年別アーカイブ: 2011年

未収金回収の法的措置支払督促と少額訴訟

№271:2011.12.1:498号

質問1

自費治療代金を支払ってもらえず催告しても応じてくれない患者がいる。法的措置を考えているがどのような方法が良いか。

一番、簡易に行えるのが「支払督促」と呼ばれるものです。この制度は、裁判所から債務者である患者に、金銭の支払を命じる督促状を送ってもらう制度です。申立は患者の住所地を管轄する簡易裁判所に行います。郵送でも構いませんので、裁判所に出頭せず行うことが可能です。患者には、裁判所から督促状が送られて来るので、心理的プレッシャーを与えることで支払いの可能性を高めることができます。督促状を受け取った患者から異議がなければ、早くて1ヶ月あまりで強制執行手続ができるようになるものです。支払督促の良い点は、請求金額に上限はなく、申立書に記載した理由に問題がなければ、支払督促を発令してくれることです。

質問2

少額訴訟制度というのを聞いたことがあるが、どのような制度か。

60万円以下の金銭支払に関する訴訟が対象となり、弁護士を立てることなく、自分自身で簡単に訴訟を行うことができます。原則として一回の審理で双方の口頭弁論を行い、その日のうちに判決が下されます。訴訟は患者の住所地を管轄する簡易裁判所で行います。裁判所内に定型の用紙が用意されているので、その用紙を利用して訴状を作成するのが一番簡単な方法です。裁判所は、訴状を受理すると、審理の日時を決定し、口頭弁論の期日の呼出状を双方に送ります。さらに、患者には自分の言い分や反論を表明する「答弁書」を提出するように依頼します。「答弁書」が裁判所へ提出されると、その写しが先生に送付されます。あとは、口頭弁論の期日まで、自分に有利な証拠などを揃えて待つことになります。判決で先生の訴えが認められれば、必ず仮執行宣言が付くので、患者には支払義務が正式に発生します。それに従わない場合には、強制執行が可能です。

質問3

支払督促、少額訴訟にデメリットはないか。

支払督促、少額訴訟ともに、原告が利用しやすい制度であることから、被告の権利をある程度保護する規定があります。それは、原告の希望に関わらず被告の判断で、通常訴訟に移行することができるというものです。通常訴訟となると、数回にわたり審議が行われることになります。当然、裁判所へ通う回数や時間等も増えます。場合によっては、弁護士を立てる必要もあります。これらを総合的に考え、請求の内容に間違いがなく、異議申し立てをされる可能性が少ないものについて、その利用を選択することが望ましいといえます。「治療に納得していない」「金額が違う」など、患者と争いになっている場合は、予め通常訴訟になる可能性を前提にしながら進めることが大切です。

自費治療費の未収金の時効年数と回収方法について

№270:2011.11.1:497号

質問1

自費治療代金30万円を支払ってもらえず未収になっている患者がいる。毎年数回、請求(催告)をしていれば、時効は関係ないと判断しているが問題はないか。

そのような対応だけでは、時効が成立してしまいます。民法では診療等を行った日の翌日から3年で時効が成立します(民法第170条)。その間に、口頭や手紙で請求すれば、催告をしたことになり、6ヶ月間は時効期間が延長します。しかし、これは一時的に6ヶ月間延長するものであり、この6ヶ月の間に訴訟を行うなど、より強力な手段を取らなければなりません(民法第153条)。したがって、催告をしているだけでは時効が成立してしまい、最大で3年6ヶ月経過すると、その治療費については患者の支払の義務はなくなってしまいます。なお、延長された6ヶ月の間に、催告を繰り返したとしても再延長はありません。くれぐれもご注意ください。

