【重要なお知らせ】
東京歯科保険医協会では、社会情勢の変化に応じた働き方の改善を進めています。
そのため、2024年9月1日から電話の受付時間を以下の通り、変更することになりました。
会員の皆様にはご迷惑をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
<<9月1日以降の電話受付時間>>
午前:10時00分~12時30分
午後:1時30分~5時00分
※お電話がつながるのは平日のみです。
【重要なお知らせ】
東京歯科保険医協会では、社会情勢の変化に応じた働き方の改善を進めています。
そのため、2024年9月1日から電話の受付時間を以下の通り、変更することになりました。
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◆資格確認方法が2パターンに/混乱はこれから
今年12月2日で健康保険証の新規発行が停止となるが、すでに発行されている健康保険証は、記載された有効期限、または2025年12 月1日まで使用できる(表1参照)。
新規発行停止後は資格確認方法が2つに分かれる。マイナ保険証の登録をしていない患者の場合、現在の健康保険証の有効期限が終了した後は、保険者から送付される「資格確認書」を窓口で提示する。一方、マイナ保険証の登録をしている患者の場合は、現在の健康保険証の有効期限が終了した後は、①マイナ保険証を提示するか、②オンライン資格確認システムを導入していない医療機関に受診する場合は、マイナ保険証に加え、保険者から送付される資格情報が記載された「資格情報のお知らせ」もしくはスマートフォンでマイナポータルの資格情報画面を窓口で提示する(表2参照)。
後期高齢者の場合は25年7月頃、国保の患者の場合は25年9月頃に、現在の健康保険証の多くが有効期限切れとなり、有効期限がない社保の患者の場合も25年12月1日に期限が切れるため、これらの時期に、多くの患者の窓口での資格確認方法が変わるため、大きな混乱が生じることが懸念されている。
◆マイナ保険証登録済も
健康保険証利用する人多数マイナンバーカードの保有者数は今年4月末時点で全人口の73.7%、うちマイナ保険証の登録をしているのは78.5%のため、全人口当たりのマイナ保険証の所有者は57.9%となるが、利用率はたった9.9%である。つまり、マイナ保険証の登録をしている患者の多くが、マイナ保険証を使わずに健康保険証を窓口に提示している。本人が気づかないうちに健康保険証が使えなくなり、受診時にマイナ保険証を忘れ、資格確認ができないということが頻発しかねないのが現状だ。
◆健康保険証を残すことこそ肝要
これまで資格確認は健康保険証でも滞りなく行われてきた。健康保険証を存続し、患者の自主的な判断に委ね、マイナ保険証との併用を認めるべきである。なお、マイナ保険証を登録した患者であっても、今年10月から利用登録を解除すれば「資格確認書」の発行を受けることが可能になる。
国は、このような選択肢があることを患者に広く周知するべきである。
こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)8月1日
【新聞8月号】
1.〝虫歯〟の有無 目立つ「二極化」/学校歯科治療調査懇談会を開催養護教諭8名と意見交換
2.“大詰め”迎えたオン資義務化撤回訴訟/9月結審、11月判決の可能性
3.社会医療診療行為別統計/1件当たり1,279.5点
4.探針
5.ニュースビュー
6.提出期限は8月31日まで医療機関等向け総合ポータルサイトで確認を/CD-R等の請求に係る猶予届出の提出を忘れずに
7.9月歯科用貴金属の随時改定/全種類引き上げ
8.「施設基準等の定例報告」7月報告から“8月報告”へ
9.オン資「資格確認限定型」
10.10月に実施 会員の意識と実態調査 ご協力のお願い
11.診療報酬改定情報「歯CAD、歯リハ3に係る疑義解釈示される」
12.保団連 武見厚労相に保険証存続求め要請書
13.社会医療診療行為別統計 歯冠修復および欠損補綴減少傾向
14.マイナ保険証利用率9.90%/保険証新規発行停止後に混乱生じる懸念
15.小池都知事3選/さらなる東京都の医療充実を望む
16.【お詫びと訂正】
17.経営・税務相談Q&A No.419「夏季休暇~年次有給休暇の計画的付与~」
18.歯科衛生士への医療安全および感染対策アンケート協力のお願い
19.「夏季休診案内」のご紹介
20.デンタルブック会員優待ご案内
21.8月会員無料相談のご案内
22.研究会・行事ご案内
23.退き際の思考 歯科医師をやめる/(張 紀美さん・後編)「やめることも前進の1つ」土台作りセカンドキャリアへ 医院最後の日まで地域に愛され—
24.共済部だより/共済募集キャンペーン
25.”恒例”東京保険医美術展―最後の開催惜しむ声も
26.新規開業医講習会 今後の診療に役立つ知識向上に活用を
27.夏空写真投稿/「天まで届け」(吉田真理氏/武蔵野市)
28.会員寄稿「声」/学童時に体験した日米戦争(埜口五十雄/江戸川区)
29.教えて!会長!! Vol.85「4月改定→6月施行後2カ月 新たな診療報酬の現状」
30.保険証の存続を求め社会保障の充実を求める決議を承認 保団連第1回代議員会を開催
31.「情報セキュリティ10大脅威2024」解説②まず「脅威」の内容を理解しましょう
32.通信員便りNo.144
33.症例研究「初期の根面う蝕の管理と診療情報等連携共有料1」
34.連載「マイナ保険証の〝失態〟を追う~このまま見過すことはできません~」/第5回「マイナ保険証」で歯科医院も閉院ラッシュ?!(荻原博子さん/経済ジャーナリスト)
35.理事会だより/2024年度第6回・第7回理事会
36.7月協会活動日誌
37.神田川界隈「掌蹠膿疱症および掌蹠膿疱症性骨関節炎~患者のQOL向上に求められる医科歯科医療連携~」(理事・高山史年/豊島区)
38.暑中お見舞い名刺広告
39.連載「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望④完/(佐藤一樹氏)第4回「東京地裁103号大法廷:裁判進捗と展望/ベア評価料やマイナ問題など議論」
40.今次改定施行後初のメディア懇談会/ベア評価料やマイナ問題など議論「閉院の後ろには患者さんがいる」
オンライン資格確認を療養担当規則で原則義務化するのは違憲だ―として、全国の医師・歯科医師ら1,415人が、国にオンライン資格確認の義務が無効であることの確認などを求めた訴訟.
その第7回口頭弁論が7月9日、東京地方裁判所(岡田幸人裁判長/103号法廷)で開かれ、当協会理事の橋本健一氏を含む原告団17名が参加し、約60人が傍聴した。
◆国側が反論
今回は原告側の準備書面に対し、被告(国)側から「反論させていただきます」と発言があり、被告の意向が確認された。岡田裁判長は被告の準備書面の内容次第で、「可能性としては次回終結(結審)することもあり得る」と明言した。
その後の記者会見兼原告説明会では、原告側の今回の準備書面の詳細が説明された。結審に向け、焦点を①オンライン資格確認に関する事項を委任する健康保険法の規定はないこと、②改正後療養担当規則が健康保険法の委任の範囲を逸脱すること、③オンライン資格確認の義務化が原告の憲法上の権利を侵害すること―の3点に絞り、主張を展開しているという。
国側は前回の準備書面で「オンライン請求を原則義務化しているため、同様にオンライン資格確認システムに対応できる体制整備を義務付けたことで事業者の事業そのものを規制するものには当たらない」という主旨の主張をしていた。しかし、療養担当規則施行によるオンライン資格確認の義務化は2023年4月1日から、一方でオンライン請求に対応する義務は24年4月1日から施行。原告側はこの点について、前後関係の誤りがあることなどを指摘した。
弁護団の喜田村洋一弁護士は「次回、結審することはほぼ間違いない」とし、「終結から2カ月以内の判決が常識となっているので、11 月の下旬に一応の判決が出るだろう」との見通しを説明した。続けて、二関辰郎弁護士は、法廷を「埋め尽くすことができれば裁判所に対してアピールになる」と、傍聴に足を運んでほしいと呼びかけた。
◆次回口頭弁論9月19日に
なお、次回、第8回口頭弁論は9月19日㈭午前11時から東京地裁大法廷(103号)で行われる。
「個人」の脅威とは「個人」の脅威は、「ネット上の誹謗・中傷・デマ」を除けば、さまざまな手法を使ってID、パスワード、クレジットカード番号などを盗むか、直接的に要求して金銭を騙し取ることから、把握しやすいことが特徴です。いわゆる特殊詐欺の被害が高止まりしていることからも分かる通り大きな脅威であり、ご自身のID、パスワード、出金をこまめにチェックし、問題があれば素早く対処することが必要です。
◆ 「組織」の脅威とは
「組織」の脅威には、前回解説した「ランサムウエア」のように、パッと見ただけでは内容がわからないものがあります。
例えば、「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」は、自院ではなく取引先などを経由して侵入して来る脅威となっています。また、「標的型攻撃による機密情報の窃取」は大きな組織に侵入し、結果的に大きな被害を生むことが脅威となっており、「修正プログラムの公開前を狙う攻撃(ゼロデイ攻撃)」や「脆弱性対策情報の公開に伴う悪用」は、公表されたPCやスマートフォンなどの機器やプログラムの弱点を狙って来ることが脅威となっています。
一読後に順位を見て、分かるものだけ注意するのではなく、分からない内容については検索して調べ、一定の理解をしておくことをお勧めします。 次回は、「情報セキュリティ10大脅威2024」解説の最終回です。
クレセル株式会社
(東京歯科保険医新聞2024年8月号8面掲載)
★「情報セキュリティ10大脅威2024」解説①は2024年6月1日号8面に掲載しています。協会ホームページには2024年6月7日(金)にも掲載しており、ホームページ内「IT相談室」で検索していただくと、すぐにご覧になれます。
張紀美さん(キミ小児歯科クリニック院長) ― 後編
前編はこちら
張紀美(ちょう・きみ)さん/1965年、長野県松本市生まれ。90年に松本歯科大学卒業後、同年東京歯科大学小児歯科学講座に入局。1997年同大学院修了。2010年キミ小児歯科クリニック開業。2024年5月同クリニック閉院。
歯科医師としての“引退”に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、 医院承継、閉院の苦労などを深堀りする。
今回は、今年5月をもって閉院したキミ小児歯科クリニックの張紀美先生(59歳/文京区)の後編。小児歯科の専門医として地域の子どもたちの口腔内を守ってきた張先生。医院最後の1日にお話を伺った―。(前編を読む)
―医院の開院から閉院まで振り返っていかがですか。
子育てで忙しかった頃は、まさか自分が開業するとは思っていませんでした。ただ、いろいろな問題が出てくる中で「マイナスにならなければ」と、借り入れなども少なくして医院をスタートし、大きな問題なく閉院することができました。多少なりとも地域医療に貢献できたと思いますし、開院して主体的に収入を得たことは良い経験になりました。
―協会に入会してみていかがでしたか。
常勤の助手が退職した時に労務相談のために入会し、弁護士の先生にお世話になりました。院内感染防止対策講習会も受講しましたし、コロナ禍の支援金申請の際は、デンタルブックの動画が細やかな解説で役立ちました。一人で不安を抱えながら医院経営をする先生にとって、とても良いものだと思います。
―引退後のセカンドキャリアについて、どのように考えていますか。
60歳から動き始めるために、閉院後の1年間は準備に費やす感覚です。まず6月中にクリニックから自宅に持ち帰った物を片付けるために、独立した2人の息子の部屋を片付けて保管場所を確保しなければなりません。子どもの部屋にはたくさんの本や洋服、部活動関連の物がそのまま置いてあるので、不要な物を整理する必要があります。ある意味、クリニックの片付けよりも大変かもしれません。自分の目標の前に、居心地の良い空間を作るために身の回りを整理することから始めたいと思います。
―まずは新生活の土台作りからということですね。
閉院後は、若い頃から夢見た韓国留学に行きたいと思っていましたが、それは少し先になりそうです。老犬のお世話、高齢な両親との関わり、ここ数年で嫁ぐであろう娘のこと…。人生の自由な時間はわずかだと思います。「何かしよう」と思った時には、それなりの難題に当たります。今後直面するであろう難題の隙間時間を有意義に過ごすため、環境を整えたいです。また、当初は語学堂*で学ぶことが留学の目標でしたが、「今更また勉強するのも疲れてしまうな」と思い、変更しました。新たな夢は、時間を気にしないで韓国の地方に赴き、現地の人たちとその土地の韓国料理とマッコリを交わすことです。ついでに韓国料理と伝統工芸なども学びながら気楽な旅がしたいです。そのため、毎日韓国語を独学で学んでいます。引退後の私のモットーは「疲れることはしない」「無理して頑張らない」です。試験に追われ頭が痛くなるような勉強はやめました。代わりに自分が豊かになる体験がしたいです。この目標が1年後に叶うといいなと思っています。(*=韓国の大学が運営する語学学校)
―日常生活の面では、何かイメージは湧いていますか。
次男が2年前に独立した時、食事の買い出しや掃除の負担が少なくなったこともあり、休診日に「こんなに時間の余裕があるんだ」と感じました。それから月1回、韓国刺繍を習い始めました。院内の片付けの時に少し早く終わった日があり、仕事終わりに初めて1人で映画を観に行きました。有楽町まで足を運び、「平日の映画館ってこんなに人が少ないんだな。夕方5時半からビールを片手に映画が観られるんだ」と、何気ないことに驚きと喜びがありました。そんな些細なことに楽しみを感じながら日常が変化していけばいいかなと思っています。ここに至るまで子育て中の反抗期もたくさん経験したし、いろんな問題に直面してモチベーションの変化もありながら辿り着きました。せっかく得た時間なので、身体が健康なうちに、人に迷惑をかけないで楽しく生きたいというのが一番ですね。
