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東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)5月1日

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)5月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)5月1日 第626号

1面】

     1.在宅歯科医療の改定内容に限定/第3回新点数説明会を開催)

     2.保険請求時の留意点を指摘/第4回新点数説明会

     3.第50回定期総会案内

     4.講演の模様はオンデマンド配信中

     5.ニュースビュー

     6.「探針」

2面】

    7.レセプト記載要領の主な変更点

    8.22年度改定疑義解釈/咬合調整は改定前の状況に関わらず4月から算定可

    9.東京都知事および都議会各会派へ撤回を求める

    10.高点数による個別指導実施せず2022年度指導計画

3面】

    11.会員が見た診療報酬「私から見た歯科訪問診療の実際と診療報酬改定」(葛飾区・池川裕子)

    12.会員が見た診療報酬「DXの視点から見た診療報酬改定―メリットがあるのは誰?」(町田市・杉島康義)

    13.会員寄稿“声”「米国の人手不足 トヨタの賃上げ そして歯科は?」(練馬区・船木勝介)

    14.2022年診療報酬改定書籍「歯科保険診療の研究」お届けします

【4面】

    15.経営・税務相談Q&A No.392 これってパワハラ?「パワーハラスメント防止措置」の義務化

    16.IT相談室/インターネット取引(歯科材料、感染防止品)の注意点/(クレセル株式会社)

    17.法律相談、経営&税務相談

【5面】

    18.「点数変わらない」6割強/新点数説明会アンケート

    19.5月金パラが引き上げに ―銀合金、メタルコアおよび14Kも改定―

    20.Facebookご案内

【6面】

    21.インタビュー「ホワッと観て ホクっと… そんな映画でありたい」映画監督・平山秀幸さん

【7面】

    22.研究会・行事のご案内

    23.会員優待サービスご案内

    24.デンタルブックご案内

【8面】

    25.Special Serial No.3 「新型コロナウイルス感染症は転換期を迎えている」山本光昭氏(社会保険診療報酬支払基金理事)

    26.教えて!会長!!Vol.58

    27.東京歯科保険医協会公式サイト

【9面】

    28.症例研究/2022年診療報酬改定 CAD/CAMインレーの新設

【10面】

    29.連載/私の目に映る歯科医療界⑭(東洋経済新報社・大西富士男)訪問診療や女性医師増が歯科業界に構造転換迫る

    30.理事会だより

    31.協会活動日誌2022年4月

11面】

    32.4・21国会要請行動/渡辺・伊藤両衆議院と懇談実現―金パラ原価割れ解消も強く訴える

    33.電子書籍「デンタルブック」ご案内

    34.「保団情報サービス」ご案内

    35.共済制度ご案内

12面】

    36.現場の声で 5月に緊急改定/7月随時改定を待たずに引き上げを

    37.神田川界隈/今年度改定のご評価は?(本橋昌宏理事/荒川区)

    38.通信員便り No.121

    39.日本歯科評論 別冊「保険診療と歯冠修復」/2022年診療報酬改定関連書籍

【教えて!会長!! Vol.58】F局の適用拡大

― 今次改定でF局の対象が変更になりました。

坪田有史会長:「エナメル質初期う蝕(傷病名:Ce)」は改定前からの変更はありませんが、う蝕多発傾向者(傷病名:C管理中)の対象年齢が引き上げられ、判定基準が緩和されました。したがって、う蝕多発傾向者に対する指導である「フッ化物洗口加算(F洗)」の対象年齢は、「4歳から13歳未満」が「4歳から16歳未満」となりました。また、「フッ化物歯面塗布処置(F局)」の対象年齢も、「0歳から13歳未満」が「0歳から16歳未満」に引き上げられました。F洗、F局ともに乳歯や萌出直後の永久歯のう蝕抵抗性を高め、う蝕予防の効果に高いエビデンスがあります。F局の場合、歯科医師や歯科衛生士が多く扱っているフッ化物歯面塗布剤は、フッ化物濃度として9000ppmと高濃度といえます。とくに低年齢時の使用時には、急性中毒を避けるため、使用量に注意が必要です。例として小児の場合、1回の塗布に使用する薬剤の量は2gとされています。多くの歯科医療機関で問題ないと思いますが、今次改定を機会に院内でF局の実際の処置について確認することをお勧めします。一方、対象年齢と判定基準を覚えられない私の場合、治療スペースに「2022年改定の要点と解説」の41ページの表をコピーしていつでも確認できるようにしています。

― 初期の根面う蝕のF局については?

坪田:初期の根面う蝕のある患者へのフッ化物歯面処置は、2014年度(平成26年度)改定で在宅などでの療養患者に限られていましたが、今次改定で外来受診の場合でも歯管を算定した65歳以上の患者であれば算定可能となりました。この適用拡大は、2014年度改定時から長年、在宅療養患者だけでなく外来での患者にも認めるべきであると本会は厚労省に要望してきました。そのほか、保団連を始め、各団体の臨床現場の声が認められ、日本歯科医学会から提出される医療技術評価提案書にはない項目として適用拡大されました。このことは65歳以上の口腔内の健康維持を図り、健康寿命の延伸のために歯科診療を行なっている歯科医療機関にとって、評価できる適用拡大といえます。
我が国の高齢化は、さらに一層進みます。高齢者の根面う蝕の罹患率は高く、さらに年齢が高くなるにつれて根面う蝕が増加することには複数の報告があります。また、日本歯科保存学会の「う蝕治療ガイドライン 第2版」では、根面う蝕の対応として「欠損の浅い初期活動性根面う蝕の場合は、まずフッ化物を用いた非侵襲的治療を行って再石灰化を試み、う蝕を管理するよう推奨される」と記載されています。したがって、各高齢者の様々な口腔内の状況に対し、定期的なメインテナンスを行うにあたり、初期の根面う蝕が重症化しないように予防・管理のため、適切なF局による処置が必要と考えます。今次改定で評価できる項目の一つであるF局について、理解を深め、正しい運用によって患者のう蝕予防に役立てましょう。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年5月号8面掲載)

インターネット取引(歯科材料、感染防止品)の注意点

WEBに係る歯科関連の法令やトラブル対応などについて、
歯科専門にサイト制作、運用、コンサルディングを手掛ける専門家が解説する本連載。
今回はインターネット取引について―。

 近年は、消耗品(歯科材料や感染防止品など)を院内からネットで購入するケースが増えてまいりました。自宅で行う個人的な注文と同じ感覚でできてしまいますが、簡単だからこそ医療機関としての注意が必要です。
 まず、ネットで購入決済をするPCはインターネットに接続しますが、院内の他のPCにも接続されていないでしょうか?
 ネット購入用のPCは、購入時の自動返信メールも受信することになりますので、セキュリティに懸念があります。そのPCが患者の個人情報(極端な例ではレセコンやデジタルレントゲンなどの情報、治療予約の情報など)にネットワーク上で接続されていると、それだけで大きなリスクになります。診療用のネットワークと外部との接続可能なネットワークは、今すぐにでも切り離すべきです。
 ネット購入は、院長ではなく受付などの院内スタッフが定期的な業務として行う場合も多いですが、購入時の報告や在庫管理など徐々に面倒になり、スタッフに「丸投げ」になる事も注意が必要です。
 院内スタッフですから決済機能を悪用することは少ないと思いますが、丸投げゆえに「スタッフ個人の判断で購入を行った」などどちらが悪いとも言えないような医院運営上の問題が発生しかねません。
 誤操作による発注ミスや決算時に問題にならないため、在庫管理を徹底するための台帳の作成、情報の共有など後々のことを考えて管理体制を整えておくほうがより安全と言えます。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2022年5月号4面掲載)

私の目に映る歯科医療界⑭ 訪問診療や女性医師増が歯科業界に構造転換迫る/今後の歯科業界が市場として生きる視点で考える

訪問診療や女性医師増が歯科業界に構造転換迫る/今後の歯科業界が市場として生きる視点で考える

今回は、歯科医療界全体を「歯科業界」という括りで捉え、産業的にどう見えるかを考え、論じていきたい。

歯科業界を産業的に見た場合、最大の特徴は、歯科サービスの価格が診療報酬という公定価格で決められている点にあるといえよう。

良いサービスを提供し、価格引き上げと利益増加を狙えないことは悩ましい点だ。それでも、十分な公定価格が付けばこの欠点も埋められるだろうが、現実はほど遠い。欧米先進国に比べ、日本の歯科医療サービスの価格は低水準だ。公定価格を決める診療報酬は、今次改定ではプラス0.29%というわずかな上げ幅にとどまった。人件費やパラジウム価格の高騰などのコスト上昇もあって、歯科診療所の収益と経営は非常に厳しい。

Ⅰ.歯科診療報酬は抑制続き薬価差も享受できず前途多難

今後、診療報酬の大幅なアップを期待したいが、実現的には前途多難だろう。日本は少子高齢化という長期の構造問題を抱えており、医療費増加は今後も加速する。政府は、医療費の増加抑制に血眼だ。その結果が先の診療報酬アップ縮小だ。声高に診療報酬のマイナス改定を叫ぶ財務省の圧力を、いつまでかわせるかは予断を許さない。

医科や調剤薬局は、診療や治療、調剤に使う処方薬などの購入価格を医薬品卸会社との交渉で引き下げ、公的価格(償還価格)との鞘を抜く薬価差という利益をひねり出せる。しかし歯科の場合は、コスト全体に占める医薬品購入額の比率は小さく、医科や調剤薬局のような薬価差も享受できない。

保険点数が頭打ち、薬価差メリットも得られないとなれば、保険診療の外、自費診療に活路を見出す選択肢はある。実際、この動きも続いているが、業界が雪崩を打ってこの市場に向かえば、大げさな言い方になるが、質の良い歯科サービスを手の届く料金であまねく国民に提供する公的医療保険制度の理念に背くことになる。

Ⅱ.中長期で歯科医師需給緩和歯科訪問診療などが構造変革促す

前号(第625号本紙)でも触れたが、歯科医師の需給を巡る見方は、一時あった供給過剰論一色は薄れて、2040年までには供給不足になる(歯科医師が足りなくなる)というデータも提出されている。そこまで行かなくとも、専門家の間では、現在の歯科医師過剰の状態から需給ギャップは縮小に向かうという見方が強まっている。

