広報・ホームページ部

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)11月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)11月1日

【新聞11月号】

【1面】

1.10・26秋の歯科決起集会
2.歯科技工所アンケート速報/可処分所得300万円以下が48%
3.厚労省に届け!!パブコメに託す「現場の声」
4.訃報 中川勝洋元会長が逝去
5.探針
6.ニュースビュー

【2面】

7.〝2つの署名〞にご協力を/診療報酬引き上げと保険証存続を行政に
8.訪問診療時のオンライン資格確認/モバイル端末を利用した運用に
9.マイナ保険証トラブルで「診療を妨げるようなことは…」/多くの署名集める先生に聞く
10.オン資補助金で武見厚労大臣あてに「要請書」
11.また、オンライン資格確認で/保険証と異なる負担割合が!!/未だ収拾を見ない誤表示問題

【3面】

12.物価高騰に対する支援金各自治体で続々/協会の要望活動が実り始める
13.会員寄稿「声」:「最適な歯科医療を求めて~理工学の門叩く~」(駒形葵/文京区)
14.第38回保団連医療研究フォーラム開催
15.新規開業医講習会/新規指導通知が来る前に―保険診療のルールから指導までを学ぶ
16.訪問時の悩みを解消 歯科訪問診療懇談会/事前アンケート回答を深掘り
17.協会が提出したパブリック・コメント4件

【4面】

18.経営・税務相談Q&A第410回「求人会社との契約内容にご注意を!~トラブルが多発しています~」
19.11月会員無料相談

【5面】

20.研究会・行事ご案内

【6面】

21.interview/石川功和氏/「歯科技工士は『患者さんの人生を担う』師・村岡博氏の教え」・歯科技工士の『後世に道を』都技会長の展望」

【7面】

22.「やっぱりキミが必要だ 健康保険証請願署名」ポスター企画

【8面】

23.連載「歯科医療を経済から見てみる③」/尾﨑哲則氏
24.連載「~先生の一歩につなぐ~私の歯科訪問診療③」
25.通信員便りNo.138
26.会員優待のご案内
27.デンタルブックPR

【9面】

28.症例研究「口腔機能低下症の診断の流れと有床義歯の製作について」

【10面】

29.連載「歯科界への私的回想録⑭」/奥村勝氏
30.理事会だより「第12・13回理事会」
31.10月協会活動日誌

【11面】

32.教えて!会長!! No.76「日弁連の10.6『決議』」
33.診療報酬とスタッフ賃金の引き上げを/いのちまもる「10・19総行動」に約3,000人参加
34.IT相談室「歯科医院の効果的なチャットアプリ活用と労働基準法の遵守No.2
35.休業保障制度PR
36.共済部だより

【12面】

37.神田川界隈「休薬が必要?~最近のトラブル事例から~」(濱﨑啓吾/理事・練馬区)
38.インボイス制度始まる/歯科医院の対応についてはデンタルブックにて解説動画を配信中!
39.被爆者運動継承に向け報告多数/札幌で第33回反核医師のつどい
40.戦争の歴史を後世に/東京の地から伝える(理事/高山史年)
41.新年号特別企画のお知らせ
42.「今年の漢字2023募集中」
43.年末年始休診ポスターのご案内

【13面】

44.「すべての医療機関を守るため 診療報酬の大幅引き上げを求める医師・歯科医師要請署名」用紙

歯科医療を経済から見てみるNo.2 家計調査からみた歯科関連支出の特性

「歯科医療を経済から見てみる」というタイトルの連載でお話を進めていきます。いろいろな経済資料や経済学的観点から、歯科医療を考えていきます。今回も、「家計調査」からですが、歯科関連支出の特性を見てみました。前回の繰り返しとなりますが、家計調査は、家計から支払われた金額で示されています。

今回は、2022年の1年間の年間収入五分位階級別1世帯当たりの各項目の全世帯平均支出金額との比を図に示しました。ⅠからⅤは、世帯の年間収入による区分で、ⅠからⅤに向かって収入が増加していきます。縦軸は、支払額を平均額に対する比で示しています。平均支出額を1としています。

横軸の項目を見ますと、「」マークがついているものは包括項目です。医薬品はすべての医薬品の総額ですが、その中から感冒薬と胃腸薬を別途に示しています。同様に、保健医療サービスは包括項目で、ここから医科診療代と歯科診療代を別途示しています。歯ブラシは単独の項目として、石けん類・化粧品は包括項目とし、その中から歯磨き(歯磨剤を示します。なお、この項目に入っているのは、設定された時期では、ほとんどの歯磨剤が化粧品歯磨剤であったためです)を特出しています。まったく別途項目として、たばこをあげました。

◆歯科診療代と歯磨剤

まず、見ていただきたいのが歯科診療代です。先月触れたように、収入による支出比が大きいことが、棒グラフ間の傾きが大きいことから見て取れます。すなわち、収入が多い家庭ほど多く支出していることが見られます。歯科関連項目として、歯ブラシと歯磨きを見ますと、両項目とも同様に収入が多い家庭ほど多く支出しています。歯磨きは若干差が弱い項目です。しかし、この2項目を見ると平均支出額(左表参照)で、歯磨き1966円、歯ブラシ3817円と2倍ほどの額ですが、Ⅰ区分とⅤ区分の差は、歯ブラシは1254円、歯磨き1588円で、歯磨きのほうが差は少ない傾向が見られます。これは、多くの日本人が歯磨剤を意識して選択しているためかと思われます。

 

◆医科関連項目の特徴

医科関連項目では、医科診療代に見られるように、収入による差はあまりありません。感冒薬だけ差が出ていますが、胃腸薬は、医薬品全体同様に差はほとんどありません。保健医療サービスもⅤ区分のみが高い傾向はありますが、これは多くの診療行為が国民皆保険制度にカバーされているためと考えられます。

