広報・ホームページ部

「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望①(佐藤一樹氏)

第1回  確認訴訟:提訴の決意と弁護団結成

オンライン資格確認を療養担当規則で原則義務化するのは違憲だ―。全国の医師・歯科医師ら1,415人が、義務の無効確認などを国に求めた訴訟が現在も続く。今回から複数号にわたり、訴訟ワーキンググループの原告団事務局長で、東京保険医協会理事の佐藤一樹氏(いつき会ハートクリニック)に、訴訟の現状と今後の行方を展望していただく。

「提訴からの進捗と展望」(本連載)はコチラから

1 提訴の決意

2021年8月、健康保険法にマイナンバーカードによるオンライン資格確認が追加され、国民が医療機関を受診する際には、健康保険証かマイナンバーカードのいずれか任意の方法で資格確認を行うことになった。

ところが、2022824日、厚生労働省と三師会が合同開催したオンライン資格確認等システムに関するウェブ説明会で、保険局医療介護連携政策課長は、「厚生労働省令〔同年95日保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)〕により202341日からオンライン資格確認が義務化される。医療機関がオンライン資格確認を導入しない場合、療担規則違反になる。療担規則に違反することは、保険医療機関の指定取消し事由になる」旨を発言した。

法令にない「指定取消し」を錦の御旗にしての脅しだ。国を提訴し、司法の場で違法性を明らかにする、と私たちは決意した。

2 日本の弁護士「いの一番」

国民が国などの公権力を相手に起こす行政訴訟は、原告勝訴率が数%の難関だ。例えば「マイナンバー制度違憲訴訟(注/1)」は全国8カ所で提訴され、すべて敗訴した。勝訴のためには、どれほど評判の良い弁護士だと言われていても、行政訴訟で勝訴実績がないのなら頼まない。

私たちの行政訴訟は、2種類ある当事者訴訟のうち「確認訴訟」に分類される。確認訴訟は2005年4月1日施行「平成16年改正『行政事件訴訟法』」で初めて「公法上の法律関係に関する確認の訴え」と条文化された。同年9月14日、最高裁大法廷で新法施行後、確認訴訟では最初の原告勝訴判決が出た。「在外日本人選挙権剥奪違法確認等事件」である。これが、国民の権利利益の実効的救済を図る上で、確認訴訟の活用の有効性を示す嚆矢(こうし)となった。憲法訴訟・行政訴訟の歴史に燦然(さんぜん)と輝くこの訴訟の弁護団長が自由人権協会代表理事の喜田村洋一先生である(右写真)。

当時、朝日新聞は1面に連載「日本の弁護士」を開始し、いの一番に喜田村先生を選んだ。刑事事件では数々の無罪を勝ち取り、日本の民事名誉毀損裁判の規準を創り、憲法訴訟では有名な「レペタ訴訟」も担当したオールラウンダーである。2022年9月、東京保険医協会理事会で私は「この行政訴訟の主任弁護士は喜田村先生しかいない」と主張し、全員一致で可決された。

弁護団には、在外日本人選挙権剥奪違法確認等事件で喜田村先生の右腕だった二関辰郎先生も入り、牧田潤一朗先生、小野高広先生の4人体制となった。全員が自由人権協会の主要メンバーである。

(注/1)マイナンバー制度がプライバシー権を侵害し、違憲であるなどとして仙台、新潟、金沢、名古屋、東京、神奈川、大阪、福岡の各地で行われたマイナンバー関連の訴訟

3 私たちの訴え2023年2月22日の第一次提訴から

第三次提訴までに原告は1,415人となった。なお、当時、健康保険証の廃止は立法化されておらず、訴訟外の事案である。私たちの訴えの柱は、以下の2本である。

(1)オンライン資格確認義務のないこと、すなわち、患者から電子資格確認により療養の給付を受けることを求められた場合に、①電子資格確認によって療養の給付を受ける資格があることを確認する義務がないこと、②電子資格確認によって療養の給付を受ける資格があることの確認ができるようあらかじめ必要な体制を整備する義務がないことをいずれも確認すること。

(2)「違憲・違法なオンライン資格確認を義務化した療養担当規則の制定や関連する政府の動きのため、保険医療機関の閉鎖を含めた対応を余儀なくされる可能性など、自己の職業活動、その継続に対する不安のため精神的苦痛を受けたこと」に対し、各原告に、金10万円を支払え。重要なことは、オンライン資格確認自体には反対してない点だ。

一方、政府発表の「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」「医療DXの推進に関する工程表」では、情報保護の安全性に問題がある。この前提となるオンライン資格確認について、十分なシステムの構築をしないまま、違法な省令によって、保険医に対し強権的に「義務づけ」したことについて訴えている。

(つづく)

【プロフィール】
佐藤 一樹(さとう・かずき)

1991年3月、国立山梨医科大学医学部卒業。同年4月、東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器小児外科入局。19994月同科助手。200912月、いつき会ハートクリニック理事長・院長。専門は心臓血管外科、小児心臓外科。学位:医学博士。著書に「医学書院医学大辞典」(第2版)医学書院(2009年)他、多数。

東京歯科保険医協会 第52回定期総会開催のご案内

東京歯科保険医協会 第52回定期総会開催のご案内

東京歯科保険医協会第52回定期総会を下記の通り開催致します。

日時

 Ⅰ 総会
◆開催日時 2024年6月16日(日)午後2時30分~7時45分
◆開催場所 主婦会館プラザエフ(住所:東京都千代田区六番町15)
      ※交通:JR中央線四ツ谷駅麹町口より徒歩1分。東京メトロ丸ノ内線・南北線四ツ谷駅より徒歩2分

◆総会議事 午後2時30分~4時15分(7Fカトレア)
◆議  案
 第1号議案 2023年度活動報告の承認を求める件
 第2号議案 2023年度決算報告の承認を求める件
       (付・会計監査報告)
 第3号議案 2024年度活動計画案承認の件
 第4号議案 2024年度予算案承認の件
 第5号議案 選挙管理委員承認の件
 第6号議案 決議採択の件

Ⅱ 記念講演
◆時 間 午後4時30分~6時00分(7Fカトレア)
◆テーマ 
「2024年度改定を考察し、今後の歯科医療を展望する」
講師:坪田 有史 氏(東京歯科保険医協会 会長)

Ⅲ 懇親会
◆時 間 午後6時15分~7時45分(B2Fクラルテ)
※6年ぶりの懇親会開催です。会員であればどなたでもご参加いただけます。ゲストも多数お越しになりますので定期総会と記念講演の終了後には、ぜひお越しください。

退き際の思考 歯科医師をやめる/「一生働けるわけではない」医院継承の〝反省〟(中野多美子さん【前編】)

【 退き際の思考 歯科医師をやめる/「一生働けるわけではない」医院継承の〝反省〟】

中野多美子さん(元協会会員) ― 前編 後編はこちら

 今回から、歯科医師としての〝引退〟に着目した新たな企画を連載します。すでに歯科医療の第一線を退いた先生や、引退を考えている先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、医院継承の苦労、現在の生活などを深堀りします。
 初回は、40年以上もの間、歯科医療に携わり、現在はあきる野市でワイナリー「ヴィンヤード多摩」の専務としてセカンドキャリアを歩む、中野多美子さん。反省する部分があったという医院継承や、異業種へ飛び込んだ現在の暮らしについて、2回にわたり掲載します。

―単刀直入に、歯科医師を引退しようと決めたきっかけは?

若い頃には想像がつかなかった身体的な衰えを実感したことです。例えば、腱鞘炎や視力の低下、また、海馬の衰えによる記憶力の低下です。はじめの頃は、身体の衰えを受け入れられなかったのですが、だんだん老化を認めるようになりました。若い頃にはなかった別のストレスが増え、疲労度も増してきました。そうしたことが積み重なり、真剣に引退を考えましたね。

―歯科医師の場合、視力の低下は特に影響が大きいと思います。

周囲の他科の先生方を見ていると、他科と比べて歯科は手先の動きや目の動きも多いため、引退は早い印象があります。


―周囲には相談されましたか。

具体的に周囲に相談したことはないですが、歯科医師会の先生方とお会いするときに、引退の話はよく話題に上りました。同期の先生方の中には、引退された先生、診療時間を短縮された先生が何人もいらっしゃいました。私だけが特別ではなく、年齢とともに出てくる話だと思いますから、受け入れるしかないと改めて感じました。

「関係がギクシャク…」医院継承を振り返る

―現在は医院を継承されているということですが、そのあたりのお話について教えてください。

継承は、医療人生の中で最後の大きな仕事です。一生働けるわけではありませんので、うまく引き継いでいかなければなりません。60歳頃から継承を考えはじめ、以前から後を継いでくれることになっていた娘夫婦に、具体的に相談していきました。本人たちは、もう少し外でキャリアを積みたかったようですが、お願いして医院に戻ってもらいました。
しかし、実際に医院に戻ってもらうと、診療スタイルの違いが明確に出てきました。「40年培ってきた自分のキャリアは間違っていない」という自負がありましたので、当人たちの診療スタイルを自分の方に近づけようとしました。それが軋轢となり、関係がギクシャクしていきました。スタッフも不安になって、退職される方もいました。今思えば、自分のキャリアに固執して、皆を苦しめたことを反省しています。医院を引き継ぐことと、診療スタイルをどこまで引き継ぐかという点は、棲み分けをもっと上手にできればよかったと思います。
そんな訳で、自分の影響力を無くし、新しい先生が診療しやすくするためには、速やかに引退して、一切口出しをしない、姿を現さないことに決めました。「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」です。今は安定した医院の運営をしています。

―中野先生が担当していた患者さんはどうされましたか。

歯科は口腔内という身体に接触する治療ですので、患者さんと深く関わることが多く、引退をお伝えすると『先生辞めないで』と言われることが多々ありましたが、その時は「後を継いでくれる先生をよろしくお願いします」とお答えしました。継続して来院される方も、そうでない方も、新しい先生との相性もありますので、そこは継いでくれる先生にお任せしました。そうして新しい先生のスタイルの医院になってゆくと思います。
(つづく)

後編を読む)

バックナンバーはこちら(退き際の思考 歯科医師をやめる)

「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2023年12月1日号)

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)5月1日

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)5月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)5月1日

【新聞5月号】

【1面】

1.“複雑改定”歯科医療改善には不十分 6月1日施行迫る
2.在宅医療に特化 第2回新点数説明会第52回定期総会のご案内
3.第52回定期総会のご案内
4.探針
5.ニュースビュー

【2面】

6.理事会声明「理解が困難な改定 必要な歯科医療が提供できる改定を切望する」
7.地域医療部長談話「患者を最期まで診るために求められること」
8.2024年度診療報酬改定 在宅医療の主なポイント


【3面】

9.2024年度診療報酬改定情報 歯科はこうなる/一問一答と施設基準を解説

【4面】

10.経営・税務相談Q&A No.416「6月以降事業主は忘れずに対応を!定額減税①」
11.5月会員無料相談のご案内

【5面】

12.2024年度診療報酬改定新点数説明会
13.研究会・行事ご案内

【6面】

14.退き際の思考 歯科医師をやめる/(石田昌也さん・前編)「息子の方が優れていた」親心溢れる父の“潔さ”
幼少期から育んだ信頼関係で医院託す
15.2024年6月版「歯科保険診療の研究」/発送は6月末頃
16.「2024年改定の要点と解説」/正誤表は随時更新中 ぜひチェックを