歯科医師年齢層の最大の山は60歳代にあり、70歳以上の歯科医師も増えている。この年齢層の歯科医師の多くは歯科医師一人で切り盛りする歯科診療所を経営しているが、あと10年もすると高齢等が原因で引退する。10年以上続く事実上の参入規制(歯科医師国家試験合格者を2000人前後に抑える施策)により、新規参入も抑えられてきた。人口減少に伴う需要減があるとしても、供給減も大きくなるため、歯科医師の需給ギャップは縮小するというわけだ。この見通しの通りになれば、現在起きている歯科診療所過多による顧客(患者)の獲得競争が緩和されることにつながる可能性が高い。暗い将来性ばかりが一人歩きする歯科業界にあって、この点は、特にこれから歯科医師になる若い世代には朗報になるのかもしれない。

歯科業界にとっては、長期の日本の人口減少がマイナス要因となる一方で、高齢化は歯科サービスへの潜在ニーズが高い高齢者が増える点ではプラスだ。 

歯科業界全体、歯科診療所経営の観点からも、この膨大で成長する潜在市場をどう取り込むのかは重要課題だ。

70歳代も半ばになると、歯科外来受診が顕著に減る。この人たちの需要がなくなるわけではない。介護施設や自宅で生活する要介護世代になり、在宅での歯科訪問診療を受けたいが、そのニーズを満たしてもらえないのが実態だ。厚労省の資料では、要介護者の9割が歯科治療などを必要とするのに、実際に治療を受けたのは27%だという。要介護者は現在680万人だから、単純計算で446万人の潜在需要が放置されたままだ。

この在宅への歯科訪問診療を担う在宅療養支援歯科診療所(歯援診)の数は、2020年度に8367施設と、前年度の11361施設から初めて減少に転じた。

歯科訪問診療の市場規模は、潜在ニーズの大きさの割には緩やかだ。問題は供給面にあり、歯科医師が歯科訪問診療に二の足を踏んでいるのが実態だ。厚労省の2018年度調査では、歯科訪問診療を実施しない理由のトップに、人手不足などが挙がる。

ここには、歯科業界が抱える問題が潜んでいるように見える。歯科医師が1人という個人経営の診療所が大半を占める業界の構造問題だ。こうした診療所では、拡大する歯科訪問診療ニーズを取り込もうとしても、現在の医業収益の柱である外来を犠牲にすることはできず、それがジレンマとなっている現実がある。

Ⅲ.女性歯科医師の増加も今後の構造転換への引き金に

女性の歯科医師の増加も、歯科業界に構造変化を促すかもしれない。

歯科医師国試合格者では、すでに女性比率が45%を突破した(下表)。一定期間は出産・子育てに時間を取られる女性歯科医師のライフスタイルを考慮すれば、週5日、1日8時間のフルタイム勤務ではなく、週2日や1日のうちで都合の良い時間帯のシフト勤務などのニーズが高まる。

現在の歯科業界構造は、一人の歯科医師だけに頼る個人歯科診療所が主体となっているため、女性歯科医師の積極的な市場参加には対応できないかもしれない。

同じサービス業の性格を持ち、個人経営が多い点でも歯科業界に類似性を持つ弁護士事務所や保険代理店でも、一人経営から合併・集約・大規模化の動きが出ている。

◆法曹界等での合併・集約・大規模化に注意

たとえ業種が違い、その原因は異なるにしても、市場飽和が進み、それに伴い市場競争が激化し経営合理化が背中を押している点では、歯科業界とも共通点を持っている。

歯科業界にも同じ波が押し寄せてきているのかもしれない。将来をにらみ、今から構造転換への議論を進めておくべきだろう。

 

東洋経済新報社編集局報道部記者 大西富士男

「東京歯科保険医新聞」202251日号10面掲載

新型コロナウイルス感染症は 転換期を迎えている Special Serial No.3

PCR検査の意義や限界、目的が理解できていない

封じ込めは不可能であり、検査目的を再検討すべき

新型コロナの特性の把握や対応法も確立していなかった段階では、感染拡大防止のために「封じ込め」の可能性を意識して、無症状者も含めて検査を実施し、陽性者の把握、濃厚接触者の特定・行動制限などを実施することにはそれなりの合理性があった。

しかしながら、この2年にわたる知見の集積の中で、新型コロナに関しては、①人から猫などの動物にも感染し、再び動物から人に感染するという、変異を繰り返しながらの永遠のサイクルになること、②無症状や軽症のことが多いため、感染拡大しやすいこと、③ワクチンの効果が6カ月程度で減弱することなどから、反復してのワクチン接種や早期発見・隔離などを徹底しても「封じ込め」は不可能であること―が明らかとなり、検査の目的を再検討すべき時期に至っている。

PCR検査を絶対視する不可思議

病院における新型コロナ検査では、LAMP法やPCR法を同時に実施することも多い。すると、LAMP陽性、PCR陰性など、異なる結果が出ることがある。検体が正確に採取できていたかどうかによっても、結果が左右されるからである。例えば、インフルエンザ検査キットは、特異度は高く、結果が陽性であればほぼ感染していると言える反面、陰性であっても感染していないとは言い切れない。感染している人を正しく陽性と判定する割合を「感度」というが、インフルエンザ検査の感度は60%程度と言われ、新型コロナの検査も同程度と言われている。すなわち、見落とし(偽陰性)は多く、少数とはいえ〝濡れ衣(偽陽性)〟の可能性もある。その意味で、一つの検査を絶対視するのは不可解としか言いようがない。

さらに、検査の陽性はあくまでも、感染したという「結果」を確認しているにしか過ぎない。本来、感染しないための予防という「行動」こそが「感染拡大防止」につながるわけで、無症状者が検査陰性といって安心し、感染リスクの高い行為を重ねることこそ、感染拡大につながっているともいえる。すなわち、「陰性証明」の検査こそ、感染拡大につながっている可能性すら、ありうるわけである。

それでは、なぜ、今なお日本も含め、世界においても感染拡大防止につながると思い込み、無症状者も含めPCR検査や抗原検査が行われるのか。私は、日本だけなく世界でも、検査の意義や限界、目的が理解できていない人たちが発言し、それがそのまま鵜呑みにされている社会構造にあるのではないかと感じている。

今となっては診療の一環、治療目的と考えるべき

検査は本来、疾病の治療を目的に行うべきである。また、歯科医療も含め、通常の医療においては疾病診断にあたり、必ず複数の検査を実施し、総合的な判断のもと、治療を実施していく。

新型コロナが疑われる場合、まずウイルスのタンパク質をみる抗原検査、遺伝子をみるLAMP法やPCR法などの手法の異なる複数の検査を駆使し、ウイルスの活性状況を判定する。そして、会話時のマスク着用など、他者への感染の配慮の上で通常のように医療機関に通院してもらいながら、患者を的確に医療機関の管理下に置き、鎮痛解熱剤といった症状を和らげる薬なども処方し、症状が深刻であれば、血液検査やCTなどの画像検査を実施する。

一刻も早く通常の医療システムに戻すことが必要

このように様々な検査を駆使しながら、患者の重症化リスクを検討する一方、中和抗体療法や抗ウイルス薬投与などを考慮する。そして、重症化が想定される場合や酸素投与が必要な場合などは入院させ、免疫暴走により急激な悪化が起こった場合は、ステロイド剤を投与するといった治療を行うのである。

新型コロナの予防・診断・治療法が確立した今、一刻も早く、アクセスの良い通常の医療システムに戻すべきである。

次回は、新型コロナウイルス感染症のカテゴリー議論について、解説する。

山本光昭(やまもと・みつあき)
前 東京都中央区保健所長 / 現 社会保険診療報酬支払基金 理事

1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、2015年7月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。

インタビュー 平山秀幸 氏(映画「ツユクサ」監督)

2022.05.01 (6)平山秀幸氏(映画「ツユクサ」監督

©2022「ツユクサ」製作委員会 配給:東京テアトル 

4月29日(金・祝)全国公開

<キャスト>

小林聡美

平岩紙 斎藤汰鷹 江口のりこ

桃月庵白酒 水間ロン 鈴木聖奈 瀧川鯉昇

渋川清彦 / 泉谷しげる / ベンガル

松重豊

 

<スタッフ>

監督:平山秀幸  脚本:安部照雄  

音楽:安川午朗  主題歌:中山千夏「あなたの心に」(ビクターエンタテインメント)

過去のインタビューはこちら

#ツユクサ #映画 #歯科治療 #東京テアトル

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)4月1日

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)4月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)4月1日 第625号

1面】

    1.新点数説明会開催(3月24日)

    2.過去最大 22年度予算成立/国家予算

    3.設立50年に向け前進を続ける(組織部長・福島崇)

    4.第50回定期総会案内

    5.在宅医療およびレセプト記載要領等の留意点を4月に

    6.ニュースビュー

    7.「探針」

2面】

    6.談話 都内全域への「子ども医療費助成制度」の拡充を求める(地域医療部長・横山靖弘)

    7.理事会声明 プラス改定を感じられない

    9.22年度診療報酬改定の主なポイント

3面】

   10.会員が見た診療報酬「関心を集めるCAD/CAMインレー導入に際して」(足立区・川本弘)

    11.会員が見た診療報酬「算定ハードル 導入コスト…小規模改定も中止が必要」(板橋区・小林顕)

    12.2022年3月31日限りで廃止となる主な経過措置医薬品一覧

    13.会員寄稿“声”「歯科医療に影を落とすウクライナ侵攻 金パラ使用の再考」(杉島康義・町田市)

    14.歯科診療報酬2022年改定特設ページ

【4面】

    15.オンライン資格確認の現状と注意すべき点

    16.法律相談、経営&税務相談

【5面】

    17.研究会・行事案内

    18.会員優待サービス

【6面】

    19.インタビュー「予防歯科の観点から目指す地域貢献」前厚生労働省医政局歯科保健課長・田口円裕さん

【7面】

    20.新型コロナウイルス濃厚接触 対応フローチャート

    21.新型コロナウイルス関連で申請できる助成金・支援金

【8面】

    22.Special Serial No.2 「新型コロナウイルス感染症は転換期を迎えている」山本光昭氏

    23.教えて!会長!!Vol.57

【9面】

    24.症例研究/2022年度診療報酬改定 一本化されたSPT

【10面】

    25.連載/私の目に映る歯科医療界⑬(東洋経済新報社・大西富士男)厳しい診療報酬改定に パラジウム等高騰と多難

    26.理事会だより

    27.協会活動日誌2022年3月

11面】

    28.窓口負担2割化中止求め 国会内集会に100人

    29.今年10月実施「75歳以上の窓口負担2割化」を中止させよう!