質問2

訴訟などせずに自費治療代金の未収金について時効成立を防ぐよい方法はないか。

回収に努力したとしても、思うようにいかず時間が経過してしまうと、いよいよ時効という問題が浮上してきます。「3年経過したので払わない」といわれないためには、時効を止めなければなりません。これを「時効の中断」といいます。時効が中断されれば、時効期間がリセットされ、その時点から改めて時効が進行することになるのです。これは、回収に向けた新たな時間をつくることができるので、強力な武器といえます。しかし、単に電話や手紙で催告しているだけでは「時効の中断」にはなりません。次のいずれかによる事由、すなわち、①患者に債務があることを承諾してもらう、②裁判で請求する(請求を却下されたり、取下げられた場合は、時効の中断にならない)―が必要になります(民法第147条)。つまり、先生が患者に請求できる権利があることを、患者本人、もしくは裁判所に認めてもらう必要が出てきます。患者が簡単に承諾すれば話は早いのですが、何らかの理由で支払を拒んでいるようなケースでは、患者の承諾を得るのも困難です。そこで、効果を発揮するのが「内容証明郵便」による催告です。内容証明郵便は「いつ・誰が・誰に・どのような内容の郵便を送った」のかを郵便局という公的な機関が証明してくれるものです。この郵便を利用することで、債務について請求をした証拠にすることができます。文面には、必ず期日を指定した上で、支払いを促して下さい。催告を受けた患者が「代金の一部を支払った」、あるいは「少し待ってほしい」といった文面の回答を返信してきた場合は、その債務について、患者から承諾を得たと判断することができます。つまり、これは「時効の中断」となり、時効期間が再び3年に戻ります。未収金について、どこまで追求するかは、その金額と、かかるコストとの費用対効果もありますが、回収に向けた努力は不可欠です。そしてその過程を必ず残しておくことが大切です。

従業員の休職への対応と就業規則

№269:2011.10.1:496号

質問1

従業員が傷病で職場を休む場合の賃金の取扱いについて。

従業員が業務外の傷病で休んだ場合、例えばそれが丸一日であれば、休んだ一日分の賃金を支払わなくても違法ではありません。しかし、通常は年次有給休暇を使い療養してもらうことが多いようです。

質問2

休みが数日であればよいが、数ヶ月にわたる場合、どう対応すべきか。

就業規則の中で休職について規定しておくことをお勧めします。法令上、従業員が10人未満の場合は就業規則の作成は義務づけられていません。しかし、10人未満であっても、従業員の業務外の傷病による休職、あるいは出産に伴う休職のほか、年次有給休暇、退職、解雇といったさまざまな問題が生じた場合についてのルールを就業規則で予め定めておけば、実際に問題が生じた場合に速やかに対応できます。なお、業務外の傷病による休職については、①「休職」の定義、②休職できる期間、③休職期間満了後に治癒しなかった場合の扱い、④休職期間中の賃金の取扱い―などを定めることが重要です。
※協会が会員に配布している書籍「医院経営と雇用 管理」には、就業規則のひな型が掲載されていますので、ぜひ、ご参照ください。

質問3

業務中の傷病による休職の場合、何か注意点はあるか。

業務による傷病の療養のための休職期間中と、その後の30日間は原則として解雇が禁じられていますので注意してください。産前産後の休職も同様の扱いです。

質問4

従業員の休職に備えた社会保障はないか?

業務中や通勤途中の傷病での休職が通算4日以上の場合、労災保険から給付があります。具体的には、①療養の給付、②休職4日目以降の賃金補償である休業補償給付(賃金の六割相当)、③障害が残った場合の給付―などがあります。このほか、先生の診療所が健康保険に加入している場合は傷病手当金という給付があります。これは、被保険者が傷病で就業ができない状態で、賃金が全部または一部出ていない場合に支給されます。給付額は満額で月々の給与の3分の2相当額で、最長で休職から1年半支給されます。また、休業中に退職し、被保険者でなくなった場合も継続して給付されるケースもあります。

質問5

当院は健康保険の強制適用の事業所ではないため、従業員は国民健康保険だが、何か傷病手当金に代わる保険商品はないか。

損害保険会社の所得補償保険などが一般的です。協会でも第2休業保障制度として会員の先生方とスタッフにお勧めしています。これはご加入者が傷病により休業した場合、前年の所得または保険額のどちらか低い方の金額が給付されます。二十代の若いスタッフの場合、月々の保険料一千円~二千円で給与額相当の補償が設定できます。また、全従業員を加入させた場合、保険料は医院の損金として計上できますので、ご検討をお勧めします。

