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歯科専門職の資質向上検討会を設置/11月28日厚労省

厚生労働省は11月28日、第1回「歯科専門職の資質向上検討会」(座長:日本歯科大学の大塚吉兵衛総長))を同省内の会議室で開催した。この日の初回会合では、①歯科衛生士法の一部改正:歯科衛生士国家試験)、②歯科技工士法の一部改正:歯科技工士国家試験、③歯科医師臨床研修―などをめぐり協議・検討が加えられた。
  会合では、まず医政局歯科保健課の小椋正之課長補佐が説明に立ち、①会の設置の目的、②想定される主な検討内容、構成、③検討会の運営―などについて報告。特に①については、「基礎疾患をもつ高齢者の歯科診療の受診機会増加、在宅歯科のニーズの増加など、国民が求める歯科サービスが高度化・多様化しているため、より安全・安心な歯科医療の提供が求められる」とした。さらに、それらを踏まえた形で具体的な目的を掲げ、「歯学教育モデル・コア・カリキュラムや歯科医師国家試験制度改善検討部会報告書等を踏まえた到達目標等の歯科医師臨床研修制度の見直し」「歯科技工士国家試験等の在り方や出題基準等の検討を行なう」をあげた。
  一方、歯科医療を取り巻く状況に関しても言及し、「要介護高齢者等の誤嚥性肺炎や低栄養を予防する上で、専門的口腔ケアが重視されている。また、生活習慣病でも歯科との関係が指摘されている。臨床現場面でも、歯科衛生士が関係する診療報酬、介護報酬における項目が増加しており、その対応が急務であり、歯科衛生士の求人倍率は高く、その質の高い歯科保健対策の提供が必要とされているとともに、人材確保等対策が求められている」との認識を提示。その具体策としては、

 ◆歯科衛生士法改正:歯科医師国家試験または歯科医師国家試験予備試験を受けることができる者を追加したい。

 ◆歯科技工士法改正:国が作成する旨に法改正を行いたい。ワーキンググループを設置する。

 ◆歯科医師臨床研修推進検討会の見直し:歯科技工士の統一試験と同様に、歯科医師ワーキンググループ(WG)を設置して、さらなる論議を行う。

  なお、今後は、平成25年夏頃:平成26年度予算要求に反映可能なものは対応、必要に応じてWGを開催(5~6回前後)、平成26年春頃:意見書取りまとめ、医政局長へ答申する予定だ。

衆院選で歯科医師4名が当選

 去る16日、衆議院総選挙投開票が行なわれ、すでにご承知の通り、各党別に見た当選者は、①自民党294名、②民主党57、③公明31、④維新54、⑤みんな18、⑥未来9、⑦共産8、⑧社民2、⑨国民新党1、⑩新党大地1―という状況となった。これにより、自民党は公明党と連立すると325議席を獲得し、前議席数の2/3を超える状況となった。
 今回の選挙では、歯科医師として立候補したいわゆる“歯系議員”候補には以下の9氏が立候補した。

◆民主党:太田順子(東京11区)、島田ちやこ(埼玉7区)

◆自民党:白須賀貴樹(千葉13区)、比嘉なつみ(沖縄3区)、渡辺孝一(比例北海道選挙区)

◆日本維新の会:川口浩(東京13区)、小山憲一(愛知5区)、新原秀人(兵庫3区)、

西峰正佳(奈良3区)

◆未来:水野智彦(愛知6区)

 このうち、晴れて当然を果たしたのは、自民党の白須賀(東歯大卒)・比嘉(福岡歯大卒)・渡辺(北海道医療大卒)の3氏、および日本維新の会の新原氏(阪大歯学部卒)のあわせて4氏となっている。自民党の選挙プランナーは、白須賀衆院議員について「議員として良い印象の人物だと思います。若いし爽やかなイメージを出しているのも一つの武器。歯科界で育てていくべき大事な人材」と評価している。比嘉、新原の両氏は、地元の歯科医師会などが強力にバックアップしている。

文科省が私学助成金交付に関し定員割れにも査定

6月23日(土)の毎日新聞朝刊1面「私学健全化へ罰則強化」の内容が波紋を呼んでいる。罰則強化を進める対象は私学となっているため、関係者の間からは、「当然ながら、私立歯科大学も対象に入るため、検討対象になる歯科大が出てくるのではないか」との観測が流れている。

毎日新聞の記事によると、①営法人の財務内容を公開していない学校に対しては、助成金削減幅を、これまでの1%から5%に拡大する、②学生数や就職状況の情報を公開していない場合は3%~5%削減幅を引き下げる、③経営上の問題から助成金を交付されなかった法人が再度、助成金満額受給を受けるため、従来5年間だった経過期間を7年とする、④定員をオーバーして入学させている大学への助成金も削減幅を大幅に拡大する―などが計画されているという。さらに、金融投資で損失を出したり、学生数が定員を大幅に割り込んだりしている大学を調査中で、法令違反があれば、学校教育法に基づく解散命令を視野に入れている。

去る6月16日開催の当協会第40回定期総会のシンポジウムの中でシンポジストの一人を務めた川渕孝一・東医歯大大学院教授は、「現在、歯科が抱えている問題の多くの基本的課題は、歯科医師需給問題に帰結するのではないか。この点について結論が出せずにいるのが大きなネックだと個人的は思う」と指摘している。