    30.春の募集キャンペーン中!この機会に、ぜひご加入ください!(共済部長・川戸二三江)

    31.診療所ホームページで患者が最も見ているのは?/クレセル株式会社

    32.「2022年改定の要点と解説」正誤表(2022年3月25日)

12面】

    33.第6回メディア懇談会/診療報酬改定 質問多数

    31.神田川界隈/2022年度診療報酬改定に思うこと(阿部菜穂 理事/江東区)

    32.通信員便り No.120

    33.第115回歯科医師国家試験 合格者は1969名

    34.罪なき人々を巻き込む戦禍 一刻も早い終息を願う

    35.理事会声明 ロシアのウクライナ侵略を断固非難する

【教えて!会長!! Vol.57】歯科初・再診料の増点

― 2022年度診療報酬改定で初・再診料が増点されましたね

坪田有史会長:歯科初診料の注1(以下「歯初診」)の届出医療機関は、歯初診の施設基準を満たす院内感染防止対策の現行の研修項目に、新興感染症への対応および標準予防策が追加され、基本診療料である初診料が3点、再診料が3点、それぞれ増点され、初診料が264点、再診料が56点となりました。他方、歯初診の未届出医療機関の場合、初診料240点、再診料44点と変更されませんでした。その結果、届出の有無による差は初診料で24点、再診料で12点とさらに点差が広がりました。この扱いは、厚生労働省として院内感染防止対策を推進する観点から、すべての歯科保険医療機関が歯初診の届出を行うことを目指していると理解できます。
初・再診料を1点ずつ上げるには約40億が必要とされていますから、初・再診料を上げるには多くの財源が必要です。なお、今次改定の歯科の改定率は、プラス0.29%で前回改定時の改定率のプラス0.59%と比較すると0.3ポイントも下回った値になりました。なお、プラス0.29%は、概算で約90億円と言われていますのでかなり財源的に厳しい状態です。そこで厚労省は、初・再診料を増点するための財源に、歯周基本治療処置(P基処)10点の廃止・包括分で充てたのです。財源が少ない中、仕方がないという見方もありますが、日常診療の点数を犠牲にしたことには疑問があります。

― そこまでして初・再診料を引き上げる理由は

坪田:長年、歯科側は、医科との基本診療料の格差是正を望んでいます。そこで、院内感染防止対策、および新興感染症への対策を理由として、18年度改定から今次改定まで、初・再診料の増点が行われています。なお、医科は21年から消費増税への対応のみの増点で、実質初・再診料は据え置かれています。しかし、未だ医科歯科格差は解消されていないのが現状です。
歯科初・再診料は、点数だけみると12年の初診料218点、再診料42点から、10年経過した今次改定で初診料264点、再診料56点と各46点、14点増点していますが、その内、初診料30点、再診料6点は、消費税率引き上げへの対応です。したがって、院内感染防止対策および新興感染症への対策のための今次改定までの増点は、初診料16点、再診料8点となります。

― それを聞くと、引き上げ幅が少ないような…

坪田:その通りです。10年間で院内感染防止対策および新興感染症への対策を理由とした増点は、初診料で16点、再診料で8点です。この増点を院内感染防止対策のコストに限ってみると、そのコストについては、2007年の中医協では、268.16円や、19年に中医協で出された意見が約568円ですから、実際にかかっている院内感染防止対策のコストに見合っているとは思えません。
結局、改定財源がなければ、院内感染防止対策のコストを十分に補完することはできません。したがって、「歯科医療費の総枠拡大」が進まなければ、希望は叶わないのです。
国民医療費に占める歯科医療費の割合は、私が歯科医師になった平成元(1989)年では10%ありました。それが30年後の令和元(2019)年では6.8%です。この間、高齢化が進んで国民医療費の全体が増加しましたが、その中で歯科医療費の割合が減少していったのです。もし、10%のまま維持できていたならば、現在の歯科医療費の3兆円は、4兆円になっていたはずです。今更ながら残念なことです。
しかし、過去は変えられません。よりよい未来にするために声をあげていきましょう。声が小さくても、集まれば大声になります。現在全国の協会とともに取り組んでいる署名を含め、協会活動にさらなるご理解、ご協力をお願いします。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年4月号8面掲載)

診療所ホームページで患者が最も見ているのは?

WEBに係る歯科関連の法令やトラブル対応などについて、
歯科専門にサイト制作、運用、コンサルディングを手掛ける専門家が解説する本連載。
今回は診療所のホームページについて―。

 歯科診療所の運営にインターネットを活用することは、今や「当たり前」と感じる方も多いのではないでしょうか。そして、その「常識」に本心ではついて行けない方から、よくこんな質問をいただきます。「診療所のホームページって、どこに力を入れれば効果があるの?」。ITの専門家ではない歯科医療従事者の方々は、煌びやかな競合医療機関のホームページを見て、頭を悩ませている方が多いようです。
 弊社の管理しているサイトのアクセス集計(アクセス数、ページごとのアクセス状況、サイト訪問時に検索したワードなど)を分析すると、ほとんどのサイトに同じ傾向がありました。トップページを除く歯科診療所ホームページで、最も見られているページに共通点があり、仮説を元にこのページを強化することで、効率よく患者さんへのメッセージを届けられます。
 最も見られているページとは、「診療所内装(設備も含めて)」「スタッフ」の2種類です。サイトに訪れた患者予備軍の方々は、必ずこの2ページを最初に開きます。これから通院する診療所が、「どんな場所」で「誰が」治療してくれるのか、この2点をほぼすべての人が最重要視していることがわかります。
 したがって、院内、スタッフの写真をできるだけ多く使用し(スマホでも綺麗に撮影できます)、自己紹介や患者へのメッセージを丁寧に掲載することで、「相手に寄り添ったメッセージ」を伝えることが可能です。ちなみに、自費治療のページは相対的に閲覧者が少ないことが一般的です。
 まず「どんな場所」で「誰が」治療するのかわかりやすく発信し、患者側の最初の審査を通過する必要がありそうです。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2022年4月号11面掲載)

私の目に映る歯科医療界⑬ 厳しい診療報酬改定にパラジウム等高騰と多難/歯科医療界の将来像を巡り現場から議論を

厳しい診療報酬改定にパラジウム等高騰と多難/歯科医療界の将来像を巡り現場から議論を

オミクロン株による感染爆発は、やっと沈静化の兆しが見え始めたが、新たな変異株の出現の可能性はまだ残っている。そこに、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発した。歯科医療界にとっては、まさに弱り目に祟り目だ。

◆ロシア発パラジウム再高騰の「悪夢」復活

ロシアのウクライナ侵攻による戦争勃発で、世界生産量の4割を占めるロシア発の供給不安から、いわゆる「銀歯」に使われるパラジウム価格は、3月中旬で7カ月半ぶりの最高値を更新、昨年前半に異常高騰のしわ寄せを「逆ザヤ」として受けた悪夢が歯科医療界で復活しそうだ。

歯科用貴金属の随時改定方法は4月から変わる。ただ、この改定によって以前よりは解消されるとはいえ「逆ザヤ」の抜本的な解消には程遠く、特に、急騰時には歯科診療所が高騰分を赤字としてかぶる構図は続く。抜本的な是正策をつかみ取れなかったことに、歯科医療界が早くも臍を噛むことになりそうだ(本紙第623号参照)。

◆歯科診療報酬改定で気になる高額な設備導入が前提の新点数設計

歯科の2022年度診療報酬改定内容も明らかになった。改定のポイント解説は本紙第624号(31日号)に譲るとして、新設された診療報酬項目の算定で、特定機器の導入が前提になっているケースが散見されることが気になる。

一端を挙げれば、口腔バイオフィルム感染症検査で口腔細菌定量分析装置が必要であったり、複雑な解剖学的根管形態を持つ歯の効率的・効果的な根管治療の評価では、ニッケルチタンロータリファイルを装着した能動型機器の使用が算定の前提になっているといった具合だ。

これは問題だ。高い機器を購入して、新点数を獲得しても、果たして採算が取れるのかどうか。これには、歯科診療所を経営する歯科医師各人の経営判断がのしかかってくる。

要求される機器が安くないことを考えれば、大多数を占める歯科医師1人で切り盛りする個人の小規模歯科診療所では、設備導入に二の足を踏むケースが出て来そうだ。資金的余裕もあり、顧客を多く集められ、設備を導入しても収益面でペイする目途が立てやすい法人経営など、比較的大規模な歯科診療所には、逆に有利に働く可能性があるのではないか。

もちろん、有益な新技術に公的保険がつくのは患者にとっては嬉しいことだ。

ただ、厚生労働省が歯科診療所間に優勝劣敗効果を及ぼすことを理解した上で政策誘導しているとしても、歯科診療所の多くが設備導入を渋れば、肝心の新技術普及の狙いは不発に終わり、患者、国民にもそのメリットが享受できない結果になりかねない。

政策当局が歯科医療の現場の実情に照らして、算定点数(収入)と設備導入費用のバランスをどこまで考慮したのか。その点は非常に気になるし、政策効果の事後検証は、税金・健康保険料・窓口負担などを負う国民の目線からも、絶対に必要だ。

◆歯科医療界の中長期像を設定し関連検討会での活発な議論が必要

2022年度は、歯科医療界にとって(日本全体にとってもだが)大きな変曲点だ。団塊の世代が後期高齢者の仲間入りを始めるからだ。団塊の世代の後期高齢者入りは2025年度に完了するが、そうなると歯科市場には縮小圧力が加速し始めるおそれがある。この点は、医科や医薬品の市場が高齢者の増加とともにニーズ拡大を迎えるのと正反対の面がある。

少なくとも現状では、70歳以上になると歯科治療に通うニーズが落ちる傾向は鮮明だ。居宅や高齢者施設で潜在化している歯科訪問診療ニーズの掘り起こしをした上で、なおかつ歯科市場の中長期での縮小に、歯科医療界の関係者がすべからく備える必要があることは、言うまでもない。

その際、歯科医師の需給予測を抜きにして語ることはできないだろう。従来から、人口10万人に対し歯科医師50人を適正とみなし、現状の歯科医師80人は、明らかに過剰との見方が強かった。歯科医師の新規参入抑制、具体的には歯科医師国家試験合格者数の削減が叫ばれ、実際にその方向に向かった経緯があり、本年316日に発表された第115回歯科医師国家試験合格者数を見ると、合格者数は1969名となり、昨年まで4年続いた合格者数2000名超えを下回った。