税務調査への対応について

№268:2011.9.1:495号

質問1

アポイントなしで突然、「税務調査をしたい」といって税務署員がやってきた場合、応じる必要はあるか。

突然の調査は断りましょう。税務調査は、強制調査(※1)を除いて、納税者の承諾が必要となる任意調査です。調査日は、先生の都合の良い日に決めることができます。所得税法第234条では、税務署員の質問調査権が認められており、正当な理由なく調査拒否することはできません。そのため税務署員は「帳簿を見るだけです。調査の拒否はできません」などと言ってきます。しかし、先生には、診療もあれば、家庭の用事もあります。このようなことは、突然の調査を断る正当な理由です。「突然来られても困ります。本日は、患者の予約(家庭の用事)があるからできません」と、はっきりと断りましょう。
※1 国税局査察部が行うもので、裁判所から捜査令状を取り、診療所や自宅に突然やってきます。この場合は、拒否することはできません。捜査の目的は証拠物件や書類を押収することで、多額で悪質な脱税容疑がある場合に行われます。

質問2

このたび、初めての税務調査(任意調査)が入ります。どのようなことに注意すれば良いでしょうか。

税務調査は「される」のではなく「させる」のが基本です。税務調査を行うには、必ず理由があります。したがって、まず理由を聞いて、何の調査をしたいのかを明らかにさせることが大切です。署員はさまざまな手法を使い、調査の範囲を広げてきます。「なぜ調査をするのか」「何を調べたいのか」その説明を求め、調査の範囲を限定させることが大事です。所得税法では、税務調査は「必要があるときは…」と規定されています。税務調査をうける際に、その理由を確かめることは、納税者として当然の権利です。
調査の当日は、ほとんどの場合、日常的な世間話から始まります。趣味の話や旅行の話などで、一見、税務調査に関係ない話に思えますが、税務署員は「税金」を意識して会話をしています。北海道に家族旅行した話を聞けば、その代金を診療所の経費で落としていないか見ているのです。何気ない会話でも、調査の糸口になる場合があります。雑談だからといって油断してはいけません。署員からの質問に対しては、判らなければ即答する必要はありません。曖昧な答弁は、かえって誤解を与えます。「調べて後日に返答します」で構いません。初めての税務調査に戸惑いや心配も多いことでしょうが、税務調査は、決して怖いものではありません。自信をもって、毅然とした態度で望むようにしましょう。

従業員に有給休暇の清算を求められたら

№267:2011.8.1:494号

質問1

従業員から有給休暇を買い取ってほしいといわれた。そのようなことは可能か。

有給休暇を買い取ることは、原則としてできません。そもそも「有給休暇」とは、休日とは別に従業員にまとまった休暇を有給で与えることで、心身の疲労を回復させ、労働力の維持を図ることを目的とした制度です。使用者は、採用の日から6ヶ月間継続して勤務し、かつ、8割以上出勤した従業員に対しては、最低10日(※1)の有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条)。それを買い上げてしまうということは、有休を付与させなかったことと同じであり、原則として禁止されています。しかし、法定の有給休暇の日数以上に、診療所が独自に有給休暇を与えている場合は、その法定日数を超過している部分について。また、時効により消滅してしまった2年以上前の有休分や、退職によって権利を行使できなかった分については、買い取ることは可能です。なお、例外的に買い取りが認められていても、法律上の義務はありません。
※1 パートタイムなどの短時間従業員は10日ではありません。

質問2

7月末で「退職したい」という従業員から、実質的勤務は6月までとし、7月末までは、すべて有給休暇をあてたいという。しかし、引き継ぎや他の従業員のことも考えると、そのような退職方法は断りたい。どのように対応すべきか。