【7面】

17.連載「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望①/(佐藤一樹氏)第1回確認訴訟:提訴の決意と弁護団結成
18.締切間近/まだ、間に合う/春の共済申込期間 5月25日(土)まで

【8面】

19.2024年度6月施行診療報酬改定/カルテおよびレセプトに使用できる略称(抜粋版)
20.2024年4月1日以降の麻酔薬剤料、P処に係る特定薬剤、薬価等について
21.2024年4月協会活動日誌

【9面】

22.症例研究「2024年度診療報酬改定を踏まえて―クラウン・ブリッジ維持管理料(補管)の対象補綴物の縮小」

【10面】

23.教えて!会長!! Vol.82「自動練和型・接着性レジンセメントの点数アップ」
24.4月からすでに実施 2024年度の「個別指導」/指導通知が届いたら協会に連絡を
25.会員が見た診療報酬改定「現場との乖離を感じる」(小林顕氏)
26.理事会だより/2023年度第23回・2024年度第1回(暫定)理事会

【11面】

27.マイナ保険証の利用率 いまだ5.47% 厚労相、それでも「健康保険証廃止」と強弁
28.神田川界隈「食」(加藤開・副会長/豊島区)
29.会員が見た診療報酬改定/「現場との乖離を感じる」(川本弘氏)

【12面】

30.新連載「マイナ保険証の〝失態〟を追う~このまま見過すことはできません~」/第2回「『便利さ』を置き去りにした普及活動は無意味(荻原博子さん/経済ジャーナリスト)
31.窓口で「期限切れ」表示が―マイナンバーカード電子証明書等の有効期限に注意
32.健康保険証を残すべく―お手元の署名用紙は5月中に協会へ!

【13・14面】

33.春の共済キャンペーン

【教えて!会長!! Vol.82】自動練和型・ 接着性レジンセメントの点数アップ

【教えて!会長!! Vol.82】自動練和型・ 接着性レジンセメントの点数アップ

自動練和型・ 接着性レジンセメントの点数アップ

6月から接着性レジンセメントの保険点数が変わるそうですが、具体的に。

 6月1日施行の診療報酬改定で、特定保険医療材料の材料価格(使用歯科材料料)の見直しが行われ、接着性レジンセメントの保険点数が一部変更されます。6月1日施行前の5月末までは、歯科用合着・接着材料Ⅰのレジン系の点数は、ハンドミックスの標準型と自動練和型は、ともに17点でしたが、標準型は17点と変わらないものの、自動練和型が38点へと21点アップします(表1)。

※東京歯科保険医協会に未入会の先生は入会をご検討ください(入会資料請求はこちら

保険における接着性レジンセメントの定義は。

 表2に接着性レジンセメントの機能区分による定義を示します。標準型と自動練和型とは、この定義で分類されます。この分類が初めて提示された2018年度診療報酬改定の際、自動練和型の点数を上げる財源を確保するために標準型の点数を下げる可能性があると考えました。そこで厚労省に対して、標準型の点数の17点では、使用するセメントによっては、使用の度に赤字になります。しかし、歯科接着によるメリットを考え、修復、補綴する歯のため、そして患者さんのために接着性レジンセメントを選択していることを伝え、17点から点数を下げないよう訴えました。今次改定で、標準型の17点は変わらず、自動練和型が適正な評価に近づいたと理解します。しかし、特定保険医療材料の材料価格は、実勢価格とイコールであるべきなので、標準型の17点は理解できません。この不合理を正すため、次期改定に向けて検討し、行政に働きかける所存です。

【東京歯科保険医協会】診療報酬改定 特設ページ

現在、自動練和型のセメントは?

 表3に38点を算定できるセメントを示します。会員の先生方におかれましては、6月施行に向けて間接法による修復物・補綴物の装着用セメントを検討されることを望みます。

  東京歯科保険医協会
会長 坪田有史
(東京歯科保険医新聞2024年5月号掲載)

過去の「教えて!会長!!」はこちら

第1回新点数説明会の動画はコチラから(会員限定、デンタブックへの登録が必要です。)

1400人超参加…第1回新点数説明会の様子をチェック!

【教えて!会長!! Vol.81】2024年度診療報酬改定補管の範囲を縮小へ

【教えて!会長!! Vol.81】2024年度診療報酬改定補管の範囲を縮小へ

2024年度診療報酬改定補管の範囲を縮小へ

◆2024年度診療報酬改定で、補管の範囲が縮小されますね。

 今次改定で、クラウン・ブリッジ維持管理料(略称「補管」)の範囲が縮小されます。

具体的には3/4冠(前歯部の単冠)、4/5冠(小臼歯部の単冠)、全部金属冠(小臼歯および大臼歯の単冠)、レジン前装「教えて!会長!!」過去の連載はこちら金属冠(レジン前装チタン冠を除く)が補管の対象外になりました。なお、すべてのブリッジ、HJC、CAD/CAM冠、チタン冠、レジン前装チタン冠は、引き続き補管の対象です。

ただし、246月1日の改定施行前の531日までに補管を算定した前述の歯冠修復物は補管の対象となり、2年間の縛りがあります。

◆補管の対象を決めた根拠は、どのようなものだったのでしょうか。

 明確な根拠は分かりません。そこで、このスクラップで確保できる財源を調べてみました。22年(令和4年)の「社会医療診療行為別統計」を見ると、6月分における単冠の補管(100点)の算定は937576回で、この数字からHJC、CAD/CAM冠、チタン冠、レジン前装チタン冠の回数を引くと572855回となり、単純に12カ月分として12をかけると6874260回となります。補管の対象ではない歯科用金属アレルギー患者に装着されたクラウンの数を考慮すると、約680万の補綴物が今回の対象となり、このスクラップにより約68億円の財源が生まれたことになります。

今次改定の歯科改定率は、プラス0.57%と発表されましたが、賃上げ対応分を除くと技術料としての引き上げ分は、前回改定のプラス0.29%よりも低い数値であることが推測されます。さらに、その引き上げ分のうちマイナ保険証活用の推進などの目的で「医療情報取得加算」「医療DX推進体制整備加算」が新設されたため、技術料の引き上げ分の予算はかなり少ないのでしょう。そこで、財源を捻出するために補管が縮小されたのではないでしょうか。

また、231215日開催の中医協総会の資料には、この縮小の根拠となっている論文を示しており、「臼歯部修復物の予後を調査した研究において、金属歯冠修復(4/5冠、メタルクラウン)の平均生存期間は3000日を超え、5年生存率は約8割であったとの報告がある」と記載されています。しかし、この記載のどこに、金属歯冠修復物の補管のスクラップの根拠があるのでしょうか。

なお、この論文は、991月から053月の期間に1カ所の歯科診療所(札幌市)において、修復物治療を受けた95人、649歯(臼歯)に修復物を用いた治療を行い、その後、定期健診やその他の治療で1回以上来院した患者の診療録に基づく後ろ向きな観察研究です。

このような研究デザインの結果を、歯科医療に大きな影響を与える改定のエビデンスとして採用していることに違和感があります。28年前の96年度診療報酬改定の際、2年間の再製作を縛る補管が新設されました。その背景は、財源確保でした。金属歯冠修復物の2年間の縛りがなくなることによる影響は注視する必要があります。補管が新設された当時の経緯を認識した上で、良識ある対応が望まれます。

過去の「教えて!会長!!」はこちら

 

                            東京歯科保険医協会

                            会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞41日号掲載)

6月1日施行  2024年度診療報酬改定情報:歯科はこうなる/一問一答と施設基準を解説

6月1日施行 2024年度診療報酬改定情報:歯科はこうなる/一問一答と施設基準を解説

 厚生労働省から6月1日施行の2024年度診療報酬改定に関する疑義解釈等が通知された。 今回は、協会に寄せられている質問の中で、特に多い施設基準の経過措置の考え方やベースアップ評価料などに対する主な疑義解釈(一部改変)を紹介する。

【歯科外来・在宅ベースアップ評価料】

厚労省のホームページに「令和6年度診療報酬改定における賃上げ」についての特設ページが開設された。必要となる届出は、関東信越厚生局東京事務所の専用メールアドレスにExcelファイルを添付し、提出する。なお、メールアドレスを持っていない等やむを得ない事情がある場合には、書面でも提出ができる。また、対象となる「その他医療に従事する職員」には、「専ら事務作業を行うもの」は含まれないことが示されている。

 【歯科外来診療感染対策加算】

2024年3月31日までに歯科外来診療環境体制加算1(外来環1)の届出をしている医療機関等においては、2025年5月31日までに再度届出をすれば良いことが示された。

 【口腔管理体制強化加算】

口腔管理体制強化加算(口管強)の要件となっている研修内容が明確になった。また、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)の施設基準を届け出ている場合には、2025年5月31日までに追加された研修内容(「根面う蝕の継続管理」、「小児の心身の特性」)のみを受講すれば良いことが示された。

【口腔機能指導加算(歯科衛生実地指導料)】

実地指の口腔機能指導加算(口指導)について、口腔機能発達不全症や口腔機能低下症の確定診断がなくとも、口腔機能管理の必要性があり、指導を実施した場合は算定でき、病名は「口腔機能管理中」とすることが示された。

 【「みなし期間」が設けられている主な施設基準】

【荻原博子さん連載】マイナ保険証の〝失態〟を追う ~このまま見過すことはできません~/第2回「便利さ」を置き去りにした普及活動は無意味

【荻原博子さん連載】マイナ保険証の〝失態〟を追う ~このまま見過すことはできません~/第2回「便利さ」を置き去りにした普及活動は無意味

第2回「便利さ」を置き去りにした普及活動は無意味

前回の記事で、もし「マイナ保険証」が、利用者にも医療機関にも便利で安心できるものであれば、自然に利用率は右肩上がりになるはずと書きました。それなのに、不便さはそのままで、政府はさらに普及のための「アメ」のバラマキを加速します。厚生労働省は今年1月、マイナ保険証利用1件あたり20120円を医療機関に支給する制度を実施しましたが利用率は上がらず、3月時点の利用率は5.47%と低空飛行。

そこで、5月から7月にかけて「マイナ保険証利用促進集中取組月間」を設け、利用した人数の増加に応じて、診療所や薬局ならば最大10万円、病院ならば最大20万円の一時金を1回限りで支給します。病院も経営が苦しいところが多いので、たとえ1回限りでも魅力的かもしれません。けれどもその一方で、マイナ保険証を持ってこられてトラブルが起きると、その対処で業務が妨げられる恐れがあり病院としても痛し痒しでしょう。

◆能登では災害にマイナカードではなくSuicaを活用

マイナンバーカード(以下、マイナカード)の不便さは、今年1月に起きた能登半島地震でも証明されました。政府は、「マイナカードは災害の時に役に立つ」とさかんに宣伝していましたが、能登半島地震では、マイナカードではなくJR東日本が発行しているSuica(スイカ)が活用されました。理由は、「(NFC)Type―Bに対応したカードリーダーが用意できなかったため」と言っていますが、民間のJR東日本は即座に約350

