長期維持管理政策の歴史 vol.3

「か初診」の登場とその後

前回は、2000年診療報酬改定で登場した「か初診」(かかりつけ歯科医初診料)の算定要件等と、その後、橋本龍太郎元首相への献金問題を経て2006年度改定で「か初診」廃止
に至るまでの経緯を紹介した。
ところで、「か初診」導入時の2000年から2002年に向けては、膨張する医療費をどうするのかが政権のテーマとなり、混合診療が取り上げられた時期でもあった。歯科では、従来から補綴の金属床総義歯と歯冠修復物に関しては特別な料金(自費)と認められていた。歯周病に関してP特養が医療保険の特定療養費(保険)に適合するかどうかが厚労省医療保健福祉協議会作業委員会で検討され、「継続的な治療管理は保険診療特定療養費の活用」との報告がなされ、中医協の診療報酬基本問題委員会でも「再発抑制に必要なセルフケアを継続して行く上での指導管理の評価」が議論の中心となり、この流れの中で「か初診」廃止後はこの保険者主導の長期管理路線が以降改定ごとに少しずつ取り入れられて来ていると言える。

月に1回 基本治療あり 基本治療なし
1~9歯 310点 210点
10~19歯 450点 270点
20歯以上 620点 360点


2002年4月、日本歯周病学会は「治癒と病状安定」の考えの流れを示すフローチャートを発表し、2002年4月の診療報酬改定では、メインテナンスに係わる総合評価として「歯周疾患継続治療診断料100点」が新設され、1~3カ月間隔で再診時に歯周組織検査・歯周基本治療・指導管理を行った場合に歯周疾患継続総合診療料として表1を算定する取り扱いとなった。
2005年は、小泉純一郎首相による衆議院の電撃解散によって小泉劇場の幕が切って落とされた。基本政策は当時の英国のサッチャー政権と同じ小さな政府であり、構造改革路線の延長として「財政再建」を打ち出した。その中の一つが「医療制度改革」であり、これを受けて厚労省は2005年10月19日、「医療制度構造改革試案」を発表、2025年に向けての医療費の伸びの削減方向を示した。その中で短期的な方向として、①公的保険給付の内容・範囲の見直し、②診
療報酬改定―の2点を挙げた。政府は2005年12月1日、「医療制度改革大綱」を決定。すでに廃止の憶測が流れていた「か初診」は、2006年4月の診療報酬改定で廃止された。しかし、長期維持管理路線=「か初診路線」が強化される方向は変わらなかった。
マスコミは、「医療は高コスト」と表現するが、当事者の我々からすれば、日本の医療は低報酬・低コストであり、先進諸国と比較してもGDP比最低である。良質な医療を低コストで提供しているのが日本であると、WHOも認めていた。
2008年4月改定の中で政府は、「質の高い医療を効率的に提供すための視点」と180度転換、「歯科医療の充実について」との記述が加えられた。その主たるものは2007年11月の日本歯科医学会の「歯周病の診断と治療に関する指針」の発表に基づくもので、分かり易いフローチャートも発表された。その内容は表2のように、管理料の大行列となった。

 

中川勝洋
東京歯科保険医協会 第3代会長、協会顧問

なかがわ・かつひろ:1967年東京歯科大学歯学部卒業、1967年桜田歯科診療所開設、1981年東京歯科保険医協会理事、昭和大学医学部医学博士授与。1993年協会副会長、2003年協会会長、2011年協会会長を辞し理事に。2022年理事を勇退し協会顧問に就任。