このようなケースは、従業員とよく話し合う必要があります。退職予定者が残った有給休暇をまとめて請求した場合、診療所としてはこれを認めざるを得ない場合が出てきます。それは、有休の取得にあたり、使用者には労働基準法第39条4項に基づき別の日に変更してもらう“時季変更権”が認められています。これは退職予定日を越えて時季変更権を認めることはできないからです。つまり、退職日までの限られた期間に必ず有休を与える必要が出てくるのです。ご質問の対応としては、円滑な引き継ぎができるよう、その従業員とよく話し合う中で、診療所や周りの従業員のことも配慮するよう促し、理解と協力を求める必要があります。しかし、中には話し合いが上手くいかない場合もあると思います。そのような時の対応策として、消化できなかった有給休暇を買い上げるか、退職日を延期してもらい、その間に有休の消化をしてもらうなどの対応も視野に入れる必要が出てきます。「退職するのだから有休を与えない」などの対応は、労基法上では問題となってしまいます。有休の残がたくさんある従業員は勤勉であり、良いことではありますが、このような時に思わぬ対応を余儀なくされる場合があります。その事態を防ぐためには、日頃から診療所全体で計画的に有休を0消化しやすくする事が大切です。

歯科受診に大きな影響を与える「受診時定額負担」の導入に断固反対する理事会声明

2011年度第8回理事会

7月1日政府・与党は「社会保障・税一体改革成案」を閣議報告し、14日には細川律夫厚労大臣が「社会保障・税一体改革成案における改革項目の着実な推進について」を発表した。細川大臣は成案に対し「着実にその遂行を図る」と並々ならぬ決意である。

成案に盛り込まれている「受診時定額負担」は外来受診の度毎に、原則3割の窓口負担に一律に100円の定額を上乗せし、高額療養費の見直しの財源を捻出 することを目的としている。重症者の負担軽減の財源を軽症者が負担するとんでもない仕組みである。今でも高い窓口負担により多くの人が受診を手控えてい る。今以上の負担増は、さらなる受診抑制を引き起こし重症化をもたらすことは明らかである。

また、2002年の健保法改定時に、保険給付は「将来にわたり100分の70を維持する」としており、受診時定額負担は事実上これを反故にするものだ。一旦この制度が導入されれば、100円が200円、500円と増えていき、際限のない負担増につながりかねない。

保険診療を通じて国民の歯科医療に責任を持つ東京歯科保険医協会は、断じて容認することは出来ない。誰もが安心して医療を受けられるよう、窓口負担をゼロにすることを強く求めるものである。

労基署の来署依頼裁判所の労働審判

№266:2011.7.1:493号

質問1 労基署の「来署依頼」と「助言・指導」通知書など

従業員を解雇したら労働基準監督署(以下、「労基署」と略)から「来署依頼」という書面が届いた。どう対応したらよいか。

労基署は労働基準法をはじめとする労働法に関わる監督・指導を行う行政機関です。今回のケースは解雇された従業員が労基署に申告し、先生側から解雇の事情を聞くためのものとみられます。先生側からの聴取内容から、法律違反があるとみなされた場合は「是正勧告書」が、違反はないが改善の必要があるとみなされた場合は「指導票」が交付されます。いずれも後日どのように改善したかを確かめる報告書の提出が求められます。
労基署から来署依頼の通知が届いたら、まず協会に相談するようお勧めします。その中で労働者側や労基署がどの点を問題としているかを具体的にし、労基署への対応を考えたほうがよいと思われます。なお、実際には解雇の手続き(解雇予告手当の不払いや解雇予告期間の不足)や解雇理由の妥当性が問題となることが多いようです。
一方、労基署ではなくその上部機関である都の労働局から「助言・指導」や「あっせん」の通知書が届く場合もあります。これらは解雇や配置転換、いじめといった紛争の当事者双方から事情を聞き、解決を促進するためのものです。特にあっせんでは弁護士などの専門家が間に入り、具体的な解決案を提示します。なお、これらの決定には強制力はありません。また、指導・助言やあっせんに参加しないという選択も可能です(罰則もありません)。助言・指導やあっせんに参加したほうがよいか、決定に従ったほうがよいかなどはケースバイケースなので、あらかじめ協会でご相談することをお勧めします。

