音信不通従業員や退職撤回従業員への対応

№280:2012.9.1:508号

質問1

無断欠勤している従業員がいる。電話はつながらず、すでに引っ越しをしている様子で連絡をとることができない。退職手続きを進めたいと思うが、どうすればよいか。

東京地方裁判所では、無断欠勤期間を2週間で懲戒解雇を有効とする判決を出したことがあります。そのため就業規則に懲戒解雇規定が存在していれば、懲戒解雇が可能となる場合もありますが、懲戒解雇をするという意思表示を従業員へ到達させる必要があります。行方がわからない場合は、意思表示を到達させる方法として公示送達という方法もありますが、この方法は、裁判所の手続きを利用するもので手続きは煩雑です。そこで、簡易な方法として、「欠勤の理由も転居先も使用者に伝えずに長期間無断欠勤をしていること」を根拠として、従業員から退職の意思表示があったとみなした上で、依願退職扱いとして対応する方法が考えられます(就業規則にそのような定めがあれば、特に手続の必要はありませんので、記載しておくとよいでしょう)。ただし、この方法は解雇に該当しませんので、就業規則で退職金の支給を定めていた場合は、支給しなければなりません。しかし、従業員と連絡も取れずにいることから、支払を保留にした形で退職金を保管する対応が良いでしょう。退職金の支払い時効は5年です。時効が成立すれば、従業員の退職金の請求権は消滅しますので支払う必要はなくなります。

質問2

自己都合により退職を申し出た従業員がいるが、後日突然、退職を撤回してきました。これを機に新たな従業員を雇いたいと思っていましたが、撤回には応じなければならないのでしょうか。

従業員から退職願の提出があり、それに対して使用者が承諾書のような書面を交付した後であれば、基本的に雇用契約の合意解除が成立していますので、撤回に応じなくても原則として問題はないでしょう。しかし、従業員から退職の申し出があっても使用者が承諾する前に撤回してきた場合は、退職の撤回に応じなければなりません。退職の申し出は、労働者が使用者に対して労働契約の合意解約を申し込む意思表示ですから、使用者からの承諾の意思表示がなされ、その意思表示が労働者に到達した時に、合意解約の効果が発生します。労働者は、合意解約の効果が発生するまでは、退職願を自由に撤回することができます(福岡高等裁判所・昭和53年8月9日判決)。ご質問のケースは、労働者に退職承諾の意思表示が確実に到達されていたのかがポイントとなりますので、そこを従業員ときちんと確認した方が良いでしょう。退職の承諾は、必ずしも書面による必要はありませんが、後に紛争に発展した場合に書面がないと不利になる可能性が高いでしょう。また、労働者が一方的に「辞めます」と雇用契約の解除を求めた場合は、一般的に「辞職」に該当し、使用者の承諾なしに解除が成立することになりますが、労働者がそのことについての法律的効果を意識していないことも多くあります。そのため、退職の申し出についてはどのような形式であっても「承諾を求められている」と考え、曖昧にせずきちんと「承諾の意思表示」をすることが大切です。