しかし、中長期的に見れば、違った予測と流れも出ている。2016年に開催された厚労省の「歯科医師の資質向上等に関する検討会」の資料によると、日本の高齢化と人口減少によって縮む歯科市場(患者数)に基づく必要な歯科医師数(需要)と、高齢化する歯科医師のリタイア数や、新規参入する歯科医師(国家試験合格者)の見込み数などから算出した歯科医師数(供給)を重ね合わせると2041年には5000人超の歯科医師不足が訪れるという試算も出ていた(右下グラフ参照)。

昨春以降、厚労省で「歯科医療提供体制等に関する検討会」の議論が進む。6回の会合を終え、今年から「歯科医師、歯科衛生士の需給に関する議論」に入り、2022年度末に報告書を取りまとめる予定だ。

健康に直結する歯科医療サービスを受ける国民の立場からも、中長期的な視点を入れ、将来のあるべき歯科医師像や歯科医療界の姿づくりにつながる本質的な議論が、まさに歯科医療の現場から巻き起こることを、ぜひ期待したい。それがなければ、いかなる提言も空虚に終わることだけは確実なはずだ。

東洋経済新報社編集局報道部記者 大西富士男

「東京歯科保険医新聞」20224110面掲載

新型コロナウイルス感染症は 転換期を迎えている Special Serial No.2

飛沫感染防止のため 会話時のマスク着用の徹底を

保健所の疫学調査で得られた感染経路の知見

新型コロナの発生当初は、感染経路が必ずしも明らかとは言えず、飛沫感染や接触感染、さらには空気感染の可能性も言われた。そのため、感染予防対策として「ソーシャル・ディスタンス」や「三密対応」などが打ち出されたわけである。
しかしながら、保健所における膨大な疫学調査の印象では、圧倒的に多い感染経路は、マスクなしの会話など「唾」の飛沫が飛び交い、吸い込む場面であり、接触感染もありうるかもしれないが、空気感染の可能性はほぼ考えにくいということであった。
ところで、1990年代の前半、HIV感染症は当時確実に死に至るという恐怖の感染症であり、血液媒介のため、外科的処置を伴う歯科医療においては大きな課題となった。
それを乗り越えてきた歯科医療は、感染経路やメカニズムの理解とともに効果的な感染予防対策が徹底されていることから、医科や福祉・介護分野などとは異なり、新型コロナに関しクラスターが発生していない。

効果的な感染予防対策は

日本だけでなく、世界においても、最初の発生国における街中をマスク姿で歩く映像に感化され、追随してしまった。発生初期は、感染経路も明瞭でなかったので、仕方ない側面はあったとしても、現在に至っては、検査検体として使われる「唾」が感染原因であることから、街中を一人黙々と歩いていたり、公園で一人座っていたりして、感染することはありえず、マスクは不要といえよう。

 総花的な感染予防の限界

当初、唾液での検査は信頼性に乏しい、すなわち十分なウイルス量が採取できないとされ、鼻咽頭ぬぐい液にこだわっていたが、2020年6月には同等性ありとした。本来なら、この時点で「唾」が感染経路になることを強調すべきで、会話時におけるマスク着用の徹底に啓発をシフトすべきであった。「三つの密(密閉、密集、密接)」の回避や「人と人との距離の確保」「マスクの着用」「手洗いなどの手指衛生」などと十中八九感染予防対策をしているにもかかわらず、感染が拡大する一番の原因は、勤務時間外や休憩時間などの時間にマスクをせず気楽な会話を楽しむなどといった、自粛疲れや自粛慣れから、リスクの最も高い行為をしているためではないか。
現在の感染予防に関する啓発の最大の問題は、感染経路として高リスクと低リスクのものを総花的に同列扱いにしていることである。圧倒的なのは検査検体にも使う「唾」が飛び交い、吸い込むことであり、飲食店でアルコール消毒に検温して、人間心理として、十中八九対策をしているからと、マスクなしで会話を楽しむといった最も感染リスクの高い行為だけをして、感染という話となる。逆に、同一職場で感染者が勤務していても、執務中は会話時のマスクが徹底されるため、感染していないことが多い。
平熱であっても、検査陰性でも、ワクチン接種済みでも感染していることはあり、病原体を含む唾液を飛散させて他者にうつすことが多々あることから、「唾」のコントロールを意識してもらうほうが、はるかに重要である。

 効果的な対策で経済損失を抑える

ところで、「人の流れ(人流)」が「感染拡大」の要因と、一見、科学っぽい「数値解析」のミスリードにより、「唾」の飛沫感染を防ぐという「基本」が忘れ去られ、「風が吹けば桶屋が儲かる」的論理構成で、「飲酒感染」という感染経路が導き出された。本来、飲食店におけるマスク着用での会話の徹底、お店の定員削減や仕切り板の設置などの有効な予防策の推進ではなく、「営業時間短縮」という直接効果の乏しい方法に加えて、「禁酒」というとんでもない感染対策を実施し、休業補償の名のもとに莫大な税金が投入されている。
飲食店における感染予防には、例えば隣のグループの「唾」を吸い込むリスクを減らすためにお店の定員を半減させることなどの方が効果的と考えられ、その代わり、客の回転の倍増と営業時間延長を認め、経済的損失も抑えることが本来のあるべき対策であろう。
次回は、新型コロナウイルス感染症のPCR検査に対する誤解について解説する。

山本光昭(やまもと・みつあき)
前 東京都中央区保健所長 / 現 社会保険診療報酬支払基金 理事

1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、2015年7月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。

理事会声明「プラス改定を感じられない」

全体でみればプラスにならない

 今次改定では、かかりつけ歯科医機能、訪問診療及び医科歯科連携の拡充が行われ、わずかだが基礎的技術料が引き上げられた。しかし、歯科の改定率は+0.29%と近年まれにみる低い改定率となっており、初・再診料を引き上げるために日常診療の点数が犠牲になるなど、点数の付け替えが行われた。

 「一物二価」との批判のあった歯周病安定期治療の() ()が統合されたが、これまで歯周病安定期の治療に真摯に取り組んできた歯科医院の努力を置き去りにした改定の手法には納得がいかない。

 長期化する新型コロナウイルス感染症により、治療の中断あるいは受診を手控える状況が頻繁に起きている。その結果、徐々に患者が減少し、医院経営をあきらめざるを得ない会員も出ている。

 今次改定は、感染対策によりコストがかかる歯科医院経営からみて、不十分と言わざるを得ない改定である。

金銀パラジウム合金の原価割れが解消されていない

 金銀パラジウム合金(以下、金パラ)の原価割れの解消を求めて、協会は改善を求める署名を厚生労働省に提出した。今次改定では乖離幅に係らず3か月ごとに歯科用貴金属価格が改定されるほか、その元となる素材価格の参照時期のタイムラグが改定の3ヶ月前から2ヶ月前までに短縮される。タイムラグの短縮により市場価格との乖離は多少改善されるが、会員が求めていたのは原価割れが生じない仕組みである。

 今次改定で償還価格が1g当たり3,149円に引き上げられるが、ロシアによるウクライナ侵攻などによって特にパラジウムが高騰し、医療機関での金パラの購入額はこれを超えて赤字のままである。改定があっても赤字が解消されない異常事態だ。

 厚生労働省は、今次改定の附帯意見の中に、随時改定の見直し後の影響を検討することを盛り込まなかった。消極的である。まずは、7月の随時改定を待つことなく、早急な対応を図る必要がある。

 金パラの高騰で患者負担も増えるため、国が責任をもって金パラの配給を行うなどの対策を講ずるべきである。今次改定でレジン前装チタン冠が導入されたが、製作は鋳造に限られているため、鋳造欠陥が発生しやすい。粗悪な補綴物を提供できないため歯科技工士を悩ませている。また、チタンによるブリッジは保険適用外であり、レアメタルを含む金パラを使用することは、心も懐にも痛みを感じる。

 CAD/CAMインレーの導入も金パラの代替としての評価はするものの、金パラに比べ耐久性が劣る。再製作となればその分医療費が増えることや患者の信頼を損なうことに繋がる。

医科歯科連携や訪問診療の推進が小幅

 医科歯科連携では、総合医療管理加算の施設基準の廃止及び対象疾病にHIVを追加、ならびに医科が歯科に訪問診療を依頼する際の診療情報提供料()の加算の対象拡大などが行われた。しかしながら、総合医療管理加算の対象疾病の追加は1疾病のみ、さらに周術期等口腔機能管理料に関する推進策がないなど、改善は小幅である。

 訪問診療では、在宅療養支援歯科診療所2の施設基準の要件が引き下げられたが、訪問診療に取り組む医療機関を推進する策は示されていない。

総枠拡大をしなければ、歯科の展望は開けない

 今次改定で歯科改定率が0.29%と低値であったが、重要項目に十分な評価がされなかった。歯科が国民に果たす役割を発揮させるためには、相応の財源を確保した上で、評価の充実を行う必要がある。

 本声明は、歯科の低い改定率で不十分な評価がされていない問題を指摘し、根本的な問題である歯科医療費の総枠拡大を求めるものである。

 

2022年310

22回理事会

決議

 2022年度歯科診療報酬の歯科改定率は、僅か0.29%の引き上げに留まった。改定財源の確保のため、歯周基本治療処置、SPTⅡなどの点数の廃止ならびに点数の付け替えが行われた。今次改定では、院内感染防止対策をさらに推進するための初・再診料及び抜髄などの基礎的技術料の引き上げなど、個々では改善が図られているが、全体でみればとてもプラスを実感できる内容ではない。

 また、金銀パラジウム合金(金パラ)の原価割れの解消を目指し、歯科用貴金属価格の随時改定の仕組みが変更されるが、市場価格と保険償還価格の差額が発生するという根本的な問題は全く解消されていない。この不十分な対策をあざ笑うかのように、ロシアのウクライナ侵攻を起因としたパラジウムの著しい高騰を受け、既に多くの医療機関で原価割れに陥っている。適切な医療を提供するために公的資金を導入してでも価格の安定を図るべきである。

 一方、患者の受診状況は、コロナ禍も加わり、経済的な理由による治療の中断あるいは受診を手控える状況が多数起こっている。こうした状況の中、政府は今年10月から「75歳以上の医療費窓口負担2割化」を実施しようとしている。

 私たちは、診療報酬の引き上げとともに、患者負担増の中止及び患者窓口負担の軽減を求め、以下の事項を要望する。

一、歯科医療費の総枠拡大を行い、安心安全な医療を提供できるよう診療報酬を改善すること

① 歯科保険医の診療対価としての基礎的技術料を更に引き上げること

② 診療報酬の複雑すぎるルールを是正すること

 