―最後に、今まさに引退を考えている先生にメッセージをお願いします。
そろそろ辞めたいと考えている先生は、自分のことを大切にする選択肢も持ってほしいです。「信頼されるほど背負う責任も多くなる。それがストレスに感じるなら辞めることも前進の1つだ」とは、ある本の一節です。生活費の問題などで続けなければならない状況があると思いますが、それでも辛いと思う方は一時的にマイナスになるかもしれませんが、ひと休みして充電して、また次に進んで欲しいと思います。
―ありがとうございました。
~編集後記~
取材日は5月31日。それは医院を開いて丸14年、キミ小児歯科クリニック閉院の日。「ここでの最後の仕事」と快くインタビューを引き受けてくれた張先生。これまでの歩みを聞いていると、エントランスから「ガチャッ」と扉の音。すでに診療はしておらず、患者の来院はないはずだが、そこには一人の小学生の姿が。「いらっしゃい」―なんとも自然な流れで先生に迎え入れられると、その子は慣れた手つきで宿題をはじめた。聞けば、1歳の頃から診てきた患者さんだという。
地域に根付き、子どもたちに愛されたキミ小児歯科クリニック。14年間、この場所で繰り広げられた“日常”が最後のひと時まで続いた。「お兄ちゃんに、次に学校帰りに寄っても先生はいないって伝えてね」と先生から告げられ、コクリとうなずいた後ろ姿が少し寂しそうに映った。
PROFILE/ちょう・きみ
1965年、長野県松本市生まれ。90年に松本歯科大学卒業後、同年東京歯科大学小児歯科学講座に入局。1997年同大学院修了。2010年キミ小児歯科クリニック開業。2024年5月同クリニック閉院。
引退を決心した瞬間 目標10年“計画閉院”は周囲に支えられ―(張紀美さん【前編】)
#インタビュー #連載 #退き際の思考
A 「複雑で理解が困難」との評価である24年度診療報酬改定ですが、7月末で施行から2カ月が経過しました。先生方におかれましては日々の診療、保険請求に問題はないでしょうか。今次改定は、新設項目、施設基準の届出、条件付きの項目、医療DXを推進する項目、そしてベースアップ評価料など、新たに「学ぶ」必要がある項目が多い改定と言えます。協会には、改定に関する会員からの問い合わせが多く、特に5、6月は協会の電話は鳴りっぱなしの日々でした。電話がつながりにくかったため、ご迷惑をおかけした先生にはお詫び申し上げます。
ここで、図1に今次改定を含めた過去3回の改定時における、会員からの保険請求相談の電話件数を示します。18・20・22年度改定は当該年3〜5月、今次24年度は、施行が6月ですから5、6月を集計しました(本稿執筆時点で今次改定7月分は未集計)。18〜22年度の計3回の改定では、18年度が比較的多くの電話相談がありました。18年度改定は、初・再診料に院内感染防止対策の施設基準(注1の届出)の新設など施設基準の新設や再編、口腔機能管理料、小児口腔機能管理料の新設、訪問診療の区分再編などがあったことで問い合わせが増加したと思われます。今次改定と前回の22年度改定を比較すると、施行月の前月で1,027件だったものが、今次改定では3倍以上の3,274件と驚くべき件数でした。施行月では、22年度4月が1,186件に対し、今次改定で2,139件と2倍近くの件数でした。電話対応の増加に対し、事務局は残業時間を増やすなどして対応しました。
なお、懇談会は、参加される先生方から「懇談会で聞きたいことはございますか?(3項目まで)」と事前アンケートに回答いただき、ご希望が多い項目について、詳細な解説を行い、疑問があれば直接質問いただく方式です。図2に3地区での事前アンケートの結果を示します。懇談会の題名通り、「増点に繋がりそうな話」が一番多く、次いで「口腔機能管理料」「Ceや根Cに対するフッ化物塗布」に回答が集まりました。そのほかの項目をはじめ、先生方の疑問点はどういったものでしょうか?8月7日の城東地区懇談会は、本ホームページのトップにご案内を掲載しています。ご参加をお待ち申し上げます。
東京歯科保険医協会
会長 坪田有史
(東京歯科保険医新聞2024年8月号掲載)
10 大法廷(注:見出し番号は前号からつづく)
東京地方裁判所103号大法廷は、民事部が使える最大の法廷で傍聴席が98席ある。原告側は当初からこの大法廷での開廷を裁判書記官に希望していた。しかし、書記官は難色を示し、第3回口頭弁論までは傍聴席が40席程度の一般的な法廷で開廷されていた。ところが、その第3回期日で、岡田幸人裁判長から第4回は大法廷で行われることが告げられた。その後の口頭弁論も全て大法廷での期日を指定している(図1)。
11 裁判長による空中戦阻止
行政訴訟は、行政実定法(本件では健康保険法など)の解釈が問題となり、具体的な争点は比較的明確で、最初からある程度材料が揃っている(本件では第3回連載の「9.四つの考慮要素と授権趣旨の明確性」で解説)。一般の民事裁判の口頭弁論(証人尋問がない場合)では、裁判官は、原告あるいは被告(国)が事前に提出した準備書面などを確認して陳述したことにする。また、相手側に対し、次回の弁論で提出する書類があれば、次回期日1週間前頃までに提出するよう指示し、次回期日の打診を行い、双方に異議がなければ期日を指定して、10 分程度で終了する。
しかし、第3回期日で、岡田裁判長が被告に対し、第2準備書面の書き方について「空中戦をするのではなく」と釘を刺し、以下2点の具体的指示を出すという一幕があった(ここでいう空中戦とは、文書や資料の証拠がなく、発言のみで議論がなされること)。当事者主義である民事訴訟(行政訴訟も民事訴訟の一種)の弁論期日で、裁判長が、準備書面で触れるべき内容に指示を出したことは、注目すべきだ。
(1)健康保険法が「療養の給付」の内容のみならずその「方法」について療養担当規則に委任しているとの被告の主張につき、他法令において同法同規則の定め方と類似の先例等があればその内容を具体的に指摘する
(2)オンライン資格確認をめぐる国会での厚生労働省の答弁(図2)と、この事件での国の主張との整合性について説明する原告第1準備書面では、「厚労省は、現場の実情を見ると一律義務化への理解を得るのは難しいと言いつつ、その答弁から4カ月しか経っていない9月5日に療養担当規則を改正した。国会での議論とどう整合するのか」と主張していた。裁判長もこの点を明らかにするよう求めているのだから、原告と裁判所の関心事は一致し、波長が合っている。
12 裁判進行に関わる原告の要望を通す
国側は、先述の(1)を受けて児童福祉法、生活保護法、感染症予防法、高齢者医療確保法、覚醒剤取締法などを挙げて、縷々論難した。しかし、いずれも状況の異なる例を根拠としているなど、本件で問題となっている委任について、主張を補強する体裁にはなっていない。(2)については、「国会で議論されていなければオンライン資格確認を原則義務化することができないというものではない」と開き直った二重否定の主張に終始した。
第6回期日において、原告代理人の喜田村洋一弁護団長は、本年12月2日の現行の健康保険証廃止前の11月中に判決を言い渡すよう裁判所に要望した。逆算して、9月中旬の結審を目指し、原告側最後の第3準備書面を6月中に提出すると告げた。原告は、これまで準備書面の作成には8〜11週間かけてきたところ、急いで5週間で提出するから、被告も8週ほどで第4準備書面の提出を都合してもらいたいということになる。
民事裁判の口頭弁論期日の指定は訴訟の進行を指揮する裁判官の権限だ。被告に対し冷徹な姿勢で空中戦阻止を命じた岡田裁判長は、どのように対処するのか。私を含め17人の原告席には緊張が走った。しかし、怜悧な一流法律家同士の阿吽の呼吸だろうか。裁判長が原告席の方を向き、優しく微笑んだ。
13 裁判官の心証と展望
第7回期日で、原告は最終準備書面を陳述した。裁判長は、「次回弁論で被告には全てを出し尽くす形で用意してもらう」と指示し、終結(結審)する可能性が高いことも明言した。その上で、原告には、終結後も実務的に書面を出すことも可能であると付言した。判決の言渡しは、口頭弁論の終結の日から2カ月以内にするのが〝常識〞*。つまり、11月だ。
ここまでを振り返ると、岡田裁判長は、争点の整理や裁判進行については被告に厳しく、原告の要望を尊重している。脚注のタイプミスを指摘するほど、原告準備書面を読み込んでいる。
贔屓目を承知であえて言えば、現時点で心証は原告側にあり、原告が勝勢だ。しかし、裁判結果は「石が流れて木の葉が沈む」こともある。判決の言い渡しまでは勝訴を宣言できない。
おわりに
民事裁判、特に行政裁判は、手続であり、仕組みであり、技術である。それだけに、裁判の実情が見えるものでなければならない。東京保険医協会では、原告団だけでなく国民にこの裁判を理解していただくために、ホームページに訴訟の経緯や全資料(プライバシーに係るものを除く)を公開し、第2回口頭弁論期日からは記者会見・原告説明会を開催し続けている(録画動画あり)。東京歯科保険医協会会員にも、ぜひ、活用していただきたい。(了)
*民事訴訟法〔言渡期日〕第251条
1項 判決の言渡しは、口頭弁論の終結の日から二月以内にしなければならない。ただし、事件が複雑であるときその他特別の事情があるときは、この限りでない。(解説)これは裁判所に対する訓示規定であるので、これに違背しても言渡しが違法になることはない。ただし、旧190条が2週間の期間を定めていたのが実情に即さないとして、2カ月に延長されたものであるから、通常の事件においては、この期間を遵守することが要請される。したがって、9月19日結審なら、11月19日以前の判決言渡しが〝常識〞である。
1991年3月、国立山梨医科大学医学部卒業。同年4月、東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器小児外科入局。1999年4月同科助手。2009年12月、いつき会ハートクリニック理事長・院長。専門は心臓血管外科、小児心臓外科。学位:医学博士。著書に「医学書院医学大辞典」(第2版)医学書院(2009年)他、多数。
オーラルケアをする人が増え虫歯が減ってきたことや、自由診療を強化したら高額な治療は増えたけれど逆に患者が減ってしまった、歯科衛生士などの人手不足や歯科医師が高齢になって後継者がいないなど、さまざまな理由で閉院を余儀なくされています。
ただ、原因はそれだけではなく、「マイナ保険証」が導入された影響も少なからずあると推測されます。政府は、今年9月をタイムリミットとして、医療機関に対するオンラインでのレセプト請求への移行を原則義務化しました。
病院、歯科医院などの保険医療機関や保険薬局、審査支払機関や保険者との間で、レセプト電算処理システムで診療報酬等のレセプトデータの受け渡しをオンラインで実施するという方針を出し、紙ベースのレセプト請求は、原則として4月から新規適用を打ち切っています。
◆オンライン対応できない医院も
歯科医院のレセプト請求の状況(2023年3月処理分)を見ると、オンラインが33.5%、レセプト請求用のファイルを作成してフロッピーディスクやCD―ROM(光ディスク)などに書き込み、支払基金や国保連合会へ郵送する電子媒体によるものが58.6%、紙媒体が7.9%でした。
これを最終的にオンラインに統一するのは、多くの歯科医院にとっては大変革です。便利になることは確かですが、導入には費用もかかるし、そもそも2022年時点で歯科医師の12.6%は70歳以上(2022年「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」)。自分の代で閉院を決めている人もいて、使い慣れない新たなシステム導入に意欲が持てるのかは疑問。
全国保険医団体連合会の調べによると、全国の医科診療所のうち診療報酬をCD―ROMや紙レセプトで請求していたところが15,700機関、歯科医院では4,0680 機関。うち約2割が、「義務化されると廃業せざるを得ない」と回答していて、最大で1万件を超える医療機関が廃業に直面するかもしれません。
こうした状況を見ると、オンライン化で便利になるのはわかりますが、拙速に進めていくことには疑問があります。ただ、急がざるをえないのは、政府が今年12月2日に新たな健康保険証の発行をしないと決めてしまったからでしょう。
◆国の都合で負担だけを押しつける
確かに、オンライン化に慣れてくれば、事務作業も早くなり合理化されるかもしれませんが、そこまで行くには問題を多く抱えている医療機関もあります。例えば、「費用」については、全国保険医団体連合会のアンケートへの回答で、「初期導入費用が負担」が26.2%、「ランニングコストが負担」が34.9%。オンライン請求導入については補助金がなく、すべての負担が医療機関にのしかかってくることから、負担感が大きいようです。
しかも、現状の方法に不満を抱いている人も少なく、「コンピュータについては操作方法がわからない」という高齢な医師・歯科医師もいます。厚生労働省のアンケートを見ていて少々驚いたのですが、「パソコンを持っていない」という医師もいました。また、「歯科医師の本業の整備投資にお金がかかるので、これ以上お金はかけたくない」という人もいました。
なぜ、国はこれほどまでにオンライン化を急ぐのでしょうか。その背景には「保険証の廃止」と、国が目指す「医療DX」の構築があります。「医療DX」については別の機会に詳しく書きますが、要は国のご都合主義で医療現場の都合は考えず、振り回し、閉院も破綻もお構いなし。つまり、「現場に、顔が向いていない」ということです。
「東京歯科保険医新聞」2024年8月1日号10面掲載
【全文を読む】第5回「マイナ保険証」で歯科医院も閉院ラッシュ?!