台のカードリーダーと約1,8000枚のSuicaを提供できるのに、なぜ国民全員に持たせようとするマイナカードのカードリーダーを政府が用意できないのでしょうか。

デジタル庁の河野太郎大臣は、「災害ではマイナカードが活躍する」と言い、「マイナカードと一緒に避難して」と言っていましたが、地元からは「電気も電波もないのに、どうやって使うんだ」といった声が続々と上がりました。このカードがあって良かったという声を、私は聞いたことがありません。

ちなみに、厚労省は地震直後の事務連絡で、災害救助法を適用してマイナカードがなくてもオンライン資格確認を導入している医療機関・薬局で、患者の薬剤情報・特定健診情報などの医療情報を特例として閲覧できると通知しています。しかも、災害時の被災者の薬歴・既往症などの情報は、各保険者から提供される仕組みも確立されています。

ですから、カードを探している内に被害に遭う、あるいは最悪の場合、命を落とすリスクを考えたら、命を第一に即刻逃げるほうがいいのは明らかです。

◆意味のないマイナカードの実証実験

Suica導入が公表された約1カ月後、政府は横浜市内でマイナカードを使った避難所入所のための実証実験をしました。デジタル庁や神奈川県内の自治体職員約80人が参加して、避難所の入所手続きでどれくらいの差が出るのかを測ったのです。結果、紙への入力と比べ所要時間を約10分の1に短縮できたそうですが、平時に職員80人を業務として参加させる実証実験を大々的に行うことに、何の意味があるのでしょうか?

なぜなら、命からがら避難所に逃げ延びた人の中には、マイナカードを持っていない人も多い、持っていても使い方がわからない人もいる。顔に怪我をして顔認証がされなかったり、暗証番号を忘れてしまった人もいるでしょう。停電でカードリーダーが使えなかったり、そもそもネット環境もないところも多い。

こうしたリアルな被災地の状況を完全に無視し、本当の便利さを置き去りにし、「手書きより早い」などと宣伝するのはナンセンス。単に震災を宣伝材料に使っているだけと感じるのは、ひとり、私だけでしょうか?

◆「東京歯科保険医新聞」2024年5月1日号12面掲載

【全文を読む】第2回「便利さ」を置き去りにした普及活動は無意味

 

 

経済ジャーナリスト 荻原 博子

プロフィール:おぎわら・ひろこ/経済ジャーナリスト。家計に根ざした視点で経済を語る。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞・経済誌などに連載。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。近書に「マイナ保険証の罠」(文春新書)、「マイナンバーカードの大問題」(宝島社新書)など。

 

 

 

 

 

 

 

【荻原博子さん新連載】マイナ保険証の〝失態〟を追う ~このまま見過すことはできません~/第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています

【荻原博子さん新連載】マイナ保険証の〝失態〟を追う ~このまま見過すことはできません~/第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています

第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています

 経済ジャーナリスト・荻原博子さんによる「マイナ保険証の〝失態〞を追う〜このまま見過すことはできません〜」。運用開始以降、トラブルが相次ぐ〝マイナ保険証〞をテーマに、経済分野の専門家の視点からマイナンバー問題の根幹にあるものや、その行く末について10回にわたり解説していただく。

 昨年4月の利用率6.30%が、調査のたびに下がって12月には4.29%と8カ月連続の低下。さすがの政府も慌てて、医療機関に「マイナ保険証」の利用を促進させるためのアンケートを行いました。実はこのアンケートが、国からの「嫌がらせ」とも受けとれることから問題になっています。

これは「マイナ保険証利用促進状況に係るアンケートのお願い」というもの。「マイナ保険証」を普及させるために、どんな取り組みをしているのかを各医療機関に聞いています。何らかの取り組みをしているところは、そのままアンケートに答えて次に進むことができますが、問題は、何もしていないところ、もしくは面倒なのでなるべくマイナ保険証を使ってほしくない行動を取っているようなところは、このアンケートに答えられないこと。

普通のアンケートなら、「答えない」という選択ができるようになっています。しかし、このアンケートの画面には、答えない人が画面を閉じるマークや画面をスキップする機能がない。しかも、支払基金にレセプトを送る時にこのアンケートが出てくるので、答えないと、レセプト提出画面にたどり着けないのです。

◆不便さは改善せぬまま、利用率向上で金をばらまく

このアンケートは、各医療機関の「マイナ保険証」への取り組みを調べるというよりも、これによって間接的に医療機関から患者に「マイナ保険証」の利用を呼びかけさせたい意図があります。「マイナ保険証を積極的に使うよう呼びかけない医療機関に対して、レセプトを盾にとった脅しをかけている」と言う医師もいます。

その一方で、利用率を上げた医療機関に対しては、支援金を支給したり、診療報酬の加算も検討する。つまり、「マイナ保険証」を普及させるための、あからさまな「アメとムチ政策」です。こんなあからさまな方法を取らなくても、「マイナ保険証」が患者にも医療機関にも便利で安心できるものだったら、自然に利用率は右肩上がりになるはずです。

ところが、「マイナ保険証」を使おうとすると、顔認証がされなかったり、暗証番号を3回間違えると使えなくなるなどのトラブルや不便さがあり、そこで使えなくなった人が10割負担にならないように「被保険者資格申立書」を書いてもらうと、そこには保険証の有無や保険種別、保険者等名称、事業所名、保険証の交付を受けた時期、一部負担金の割合など6項目の書き込み枠があります。ほとんどの人は答えられないので、「□わからない」にチェックすると思いますが、「わからない」にチェックされたところは、後から医療機関が可能な限り調べなくてはならないのです。それが大変なので、最初から「マイナ保険証」など使わないでほしいと思っている医療機関が多いでしょう。

◆官庁でも使われない「マイナ保険証」

政府が税金を使って本当にやらなくてはいけないのは、「マイナ保険証」の利用率向上のために医療機関に対して「アメとムチ」を振るうことではなく、「これまでの保険証よりもずっと便利だ」とみんなが言うくらいに使い勝手を改善すること。また、いまだに健康保険証の情報が、住民基本台帳と一致しないケースが87万件もある(2024年1月28日、NHK報道)というのも論外です。

ちなみに、官庁での利用率は、管轄する総務省が6.26%、法務省が4.88% 、厚生労働省の第一共済組合が5.98%で第二共済組合は3.96%という状況。内閣府や農林水産省など4省庁が5%台、文部科学省や法務省4%台、外務省3.77%、防衛省2.50%という低さ(229日、第175回社会保障審議会医療保険部会)。自分たちが使わないものを、一般の病院や患者に使わせるのは筋違い。みんなが使いたいと思う便利なものにできないなら、いっそ廃止したほうが、税金の無駄遣いにならずに済むのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12【全文を読む】第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています

◆「東京歯科保険医新聞」2024年4月1日号12面掲載

 

 

経済ジャーナリスト 荻原 博子

プロフィール:おぎわら・ひろこ/経済ジャーナリスト。家計に根ざした視点で経済を語る。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞・経済誌などに連載。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。近書に「マイナ保険証の罠」(文春新書)、「マイナンバーカードの大問題」(宝島社新書)など。

在宅医療に特化/第2回新点数説明会に500人参加

在宅医療に特化/第2回新点数説明会に500人参加

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※東京歯科保険医協会に未入会の先生は入会をご検討ください(入会資料請求はこちら

池川裕子理事

協会は4月25日、2024年度診療報酬改定に伴う第2回新点数説明会をなかのZERO大ホールで開催し、会員やスタッフほか約500人が会場に足を運んだ。
計3回開催される新点数説明会のうち、在宅医療をテーマにした今回は、歯科訪問診療料など在宅医療に関する診療報酬改定のポイントを中心に解説した。歯科訪問診療料や、訪問歯科衛生指導料については2面で詳報しているのでぜひご覧いただきたい。
冒頭で挨拶した坪田有史会長は、「今次改定は複雑だが、診療報酬を学び、理解を深めてほしい」と呼びかけた。講師は、馬場安彦副会長、池川裕子理事が務め、参加者は熱心に耳を傾けた。終了後のアンケートには「カルテ内容が例示されており、わかりやすい」「スライドを用いて聞きやすかった」などの言葉が並んだ。

馬場安彦副会長


今次改定に伴う新点数説明会は残り1回。第3回新点数説明会は5月20日㈪、同じくなかのZERO大ホールで開催。6月1日施行に向け、疑義解釈や保険請求上の留意点を踏まえた内容を予定している。施行直前の開催ということもあり、すでに多くの申し込みがある。参加希望の方は、参加申し込みページからお早めにご予約いただきたい。詳細は協会までご連絡を(03-3205-2999)。

第1回新点数説明会の動画はコチラから(会員限定、デンタブックへの登録が必要です。)

1400人超参加…第1回新点数説明会の様子をチェック!

【東京歯科保険医協会】診療報酬改定 特設ページ

※東京歯科保険医協会に未入会の先生は入会をご検討ください(入会資料請求はこちら

【談話】 患者を最期まで診るために求められること

地域医療部長談話「 患者を最期まで診るために求められること」

患者を最期まで診るために求められること

いわゆる「団塊の世代」が75歳を迎え、約3,500万人が後期高齢者となる。社会保障費の負担は増加し、少子化の進む日本では働き手不足などの問題が生じる。今次改定はこの「2025年問題」を迎える前の最後の改定である。さらには生産年齢人口が急激に減少し、85歳以上の人口が急増する「2040年問題」を見据え、高齢者になっても住み慣れた地域で生活を続けられるような地域包括ケアシステムのさらなる深化と推進のための改定とされている。

今次改定の在宅歯科医療において、歯科訪問診療料120分の時間要件が撤廃されたことにより診療時間を気にせず診療できるようになったことは評価したい。しかし「単一建物と同一建物の違い」や「医療保険と介護保険との給付調整」などの煩雑な算定方法が歯科訪問診療を行う上で大きな弊害になっている。歯科訪問診療料45の追加に伴い、人数区分が細分化され、より一層、算定方法が煩雑になってしまった。これらの改定で歯科訪問診療が推進されるかどうかは疑問である。

また、他職種との連携を推進させる観点から、他の保険医療機関等からの情報提供に基づき、在宅歯科医療に係る管理を行った時の評価である「在宅歯科医療連携加算」や介護報酬において、歯科医療機関との連携体制を築くことで介護事業所が算定できる「口腔連携強化加算」が新設された。

生活の質(QOL)の向上には、最期まで自分の口から栄養を取ることが欠かせない。さらに誤嚥性肺炎の予防のためには、専門的口腔ケアはもとより、日常的な口腔ケアを実施し、口腔内を衛生に保つことが必須である。そのためには口腔衛生管理に歯科医師が積極的に介入し、多職種との連携を図ることが不可欠である。歯科訪問診療を行っていたとしてもケアマネジャーや施設職員、栄養士などの多職種と連携しない歯科診療所や歯科訪問診療に全く取り組まない歯科診療所は地域包括ケアシステムの枠組みから大きく外れてしまうかもしれない。

