増えています。しかし、SNSなどを活用した業務連絡等については、一斉に連絡ができるなど便利な反面、注意しなければいけない点があります。これらの点について解説し、適切な運用方法について考えてみましょう。

【労働条件とチャットアプリの関係】

労働基準法は、労働者の権利保護と健全な労働環境の確保を目的として制定された法律です。この法律に基づき、就業規則や労働契約などが結ばれ、賃金や労働時間、休憩時間など労働条件が定められます。さて、労働基準法や就業規則、労働契約など(以下、労働基準法等)で定められている就業時間とは、始業時刻から終業時刻までの時間のことであり、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。休憩時間や終業時刻以後の時間は、労働者は使用者の指揮命令下にはありません。このことを念頭に少し考えてみたいと思います。

【就業時間との関係】

就業時間外にSNSなどを使って業務連絡を行う場合には注意が必要です。仕事に関する連絡は簡単な場合であっても〝仕事〞であり、賃金支払いの対象となります。また、就業時間外に送られたSNSなどの連絡を「見なければいけない」「必要に応じて返信をしなければいけない」など、あらかじめ定めておく必要もあります。これらを事前に定めておくことで、業務連絡としての活用が可能となるでしょう。これらの取り決めがない場合は、見るも見ないも受け手任せになり、業務連絡としての役割を果たすことができません。また、緊急連絡としての機能も果たせなくなります。前提として、就業時間外にSNSなどを利用した業務連絡を行う場合には、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)の締結・届出が必要になります。36協定の締結・届出がない場合には、就業時間後や休日にSNSなどを活用した業務連絡は違反行為になりますので注意が必要です。

【自己判断による労働の回避】

SNSなどで業務連絡を行ったところ、スタッフが気を利かせて、就業時間外に自主的に翌日の準備を行った。仕事への意欲については褒めたいところですが、この場合も時間外労働として賃金が発生する可能性があります。明確な指示はなくとも、SNSなどの連絡が〝指示〞と取られれば、時間外労働と解釈されかねません。

【利用の制限】

36協定を締結・届出し、SNSなどの利用について取り決めをしてもそれだけでは不十分です。先輩スタッフが後輩スタッフに、就業時間外にSNSなどを活用して仕事のアドバイスをするなども考えられます。就業時間外にメモのつもりで行ったSNSなどの投稿を見た後輩スタッフが、そのことでやり取りを行うなどした場合には、業務と取られる可能性があります。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞20239月号11面掲載)

※「東京歯科保険医新聞」7月号の「IT相談室」はお休みました。

【IT相談室】 マイナンバーカードの不具合

今年に入ってからマイナンバーカードについてのニュースを聞かない日はありません。今回は一体、何が起きているのかを確認したいと思います。

最近、一番多いケースが、「他人の情報に紐づけられて間違った情報が表示される」もしくは「誤って紐づいた口座にお金が振り込まれる」などの「個人の誤認」です。

そもそもマイナンバーカードは、当初、住民基本台帳と似たような機能を担うことを想定して設計されていました。主に行政サービスを受ける際の本人であることの証明や、個人データへの参照の鍵とすることが目的でした。

個人に関する情報は、国、都道府県、区市町村などがそれぞれ個別に管理しています。これをマイナンバーカードを鍵として、ばらばらに管理された情報を統合するのではなく、それぞれを「連携」させることで参照できる仕組みとすることが狙いです。

今では銀行口座、健康保険証、今後は運転免許証とも連携します。

この「連携」は国、都道府県、区市町村など別々のデータベースに接続していくので非常に煩雑で「間違い」「誤解」「うっかり」などの人的なミスが多く起こり得ます。このため、連携システム構築作業の中に「徹底したテストと改善」を実施する必要があります。今の問題は、それができていないために起きているのであり、設計段階の問題とも言えます。そしてここまで大規模な情報連携の経験を誰も持っていないことも根本的な問題です。

元々、マイナンバーの設計を行った時点で、ここまで広範囲に連携を行うことが計画されていたなら、もっと準備も上手にできたことでしょう。締切だけ決まっていて計画もなく、とりあえずスタートさせるという流れに、どの自治体の担当者も追い立てられているのではないでしょうか。さまざまな情報との連携を包括的に考え計画を立てなければ、今後もこのような問題の発生は必ず続きます。まさにⅠT系の「あるある」です。

さて、ここからは実際に歯科医院内で似たようなトラブルが起きた場合のお話です。

トラブルが起きた時には、院内の操作や機械に問題があったのか、それともデータベースの情報連携に問題があるのか、現場スタッフは瞬時に判断ができないので一時的な混乱が予想されます。

「他人の情報が表示される。本人の情報が参照できない」という場合はデータベースの情報連携に問題がある場合が多いです。さまざまなトラブルを想定して、現場スタッフは焦らず騒がず対処できるように、日頃から院内でのコミュニケーションを取っておくとよいでしょう。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞20238月号4面掲載)

※「東京歯科保険医新聞」7月号「IT相談室」はお休みしました。

【教えて!会長!! Vol.74】 半世紀を迎えて

半世紀を迎えて

Q 協会設立から50周年とのこと。

 東京歯科保険医協会は、国民皆保険制度を守るとともに、保険診療の充実を図るため、歯科保険医の要望に応えるべくして50年前にスタートし、50周年を迎えました。過去から現在までのすべての会員の先生方、事務局員、そして協会にご協力、ご支援を賜った方々に対し、協会を代表して心から御礼申し上げます。直前に迫っておりますが、2023年9月10日(日)に都市センターホテル(千代田区平河町)で東京歯科保険医協会設立50周年記念として、記念シンポジウムならびに記念レセプションを開催します。「これからの歯科を考える」と題しての記念シンポジウムに引き続き、記念レセプションでは参加されたすべての方に記念品のプレゼント、また豪華景品が当たる抽選会、ミニデンタルショーなどを企画しました。詳細は、このホームページにも記載しています。スタッフやご家族の方も無料で参加できます。協会が設立以来半世紀を迎えることができたことを多くの方をお迎えし、ともに喜びを分かち合いたいと思います。奮ってご参加のほど、よろしくお願い申し上げます。

Q 協会の経緯と現状を教えてください。

 今から50年前、第1回の総会は1973年4月22日に開かれ、当時の会員数は180名と記録されています。そして、10年前となる40周年に作成した記念誌「『現在過去未来へ』2」に、当時の松島良次会長が挨拶文で「あと数十名で歯科会員5,000名となる予定」と記されています。すなわち、40年間で約28倍の会員数となり、東京都の多くの歯科医師の先生方にとって協会が必要とされてきたことが分かります。

本年6月18日に第1回から数えて51回目の第51回定期総会が開催され、その直前に会員数は6,000名を超え、現在の会員数は、6,024名(2023年8月25日現在)と直近10年間で1,000名以上の先生がご入会されました。この会員増は、さまざまな要因がありますが、その一つには既会員の先生からのご紹介によるものも少なくありません。新たな会員をご紹介いただいた会員の先生に対して、この場をお借りして感謝申し上げます。

現在の協会は、日々の保険診療についての会員の疑問に答えるとともに、開業医の医院経営のサポート・共済保険・税務・学術・スタッフ教育・平和運動まで幅広い活動を行っています。保険請求のサポートのため「電子書籍デンタルブック」を無料提供し、さらに行政などが発する情報を速やかに共有するため、デンタルブックニュースとしてメールで随時会員に配信しています。

一方、厚生労働省や東京都に対しては一人の歯科医師が個人で意見を届けることは容易ではありません。そこで、特に保険制度や歯科医業にかかわる要望を中心に協会は、多くの歯科医師で構成されている一団体としてさまざまなアプローチを行っています。それらのアプローチをするためには、バックアップするツールが必要です。例えば、会員アンケートの結果、あるいは先生方に署名していただいた紙署名用紙の束を持って、国会議員や行政に会員の声を要望として届けています。今後もご協力よろしくお願い申し上げます。

また、歯科界のあらゆる情報をチョイスして、できるだけ迅速に会員へデンタルブックニュースとしてメール配信、あるいはFAX、協会ホームページなどを通じて発信しています。その際、行政などから発出される少し難解な文章を平易に解説し、さらにその文章の裏、そしてその先を読んだ上で、情報を会員と共有することに努めています。来年は改定年度で「トリプル改定」が行われますので、先生方にとって情報を知ることが特に重要と言えます。

我々は、2020年前半から長期に渡って新型コロナ感染症による影響を受けてきていす。そして、本年になってオンライン資格確認の原則義務化、マイナ保険証への対応、電子処方箋の導入、続けてオンライン請求の義務化、そして電子カルテの導入など、さらに順番にさまざまな項目が強制されることが予定されています。すなわち、歯科保険医の環境は現在から将来に向かって、対応が困難となる可能性がある案件が控えています。協会は会員のため、これらの案件への対策、対応を行う所存です。

未だ会員になられていない先生がいらっしゃいましたら、ぜひ入会をご検討ください。

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これからも東京歯科保険医協会は、歯科医師が保険で安心してきちんとした診療が日々できるよう、そして患者・国民から信頼される歯科診療を提供するためのサポートを行なっていきます。重ねて半世紀と長きに渡って協会を大きく成長させてくださった先輩方や会員の先生方に心より感謝申し上げます。今後も協会のさらなる発展のためご協力をよろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年9月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.73】 「電子カルテ」とは その3

さらに「電子カルテ」について教えてください。

電子カルテについて、これまで639号から2回にわたって取り上げてきました。電子カルテには先月号で解説した「電子保存の三原則」である「真正性」「見読性」「保存性」を備える必要があります。また、「電子保存の三原則」とともに「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」にも対応していなければなりません。電子カルテに詳しい識者の方にお聞きしたところ、歯科において「電子保存の三原則」ならびに「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠し、適切に許容できる市販システムは、現時点では数少ないとのことでした。

「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」とは?