経済ジャーナリスト 荻原 博子
プロフィール:おぎわら・ひろこ/経済ジャーナリスト。家計に根ざした視点で経済を語る。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞・経済誌などに連載。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。近書に「マイナ保険証の罠」(文春新書)、「マイナンバーカードの大問題」(宝島社新書)など。
◆マイナンバーカードの普及には約3兆円の血税が使われた
マイナンバーカードの普及でも、同じようなことが起きています。21年3月の衆議院内閣委員会で、カードを含めたマイナンバー制度にいくらかかったのかと問われた当時の菅義偉総理は、過去9年間で8,800億円と答えました。さらに、22年度予算では6月からの最高2万円分のポイントを付与する事業には1兆8千134億円が計上され、それにとどまらず市区町村でのカード交付事業の補助金などとして、約1千億円を計上。普及促進費用や公金受け取り口座登録制度の推進事業などで約350億円を計上しています。そのうえ翌23年には、患者にマイナ保険証利用を積極的に働きかけた医療機関に配る支援金217億円が計上されています。
こうして見ると、今まで国民の税金約3兆円がマイナカード普及のために使われてきたことになります。日本の人口約1億2,000万人で割れば、赤ちゃんからお年寄りまで一人あたり約25,000円の税金負担を強いられたことになります。
◆携帯電話搭載のマイナ保険証は医療機関では使えない
これだけの税金を使うなら、さぞ「便利」で「合理的」な使いやすいものになるはずですが、現実は、不便なので利用率が低迷しっぱなし。病院に「最高で20万円の報奨金」というアメと、「積極的に勧めない病院は通報しろ」というムチで5月には7.73%になりましたが、まだ低空飛行状態。そこで、この報奨金を40万円にアップしました。
「便利だから使いたい」と思うようなシステムにすべきでしょう。けれども、デジタル庁の「保険証をなくせば、みんながマイナカードを作らざるをえない」という目論見で、物事を対処療法で進めているため、日を追うごとに「便利」と「合理的」からは、どんどん遠ざかっています。
「東京歯科保険医新聞」2024年7月1日号10面掲載
【全文を読む】第4回 3年後 病院の窓口に病院の窓口に3台のカードリーダーが並ぶ?!
経済ジャーナリスト 荻原 博子
プロフィール:おぎわら・ひろこ/経済ジャーナリスト。家計に根ざした視点で経済を語る。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞・経済誌などに連載。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。近書に「マイナ保険証の罠」(文春新書)、「マイナンバーカードの大問題」(宝島社新書)など。
◆偽カードで銀行口座を作られ1,400万円を騙し取られる
偽造マイナカードで、自分名義の銀行口座を開設されてしまい、1,400万円を騙し取られた詐欺被害も出てきています。
被害者は北海道に住む70歳の女性。今年1月に、総務省の職員や警察官を名乗る詐欺師から「あなたの口座の個人情報が流出したようなので調査しています」という電話を受け、指示されるままにスマホのビデオ通話でマイナカードを見せました。
その後、詐欺師は、女性を騙して銀行口座に1,400万円を振り込ませました。これまでの詐欺と違うのは、女性がビデオ通話で見せたマイナカードをもとに、偽のカードをつくって女性になりすまして銀行口座を開設した形跡があることです。
いま金融機関では、高齢者のオレオレ詐欺被害などを警戒して、多額の振り込みをチェックしたり、高齢者に警告を発したりしています。ですから、お金を振り込む前に多くの犯罪が阻止されていますが、振込先が本人名義の口座だと、金融機関には単なる資金移動にしか見えない。こうした、マイナカードを悪用した新たな詐欺がまだまだ増えそうです。
◆スマホの盗撮にご用心
実際に、マイナカード偽造の現場も押さえられています。
昨年12月4日、警視庁国際犯罪対策課が、自宅でカードなどを偽造していた中国籍の女を逮捕。情報を印字する前の無地のカード約750枚が押収されました。カードには、本物そっくりのICチップのようなものも埋め込まれていました。逮捕された女は、中国から届いたPCやプリンターを使用し、偽造に必要なデータをWe Chat(ウィーチャット)を通じて受け取っていたということですから、国際的、組織的な犯罪の可能性が高いのではないでしょうか。
携帯電話の新規契約は、マイナカードと月々の料金支払い口座があればできますから、足がつかない偽マイナカードで携帯電話が手に入れば、詐欺はますます横行するでしょう。
国は、「マイナカードは顔写真入りのため、対面での悪用は困難」「なりすましはできない」と大々的に宣伝し、身分証明書として持ち歩くことを奨励しています。
けれど、私は、危ないからやめた方が良いと思います。落としたら再発行に2ヶ月もかかるし、カードを出した時に背後から近づいてきた悪意ある人がこっそりスマホで盗撮したら、簡単に偽のカードを作られ、携帯電話を乗っ取られたり、本人名義の銀行口座を作られてしまう可能性があるからです。
そういう意味では、どうしても必要な時以外は、絶対にカードは持ち歩かないほうが良いと思います。
◆「東京歯科保険医新聞」2024年6月1日号12面掲載
【全文を読む】第3回 急増しそうな「偽造マイナンバーカード」の悪用に気を付けよう!