多職種連携の第一歩として、まず文書を提供することから始め、次に顔の見える関係を築き、密に患者の情報を共有することを心掛けてほしい。また、歯科訪問診療を行ったことがない先生はまず一度、歯科訪問診療に行ってみよう。体制的に歯科訪問診療が難しいのであれば、歯科訪問診療を行う歯科診療所との連携を強化することでもよい。患者を最期まで診られるように、積極的に取り組んでほしい。

2024年425

東京歯科保険医協会

地域医療部長

森元主税

【理事会声明】  理解が困難な改定 必要な歯科医療が提供できる改定を切望する

【理事会声明】  理解が困難な改定 必要な歯科医療が提供できる改定を切望する

理解が困難な改定 必要な歯科医療が提供できる改定を切望する

低い診療報酬本体の改定率

2024年度診療報酬改定は診療報酬本体がプラス0.88%で医療従事者の賃上げ対応分を除くとわずか0.18%の引き上げに過ぎない。歯科改定率はプラス0.57%で賃上げ対応分を除くと、引き上げ分は前回のプラス0.29%を下回る。

改定財源のほとんどが、医療従事者の賃上げを目的として新設された「外来・在宅ベースアップ評価料」などに割り振られた。この評価料の収入は全額賃上げ充当が要件であり、診療報酬の使途を限定していることは問題である。

さらに、マイナ保険証の利用促進を主目的とした「医療情報取得加算」「医療DX推進体制整備加算」などが新設されたことによって、純粋な診療報酬の引き上げ分はさらに少ない。患者や医療機関の多くが望んでいないマイナ保険証推進に改定財源を費やされたことは歯科医療自体が軽視されたと感じざるを得ない。

継続性が担保されないベースアップ評価料

職員の確保、医療従事者としての正当な評価のために賃上げが必要であることは医療界の総意であり、賃上げ分の収入を職員に支払うことに誰も異議を唱えることはない。

しかし、対象者や賃上げ方法が不明瞭なうえ、職員全員を賃上げするための原資が担保されず、次期2026年度改定時に賃上げ分が確保される保証がないことは不合理である。

また、ベースアップ評価料の対象職員と対象外の職員との間で不要な摩擦が起きる可能性や、患者から会計窓口で説明を求められるなどの混乱が生じることも想像に難くない。

このような継続性が担保されていない財源に加え、煩わしさや不安感が強いため、届出・算定に二の足を踏んでいるのが現状である。賃上げを恒久的に行うための方策を示すべきである。

複雑な施設基準の増加

「かかりつけ歯科医機能強化型診療所(か強診)」が廃止され、「口腔管理体制強化加算(口管強)」が新設された。名称が変更されたものの、か強診の施設基準の要件が引き継がれ、口腔機能の管理を一部評価したに過ぎない。一方、歯科外来診療環境体制加算(外来環)は、歯科外来診療医療安全対策加算(外安全)と歯科外来診療感染対策加算(外感染)に分離されるなど、施設基準が増加し複雑になった。

また、エナメル質初期う蝕処置、根面う蝕処置が、管理料と処置料に改編されるなど、複雑な体系となり、算定要件などの熟知が求められる改定となった。

危険な歯冠補綴物の保険外し、選定療養に反対

クラウン・ブリッジ維持管理料(補管)の対象から歯科用貴金属材料(金パラ・銀合金)の単冠が外れ、2年以内に再製作が必要になった場合でも再製作にかかる費用が請求できることになったが、再製作の必要性を判断する歯科医師の診断がより重要となった。

歯科用貴金属材料を使用した歯冠補綴物が補管の対象から除外されたことは、金属材料を使用した歯冠補綴物が選定療養の仕組みに導入される、いわゆる「保険外し」につながることが危惧される。保険適用の歯冠補綴物を選定療養とすることについて、断固反対する。

今次改定で、先発医薬品と後発医薬品の差額の一部を選定療養として患者負担とする取扱いが10月から施行されることについても撤回を強く求めるものである。

適応拡大や要件緩和など評価すべき項目

CAD/CAM冠用材料(Ⅲ)の適応拡大、ブリッジ支台の5番にレジン前装金属冠の適応、接着ブリッジの支台歯1歯のみの延長ブリッジ適応、歯科訪問診療1の20 分の時間要件撤廃、義歯新製6カ月以降から義管が算定可能に緩和、実地指に対する口腔機能指導加算の新設、咀嚼能力検査・咬合圧検査が6カ月に1回から3カ月に1回に要件緩和、薬局への情報提供依頼に電話、FAX、メールが認められ、診療情報を医科へ返書した場合の算定が可能に、生活歯髄切断と抜髄を行う際に使用した麻酔薬剤料が算定可能になるなど、当協会や全国保険医団体連合会で要望していた項目が反映されたことは一定評価できる。

診療報酬本体の大幅な引き上げが必要

診療報酬は公定価格の中で公的に提供されることから、国が医療の質に責任を持つべきであり、それを担保するものである。

しかし、今次改定の改定率では物価高にも対応できず、歯科医療の改善のための診療報酬改定が不十分である。物価高騰で苦しい生活を強いられている患者の窓口負担の軽減と歯科医療費の総枠拡大、診療報酬本体への大幅な改定率の配分をあらためて求めるものである。国民に必要な医療を提供できる診療報酬改定を切望する。

2024年4月11日

2024年度第1回(暫定)理事会

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)4月1日

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)4月1日

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【新聞4月号】

【1面】

1.第1回新点数説明会 複雑な改定内容に1400人超参加/定評ある丁寧な解説、質疑応答にも多数対応
2.新たな診療報酬改定を前に入会のご検討を
3.第52回定期総会のご案内
4.新点数説明会/オンデマンド配信のお知らせ
5.新点数説明会/今後の日程
6.探針
7.ニュースビュー

【2面】

8.2024年度診療報酬改定 主なポイント

【3面】

9.歯科技工士問題検討委員会委員長談話「歯科医師と歯科技工士のさらなる連携で歯科医療の未来を守る」
10.教えて!会長!!「2024年度診療報酬改定 補管の範囲を縮小へ」
11.介護改定内容決まる/「口腔と栄養」がポイント
12.2024年度6月施行診療報酬改定特設ページ

【4面】

13.オン資猶予届提出医療機関および紙レセで請求している医療機関向け情報②/マイナ保険証の利用率はわずか4.65%「資格確認限定型」導入は急ぐ必要なし
14.2024年4月/歯科用貴金属の随時改定情報
15.「2024年改定の要点と解説」正誤表

【5面】

16.~先生の一歩につなぐ~私の歯科訪問診療/第8回(最終回)森元主税理事
17.第117回歯科医師国家試験/2060人が合格 合格率は66.1%に
18.IT相談室/「Googleビジネスプロフィール」の大きなリスク③完

【6面】

19.2024年度診療報酬改定「新点数説明会」
20.第1回ドクター・スタッフ講習会:接遇講習会「クレームを大きくしない3 つの極意」

【7面】

21.連載「歯科界への私的回想録⑱ 完」/奥村勝氏「ネット時代の歯科界刷新・牽引に期待/歯科刷新時代を担う東京歯科保険医協会に期待」
22.第6回メディア懇談会を開催/複雑な改定内容に意見相次ぐ「歯科医師も分からない」
23.共済募集キャンペーン中!/この機会にぜひ加入ください!

【8面】

24.経営・税務相談Q&A No.415「新規採用に向けての準備②~「社保完備」への手続き~」
25.理事会だより/2023年度第21・22回
26.3月協会活動日誌
27.院内感染防止対策講習会
28.4月会員無料相談のご案内

【9面】

29.症例研究「歯周治療用装置の算定」

【10面】

30.訪問診療等におけるオンライン資格確認 (居宅同意取得型)/4月から運用はじまる
31.閉院強いられた歯科医院「限られた人員で新たな事務負担は困難」/オン資「義務化」撤回訴訟で国側に実例突きつけ猛省求める

【11面】

32.神田川界隈「適用が見直されたクラウン・ブリッジ維持管理料を考える」(本橋副会長・荒川区)
33.マイナ保険証利用率わずか4.6%の現実
34.マイナンバーカードの代わりにPDFファイルでも資格確認可能/修学旅行や部活動の合宿・遠征などでの対応も提示
35.通信員便りNo.141

【12面】

36.新連載「マイナ保険証の〝失態〟を追う~このまま見過すことはできません~」/第1回「マイナ保険証」の利用率が、低迷しています」(荻原博子さん/経済ジャーナリスト)
37.昨年全国から6千600筆超/健康保険証存続へ引き続き署名にご協力を

【13・14面】

38.春の共済キャンペーン

昨年全国から6,600筆超 「健康保険証存続へ」引き続き署名にご協力を

昨年全国から6,600筆超 「健康保険証存続へ」引き続き署名にご協力を

昨年全国から6,600筆超/「健康保険証存続へ」引き続き署名にご協力を

【保険証存続署名】署名用紙・ポスターなどの注文(無料)はこちら

協会では現在、現行の健康保険証の存続を求める請願署名に取り組んでいる。これまでに、6,600筆を超える署名が集まり、国会へと提出した。

提出する国会の会期が異なるため、昨年本署名に協力していただいた場合も再度、署名が可能。

協会では、新ポスター「来年の桜もキミと見たいんだ」を作成し、現在開会中の通常国会提出に向け、改めて署名に取り組んでいる。患者さんにも、医療現場も使い慣れた健康保険証を、2025年の春も存続させるための署名に、ご協力いただきたい。

なお、健康保険証廃止の問題は協会の機関紙「東京歯科保険医新聞」4月1日号(No.649)11面で詳しく解説。および、12面には経済ジャーナリスト・荻原博子氏の連載で詳報しているのでぜひお読みいただきたい。

第117回歯科医師国家試験 2060人が合格/合格率は66.1%に

第117回歯科医師国家試験に2060人が合格/合格率は66.1%に

第117回歯科医師国家試験 2060人が合格/合格率は66.1%に

3月15日、第117回歯科医師国家試験(1月2728日実施)の合格発表が厚生労働省ホームページで行われた。合格者数は2千60名、合格率は66・1%となっており、合格率は過去10年間でもっとも高いことが分かった(下表)。

▼新卒の合格率は81 %超

今回は、全体では出願者数3,568名(うち、新卒者は2,358名)、受験者数3,117名(同1,962名)、合格者数2,060名(同1,600名)となっており、合格率は全体が66.1%で、過去10年間でもっとも高い合格率となった。新卒のみでは81.5%となっている。合格者数は2018年の第111回国試から今回まで、22年の第115回国試を除くすべての回で2,000名を超えている。また、全体の合格率が高くなった理由は、受験者数の減少が考えられる。

▼女性の合格率は71%で男性より約10ポイント高く

なお、今回の結果を男女別に見ると、男性は受験者数1,837 名のうち1,139名が合格し、合格率は62.0%であるが、同様に女性は1,280名のうち921名が合格、71.0%となっている。女性の合格率はこれまでと同様、男性よりも約10ポイント高い状況となった。