厚生労働省が策定した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」とは、個人情報の中でも厳重な保護が必要とされる患者の電子カルテなどの医療情報を適切に管理するために国が定めたガイドラインです。本ガイドラインは、2005年に第1版が公表され、患者の個人情報を守るため、個人情報保護法、e文章法、医療法、医師法などを根拠として作成されています。なお、改正個人情報保護法の施行など、法律の改正に合わせて版を重ね、直近のガイドラインは、本年5月に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」として公表されています。本改定は、本年4月から保険医療機関・薬局でオンライン資格確認の導入が原則義務化されたタイミングでネットワーク関連のセキュリティ対策がより多くの医療機関などに求められるため、実施されました。すなわち、保険医療機関としてガイドラインの理解が求められています。ガイドラインの詳細は、下記QRを読み込みご覧ください。

電子カルテに変更を余儀なくされるのはいつ頃ですか?

2030年に普及率90%という数字が示されていますが、未だ不明ですし、歯科では難しいのではないかと思います。歯科医療機関の経済的な問題以外に、理由の一つとして医科に比較してレセプト作成と連動させる必要性がある歯科にとって、標準化した規格を作成することのハードルが高いのではと考えます。したがって、電子カルテは現時点ですぐに対応しなければならない訳ではありませんが、オンライン資格確認の導入から始まった国が考える医療DXの先にある「電子カルテ」について、本会は情報収集、知識向上を今後も図っていきます。「電子カルテ」が現在使用しているレセコンに代わって原則義務化となり、強制的に導入しなければならなくなった時、国に正しい意見、要望ができるよう、さらに会員に明確に説明できるよう今後も準備を進めます。会員の先生方におかれましては、質問あるいはご意見があれば本会までお寄せください。

東京歯科保険医協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年8月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.72】 「電子カルテ」とは その2

 「電子カルテ」とは その2

Q 今、なぜ、電子カルテを取り上げるのですか。

 前号の電子カルテの普及率には、驚きました。前回の続きで電子カルテについて解説します。今年4月の中医協総会で「医療DX」として全国の医療機関・薬局において、電子カルテ情報の一部の共有、閲覧を可能とする電子カルテ情報交換サービス(仮称)の構築に取り組み、医療機関における標準規格に対応した電子カルテの導入を推進することが示されました。「診療報酬改定DX対応方針取組スケジュール(案)」では、病院、診療所、薬局などが対象であることが示されており、診療所の対象には歯科の表記があり、歯科医療機関にも電子カルテの導入が予定されています。

医療機関に光回線によるオンライン環境を構築させるためのオンライン資格確認システム、マイナ保険証、そして環境構築後にオンライン請求、電子処方箋と、次々に強権的な義務化が予定されています。これらの先に、電子カルテ導入が予定されています。

Q 前号の電子カルテの普及率には、驚きました。

 厚労省の医療施設調査の結果を示しました(下記参照)。直近の2020 年(令和2年)の調査(聞き取り調査)では、歯科診療所の電子カルテの普及率は48.7%と示されています。先日、協会会員の新規開業医相談会において、事前アンケートでの「カルテの作成方法は?」との問いに対し、電子カルテを導入していると回答された先生を担当させていただきました。お話しを聞いたところ、電子カルテではなく、レセコンから紙に印刷されていました。なお、その時の相談者全体で事前に電子カルテを導入していると回答された会員は6月13日時点で46%でしたが、すべての会員が電子カルテでなく、レセコンでの対応でした。したがって、多くの方がレセコンと電子カルテを間違えて認識されていることがわかります。恣意的ではないにせよ、行政側が現実とまったく違う数字を利用して電子カルテ導入を推し進めることができないようにすることが必要です。したがって、電子カルテとレセコンを間違えないよう、ご確認をよろしくお願い申し上げます。なお、協会は近々、厚労省に対して、正確な調査を行うように要請する予定です。

「電子保存の三原則」とは。

従前、紙媒体による管理が義務付けられていた診療録などが、1999年(平成11年)4月の厚生省通知「診療録等の電子媒体の保存について」によって規制緩和され、いわゆる「電子保存」が認められました。この通知では、医療情報システムの安全管理に加えて、診療に供する情報を扱うため、医療固有の要求事項が示されています。これが「電子保存の三原則」と呼ばれ、「真正性」「見読性」「保存性」の3つの要件で構成されています。

「真正性」とは、第三者からみて作成者の責任の所在が明確であり、かつ、書き換え、消去・混同、改ざんを防止していることです。また、記名・押印が必要な文書については、電子署名、タイムスタンプを付すことが必要です。

「見読性」とは、診療に用いるのに支障がないことと、監査などに差し支えないようにすることで、必要に応じて肉眼で見読可能な状態にできること、直ちに書面に表示できることです。

「保存性」とは、記録された情報が法令に定める保存期間内、復元可能な状態で真正性を保ち、見読できる状態で保存されることです。

将来、電子カルテの導入を強いられた時のため、電子カルテを十分に理解した上で、正しいカルテの記載や算定要件に沿った請求を知識として持つ必要があります。そして協会は、導入費用やランニングコストなどの歯科医業に関係するさまざまな問題に対して、現場の意見を行政側に訴えていきます。

 

東京歯科保険医協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年7月号8面掲載)

 

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.12】 「口唇口蓋裂議員連盟」が会合/槇昭和大歯科病院長が講演/歯科から島村議員が参加

▼設立は6月20日

自民党・公明党の与党による「口唇口蓋裂議員連盟」の設立総会が620日に行われ、初会合を開催した。役員として、会長には衆議院の橋本岳議員(自民党)、事務局長に細野豪志議員(自民党)、事務局次長に吉田宣弘議員(公明党)、幹事に山本博司議員(公明党)、顧問には野田聖子議員(自民党)が、それぞれ選任された。

▼7月27日に第2回会合

続いて同議連は727日、参議院議員会館内の会議室で第2回会合を開催した。今回は、昭和大学歯科病院長で同大特任教授も務める槇宏太郎氏が講師に招かれ“口唇口蓋裂”について講演を行った。

会合は、吉田事務局次長の司会で進められ、特に口唇口蓋裂の課題として、前回、指摘された内容を集約した。「現在18歳未満は育成医療、18歳以上は更生医療に分類されている。その一方で、顎修正手術並びに手術後の歯科矯正治療は身体の成長がほぼ完了する18歳以降が望ましいとされているが、現在の更生医療制度下での身体障害者手帳の取得が取りづらい」などと指摘。患者側からも「育成医療の年齢期限延長」などを求める声があることを紹介。こうした社会的な課題に対し、臨床的な発症(生誕)からその後の成長過程に伴う口唇口蓋裂症状への対応について説明を行った。

▼昭和大歯学部病の槇院長の講演内容

一方、槇病院長は、口唇口蓋裂学会理事長を歴任した経験から、改めて口唇口蓋裂の形成外科・口腔外科から矯正歯科診療を臨床的な視点から説明。まず「外科的診療のその技術も発展してきている。日本のレベルはトップクラスであると思われる。矯正歯科も上顎と下顎の成長速度が違うので、下顎が前に出てしまうのです。その問題への対応が重要ですが、そのレベルも良くなっています」としつつ、「障害者総合支援法、自律支援医療(更生医療・育成医療)」についても併せて説明。特に、障害者総合支援法の対象として区市町村が実施主体になる“自立支援医療”にも言及し、「対象は18歳未満で、音声、言語、咀嚼機能障害のある児童であること」などを紹介した。

講演後に行われた質疑応答では役員(議員)の橋本会長から「育成医療・更生医療の適用には規定があるが、口唇口蓋者の治療が終える術後の年齢が2326歳となるとその差のギャップをどう理解するのか」との質問があり、続いて、自民党参議院の島村大議員が「治療期間のことを考えると、ある程度の期間が必要。具体的には夏休みなどになるが、生徒には大事な教育もあるため、その点への配慮が必要」と指摘した。

そのほかの参加議員からは、「育成医療・更生医療の適用年齢の延期への課題は何か」「日本口蓋裂学会の認定制度が2019年度からスタートしているが認定医は全体のどの程度を占めているのか」などの質問があった。

▼友の会会員からは本音を交えた報告が

さらに、口唇・口蓋裂友の会会員からは、「診療できる病院も限定されているのが現実。都市部と地方では違いがあります。手術後の診療の対応がバラバラです」「まだ、社会に知られていないのも事実。紹介された診療所で『本院では診られない』と、断られることもありました」など、現状からの意見を交えた報告が行われ、その改善項目を役員に訴えた。

▼育成医療と更生医療の課題検討を再確認

なお、今回の会合では、特に行政・法律面からの指摘がクローズアップされたが、育成医療(18歳まで)と更生医療(18歳以上)への理解・課題などが、さらに議論を詰める必要があると各議員から再確認され、衆院法制局からも、「今後のこの年齢規定の件、厚労省と議論すべく申し入れしています」と報告された。内閣提出法案と議員立法の相違と適否などについて、専門の立場からの説明も行われた。

歯科医療界ではあまり話題にならない「口唇口蓋裂」ですが、議連の活躍に期待します。 ただ、私の立場からは、患者関係者には、さらに歯科への理解を願うばかりです。

 

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.11】 3年半ぶりの対面形式メディア懇談会の意義/痛感した意見交換・雑談の「忘れてはいけない価値」