経済ジャーナリスト 荻原 博子
プロフィール:おぎわら・ひろこ/経済ジャーナリスト。家計に根ざした視点で経済を語る。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞・経済誌などに連載。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。近書に「マイナ保険証の罠」(文春新書)、「マイナンバーカードの大問題」(宝島社新書)など。
◆当協会から4名が出展
当協会からは、副会長の早坂美都氏をはじめ4名の作品が展示された。早坂氏は陶芸作品「灰釉線刻へのへの組皿」、小林顕氏は油絵「新緑の街並」「望遠」の2点、渡辺吉明氏は写真「爆弾初雪」「花電車」「春爛漫」の3点を出展。さらに、長尾広美氏はスワロフスキーを使った「原点回帰」を出展し、いずれの作品も見る人をほっとさせる趣があり、来場者の目を惹きつけていた。訪れた人たちはいずれの作品の前にも足を止め、しばしの間見入り、鑑賞していた。
◆今回で最後の開催に・・・
毎年夏、恒例となっているこの美術展では、東京保険医協会の厚意により当協会会員の出展を受け付けていただいていた。長年歴史を刻んできたが、今回が最後の開催となっており、今のところ後継となる催しは予定していないとのこと。
訪れた人たちから閉会を惜しむ声が聞こえつつ、同28日に有終の美を飾った。
こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)7月1日
※お詫び※11面に掲載しました東京都知事選挙に関する記事内の表現に誤りがございました。詳細はこちらをご覧ください。訂正してお詫び申し上げます。
なお、ホームページ上に公開しているのは訂正版の紙面です。
【新聞7月号】
1.第52回定期総会開催 2024年度活動報告など承認
2.定期総会記念講演 2024年度診療報酬改定の考察と今後の歯科医療の展望を説く
3.第52回定期総会「決議」
4.「探針」
5.ニュースビュー
6.社保・学術部長談話「6月施行に変更した診療報酬改定の効果・検証を確実に」
7.2024 年度指導計画 協会の開示請求で明らかに 集団的個別指導1,466点以上が対象に
8.診療報酬改定情報
9.連載「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望③/(佐藤一樹氏)岡田調査官解説:原告優勢の理由
10.経営・税務相談Q&A No.418「ウェブサイトの運用にご注意を!~医療広告ガイドライン~」
11.2024年度第1回東京都歯科医師認知症対応力向上研修
12.東京保険医協会:第40回保険医美術展/保団連:第35回全国保険医写真展
13.7月会員無料相談のご案内
14.研究会・行事ご案内
15.退き際の思考 歯科医師をやめる/(張 紀美さん・前編)「引退を決心した瞬間目標10年“計画閉院”は周囲に支えられ—」
16.署名へのご協力誠にありがとうございました
17.全国からの署名17万筆を国会議員に提出/現行健康保険証の存続を求める声/日弁連も意見書を提出するなど運動は多方面に拡大
18.教えて!会長!! Vol.84「エナメル質初期う蝕と根面う蝕の管理」
19.定期総会5年ぶり懇親会 会員集う
20.第52回定期総会祝電・メッセージ等一覧
21.懇親会参加来賓一覧
22.共済部だより
23.症例研究「抜髄時の麻酔薬剤料とNi−Tiロータリーファイルを用いた加圧根管充填処置」
24.新連載「マイナ保険証の〝失態〟を追う~このまま見過すことはできません~」/第4回「3年後 病院の窓口に3台のカードリーダーが並ぶ?!」(荻原博子さん/経済ジャーナリスト)
25.理事会だより/2024年度第2回(暫定)・第3回(暫定)理事会
26.6月協会活動日誌
27.「骨太の方針2024 」を閣議決定/歯科関連事項の記述は一部変更も期待感含む内容
28.神田川界隈「歯科医師として社会と関わる役割を考える」(監事・西田 紘一/八王子市)
29.第1回ドクター・スタッフ講習会「接遇講習会」/クレームを拡大しない極意伝授
30.マイナ保険証問題 特別インタビュー/閉院知り涙する患者に「やりきれない」健康保険証廃止…従業員も“良い職場”失い「喪失感」
31.現行の健康保険証の存続を/国会議員と懇談し、署名手渡す/「保険証の存続を求める国会内集会」が開催
理由は、健康保険証の廃止。
地域住民に根付いた診療所は、瞬く間に世界中を一変させた新型コロナウイルスに対しても、精力的に積極的に取り組み、地域医療の火を灯し続けた。しかし、マイナ保険証への対応ができず、閉院を余儀なくされた。
これにより、長らく通院してきた患者はかかりつけ医を失い、院長や従業員は職を失うことになる。職場の閉院を告げられた看護師、医療事務の2人は、健康保険証の存続を求める協会の活動をホームページ上で見つけ、職場で300筆を越える署名を集めた。マイナ保険証一本化政策により閉院する診療所がたくさんあることを知ってほしい―今、まさに健康保険証廃止の影響を受ける2人の医療従事者に話を聞いた。
開業して数十年、幅広い年齢層の患者さんがいらっしゃる診療所です。新型コロナウイルス感染症の流行当初から、発熱外来にも力を入れてきました。三世代で通ってくださる患者さんも多く、街のお医者さんとして定着しています。
当院では開院以来、紙カルテを使用してきました。現行の健康保険証が廃止されマイナ保険証に一本化された場合、保険診療が継続不可能となるため、閉院せざるを得ない状況です。パソコンの買い替えなどが必須となり、初期費用や毎年の経費も莫大です。今後どれくらい診療が続けられるかという院長や従業員の年齢的な問題もあり、助成さえあれば簡単にマイナ保険証に対応できると判断するのは安易だと考えます。
院長や従業員の意思とは関係ない部分が要因となった閉院で、非常に残念です。母校がなくなるような喪失感があります。マイナ保険証一本化の政策がなければ、当院の診療が継続していたことは確実です。健康保険証に問題なく、マイナ保険証の利用率が低迷している中、地域の方々から必要とされている診療所なのに、なぜ閉院しなければならないのかという思いが強いです。このような閉院は病院の少ない地域であれば死活問題です。マイナンバーカードが任意である以上、マイナ保険証と健康保険証が共存することを求めていきます。
従業員は全員勤務年数も長く、居心地の良い職場です。院長は家族のように従業員を大切にしてくれますし、従業員にとっても頼りになる大切な存在です。
長く通われている患者さんは先生との信頼関係も厚く、非常に残念に思ってくださる方々ばかりです。「最期まで先生に診てほしかった」「閉院後は別の場所で診察なさるんですか?」「これからどこの病院に行けばいいですか」といった声が多く聞かれました。思いがけない理由で突然かかりつけ医が閉院することを知り、涙を流す患者さんも多くいらっしゃり、患者さんにとっても衝撃が大きいことが伺えます。毎日膨大な量の診療情報提供書の作成に追われる院長や、これから他の病院に移り環境の変化に戸惑う患者さん方のことを思うと、私たちもやりきれない気持ちです。
任意のはずのマイナンバーカードが保険証になり変わるということは、事実上、マイナ保険証の使用を強制されているのと同じです。マイナ保険証の利便性が高ければ、健康保険証を廃止にせずとも自然と普及していくはずです。矛盾を押し通してこのまま健康保険証が廃止となれば、当院の閉院は免れません。納得できないまま、「何もしないまま閉院してもいいのか?」とモヤモヤしていた頃に、健康保険証存続のための署名活動があることを知りました。自分たちにも協力できることだと思い、署名活動に参加することを決めました。
院内にポスターを掲示し、署名用紙や回収ボックスを受付の見やすい場所に設置しました。閉院のお知らせの張り紙とあわせて、署名活動のポスターに興味をもってくださる患者さんが多い印象でした。中には一人で何十人もの署名を集めてくださった患者さんもいらっしゃり、私たち以上に患者さんが積極的に活動してくださっています。
予想以上の署名が集まったことから、「閉院してほしくない」「健康保険証を残してほしい」という患者さんの気持ちが伝わってきました。おそらく当院の閉院は免れることはできないと思われますが、同じような状況にある他の医院や困っている患者さん方のためにも、最後まで署名活動は継続しようと考えています。
冒頭の2人は、「医院の患者さんの声を伝える最初で最後のチャンス」と、協会の取材に応じた。この診療所が集めた署名用紙には、保険証存続を求める意見もさることながら、「お世話になった診療所」「院長先生、スタッフが親切に対応してくれた」と、医院への思いを綴ったものが目立った。これほど地域に愛された診療所が不本意にも閉院してしまう現実。こうした現場の声を背負い、協会は健康保険証存続に向けて取り組んでいく。
※署名は国会議員に提出しました。
※この記事は、東京歯科保険医新聞2024年7月1日号に掲載されたものです。
▼関連記事
▼荻原博子さんの連載を読む【マイナ保険証の〝失態〟を追う】
▼ジャーナリスト・堤未果さんインタビュー【ショック・ドクトリンに見る保険証廃止問題「立ち止まって」】
協会は7月12日、第2回メディア懇談会(通算102回)を開催し、メディア5社5名が参加。坪田有史会長が説明し、早坂美都副会長が進行を務め、①診療報酬改定関連、②マイナ保険証問題、③オン資「義務化」撤回訴訟―などについて懇談した。
まず①では、6月から新たな診療報酬が施行されたことを巡り、会員の意見を取り上げながら改定の問題点に言及。ベースアップ評価料については、手続きの複雑さなどから届出する医療機関の割合が少ない実状を説明。参加メディアからは、「理想は(ベースアップ評価料ではなく)従業員の給与に反映できるほどの診療報酬全体の点数にすることだと思う。(ベースアップ評価料の算定が少なく)予算が残ると、国としても対応を迫られると思うが、協会としてはどう見ているか」との主旨の質問が上がった。
坪田会長は、役員の中にもさまざまな意見があると前置きし、「メリット、デメリットを会員に周知していく。それをどう捉えるかは個人の考え方に一任する。予算が余れば、次回の改定に影響する可能性もあるのではないだろうか」と話した。
さらに、②や③の議題では坪田会長が「マイナ保険証問題で閉院する方の後ろには患者さんがいる。こんな理由で長く医療に携わってきた方が辞めなければならない状況になっていることに、憤りを覚える」と訴えた。参加メディアもマイナ保険証問題を含め「根本的におかしい」とし、協会の活動を後押しする一幕もあった。
東京都知事選挙の投開票が去る7月7日に行われ、小池百合子氏が3選を果たした。新たな任期中に団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」への対応や、少子化対策などへの舵取りが注目される。
協会は、毎年、東京都に次年度予算への要請を行っているが、その要請が実った形で、子ども医療費助成制度は18歳まで拡充され、自己負担相当額を2025年度まで時限的に都が負担する。しかし、その後は各自治体の財源状況により、200円の患者負担が生じることや、所得制限が設けられることが予定されている。自治体による格差の解消に向けて、都としての対応を期待したい。
また、協会は在宅療養に関わる医療従事者向けのハラスメント対策、体制整備のための補助金の新設や迷惑行為の抑止策を求めている。今年度、在宅医療現場での医療関係者の安全を確保するため、都は患者やその家族らからのハラスメント行為で困っている医療関係者を対象にした相談窓口を開設することにした。
引き続き協会は、東京都に社会保障の充実、医療体制の拡充に向け、協会は改善を要求していく。
張紀美さん(キミ小児歯科クリニック院長) ― 前編
張紀美(ちょう・きみ)さん/1965年、長野県松本市生まれ。90年に松本歯科大学卒業後、同年東京歯科大学小児歯科学講座に入局。1997年同大学院修了。2010年キミ小児歯科クリニック開業。2024年5月同クリニック閉院。
歯科医師としての“引退”に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、 医院承継、閉院の苦労などを深堀りする。
今回は、今年5月をもって閉院したキミ小児歯科クリニックの張紀美先生(59歳/文京区)の前半。開業当初から目標年数を定め、引退後の人生について考えていたというが、その道のりには苦難も。小児歯科の専門医として、長らく地域の子どもたちの口腔内を守ってきた張先生に迫る―。
「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2024年7月1日号)
―まずは歯科医師を志したきっかけからお聞かせください。