一方、今回の合格基準は一般問題を問1点、臨床実地問題を13点とし、①必修問題:64点以上、②領域A( 総論):60点以上、③領域B(各論):254点以上―となっている。問題構成は前回の第116回から「領域C」問題がなくなっている。

▼恒例の厚労省講堂での名簿閲覧は実施されず

なお、今回の合格発表は前回に引き続き、新型コロナウイルス感染症対策のため、厚労省2階大講堂での名簿閲覧は行われず、同省のホームページ上のみで行われた。かつてのように、学友や友人、家族と会場内外で記念撮影を行なう光景は、見られなくなった。

新たな診療報酬を前に 入会のご検討を

診療報酬改定対策にも万全を期します

新たな診療報酬を前に 入会のご検討を」

本年度は診療報酬の改定が4月に実施されますが、施行時期が今までの4月から6月に変更となります。今次改定のポイントは、初・再診料の引き上げ、ベースアップ評価料の新設、クラウン・ブリッジ維持管理料における金パラ・銀合金の単冠の算定対象からの除外、歯科訪問診療料の区分が3区分から5区分に再編、医療DX推進体制整備加算の新設など、大幅な変更がされた改定です。

さらに、「か強診」が「口腔管理体制強化加算」に改変され 、「外来環」が「歯科外来診療医療安全対策加算」と「歯科外来診療感染対策加算」に分離されるなど、多くの届出要件と施設基準がクローズアップされる改定となりました。

このような状況ですので、6月施行前の早い段階で改定の中身を十分に理解し、施行に備えていただくことが、非常に重要になってきます。加えて、会員の先生方の求めに応じて、協会として施設基準の講習会、および算定に必要となる研修を開催する予定です。

協会は326日に最初の新点数説明会を開催しています。この新点数説明会は、デンタルブックで動画を見ることができますので、参加できなかった方や、分からなかった点、確認したい点がある会員の先生は、ぜひ動画をご覧ください。今後は、425日(木)には「在宅医療」を中心に、520日(月)には保険請求に関する全体の注意点を中心に新点数説明会を開催する予定です。ぜひ、会員の先生方だけでなく、スタッフの皆様にもご参加いただき、理解を深めていただければと思います。詳細は診療報酬改定特設ページをご覧ください。

会員の先生方が困らないよう、診療報酬の内容だけでなく、医療DX化の内容を分析し、必要な情報は、機関紙やデンタルブックメールニュースなどを通じて情報提供するとともに、必要に応じて行政に要請する形で問題点を提起していきたいと考えています。

協会は歯科医療改善をすべく、混迷を極める情勢や2年ごとに容赦なく行われる診療報酬改定に振り回されることがないよう、努めてまいりますので、会員の先生方にも一層のお力添えをいただき、未入会の先生方は入会をご検討ください。

東京歯科保険医協会
組織部長 福島 崇

入会資料請求はこちら

第1回新点数説明会/複雑な改定内容に1400人超参加 定評ある丁寧な解説、質疑応答にも多数対応

第1回新点数説明会に1400人超参加

新点数説明会のお申し込みはこちら(予約専用サイト)
※東京歯科保険医協会に未入会の先生は入会をご検討ください(入会資料請求はこちら

2024年度診療報酬改定に伴う第1回新点数説明会を326日、文京シビック大ホールで開催し、会員やスタッフほか1,410人が参加した。20年度は新型コロナウイルス蔓延のため中止。22年度は参加人数を限定し、WEB配信を併用しながら開催。久しぶりに人数制限のない新点数説明会で、折からの強い風雨にもかかわらず大勢の会員が一堂に会し、熱心に講師の説明に耳を傾け、メモを取る姿が目立った。

▼第1回新点数説明会オンデマンド配信視聴はコチラから(会員限定、デンタブックへの登録が必要です。)

【東京歯科保険医協会】診療報酬改定 特設ページ

◆「本当に複雑で理解がし難い」

坪田有史会長

加藤開副会長の司会もと冒頭、坪田有史会長が挨拶に立ち、今次改定について「本当に複雑で理解が難しい」とし、細分化された点数の理解を呼びかけ、「会員の歯科医業を支えるべく全力でサポートしたい」と述べた。また、12月に迫る健康保険証廃止の問題にも言及。マイナ保険証の利用率が低い状況を指摘し、健康保険証が廃止されると「患者さんが困る」と強く訴え、協会が取り組む健康保険証の存続を求める請願署名への協力を求めた。

続いて、講師の本橋昌宏副会長(社保・学術部長)、濱﨑啓吾理事が「2024年改定の要点と解説」を基に、診療報酬改定の内容を解説した。

講演後には参加者からの質問にも回答。新設されたベースアップ評価料や、口腔管理体制強化加算、歯科外来診療環境体制加算から再編された「歯科外来診療医療安全対策加算」や「歯科外来診療感染対策加算」などの施設基準に関する質問が相次いだ。

終了後、参加した先生は「わかりにくい改定の内容をきめ細かく教えてくださり、今後の診療に活かそうと思った」と話した。また、別の先生は「大幅な改定で霧の中にいるような不安があった」と説明会に参加した理由を説明。「説明を聞いて少し心が落ち着いた。『要点と解説』を繰り返し読み込み、理解を深めたい」と明かした。

◆【6月施行診療報酬改定】説明会に参加できなかった会員の先生はオンデマンド配信を

新点数説明会は計3回開催。第2回新点数説明会(425日開催)は、訪問診療などを行う、または関心のある先生向けの「在宅医療」がテーマ。第3回新点数説明会(520日開催)は、疑義解釈などを加味し、「保険請求時の留意点」をテーマに実施。参加申し込みページからご予約いただきたい。

なお、第13回新点数説明会は開催後にデンタルブック内でオンデマンド配信する。配信開始は、それぞれ第1回が4月上旬頃、第2回が5月上旬頃、第3回が5月下旬頃を予定している。

ベースアップ評価料の解説も!第1回新点数説明会のオンデマンド配信中!

退き際の思考 歯科医師をやめる/資金面が一番大切「保険医年金に支えられている」税制学び〝年金使用計画〟も作成(古田裕司さん【後編】)

【 退き際の思考 歯科医師をやめる ② 資金面が一番大切「保険医年金に支えられている」税制学び〝年金使用計画〟も作成 】

古田 裕司さん(元協会会員) ― 後編 ※前編はこちら

マラソン大会のメダルコレクションの数々と一緒に

歯科医師としての“ 引退に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生や、引退を考えている先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、医院承継の苦労、現在の生活などを深堀りする。今回は古田裕司さん(63歳)の後編。最も大切であるという引退後の資金面について教えてもらった。

―閉院する際に、その後のことについてはどのように考えていましたか。

閉院後の資金面が一番大切だと思い、40歳を過ぎたあたりから具体的に考えていました。開業した時から国民年金に加入し、それと同じ頃に歯科医師国民年金基金ができたので加入しました。それから小規模企業共済にも入っています。そして、一番役に立っているのが保険医協会の「保険医年金」です。最初は少ない口数からはじめて、最終的には満口加入していました。公的年金の受取は65歳からなので、それまでは保険医年金と、解約した小規模企業共済に支えられています。

*保険医協会の“保険医年金”とは…?

 ―開業当初から将来的な資産へのイメージがあったのですね。

そうですね。開業と同時に、口数が少ないながらも共済制度を利用していました。だんだんと増口していった形です。それから年金関連の支出について、「〇〇生命に△万円」のように、どこにいくら支払うかを表にまとめています。年金の受け取りについても同様で、「年金使用計画」を作成し、現在からの約20年間を「活期」、その後10年を「余生期」として、自分が90歳になるまでの所得が一目でわかるようにしています。こうして計算すると、どんなペースでお金を使えばよいかがわかります。営業に来る生保会社職員もこの表を興味津々で見ていきますね。

「みなさんのためになれば―」 90歳までの支出入の見通しが細やかに記された ”年金使用計画”を見せてくれた

 早く辞めて〝良かったこと〟

―では、これまでの人生をどのように振り返りますか。

振り返ると30年間、うまく仕事ができたかなと思います。患者さんもたくさん来ましたし、目や腕の衰えを考えても60歳で辞めてよかったのでしょう。第一の人生が30歳まで、第二の人生は60歳までです。昔は第三の人生と言うと、〝老後〞のイメージだったと思いますが、今は第三の人生として、20年間は楽しめるんじゃないかと思っています。〝老後じゃない〞第三の人生を考えないといけないと思っていますね。

―古田先生にとって第三の人生とは。

マラソンやツーリング、それからいろいろなところに旅行に行きたいと思っています。バイクはけがをして仕事ができなくなると困るので、一旦、離れていたんです。子どもが一人前になったので、またバイクに乗り始めました。マラソンは40代から始め、今も続けています。

―現在の生活はいかがですか。

とても充実していますね。自分としては70歳で引退すると、できることが少ないのではないかと思っています。パラグライダー、スキューバダイビングなどいろいろなことに挑戦しようとしていますが、中にはライセンス取得に年齢制限があるので、そうした意味では早く引退して良かったと思います。昔、やりたくてもできなかったことや、70歳を過ぎてからではできないことを、現在やっています。

―引退や閉院を考えている、現役の歯科医師の先生にメッセージを。

現役時代から、引退後の資金面の計画を立てることが重要だと思います。そのためには、リタイア時期をある程度決めなければいけません。また、僕は税理士に頼らず、税制について自分で研究しながら知識を蓄えました。租税特別措置法第26条(特措法26条)について学ぶことで、確定申告を行う際にとても便利でした。ただ、僕のように60歳くらいで辞めるのがすべてだとは思いません。先輩には、「俺は仕事が好きなんだよ」と、仕事の緊張感を楽しみながら現在も歯科医療に携わる方もいます。人生にはいろいろあるので、人それぞれで良いと思います。

―本日はありがとうございました。前編を読む

保険医年金ほか…共済制度 資料請求、お申込みはコチラ

バックナンバーはこちら(退き際の思考 歯科医師をやめる)

退き際の思考 歯科医師をやめる/自作の〝閉院計画〟 「前倒し重ねた」引退決意後の変化(古田裕司さん【前編】)

【 退き際の思考 歯科医師をやめる ① 自作の〝閉院計画〟 「前倒し重ねた」引退決意後の変化 】

古田 裕司さん(元協会会員) ― 前編 ※後編はこちら

閉院計画カレンダー 「2021年3月31日 close」当初の閉院予定が記されていたが―

歯科医師としての〝引退〞に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生や、引退を考えている先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、医院承継の苦労、現在の生活などを深堀りする。今回は、開業から約30年、還暦を迎える直前に閉院を決めた古田裕司さん(63歳)の前編。〝周囲よりも早かった〞という引退のタイミングや独自の〝閉院計画〞について語ってもらった。

―引退はいつごろから考えていましたか。

私が大学を卒業する頃は、「人口2,000人に対して歯科医師1人」という当時の厚生省の政策目標が達成され、歯科医師が多くなることが見込まれた時代でした。その後、勤務医として4年間勤め、28歳で開業しました。同級生の中には法人化して医院を拡大した人もいますが、歯科医師数が過剰になると予想した私は当初から医院を大きくすることは考えておらず、開業直後から60歳で一線を退くことをおぼろげながらにイメージしていました。