チーム医療推進会議が「歯科衛生士法の改正」を了承

厚生労働省の第13回チーム医療推進会議が8月22日に開催され、「看護師の能力を認証する仕組みの在り方」「歯科衛生士の改正」を協議・検討した。

「歯科衛生士の改正」の内容は、今月8日の同会議ワーキンググループでの議論内容がそのまま了承された形となり、同会議の親組織である社会保障審議会に報告することが決まった。「歯科衛生士の改正」については、医政局歯科保健課歯科口腔保健推進室の小椋正之室長が今日まで経緯を説明。さらに歯科衛生士法の見直しの考え方を示した。

 

①   歯科衛生士の修業年限の延長:昭和23年の法制定当時、歯科衛生士は1年制であった、が、歯科衛生士学校養成所指定規則の改正により、昭和58年から2年制、平成16年から3年制へと変更。経過措置期間が終了し、平成24年度からすべての卒業生が3年制課程の履修者となった。

②   歯科診療の補助との関係:歯科衛生士の業務範囲は、法制定当初は「歯科予防処置」のみであったが、昭和30年に「歯科診療の補助」、平成元年には「歯科保健指導」がそれぞれ追加。また、「歯科予防処置」を行うに当たって「直接の指導」が必要とされている一方、比較的侵襲度が高い「歯科診療の補助」を行うに当たっては「主治の歯科医師の指示」が必要とされている。

厚生労働省歯科保健課の新規政策2本を要求へ/厚労省平成25年度予算概算要求案の全貌明らかに (2012年9月5日更新)

◆概算要求額は30兆円超で特別重点・重点要求枠には1088億円を要求へ

  厚生労働省の平成25年度予算概算要求案の概要が本日5日、民主党の厚生労働部門会議に提出され、明らかになりました(左写真は厚労省概算要求案の文書)。この中で、歯科医療関連の新規政策を見ますと、医政局歯科保健課が、①歯科口腔保健の推進:要求額9200万円、②歯科診療情報の活用:同2100万円―の2施策を要求することとなっています。

  一般会計の要求額は30兆266億円となっており、今年度当初予算額比8514億円の増。また、本年7月に閣議決定された日本再生戦略の実現に向けた取り組みとして、「医療イノベーション5か年戦略」の関連施策や地域医療の強化、認知症対策などの特別重点・重点要求枠に1088億円を要求する方針です。厚労省では、「与党の部門会議で了解を得られたので、この要求額が変わることはないと思う」とコメントしています。

  厚労省ほか各省庁の来年度予算概算要求の財務省への提出期限は今月7日(金)となっています。

  なお、医療費に関する要求額は、例年、概算要求案提出時点では「白紙要求」となっており、正式な金額は年末の政府予算案に関する国会審議の中で明らかにされます。

◆歯科保健課新規政策2本の概要

  歯科保健課の新規政策内容を見ますと、まず「歯科口腔保健の推進」は、地域の実情に応じた総合的な歯科口腔保健医療施策を進めるための体制確保、障害者や高齢者施設などの入所者で歯科口腔保健医療サービスを受けることが困難な人たちへの対応や、それを担う人材の育成、医科・歯科連携の先駆的な取り組みに対する安全性や効果の実証などを行う―というものです。

  また、「歯科診療情報の活用」では、歯科医療機関が電子カルテで保有する身元確認に関連する歯科診療情報の標準化と、その活用のあり方に関する検討を行うとともに、その内容をモデル事業を通じて実証する―というものです。

◆特別重点要求枠の概要

  一方、医療関連の特別重点要求枠をみますと「医療イノベーション5か年戦略の着実な推進」に411億円を要求し、基礎研究の成果を医薬品の実用化につなげることを目指す「創薬支援ネットワーク」の構築に41億円などを盛り込んでいる点が注目されているようです。

◆地域医療強化で緊急対策も

 他方、「地域医療の強化のための緊急対策」では105億円を要求し、在宅医療の充実・強化を図るため、病状が急変した患者などに対して多職種が一体で医療・介護を提供するための体制の確保など、在宅医療の連携体制の推進に20億円を要求している点が目を引きます。

厚生労働省の三役決まる/民主医系議員2氏が副大臣・政務官に就任(2012年10月3日更新)

10月1日、第3次野田改造内閣で新たな厚生労働大臣に民主党北海道選出の三井辨雄衆議院議員が就任。マスコミ報道をみると就任会見では、「当面は一番の課題である後期高齢者医療制度や医療保険制度の一元化などに関しては、社会保障・税一体改革関連法案の民主・自民・公明3党の修正合意で設置が決まった社会保障・税一体改革の議論にしたがい政策を進めていく」と訴えていた。

  その三井厚労相は2日、副大臣には櫻井充参院議員、西村智奈美衆院議員の2名を指名。政務官には糸川正晃衆院議員、梅村聡参院議員の2名を指名し、三役がそろった。

  三井厚労相自身は薬剤師であり、櫻井副大臣と梅村政務官は医師。このような医療専門職による機構固めとなったが、消費税引き上げに関する医療機関への具体的な対応はどうなるのか、社会保障構造改革推進法ほか社会保障・税一体改革に関連する法案への対応、来年8月までに設置する社会保障制度改革国民会議についてなど、厚労省には大きな懸案が山積している。また、来年度を初年度とする第2期医療費適正化計画の策定作業がすでに厚労省内で始まっており、政界が混沌とする状況の中での官僚の動きにも十分留意する必要がある。また、薬剤師の厚労大臣、医師の副大臣・政務官という構成は初めてのことであり、医科はもとより歯科との接点がどのようになるのか、2014年の診療報酬改定に向けての動向も踏まえ、注意が必要だ。