質問2 裁判所の「労働審判」とは

労働者との紛争の解決法として裁判所で行う「労働審判」というものがあると聞いたが、どのようなものか。

労働審判は労使の紛争を通常の裁判よりも早期に解決するために行われるものです。通常の裁判と違い、①原則3回(おおむね3ヶ月)以内に結論を出す、②裁判官のほか、労使の団体それぞれから選出された労働裁判員が審理に参加し、労働現場の実情に即した解決を図る―といった特徴があります。また、労働審判での結論は通常の裁判の判決と同様、強制力を持ち、相手方が従わない場合は強制執行を行うこともできます。
なお、当事者本人が労働審判に臨むことも可能ですが、通常は双方が弁護士を代理人として行うことが多いようです。
いずれにせよ、従業員を解雇すると労基署とのやりとりや労働基準局での助言・指導やあっせん、労働審判といった、先生方には手間のかかる事態に巻き込まれる可能性が高くなります。そうなる前に、従業員の採用の段階できちんとした人材を選ぶことをお勧めします。

厚労省は高裁判決を真摯に受け止め上告しないよう求める

東京歯科保険医協会
第五回理事会

5月31日に結審した溝部訴訟控訴審は、取消処分は、社会通念上著しく妥当性を欠くことは明らかであり、裁量権の範囲を逸脱したものとして違法となり、取 消を免れない」とした一審判決を支持するとの判決が言い渡された。これは国の裁量権が無制限ではないことを判断したものであり画期的判決であると高く評価 する。


個別指導、監査は健康保険法に規定されているが、運用については、法律ではない指導大綱や監査要綱で規定され、指導は任意であるとの行政手続き法の規定の外に置かれていた。

そのため、保険医の精神的圧迫は想像を絶するものがあり、東京をはじめ指導、監査を苦に全国で自殺者が続出し、社会的にも問題視されている。保険医協会 などのこれまでの取り組みにより録音や弁護士帯同がやっと認められるようになったが、依然として行政の裁量権の前に保険医の権利は無きに等しかった。当判 決は、その暗部に正面から光を当てたものである。

厚生労働省はこの判決を真摯に受け止め、最高裁に上告しないように求めるものである。

交通手段と交通費支給対象はどこまでか

№265:2011.6.1:492号

質問1

人身事故により交通機関が止まってしまった従業員が、タクシーで出勤した。そしてタクシー代の支払いを要求された。従業員は、「診療に影響を与えないためにタクシーを使った」と説明している。その費用は診療所が払わなければいけないのか。

従業員が自主的にタクシーを利用した場合は、原則的に負担する義務はありません。しかし、今回のケースは、「診療に影響を与えないためにタクシーを使った」とのことです。そこで考えなければいけないことは、もし、その従業員が遅れたことで、明らかに被害が発生する場合は、そのタクシー代は診療を行う上での必要な費用であったと考える必要があります。このような状況から生じたタクシー代は、診療所で負担することが望ましでしょう。しかし、今回の対応を機に、日頃からタクシーの使用が横行しても困りますので、診療所の中でタクシー使用のルール作りをした方が良いでしょう。
その際の留意点としては、タクシー使用の判断は、診療所長が行うこととし、事前許可制にすることが望ましいでしょう。

質問2

従業員が自宅以外のところから出勤してきた。このような場合、「通勤」に該当し、その分の交通費を支給する必要はあるか。

通勤とは労働法上、就業に関して住居と就業の場所との間を合理的な経路および方法により往復することをいいます。
一般的に「住居」とは「自宅」を言いますが、親の介護等でやむを得ず実家に戻ったり、交通機関のストライキでホテルに宿泊したりするような場合の実家やホテルも「住居」に含まれます。したがって、これらの住居から出勤した場合は、通勤に該当するため交通費は支給をすることが望ましいといえます。
ただし、前の質問と同じく、事前許可制とすると良いでしょう。