―最終的に引退を決断したきっかけは。

58歳の時、診療中に体調を崩し、救急車を呼んだことがありました。診療外でも何度か同じようなことがあり、60歳頃に歯科医師を辞めることを決めました。

―医院の承継などは考えましたか。

2歳年下の妻も歯科医師で、二人で医院経営をしていましたが、歯科医師が増えることを予想して、次の世代に医院を譲ることはやめておこうと決めていて、結果的に娘は獣医師になりました。妻が一人で続ける選択肢もありました。でもその頃、いつも妻が診ている患者さんを僕が診た時にう蝕を見つけて、「妻の目も見えづらくなっているかも」と気が付いたんです。妻も老眼になりつつありました。そうしたこともあり、一緒に歯科医師を辞める決断をしました。

閉院の準備治療方針にも変化が

―閉院の準備はいつ頃から。

本格的な準備は、2020年のはじめ頃、59歳の時です。当初は、1年後の2021年3月31日で閉院しようとしていました。しかし、辞めると決心すると不思議と仕事に身が入らないんです。歯科医師の仕事はとても神経を使うので、気持ちが続かないとできません。ですから、今度は20年7月の60歳の誕生日で辞めようと時期を早めましたが、さらに前倒しを重ね、結果的に20年3月に閉院しました。

―結果的に約1年の前倒し。決心してからすぐの閉院だったのですね。

とはいえ、若い頃からいつかは閉院するであろうことが頭にあったので、15年頃から10年カレンダーを作成して、閉院計画を立てていました。引退に向け「残り〇カ月」と記してイメージしていましたし、学校歯科医を辞めるなど、やらなければならないことを計画的に進めていきました。長期的なメインテナンスが必要となるインプラント治療なども扱うことを止めるなど、治療方針にも変化がありましたね。

―患者さんにはどのように説明しましたか。

辞めると決めてからは、すぐに患者さんに打ち明けはじめました。年配の患者さんから「続けてもらわないと困る」と、お叱りを受けたこともありました。生活圏が定まっている方にとっては仕方がないことかもしれません。それでも、自分の病気のことなども踏まえ、スパッと辞めることが一番良かったと思います。若い患者さんからはすんなりと受け入れられ、他院の先生を紹介する形を取りました。あまり大事にしたくないということを念頭に、手紙を含め、計2030人に閉院を伝えたでしょうか。閉院後もしばらく電話がかかってきましたが、看板を下ろして、軒先の診療案内もテープで目隠しすると、途端に連絡が減りました。張り紙でお知らせすると、「また再開するのでは」と勘違いされてしまうので、多少費用はかかりますが、看板を下ろすのが良いと思います。それでも商店街で患者さんに会うと、「どうして辞めたの」と聞かれることはありますね。

「古田歯科医院」― 看板を下ろすと、問い合わせが減った

―その後、診療に従事されることは。

後輩が病気を患い、2カ月ほど医院を手伝いました。その後、後輩が亡くなってしまい、医院承継を打診されましたが、これからの自由な人生を送るためにも、歯科医師としての第一線を退いたので、お断りしました。

―閉院後の医院を貸し出すことなどは考えましたか。

内装はかなり黒ずみ、ボロボロになってきて剥がれているところもあります。医院を続けるには一新しないといけない状況です。開業14年目にユニット2台と、内装を新しくしましたが、診療をするなら1千万円以上の改装費用がかかります。また、今の基準をクリアしないといけないので、賃貸は考えませんでした。(つづく)

 ※次回は「最も大切」と話す引退後の資金面について伺います。後編を読む

バックナンバーはこちら(退き際の思考 歯科医師をやめる)

「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2024年2月1日号12面)

【談話】歯科医師と歯科技工士の さらなる連携で歯科医療の未来を守る/歯科技工士問題検討委員会委員長

歯科技工士問題検討委員会委員長談話「歯科医師と歯科技工士の さらなる連携で歯科医療の未来を守る」

歯科医師と歯科技工士の さらなる連携で歯科医療の未来を守る

2024年度診療報酬改定では、医療機関の職員や歯科技工所で従事する者の賃上げを実施すること等の観点から、初・再診料や歯冠修復・欠損補綴の技術料の引き上げ、ベースアップ評価料の新設などが行われる。また、歯科医師と歯科技工士が連携することにより、歯科技工物の修正・再製作の減少傾向が認められたと中医協で紹介され、新たに歯科技工士連携加算も設けられる。当該加算の活用も含め、より一層の連携を行っていく必要がある。就業歯科技工士数の減少、歯科技工所の閉所など、歯科技工士を取り巻く状況は大きく変化している。当協会では、歯科技工所の実態を把握すべく、昨年9〜10月上旬にかけて、都内の歯科技工所1,000件に対して、アンケート調査を行った。その中で、80%以上の技工所で「後継者がいない」と回答、「将来展望がない」という理由で閉所を考えている技工所が50%を超えていた。また、今後望む方向として、「技工所が保険請求を直接請求できるシステムの構築」が最も多く、「技工料金の明確化」、「7対3の徹底」が続いた。一方、「今のままで良い」という回答は5%未満と少なく、現状の診療報酬体系における製作技術料(製作技術点数)の曖昧な位置付けや労働環境に対する不満が多い結果となった。
これまでも委託技工取引についての施策は様々な議論がなされ、1988年に「7対3」の大臣告示が示された。しかし、今日も自由競争の名の下に放置されており、現場で徹底されていない。
歯科医療の担い手として、「国民の歯と口の健康を守る」ことを目標に歯科技工士、歯科医師の双方が日々研鑽していることは言うまでもない。今後も同じ方向にベクトルを向けるためにも今回の改定の主旨と技工所のおかれている状況を歯科医師が十分に理解し、適正に対応することが求められている。歯科医師の良識が試されている改定であることを認識しなければならない。
2024年3月26日
東京歯科保険医協会
歯科技工士問題検討委員会委員長

森元主税

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)3月1日

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)3月1日

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【新聞3月号】

【1面】

1.中医協が2024年度診療報酬改定で「答申」/初・再診料が3点・2点引き上げ/か強診、外来環、補管、歯科訪問診療料など多くが変更に
2.能登半島地震/保団連救援募金1,300万超える/引き続きご支援ください
3.探針
4.ニュースビュー

【2・3面】

5.政策委員長「談話」/細かすぎて良く伝わらない診療報酬改定
6.2024年度診療報酬改定 主なポイント

【4面】

7.経営・税務相談Q&A No.414/新規採用に向けての準備~労働条件通知書と社会保険完備について~
8.院内感染防止対策講習会
9.書籍:「保険医の経営と税務 2024年版」
10.3月会員無料相談のご案内

【5面】

11.オン資猶予届提出医療機関および紙レセで請求している医療機関向け情報① 
12.健康保険証存続求める声が9割/存続を求める署名にご協力を

【6面】

13.影響続く 能登半島地震/歯科は断水で治療縮小/石川協会が被災会員訪問
14.中川勝洋元会長を偲ぶ会/全国から参列者約100名が出席
15.東京反核医師の会総会・記念講演
16.2024年度6月施行/診療報酬改定特設ページ

【7面】

17.退き際の思考 歯科医師をやめる/(古田裕司さん・後編)「保険医年金に支えられている」税制学び“年金使用計画”も作成
18.春の共済キャンペーン/3月1日からスタート

【8面】

19.教えて!会長!!No.80「難解な2024年度診療報酬改定 ぜひ“新点数説明会”にご参加を」
20.~先生の一歩につなぐ~私の歯科訪問診療/第7回 松島良次理事
21.会員優待サービス

【9面】

22.症例研究「診療情報連携共有料(情共)の算定」

【10面】

23.連載「歯科界への私的回想録⑰」/奥村勝氏
24.理事会だより「第19・20回理事会」
25.2月協会活動日誌

【11面】

26.神田川界隈「2024年度診療報酬改定について」(池川裕子理事・葛飾区)
27.医科歯科医療安全講習会/改定ポジションペーパーを解説
28.確定申告を前に「個別相談会」を開催/協会顧問税理士2名が対応
20.IT相談室/「Googleビジネスプロフィール」の大きなリスク②
30.通信員便りNo.140
31.保団連情報サービスのご案内

【12面】

32.2024年度診療報酬改定「新点数説明会」
33.デンタルブックPR/会員の70%が登録済みです

【13・14面】

34.共済折込

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.17】 壁を越えた人的交流に新たな展開

4つのグループと貴協会「メディア懇談会」の存在

2023年度も終わる時期になり、歯科界も新たなスタートを切ろうとしています。私も仕事柄、歯科大学、歯科技工士学校、歯科衛生士学校、歯科関連企業などの新入生・新入社員との新たな交流が始まります。

今回は、私が記者として初めて歯科界の門をくぐった1990 年以降、4つのグループ、および貴協会主催の「メディア懇談会」における人的交流を通じて、貴重な財産となった具体例を紹介します。

▼「齲蝕予防領域」グループ

まず、「齲蝕予防領域」グループです。歯科分野の主な臨床領域は外科、補綴、歯周、小児、矯正などですが、異例とはいえ某歯科大予防関係者、歯科衛生士、雑誌編集者などが個人の資格で集い、雑談や意見交換をするステージとしました。

当時は、まだ臨床家にとって予防は関心が薄く、齲蝕予防にフッ化物応用が浸透していない時代でしたが、本来は大事な分野のため、既にその重要性を評価していた臨床家グループとの出会いがありました。

雑談や議論が白熱し、自然と勉強になり、齲蝕予防の背景や海外の予防先進国の事情を知り、その見方と見識も広まり、そこで得たものは現在の私の歯科問題に携わる基本姿勢につながっています。

▼「マスコミ」グループ

次は、ある意味でご法度の「マスコミ」グループです。現在の歯科記者会とは別に、私が書籍編集者、広告代理店営業部員、歯科書籍の卸・営業部員などから抜てきした有志による歯科マスコミのグループです。

ここでは編集者の経験にもよりますが、出版社による違いを実感。多々勉強になりました。

仕事上、送付されてくる書籍は、すべて一読して書評します。中にはその後、全国的に著名になった歯科医師もおり、予想外の展開にさまざまなことを学ぶ機会もありました。

当時はまだ、大学教授を始めとする教員と開業医との区別意識が歴然としていた時代でした。そのため、開業医の書籍刊行は大変珍しく、歯科界でも〝大学〞に一目置かれている時代でした。私のみならず、マスコミの多くは「言ってはいけないことは言わない。これが原則だ」と念を押していました。

▼「歯科界論客交流会」グループ

そして忘れてはならないのが「歯科界論客交流会」グループです。これは、人脈と縁による歯科医師で臨床と医政に強い関心を持つ人に声をかけてできた交流会です。

「地方で論陣を張っている歯科医師が〝酒席での会話で終わり〞では残念だ」との発言から賛同者が次々と現れ始め、「意見対立でも分裂は回避すること」「お互いの意見の相違は認めること」「感情論はなし」などを掲げてのスタートでした。某先輩からは、「歯科は、次世代に移行しないと本当に時代遅れになるし、地味でも勉強はし続けなければダメだ」と激励されました。

私にとっては、国公立・私立、都心部と郊外などの類型を問わず、歯科医師としての熱い思いと意見を聞くためには、欠くことのできない貴重な〝場〞となりました。時には、さまざまな壁・抵抗感・不快な言動もありましたが、それを乗り越えたからこそ、現在の〝財産〞ができたと理解しています。

貴協会の「メディア懇談会」について

最後に、貴協会の「メディア懇談会」について触れます。

元々貴協会は、歯科界から「組織として、保険診療で良質な歯科診療の実現を主張している」と評され、一目置かれていましたが、その貴協会が2008年3月にメディア懇談会を立ち上げるとのことで、これに参加したのが私の貴協会との付き合いの原点でした。

参加は一般紙・歯科専門紙、記者・編集者を問わず、オープン形式での開催でした。一般紙と歯科専門紙では、関心を寄せる問題意識は類似していても、捉え方が違うケースがありました。また、貴協会会長をはじめ、参加した編集者や記者から直接、説明と意見や見解などを聞くことができ、学ぶことも多く、モノの見方も広がり、ここでも新しい出会いがありました。

時間の制約もあり、担当役員との質疑応答が十分にできないことが残念ですがその時の返答から〝喜怒哀楽〞が伝わり、これにも意味がありました。今後の開催に期待しています。

「東京歯科保険医新聞」2024年3月1日号(No.648号10面掲載)

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オフィス  オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立してオフィス  オクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

【IT相談室】 「Googleビジネスプロフィール」の大きなリスク②

管理者権限が第三者に渡ると…?