「女性も手に職を」という両親の考えのもと医療分野を勧められ、特に医師の父から「歯科医師の方が家庭と両立しやすい」とアドバイスを受けて歯学部に進学しました。大学院(小児歯科学専攻)在籍時に結婚して4年時に妊娠しました。私が在籍していました講座は4年間での学位取得が厳しいため、教授にご相談したところ「あと少しだから家で論文をまとめてきなさい」とご配慮いただき、なんとか修了することができました。この間、医局の先生方にはご迷惑をおかけしたと思います。その後、専門医を取得して3人の子どもの育児をしながら夫の歯科医院で小児の診療を担当しました。
―ご夫婦で医院を経営したのち、開業したきっかけは。
小児歯科専門医のため非協力児を診療する機会も多く、そのため大人の患者さまと同じ診療室で仕事をしているとやはり気を遣うことも増えてきました。そんな経緯から45歳で開業しました。末娘はまだ5年生になったばかりでした。「せめて中学生になるまでは…」と葛藤がありましたが、借入の返済の年齢を考えて区切りの良い45歳で開業しました。3人の育児と家事との両立は大変でしたが、「仕事を言い訳にして家事ができない」と言わないと心に決めました。将来、留学したいという思いも漠然とあり、まずは10年を目標に歩み始めました。振り返ってみると開業翌年以降は赤字や大きなトラブルもなく、仕事、家事、子育てをよくやり遂げられたと思います。
―開業当初からお一人で医院経営をされていたのですか。
開業当初は優秀な常勤の助手と非常勤の歯科衛生士がいました。しかし9年半勤務してくれていた助手が病気を患い、2019年末に退職してしまいました。ちょうどコロナが始まった頃です。冬休みの多忙な時期でとても困っていましたら、患者さまのお母さまが「良い人がいる」と優秀な方を紹介してくださり、とても助かりました。それ以外にも「受付募集」の案内を見て「私じゃだめかしら?」とお声をかけていただき、お願いしたこともありました。このように、タイミングよく周りの方に助けていただきながらなんとか続けることができました。
―最終的に閉院を決めた理由は。
まず専門医として小さなお子さまの口腔管理を長期にわたって担う責任、最終的にはお子様一人ひとりが自分の歯に関心を持ち管理できるよう育成することに対しての責任がとても重くなってきたことです。その責任の重さがいつのまにかストレスになってきました。それから当初目標としていた10年に達したこと、3人の子どもが社会人になったことや、両親の高齢化という要因もあります。腱鞘炎の悪化、老後の生活資金面にも目途が立ったことなどいくつかの理由が重なりましたし、歯科医師として35年、よく頑張ったなという実感もあります。最後にこれらに加えて、マイナ保険証関連の対応もストレスになりました。
―閉院にあたり具体的な準備はどう進めましたか。
夏休みに来院する中高生以上の患者さまには「来年の3月が最後かもしれないから、もう一度来てね」と伝え始めました。また、万が一、次回の検診に来られなかった場合に他院で渡せるように、口腔内の状態を記してお渡ししていました。矯正治療も2019年には新規の受け付けをやめましたが、希望する方のために矯正の先生と連絡を取り、患者さまが困らないようにできることをやりました。
―閉院準備を進めていく中で心境の変化は。
パート従業員も体調不良で退職し、昨年冬頃からは1人ですべてこなしました。疲れ切って帰宅する生活に昨年11月末、とても虚しくなった瞬間がありました。もともと目標の10年は過ぎていたので引退のことも常に頭の片隅にありました。そんなある日の帰宅後、「あれ?家事も減って育児もないのになんでこんなに疲れ切ってるんだろう」「読みたい本も疲れて読めない…」、そうした思いが急に虚しくなって半年後の引退を決心しました。
―その後の動きは。
引退を決心した翌日の12月1日にM&Aの業者に連絡をしたところ、ちょうど物件を探していた女性の先生を紹介してくださり、10日ほどで契約が決まりました。今回は医院の承継ではなく、いったん閉院の形を取りました。私の患者さまは乳幼児も多いですが、永久歯列になった患者さまも多いです。そのため、長いお付き合いのあったお子さんを今後も安心して後任の先生にお任せすることができて良かったと思います。4月末で診療を終えて5月は片付けにあてました。保存するカルテはダンボール15箱ほどになり、M&Aの業者に保管を依頼しました。どうしても引継ぎ事項がある患者さまは、その内容を詳細に記してカルテを残しています。
―最後の診療はどのようなものでしたか。
上の子が高校1年生の三兄弟でみんな2歳から来院してくれているとても思い入れのあるお子さんたちが最後になりました。1年ぐらい予約がなく、「どうしているかな」と思っていましたが、最後に診療できて花束と贈り物までいただいて、本当に良かったです。赤ちゃんの頃からの患者さまも多く、引退を決めてからはなんだか私自身が“親戚のおばさん”のような感覚で接していました。保護者の方からは「先生、長い間お疲れ様でした」とお言葉もいただき、無事診療を終えました。5月以降も放課後に訪ねてくる子や、わざわざ挨拶に足を運んでくださる保護者の方、中には「先生、明日缶ビール持って行っていいですか!」なんて方もいて、最後まで交流が続きましたね。
―引退後はアルバイトや勤務医として診療する予定は。
もう診療はしないと思います。アルバイトでも一度仕事を引き受けましたら責任が伴いますから簡単には辞められません。
―冒頭には留学というお話しもありましたが、充実した第二の人生が始まりそうですね。
(後編では、引退後のキャリアについてお聞きします)
PROFILE/ちょう・きみ
1965年、長野県松本市生まれ。90年に松本歯科大学卒業後、同年東京歯科大学小児歯科学講座に入局。1997年同大学院修了。2010年キミ小児歯科クリニック開業。2024年5月同クリニック閉院。
「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2024年7月1日号)
#インタビュー #連載 #退き際の思考
石田昌也さん(石田歯科医院副院長) ― 後編(前編はこちら)
歯科医師としての“引退”に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、医院承継、閉院の苦労などを深堀りする。
今号は、杉並区上荻にある石田歯科医院の副院長、石田昌也先生の後編。息子への医院承継や、大切にしてきた親子関係について聞いた前編に続き、協会とのつながり、「悔いがない」という人生について、妻の光子さんとともに振り返ってもらった。
「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2024年6月1日号)
―協会に入会したきっかけは。
昌也先生:医師である妻の父から紹介されて保険医協会を知りました。「保障内容や利率の面で共済制度が良い」と助言を受け、特に休業保障を勧められたので、深く考えずに共済制度に加入するために入会して、はや50年近くになります。
―長らく協会に入会し、共済制度を利用してみていかがですか。
昌也先生:病気になったり、けがをするとやっぱり「どうしよう」と不安に思うものじゃないですか。そうした時、保険医協会に「助けられた」「救われた」という気持ちが今でもあります。数年前に足を骨折した時も協会に連絡すると、事務局の方がすぐに飛んで来て、保障内容などいろいろと説明をしてくれてほっとしたことを覚えています。
光子さん:協会にはいろんな面で助けてもらっていますね。
昌也先生:それから、スタッフの給与計算や年末調整など医院の経営や税務のことは、妻と税理士さんに任せきりだったんですが、その税理士さんを紹介してくれたのも協会です。税理士さんには、保険・自費収入から経費計算まで、毎月きっちりと会計のサポートをしてもらい、とても良かったと思っています。
▼休業のリスクに備える協会の「休業保障」とは?気になる掛金や給付額も…
▼入会案内はこちら
病とともに歩んだ歯科医師人生
ー長い歯科医師人生の中、さまざまな苦難もあったと思います。
光子さん:大変だったことと言えば、夫は働き盛りの40歳頃に網膜剝離を発症し、失明するかもしれないと宣告されました。
昌也先生:私は諦めが早く、その時に「もう続けられないんだな」と思い、歯科医師を辞める覚悟もありました。それでも入院中に「この先をどうしようか」と考え、失明しても患者さんの問診だけならできるんじゃないかと、その後のことに目を向けていましたね。
光子さん:退院後、幸いにも段々と症状が回復しました。入院中の半年間と、退院直後の期間は、知り合いの先生に助けてもらい、その後、運良く治療ができるまでに復帰しました。
ー大変な経験の中でも、石田先生の強さを感じるお話ですね。
光子さん:ただ、翌年に腎臓の病気が分かり、今でも闘病を続けています。
昌也先生:私の人生の半分は病気とともにあります。でも人生78年。地方から東京に出てきて、歯科医師として開業して、たくさん病気はしたけどまったく苦ではありません。「嫌な人生だったな」「歯科医師はつまんなかった」という感情はなく、自分の人生に満足しています。今は身体のこともあり、妻がいないと外にも出られないけれど、何も悔いはありません。それは協会の共済制度の助けがあったからこそで、そんな人生観でここまでくることができました。これから何を楽しみに生きる、ということはないけど、この前は息子夫婦と焼き鳥を食べたり、そんなふうに家族と食事をしたり、孫と将棋をしたり、楽しみながら生活をしています。最初はかわいそうだと思って、孫を勝たせるように将棋を打っていたんですが、段々と上達してきて、先日は、テレビを観ながら片手間で駒を打つ孫に負けてしまいました。
光子さん:主人を近くで見ていると、歯科医師として現役時代から仕事もプライベートも全力で、普通の人ではできないくらい人生を謳歌してきたと感じます。「悔いがない」というのは本心なんだと思います。
ー最後に引退を考える先生にメッセージをお願いします。
昌也先生:歯科医師は定年退職がないので、ある程度長く続けることができる仕事です。これは技術がある歯科医師の特権です。だけど、体力、視力の問題や、何か不安に思っていることがあれば、人生設計を考え直して、どこでリタイアをするか家族できちんと考える必要があります。あとは、患者さんが退き際を教えてくれる部分もあると思います。年齢を重ねれば、若い患者さんは自然と来なくなったり、世間からの見られ方は変化するんじゃないかな。でも長く診てきた高齢の患者さんは、「あの先生は義歯を作ったり、調整するのがうまい」と信頼して来院するかもしれません。そうした棲み分けは世間がするものかなと思っています。
ー本日はありがとうございました。
~編集後記~
庭先で撮影した桜の木です―。協会宛てに届いた1枚の写真を本紙に掲載したご縁で石田先生と初めてお会いした。今回、「私でよければ」と企画にご協力いただき、約1年ぶりに石田先生のもとへ。満開の桜は青々とした新緑に移り変わっていたが、変わらずお話し好きな先生の様子と、仲睦まじいご夫婦のかけ合いに心温まる取材となった。
協会設立初期からの会員である石田先生。病を患いながらも逞しく、家族思いの優しき人柄で、こうした先生方とともにある協会半世紀の歩みを感じるひと時であった。
▼休業、老後、死亡の3大リスクに備える協会の「共済制度」とは?
「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2024年6月1日号)
#インタビュー #連載 #退き際の思考
<見出し>
誤:東京都知事選挙 無歯顎者の増加・病院歯科の減少などが課題
↓
正:東京都知事選挙 病院歯科の減少などが課題
<本文中>
誤: 一方、無歯顎者数は増加傾向で、16年と22年を比べると、55~59歳で8千558人が1万2千539人に、60~64歳で9千729人が1万6千86人に増えている。その他の年代でも概ね増加傾向にあり、無歯顎者数は増えている。
↓
正:一方、無歯顎者数は減少傾向で、16年と22年を比べると、55~59歳で6人が2人に、60~64歳で10人が8人に減っている。その他の年代でも概ね減少傾向であるが、80~84歳、90歳以上は増加している。
以上
A エナメル質初期う蝕ですが、口管強(改定前:か強診)以外の歯科医療機関において、改定前は、歯管または特疾管の算定があってCe病名で3月ごとに1回、フッ化物歯面塗布処置(F局130点)の評価でした。6月の今次改定の施行後は、同じ条件でCe病名で3月ごとに1回、F局100点の評価と減算されました。その30点の減算分は、エナメル質初期う蝕管理料(Ce管)の新設(30点)で補填されています。このCe管は、月1回算定できることになり、う蝕に対する重症化予防の位置付けとなっています。なお、口管強の歯科医療機関は、この30点に48点の加算(口腔管理体制強化加算)があり、さらにF局を月1回算定することが可能です。F局には当該部位の口腔内カラー写真撮影が必要です。
A 具体的な対応などは、通知文に「エナメル質初期う蝕に関する基本的な考え方」(平成28年3月:日本歯科医学会)を参考にすることと明記されていますので、詳細はそちらで確認する必要があります(全文は下記参照)。抜粋すると、Ceの病態はエナメル質表面に限局したう窩を形成しない脱灰病変(エナメル質形成不全症は除く)で患者に疼痛などの自覚症状はなく、視診にて、エナメル質表面に粗造感のある白斑が認められた場合で、年齢は問いません。