一、金銀パラジウム合金の原価割れを公的資金導入により解消すること

 

一、「75歳以上の窓口負担2割化」の方針を撤回し、患者窓口負担を軽減すること

2022年3月 東京歯科保険医協会 新点数説明会

参加者一同

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)3月1日

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)3月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)3月1日 第624号

1面】

    1.初・再診料3点引き上げ/中医協 診療報酬改定答申(2月9日)

    2.パブリックコメント688件/半数が歯科医師/厚労省

    3.高点数個別指導開催求める/厚生局

    4.ニュースビュー

    5.「探針」

2・3面】

    6.2022年改定特集/歯科診療報酬改定のポイント

    7.歯科診療報酬2022年改定特設ページ/バナー

    8.談話「大多数の保険医はがっかりしている」/松島良次

【4面】

    9.経営&税務相談Q&A No.391

    10.マイナポータル「利用規約」を読み解く~3つの点に着目~

    11.春の共済募集キャンペーン(休保制度・グループ生命保険・保険医年金)

【5面】

    12.研究会・行事案内(2022年度診療報酬改定新点数説明会)

    13.電子書籍デンタルブック

    14.ご紹介ください!/組織部ご案内

    15.会員優待ご案内

【6・7面】

    16.インタビュー「ダイヤモンド・プリンセス号から学ぶ教訓」前厚生労働省健康局長・正林督章さん

【8面】

    17.中央社会保険医療協議会 個別改定項目/2022年診療報酬改定

    18.教えて!会長!!Vol.56「CAD/CAMインレー」

【9面】

    19.症例研究/大臼歯のチタン冠

【10面】

    20.連載/私の目に映る歯科医療界⑫(東洋経済新報社・大西富士男)過去に類なき異例事態が医療界で勃発

    21.理事会だより

    22.協会活動日誌2022年2月

11面】

    23.第50回保団連大会/総勢343名集う 文書・口頭発言は151件

    24.ネガティブな口コミへの対応策No.3/クレセル株式会社

    25.東京反核医師の会 総会開催

    26.高齢者の窓口負担 2割化中止を求め国会内集会開催

    27.乳腺外科医の裁判/最高裁が有罪判決破棄

    28.75歳以上窓口負担2割化の中止を/署名にご協力を

    29.法律相談、経営&税務相談

12面】

    30.通信員便り No.119

    31.神田川界隈/DXは何だろう?(岡田尚彦/世田谷区)

    32.濃厚接触者に抗原検査キット無料配布

    33.確定申告・個別相談会を開催

    34.保険医年金予定利率変更に伴う年金受給のご注意/保険医休業保障共済保険制度 改善のお知らせ

第115回歯科医師国家試験の合格者は1,969名

合格率は全体で61.6%

新卒のみは1,542名で77.1%占める

厚生労働省は316日、第115回歯科医師国家試験の合格者を発表した。試験そのものは本年12930日の2日間にわたり、東京都他7会場で実施されている。

◆合格者は2000名を割る

今回の歯科医師国試は、全体では出願者数3,667名(うち、新卒者は2,413名)、受験者数3,198名(同1,999名)、合格者数1,969名(同1,542名)となっており、合格率は全体で61.6%、新卒のみで見ると77.1%となっており、合格者数は2018年の第111回国試から2021年の第114回国試まで、4年続けて2000名を上回っていたが、ここに来て2022年の第115回国試は2000名を割る結果となった。また、全体の合格率は前回の64.6%よりも3.0ポイント低くなっている。

なお、今回の合格発表は、前回に引き続き、新型コロナウイルス感染症対策のため、厚労省2階大講堂での名簿閲覧は中止された。

◆女性の合格者

一方、合格者数を男女別に見ると、第115回国試は合格者1969人のうち女性合格者は904名で全合格者の45.9%を占めている。女性の占める率のみを遡ってみると、114回:42.0%、113回:42.3%、112回:42.5%、111回:43.0%となっており、第115回は過去5年間で最も高い比率で増加傾向を示している。

◆今回の国試の合格基準

なお、厚労省が明らかにしている今回の第115回国試の合格基準は以下の通りである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

115 回歯科医師国家試験の合格基準は、一般問題(必修問題を含む)を11点、臨床実地問題を13点とし、

① 領域A(総 論) 59点以上/ 99

② 領域B(各論106点以上/162

③ 領域C(各論131点以上/209

④ 必 修 問 題 64点以上/ 80

但し、必修問題の一部を採点から除外された受験者にあっては、必修問題の得点について総点数の80%以上とする。

※第115回歯科医師国家試験合格者発表に関する厚労省ホームページは以下を参照。

115回歯科医師国家試験の合格発表について.pdf

【教えて!会長!! Vol.56】CAD/CAMインレー

― 4月の診療報酬改定でCAD/CAMインレーが保険収載されますが。

坪田有史会長:本紙2・3面(※)に、2022年度診療報酬改定の主なポイントを掲載しました。その内容は、本稿の執筆時点と同じく、2月9日の中医協総会で「答申」が佐藤英道厚生労働副大臣に提出された段階のものです。なお、3月24日開催予定の第1回新点数説明会の前に本会会員に送付させていただく「2022年改定の要点と解説」を全国の協会・医会の担当者・事務局員とともに、現在、鋭意作成中です。今次改定の新規項目や変更点を分かりやすく解説し、会員の先生方の理解が深まる内容となるよう議論し、編集を進めております。今しばらくお待ちください。
なお、今次改定で新たに保険収載されるCAD/CAMインレーについて、すでに協会や私にも多くの質問が寄せられており、注目されている項目といえます。臼歯部1歯につき技術料は750点ですが3月上旬に保険医療材料、すなわちCAD/CAMインレー用に使用できるレジンブロックの材料料が通知されるため、現時点では合計点数は示すことができません。また、拘束力はありませんが、大臣告示(1988年5月)による歯科技工士の製作技術料7割、歯科医師の製作管理料3割からみると、歯科技工士への委託製作技工料は5250円となり、歯科医師側は2250円になります。歯科技工士に委託しないで歯科医師自身がレジンインレーを製作すれば、レジンインレーの複雑な点数が、改定後も材料料が同じと仮定すると、今次改定で220点(2200円)と同等になります。厚労省の担当者は、そこまで考えて技術料を決めているのでしょうか。
現在、特定保険医療材料の機能区分として、CAD/CAM冠用材料は小臼歯部、大臼歯部および前歯部により、ⅠからⅣまでに区分されていますが、CAD/CAMインレー用材料がどの区分のレジンブロックを使用できることになるかは、まだ分かりません。一方、すでに市販され、保険治療で使用されているCAD/CAM冠用のレジンブロックの複数製品の添付文書を調べると、多くの製品で使用用途に「インレーの歯冠修復物」の記載があります。すべての市販の製品は調べられませんでしたが、保険医療材料の多くの製品がすでに「インレーの歯冠修復物」として薬機法の承認を得ていると推測されます。

※参照=東京歯科保険医新聞3月号

― 関連する点数を。

坪田:3月の通知を待たなければいけませんが、歯冠形成は修形120点、あるいはKP「単純なもの」60点、「複雑なもの」86点、印象採得料は、連合印象で64点、咬合採得料は18点、装着材料料と現行のメタルインレーやレジンインレーと同じと考えられます。装着時の装着材料料は、歯科用合着・接着材料Ⅰ(接着性レジンセメント)になるので17点、装着料45点に加え、装着前に接着面に対して内面処理(アルミナ・サンドブラスト処理とシランカップリング処理)を行った場合、内面処理加算1.45点が算定できます。余談になりますが、この内面処理加算1は、今次改定でCAD/CAD冠、高強度硬質レジンブリッジ、そしてCAD/CADインレーのみで認められることになりますが、レジンインレー、硬質レジンジャケット冠の装着時にも通常行っている処理なのに、これらの修復物には算定が認められていない点には疑問があります。認めないのならば、その理由を明確に示すべきです。

― 窩洞形成での形成量はどうなりますか。

坪田:特定非営利活動法人日本歯科保存学会が医療技術評価提案書(保険未収載技術用)で「CAD/CADインレー修復」を作成し、昨年6月に日本歯科医学会から厚労省に提出されました。したがって、通称「学会ルート」による保険収載となります。その提案書には、「従来通りの間接法による2日法および口腔内スキャナーでの光学印象採得で行う1日法も可能である」と記載されています。すなわち、「CAD/CADインレー」と併せ、口腔内スキャナーによる光学印象採得の保険収載も希望した文章になっています。
ご質問の窩洞形成での形成量は「レジンインレーと同様にインレー歯冠形成を行い…」と記載されているのみです。レジンインレーに使用する材料よりも既存のCAD/CAD冠用レジンブロックの機械的強度は高いので、レジンインレーよりも形成量が少なくて済むことはあっても、増えることはないでしょう。なお懸念される歯髄症状に対しては、その対策として有効な象牙質レジンコーティングが、歯冠形成の生PZのみでの算定で、修形やKPでは算定できず、窩洞形成後に象牙質レジンコーティングを行っても無償サービスとなることは問題です。
歯学教育の教科書である「保存修復学21 第3版」(永末書店)のコンポジットレジンインレー修復の章には、「メタルインレー修復窩洞よりも深めに形成し、小窩部で1.5mm、インレー体に平均2mmの厚みを持たせる。特に、Ⅱ級窩洞ではイスムス部で破折しやすいので、十分な厚みを与える」と記載されています。なお今まで保険に新しい技術が収載された際は、日本歯科医学会から臨床指針が発表されています。したがって、4月の改定時前後にCAD/CADインレーの臨床指針が示されると思われますので、参考にしてください。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年3月号8面掲載)

ネガティブな口コミへの 対応策 No.3

WEBに係る歯科関連の法令やトラブル対応などについて、
歯科専門にサイト制作、運用、コンサルディングを手掛ける専門家が解説する本連載。
今回は「ネット上の口コミについて」の3回目―。