◆通算96回目のメディア懇談会

7月14日、東京歯科保険医協会が2023年度第2回メディア懇談会(メディア懇)を開催しました。083 18日の初開催以来、通算96回目とのことでした。今回は参加に当たり、会場における対面形式とオンライン形式(Zoom)の選択を可能としました。コロナ禍による203月のオンライン開催以後、実に3年半ぶりとなる会場対面形式によるメディア懇に出席しました。早坂美都副会長の司会、坪田有史会長の報告・解説で進められました。

この日の議題は、①マイナ保険証・オン資トラブル関連( 今後の協会の動向)、国会要請、署名、メディア懇直近の会員からの問い合わせ、②オンライン請求義務化撤回関連(社保・学術部長談話)、③東京都2024年度予算要請関連、④第51回定期総会の開催後報告関連、⑤50周年記念企画―などでした。内容は、協会広報・ホームページ部のまとめ記事に譲ります。

〝対面(会場)〞で参加しますと、毎回熱心な一般紙マスコミの記者諸氏、そして今回、新たな新聞社の記者参加もあり、リアルで新鮮な印象がありました。常連諸氏とは早速、挨拶・雑談を交わしました。そこで、改めて〝対面形式の意義〞を考察してみました。

◆改めて問う対面式の意義

主催者(司会)側からの報告と説明が終わると、質疑応答を開始。マスコミ側から「問題の評価」「事実の確認」「今後の活動」などが質され、主催者側が丁寧に回答。貴会の見解を確認しました。

◆一般紙と専門紙の相違

ここで、懸念される一般マスコミと業界マスコミの違いが確認できましたので指摘しておきます。マイナ保険証・オン資トラブル関連は、本質的には医療機関の共通問題です。ただし「歯科と医科の経済的・診療形態などの背景に相違があることを一般マスコミはもっと理解してほしい」と痛感しました。また、マスコミからの質問に、回答する側の表情・表現・言葉、ニュアンスから、見えない「情報」も得られました。これが「対面形式の意義」の一つです。

また、メディア懇開始前と終了後の雑談からも〝新たな情報〞を得ることができました。本音として、これがマスコミ関係者には非常に重要になります。質問に対する回答によっては、憶測・推測が働き、次の質問や問題意識に影響を与える場合もあります。

◆オンライン形式の効果

諸事情で会場参加できない・しない場合には、確かにオンライン形式の意義があります。まさに進化した文化の恩恵です。同時にネットから配布資料を得られるよう配慮されていますので対面形式と同様になり、経費・時間などの点からは、その効果は明確です。

さて、618日に開催された貴会総会の中で、記念講演会を行った社会保険診療報酬支払基金理事の山本光昭氏が興味深い報告をしていました。行政へのアプローチ方法として、①業務関係の手続きからアプローチ、②法人幹部の出身高校や大学の同窓のルートを通じる、③様々な講演会、セミナーなどで、これはと思える行政官の講師がいた場合、すばやく名刺交換―と強調していました。特に大事なのは、③で指摘している〝名刺交換〞です。これは、対面形式のメディア懇談会(記者会見とは様相が違います)でも指摘できます。

◆枠を超える〝縁〞とは

今回のメディア懇では、新たに参加したマスコミ記者諸氏と名刺交換。挨拶を含め意見交換しました。もちろん社交辞令で終わることもありますが、それは承知の上です。今回、来場しなかったマスコミ関係者は新規記者と〝縁〞ができませんでした。やはり、関係当事者と直接、意見交換・雑談することで人間関係ができ、時には、想定外に意味がある話を聞くこともできたりします。そして、年齢、性別、派閥、組織、職階、さらには国境などの枠を超えたタテとヨコのつながり、点と線のつながりが面に拡がり、ネットワーク化し、広い人脈形成へと発展して行くことが多々あります。

現在行われているFacebookLINE、各種SNSなどによる連絡、情報提供、意見交換、これはまさに世界の潮流です。一方で「効率第一」「無駄の排除」を最優先とする価値観が社会を占めています。だからこそ、人と人との意見交換・雑談の意味が、「忘れてはいけない価値」だと痛感したのが、今回のメディア懇談会でした。

 

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.10】 口蓋裂診療の「チーム医療」から学ぶ/主体は形成外科医・口腔外科医・矯正歯科医・言語聴覚士など

歯科にある学会の中で特異な学会であるのが一般社団法人日本口蓋裂学会である。その総会・学術集会が52526日の両日、東京・千代田区の一橋講堂(総合学術センター)で開催された。一般臨床家からは、関心の低い臨床分野であるが、疾患は500人当たり1人(0.2%)が罹患する先天性疾患である。そうした疾患を対象に研究する学会であり、三十余名の会員数から構成されている。臨床では、医師、歯科医師、言語聴覚士、心理職など多職種が担い、歯科の分野では、主に口腔外科、矯正歯科、小児歯科、歯科衛生士、歯科技工士が担っている。

また、患者(患児)本人とその家族が集うグループが全国各地にあり、例えば「口友会」(東京)、「たんぽぽ会」(愛知)、「笑みたち会」(大阪)などが地味ながら活動しており、そこでの参加者間の交流が貴重な時間になっており、ここが大きな特徴だ。「同じ立場の人とは話がしやすいし、気が紛れましたので、精神的には落ち着きましたね」(東京・Y氏)、「生を授かった後、不愉快な経験をされた人もいるかも知れません。しかし、当時の関係者に歯科医師等がいらっしゃり、本当にお世話になりました」(大阪府・K氏)は、振り返りながらコメントしていた。基本的には、「臨床・予後を通して歯科医師ほか関係者に感謝」というものであった。

▶口唇口蓋裂診療は〝チーム医療〞が要諦

こうした背景がある学会から、見えて来る姿もあった。今回、講演・示説の演題(70題)から私が確認したのだが、演題を多く発表した順で見ると、阪大11、東医歯大8、昭和大8、東北大7、愛知学院大7、九大5、大阪母子医療センター5であった。当然であるが、研究・臨床の主となる大学は、歴史、地域性、同系病院の存在などの条件もあり、今回の学術大会の演題における研究症例報告数だけで評価は論じられないが、患者視点からすれば、全国のどの地域でも気兼ねなく相談・受診できることが望ましい。その点については、現在はネット社会であり随分改善されてきている。臨床対応で実績・評価を得ているのは、昭和大、愛知学院大、大阪母子医療センターなどである。口唇口蓋裂診療はチーム医療が要諦とされているが、前記の専門職のチーム医療で対応をしている。某教授は「口蓋裂症の診療は、ある意味でチーム医療をしていくのが大前提で、さらに、患児の家族との理解・相互信頼がないと診療ができません」と述べている。

▶何気ない当たり前のことが重要

当日の学会では、「言語聴覚士の集い」が企画された。座長の井上直子氏(言語聴覚士/大阪母子医療センター)と佐藤亜希子氏(帝京平成大学講師)から、その意図が説明され、「乳幼児から成人期までの言語管理が環境整備、言語評価・訓練などステージに応じた役割があります。臨床は医療施設だけでなく、福祉・教育施設などさまざまであり、多岐にわたっています」。そこで言語管理を指摘されると、私自身がそうでしたから、2019年の新潟大会で、赤神周子氏(言語聴覚士/鳥取大学医学部歯科口腔外科)が、口蓋裂児の鼻咽腔閉鎖機能の課題に言及したことを思い出す。「口腔機能の増加は、当然ながら食事・会話を支え、社会生活を支える基本です。乳幼児からこの問題に関係する〝発音・構音〞は重要です。まさに、形成外科医・口腔外科医・矯正歯科医・言語聴覚士などの〝チーム医療〞が大切です。出生前診断、手術、構音構築、患児の精神成長など個々のステージでの対応・連携がシームレスに実施されることが重要」と強調していた。さらに、コロナ禍での生活から学んだことと共通するのが、何気ない当たり前のことがいかに重要なのかという点であり、これを再認識してほしいです。

補足となるが、保険適用となる歯科分野の先天性疾患としては、顎変形症、唇顎口蓋裂、6歯以上の先天性部分(性)無歯症、口腔・顔面・指趾症候群、その他顎・口腔の先天異常(顎・口腔の奇形、変形を伴う先天性疾患であり、当該疾患に起因する咬合異常について、歯科矯正の必要性が認められる場合)などがある。

▶関連議員連盟が発足

世間、巷間では〝見た目が一番〞という言葉が躍る時もあり、複雑な気持ちになるのも口唇口蓋裂患児(患者)の本音で悩みは尽きない。

こうした中で、与党の国会議員有志が620日、「口唇口蓋裂議員連盟」を設立したニュースが舞い込んできた。今後の活動は詳細には不明だが、患者の視点に立った活動に期待したい。

なお、会長には橋本岳衆院議員(自民)、事務局長には細野豪志衆院議員(自民)が就いたという。

 

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

【Health Care】 No.2 医療価値評価は必要か、論じるのは難しいのか

医療経済学の専門家で東京大学大学院特任教授の田倉智之氏による連載の2回目。今回のテーマは「医療価値評価は必要か、論じるのは難しいのか」。

 やや僭越であるものの、読者である医療関係者の多くは、「医療価値」について深く考える機会は、さほど多くないと拝察する。一方で、医療システムの課題にまつわるニュースを見聞きする時に、その解決策の一つとして、医療価値が語られているのに気が付く場合もあるはずである。つまり、医療制度の綻びや不条理、または医療経営の本質や不満の議論などにおいて、医療価値は述べられることが多い傾向にある。例えば、診療報酬の水準に関わるステークホルダー間の討論は、医療価値に対する相互の認識の差異が背景にあり、それが顕在化したケースとも考えられる。特に最近、高額な医薬品などの薬価収載では、製造販売業者から行政当局者へ不満が述べられる時に、医療価値的なキーワードが挙げられることも増えている。ただし、この医療価値を臨床経済面から具体的かつ科学的に示すことは、一筋縄にはいかず、議論が噛み合わない場合も多い。今後、医療介護の発展や国民福祉の向上のために、さらなる経済投資や資源整備が必要になるが、それを目指すには、ステークホルダー間で合理的な合意形成が重要になると、前回述べた。それに対して重要な役割を果たすと期待されるのが「医療介護の価値評価」である。そこで今回は、この価値評価について、健康や生命を扱う医療介護分野の特性も考慮しつつ、学際的な観点から、その考え方を整理してみる。実体経済(リアルワールド)を標榜した医療価値の議論においては、一般に、費用対効果分析と限界効用理論を応用することで、医療サービスが有する価値の評価が限定的ながらも可能になる。その主な理論を次に概説する。通常、ミクロ経済学では、基礎的な効用理論を背景とした需給均衡に基づいて価格が収斂し、サービス提供の効率が最大化される[]。また、この需要と供給が均衡した価格は、価値を体現するとみなされる。