全文は「エナメル質初期う蝕に関する基本的な考え方」(平成28年3月:日本歯科医学会)全文はここをクリック
Ce管は、当該部位にフッ化物を応用することにより、その進行を停止させ、さらには再石灰化により病変を改善させることが目的です。う蝕を再石灰化させるためには、できるだけ早期にCeを検出することが重要です。また、患者個人のう蝕リスクをコントロールするためには、歯科側と患者が互いに協働することが重要です。
したがって、カルテ記載は、Ceの病態、ならびにフッ化物による効果を患者に説明し、ホームケアの重要性の理解を促し、Ceの管理を行うなど、具体的な記載が必要となります。
A 根C管は、口管強(改定前:か強診)以外の歯科医療機関において、改定前は、歯管または特疾管を算定している65歳以上の患者や歯科訪問診療料を算定した患者に対して、根C病名で1月に1回、F局(110点)の評価でした。6月の今次改定の施行後は、同じ条件で根C病名で3月に1回F局80点と減算され、30点の減算分は、根C管の新設(30
点)で補填されています。この根C管は、月1回算定できることになり、Ceと同じくう蝕に対する重症化予防の位置付けとなっています。なお、口管強の歯科医療機関は、この30点に48点の加算(口腔管理体制強化加算)がありますが、Ceとは違いF局は3月ごとに1回の算定です。根CのF局には写真撮影が不要です。
A 具体的な対応などは、通知文に「初期根面う蝕の管理に関する基本的な考え方」(令和6年3月/日本歯科医学会)を参考にすることと明記されていますので、詳細はそちらで確認する必要があります。抜粋すると、診断は視診と触診で行い、実質欠損深さ0.5㎜未満の歯根に生じた色調が淡黄色、淡褐色、暗褐色、黒色のう蝕を根Cと診断します。なお、実質欠損の深さが0.5㎜以上のケースは、修復治療の適応となるため、切削の適否の判断基準となり、また活動性か、非活動性かにより診断します。根Cと鑑別しなければならない病態は、くさび状欠損、アブフラクションによる実質欠損、酸蝕症です。
根C管の目標は、初期根面う蝕の再石灰化を促してその進行を抑制することにより、非活動性で周囲健全歯質と同程度の硬さを呈する状態を維持し、非切削で管理することです。したがって、根C管は、個人のう蝕リスクに応じた管理計画を策定する必要があり、う蝕リスクとして、生活状況・飲食習慣、口腔衛生習慣などを聴き取り、根面う蝕のリスク因子(歯肉退縮、部分床義歯の使用、プラークの蓄積。唾液分泌量の減少など)から総合的に判定します。
したがって、カルテ記載は根Cの病態、ならびにフッ化物による効果を患者に説明し、ホームケアの重要性の理解を促し、根Cの管理を行うことなど、具体的な記載が必要となります。
【東京歯科保険医協会】診療報酬改定 特設ページ
東京歯科保険医協会
会長 坪田有史
(東京歯科保険医新聞2024年7月号掲載)
7 裁判長は先例判例の最高裁調査官(注:見出し番号は前号からつづく)
最高裁判所判例委員会は、数ある最高裁判決の中から時の重要な判例を選んで「最高裁判所判例集」に搭載し、原則月1回刊行している。この民事編のことを、略して「民集」と呼ぶ。民集の公式判例集に登載された最高裁判決は、「法曹時報」(一般財団法人法曹会が発行する月刊の法曹専門誌)の「最高裁判所判例解説」欄に、詳細な判例解説が搭載される慣習がある。「調査官解説」とも呼ばれるこの解説は、裁判の要旨等に加え、最高裁調査官*1の「個人的意見」に基づいて解説したもので、「最高裁としての見解」を示したものではない。ただし、学説や判例について詳細な分析や当該事案の事実関係を簡潔に知ることができる上、最高裁における判断過程の一端を知ることができることから、重要な影響力を持つ。なお、最高裁に受理された事件の判決文は、基本的には調査官が判決文の草案を書くとも言われている。
裁判の当事者や弁護人・代理人の第一の関心事は「裁判長は誰なのか」である。実は、本訴訟の岡田幸人裁判長(東京地裁民事第51部統括)は、前述(本紙6月号)の先例判決「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」の最高裁調査官として「調査官解説」を執筆し、「施行規則は薬事法上の委任の範囲を逸脱した違法無効なものである」と結論付けていた。望外の僥倖とはこのことであろう。
8 岡田判事の調査官解説と職歴
最高裁調査官は、判事でも優秀な人材から選ばれる。岡田判事の輝かしい経歴(表1)を調べると納得がいく。現在の51部統括としては、障害年金不支給決定取消請求事件(令和4年7月26日判決)で厚生労働省を訴えた原告や、小金井市長専決処分保育園入園拒否取消事件(令和6年2月22日判決)で自治体を訴えた原告らを、それぞれ勝訴させている(表2)。
また、内閣法制局参事官を5年間経験した点も注目すべきだ。本連載第2回の法律ピラミッドで示した「政令」とその下の「省令」では、内閣法制局との関わり方に違いがあり、内閣法制局の審査事務の対象は条約案、閣議に附される法律案、政令案であって、省令は対象外である。審査の内容は、「憲法や他の法律と抵触する部分はないか」「文章の体裁が法令表記の慣例から逸脱していないか」などである。外国との条約や法律などについて
は、絶対に誤りによる紛争が生じないよう厳密な審査がなされている。「岡田調査官解説」をはじめとして法令の審査に対しては、厳格な判断力を具備されていると推測される。
一方、「省令」は審査が内々でなされるため、厳しさに欠ける処理がされていると推測される。なにしろ、法律は門外漢の私が、保険局医療介護連携政策課長の発言(本連載第1回参照)を聞いてリアルタイムで「授権法の根拠がない」と気付いたほどである。
「庸人すら尚ほ違法を知る、況んや岡田判事に於いてをや。」
9 4つの考慮要素と授権規定の明確性
岡田調査官解説では、「一般に,専門技術的事項は必ずしも国会の審議になじまず,また,状況の変化に対応した柔軟性を確保する必要がある事項は法律で詳細に定めることが適当ではないため,こうした事項については法律の委任に基づいて行政機関が規定を定めること(委任命令)が認められている。委任命令によって国民の権利義務の内容を定めることも許容されるが,当該委任命令が委任をした法律(授権法)に抵触していれば違法であり,委任に際して行政機関に裁量が認められている場合でも当該裁量の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合には違法となる*2」とし、委任命令が授権規定*3による委任の範囲内といえるか否かが問題になった最高裁判例を8つ挙げている。そのうち6つは原告が勝訴している(表3)。
それら判例による判例法理*4は、委任命令が授権規定による委任の範囲内といえるか否かについて、4つの考慮要素(評価に影響を与える要素)を挙げている(*表4のA*)。なお、この4つの各要素は常に互いに載然と区別し得るというわけではない。
また、岡田調査官解説は、その判断にあたって「授権の趣旨が…明確に読み取れること」(授権趣旨の明確性)という基準を初めて最高裁判決で言及した点が特徴的といわれている(表4のB)。
本訴訟も、訴状の段階からこの4つの考慮要素、さらに、授権趣旨の明確性が争点となって、岡田調査官解説の土俵の上で、立ち合いからがっぷり四つの勝負となっている。
*1 定員がわずか15人の最高裁判所裁判官は数多くの事件を抱えて多忙であるため、審理を補助する。判事の身分にある職業裁判官が充てられる重要な役職。
*2 行政手続法第三十八条第一項も,委任命令を定める機関は,当該委任命令が授権法の趣旨に適合するものとなるようにしなければならないと注意的に定めている。
*3 議会がその立法権の一部を他の国家機関に委任し法令の条文として定めること
*4 最高裁が示した判断の蓄積によって形成された考え方。
1991年3月、国立山梨医科大学医学部卒業。同年4月、東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器小児外科入局。1999年4月同科助手。2009年12月、いつき会ハートクリニック理事長・院長。専門は心臓血管外科、小児心臓外科。学位:医学博士。著書に「医学書院医学大辞典」(第2版)医学書院(2009年)他、多数。
2024年度診療報酬改定は、診療報酬改定DXの推進に向けて、医療機関・薬局等やベンダーの集中的な業務負荷の平準化を目的にこれまでの4月の施行から6月施行に後ろ倒しされた。中医協総会の中では、「後ろ倒しの恩恵を受けるレセコンのベンダー等が保守費用やリース料を大幅に引き下げる等により、これまで医療機関が負担してきたコストの低減が目に見える形で実現されることが望まれる」という発言もあった。そのような発言があったにも関わらず、疑義解釈においては、施行間際の5月末まで発出が続き、ベースアップ評価料の特設ページも定まることなく、随時更新され続ける事態であった。加えて、医療機器の保険適用とする通知も日付は5月31日であるが、公表されたのは6月に入ってからで、特に、光学印象の施設基準は、提出締切日に物理的に間に合せることが厳しい事態が生じている。
新規技術や重症化予防、継続的な管理等が新たに保険収載され、要件が緩和された内容については一定評価できる。一方で、施設基準の新設、再編、細分化が行われ、さらに複雑化が増したことは残念である。加えて、人材確保や賃上げと称して新設されたベースアップ評価料は、医療機関にとっては、評価や届出方法の複雑さに加え、次期改定時に維持されるのか不透明な項目であり、他方、患者には一部負担金の増加を強いるものである。
オンライン資格確認の導入義務化を皮切りに、レセプトのオンライン請求の実質的な義務化、健康保険証を廃止する方針の表明、診療報酬改定時期の後ろ倒しも加わり、様々なことを一気に変化させてしまったため、現場は混乱している。安心安全な歯科医療を国民に提供できなくなってしまっては、本末転倒である。
確かに6月施行になったことで時間的なゆとりができ、作業の負担は軽減したが、たくさんの施設基準の新設や算定要件の複雑化、通知等の遅れが6月施行のメリットをかき消してしまっているように感じているのは私だけではないと思う。
6月施行が当初の目的であったレセコンのベンダーや医療機関の負担軽減等のメリット、患者の利益にどれだけ繋げることができたかは疑問が残る。
国は、医療機関等の関係団体に向けて十分かつ丁寧なヒアリングを行い、複雑な施設基準や改定内容を含め、今回行われた6月施行の具体的な効果・検証が行われることを期待したい。
2024年6月18日
東京歯科保険医協会
社保・学術部長
本橋 昌宏
2024年度の改定率は、診療報酬本体がプラス0.88%および薬価等がマイナス1.00%となり、全体でマイナス0.12%と6回連続の実質的なマイナス改定となった。歯科の改定率はプラス0.57%となったが、賃上げ対応分を除けば前回の改定率(プラス0・29%)を下回る僅かな引き上げである。これでは、患者が望む歯科医療の享受、かつ継続的な提供を可能にする体制整備は進まない。
今次改定では医療従事者の賃上げ対応が行われたが、診療報酬の評価および届出方法の複雑さに加えて、2年後の改定時も評価が維持されるのかが不透明であり、賃上げを恒久的に行うための方策を国は示すべきである。また、多数の施設基準の見直しおよび点数の細分化によって算定要件などが複雑化し、現場は混乱している。必要な歯科医療が円滑に患者に提供できるよう、複雑な改定は止め、算定要件は簡素化すべきである。さらに、本年10月より後発医薬品のある先発医薬品の処方において、その差額を患者に追加負担として求める選定療養の施策が実行されようとしており、負担増を理由とした受診控えにより、歯科疾患の重症化が懸念される。
国は、本年12月2日に健康保険証の新規発行を終了するとしているが、マイナ保険証の利用率は4月時点で僅か6.56%と低迷している。全国保険医団体連合会が行った調査では、過半数を超える59.8%がマイナ保険証やオンライン資格確認システムでトラブルがあったと回答しており、総点検後もトラブルは全く解消していない。そもそも医療現場では現行の健康保険証で資格確認を行っており、これを廃止する理由がない。
また、歯科の約半数が電子媒体で診療報酬を請求する中、本年10月を目途にオンライン請求の義務化が進められている。電子レセプトの提出をオンライン化する審査上の必要性は殆どなく、経験豊富なドクターの閉院を助長し、国民の受療権を奪う意味のない制度といえよう。医療機関にコストを負担させる施策は中止して、従来の方法を残すべきである。
協会は、安心安全な歯科医療の提供を脅かす動きに強く反対し、人の命を奪う戦争や核兵器使用で諸国を威嚇するいかなる行動にも断固反対し、国民の生活と歯科医療のより一層の充実に向けた運動を国民とともに力を合わせ推進するために、以下の要求を国民、政府および歯科保険診療に携わる全ての方に表明する。
記
一.国は、現行の社会保障制度を後退させず、世界の国々が模範とする日本の社会保障制度をさらに充実させること。