 Googleの口コミに書かれた悪評に、どう抗うかが今回のポイントです。
 一番良い方法は「気にしないこと」です。悪い口コミが多い歯科医院で盛況なところはいくらでもあります。口コミを見ないで医院を選ぶ方がとても多く、匿名の口コミを信用しないネットリテラシーを持った人も増えてきました。したがって、医院経営に一番メリットの多い対応方法は「気にしないこと」です。
 しかしながら、悪評口コミは医院運営者の精神を蝕みます。そこで、簡単にできる対応方法を解説いたします。Googleの口コミは「Googleマイビジネス」という店舗情報の管理画面から「返信」が可能です。悪評は情緒的で誇大表現をしている場合が多く、院内でそのようなことが行われていない旨を理路整然と説明し、その口コミを「ただのクレーマー」にすることができます。
 返信の最後には「誤解があるようでしたら一度医院へお越しください。納得いくまでご説明させていただきます」と書けば、その後のリアクションはなくなるどころか、その返信を見た第三者は診療所の真摯な姿勢を評価するのではないでしょうか。
 事実として、返信をこまめに誠実に書いている医院の口コミは概ね良い評価ばかりになっていきます。これは悪評対策でもあり、良い評価を集める表裏一体の方法と言えます。Googleの口コミは、慌てず気にせず、もし評価が気になるようであれば返信機能の活用がおすすめです。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2022年3月号11面掲載)

私の目に映る歯科医療界⑫ 過去に類なき異例事態が医療界で勃発/次期2024年度診療報酬改定も新事態に備えを

過去に類なき異例事態が医療界で勃発/次期2024年度診療報酬改定も新事態に備えを

◆界初認知症薬が大混迷米国でも保険適用がピンチに

最近、気になるニュースが2つある。一つは、アルツハイマー病(AD)治療薬「アデュヘルム」を巡る動きだ。ADの根本原因に働きかけ、症状の進行を遅らせると謳う薬剤としては、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration/略称「FDA」)から世界初の承認をもらった。昨年6月のことだ。

アデュヘルムは、「ブロックバスター(大型薬)間違いなし」との華々しい船出であったが、その後の混迷ぶりがすさまじい。

まず、欧州や日本では承認が否決、保留された。さらに米国でも、AD患者の大半を占める高齢者向け連邦政府保険の当局が、今年1月に保険適用に厳しい条件を付ける案を出した。臨床試験(治験)参加の患者に限るというものだ。

4月に予定される最終決定もこの通りになれば、年間320万円の高額薬(これでも当価格から異例の半額値下げの結果だが)のため、まず売れないことになる。「事実上、この薬は死んだ」という声さえ市場では出ている。 

米国の連邦政府内で、薬の承認当局と保険償還を決める役所で判断が真逆の方向になる異例の事態が生じているわけだ。

この混乱の原因は、承認申請に使ったこの薬の臨床試験(治験)での有効性データが不確かだったことにあるのだが、その背後には、①膨大な患者とその家族の窮状を救うこと、②薬事承認・保険償還での科学的エビデンスの確保、③保険財政への巨大インパクトとの折り合いをどうするのか―など、極めて現代的かつ社会的課題が存在している。

◆保険適用除外も検討課題?製薬団体トップが異例の発言

「おやっ」と思ったのはもう一つ。今年1月の日本製薬工業協会(製薬協)の岡田安史会長の「公的保険給付範囲の見直しに関する国民的議論が必要」との発言だ。医薬品の保険償還対象を狭めることも検討に値する、というものだ。

1個社ではなく、製薬団体のトップが、自らの権益縮小につながりかねないことに踏み込むのは、これまでは一種の〝タブー〟だった。超異例発言である。

その背後には、少子高齢化が山場を迎え、構造的に膨らむ日本の医療保険財政問題がある。診療報酬改定で、医科・歯科・薬局に比べさらにきつい寒風にさらされるのが製薬業界の定位置だ。すでに、薬価改定の毎年実施も始まっており、最近は、後発薬や特許切れ先発薬(長期収載品)の引き下げはある程度甘受しても、利益柱の特許新薬の薬価だけは死守しようという姿勢が製薬業界トップには見え隠れしていた。

しかし、ここからさらに踏み込んで来たため、追い込まれている業界事情をさらに強く感じさせる出来事となった形だ。

中医協の2022年度診療報酬改定の答申の付帯意見にも「保険給付範囲の在り方等への議論」の検討が盛り込まれた。製薬団体のトップの発言も背景にして、次回の2024年度改定に向け本格論議に発展するとの声も出始めている。

◆財務省が垣間見せる診療報酬改定の基礎資料変更

この2つの例を持ち出したのはほかでもない、医療界、それも先進国に共通して現在進行している事情、すなわち、高齢化に伴う公的医療財政の膨張という難題を背景に、過去の延長戦にとどまらない事態が生じている、ということを知ってほしかったからだ。これは歯科医療界においても(医科も薬局もだが)他人事でない。

2022年度診療報酬(本体)は昨年末に決着した。その結果も厳しかったが、その結果以上に、さらに将来の厳しさを感じさせたのが、決定に至るまでの過程だ。

公的医療財政膨張阻止に向け、財務省は「本体報酬のマイナス改定」に猛攻勢をかけて来た。

個人的に気になったのは、「医療経済実態調査」(以下、「実調」)に財務省が矛先を向けて来たことだ。実調は2年に1回、厚生労働省がこの診療報酬改定に合わせて全国の病院と一般診療所、歯科診療所、保険調剤を行っている保険薬局についてサンプル調査を実施。その集計結果に基づいてまとめるもので、現時点では医療機関の経営状況を示す唯一の総合的なデータだ。

厚生労働省や医療機関は、診療報酬本体の引き上げ要求にあたり、この実調データを使っている。

今回、この実調について財務省は、①サンプル調査数の乏しさ、②サンプル先が入れ替わることによる経年的把握の困難さ、③サンプルのバイアス・統計的な有意性―など、様々な問題点を指摘し、診療報酬改定に向けた基礎資料としての適格性に疑問を提起している。データとして痛いところを突いているとともに、過去に類のない異例の事態だ。

財務省資料が挙げる一例では、実調の診療所のサンプル数は診療所全体の20分の1、有効回答率56.2%を掛け合わせると診療所全体の2.8%のデータしか捕捉していない。歯科診療所も同様に全数の1.1%の捕捉率だ(ともに平成29年調査)。医療機関全体の状況を正確に示しているとはいえず、実態と乖離がある、というのが財務省の主張だ。

代わりに財務省が推すのが「医療法人事業報告書等」というデータだ。医療法人全数を対象に、毎年届け出義務のあるデータを基にまとめた資料だ。これなら確かにサンプルバイアスはなし、経年比較もでき、診療報酬改定などの病院等経営への影響も、より正確に捕捉しうる。厚労省はこのデータの届け出や公開(閲覧)でのデジタル化を進めている。財務省はこのデジタル化を間に合わせた上で、医療法人事業報告書等を次期2024年度診療報酬改定の基礎資料にしようという狙いを垣間見せている。

歯科医療界はこれにどう対処するのか。どう診療報酬改定にこれが影響するかの見通しを持っているのか。今から考えておく必要があるのではないだろうか。

東洋経済新報社編集局報道部記者 大西富士男

「東京歯科保険医新聞」202231日号10面掲載

 

新型コロナウイルス感染症は 転換期を迎えている Special Serial No.1

当たり前と思っていた「日常」を「昨日の世界」に変えてしまった新型コロナウイルス感染症(COVID―19)は、私たちの「明日」と「未来」をも奪うのであろうか・・・。岐路に立たされている「現在」において、このウイルスの特性や感染力、各種の検査、日本の感染状況、そして出口戦略などの様々な側面について、医師で保健所長として豊富な経験と知見を持ち、現在は社会保険診療報酬支払基金理事を務める山本光昭氏にご寄稿いただく。

日本国内の初感染事例は2020年1月

新型コロナの日本国内での初感染事例は2020年1月に確認された中国からの観光客を乗せたバスの運転手で、同年2月には国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるとして感染症法の指定感染症とされた。中国の武漢で発生した当時、感染者の約5%が亡くなると言われ、空気感染もあるのではと感染経路も必ずしも明らかではなく、致死率の高い恐怖の感染症と考えられたためである。

当時と現時点における「致死率」の比較

上記の表は、公表データより各時点における累計者数を確認し、ある期間の新規死亡者数を同期間の新規感染者数で割るということで、筆者が独自に算出してみた東京都における致死率の推移である。個々の症例の転帰から算出したものではないが、2020年4月に東京都で初めての緊急事態宣言が出された期間の致死率は約6・5%とほぼ武漢なみとなっているが、その後の緊急事態宣言以降は、新規感染者数に対する新規死亡者数の割合(致死率)は激減し、オミクロン株の流行が始まった2022年1月以降では、約0・06%である。
このように致死率が下がってきた要因は、検査体制の拡充により陽性者の把握がかなり実数に近づいてきたことと、ワクチンの開発とともに治療法が確立し重症化や死亡者を減らすことが可能となってきたためと考えられる。

恐れることなかれ ただし侮ることなかれ

この2年近くの保健所における疫学調査により、感染の主たる経路も、会話などで唾液が飛び散り、それを吸い込むことによる感染が圧倒的に多いことがわかり、接触に関しては感染経路でありうるが、空気感染に至ってはかなり可能性が低い。また、診療や研究開発の知見の膨大な蓄積により、ワクチンや抗ウイルス薬の開発、重症化へのリスク評価法やステロイド薬の投与など重症化予防や治療法も確立してきた。
すなわち、致死率が高く、予防法も治療法もよくわからないという発生当初の状況からは大きく変わってきている。新型コロナウイルス感染症は、もはや「恐怖の感染症」ではなく、社会経済活動を正常化しながら、「恐れることなかれ、ただし侮ることなかれ」という転換期を迎えているといえよう。
次回以降、日本をはじめ世界も含めて、新型コロナウイルス感染症の感染予防対策やPCR検査などに対する誤解、わが国における今後のあるべき戦略などについて、解説していく。

 

 

感染拡大抑制のための社会的介入 新規感染者数 新規死亡者数 致死率
第1回 緊急事態宣言期間
(2020年4月7日~5月25日) 3,941人 257人 約 6.5%
第2回 緊急事態宣言期間
(2021年1月8日~3月21日) 45,918人 962人 約 2.1%
第3回 緊急事態宣言期間
(2021年4月25日~6月20日) 33,903人 321人 約 0.9%
第4回 緊急事態宣言期間
(2021年7月12日~9月30日) 193,276人 664人 約 0.3%
今回 オミクロン株による感染拡大
(2022年1月1日~2月23日) 558,222人 352人 約 0.06%

山本光昭(やまもと・みつあき)
前 東京都中央区保健所長 / 現 社会保険診療報酬支払基金 理事

1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、2015年7月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。