質問3

求人広告誌に「交通費を全額支給」と記載して従業員を募集した。面接等を行った結果、学生を歯科助手として雇うことにした。診療所は通学経路の途中にあり、通学定期で通うことができるが、それでも交通費は支給すべきか。

募集要項として「交通費を全額支給」と記載していたのですから、通学定期を持っていたとしても支給する必要があります。また、これは実際に診療所で運用している就業規則の記載の如何に関わらず、全額支給の義務があります。
ご質問のケースの場合、先生と従業員が話し合い、双方が合意した上であれば、交通費を支給せずに、通学定期を利用してもらうことが可能になりますが、募集要項と労働条件が変わりますので、あらためて文書による交通費の取扱いを通知する必要があります。くれぐれも、ご注意ください。

東日本大震災に伴う就業条件変更や見舞金等と税務

№264:2011.5.1:490号

質問1

東日本大震災後の患者減もあり、時給制のアルバイト従業員の勤務日数をこれまでの週4日から週2日に変更したい。法的問題はないか。

週4日勤務という労働条件を2日に変更する場合、労働時間が減少しますのでおのずと賃金額も減少します。このほか、年次有給休暇の付与日数も減少するなど、労働者側にとってかなりの不利益が生じます。こうした労働条件の不利益変更では、労使双方がきちんと合意しなければなりません。合意は口頭でも特に問題はありませんが、後々のトラブルを防ぐためにも合意書を取り交わしたほうがよいでしょう。

質問2

震災後、医院経営が思わしくないので、今年の夏の賞与について支給を見合わせたいと考えているが問題ないか。今春に採用したばかりの従業員の求人広告には、「賞与は年2回(夏・冬)」と記載したので、従業員から「約束が違う」と言われると考えられるのだが。

賞与の支給要件は労働契約書や就業規則で事業主(診療所)側が規定するものです。したがって労働契約書や就業規則で漠然と「賞与/年2回/7月・12月」といった記載をしていた場合は、支払う義務があるといえるでしょう。したがって、業績や勤務態度によって調整できるように「業績の著しい低下その他のやむを得ない事由がある場合には、支給しないことがある」といった“但し書き”を設けておくことが必要です。もし、そうした記載がない場合は、早い時期に就業規則などを改定することをお勧めします。

質問3

震災で診療所の建物にひびが入ったので修繕工事を行った。その工事費用は税務上、経費扱いになるか。また、これを機会に被災していない設備も補強工事を行いたいと考えている。この場合の工事費用はどうか。

建物などの資産が被災したことにより被災前の効用を維持するために行った工事の費用は、修繕費と考えられるので経費に計上できます(被災した資産の評価損を計上した場合を除きます)。一方、被災していない診療所の資産について耐震性を高める工事を行った場合は、その資産の使用可能期間の延長や価額の増加をもたらすため資本的支出に該当し、その工事金額は新たな減価償却資産の取得価額となります。

質問4

従業員の父母の家屋が被災したので、一定の見舞金を支給した。この見舞金は給与として源泉徴収等を行う必要があるか。

災害等の見舞金や香典などについては、その金額が社会通念上相当と認められるものであれば、課税の対象とはなりませんし、労働法上の「賃金」にも該当しないため労働保険や社会保険料の算定対象にも含まれません。また、源泉徴収を行う必要もありません。

東日本大震災を契機に生じた賃金問題

№263:2011.4.1:489号

質問1

2011年3月11日に東日本大震災が起きたが、その日は万一に備え、診療時間終了前に従業員を帰宅させた。このような場合、従業員の賃金の取扱いはどうすべきいか。

従業員が本来働く時間より早く就業を終了させた場合、その事情が医院の判断による終了であった時は、休業手当を支払う必要が出てきます。大地震という天災によって従業員を早く帰宅させたとのことですが、医院の設備等に直接的な被害があって、一切の診療ができないような事情でない限り、医院の都合による休業とみなされます。休業手当は、賃金と同じ扱いになりますので、通常の給与と一緒に支払うことになります。休業手当の金額は、地震前の労働時間分の賃金と合わせ、平均賃金の6割以上となればよいことになります。