勝手にマイカー通勤して通勤災害に遭遇したら

№283:2012.11:510号

質問1

当医院ではマイカー通勤を禁止しているが、足のケガをきっかけにマイカーによる通勤が常習化した勤務医がいる。先日、この勤務医が通勤途中に事故(加害者)を起こした。このような場合、通勤災害と認定されるのか。また、診療所が損害賠償責任を負うことはあるか。

まず通勤災害の認定について説明します。就業規則などでマイカー通勤が禁止されているにも関わらず、勝手にマイカー通勤して交通事故に遭った場合、そのマイカー通勤という通勤方法が、客観的に合理性ありと認められれば、通勤災害として労災認定されます。認定の可否については、労使間の労働契約内容に影響されません。つまり、マイカー通勤が就業違反だとしても、労災認定の判断基準の要素とはなりません。
次に、診療所の損害賠償責任について。この件では、診療所が損害賠償責任を負う根拠となりうるのは「使用者責任」(民法第715条)が考えられます。使用者責任は、「他人を利用する者」(使用者)が「被用者がその事業の執行について」第三者に損害を加えた場合、使用者が損害を賠償する責任がある―とするものです。この件では、診療所と勤務医の間に使用関係はありますから、勤務医が事業を執行するにあたって加えた損害といえるか否かが問題となります。
訪問診療などのため、診療所が勤務医に対してマイカーの業務利用を指示するなど、医院が従業員のマイカーを積極的に使用させていた場合、通勤中の事故であったとしても、医院は損害賠償責任を負わされる可能性があります。本来、通勤という行為自体は仕事ではありませんが、この場合の通勤という行為は、マイカーを業務に利用するために、医院まで運搬している行為とも考えられます。マイカーは通勤に利用するだけで、業務利用をしていない場合は、従業員の通勤中の事故に関して診療所には損害賠償責任はありません。

質問2

時折、自宅以外の某所から出勤してくる従業員がいる。その際に通勤災害が起こってしまった場合、労災認定されるか。

通勤とは、就業に関して住居と就業の場所との間を合理的な経路および方法によって往復することをいいます。また「住居」とは、一般的に「自宅」をいいますが、通達では、親の介護等でやむを得ず実家に戻ったり、台風などの事情により住居以外の場所に宿泊する場合は、やむを得ない事情により一時的に居住の場所を移していると認められています(昭和48年11月22日基発644)。
したがって、そのような状況のもとで起こった場合は、通勤災害として認定されることになります。しかし、友人宅などで一夜を過ごし、そこから早朝、直接に出勤した場合などは、労災認定されません。
なお、一時的な住居から通勤した際の交通費については、労基法上の支払義務はありません。

11.1周術期口腔機能管理研究会を開催/参加者約60名

1日、協会会議室にて周術期口腔機能管理研究会を開催しました。講師は、協会理事であり、がん・感染症センター都立駒込病院歯科口腔外科部長の茂木伸夫氏と協会社保・学術部副部長の島倉洋造氏。参加者は会場いっぱいの60名でした。
  研究会では、周術期口腔機能管理の基本的な進め方~これから周術期患者の管理を始めるには~をテーマに、茂木氏から周術期患者の治療について、島倉氏から保険請求についてそれぞれ解説がありました。
 病院でがん患者を診ている茂木氏は、口腔管理の内容や放射線治療中の患者の口腔内写真を用いて、口腔内がどのように変化していくかを示し、島倉氏は開業医の視点に立った時、どのような算定方法があるのか症例を示しながら解説しました。「外来でがんの化学療法や放射線治療を受ける患者が増えることを考えれば、決して開業医にとっても関係のない話ではない」と訴えがありました。
  アンケートには参加者から好評の声が寄せられ、盛り上がりの中で終了しました。

11.4「2012年イイハデー」/チンドン屋さんと一緒にスカイツリーのふもとで署名活動

昨日4日、「保険でよい歯を」東京連絡会は2012年イイハデーの宣伝、署名活動や「お口の健康無料相談」を浅草・雷門交差点付近で行いました。この催しは、10月8日を「イレバデー」に、11月8日を「イイハデー」に定め、毎年11月の日曜日に行っています。
  今年の参加者は100人超。チンドン屋さんも招き、東京スカイツリー観光で行き交う群衆の中、にぎやかに楽しく、宣伝・署名活動を行いました。また、吾妻橋付近では歯科医療の話を分かりやすくパネル展示し、誰もが安心して保険でより良い歯科医療が受けられるよう医療保険制度の充実を求めて運動しました。
 なお、この日集まった署名・アンケートは共に約250筆です。ご協力ありがとうございました。