金・パラジウム等の価格が高騰

国内の金の価格が、過去最高値を更新している。田中貴金属工業は2月28日、金小売価格の指標となる1グラム当たりの販売価格(税込み)を前週末より20円値上げして7847円と決めた。

またパラジウムも高騰している。パラジウムは産出量の4割をロシアが占めており、1月には価格が2週間で2割超上がっている。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に絡み、各国がロシアに対し措置を講じることと、それに対抗してロシアが核戦力をちらつかせていることが不安視され、金やパラジウムをはじめ、様々なコモディテー価格が高騰している。

医学部合格率、初めて男女逆転 国公私立大の半数超で

 文部科学省は、2021年度の大学医学部(医学科)入学者選抜における合格率を発表。女性が13.60%、男性が13.51%で、データが残る13年度以降で初めて女性の合格率が男性を上回った。調査対象は、医学部医学科を有する全国81校の国公私立大学。合格率が女性の方が高かったのは、北海道大学、名古屋大学、広島大学、長崎大学など42校で対象校の半数を超えた。

 18年に女性の受験生に対する入試差別が発覚した後、文科省は2012月に医学部の男女別合格率を毎年調査することを決定。19年度は男性12.11%、女性11.37%、20年度は男性12.56%、女性11.42%と推移していた。

東日本大震災から11年~被災者支援の現在地~

 間もなく迎える3月11日、東日本大震災からは11年の時が経とうとしている。依然として復興への道のりは長く、全国の避難者数は3・9万人(復興庁発表、1月28日現在)にのぼり、福島第一原子力発電所の廃炉作業、避難指示が解除された地域への住民の回帰など、課題は山積している。

 昨年3月末、住民税課税世帯に対する医療費免除制度の期限を迎えた。非課税世帯についても同年12月までで制度が終了した。延長されていた国民健康保険や後期高齢者医療保険、協会けんぽ他の加入者のうち、原発事故により現に帰還困難区域に指定されている人などを対象とする免除措置についても、今年2月28日までとしている。

 被災者の生活再建にあたり、経済的負担を軽減させること、十分な医療を受けられる環境を整えることは、決して疎かであってはならない。

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)2月1日

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)2月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)2月1日 第623号

1面】

    1.歯初診・歯援診・か強診の施設基準 見直し/1.26中医協

    2.中医協公聴会 感染防止対策 麻酔の評価を/1.21中医協

    3.高点数による「個別指導」0件/関東信越厚生局

    4.事業復活支援金案内

    5.ニュースビュー

    6.「探針」

2面】

    7.中医協 P基処廃止 歯初診の要件変更等へ/1.14中医協

    8.厚労省 パブリックコメントを募集/次期診療報酬改定に関する意見

    9.中小法人・個人事業者のための事業復活支援金の概要/中小企業庁・経産省

3面】

    10.中医協 CAD/CAMインレー 口腔バイオフィルム検査 保険収載/1.19中医協

    11.2021年分確定申告のポイント/税理士 櫻木敦子

4面】

    12.経営&税務相談Q&A No.390

    13.教えて!会長!!Vol.55

    14.法律相談

5面】

    15.研究会・行事案内

    16.電子書籍デンタルブック

6・7面】

    17.中央社会保険医療協議会 個別改定項目/2022年診療報酬改定

【8面】

    18.インタビュー 日本歯科医療管理学会・尾﨑哲則さん「『医療安全』と『地域連携』の構築が活動の柱」

9面】

    19.症例研究/睡眠時無呼吸症候群の口腔内装置

10面】

    20.連載/私の目に映る歯科医療界⑪(東洋経済新報社・大西富士男)24年度が正念場の診療報酬改定

    21.理事会だより

    22.協会活動日誌2022年1月

11面】

    23.75歳以上の窓口負担2割化へ/医療制度改革関連法

    24.次期診療報酬改定に向けて理事部員政策学習会を開催

    25.オミクロン株急拡大/東京都「まん延防止」適用

    26.「歯科衛生士の雇用」歯科衛生学科講師が解説/経営管理研究会を開催

    27.共済部だより

    28.ネガティブな口コミへの対応策No.2/クレセル株式会社

12面】

    29.医療経済実態調査に提言/歯科診療所の感染対策を訴え/第5回メディア懇談会

    30.神田川界隈/何かと難しい今、患者トラブルと主治医の使命(川本弘/足立区)

    31.通信員便り No.118

    32.「保険医の経営と税務」発刊

    33.会員優待サービス

【教えて!会長!! Vol.55】パブリックコメントの報告

― 1月14日からパブリックコメントの募集があったそうですが。

坪田有史会長:2年ごとの診療報酬改定が実施される年に、中央社会保険医療協議会(以下、中医協)からパブリックコメントの募集(意見公募)が行われます。今回も1月14日付で中医協からの募集要項が厚生労働省のホームページに掲載され、電子メールで1月14日〜21日と約1週間の期間に提出するように示されました。これは中医協で2022年度診療報酬改定に向けて議論されてきた改定の基本方針や内容について、医療関係者や患者をはじめとしたすべての国民が、意見できる機会を与えられているのです。国民である我々が正式なルートで、中医協の議論の内容について、自分の意見を中医協や行政側に直接言えるのは、パブリックコメントの提出が唯一の機会といっていいでしょう。しかし、健全な民主主義を掲げる我が国にとっては当然のこととはいえ、周知方法、募集期間・方式など、すべての国民に低いハードルで広く意見を募集しているのかは、少々疑問があります。
協会は、1月14日の募集要項の発表を待って、同日の夜8時過ぎにデンタルブック・メールニュースで会員の先生方にパブリックコメントについての詳細な情報を配信し、意見の提出をお願いしました。メールには、「現場からの声をパブリックコメントとして提出してください。改定への意見をあげることができる最後のチャンスです。1件でも多く意見を出せば、反映される可能性は大いにあります。ぜひパブリックコメントをお出しください」と記載いたしました。
協会では、全国組織の保団連とともに会員の声を国会議員や行政側に伝えるため、署名活動を行っています。活動をご理解のうえ、毎回たくさんのご協力をいただき心から感謝しています。国民や歯科業界にとって、歯科医療の様々な問題に改善要求を行う署名活動も重要なツールです。一方、診療報酬改定時のパブリックコメント提出も非常に重要な位置付けと考えています。すでに提出していただいた会員の先生方に感謝申し上げるとともに、今回は提出できなかった先生方には、2年後の機会にぜひお願いしたいです。

― では会長が提出した内容について教えてください。

坪田:私は、全部で10本のパブリックコメントを提出しました。紙面の都合で、すべては紹介できませんが、参考までに下記にて、いくつか概要をお示しします。

・現在の院内感染防止対策の評価は全く十分ではないため、実際の院内感染防止対策のコストにか
 かる調査を多施設で行った上で、その結果と相当な評価を基本診療料で評価されなければならな
 い。裏付けのない評価には反対する。
・国民の健康ならびに将来の歯科において、歯周病安定期治療および歯周病重症化予防治療は重要
 な項目であるため、歯科保険医療機関が取り組みやすく継続しやすい要件と評価にするととも
 に、同一初診内の1回のみといった算定回数の制限を緩和するべきである。さらに、同項目の重
 要性を広く国民に周知をする必要がある。
・歯周基本治療処置(P基処10点)の廃止により、歯周基本治療処置の所定点数を基本診療料に包
 括するならば、従前の歯周基本治療処置の所定点数に相当する額を基本診療料に加えるべきであ
 る。
・歯科用金銀パラジウム合金の随時改定は、中医協で示された論点に加え、実際には歯科医療機関
 は市場価格で歯科用金銀パラジウム合金を購入している。したがって、素材価格を参考にした随
 時改定を行うことは全く理解できず、市場価格を参考に改定を行うべきである。

             東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年2月号4面掲載)

ネガティブな口コミへの 対応策 No.2

WEBに係る歯科関連の法令やトラブル対応などについて、
歯科専門にサイト制作、運用、コンサルディングを手掛ける専門家が解説する本連載。
前回に引き続き、ネット上の口コミについて―。

 前回お伝えした通り、ネット上の口コミを削除するためには次のようにいくつかの方法があります。
(1)Googleへ削除依頼を申請し、受理してもらう
    →参照:ネガティブな口コミへの 対応策 No.1
(2)投稿者自身が削除する
(3)法律の専門家からGoogle、もしくは投稿者へ削除要請を行う
 (2)については当然ですが、書き込んだ本人が削除すればその口コミは消えます。しかし、この仕組みを利用して、まず悪評を書き込み、数週間から半年程度の間に「おたくの悪評を削除します」と営業電話やメールを送ってくる悪徳業者が後を絶ちません。一度サービスを利用すると定期的に悪評を書き込み、その都度、料金が請求されることになります。
 実際問題として、口コミを削除するには(1)(2)(3)のどれかしかありません。ネット上には、口コミを削除することを名目に2021年8月の段階で平均価格50万円以上の削除サービスが横行しています。しかし、歯科診療所に降りかかる大きなリスクを隠し、倫理的に問題がある方法で対策を行っている場合がほとんどです。
 口コミを削除するために、まず(1)の削除依頼を行い、削除されない場合(3)の法律の専門サービスの利用という流れが一般的です。それでも削除できない場合は「悪評を逆手にとって、診療所の取り組みをPRする」という手法があるので、次回お話します。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2022年2月号11面掲載)

私の目に映る歯科医療界⑪ 2024年度が正念場の診療報酬改定/金パラ公的価格改定は抜本改革の旗下すな

2024年度が正念場の診療報酬改定/金パラ公的価格改定は抜本改革の旗下すな

2022年度診療報酬改定は、診療報酬本体がプラス0.43%で決着した。薬価改定等と合わせた合計値はマイナス0.94%となった。

看護師等の処遇改善分0.2%、不妊治療の保険適用0.2%などを除く、いわゆる本体真水で、プラス0.23%を確保できたため、財務省が狙った「真水」のマイナスという最悪の事態は免れた。しかし、その内実は医療機関側には厳しいものだ。

処遇改善分は用途限定だ。不妊治療の保険適応分も、従来の助成事業分が置き換わっただけだ。これらに加え、リフィル処方箋導入等による効率化に伴うマイナス、小児の感染防止対策加算の廃止によるマイナスを除外した部分を「真水」と称しているが、この2つによりすべての医療機関の受け取り分が減ったわけだから、医療機関が純粋に経営改善に使える本体改定は、わずか0.03%(0.43%から処遇改善と不妊治療保険適用分の合計0.4%を差し引いた数値)というのが実態に近い数値である。