一.国は、歯科医療の充実や医療従事者の処遇改善が進むよう、診療報酬を抜本的に引き上げること。
一.国は、さらなる患者負担増を止め、長期収載医薬品の選定療養化を撤回すること。
一.国は、本年12月2日以降も健康保険証の新規発行を行い、オンライン資格確認システムおよびオンライン請求の導入義務化を撤回すること。
一.私たち歯科医師は、平和を妨げるすべての動きに反対する。
2024年6月16日
東京歯科保険医協会
第52回定期総会
懇親会には会員や関係団体、企業、議員ほか74名が参加
新型コロナウイルスの影響で開催が見送られてきた定期総会懇親会が2019年以来、5年ぶりに開かれた。会場には会員や関係団体、企業、議員など74名が参加。タイミングを見計らって総会への祝電・メッセージを紹介しつつ、久しぶりの宴の席を楽しむ姿が見られた。
冒頭、坪田有史会長は懇親会の再開を喜び、「先生方とこうしてお会いできて、とてもうれしく思う」と挨拶し、来場者に謝意を伝えた。その後、全国保険医団体連合会の小澤力副会長(大阪府歯科保険医協会理事長)が挨拶に立ち、歯科技工所アンケートや学校歯科治療調査などの実施を評価し、健康保険証存続の取り組みについても「先生方にわかりやすく丁寧に呼びかけている。これなら自分でもできると考える先生も多いと思う。このような活動を組み立てる協会に敬意を表する」と挨拶した。
続いて、東京保険医協会の須田昭夫会長は、オンライン資格確認義務化撤回訴訟に触れ、「歯科・医科協会がともに訴訟の問題を提起できたことは大変良かったと思う」と、東京都内2つの協会での取り組みを評価した。
その後は関係団体や議員も祝辞を述べ、定期総会の開催を祝した。参加者は思い思いに会話や食事をしながら懇親を深め、盛況のうちに幕を閉じた。初めて定期総会に足を運んだという会員は、「緊張したが、将来的なビジョンを考えて活動するという会長の発言を頼もしく思った。若手の会員も増やしてエネルギッシュに、そして希望が持てる歯科医療界にしてほしい」と協会への思いを語った。
さらに、定期総会で質問に立った会員からは、「会員のためにがんばっている様子が伝わってきた」という声が聞かれた。
2024年度診療報酬改定のポイントと今後の歯科医療の展望
6月16日に開催した第52回定期総会では、総会終了後に記念講演が「2024年度改定を考察し、今後の歯科医療を展望する」をテーマに開催され、当協会の坪田有史会長が講師を務めた。
講演では、社会医療診療行為別統計のこれまでの傾向と、今後の歯科治療の需要の将来予想イメージが治療中心型から治療・管理・連携型に移行しつつあることに触れ、それらを踏まえたうえで、今次改定を「難解」とし、さらに、健康寿命延伸や在宅医療提供が喫緊の課題となる中で、その患者の負担割合を引き上げる動きには反対であるとしつつ、これまでの政府の「骨太の方針」を見据えつつ、今後の歯科医療に言及。国民皆歯科健診とも関連させ、疾病の早期発見と健康寿命の延伸が求められていることなどを指摘した。
一方、今回の診療報酬改定については、複雑・難解な改定、新たな項目や算定要件、加算、施設基準の届出などが多数含まれていることを指摘しつつ、日々の診療に加え、特に今次改定でさらに複雑化した診療報酬体系を学習・理解し、適正な保険請求に繋げることが肝要であるとした。
そして、「我々歯科医師の目的は目の前の患者に適正に歯科医療を提供することに邁進したいということだけである」と強調した。
◆萎縮診療はしないこと
最後に、集団的個別指導を恐れた萎縮診療はしないこと、適正な保険請求を行うこと、歯科界全体で協力し、歯科医療費の総枠拡大を目指すことの必要性を提唱し、講演を締め括った。
◆坪田会長「先生方と対話を」
冒頭、坪田有史会長は、23年度の取り組みを振り返り、設立50周年記念企画に触れながら、協会設立当初から協会活動に協力いただいた先生方への感謝の意を表した。また、24年度診療報酬改定は複雑であるとし、3月に行なった新点数説明会には会員ら約1,500人が訪れたことを報告した。そして、「これからも協会のために先生方と対話をしていきたい。その中で、ぜひ協会にさまざまな提案をいただきたい」と会員に協会諸活動への協力を呼びかけた。
次に、岡田尚彦理事が、日本歯科医師会・高橋英登会長、全国保険医団体連合会・竹田智雄会長、与野党議員ほか関係団体などから多数のメッセージが寄せられていることを紹介した。議長には橋村威慶氏(文京区)、副議長には三島桂氏(足立区)が選出された。
まず、早坂美都副会長が第1号議案「2023年度の活動報告の承認を求める件」、半田紀穂子理事(財政部長)が第2号議案「2023年度決算報告の承認を求める件」、西田紘一監事が「会計監査・会務監査報告」を提案し、いずれも賛成多数で承認された。
続いて、加藤開副会長が第3号議案「2024年度活動計画案の承認を求める件」、半田理事が第4号議案「2024年度予算案の承認を求める件」を提案しいずれも賛成多数で承認された。さらに、第5号議案「選挙管理委員会承認の件」、第6号議案「決議採択の件」もそれぞれ賛成多数で承認された。
◆質疑応答の模様
なお、総会時の質疑応答では、2名の会員から「組織対策費、時局対策費とは、具体的にはどのようなものか」「役員報酬を引き上げることは検討しているのか」「『決議』は承認後、どのような目的で活用されるのか」などの質問があり、会長、担当役員が回答した。閉会の挨拶は馬場安彦副会長が行い、定期総会は閉会した。
◆第52回総会質疑応答
<会員>支出の部の事業費に時局対策費と組織対策費とは具体的にはどのような内容なのか。
<坪田会長>時局対策費には機関紙の全都宣伝号が含まれます。また、国会要請や新点数説明会の費用なども含まれています。
組織対策費は、組織部の活動の費用が中心となります。新規開業した会員の先生や、新たに保険請求やカルテ記載について勉強したい先生などがご参加される新規開業医講習会の費用や、入会していただくための入会対策費も含まれています。
<会員>今年度の診療報酬改定で職員のベースアップがありましたが、活動の中心となっている先生方、役員の先生方のベースアップは予算に入っているのでしょうか。ベースアップがなければ、今後、ベースアップをしていただきたいと思います。
<坪田会長>手当を多くしてはどうかとの提案については、我々役員、部員に対しての大きな声援だと思っていますので、心から感謝申し上げます。
まず一つ目のベースアップですが、中小は厳しくて、大手しかできていないとの話があります。我々も中小ですし、協会も中小です。これから検討していきたいと思います。
現在は会費4,000円で何とか予算組みができていますが、将来、会員が減っていけば、同じ事業を続けていけるかというと厳しい点があり、今から考えています。
不測の事態が起こった時、例えば首都直下型地震が起きたとか、1年間ぐらい会費の徴収、収入がなくてもやっていける状況は作っておかないといけないと思いますし、将来的なビジョンを考えて、その分を残しておかないといけません。したがって、会費値上げをすればよいという話でもないと考え、今の予算を組んでいることをご理解いただきたいと思います。
以上
こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)6月1日
【新聞6月号】
1.第3回新点数説明会開催/6月施行に備え診療報酬を解説 全3回の説明会に計2,857人参加
2.「健康保険証は存続させるべき」坪田会長らが国会議員に緊急要請
3.第52回定期総会のご案内
4.「探針」
5.ニュースビュー
6.オン資「義務化」撤回訴訟第6回口頭弁論/11月末までの結審求める 坪田有史氏「強制的に進められる現状に憤り」
7.6月1日施行2024年度診療報酬改定情報/新たな疑義解釈が示される!
8.連載「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」提訴からの進捗と展望②/(佐藤一樹氏)原告勝訴:「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」との類似性
9.ベ―スアップ評価料は「歯科医院の懐を見る加算」/メディア懇参加者から鋭い指摘
10.経営・税務相談Q&A No.417「定額減税②~よくある質問~」
11.6月会員無料相談のご案内
12.第39回保団連医療研究フォーラム分科会・ポスターセッション演題募集
13.2024年6月版「歯科保険診療の研究」/発送は6月末頃
14.デンタルブックPR
15.研究会・行事ご案内
16.会員優待サービス:夏休みはリソルの森へ!
17.退き際の思考 歯科医師をやめる/(石田昌也さん・後編)「“人生の半分は闘病”も悔いなし『「助けられた』共済制度と歩んだ歯科医師生活」
18.会員なら加入しないともったいない!! 保険医休業保障共済保険
19.教えて!会長!! Vol.83「施設基準とベースアップ評価料」
20.【ベースアップ評価料】届け出解説動画デンタルブックで公開中
21.ご注意を「6月からの労災診療費 初・再診料が引き上げ」
22.IT相談室/情報セキュリティ10大脅威2024解説①「情報セキュリティのオールインワンページ」
23.共済部だより
24.症例研究「新設されたエナメル質初期う蝕管理料と外安全1・外感染1」
25.インタビュー/協会は「基本的なスタンスを守ること」が大事(オクネット代表:奥村勝氏)
26.理事会だより/2024年度第2回(暫定)・第3回(暫定)理事会
27.2024年5月協会活動日誌
28.2024年6月歯科用貴金属の随時改定情報
29.神田川界隈「原告のひとりとして」(理事・橋本健一/東村山市)
30.通信員便り No.143
31.新連載「マイナ保険証の〝失態〟を追う~このまま見過すことはできません~」/第3回「急増しそうな『偽造マイナンバーカード』の悪用に気をつけよう!」(荻原博子さん/経済ジャーナリスト)
32.「現行の健康保険証はなくさないで」酒井菜摘・鈴木庸介両衆議院議員に署名提出
33.第2休業保障制度(団体所得補償保険)募集キャンペーン
石田昌也さん(石田歯科医院副院長) ― 前編
歯科医師としての“引退”に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生にお話しを伺い、引退を決意した理由や、医院承継、閉院の苦労などを深堀りする。今回は、杉並区上荻にある石田歯科医院の副院長、石田昌也先生。1975年に開業し、“地域に根ざした歯医者”を目指し、患者から親しまれる歯科医院を一代で築いた。2009年に長男の博也先生と院長を交代し、現在は副院長として医院経営を支える。持病と闘いながらも「悔いがない」と語る歯科医師人生や、親子間の医院承継に大切なことなどについて、妻の光子さんとともに回顧していただき、前後編2回に分けて連載する。
「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2024年5月1日号)
―歯科医師として、一線を退こうと思ったきっかけは。
昌也先生:長男が歯科医師になり、静岡で勤務医として5年間働きました。その後、東京に戻り、一緒に診療をはじめて2年ほど経った頃です。私自身は、開業した時から一代限りで閉院しても構わないと考えていましたが、息子の治療や患者さんへの対応を見て、「これなら息子一人でやっていける」と思い、引退を考えました。私は30年あまり前から持病があり、通院しながら診療にあたっていたこともあったので、少しずつ現役を退いていく方向を考え始めましたね。
―引き継ぎにあたり、準備はどのように進めましたか。
昌也先生:2年ほどかけて管理者や開設者、その他金融機関や労務関連などさまざまな変更手続きをしましたが、「メインバンクだけは変えないように」と、息子に伝えていました。これまで長年続いてきた銀行との信頼関係をそのまま維持することで、医療機器の入れ替えなど大きな出費への備えにもなりますし、今後の医院経営を見据えても、息子自身にとっても良いことだと考えたからです。
―当初、息子さんと一緒に診療に携わってみていかがでしたか。
昌也先生:今まで通っていた患者さんは私が、新患はすべて息子が診るようにしました。そうすることで、患者さんを引き継ぐ苦労がありませんし、患者さんを取り合うようなこともなかったです。技工の模型や治療の技術を見ても息子の方が技術的に優れていて、静岡でしっかり経験を積み、勉強してきたことがわかりました。相性の問題もあり、歯科技工所は自分がやりやすい取引先に変えていましたが、治療内容で揉めるようなことはありませんでしたし、仕事に限らず、子どもと争ったことがありません。
―昔から親子関係を大切されてきたのでしょうか。
光子さん:子どもが小さい時から、夏休みに夫が計画を立てて、必ず家族旅行に出かけていました。2人の息子が高校を卒業するまで続きましたが、朝からテニスにプールと、いろんなことを楽しみたい夫に対し、宿でのんびりしたい子どもたちが初めて「なぜ予定を決められなきゃいけないのか」と反抗したんです(笑)。“争う”といえばそのくらいだったでしょうか。