カルテ記載のルールや新規指導の現状を講義/新規開業医講習会を開催

昨日28日、協会会議室で新規開業医講習会、社保講習会を開催しました。参加者は34名で講師は協会社保学術部の講師団。
講習会は①審査・指導とは、②点数の算定要件について、③カルテ記載で気を付けたいこと-をテーマに、開業医として知っておきたい保険診療の基本的ルールや、カルテ記載・文書提供・レセプト記載の留意点を解説しました。
  審査・指導の講義では濱﨑啓吾理事より、これまで協会に寄せられた相談や経験に基づく解説がありました。参加者からは、新規指導に関して「持参するレセコンのカルテに、後から手書きで付け足してもよいのか」との質問や、高点数の指導の現状にたいして「平均点数とは何を指すのか」、等の質問が出され、指導への不安がうかがえます。講師は、「カルテに問題がなかったら、指導を心配することはない。萎縮診療になることだけはやめていただきたい」との願いを参加者に強く訴えました。
 点数の算定要件については、おさえていただきたいポイントをしぼって解説。その後、カルテ記載で気を付けたいこととして、「症例に基づいたカルテ記載」や「義管算定の流れとカルテ記載等」を個々の記載例を示し、ていねいに解説しました。
  加藤開社保部長は閉会のあいさつで、「講習会は基本的なところでポイントをおさえた内容になっている。ぜひ、本日配布したテキストを見直し、新規指導に備えていただきたい。また、新規指導を乗り切ったからといって何でも算定できるわけではなく、高点数の指導や個別指導等にあたっても問題ないよう、ルールに則った請求をしてください」と締めくくりました。
 協会では、11月11日(日)に新規開業医講習会、医療安全・経営管理講習会を開催いたします。会員の経営相談、トラブル相談に対応した協会ならではの講義です。参加ご希望の先生は協会組織部まで(03-3205-2999)(要予約)。

審美に印紙はいらない

№281:2012.10.1:509号

質問1 審美に印紙はいらない

ホワイトニングを施したところ患者さんから「領収書に収入印紙が貼ってない」といわれた。歯科医院の領収書には収入印紙はいらないことを伝えたが、患者さんから「審美には必要になるのではないか」といわれている。

3万円以上の金銭の受領に関しては、原則収入印紙が必要になりますが、印紙税法別表第一において「営業に関しない受領書(領収書)」は、非課税とされています。
印紙税法で営業とは、株式会社のように利益を株主に配分することができる法人とされていることから、有限会社や株式会社が発行する領収書については、収入印紙が必要となってきます。では、具体的に「営業に関しない受領書(領収書)」は、何が該当するのかということになりますが、印紙税法基本通達において医師、歯科医師、弁護士、公認会計士などが業務上作成する受領書は、営業に関しない受領書として取り扱う」とされています。
このことからその医療行為が審美であったとしても、歯科医師が業務上作成した領収書となりますので、収入印紙を貼る必要はありません。
なお、ホワイトニングなど容姿の美化を目的としているものについては、医療費控除の対象になりませんので、その旨を患者さんに伝えて下さい。

質問2 ネット銀行の留意点は

振込手数料も安いことからインターネットバンクと契約し、業者の支払や従業員の給与などの振込を検討している。しかし、この銀行は通帳が発行されない。税務調査などがあった場合、通帳がなくても大丈夫なものか。

手数料も安くパソコンから手軽に振込ができることからネット銀行は非常に便利なものです。
しかし、その反面、通帳が発行されないなど、後に過去の取引を調べる場合には、不向きと言えます。そのような管理リスクを理解した上で、医院の中でネット銀行を利用すること自体は、何ら問題はありません。ただし、ネット銀行は金銭の動きがデータのみになってしまいます。そのため、取引を行った場合には、その取引について取引をした証を残しておくことが大事です。
そこで、振込等をした際に「振込控え」などを印刷して、領収書の代わりとして保管することが望ましいでしょう。印刷したものは、正式な領収書としての効力はありませんが、振込を行った証としては一般的に通用するものです。したがって、税務調査等でネット銀行の取引を確認する場合は、その印刷物で対応することができます。
また、そもそも税務調査については、通帳自体を見せる必要はありません。見せる必要があるものは帳簿となりますので、ネット銀行の取引をきちんと記帳しておけば、通帳がないことについての問題はありません。

音信不通従業員や退職撤回従業員への対応

№280:2012.9.1:508号

質問1

無断欠勤している従業員がいる。電話はつながらず、すでに引っ越しをしている様子で連絡をとることができない。退職手続きを進めたいと思うが、どうすればよいか。

東京地方裁判所では、無断欠勤期間を2週間で懲戒解雇を有効とする判決を出したことがあります。そのため就業規則に懲戒解雇規定が存在していれば、懲戒解雇が可能となる場合もありますが、懲戒解雇をするという意思表示を従業員へ到達させる必要があります。行方がわからない場合は、意思表示を到達させる方法として公示送達という方法もありますが、この方法は、裁判所の手続きを利用するもので手続きは煩雑です。そこで、簡易な方法として、「欠勤の理由も転居先も使用者に伝えずに長期間無断欠勤をしていること」を根拠として、従業員から退職の意思表示があったとみなした上で、依願退職扱いとして対応する方法が考えられます(就業規則にそのような定めがあれば、特に手続の必要はありませんので、記載しておくとよいでしょう)。ただし、この方法は解雇に該当しませんので、就業規則で退職金の支給を定めていた場合は、支給しなければなりません。しかし、従業員と連絡も取れずにいることから、支払を保留にした形で退職金を保管する対応が良いでしょう。退職金の支払い時効は5年です。時効が成立すれば、従業員の退職金の請求権は消滅しますので支払う必要はなくなります。

質問2

自己都合により退職を申し出た従業員がいるが、後日突然、退職を撤回してきました。これを機に新たな従業員を雇いたいと思っていましたが、撤回には応じなければならないのでしょうか。