一方、公益性の高い医療分野においては、効率性も考慮しつつ衡平性(wellbeingなどのバランス)の視点を取り入れ、患者の診療要望(選好、支払意思)と政府の医療財政(所得再配分、財政収支)の調和を念頭に公益的な価値を論じる必要がある。したがって医療の価値は、厚生経済学なども背景に、個人と社会の関係も織りまぜながら、健康プログラム単位あたりの効用(健康成果)と費用(資源消費)の変位のバランスを検討することになる(図1)[ ]。その結果、ある予算範囲内で効用を最大化すると、そのパフォーマンスが高いほど集団全体の効用が大きくなり、利害関係者の「価値」が高まることになる。この医療における価値評価のアプローチは、他の概念的な議論に比べて、実体経済や日常生活(国民コンセンサス)の価値観(例:1QALY*当り600万円前後)との整合性も比較的取れるため、公的部門における医療サービスの価値を検討するのに適していると考えられる[]

 

例えば、患者の医療費が年間約500万円で財政負担が1兆6千億円程度の規模の「末期腎不全患者」に対する透析医療について、その価値を評価した本邦の報告がある(図2)[ ]。その研究の意義を整理すると、救命や健康の社会経済的な価値を定量的に示した(費用対効果:約650万円/QALY)ことが挙げられる。すなわち、年間医療費が高額であり財政負担が大きくても、国民の価値判断の基準から眺めると、診療報酬の水準は適切であると理解される訳である。

田倉 智之(たくら・ともゆき):博士(医学)、修士(工学)東京大学 大学院医学系研究科 医療経済政策学講座 特任教授。1992年に北海道大学大学院工学研究科修了。東京大学医学部の研修を経て、2010年より大阪大学大学院医学系研究科 特任教授。2017年より現職。厚生労働省(中医協)費用対効果評価専門組織 委員長、内閣府 客員主任研究官、大阪大学医学部招聘教授、東邦大学医学部客員教授、日本循環器学会 Circulation Reports Associate Editor、日本心臓リハビリテーション学会 評議員など歴任

*注釈)

QALY:質調整生存年(完全な健康水準で1年間の生存を確保する単位/2019年度より公的医療保険制度に導入された概念で、1QALY当り500万円~750万円が評価基準)

【文献】

1] 田倉智之. 医学書院. 2021.

2 Tomoyuki Takura.IntechOpen. 2022.

3] 田倉智之. 日本看護協会出版. 2023.

4 Tomoyuki Takura, et al. Clinicoecon Outcomes Res. 2019.

【Health Care】 No.1 医療介護システムの発展に不可欠な視点とは

医療経済学の専門家で東京大学大学院特任教授の田倉智之氏の連載を始める。全6回にわたり、医療介護システムの発展、費用対効果評価や、診療価値と病院経営などをテーマとする。第1回は「医療介護システムの発展に不可欠な視点とは」—。

医療介護分野は、誰もができるだけ低い経済負担で、公平に診療やケアを受けられるようにすべきである。そのため、世界の多くの国では、1978年のアルマ・アタ宣言などにならって、多かれ少なかれ医療介護分野を公的制度として整備してきている。一方で、近年注目を集めるユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)の推進には、社会経済的な要因が大きな影響を及ぼすことも明らかとなっている[1]。すなわち、医療介護の環境整備において、臨床と経済の調和が望まれている訳である。また、医療介護分野の進歩に影響をおよぼす各種イノベーションも、社会経済的なメカニズム(バリューチェーン)をとおして、UHCと関係が深いことが示唆されている[2]。以上のように、今後の医療介護システムの発展には、臨床的な議論を中心としつつも、経済的な側面を論じることの重要性が増している。

ではなぜ、近年において医療経済的な要因が顕在化してきたのかを考えると、次のような医療介護分野を取り巻く潮流が挙げられる。一つ目は、言うまでもなく社会保障財源のひっ迫である(図1)。この背景は至極簡単で、医療や介護の需要増加(高齢化の進展)と実体経済の伸び悩み(GDPの停滞)が大きな割合を占める[]。二つ目は、治療技術のイノベーションとその超高額化である。この両者を合わせると、数量増加と単価上昇により、国民医療費等が膨らんでいくことは容易に想像される。一方で、現役世代の人口減少と経済負担の許容水準から、保険財源の収入が追い付いていないようである。結局のところ、受益と負担のバランス低下が根源と考えられる。これらを俯瞰すると、将来の医療介護システムの発展に不可欠な視点は、おのずと明らかになってくる。そのキーワードは、価値評価と健康行動である。

まずは、医療介護システムの価値(存在意義)を、ステークホルダーの間で再認識する必要がある。その価値をUHCの理念も絡めて一言で表すと、「安定供給」となる。享受をしているからこそ認識できる価値(診療)のみならず、失ってみて初めてわかる価値(健康)は、この概念で整理がなされる。このように考えると、医療価値等を評価し関係者で共有することは、国民や患者の負担の議論のみならず未来に向けた医療介護のかじ取り(意思決定)に

おいて、計り知れない意義がある。さらに、価値に見合った行動変容を促える。特に、アドヒアランスの見える化とそのコントロールは、健康寿命や社会経済に大きな恩恵をもたらすと期待される[](図2)。

最近、医療保険制度に導入された効用値をアウトカム指標とする費用対効果評価や、介護保険制度に導入された介護サービスの質の評価と科学的介護の取組の推進は、間接的ながらも、上記のようなコンセプトに連なる施策であると想像される。

文 献

1) Tomoyuki Takura, Hiroko Miura. Socioeconomic Determinants of Universal Health Coverage in the Asian Region. Int. J. Environ. Res. Public Health. 2022; 19(4):2376.

2) ユニバーサルヘルスカバレッジと医療革新. 東京大学22世紀医療センターシンポジウム. 2023. http://sympo-ut-22c.umin.jp/2023/pdf/2023-4.pdf (Access: 2023.03.07)

3) 田倉智之. 医療の価値と価格-選択と決定の時代へ. 東京. 医学書院; pp.0-276. 2021

4) Tomoyuki Takura, Keiko Goto, Asao Honda. Development of a predictive model for integrated

medical and long-term care resource consumption based on health behaviour: application of

healthcare big data of patients with circulatory diseases. BMC medicine. 19(1):15. 2021.

 

 

田倉 智之(たくら・ともゆき):博士(医学)、修士(工学)東京大学 大学院医学系研究科 医療経済政策学講座 特任教授。1992年に北海道大学大学院工学研究科修了。東京大学医学部の研修を経て、2010年より大阪大学大学院医学系研究科 特任教授。2017年より現職。厚生労働省(中医協)費用対効果評価専門組織 委員長、内閣府 客員主任研究官、大阪大学医学部招聘教授、東邦大学医学部客員教授、日本循環器学会 Circulation Reports Associate Editor、日本心臓リハビリテーション学会 評議員など歴任。

 

 

 

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)8月1日

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)8月1日

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【新聞8月号】

【1面】

1.要件緩和を要請 CAD/CAM・ニッケルチタンの加算など
2.2024年度診療報酬改定 中医協で議論始まる
3.物価高騰対策支援 各自治体で支援始まる
4.「探針」
5.ニュースビュー

【2面】

6.オン資「義務化」撤回訴訟 争点は法律の委任
7.指導結果通知の遅れが改善 会員の切実な声が実る
8.第52回保団連夏季セミナー
9.2022年歯科疾患実態調査 8020達成率は51.6%で微増

【3面】

10.社会医療診療行為別統計 検査増 初診・再診減
11.第1回学術研究会 認知症を〝口〟から支えるには
12.新規開業医講習会を開催 新規個別指導を中心に解説
13.第1回これから始める歯科訪問診療講習会~保険請求の基本
14.院内感染防止対策講習会を開催
15.お知らせ/8月1日以降書籍購入時送料が変更

【4面】

16.経税Q&A第407・インボイス制度~よくあるご質問をご紹介します!~
17.IT相談室「マイナンバーカードの不具合 何が起きているのか?」
18.第1回東京都歯科医師認知症対応力向上研修
19.8月会員無料相談

【5面】

20.研究会・行事ご案内

【6面】

21.インタビュー/新井麻衣子氏「能楽師にして三児の母」

【7面】

22.東京歯科保険医協会50周年記念企画

【8面】

23.教えて!会長!!vol.73「電子カルテ 3」
24.通信員便りNo.136
25.暑中見舞い名刺広告

【9面】

26.症例研究「歯科診療特別対応加算」

【10面】

27.連載「歯科界への私的回想録⑪」
28.理事会だより「第6・7・8回理事会」
29.7月協会活動日誌
30.会員優待ご案内
31.デンタルブックご案内
32.保団連情報サービスのご案内