前回から「Googleビジネスプロフィール」がどのようなものかお話ししていますが、今回は管理者の権限を第三者(歯科医院関係者、管理委託をしている業者以外)が取得すると、どのようなリスクが生じるのか考えます。

私が今まで受けた相談について、内容をもとに5項目に分類してみました。 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1)誤った基本情報の表示

第三者である不正使用者が管理者登録を行うと、正確ではない基本情報(住所、電話番号、営業時間など)が表示される可能性があります。これにより、患者さんの正しい情報発見が難しくなります。

2)予約や問い合わせの減少

誤った情報が表示されることで、患者さんが予約や問い合わせを行う際に混乱が生じ、歯科医院へのアクセスが減少する可能性があります。        

3)信頼性の損失

誤った情報や不正確なレビューなどが掲載されることで、患者さんや関係者が歯科医院に対して信頼を失う可能性があります。  

4)競合他社からの攻撃

競合する歯科医院や悪意ある第三者がビジネスプロフィールを不正に変更し、自院に不利益をもたらす可能性があります。    

5)法的な問題

不正使用は、法的な問題につながる可能性があります。商標や著作権の侵害、詐欺行為、悪意ある行為などが含まれる場合、法的手続きが検討される場合があります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

次回は、以上のような事態に陥らないために、どうすれば良いかを考え、この項を閉じたいと思います。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2024年3月号11面掲載)

【教えて!会長!! Vol.80】 難解な2024年度診療報酬改定/ ぜひ「新点数説明会」にご参加を

難解な2024年度診療報酬改定/ぜひ「新点数説明会」にご参加を

Q 2024年度診療報酬改定をどう評価しますか。

 別件となりますが、会員の先生方におかれましては、日常の歯科医療のほかに政府、厚生労働省、東京都などからのさまざまな案件への対応に苦慮されているのではないでしょうか。私事ですが、並べてみると、①日常でのオンライン資格確認への対応、ならびに在宅診療時のためにモバイル端末での対応をどうするか(本紙5面参照)、②CDでのレセプト請求から9月末期限のオンライン請求にいつ切り替えるか、それとも猶予届出を出すか、③東京都による医療機関への物価高騰緊急対策支援金への対応、④生活保護法指定医療機関一般指導への対応、⑤厚労省の医療機関等情報支援システムGMISへの対応、などがあります。日々患者さんのために〝ちゃんと〞歯科医療に注力したいだけなのに、これらへの対応に時間・心身ともに拘束されています(もし、このほかにお困りなこと、疑問に思うことなどがありましたら、協会にご連絡、お問い合わせください)。

そして現在、複雑で難解な2024年度診療報酬改定の内容を会員の先生方に分かりやすくお伝えするために、まず私をはじめ役員と事務局員で理解を深めています。繰り返しになりますが、今次改定は複雑で難解だからです。本紙3面に改定の評価に関する政策委員長「談話」を掲載していますので、ぜひご参照ください。今次改定に向けて、当協会会員からの「声」を厚労省に届けた結果、初・再診料の引き上げ、外来環の分離、口腔機能管理での小機能・口機能の指導の評価、麻酔薬剤料の適用拡大、CAD/CAM冠の適用拡大、歯科技工士の処遇改善につながる新たな評価NI-TIロータリーファイル加算の要件緩和、歯科訪問診療1の20分要件廃止など、多くの要望が反映されました。しかし、残念ながらすべての項目で十分な評価、緩和が実現したわけではありません。さらに、スタッフに対する政府の賃上げ要求に応えるためのベースアップ評価料への対応を余儀なくされます。

 

Q いま、何をすべきでしょうか。

 本原稿を執筆している2月末時点では、詳細が不明な点が数多くあります。4月改定ですので3月中に多くの疑問が解決されるでしょう。また、実際に今次改定内容に基づく請求がスタートするのは6月ですからある程度の理解は進むでしょう。しかし、今次改定には施設基準の届出や研修の受講が必要な項目などが複数あります。したがって、6月まで何らアクションを起こさないでいると対応が困難になる可能性があります。そのため、現時点での、ご自身の診療所の状況把握が必要です。一例を挙げると、スタッフの雇用状況・給与・直近で昇給した年月日の把握、施設基準の届出状況、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所であるか否か、口腔機能管理の小機能あるいは口機能の算定状況および指導方法の実際と検査機器の所有状況、在宅診療を行っているか否かなど、今次改定は何も対応しないでいると自院にとってマイナス改定になってしまうので、必要な対策を講じる必要があります。

今次改定に対応する協会の新点数説明会は計3回、会場参加型での開催を準備しています(本紙12面参照)。ぜひ、先生ご自身の大切な医院のため、そして患者さんへのより良い歯科医療の円滑な提供のため、説明会にご参加いただき、充分な対策を講じていただきたいと思っています。

また、実施が本年122日に決まった健康保険証廃止への反対、健康保険証の存続を求める署名を行います。これ以上、患者・国民のための日々の歯科医療を滞らせないため、ぜひ一筆でも結構ですので署名にご協力ください。よろしくお願い申し上げます。

  東京歯科保険医協会

  会長 坪田有史

【談話】細かすぎて良く伝わらない診療報酬改定/政策委員長

細かすぎて良く伝わらない診療報酬改定

中央社会保険医療協議会(中医協)総会は214日、2024年度診療報酬改定案について、厚生労働副大臣に答申書を手渡した。今回の改定は、一つの項目で幾通りかの算定や似たような加算があり、算定方法を見出すまでに時間を要する。保険請求が複雑すぎるため、患者側・医療提供側双方が理解できるように簡素化する方針だったが真逆の結果となった。今回の改定内容を読み解くと、診療体制や個々の診療行為に適正な評価をつけようとした結果なのかもしれない。ただ、手当たり次第に施設基準で縛る仕組みは、かえって混乱を招く。まして、医療を受ける患者の立場で考えた場合、明細書を見ても自身が受けた診療行為が分からないだろう。

▼個別改定項目の評価

物価高騰に対応する医療従事者の処遇改善を初・再診時に算定するベースアップ評価料は、たった1.2%の賃金アップを図るためのもので、医療従事者の人材確保に繋がるとは思えない。また、医療DX推進のために、ばらまかれる加算点数に財源を使われることにも違和感を覚える。

歯科外来診療環境体制加算(外来環)は、医療安全対策と感染対策に分けられた。初診料の注1との棲み分けに注目していきたい。周術期の口腔管理を推進するために対象患者が追加され、回復期の口腔機能管理料も新設された。しかし医科からの依頼がなくては算定できず、歯科疾患管理料等と併算定できないという致命的な要件も改善されておらず、算定率は伸び悩むことだろう。

在宅歯科診療に関しては、居宅への評価を推進する傾向は変わらず、施設への評価は薄利傾向に拍車がかかった。訪問診療の質を上げる議論をするべきではないだろうか。

それでも、当協会が要求してきた歯科医師による歯科訪問診療1の20分要件が廃止されたほか、医科保険医療機関への返書に対しても診療情報連携共有料が認められ、口腔機能管理の評価に対しては一定の前進が認められる。ICTの推進も今後の歯科医療のスタイルに変化を与える一歩になるやもしれない。

今回、最も衝撃を受けたのは金属(金パラ・銀合金)による単冠がクラウン・ブリッジ維持管理料(補管)の対象外になったことである。金パラ・銀合金のみ補管による縛りが無くなり、その他のチタンによるクラウンやCAD/CAM冠には、2年間の保証が残ることになったが、補管以前に起きた様々な問題が再燃しないことを望みたい。

また、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」の施設基準は、「口腔管理体制強化加算」に名称変更された。その役割が分かりにくいための名称変更が目的にもかかわらず、改定後の内容では役割が明確になったとは言えない。

2024年度診療報酬改定の施行が6月となった経緯は、システムベンダーに配慮したとされているが、これを機に、改定毎に複雑多岐にならないように注視していきたい。施行までに通知や疑義解釈で見直しが図られることを期待する。

▼抜本的な見直しが必要

多くの歯科医療機関の収入の中心は保険診療であるが、保険診療は算定ルールが定められているため、個人の努力では打開策や診療体制の充実も図れない。2024年には85歳以上の高齢者が1,000万人を超え、在宅医療のニーズが大幅に上昇すると言われている。その一方で医療を担う医師・歯科医師不足の問題も指摘されている。にもかかわらず、改定財源が不十分であり、医療の担い手不足の解消などには繋がらない。医療崩壊の危機打開には、抜本的な改定財源の見直しによる診療報酬の大幅な引き上げ、そして物価高騰で苦しい生活を強いられている患者の窓口負担の軽減措置を同時に実施していくことが必要だ。国民に必要な医療を提供できるような診療報酬改定の評価を切望する。

2024年2月27日

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

 

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)2月1日

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)2月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)2月1日

【新聞2月号】

【1面】

1.能登半島地震/甚大な被害 被災会員も
2.2024年度診療報酬改定/初・再診料の点数引き上げへ/外来環廃止・か強診の見直しなどを含む改定内容
3.探針
4.ニュースビュー

【2面】

5.診療報酬改定/中医協 広島で公聴会を開催/協会からパブコメ50本超提出
6.24度改定に向け厚労省要請を実施
7.医療技術評価提案 優先度が高い技術は27項目/CAD/CAMインレー修復に対する光学印象法やエンドクラウンなど


【3面】

8.マイナ保険証 利用率は4.29%/8カ月連続減 現行「健康保険証」の存続は必要
9.オン資トラブル いまだ半数以上の医療機関で/調査から健康保険証の重要性明らかに
10.<重要>CDーR・紙レセプト請求継続に届出が必要
11.IT相談室/「Googlビジネスプロフィール」の大きなリスク①/管理機能が第三者の手中に!!