一方、従業員から「家族が心配なので早退したい」といったような事情で帰宅した場合は、退勤以降の時間は賃金の支払いの対象外となります。

質問2

当院では地震のあと、交通機関が麻痺したこともあり、診療はしなかったが、従業員には夜まで診療所に待機してもらい、余震が落ち着いてから帰宅させた。このような場合、待機していた時間帯の賃金はどのような扱いとなるか。

待機していた時間帯になんらかの業務(清掃等の軽微なものも含む)をさせていた場合は、通常通り賃金の支払い対象となります。しかし、単に待機場所の提供にとどめた場合は、賃金の支払い対象とならないと考えられます。

質問3

地震後の日に交通機関が運休となってしまい、勤務しない日があったが、このような場合の給料の扱いは。

通勤が困難な状況を考慮して従業員に自宅待機を命じた場合は、休業手当として平均賃金の6割以上を支払う必要があります。しかし、従業員側から出勤できないので休みたい、といったような申し出があった場合は休業手当の支払い対象となりません。この場合、欠勤の扱いとするか、有給休暇の扱いとするかはお互いがあらかじめきちんと合意したほうがよいでしょう。

質問4

震災後に行われた計画停電のため、休診せざるをえなかった。この場合の賃金の取扱いは。

計画停電の時間帯を休診とする場合は、休業手当の支払対象となりません。しかし、停電の時間帯以外の時間帯の休診については、休業手当の支払い対象となります。

※前記4題の質疑回答はあくまで一般的なものであり、実際の取扱いは個々の事例によります。ご不明な点は、協会経営・税務部、もしくはお近くの労働基準監督署でご確認ください。

レセコン購入と節税対策/中小企業等投資促進税制について

№262:2011.3.1:488号

質問1

レセプトコンピュータを購入する予定だが、これに伴う節税対策があれば…。

ご質問に対しては、中小企業等投資促進税制が該当します。
これは、青色申告者について、二〇一二年三月三十一日までの期間内に機械装置等を購入した場合、特別償却または税額控除を認めるものです。
この制度は、パソコン等の器具備品で、取得価額百二十万円以上のものやソフトウェアで取得価額七十万円以上のものを取得した場合に利用できるもので「特別償却」と「税額控除」があります。
両方を選択することはできませんので、どちらか一つを選ぶことになります。まず、両制度の違いについて簡単に説明します。

【特別償却】

通常の減価償却額に加えて、取得価額の三〇%の減価償却費を多く計上できる制度です。減価償却費が多くなれば経費が増えますので、その分税金も減るという仕組みです。
しかし、取得年度のみ減価償却費を多めに計上できますが、その取得価額以上には経費計上はできないので、単に減価償却費の先取りに過ぎません。

【税額控除】

資産を取得した年度で取得価額の七%の税額を直接税金から控除する制度です。特別償却のように費用の先取りではなく、税金そのものを減額するものです。ただし、控除額は、本来払うべき税額の二〇%が上限です。限度超過額は翌年に限り繰り越せます。

【特別償却と税額控除の節税効果】

利益や税額、また対象資産の取得価額により異なりますので、一概にどちらが有利といえるものではありませんが、「特別償却」は、早期償却を認めるという減価償却制度の特例です。したがって、取得した年には、減価償却費が増加することで所得が減少するため節税効果があります。
しかし、翌年以降は、早期償却した分だけ普通償却が減ることになり、その分だけ税金が増えることになります。よって、償却期間全体で見た場合、節税効果はなくなることになります。
一方、「税額控除」は、取得価額に七%を乗じた金額を税額から控除して、翌年以降の増税は生じないため、「特別償却」と比較して有利になる可能性が高いといえます。
しかし、その年が赤字で税金が生じない場合は、「税額控除」を適用してもメリットがありません。そのような場合は、「特別償却」を適用することで、減価償却費が増え、さらに赤字が増えることになりますが、赤字額を三年間(個人の青色申告の場合)繰り越せるメリットがあります。つまり、将来の利益と相殺できることになります。