従業員から退職願の提出があり、それに対して使用者が承諾書のような書面を交付した後であれば、基本的に雇用契約の合意解除が成立していますので、撤回に応じなくても原則として問題はないでしょう。しかし、従業員から退職の申し出があっても使用者が承諾する前に撤回してきた場合は、退職の撤回に応じなければなりません。退職の申し出は、労働者が使用者に対して労働契約の合意解約を申し込む意思表示ですから、使用者からの承諾の意思表示がなされ、その意思表示が労働者に到達した時に、合意解約の効果が発生します。労働者は、合意解約の効果が発生するまでは、退職願を自由に撤回することができます(福岡高等裁判所・昭和53年8月9日判決)。ご質問のケースは、労働者に退職承諾の意思表示が確実に到達されていたのかがポイントとなりますので、そこを従業員ときちんと確認した方が良いでしょう。退職の承諾は、必ずしも書面による必要はありませんが、後に紛争に発展した場合に書面がないと不利になる可能性が高いでしょう。また、労働者が一方的に「辞めます」と雇用契約の解除を求めた場合は、一般的に「辞職」に該当し、使用者の承諾なしに解除が成立することになりますが、労働者がそのことについての法律的効果を意識していないことも多くあります。そのため、退職の申し出についてはどのような形式であっても「承諾を求められている」と考え、曖昧にせずきちんと「承諾の意思表示」をすることが大切です。

夏に税務調査が多い理由

№279:2012.8.1:507号

質問1

夏になると税務調査が増えると聞いたが、本当か。

税務調査は8月から11月にかけて行われることが多いです。これは、7月上旬に税務署内で人事異動が行われるためです。8月以降は、新たな人事のもとで時間をかけた税務調査が可能になることから、夏になると税務調査が増える傾向があります。しかし、これはあくまでも一般論であり、税務調査は8月から11月の期間に限って行われるものではありません。税務署が必要と判断した場合においては、年末や確定申告の季節であっても税務調査が入ることはありますので、普段から税務調査に備えておくことが大切です。

社会保険・労働保険の手続きについて

№278:2012.7.1:506号

質問1

従業員の社会保険の手続きを7月10日までに行わないといけないと聞いたが、これはどういうことか。

社会保険(健康保険と厚生年金)の適用となる被保険者(従業員)がいる場合、その方の報酬の等級(標準報酬額)を決定することで、月々の保険料や傷病手当金、厚生年金といった給付のベースとしています。報酬額は昇給等で変動することから、毎年7月10日までに、その年の4月から6月に支払われた報酬をもとに年度の標準報酬月額を決定します。具体的には管轄の年金事務所に「報酬月額算定基礎届」などの書面を提出することになります。

質問2

また、労働保険の手続きも同じように7月10日までに行わないといけないと聞いたが、これはどうか。

労働保険(雇用保険と労災保険)については、3月までの前年度の労働保険料の確定を実際に支払った賃金のもとに行い、同時に4月からの今年度の労働保険料の見込み額を現在の賃金見込額をもとに納付します。つまり、労働保険料の「精算」の手続きを7月10日までに行うわけです。なお、実際には、1年間の支払賃金の合計が前年度の半分以下、または2倍以上と大きく変動しない限り、前年度と同額の保険料を納付することが多いようです。ちなみに窓口は労働基準監督署や都道府県労働局です。

院内盗難・患者さん負傷責任の所在は…

№277:2012.6.1:505号

質問1

待合室で患者が目を離したすきに盗難事件が発生。患者の財布がなくなった。医院として責任を問われることはあるか。

患者の持ち物については、原則として患者の自己責任となり、盗難が発生したとしても、基本的に医院に責任はありません。しかし、待合室に手荷物を置いたまま治療をして、その間、受付が不在になるなど、医院の体制的不備によって盗難が発生した場合は、医院の管理責任が問われる場合が出てきます。医療機関は誰もが自由に出入りできるところです。そのため待合室等では盗難などが発生する可能性はつきものです。そこで、医院としては、盗難を未然に防ぐための体制を整える必要があります。歯科では、自費治療もあり一定の額を持ち寄っている患者もいます。そのため、患者に対しては、貴重品は自分で管理し、目を離さないよう注意を喚起することが大切です。また、従業員に対しては、治療が終わった後も待合室に長くいる患者や、挙動が不審な人に対しては「どうかされましたか」など、声を掛けることが重要です。また、患者から「貴重品を預かってほしい」と申し出があった場合、原則としては預かるべきではありません。この場合、万一、盗難や紛失が発生した際は、全面的に医院の責任を問われる場合がありますのでご注意下さい。

質問2

患者が院内の段差につまずき、けがをした。医院として責任を問われることはあるか。

医療施設では安全確保における安全配慮義務があり、来院した人の生命および健康等を危険から保護するように配慮する義務を負っています。そのため、来院した人が院内でけがを負わないよう配慮する必要がでてきます。この配慮については、明確な基準はありませんが、例えば、つまずきやすい段差を放置していたり、雨水をそのままにして、廊下が滑りやすい等、事故の発生が予見可能であるにもかかわらず、何も措置を講じることなく事故が発生した場合、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。また、安全配慮義務以外にも工作物責任というものがあります。これは民法第七百十七条で定められたもので、建物やその内部が通常有すべき安全性を欠いている状態にあれば、工作物責任に従って医院が責任を問われる場合があります。事故は未然に防がなくてはならないものですが、偶発的にさまざまなことが起こるものです。したがって、それらをすべて未然に防ぐことは困難なものです。このような時に役立つのが、施設賠償責任保険というものです。施設の構造上、または安全確保に問題があり、他人にけがをさせてしまったり、物を壊してしまった場合、医院が負うことになる損害賠償額を補填してくれる保険です。開業されている先生の場合は、通常は医師賠償責任保険に加入することで、施設賠償責任保険にも加入していることになりますが、保険契約にはさまざまなものがあります。万全を期すためにも、契約内容を確認しておくことをお勧めいたします。

従業員が試用期間中の社会保険・残業代・休暇の扱い

№276:2012.5.1:503号

質問1

4月にフルタイムの従業員を雇用した。試用期間を3ヶ月としているが、その期間は社会保険や労働保険に加入させなくてもよいか?