【4面】

12.経営・税務相談Q&A第413 「減価償却」って何?/開業医のための〝確定申告〟の基本
13.書籍:「保険医の経営と税務 2024年版」
14.法律相談のご案内
15.2023年分確定申告個別相談会

【5面】

16.研究会・行事ご案内 
17.2024年度診療報酬改定新点数説明会 参加申し込みスタート
18.デンタルブックPR

【6・7面】

19.2024年度診療報酬改定「個別改定項目」


【8面】

20.教えて!会長!!No.79「エンドクラウンについて」
21.~先生の一歩につなぐ~私の歯科訪問診療/第6回 橋本健一理事
22.メディア懇談会/診療報酬改定など議題に 記者から被災地の状況報告も
23.通信員便りNo.139
24.共済部だより

【9面】

25.学校歯科治療調査「子どもの口腔崩壊、改善傾向も依然残る地域差 背景に何が?」
26.2023年分確定申告のポイント

【10面】

27.連載「歯科界への私的回想録⑯」/奥村勝氏
28.戦争の歴史を後世に/東京の地から伝える③完(理事/高山史年)
29.理事会だより「第17・18回理事会」
30.1月協会活動日誌

【11面】

31.連載「歯科医療を経済から見てみる⑤完」/尾﨑哲則氏
32.新規指導通知が来る前に/新規開業医講習会を開催「保険診療のルールから指導までを学ぶ」
33.MRONJ対策含む有病者治療/第3回学術研究会で柴原孝彦氏
34.介護サービス計画書の項目が変更に/厚生労働省が関連通知で新旧表記内容を対比

【12面】

35.神田川界隈「‟離婚した” 姓でわかる日本~煩雑な手続きに思う~」(阿部菜穂/理事・江東区)
36.協会史上初の快挙/年間会員増など2部門で全国1位/保団連が第51回定期大会を開催
37.退き際の思考 歯科医師をやめる/自作の“閉院計画”「前倒し重ねた」引退決意後の変化―前編(古田裕司さん)

【IT相談室】 「Googleビジネスプロフィール」の大きなリスク①

管理機能が第三者の手中に!!

「Googleビジネスプロフィール」は、事業者が自分の事業や店舗をGoogle上で効果的に紹介し、検索結果に表示されるようにするための無料のツールです。今回から3回にわたり、このツールの特徴と注意点などを紹介します。

Googleの検索やGoogleマップで医院名を検索した時、自動的に表示されるプロフィール機能を見たことはないでしょうか。Googleビジネスプロフィールを作成すると事業者の基本情報(営業時間、住所、電話番号など)がGoogleマップや検索結果に表示され、ユーザーが事業者の詳細情報を簡単に見つけ出すことができます。近年、よく誹謗中傷を書かれたり、マイナス評価をつけられたりするなど、歯科医院の運営側にさまざまな問題や不快感を突き付けてくる〝あれ〞です。
基本情報以外にも︑写真や動画の公開やサービス情報の掲載、予約ボタンの設置など、複数の機能を持っています。
ところで、「Googleマップへの口コミ」をご存知でしょうか。実は、「Googleビジネスプロフィール」は、この口コミへの返信を書いたり、削除依頼を出したりする管理機能も持っています。しかし、この「Googleビジネスプロフィール」の管理登録は、誰にでもできてしまうのです。
Googleが自動的に行っているサービスとはいえ、医院の大切な情報や口コミの返信を見ず知らずの業者や第三者が勝手に行っていたとしたら、一体どうなるでしょうか。悪意を持って情報を改ざんされる場合もあります。
次回は、「Googleビジネスプロフィール」には、どのようなリスクが潜んでいるのか、どう対策すれば良いのかを考えます。

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クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2024年2月号3面掲載)

※「東京歯科保険医新聞」2024年1月号の「IT相談室」はお休みました。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.16】 歯科大学受験背景・歯科人生のスタート

さまざまな経緯から歯科医師を選んだ5氏から学ぶ

2024年1月13・14日の両日は、大学受験生自身の学力レベルを測る大学入学共通テスト(実施主体は独立行政法人大学入試センター)が多数の国公私立大学で実施された。この前哨戦ともいえる試験には、歯科医師を目指す受験生も参加している。

今回は、大学入学試験合格後、歯科医師国家試験に合格し、晴れて歯科医師となり、現在も診療に従事している歯科医師5氏について、共通試験がなかった時代の大学受験の背景と現在を紹介し、改めて歯科大学を考察するための参考に供したい。

◆営業マンから転身…多彩な人生模様

A氏は、歯科技工士となり歯科診療所の院内技工所に勤務したものの、苦労を重ね悩んだ末、歯科大を受験、合格した経歴を持つ。「歯科大受験で高校時代を思い出しましたが、もう後がないので必死でした」。歯科診療所を開設してから年経過、院長として奮闘中。歯科技工士として苦労した経験から、歯科技工士には丁寧に接するよう心がけているという。ご本人は「無理はしません。歯科医師の見方もありますが、技工士さんが苦労する箇所を知っていますから」とWライセンスの視点が自然に出てくるようだ。
次に紹介するB氏も歯科技工士として養成機関のインストラクターとして勤務。歯科技工士の世界でも名を残し、専門雑誌でも紹介され、特にクラウン・ブリッジが得意で専修科まで進み、その技術は卓越していたが、歯科医師への思いが断ち切れず歯科大を受験し、合格した。歯科医師となった後に入会した日本補綴歯科学会の学術大会に参加した時は控えめに〝歯科医師〞としての観点から質問をしているが、「技工士時代は、インプラントの評価が定まっておらず、業界雑誌も特集がない時代でしたから、隔世の感があります」とコメントしてくれた。
続くC氏は、父親は開業歯科医師であったが、筑波大に入学し体育専門学群マンをしていたが、サラリーマン生活をやめ、歯科大学受験に挑戦し、見事に合格。さらに、新卒で国試に合格。歯科医師としてスタートしたが、「合格してホッとしました。正直、お金もかかったためこれから借金の返済です。でも、私は歯科診療が楽しいです。別に親に反発したのではなく、高校時代に大好きなテニスで全国大会に推薦される結果を残したため筑波大に進学しました。両親も、よく容認してくれた思います」と両親に感謝。「今は、地区歯科医師会のテニスクラブに入会しています」と語る。
また、D氏は「国試不合格」という辛い経験。まさに国試浪人を経て晴れて合格し、念願の歯科医師になった人物だ。「周囲の目もあり、クラスメイトに会うのも控えるようになった。恥ずかしさと不甲斐なさもあったが、歯科医師を諦めるわけにいかず、本当に落ち込んだ」「新卒の時は自己採点して、厳しいかもしれないと『実感』。甘くみたわけではないが油断があったのかも。受験生に言いたい。油断禁物!です。試験が終わるまで全力で」と警笛を鳴らしている。
最後のE氏の母校は、国試合格率は芳しくなかったが、「国試の自己採点はそれなりの正解率だったので必ず合格すると思っていました。後日、大学からは、『君は、本学の国試合格者全員の中でトップクラスの正解率だった』との話を伺いました」と語った。
以上の5氏は、今も自ら選択した「歯科人生」を着実に歩んでいる。特に歯科大学では、一生の友人や恩人となるような人との縁や出会いがあり、歯科人生の「スタートの場」でもあるようだ。

 

「東京歯科保険医新聞」2024年2月1日号(No.647号10面掲載)

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オフィス  オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立してオフィス  オクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科医療を経済から見てみるNo.5 完 医療経済学的なものの見方から

「歯科医療を経済から見てみる」というタイトルの連載でお話を進めています。いろいろな経済資料や経済学的観点から歯科医療を考えていきます。今回は、経済学的な視点から歯科保健政策を見ていきます。

医療経済評価の手法はいくつかありますが、費用便益分析が良く使われています。この手法は、得られた便益をすべて金銭価値に換算して、治療もしくは予防にかかった費用と比較する方法です。得られた効果をその方法を使用しなかった時に要する費用や死亡・障害などといった結果に着目し、金銭価値に換算することとなります。異業種間の比較検討が可能であり、一般にマクロな事業を対象とすることが多く、「フッ化物を応用したう蝕予防の効果」などに用いられています。測定された便益が費用を上回れば、分析の対象となる治療もしくは予防法は有益となります。ただし、医療の効果を金銭換算することができる場合にしか使えません。

費用便益分析について見て行きます。具体的な例としては、「学校におけるフッ化物洗口の効果を評価」になります。今までは、毎年の定期歯科検診の結果から「DMF歯数」の減少から有用だと判断されていました。しかし、新たに学校現場に「別途投資」する価値があるのかについては、結果を出すことができませんでした。

このようなシミュレーションは、今までは歯科検診からの推定でしたが、今後は電子化されたレセプトを用い、実際の歯科医療費の動向を確認することも可能となっていきます。

さて、今までは、学校保健と公的医療保険制度は別物として扱われることが多かったのですが、今後、地域保健医療を一体化して進めるにあたり、区市町村は縦割り的な行政を効率的に運用するため、より効率的に予算を割り振ることが求められます。学校保健で指摘された疾患であっても、治療費は公的医療保険制度で支払われることを考えれば、当然であると考えられます。特別区(区)では、各区の方針で原則、高校卒業までの医療を無償化していますので、このことも考えておく必要があると思われます。

一方、歯科への患者が減るのではないかと思われる方がいらっしゃると思います。現在までのフッ化物の応用状況と都道府県別の歯科医療費の分析では、明らかな差が出るほどにはなっていません。むしろ、ここで重要なのは、歯の形態的欠損や喪失を防ぐことによって、次に求められるのが機能回復です。すなわち、形態的修復から機能回復への「歯科医療の転換」が、間近に迫っていると思われます。ここに、「新しい病名」と「新技術」が提案されることによって、保険診療も変わっていくことになるかと考えられます。

◆エピローグ

最後になりますが、5回の連載について、お読みいただきありがとうございました。「医療経済」は、大きな意味では公衆衛生分野に含まれますが、中区分では「医療管理学」領域になります。医科では、医療経済学という専門分野がありますが、かなり経済学的な知識がないと難しい分野です。歯科領域を中心にご興味のある方は、これを機に「歯科医療管理学」を少し覗いてみてはいかがでしょうか。

 

「東京歯科保険医新聞」2024年2月1日号(No.647)11面掲載

尾﨑哲則( おざき・てつのり)1983年日本大学歯学部卒業。1987年同大学大学院歯学研究科修了。1998年日本大学歯学部助教授。2002年日本大学歯学部医療人間科学分野教授、日本大学歯学部附属歯科衛生専門学校校長、日本歯科医療管理学会常任理事。2008年日本歯科医療管理学会副会長、2019年日本歯科医療管理学会理事長。ほかに、日本公衆衛生学会理事、日本産業衛生学会生涯教育委員会委員長、社会歯科学会副理事長などを務める。