材料価格高騰の実態に追いつかない金パラ改定に抗議する

東京歯科保険医協会
2010年度第21回理事会

中央社会医療協議会は1月21日の総会で歯科用鋳造金銀パラジウム合金(金12%以上JIS適合品)の公示価格を現在の1グラム802円から76円増の 878円に引き上げることを決めた。これは半年に一度行われる随時改定によるもので、材料価格の変動幅が±5%を超えたために行われるものである。

しかし現在、市場価格は1グラム900円台後半から1000円台で推移しており、改定後の価格であっても医療機関が市場価格と公示価格の差額を負担しな ければならず、大幅な赤字=逆ざやとなってしまう。こうした材料価格の逆ざやを医療機関に押しつける改定方法は改めるべきであり早急な改善を求める。

前回の随時改定時には、基準となる期間終了間際に材料費が値下がりしたため、改定が小幅となり価格改定後もなお逆ざやが続いた。さらに今回も逆ざやが解 消されないため、実質的な逆ざやは1年以上続くこととなる。逆ざやであることを承知の受け入れなければならないと言うことは、経済上も精神上も耐え難いも のである。

医療機関が不要な財政負担をしなくても済むよう、早急に改定ルールを見直すよう要求する。

医療費控除etcおよび特措法差額の記帳

№261 2011.2.1:487号

質問1 領収書再発行の求めへの対応

患者さんから「領収書の再発行をしてほしい」と言われた。このような場合、領収書を再発行してかまわないものか。

同様の質問が多数寄せられていますが、領収書を再発行すべき義務はまったくありませんので、やんわりとお断りして下さい。できれば、「領収書の再発行は致しかねますので、領収書は大切に保管して下さい」と院内に掲示しておくとよいでしょう。

質問2 措置法差額は青色申告書のどこに書けばよいか

措置法差額は青色申告決算書のどこに書けばよいか。また、自費分経費が多くなるほど有利になると考えてよいか。

45番の「所得金額」欄下の空白部分に書いて下さい。措置法を選択する場合は、保険診療分経費と自由診療分経費とに明確に区分して記帳することが大事です。そして自費分経費が多くなればなるほど、措置法差額が大きくなり節税効果が高まります。 ただし、この場合の保険収入は「点数×10円+単独公費負担医療」で計算した金額としなければいけません。

税務調査の根拠とカルテ等の扱い

№260 2011.1.1:486号

質問1

税務署から「税務調査を行いたい」と電話があったが、そもそも税務調査とはどのようなものか。必ず応じなければならないのか。

結論から先にいいますと、応じることになります。税務調査には「強制調査」と「任意調査」の2種類があります。強制調査とは、国税局査察部(通称「マルサ」)が行うもので、裁判所から捜査令状を取り、診療所や自宅に突然やってきます。捜査の目的は、証拠物件や書類を押収することで、多額で悪質な脱税容疑がある場合に行われるものです。 これに対して「任意調査」は、税務署が行うものです。ほとんどの調査は、この「任意調査」と呼ばれるものです。事前に電話で調査の予定日を知らされる場合がほとんどです。調査の目的は、納税者の申告内容を確認するために行われるものです。任意のため、原則は納税者の承諾が必要ですが、税務署員には所得税法第234条に基づく質問調査権が認められており、正当な理由なく調査拒否することはできません。しかし、事前通告がない場合など、無条件に調査を受けなければならない義務はないため、調査日の指定は、先生の都合の良い日に決めることができます。予告のない調査や都合の悪い日の調査は断りましょう。関連する判例を以下に紹介します。

〈 東京地裁昭和43年1月31日判決 〉

「税務調査は営業や私生活の平穏を乱すものであるから、税務署員は事前通知したうえ調査するのが当然である」。