昌也先生:今でも息子家族と定期的に会食をして、良い親子関係ができています。同じ仕事を引き継ぐからこそ、親子関係は大切だと思います。息子同士も大きな喧嘩をしたことがないし、未だに仲が良く、互いを認め合っています。
―信頼関係を軸に、院長交代まで順調に準備が進んだようですね。
光子さん:ただ最初のうち、息子は自分が担当する患者さんがいなかったので、ギャップを感じたみたいです。「ほかでバイトをしよう」とか、診療時間の延長や日曜診療を提案したり、少し心が揺れていた気がします。
昌也先生:その気持ちは理解できましたが、「ちょっと待って」と声をかけました。今は若いから良いけど、診療時間を延ばしたりするのは年を取ればだんだんときつくなる。自分の体やプライベート、家族サービスも大切にして「今のペースで続けたほうが良い」と、自身の経験をもとに助言しました。
無借金で承継を―内なる父の思い…
―その後、実際に院長を交代してみてどうでしたか。
昌也先生:診療以外の経営まわりのことをすべて一任しました。スタッフの採用面接などもすべて息子が担当しましたし、一切口を出しませんでした。医院経営は大変だったと思いますが、そういうことが好きなタイプに見えましたね。
光子さん:やっぱり医院に親がいるのは照れくさいじゃないですか。そんな時に夫が骨折して、コロナ禍も相まって医院を訪れる頻度が減りました。スタッフさんに聞くと、息子が「変わった」と言うんです。仲の良い親子とはいえ、父の目もなく自分の思い通りにできるとなると、良い意味で気持ちの変化もあったんだと思いますね。
―引き継ぎにあたり一番大切にされたことは。
昌也先生:医院には借金が残っていました。息子に引き継ぐにあたり、どうにかしてこれをゼロにしたかった。親子でなくても、やはりお金は一番問題になる部分。私は私、息子は息子と切り分けて、妻と協力してなんとか借金を完済することができました。
光子さん:子どもに対する思いは、人一倍強い夫です。息子の夢を絶つようなことはしたくないと、持病の詳しいことは子どもたちが学生のうちは伏せておきました。長男の学費や次男の留学、出費がかさむ時期だったけど、子どものためなら不思議となんとでもなるんですよね。
昌也先生:考え方は人それぞれですが、自分でたくさんのお金を抱え込むと、やはりトラブルが起きてしまうのかなと。私の人生観としては、死ぬ時にお金を持っていけるわけではないから、自分が生活できる程度でお金を持ちつつ、あとは家族に分け与えていきたいと思います。前はマンションに住んでいましたが、ライフステージに合わせて住むところを移していくなど、そうした人生設計を描きながら過ごしてきました。(つづく)
後編は、「助けられた」と語る協会との関わりについてお届けするー。
「退き際の思考」を紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2024年5月1日号)
#インタビュー #連載 #退き際の思考
中野多美子さん(元協会会員) ― 前編 ※前編はこちら
歯科医師としての〝引退〟に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生や、引退を考えている先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、医院承継の苦労、現在の生活などを深堀りします。今回は、前号に引き続きワイナリー「ヴィンヤード多摩」の専務としてセカンドキャリアを歩む中野多美子さんの後編。歯科医師を引退したタイミングについて振り返ってもらいました。
―歯科医師を引退して1年少々経ちますが、引退したタイミングについてどう振り返りますか。
もう少し早くやめてもよかったと思っています。それは、いろいろな身体の衰えが出てきて、あらゆることに時間がかかってしまう。そうした中で、私は65歳あたりを目途に引退するほうが良かったと思います。
―歯科医師人生の思い出を聞かせてください。
歯科医療の仕事は好きでした。よい歯科医師人生だったと思います。人に関わることができ、感謝される素晴らしい仕事です。よい思い出も、そうでない思い出も沢山ありますが、特に印象に残っているものは、引退する前にいただいた手紙です。その方はとても美しい女性でしたが、口腔内にはほとんど残存歯がありませんでした。若い頃、多くの歯を抜歯され、とてもつらい思いをしたそうです。それ以来、なかなか治療に行けなかったといいます。その方から、「先生と巡り会えて本当によかった」と心のこもったお便りをいただきました。
―現在の目標は?
まずはワイン作りという、歯科医療とはまったく違う方向に進んだので、周囲の皆さんはびっくりしています。私は神様から二つのチャンス、つまり私は二度も人生を味わわせていただいたと思っており、本当にありがたいと感じています。目標としては、経営的に会社をきちんとした規模、形態にしたいと思っています。私は今、ワイナリーの中で畑を担当しているのですが、畑や農地を大きくしていくとか、ワインの品質も向上させていきたいです。
―セカンドキャリアとしてワインづくりを選んだ理由を聞かせてください。
最初は、ワインを飲んで楽しむだけの〝ノムリエ〟でした。ただ、大好きなワインを飲んでいくうちに、ワインについて体系的に勉強したくなり、いくつかのワインスクールに10年ほど通いました。また、私の医院にグループホームの方たちが患者さんとして来院していました。その方たちが年を重ねた時に働く場を作りたい、その方たちが作ったブドウでワインを作りたいというのが、ヴィンヤード多摩を設立した目的です。人間は社会と関わることで、自分の価値や存在意義を必ず見出していくものだと思います。障がい者の方々が高齢になって仕事ができなくなってしまった後、経済的な面だけではなく、社会とのつながりという面から、畑の仕事に携わってほしいと考えています。ブドウに袋をかけたり、草刈りをしたり、畑の作業は能力に応じた仕事の種類がたくさんあるものです。現在、東京都は、就労に困難を抱える方が必要なサポートを受け、他の従業員とともに働いている社会的企業のことをソーシャルファームと位置付けていて、今はその認証を受けるためにがんばっています。
―現在のお仕事で最近、一つ夢が叶ったそうですね。
構想から10年かけて、ついにグループホームの方たちが手掛けたワインが完成しました。ようやく一つの目標を達成しました。ワインボトルにはグループホームの皆さんの似顔絵のエチケット(ラベル)を付けます。自分たちが作ったものを外で売るまでの一連の流れが大切なので、これを店頭で販売して1つの仕事が完結するのが楽しみです。
―先生と同じように、引退の時期を考えている先生方がいらっしゃると思います。最後にそうした方々へメッセージをお願いします。
医院を引き渡す相手を尊重してなるべく速やかに身を引くのが良いと思います。私だけではなく、身体の衰えは65歳前後の多くの人が直面するものだと思います。また、引退をするにしても3年、5年と準備の時間がかかると思いますので、引退の時期と、引き継ぐ相手など時間をかけて考えていくことが大切なのかなと思います。
―ありがとうございました。(完)
協会は「基本的なスタンスを守ること」が大事
奥村 勝/オクネット代表、歯科ジャーナリスト
毎月、全国の保険医協会・医会、保団連ほか医療関係団体による国会内集会が開催される。一般紙、テレビ、専門紙ほか、各種メディアも取材に訪れるが、取材陣の中で毎回、老練な方をお見受けする。レコーダーなし、キーボードも叩かず…。じっくり聞きながら時折メモを走らせる。それでいて、翌日の配信ニュースは適時適格な内容、文字数、表現だ。その人物が、今回ご紹介する奥村勝氏である。
奥村氏は、自身が設立したオクネットの代表で、企業勤務を経て歯科技工士を務め、その後、歯科医療関連専門誌の編集長として取材、編集に携わるなど、異色の経歴を持つ存在だ。「歯科ジャーナリスト」「歯系議員」などの用語は奥村氏作といわれている。その奥村氏には、協会の機関紙「東京歯科保険医新聞」の2022年10月号から本年4月号まで、延べ18回にわたり「歯科界への私的回想録」を連載していただいた。今回は連載時に思ったこと、協会への一言などを中心にお話を伺った。
【口腔をサポートする歯科は責任重大】
― 聞き手 今回の連載終了にあたり、思うところをお聞かせください。
◆奥村氏 連載前の構想と、連載開始後の原稿内容はかなり異なりました。歯科医師と患者さんとその家族、歯科医師とスタッフなどを巡るコミュニケーションの大切さをもっと全面に押し出したり、もっと歯科技工士の本音や自分自身の考え方を打ち出しても良かったかなとも思いました。
― 連載初回に、ご自身の口唇口蓋裂の手術に至るまでの経緯などを紹介されましたが、このことの歯科への意図は。
◆1954年生まれの私は、この瘢痕(はんこん)のため、子ども時代からいろいろなことを経験しました。しかし時が経つとともに、「口の中は目に見えないが、大事だ」ということに気付きました。口唇口蓋裂は、その人の人生そのものです。また、会話の時も食べる時も口は大事。そして、これをサポートする歯科は責任重大ということです。
【人対人のコミュニケーションづくり】
― 政治経済学部で学んだ後、歯科技工士の道に進まれましたが、そのきっかけ、歯科技工現場での経験などについて。
◆私の父は、蔵前のプラモデル製造、プラスチックと塩化ビニール加工の営業・卸の会社に勤務していました。大学進学の背中を押してもらい、大学卒業後、1年半はインテリア業界で働きましたが、手仕事に長けていた父から手に職をつけることの大切さを論され、「口」に縁のある歯科技工士を思い浮かべ、東京歯科技工専門学校(2010年閉校)に入学しました。卒業後は新小岩駅至近の歯科診療所の院内ラボに入り、当時言われていた「歯科技工士は、10年やってどうかだ」を目標に勤しみました。診療所内で自作の歯科技工物への患者さんの反応を見たり、話をする中で、「診療所内では、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、スタッフさんとのコミュニケーションが非常に大事」であると実感しました。
― ところで、当協会のメディア懇談会には設立直 後から参加されていますが、思うところを。
◆記者会見では、参加者は主催者側の意向に一定の配慮をします。しかし、懇談会はそうではありません。記者会見でも懇談会でも、終了後に雑談や話し込むことができれば大したものだと思います。協会のメディア懇談会は終了後に場所を移して懇談を行い、参加メディアの記者、編集者、協会の役員、事務局員が面と向かって意見したり、記者同士の知見を持ち寄ったりしています。こういった情報面での交流ができることは、とても大事です。今の時代は、IT、AI、SNSなど、さまざまな情報伝達手段がありますが、どのようなコミュニティであっても、やはり今後も話し手と聞き手が向かい合って、直接、言葉でやり取りし、相手の語気や表情を五感で感じながら行う対話、会話はやはり大切ではないかと思います。このことは、歯科診療所での院長、患者さん、スタッフのコミュニケーションづくり、さらに最近では、歯科と関連がある様々な関連職種の人たちとのコミュニケーションづくりにも、通じるものがあると思います。
【取材の実際と人脈作りの要諦】
― 取材時の基本的スタイルについて。また、議員や官僚、歯科医療関係者との人間関係構築について、思うところを。
◆取材時には、キーワードをメモするだけです。キーワードにはイメージが残っていますから、後でそれを読むと大事な言葉が脳裏に鮮明に表れます。あとは、資料の要旨、概要を参考にします。人脈については、国会、役所を問わず、慌ただしい時ではなく「つまらない(・ ・ ・ ・ ・)時に足を運ぶこと」が大事。大雨、電車が運休、国会休会中などに伺うほうがインパクトがあるようです。また、取材相手と自分の意見が違う時は必ずその理由を聞く。これは、きっかけを作る上で重要。ただ最初から「人脈を作ろう」と力むのは良くないです。
― 記者の目を通して、協会の今そして近未来につ いてアドバイスを一言。
◆今のように、会員数が増えることは良いことですが、大事なことは、設立時からの基本的なスタンスを守ることです。設立の趣旨や、基本的なスタンス、これまで対外的に発表してきた決議、理事会声明などで示した軸は大切です。初めてメディア懇談会や定期総会を取材した頃は協会は「固い固い組織」だと思っていました。しかし、だんだんと「外に対してオープンな雰囲気の組織」「確かに保険診療を広めるために活動している組織」という印象に変わりました。
―最後に、大事にしてきた言葉について。
◆明大の恩師にいただいた「歩一歩(あゆみいっぽ)」で、個人的には「無為自然」です。やれるだけのことをやった中での結果はすべて受け入れます。
―本日は永田町、霞が関への取材前のお時間、ありがとうございました。
プロフィール 奥村 勝 (おくむら・まさる)/オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任、退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。