【11面】

33.Health Care⑥完田倉智之氏/訪日外国人の診療対応
34.当選おめでとうございます!! 高級ステーキ肉をゲット
35.共済部だより

【12面】

36.神田川界隈(松島良次/目黒区)
37.第2回メディア懇談会 3年半ぶりリアル開催
38.「よい歯」東京連絡会が夏の市民講演会
39.第23回IPPNW世界大会
40.協会設立50周年を迎え 「回顧」

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)7月1日

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)7月1日

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【新聞7月号】

【1面】

1.第51回定期総会を開催 坪田有史会長が信任され4期目に
2.マイナ保険証厚労省調査 「メリット実感なし」56%超
3.「探針」
4.ニュースビュー

【2面】

5.第51回定期総会記念講演 社会保険診療報酬支払基金理事 山本光昭氏「保健医療の中での歯科分野への期待」
6.第51回定期総会「決議」
7.「骨太方針」閣議決定
8.今回選出された役員一覧《任期は第53回定期総会まで》
9.第51回定期総会祝電・メッセージ等一覧

【3面】

10.保険証廃止はありえない!国会内集会「命につながる問題」各団体が訴え
11.「保険でよい歯」を東京連絡会が議員要請
12.今年度は6件実施予定 生活保護の指導計画
13.都が歯科医療機関に1万円支給へ 物価高騰対策支援の要請が実る
14.7月金銀パラジウム合金等の随時改定 金パラは引き下げ14Kは引き上げ
15.会員優待ご案内

【4面】

16.経営・税務相談Q&A No.406 年次有給休暇夏季休暇にあてられる?
17.7月会員無料相談

【5面】

18.研究会・行事ご案内
19.「デンタルスタッフのための歯科保険診療ハンドブック2023年版」のご案内

【6面】

20.インタビュー/堤未果「『何のため』議論なくデジタル化進む日本 ショック ・ ドクトリンに見る保険証廃止問題『立ち止まって』」

【7面】

21.オン資トラブル事例アンケート「保険者情報の反映不備」が最多 メディアから相次ぐ反響
22.オンライン請求「義務化」方針の撤回を求める要請署名316筆を国会議員に
23.全国保険医写真展 2氏が入選
24.協会設立50周年を迎え「回顧」
25.書籍のご案内&読者プレゼント「堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法」

【8面】

26.教えて!会長!! Vol.72「電子カルテ」とは その2
27.施設基準のための講習会を開催認知症や多職種連携等の重要性確認
28.歯科技工士・中川直樹さんに総理表彰 国際アビリンピック金メダリスト
29.接遇講習会に58人が参加 「接遇の5原則」を伝授
30.休業保障制度/開業医・勤務医の先生へ
31.共済部だより

【9面】

32.症例研究「咬合調整と口腔内装置の再製作」

【10面】

33.連載/歯科界への私的回想録⑩(オクネット・奥村勝氏)「口蓋裂診療の〝チーム医療〟から学ぶ…」
34.第3回保団連代議員会 保険証廃止問題で今後の対応討議
35.理事会だより「2023年度第第4・5 回(暫定)理事会」
36.6月協会活動日誌

【11面】

37.Health Care④(田倉智之/東京大学大学院 特任教授)/新興感染症の…
38.不安払拭が大前提 マイナトラブル今秋まで総点検も
39.通信員便り № 135
40.お知らせ 【8月1日以降】書籍購入時の送料が変更となります

【12面】

41.ご協力ありがとうございました<国会議員に署名提出>【要請】健康保険証廃止・・・
42.神田川界隈/歯科技工士がいなくなる前に(森元主税理事/北区)
43.「思い切って患者さんに説明を」署名取り組んだ会員の想い
44.夏季休診ポスターのご案内
45.50周年記念企画

【インタビュー】堤未果(ジャーナリスト)「何のため」議論なくデジタル化進む日本/ショック ・ ドクトリンに見る保険証廃止問題 「立ち止まって」

▶堤未果さん(ジャーナリスト)のインタビュー全文を読む

▼書籍プレゼントのご案内(会員限定)/「堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法」

 

 

 

 

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東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)6月1日

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)6月1日

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【新聞6月号】

【1面】

1.マイナ保険証にトラブル続出/健康保険証廃止は撤回を!
2.地域医療に悪影響「閉院に追い込まれる医院も」
3.東京歯科保険医協会2023年度第51回定期総会のご案内/記念講演案内
4.「探針」
5.ニュースビュー

【2面】

6.社保・学術部長談話「〜現場の声を反映し、医療機関側に裁量権を与えよ〜」
7.オンライン請求「義務化」方針の撤回を求める署名にご協力を―現場の声を…
8.改定時期は今夏までに決定/診療報酬改定DX対応方針を提示
9.7月歯科用貴金属価格改定/金パラは引き下げ
10.治療薬治療薬「シダキュア」歯科医療機関が注意喚起
11.保団連情報サービスのご案内

【3面】

12.2023年度指導計画/新規個別指導の予定件数 前年比133件増加
13.教えて!会長!!Vol.71「電子カルテ」とはその1
14.会員寄稿 「声」/かかりつけ歯科医」の色~子ども編~(長尾広美氏)
15.50周年記念企画/これからの歯科を考える…

【4面】

16.経営・税務Q&A第405回「テナントオーナーから家賃の値上げの通知が来た」
17.6月会員無料相談
18.書籍紹介「デンタルスタッフのための歯科保険診療ハンドブック2023年版」

【5面】

19.研究会・行事ご案内

【6面】

20.インタビュー/荻原博子氏「健康保険証廃止、情報の中央集権化/今のやり方は危険」

【7面】

21.第三次オン資「義務化」撤回訴訟/原告団へのご参加を
22.オン資「義務化」撤回訴訟/第二次訴訟で原告団結成集会
23.マイナ保険証・オン資システム/トラブル報道相次ぐ 阿部理事にテレビ取材も
24.心底考えたのは「患者さんの不自由な思いを防ぎたい」/署名525筆を持参
25.協会設立50周年を迎え「回顧」

【8面】

26.Health Care③(田倉智之/東京大学大学院 特任教授)/アドヒアランスを制する…
27.共済部だより/グループ生命保険・保険医休業保障共済保険・保険医年金
28.第2休保2023年度募集キャンペーンのご案内
29.書評:日本歯科評論/別冊「CAD/CAM冠 CAD/CAMインレー」

【9面】

30.症例研究「糖尿病患者の歯清と総医、混合歯列期のP重防」

【10面】

31.連載/歯科界への私的回想録⑨(オクネット・奥村勝氏)「協会の歴史と存在性」
32.世田谷地区は警戒を厳に/歯科診療所狙う窃盗事件多発~身の安全を最優先に
33.理事会だより「2023年度第1・2回(暫定)理事会」
34.5月協会活動日誌

【11面】

35.全国から集めた署名 67万余を国会に提出
36.オンライン請求〝義務化〟をすれば歯科は大変なことに
37.署名へのご協力ありがとうございました
38.IT相談室「初心者向けIT用語を解説」/クレセル・永田氏
39.会員優待ご案内
40.デンタルブックご案内

【12面】

41.2023年度第1回メディア懇談会/健康保険証廃止の問題点を指摘
42.通信員便りNo.134
43.8月1日から書籍購入時の送料が変更となります
44.お詫びと訂正
45.神田川界隈/過渡期(川戸二三江副会長/渋谷区)

【13・14面】

46.共済部折込(第2休業保障制度)

【IT相談室】初心者向けIT用語を解説

WEBに係る歯科関連の法令やトラブル対応などについて、
歯科専門にサイト制作、運用、コンサルディングを手掛ける専門家が解説する本連載。
今回のテーマは、診療所のPCでUSBメモリを使用すると危険なの?
―。

「IT相談室」過去の連載はこちらから

 ここ最近の本連載では、レセコンやオンライン資格確認システムの管理、運用上のポイントや、サイバー攻撃に関する内容を執筆してきました。一方で、会員の先生方から「クラウド、サーバー、何のことやら理解できず…」「初心者もわかるような解説がほしい!」「用語が難しくて大変」というご意見をいただいています。
そこで今回は、インターネットやWEBに関連した基本的な用語を解説してみたいと思います。たくさんの用語があるので、この連載だけでは書ききれませんが、ネット関係の業者との打ち合わせや、自院のネット環境を整える時のためなど…何かのきっかけになればと思います。それではどうぞ。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2023年6月号11面掲載)

【IT相談室】診療所のPCでUSBメモリを使用すると危険なの?