たとえ試用期間であっても、フルタイムの場合は社会保険、労働保険のいずれも加入が義務となります。ちなみに、雇用保険は週の労働時間が20時間以上の場合は被保険者となりますので、フルタイムのほかパートタイムの方でも加入となるケースもあります。

質問2

3ヶ月の試用期間の間は残業代の対象外とした場合、問題があるか。

試用期間中に法定労働時間を超える労働をした場合、残業代(2割5分以上の割増賃金)が発生します。なお、法定労働時間とは1日で8時間、1週間で40時間(従業員9人以下の歯科診療所では44時間)とされています(いずれも休憩時間を除外して計算)。

質問3

3ヶ月の試用期間中に、有給休暇を与える必要はあるか。

有給休暇は、雇い入れ後6ヵ月を経過した時点で出勤日数が所定労働日の8割以上出勤した場合に与えることになります。雇い入れ6ヶ月未満で私傷病(労災以外の傷病)により出勤できなかったような場合、その日の賃金を支払わないことはさしつかえはありません。

質問4

従業員雇用に際し、当診療所では3ヶ月の試用期間を設けているが、どうも当院にはこの従業員は向かないようだ。試用期間中であれば解雇しても問題ないか。

試用期間中であっても、雇い入れ後14日以上経過した場合は即時解雇ができません。通常の解雇と同様、30日前に解雇予告をするか、30日分以上の賃金(解雇予告手当)の支払いが必要です。また、雇い入れの期間にかかわらず、合理的な理由がなく、社会通念上、相当と認められない場合は解雇が無効となります(労働契約法第16条)。もっとも、一方的に雇用関係を解消する解雇という形ではなく、労使双方で話し合うことも重要です。すなわち、医院の業務に向いていない点などを説明し、双方が合意して雇用関係を円満に解消する退職という形をとることが望ましいのではないでしょうか。

質問5

試用期間終了をもって本採用の見送り(解雇)をする場合、または従業員が辞める旨の申し出があった場合の注意点を。

本採用を見送る(解雇する)場合は、正当な理由が必要です。例えば、業務上のミスや勤務態度の問題(無断欠勤、遅刻など)といった具体的な理由をあげ、事業主側としても再三注意したものの改善の見込みがないことなどを書面にして本人に通知するべきです。具体的には、試用期間が3ヶ月の場合、最初の2ヶ月が経過した時点で解雇理由を書面に記載し、1ヶ月後の試用期間満了をもって解雇する旨を通告するという方法が考えられます。従業員から退職の申し出があった場合、従業員側から退職願を提出してもらうことが必要です。

従業員採用における募集・面接・採用上の留意点

№275:2012.4.1:502号

質問1

従業員を募集するが、留意点を。

男女雇用機会均等法では、募集および採用について、性別や信条などによる差別は禁じられています。また、雇用対策法の改正により2007年10月から年齢の制限を設けることができなくなりました。そのため『歯科助手募集、30歳以下、女性に限る』等の募集要項は原則禁止です。これは、ハローワークをはじめ、民間の求人広告、ホームページなどを通じた直接募集にも広く適用されるものです。

質問2

面接の際、尋ねてはいけない質問があると聞いたが

面接は、志望動機や要望、労働条件などを質問とかみ合わせながら、人柄や意欲をみることで採用の採否を判断します。家族構成や生い立ちなど本人に責任のないものや、宗教、思想など本来自由であるべきものに関する質問を課してはいけません。厚生労働省の採用考察ガイドラインでは、次のような質問は禁止されています。すなわち、①本籍・出生地に関すること (本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)、②家族に関すること、③住宅状況に関すること、④生活環境・家庭環境などに関すること、⑤思想信条にかかわること、⑥男女雇用機会均等法に抵触すること(結婚及び出産後の就業継続の意思確認など)―です。公正な採用選考を行うことは、応募者の適性・能力とは関係ない事柄で採否を決定しないということです。そのため、応募者の適性・能力に関係のない事柄について、応募用紙に記入させたり、面接で質問するなどによって把握しないようにすることが重要です。これらの事項は、採用基準としないつもりでも把握すれば結果として採否決定に影響を与えてしまう可能性があり、就職差別につながるおそれがありますので注意が必要です。

質問3

採用上の留意点を

従業員を採用する際には、必ず「労働条件通知書」(※)を書面において交付しなければなりません。近年、この交付を行っていないことで、後にトラブルに発展するケースが後を絶ちません。必ず交付して下さい。「労働条件通知書」には絶対的明示事項として、①労働契約の期間、②就業場所・従事する業務の内容、③労働時間に関する事項(始業・就業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項)、④賃金の決定、計算、支払いの方法、賃金の締切り、支払の時期に関する事項、⑤退職に関する事項(定年制、自己都合退職の手続き、解雇の事由など)―があり、これらの事項について文書による交付義務があります。また、パートやアルバイトを雇用する場合であっても、交付義務がありますので気をつけて下さい。