Ⅰ.2025年問題直前の圧力増は必至2024年度改定対策は今から開始を

今回の改定は、真水のマイナス改定にはならなったものの、財務省は究極の目標に向け前進した。その一方で、医療機関側は一歩後退したといえる。

今回の結果は、日本医師会の横倉義武前会長時代における本体改定率の平均値0.42%を意識した「岸田文雄首相の高度な政治的落としどころ」という、うがった見方があるが、どうであろうか。

厚生労働省の理論武装力、中川俊男現会長下の日医や厚労族議員の政治力が物を言ったという声は聞かない。推測の域を越えるものではないが、自民党にとっては、今夏に控えている参議院選挙での医療機関側からの協力への期待が、今回の決着の背後にあるというのが、意外に真実なのかもしれない。

自民党が参議院選を乗り切れば、2025年秋の任期満了に伴う衆議院選挙まで選挙なしとなれば、2年後の2024年に予定される次期診療報酬改定がどうなるのか。おり悪く、団塊世代の後期高齢者入り完了が25年に控えており、さらに厳しい環境が待ち構えていることは確実である。

財務省の圧力が増すのも必至。果たして、本体真水を死守できるか。そのための準備を早める必要があることは、言うまでもない。

◆医療機関経営の窮状を国民に伝える活動を

しかし、医療機関経営の厳しさが国民に伝わっているとは言えない。まして、それが国民の生命・健康に直結する良質な医療サービス提供にどう影響するのかについては、肌感覚でさえ理解していないのが実際であろう。

であれば、これを知らしめる有効な活動を展開することが、今まで以上に大事になってくるはずだ。

Ⅱ.事務局案では素材高騰時でも公定価格は僅少な上昇どまりに

中医協で歯科医療界固有の重要懸案事項である歯科材料・金銀パラジウム合金(金パラ)、いわゆる「銀歯」の公定価格改定ルールを巡り、昨年1222日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、事務局(厚労省保険局医療課)から提案があった。

4回の随時改定時について、①公定価格改定をするかどうかの基準となる価格変動幅、②改定の基になる平均素材価格をいつの時点までの数値を使うかの2点に絞り込んで、事務局が実際の公定価格に関する5パターンの試算数値を112日の中医協総会の際、各委員に示し、協議・検討が行われた。

このうち、まず、変動幅⑴では、Ⓐ現状の5%(4月、10月の随時改定)、15%(7月、1月の随時改定)、Ⓑ一律5%、Ⓒ一律0%(平均素材価格が動けばそれを年4回改定時に公定価格に反映させる)の3通りの考え方が提示された。

次に、反映させる価格時点⑵では、Ⓐ現状の3カ月前までの過去3カ月平均価格、Ⓑ2カ月前までの3カ月平均価格―の2通りの考え方が提示された。

2カ月前までの素材の3カ月平均価格を基に、変動幅0%で公定価格を年4回見直すことが中医協での大きな流れの方向のようだ。

ただ、下記グラフを見ていただきたいのだが、令和22020)年度からの2年間の例でいえば、歯科診療所がもらえる総額は、一番多くなる2カ月前までの価格を基に、一律0%基準で年4回公定価格算出パターンでも試算値で64245円。現状公定価格(の総額62649円の2.5%増に過ぎない。

Ⅲ.抜本改革に向け粘り強く公的議論継続を要求すべし

変えないよりはまし、一歩前進という見方もあるだろうが、パラジウムなどの価格急騰期の「逆ザヤ」に苦しんだ歯科医師の現場感覚からは、これでは問題が抜本的に解消するという実感は持てないのではないか。 

今後、直近2年間と同じ貴金属の高騰が起き(起きない保証はない)、事務局提案に基づいた方向でルール改正が行われた場合(この可能性が高いようだ)、現状比2%台半ばの改善しか手にできないのである。

議論の出発点であった制度設計の抜本的再構築から議論は大きく逸れ、後退してきたのが実情だろう。年4回に限定されてきた随時改定の頻度は、結局、現状通りに戻ってしまった。公定価格に反映させる価格時期についても、直近3カ月前までから2カ月前までに1カ月だけ近づけただけだ。

それまでの3カ月間の素材平均価格と、その前3カ月間の平均価格の差額を公定価格の変動幅にする現状の方式を温存したままでは、急激な価格変動を迅速に公的価格に反映させることは不可能だ。抜本的な制度改革を放棄したのも同然だ。

1カ月前の素材の実勢価格を基に公定価格を毎月見直すのが、一番理想的な解決策だろう。それができないというのならば、厚労省はその理由を開示する義務がある。

歯科医師を代表する各団体は、抜本的な解決に向けて、今後も継続して議論する公的な場の設置を要求し続けるべきだろう。

 東洋経済新報社編集局報道部記者 大西富士男

「東京歯科保険医新聞」202221日号10面掲載

2022年度診療報酬改定 新点数説明会

 

2022年度診療報酬改定では、「歯科点数表の初診料の注1に規定する施設基準」や「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」の施設基準の見直しなどが検討されています。また、CAD/CAMインレーなどの保険収載も予定されています。協会では、適切な情報提供を行うべく説明会を開催します。今回は感染対策を目的に「動画配信」します。なお、会場席もご用意します(完全予約制)

日 時 

第1回「改定の要点」3月24日(木)午後6時30分~9時00分(予定)

*ライブ配信を行います。なお、328()頃から動画配信(オンデマンド配信)も行います。

第2回「改定の要点」3月29日(火)午後6時30分~9時00(予定)

*第1回と内容は同じであるため、動画配信(オンデマンド配信)は行いません。

第3回「在宅医療」4月20日(水)午後6時30分~9時00(予定)

425()頃から動画配信(オンデマンド配信)を行います。

第4回「保険請求時の留意点」4月26日(火)午後6時30分~9時00(予定)

52()頃から動画配信(オンデマンド配信)を行います。

ライブ配信・会場参加のWEB予約は、31()頃に東京歯科保険医協会ホームページ内「歯科診療報酬 2022年改定特設ページ」でご案内いたします。

公開中(新点数説明会 申し込みフォームは3月1日頃より受付開始)

 

 

日本学術会議が「歯学分野におけるジェンダー・ダイバーシティ」めぐり公開シンポ開催

日本学術会議はこのほど、公開シンポジウム「歯学分野におけるジェンダー・ダイバーシティ~課題と展望について~」をオンライン開催した。

総合司会は日本学術会議連携会員で北海道大学大学院歯学研究院教授の樋田京子氏が務め、開会挨拶は、市川哲雄氏(日本学術会議第二部会員、歯学委員会委員長、徳島大学教授)と住友雅人氏(日本歯科医学会連合理事長、日本歯科大学名誉教授)の2氏が行った。

シンポジウム座長は前述の樋田京子氏と日本歯科医学会連合副理事長で東京医科歯科大学名誉教授の川口陽子氏が務めた。講師は、①熊谷日登美氏:日本学術会議会員二部会員、第二部生命科学ジェンダー・ダイバーシティ分科会委員長、日本大学生物資源科学部教授、②樋田京子氏:前出、③久保庭雅恵氏:大阪大学大学院歯学研究科准教授、④田村文誉氏:日本歯科大学口腔リハビリテーション科教授―の4氏が務めた。

シンポの中では、世界経済フォーラム(WEF)が発表している2021年のジェンダーギャップ指数を見ると、日本は世界156カ国中120位で、主要7カ国(G7)では最下位となっていること。また、科学技術学術分野の男女共同参画についても、大学における女性研究者支援を軸とする政策が開始されてから15年近く経過するにもかかわらず、女性研究者の割合は先進国の中で最低であることなどを問題視する意見が続いた。特に歯学領域については、近年は女子学生の割合が増加し、中には50%に達している大学もあり、博士課程修了者の数も年々増加しているにもかかわらず、依然として女性教員の数、特に教授職など上位職における女性の割合は医学部に比べても顕著に低いこと、学会や歯科医療団体で役員につく数も少ないことなどが指摘された。そして、日本の歯科医療や歯学研究が国際的に高いレベルを維持し、発展するためには、人種性別を問わず優秀な人材を集めて育成し、活躍の場を提供することが重要であることなどの発言があった。

 

◆今後予定されている公開シンポジウム

なお、メディアなどではあまり紹介される機会がないようであるが、日本学術会議では、20222月以降、以下の公開シンポジウムの開催を予定しており、新型コロナウイルス感染症対策も遵守された開催方式となっている。内容などの詳細は、日本学術会議のホームページをご覧いただきたい。

◆テーマ「移植・再生医療の現在の課題」

開催日2022/2/14(月)13:3016:00 ⇒ オンライン開催

◆テーマ「子どもの毒性学:子供の高次脳機能への化学物質曝露影響の把握に関わる、臨床、応用および基礎科学の現状と展望」

開催日2022/2/19(土)13:0017:20 ⇒ オンライン開催

◆テーマ:日本学術会議in福岡/学術講演会「若手研究者が考える地方創生と学術の未来」

開催日2022/2/23(水・祝)14:0017:25 ⇒ オンライン開催

◆テーマ「生活に身近なOne Health:食品から検出される薬剤耐性菌の現状」

開催日2022/2/26(土)13:3015:30 ⇒ オンライン開催

◆テーマ「生物多様性からみたワイルドサイエンス」

開催日2022/2/26(土)13:3017:00 ⇒ オンライン開催

◆テーマ「第7回理論応用力学シンポジウム-力学のさらなる発展に向けて-」

開催日2022/3/11(金)13:0017:00 ⇒ 日本学術会議講堂及びオンライン(ハイブリッド形式)

◆テーマ「世界の高大接続の現状と課題」

開催日2022/3/12(土)14:3017:00 ⇒ オンライン開催

◆テーマ「安全安心技術が支えるディジタル社会 Digital Society Supported by Safety and Security TechnologiesDS4T)

開催日2022/3/14(月)13:0018:00 ⇒ オンライン開催

◆テーマ「複合的アプローチで拓く新規フードサイエンス」

開催日2022/3/18(金)16:0018:30 ⇒ オンライン開催

◆テーマ「生命科学分野におけるジェンダー・ダイバーシティ」第3回「Disability Inclusive Academia:障害のある人々の視点は科学をどう変えるか」

開催日2022/3/23(水)13:0016:05 ⇒ オンライン開催(※手話通訳と文字通訳あり)