WEBに係る歯科関連の法令やトラブル対応などについて、
歯科専門にサイト制作、運用、コンサルディングを手掛ける専門家が解説する本連載。
今回のテーマは、診療所のPCでUSBメモリを使用すると危険なの?
―。

「IT相談室」過去の連載はこちらから

 診療室のレセコンに限らず、個人で使用しているパソコンからUSBを介して他のパソコンとファイルを共有する場合には、ウイルス感染のリスクが常に存在します。特に、「入れた記憶の無いどこかで見たことのあるアイコン」が入っていた場合には、ウイルス感染が懸念され、USBを媒介とした感染である可能性があります。
 このようなUSBの使用による感染を回避するためには、以下の注意点を守ることが重要です。
まず、ウイルス感染のリスクを軽減するために、USBを使用する前には必ずウイルススキャンを実行し、USBそのものがウイルスに感染していない安全な状態であることを確認する必要があります。また、ファイルを共有する際には、共有先のパソコンがウイルス対策ソフトウェアで保護されていることが大切です。万が一、USBが感染している場合でも、ウイルス対策ソフトウェアがパソコンを感染から守ってくれます。
 ウイルスに感染してしまうと、センシティブな医療情報が含まれるレセコンのデータが漏洩するリスクがあります。漏洩した情報が悪用された場合、患者や社会からの信頼を失いかねません。そのため、パソコン間でファイルを共有する場合には、細心の注意を払うことが必要です。マルウェアと言われる悪意を持ったウイルスに感染した場合、情報漏洩のほか、医療情報を含むデータが改ざんされたり、削除されたりする可能性があります。このようなことになると、患者の医療に影響が出るだけでなく、法的な問題にも発展する可能性があります。
 最後に、共有するファイルが機密情報である場合には、暗号化することでセキュリティを強化することができます。暗号化することで、不正アクセスや盗聴などからファイルを保護することもできます。
 以上の注意点を守ることで、USBを介してファイルを共有する際のウイルス感染やセキュリティリスクを軽減できます。しかし、完全にリスクを排除することは困難であるため、機密情報の入ったPCにはUSBをはじめ外部からのアクセスを一切排除する業務の流れが最高の対策です。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2023年5月号11面掲載)

【IT相談室】レセコンをクラウドで管理する場合のメリットとデメリット

WEBに係る歯科関連の法令やトラブル対応などについて、
歯科専門にサイト制作、運用、コンサルディングを手掛ける専門家が解説する本連載。
今回はレセコンをクラウドで管理する場合のメリットとデメリット
について―。

「IT相談室」過去の連載はこちらから

 歯科診療所の心臓部ともいえるレセコンの運用、データをどのように管理するのかは永遠の課題かもしれませんが、近頃はクラウド形式で運用管理される人が増えてきました。そこで今回は、クラウド管理のメリット、デメリットを考えてみます。
 まず、メリットですが、院内のサーバー等がなくなることで設備が簡略化されるため、コストダウンに繋がる可能性があります。クラウド専用のセキュリティが考慮された回線が必要になる場合もありますが、それを差し引いてもコストは下がります。すべてクラウド上で常に最新の状態になっていますので、レセコンメーカーの方が来訪しての作業、電話やメールなどを利用したアップデートなどは必要なくなり、煩わしい作業や時間等の拘束からも解放されることでしょう。
 そして、これまで院内で物理的に保管されていたデータが常にさらされてきた火災、水害、事故などの脅威、盗難などによる紛失という危険性。これらはクラウド化によって払拭されるため、心理的にも大きなメリットではないでしょうか。
 デメリットは、データはクラウドでもそこに接続する回線が通じていなければアクセスできないということです。接続が不安定なケースや、回線の障害が発生した時には、その段階からレセコンには一切アクセスできなくなります。忙しい時間帯に回線の不調でアクセスできなくなった時、レセコン業者と回線業者に対して別々に連絡をするなどの対応を誰がどのように行うか、予め決めておいたほうが良いでしょう。また、クラウドは外部にあるコンピュータですので、操作に若干の遅さを感じることがあります。このちょっとした遅れをものすごく大きなストレス、業務時間のロスと考える方もいらっしゃると思います。導入前に、必ず一度はデモンストレーションを実施すべきです。
 そして何よりも、クラウドという〝保管庫〟に障害が発生して「データがなくなる、漏えいする」というリスクも考えなければなりません。IT業界では有名なエピソードですが、2012年に、あるレンタルサーバー企業がアップデート作業時に誤って顧客データをすべて削除するという事故がありました。データは復旧することができず、顧客は大きな損害を被りました。しかし、月々の使用料が返還されただけで、それ以上の補償がないという状況で、顧客にとって大きなダメージが残る事故となりました。 
 レセコンをクラウドで管理する際には、既に導入している診療所が、万が一の時の備えをどのようにしているのかを、必ず確認してみてください。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2023年4月号4面掲載)

【教えて!会長!! Vol.71】 「電子カルテ」とは その1

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 「医療DX令和ビジョン2030」をさらに教えてください。

 前号で、自由民主党の政務調査会が昨年5月に発表した「医療DX令和ビジョン2030」の提言の概要を紹介しました。その中で「電子カルテ」に触れましたが、詳細を知りたいとの会員の声が多数ありました。そこで今回は、「電子カルテ」の現状を取り上げます。
「医療DX令和ビジョン2030」では、日本の医療分野の情報の問題点や課題を根本から解決するため、
①「全国医療情報プラットフォーム」の創設
②電子カルテ情報の標準化(全医療機関への普及)
③「診療報酬改定DX」
以上3つの取り組みを同時並行で進めるとしています。

電子カルテ情報の標準化とは。

 当然ですが、まずは医科がターゲットです。しかし、歯科も電子カルテを推進することになっています。電子カルテ情報の標準化とは、国際基準になりつつある標準規格準拠(HL7 FHIR規格でのデータ・情報ができる)を活用して、共有すべき項目の標準コードや交換手順を厚労省が定めます。すなわち、一般診療現場での必要な情報の標準化(統一)を行政側が明確に示すことを指しています。
 表に、厚労省の医療施設調査から電子カルテの普及率を示しました。直近の2020年では、歯科診療所における電子カルテの普及率は48・7%となっています。驚きませんか?データでは半数近くがすでに電子カルテを導入していることになっています。行政の調査結果です。本当なのでしょうか。
 レセコンと電子カルテを間違えて回答しているのでは?と思ってしまいます。そうでないと、私の周囲の状況と整合性が取れません。レセコンと電子カルテは違うのです。これらのデータは厚労省からのもので、データ通りに歯科の半数近くが電子カルテを導入しているならば、あと半分だから高いハードルではないと、厚労省が都合よく考えて義務化するのではと懸念しています。

レセコンと電子カルテの違いは。

 紙面の都合上、このご質問は次号で詳細に回答しますが、レセコンはレセプトを作成することを主目的にしています。これに対し電子カルテとは、患者さんの情報を電子データとして保存するもので、すべての情報が一元管理されます。特に、電子カルテには「タイムスタンプ」があります。「タイムスタンプ」とは、入力された時間が記録されることを指します。したがって、カルテ入力を行った後に、整備のための入力を行うと、治療の流れとは違う不自然なタイムスタンプが刻印され、不正請求が疑われる危険性があります。この機能がレセコンにはないことが、もっとも大きな違いです。
 5月17日の参議院地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会(本紙1面参照)などを契機にして、その後のテレビや新聞などのメディアが、「マイナ保険証」「オンライン資格確認システム(以下、オン資)」などを取り上げ、その問題点を指摘しています。東京保険医協会(須田昭夫会長)が中心となって起こした「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」は、1千名を超える原告団となりました。そして、現在第3次訴訟の原告団への参加を呼びかけています(本紙7面)。オン資により回線ネットワークを構築させた上で、オンライン請求の義務化、そして標準化した電子カルテで情報を瞬時に集めることを目標としていることが示されています。そうです。すべての入り口はオン資義務化なのです…。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年6月号3面掲載)

【教えて!会長!! Vol.70】 自民党の提言 「医療DX令和ビジョン2030」

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自民党の提言「医療DX令和ビジョン2030」がニュースになっていましたが。

 政権与党である自由民主党の政務調査会は、昨年2022年5月に「医療DX令和ビジョン2030」の提言(以下、「提言」)を発表しています。そしてさらに本年4月13日付けで、同提言の実現に向けた新たな提言「(同提言の)実現に向けて〜保健医療情報のデジタル活用により、すべての国民が最適な医療を受けられる国へ〜」をまとめました。
 自民党の提言は、政府に対して強い影響力があり、また政策を進めるために発出されますので、医療機関にとっての今後の方向性を見据えるうえで注目すべきと思います。

提言、そのほかについて教えてください。

 現在、「マイナンバーカード普及」「マイナンバーカードの健康保険証利用」「オンライン資格確認義務化(以下、「オン資」)」「マイナポータル活用」「オンライン請求義務化」「電子処方箋導入」「電子カルテ情報の標準化」「診療報酬改定DX」「医療DX」の推進などは、具体的な政策として進められています。これらは実際、日々の歯科臨床に直接関係がないため、拒否感を持っている先生が少なくないと思います。
 この中で「医療DX」を厚労省は、「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療、薬剤処方、診断書などの作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることと定義できる」としています。そこで自民党の「提言」の概要を示します(表参照)。


 政府では昨年10月に総理を本部長とする「医療DX推進本部」を設置しました。この政府の動きを踏まえ、自民党政務調査会などは医療DXの取組みを力強くかつ速やかに進めるべく、本年4月に「実現に向けて」の提言を発表したのです。
その主な内容は、以下の4項目となっています。

(1)グランドデザイン:医療DXを通じたより効果的かつ効率的で質の高い医 療の提供の実現など
(2)ガバナンスの強化:厚労省の司令塔機能を有する部署の確保など
(3)全国医療情報プラットフォーム:オンライン資格確認などシステムの拡充など
(4)電子カルテ情報の標準化など:標準化に関する集中的な取組みの実施など

 要は、すべて前述した進行中などの案件は既に仕組まれていて「力強くかつ速やかに進める」の文言により速いスピードが求められているのです。その結果、拙速感が強く、説明不足などにより、我々医療機関、そして国民の多くがついていけないのが現状ではないでしょうか。
 今後、歯科においても「オンライン請求」「電子カルテ」などの「義務化」が要求される可能性が高いと考えています。現在、協会は「義務化反対」の立場で様々な活動を行っていますが、提言などからさらに医療機関に押し付けてくることが推測されます。現在、「オン資」を導入されている会員へ「報告フォーム」により、トラブル事例を募っています。さらに多くの先生の回答結果を受けて、問題点をまとめ、よりよい改善に向けて行政などに訴えます。
 この「報告フォーム」は、すでにデンタルブックメールニュースでお知らせしています。また、協会ホームページからも回答できます。ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年5月号8面掲載)

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)5月1日

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)5月1日

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【新聞5月号】

【1面】

1.オンライン請求 実質的義務化の動き/「ロードマップ」と「基本的考え方」が示される
2.東京歯科保険医協会2023年度第51回定期総会のご案内
3.本会役員の任期満了に伴う役員選挙の公示について
4.「探針」
5.ニュースビュー