※「労働条件通知書」のひな型は、希望者に無料配布している冊子「医院経営と雇用管理」に掲載しています。

2012年度診療報酬改定に対する「理事会声明」

東京歯科保険医協会 第22回理事会

 

今改定は2025年を見据えた医療・介護の同時改定であり、改定率は医科1.55%、歯科1.7%、調剤0.46%で、全体では0.004%となった。前回に続きプラス改定となったが、東京の歯科医療機関は依然厳しい状況にあり、今後も継続的な引き上げが必要である。


改定内容は周術期の口腔管理の導入や在宅歯科医療の推進などのほか、改定財源の多くを歯科固有の技術料に充てたこと、告示や通知が整理され過剰なカルテ記載が削除されたこと、病院歯科の評価が進んだことなど現場の意見が反映された改定であった。


協会では今改定に向け、署名や集会などとともに「21世紀にふさわしい歯科改革提言」や「医療と介護における歯科に関する提言」を発行し、国会議員等に 歯科医療改善の政策的な働きかけを行ってきた。わずかでも主張してきたことが改定に反映されたということは、協会の取り組みやその方向性が正しかったこと を示しており、改めて評価をしたい。以下に主な特徴を示す。

 

(1) 基礎的技術料や医療技術提案からの新規導入・再評価が進み、処置や補綴など日常診療で行う項目の点数が広範囲に引き上げられたことは今改定の 特徴である。われわれの運動の成果であり評価したい。しかし、引き上げられた点数でさえなお不充分な評価であり、今後も継続的な引き上げを求める。また、 評価療養から保険導入に至る期間の短縮も検討課題である。
(2) 歯科訪問診療料の見直しと在宅療養支援歯科診療所(歯援診)への誘導が行われた。歯科訪問診療料は「常時寝たきりの状態」の表現が変更され、 歯援診では歯科衛生士の診療補助が新たに評価されたが、東京の歯科医院は約半数が歯科衛生士を雇用できておらず、歯援診の届け出はできない。歯科衛生士が 雇用できるだけの診療報酬の評価は急務である。
(3) がん患者等の周術期の口腔管理が新たに保険導入された。周術期における口腔機能管理の重要性を診療報酬上に位置づけたことには意義がある。し かし、医科医療機関からの文書での依頼が算定要件とされ、同様の仕組みが歯周病安定期治療(SPT)にも盛り込まれた。文書による情報提供を算定要件にす ることが、医科歯科連携推進の足かせとなることが危惧される。特にSPTでは柔軟な方法による連携を認めるべきである。
(4) 歯科疾患管理料の算定要件が変更され、初診時の主訴への対応が可能となり、文書提供の間隔の緩和がはかられた。また写真診断料の減算定の要件 も変更となり、こういった一連の緩和策によりSPTは活用しやすくなった。しかし、SPTに移行できる病態は限られているため、算定にあたっては検査結果 に基づき慎重に行う必要がある。

 

今や「最小限の侵襲」は世界の常識である。しかし、日本の保険診療での評価は依然として切削や補綴が中心となっている。これに対し協会では「歯を残し維 持・機能させる技術や、歯や身体に侵襲の少ない技術を重視した診療報酬体系」の必要性を提言した。また、高齢化の進展に伴い口腔機能の維持・回復・管理の 必要性が高まってくる。このようなことから、今後の診療報酬改定では歯を積極的に残す治療や口腔ケアや口腔管理を評価する診療報酬体系を確立するよう改め て要求するものである。

職員旅行や亀裂修繕など経費に計上して大丈夫

№274:2012.3.1:501号

質問1 領収書がない支出と経費

領収書がない支出は経費として認められないのか

領収書が発行してもらえなかったり発行されない場合でも、出金伝票などに日付・金額・支払先・内容を記載し、保存することにより経費として認められます。例えば、冠婚葬祭のお祝いやお香典は領収書が出ることはまずありません。このような場合は、必ず出金伝票を書いて保存しましょう。また、その際には冠婚葬祭の案内ハガキ等があれば併せて保存したほうがよいでしょう。

質問2 職員旅行は経費計上できるか

診療所職員と職員旅行に行きましたが、すべて経費として計上できるものか。

診療所職員との職員旅行については、①旅行期間が4泊5日(海外旅行の場合は現地四泊)以内であること、②全職員の50%以上が参加していること、③1人当りの旅行金額が社会通念と比べて高額でないこと―の3点を満たせば経費として認められます。事業主の旅費は、従業員の引率などのために必要である場合は経費として認められます。なお、事業主とその家族の旅行については、経費として認められませんので注意してください。

質問3 小生の子への給与は経費になるか

診療所業務を手伝っている小生の子どもに、わずかだが給与を支払っている。申告は青色申告で、子どもは同居している。給与は経費になるか。

子どもが同居して生計を一にしている場合は、経費にはなりませんのでご注意ください。また、これは子どもだけに限らず配偶者、親でも同じです。所得税法では、生計を一にする親族に対して給与を支給することは認めていません。ただ子どもが結婚などで所帯を構えて独立した場合などは、生計が一ではありませんので、給与として認められることになります。また、青色申告の先生については、子どもが15歳以上であり、もっぱら事業に従事しているなどの場合は、氏名、給与の額などを税務署にあらかじめ届けておけば、青色専従者として生計が一の親族でも給与として必要経費に算入することができます。

質問4 建物の亀裂修繕などは経費計上できるか

地震で診療所の建物に亀裂が入ったので修繕工事を行った。その工事費用は経費として計上できるか。また、これを機会に被災していない設備も補強工事を施した。この場合の工事費用はどうなるのか。

地震により建物などの資産が被災し、被災前の効用を維持するために行った工事費用は、修繕費と考えられるので経費に計上できます(被災した資産の評価損を計上した場合を除きます)。一方、被災していない診療所の資産について耐震性を高める工事を行った場合は、その資産の使用可能期間の延長や価額の増加をもたらすための資本的支出に該当し、その工事金額は新たな減価償却資産の取得価額となります。

就学前までの子育てと仕事の両立支援制度

№273:2012.2.1:500号

質問1

従業員が出産した。育児介護休業法では、就学前の期間まで事業主に義務があると聞いた。当面の間、事業主側に義務づけられていることは何か。

ご質問にある育児介護休業法では、大きく分けて子どもが1歳(保育所に入所できないといった事情の場合は1歳6ヶ月)まで、3歳まで、就学までの3段階で事業主の義務が定められています。3歳までの子どもを持つ従業員に対しての義務は、常時100人以下の従業員の場合、育児休業制度または、①短時間勤務制度、②フレックスタイム制度、③時差出勤の制度、④所定外労働の免除制度、⑤事業所内保育施設の設置運営―のいずれかを講じる義務があります。

質問2

この法律は改正されたと聞いたが、影響はあるか。

2012年7月1日から先ほどご紹介した義務が改正された。具体的には、①原則として1日の所定労働時間を6時間とする短時間勤務の設定、②所定外労働の免除―です。①、②それぞれについて従業員が希望する場合は行う義務があります。なお、②については、1ヶ月以上1年以内の期間を開始と終了の予定日を設定して、開始の1ヶ月前までに申し出てもらって下さい。

質問3

例外はあるものなのか。

所定外労働の免除と所定外労働の免除については、その事業所に引き続き雇用された期間が1年未満の場合や、1週間の所定労働時間が週2日以下である場合には、労使協定により適用を除外することができます。

質問4

子どもが就学までの間の義務というのは何でしょうか。

主な義務として、①子どもの看護休暇、②法定時間外労働の制限―があります。①は就学前の子どもを養育している従業員から申し出があった場合、その子どもが1人の場合は1年に5日まで、2人以上であれば10日まで1日単位で取得できるというものです。この場合の「看護」とは病気やケガをした子どもの看護や、子どもに予防接種や健康診断を受けさせることも含まれます。また、②は従業員から申し出があった場合、1ヶ月で24時間、1年で150時間を超える時間外労働させることはできないというものです。勤務年数1年未満の場合や所定労働日数が週2日以下の場合は適用を除外できます(ただし看護休暇の除外には労使協定が必要)。このほか、夜10時以降の深夜労働の制限、フレックスタイムや時差出勤などの措置を講じる努力義務なども定められています。

質問5

従業員に退職してもらうわけにはいかないものか。

育児休業や、これまでご紹介した措置の請求したことを理由とした解雇などの不利益な取扱いは法令違反となりますので、十分注意して下さい。

従業員の出産・育児休業について

№272:2012.1.1:第499号

質問1

当診療所の歯科衛生士が妊娠した。 労務管理上、当診療所側として注意すべきことは何か。

労働基準法では、産前六週間(多胎妊娠の場合十四週間)以内の女性従業員から請求があった場合は就業させてはならないと定めています。また、産後八週間は本人の請求の有無に関わらず就業させることはできません(なお、産後六週間を経過した女性から請求があり、医師が支障がないと認めた場合は就業可能)。また、この産前産後の休業期間の解雇も禁じられています。

質問2

産前産後の休業期間の賃金は支払わなくてもよいか。

この休業期間について賃金を支払わなくても法律上は問題ありません。またこうした場合でも、従業員が健康保険(社保)に加入していれば、出産手当金としておおむね賃金の3分の2相当額が休業期間分給付されます。

質問3

出産後も育児のため休業したいという従業員が出た場合、法律上 、どのようなことに注意すべきか。

まず、何よりも、育児・介護休業法では育児休業の申出をしたことや、休業したことを理由として解雇をはじめとした不利益な取扱いを禁止していることに注意してください。一方で育児休業期間については、診療所の負担を軽減しつつ、従業員の生活保障を考えなければなりません。雇用保険に加入している従業員については、育児休業給付金の活用をお勧めします。これは原則的に一歳未満の子どもの育児休業時に給付されるもので、賃金の支払いがない場合、現行では賃金の5割(ただし、ケースにより変わる可能性あり)が給付されます。また、健康保険と厚生年金(社保)に加入している従業員の場合、休業期間の保険料の本人負担分や事業主負担分の免除が可能です(ただし、保険者への申請手続きが必要)。

現段階では、一歳未満の子どもがいる従業員の育児休業について、①一歳以降、保育所に入れないといった状況の場合、一歳六ヵ月まで育児休業が認められる、②従業員の配偶者(おおむね夫)が従業員と一緒に育児休業している場合は、子どもが一歳二ヵ月に達するまで育児休業を取ることが可能と定められています。特に、②は男性の勤務医を雇用する医院にとっては一定の負担になるものと思われます。このほか、子どもが三歳未満、就学前の期間についてそれぞれ法的義務があります。
※就業規則等で育児休業の 規定を定めておくことを お勧めします。