【2面】

6.理事会声明「政府は健康保険証廃止法案を撤回し、健康保険証の継続を」
7.政策委員長談話「診療報酬のオンライン請求義務化撤回を求める」
8.オン資の指導は猶予届出をしていない場合のみ/集団指導(eラーニング形式)で
9.オン資導入 現場はトラブル多発/実態調査アンケートにご協力を

【3面】

10.物価高騰が経営に打撃、自治体へ支援を要望/「電力料金等の高騰に関する医療機関緊急調査」を実施
11.累計参加者2千人超/院内感染防止対策講習会
12.5月8日以降のコロナ特例の取り扱い/電話等による処方は7月末で終了
13.会員寄稿「声」/強引なオン資義務化<<保険証廃止/扇山隆/江戸川区
14.会員寄稿「声」/人材難は歯科業界の共通課題/船木勝介/練馬区
15.50周年記念企画/これからの歯科を考える~今後もより一層頼りになる存在としてあるために

【4面】

16.経営・税務相談Q&A No.404/試用期間中の労務の注意点
17.「保険でよい歯を」東京連絡会2023講演会「口から見た子育て」
18.第38回 保団連医療研究フォーラム 演題発表者募集中
19.デンタルブックご案内
20.会員無料相談

【5面】

21.研究会・行事ご案内

【6・7面】

22.インタビュー/大乗寺副住職・山岨眞應氏「感性により絵の見え方は違ってくる~仏門と応挙と『頑張らずに一生懸命』」
23.グループ生命保険PR
24.会員優待PR
25.石田昌也先生投稿「経済的な心配なく生活できた」
26.「学校歯科治療調査報告書」/橋本理事が大学院生の取材を受ける

【8面】

27.教えて会長 Vol.70「自民党の提言『医療DX令和ビジョン2030』」
28.厚労省、歯科医師によるコロナワクチン接種等は終了に/通知で「特例的な取扱いを要する状況は脱した」と判断示す
29.共済春の募集キャンペーン締切迫る!
30.日本接着歯学会2023年度 学術セミナー・専門医認定研修会

【9面】

31.症例研究/歯根分割後のCAD/CAM冠

【10面】

32.連載/歯科界への私的回想録⑧(オクネット代表・奥村勝氏)「男女格差解消の示唆なるか」
33.協会設立50周年を迎え「回顧」
34.理事会だより<2022年度第21回・2023年度(暫定)第1回理事会>
35.4月:協会活動日誌

【11面】

36.Health Care②(田倉智之/東京大学大学院 特任教授)/医療価値評価は必要か、論じるのは難しいのか
37.IT相談室「診療所のPCでUSBメモリを使用すると危険なの?」
38.保険証廃止の中止に向け署名にご協力を!

【12面】

39.オン資義務化撤回訴訟/国が請求棄却求める原告団は1千人超え
40.5月8日から新型コロナ5類引き下げに
41.保険証廃止とマイナカードで質疑/不信感を強め国民皆保険制度を揺るがす
42.歯科医師2氏が再選果たす/4・23区議会議員選挙で
43.65%の歯科診療所が訪問診療
44.通信員便り №133
45.神田川界隈/次、会うときは枕元かもしれない(矢野正明理事/板橋区)

【13・14面】

46.共済部チラシ

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)4月1日

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)4月1日

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【新聞4月号】

【1面】

1.マイナンバー法改正法案/十分な論議が必要
2.第51回定期総会のご案内
3.50周年を迎え、さらなる歯科保険診療の充実へ
4.50周年記念企画/これからの歯科を考える~今後もより一層頼りになる存在としてあるために
5.「探針」
6.ニュースビュー

【2面】

7.レセプトの返戻オンライン化/変更はオンライン請求の医療機関のみ
8.中医協/診療報酬改定に向けて始動
9.2023年4月金銀パラジウム合金等の随時改定/金パラは引き下げ 銀合金などは引き上げ
10.4月薬価改定/麻酔薬等は変更なし
11.院内掲示ポスター作成

【3面】

12.Health Care①/医療介護システムの発展に不可欠な視点とは(東京大学大学院・田倉智之氏)
13.歯科衛生士養成校54.3%で定員割れの実態
14.回顧:協会設立50周年を迎え
15.HIS:会員特別優待広告

【4面】

16. 経営・税務相談Q&A第403回/インボイス制度~取引相手から登録の有無を聞かれた!~
17.IT相談室/レセコンをクラウドで管理する場合のメリットとデメリット(クレセル)
18.地域医療研究会/治療方針の提示は「リスク」と「ベネフィット」の考慮を
19.4月法律相談・経営&税務相談

【5面】

20.研修会・行事のご案内
21.会員優待のご案内
22.デンタルブックご案内

【6面】

23.支払基金理事・山本光昭氏インタビュー「審査業務の高度化目指す “AI活用”」

【7面】

24.Opinion/日経新聞編集委員・大林尚氏「『少産多死社会』への政策と対策を」

【8面】

25.「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」再診時も算定可能に
26.教えて会長No.69「オン資運用時イレギュラーへの対応」
27.オンライン資格確認システム導入後のトラブル事例報告フォーム

【9面】

28.症例研究/医療情報・システム基盤整備体制充実加算

【10面】

29.連載/歯科界への私的回想録⑦(オクネット代表・奥村勝氏)「有権者が問われる統一地方選挙&投票行動が道を拓く」
30.会員寄稿「声」/「雑感~歯科医師の冥利」(小林顕氏/板橋区)
31.理事会だより
32.協会活動日誌/2023年3月

【11面】

33.歯科医療の充実求める署名を提出
34.オン資義務化現場の状況伝える/第6回メディア懇談会
35.第116回歯科医師国家試験結果発表
36.健康保険証廃止と患者負担増共に撤回へ
37.通信員便り№132
38.春の共済募集キャンペーン

【12面】

39.新規指導控える開業医が多数受講/勤務医も参加の検討を―新規開業医講習会協会
40.神田川界隈/深刻な歯科技工所の現状/山本鐵雄(副会長/大田区)
41.医事相談研究会/法的責任と応召義務事例を交えて解説
42.医科歯科連携研究会/医科歯科連携のさらなる推進を
43.会員地区懇談会/「不安が解消できた」オン資歯科医療のデジタル化について懇談
44.第3回学術研究会/「専門医としてのプライド持ち診療に」

【教えて!会長!! Vol.69】オン資運用時 イレギュラーへの対応

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オンライン資格確認システム(以下、オン資システム)の導入が進んでいますが、トラブルが気になります。

 本年3月31日までに原則導入とされてきたオン資システムですが、経過措置の猶予届出書を出された本会会員は少なくないようです。しかし、一定期間猶予されるだけのため、オン資システムを運用している医療機関のほか、これから運用を開始する医療機関は、時間経過とともにオン資対応の機会が増加していくでしょう。
 運用開始後のトラブルについては、全国保険医団体連合会(以下、保団連)が行った調査結果を2022年11月に公表しています。この調査結果は同年12月の本紙で紹介しましたが、運用されている医療機関が増加していますので、厚労省が昨秋に示した「イレギュラーなケースへの対応」とともにお伝えします。
 また、調査結果によると、運用開始済みの医療機関のうち「トラブルがあった」と回答した中で、最も多かったのは、「被保険者情報が迅速に反映されない(有効な保険証でも『無効』と表示された)」が62%。次に多かったのは、「カードリーダーの不具合」の41%と報告されました(N=855)。どちらのトラブルも診療ができない、確認に時間がかかるなどの影響があり、患者さんの待ち時間が長くなる、治療が滞る、治療時間が短くなるなど、オン資運用前には起こらなかったトラブルが発生しています。

イレギュラーなケースへの対応方法を教えてください。

22年10月に「イレギュラーなケースへの対応の整理について」として5つのケースが厚労省から示されています。ここでは発生する可能性が高い3つのケースを取り上げます。


ケース①…マイナンバーカードまたは被保険者証、両方を不持参の場合
現行の被保険者証を忘れた場合と同じ対応で、一時的に患者が10割分を医療機関に支払い、後日、資格確認を医療機関で確認した上で自己負担割合に応じた額を患者に返金する。


ケース②…カードリーダーが故障などした場合
患者に被保険者証を提示してもらい、資格情報を確認し、負担割合に応じて手続きをする。被保険者証が提示されない場合、コールセンターに連絡し、資格確認(システム障害・大規模災害時)機能を起動することにより、検索が可能となり、患者情報により検索し、資格確認を行う。


ケース③…転職などにより保険者を異動した直後の場合
マイナンバーカードを持参した場合、資格確認を行うと「無効」と表示される。患者が新保険者発行の被保険者証を持っている場合は、被保険者証に基づき自己負担分を請求する。被保険者証を持っていない場合は10割を請求し、後日、資格情報を確認した上で自己負担割合に応じた額を患者に返金する。


 以上、3つのケースが示されていますが、コールセンターについて既に以下が示されています。
・オンライン資格確認等コールセンター(0800―080―4583・通話無料)月〜金 8時~18時、土 8時~16時(いずれも祝日を除く)
・「緊急時医療情報・資格確認機能」開放までおよそ30分間程度かかる

 多くの医療機関は、18時以降も診療をしていますが、時間外は対応してくれません。また、対応に時間がかかることが示されていますので、その間患者さんを待たせるのでしょうか。さらに既にトラブルがあって電話された会員に聞くと、「全く電話がつながらなかった」とのことでした。
現在、医科の団体である東京保険医協会が国を相手に「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」を起こしています。本会会員、さらに全国の医師、歯科医師が原告団に加わっております。詳細は本紙3月号、デンタルブックメールニュースにて既にお知らせしていますが、「内容を詳しく知りたい」などのお問い合わせは協会までご連絡ください。
 また、既にオン資を導入されている先生から、様々なトラブル事例が協会まで寄せられています。国会議員や厚労省に対して、義務化撤回、改善要望・要求を行うにあたり、トラブル事例を多く集める必要があります。4月初旬を目指して、発生したトラブル、困ったことなどを協会に報告できるシステムを構築する準備を進めています。詳細は、デンタルブックメールニュース、協会ホームページでお知らせしますので、生じたトラブルやお困りの事例などをぜひ、協会までお知らせください。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年4月号8面掲載)

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)3月1日

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)3月1日

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【新聞3月号】

【1面】

 1.オンライン資格確認システム導入義務化/経過措置の申請・3月31日まで
 2.オン資義務化は「違憲」保険医ら274人が国を提訴
 3.オン資等システム「義務化」撤回訴訟原告団へのご参加を
 4.原告団参加のご案内
 5.第51回定期総会ご案内
 6.「探針」
 7.ニュースビュー

【2面】

 8.4月から再診時もオン資の加算/問診などで情報確認が必要
 9.歯科用貴金属価格改定/4月から金パラのみ引き下げ
 10.東京都2021年度の個別指導32件/前年に比べて実施件数が減少
 11.高橋英登氏が当選/日歯会長予備選挙
 12.新聞に投稿してみませんか?

【3面】

 13.歯援診1に係る施設基準の届出/3月末までの再度の届出を忘れずに
 14.会員投稿「声」THE GENERATION Z/橋村威慶氏
 15.院内感染防止対策講習会・WEBと会場で開催
 16.確定申告・個別相談会/顧問税理士2氏が対応
 17.東京反核医師の会が総会・記念講演
 18.インボイス 事業者の届出は熟慮が必要
 19.東京歯科保険医協会50周年記念イベント

【4面】

 20.経営・税務相談Q&A第402回/オンライン資格確認システムの猶予について
 21.IT相談室/レセコン&オンライン資格確認システム 1台のPCで運用した場合のメリットとデメリットは?(クレセル)
 22.書籍「保険医の経営と税務 2023年版」
 23.法律相談、経営&税務相談

【5面】

 24.研修会・行事のご案内
 25.保団連情報サービスのご案内
 26.デンタルブックご案内

【6面】

 27.目白大学・姜恩和氏インタビュー「『とにかく助ける』母子を救うロジック抜きの感覚」

【7面】

 28.「マル青」の医療費助成制度、都内全域で4月から運用開始

【8面】

 29.教えて!会長!!Vol.68 フッ化物配合歯磨剤の利用方法
 30.4月から返戻がオンライン化
 31.グループ生命保険40周年 大抽選会のお知らせ

【9面】

 32.症例研究/知覚過敏に対する歯周外科手術

【10面】

 33.連載/歯科界への私的回想録⑥(オクネット代表・奥村勝氏)歯科行政の変遷と厚労省歯科保健課長への課題・期待
 34.オン資の義務化と保険証廃止の中止を求める
 35.理事会だより
 36.協会活動日誌/2023年2月

【11面】

 37.防災意識を高める/南海トラフ地震 日ごろからの備えが重要(早坂美都 理事)
 38.保険医年金 予定利率引上のお知らせ

2023.03.01東京歯科保険医新聞

 39.お手元にある署名のご返送を―「保険でより良い歯科医療を求める請願署名」
 40.神田川界隈/歯科医師人口減少社会(馬場安彦副会長/世田谷区)
 41.通信員だよりNo.131
 42.入会案内
 43.Facebookのご案内
 44.姜恩和氏/書籍プレゼント・番組出演情報

歯科界への私的回想【NARRATIVE Vol.6】歯科行政の変遷と 厚労省歯科保健課長への課題・期待

去る2月14日、次期日本歯科医師会会長に高橋英登氏(日本歯科医師連盟会長)が内定し、新しい執行部に期待が寄せられることになりました。高橋氏は、立候補時の挨拶で「〝物言う歯科医師会〟に変革していきたい」と述べていましたので、今後の言動に注目していきたいところです。

さて、1月23日に召集された第211回国会での衆院予算委員会では、2023年度予算成立に向け審議を進めていますが、歯科を担う厚労省の所轄内容は、国民の生活に密着している分野が非常に多く、国民が身近に感じる政策が多いのは事実です。私が歯科医療界に身を置いたのが90年からですが、当時は厚労省医政局歯科衛生課長(後年、歯科保健課に改称)は宮武光吉氏(東京医科歯科大学)で以後、佐治靖介氏(大阪大学・故人)、石井拓男氏(愛知学院大学)、上條英之氏(東京歯科大学)、瀧口徹氏(新潟大学)、山内雅司氏(愛知学院大学)、日高勝美氏(九州歯科大学)、鳥山佳夫氏(大阪大学)、田口円裕氏(長崎大学)、そして現在の小椋正之氏(長崎大学)により今日に至っています。各氏への寸評は控えますが私はこの方々には本当にお世話になりました。

現在に至るまでの間、強く印象に残っていることは、「歯科衛生課が歯科保健課に改称」(7年)、「健康増進法」(02年)、「贈収賄容疑で歯科医師ら逮捕」(04年)、「食育基本法」(05年)、「歯科技工物海外委託訴訟東京地裁判決」(08年)、「歯科口腔保健法」(11年)、「インプラント訴訟判決」(13年)などがあります。一方、歯科行政では、やはり「8020運動」が始動したことによる「8020運動推進事業」(92年)、「健康日本21(第一次)」(00年)、「健康日本21(第二次)」(13年)が歯科医療界の方向性・時代認識に大きな影響を与えたと思います。

当時、懇意にしていました日F(特定非営利活動法人日本フッ化物むし歯予防協会)の有志から、地域歯科保健、予防歯科の推進、フロリデーションの課題、フッ化物の応用、歯科衛生士との関係など意見交換を重ねてきました。さらに個人的でしたが、自由参加にして、一般社団法人日本口腔衛生学会会員、業界マスコミ人、歯科企業関係者の有志と大学関係者・開業医との懇談する機会を設け理解を深めました。貴重な経験であり、私の歯科への基本認識を培いました。

時代変遷がある中で、歯科行政でも厚労省医政局歯科保健課に設置されていた「歯科口腔保健推進室」が訓令室から省令室に昇格(17年)してスタート。まさに、歯科口腔保健法の下で、基本的施策、財政上措置、口腔保健支援センターの普及に努めると同時に、関係省庁との調整・連携の司令塔的責務を担うことになりました。

そして、「骨太の方針2022」で話題になった「国民皆歯科健診」。政策に伴う法的整備、事業の推進計画などの課題への対応が急務とされてきました。こうした中で、今後の歯科医療の役割について、前歯科保健課長の田口東京歯科大教授は、①従来の「治療中心型」だけでなく、口腔機能の維持・回復していく「治療・管理・連携型」の治療が求められる、②歯科診療報酬改定は、継続的な口腔管理、口腔疾患の重症化予防や口腔機能に着目した改定になる、③地域において、病院歯科と歯科診療所の役割分担・機能分化。歯科診療所間での役割分担に着目した提供体制の構築が進む、④診療室完結型から「かかりつけ歯科医」を中心とした地域完結型体制に転換していく―との4項目を掲げました。

◆将来を見据えた構想

近年では、新たに歯科と「食事・栄養」の議論がクローズアップされています。歯科医療界として時代遅れにならないよう、ネット社会におけるIT活用による歯科診療・地域歯科保健、さらに将来を見据えた歯科独自の「1・5次歯科診療所」構想の検討など、課題は目白押しです。国民の健康観、人口動態の激変、歯科疾病構造の変化などへの理解と適切な判断が求められる歯科保健課の責務は増すばかりです。

かつて、宮武氏が鶴見大学歯学部教授時代に、「多様化する国民の行政需要に応えるため、各種のネットワークを駆使し、優れた感性を持ち適正な判断ができる者が必要となる。高い教養を基礎に、優れた専門知識を持つ行政官が歯科衛生行政に参入されることを望む」と述べていましたが、まさに現在がそうなのかもしれません。

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

【教えて!会長!! Vol.68】フッ化物配合歯磨剤の利用方法

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フッ化物配合歯磨剤について学会から提言が出されましたね。

 2023年1月1日に「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法について」、4学会(日本小児歯科学会・日本口腔衛生学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会)から合同の提言が発表されました。私を含め、多くの先生は国際歯科連盟(FDI)や世界保健機関(WHO)が作成しているガイドラインを参考にフッ化物配合歯磨剤の利用方法について患者や保護者に説明していると思います。今回の提言は、これらのガイドラインを参考にして、さらに日本の状況を考慮して4学会からの推奨として作成されています。

特に強調されている点はどこでしょうか。

 本提言で今までの認識と変更されている点は、6歳未満においてフッ素濃度が500ppmの歯磨剤の使用が推奨されていましたが、歯が萌出してから6歳未満までフッ素濃度1000ppmの歯磨剤の使用が推奨されています(表)。そのほかには、以下の項目などが記載されています。
 高齢者において、う蝕予防の観点からフッ化物配合歯磨剤の利用が推奨できる。
 高濃度で酸性のフッ化物歯面塗布にはチタンインプランを腐食させる可能性があるが、低濃度で中性のフッ化物配合歯磨剤ではその可能性はないと考えられる。(中略)そのため、天然歯へのう蝕予防効果を考え、インプラント患者にもフッ化物配合歯磨剤の利用が推奨されている。
 なお本提言の詳細は、各学会のHPに掲載されていますのでご確認ください。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2023年3月号8面掲載)