今回、たばこを取り上げましたが、これは、収入が高いⅤ区分が低いのは偶然ではなく、ほぼ毎年見られます。各方向から見ていくと、収入が高い人ほど健康意識が高い傾向が見られます。これについては、歯科診療の際も気にかけていくと良いかもしれません。

いずれにせよ、歯科関連は収入による差が見られる傾向が強く、歯科診療代以外でも日常生活関係からも見られました。

このような特徴をご存じであったでしょうか。

「東京歯科保険医新聞」2023101日号(No.64311面掲載

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

尾﨑哲則( おざき・てつのり)1983年日本大学歯学部卒業。1987年同大学大学院歯学研究科修了。1998年日本大学歯学部助教授。2002年日本大学歯学部医療人間科学分野教授、日本大学歯学部附属歯科衛生専門学校校長、日本歯科医療管理学会常任理事。2008年日本歯科医療管理学会副会長、2019年日本歯科医療管理学会理事長。ほかに、日本公衆衛生学会理事、日本産業衛生学会生涯教育委員会委員長、社会歯科学会副理事長などを

歯科医療を経済から見てみるNo.1 「家計調査」から歯科医療を見てみると…

歯科医療を経済から見てみる」というタイトルで、5回の連載でお話を進めていく予定です。いろいろな、経済資料や経済学的観点から、歯科医療を考えていきます。今回は、「家計調査」から見てみました。

ところで、「家計調査」をご存じですか?

総務省統計局のホームページから引用すると、「家計調査は、一定の統計上の抽出方法に基づき選定された全国約9000世帯の方々を対象として、家計の収入・支出、貯蓄・負債などを毎月調査しています。家計調査の結果は、我が国の景気動向の把握、生活保護基準の検討、消費者物価指数の品目選定及びウエイト作成などの基礎資料として利用されている」になります。

したがって、国民医療費や医療経済実態調査は、どちらかというと診療側から見ていきますが、この調査は、家計から支払われた金額で示されいます。

今回は、2019年から2022年までの4年間の年間収入五分位階級別1世帯当たり支出金額を12に示しました。ⅠからⅤは、世帯の年間収入による区分で、ⅠからⅤに向かって収入が増加していきます。縦軸は、支払額を円単位で示しています。そのため、医療機関での診療行為に対する支払額を示しますので、国民医療費とは異なり、自費診療分も入りますが、保険診療では一部負担金額になります。歯磨剤や歯ブラシ購入費は、別途項目がありますので入りません。

さて、歯科診療代の年度ごとの平均額は、2019年は18812円、20年は18294円、21年は21441円で、22年は22000円でした。19年から20年で低下し、その後、緩やかに22年に向けて増加しています。

診療報酬改定の年である20年は、通常、家計からの支出も増加が想定されましたが、実際に、減少したことは、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたと考えられます。

しかし、特に、見ていただきたいのは、1です。年間収入により歯科診療代に差がみられ、年間収入の区分がⅠからに向けて、歯科診療代が増加している点です。いずれの年もこの傾向を示しており、これは、歯科診療代の特徴です。弾力的な支出項目と言われていますが、世界の先進国では同様な傾向がありますが、保険制度でのカバー範囲が最も多い日本でも、このような差があることは今後も検討していく必要がありましょう。

一方、医科診療代の年度ごとの平均額は、19 年は4374円、20年は4850 円、21年は42344 円で、22年は43727円で、歯科とほぼ同様の傾向を示しています。しかし、年間収入により医科診療代に差がほとんどみられません(2)。

このような、特徴をご存じであったでしょうか。今回は示しませんでしたが、「家計調査」は、地域格差も見ることができるなど、いろいろな分析ができることでも知られています。

 

「東京歯科保険医新聞」202391日号(No.6423面掲載

 


尾﨑哲則( おざき・てつのり)1983年日本大学歯学部卒業。1987年同大学大学院歯学研究科修了。1998年日本大学歯学部助教授。2002年日本大学歯学部医療人間科学分野教授、日本大学歯学部附属歯科衛生専門学校校長、日本歯科医療管理学会常任理事。2008年日本歯科医療管理学会副会長、2019年日本歯科医療管理学会理事長。ほかに、日本公衆衛生学会理事、日本産業衛生学会生涯教育委員会委員長、社会歯科学会副理事長などを歴任。

【教えて!会長!! Vol.76】日弁連の10.6「決議」

日弁連が最近の人権と医療、医療のアクセス権に関する「決議」を発表したようですが、その経緯、主な内容について。

政府は本年7月25日に、「令和6年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」(以下、「概算要求基準」)を閣議決定しました。そこには、社会保障費の伸びを抑制する方針を明記
しています。その方針を背景として本年10月6日、日本弁護士連合会(日弁連/小林元治会長)が「人権としての『医療のアクセス』が保障される社会の実現を目指す決議」を発表しました。以下に、その抜粋をご紹介します。なお、ネット上には全文が掲載されていますので、ぜひご一読していただきたいと思います。
◆ 「決議」抜粋

「国民健康保険の滞納者は約195万世帯、全利用世帯中の約11%におよぶ。民間の調査によれば、保険料滞納や窓口負担が払えないなどの経済的理由から医療を受けることができずにいのちを落とす人が後を絶たない。(略)国や地方自治体には、人権としての医療へのアクセス権を実効的に補
償するため、医療保険制度、医療提供体制、公衆衛生体制などを整備、拡充する責務がある。(略)当連合会は、国及び地方自治体に対し、医療へのアクセス権を保障するため、医療費日弁連の10.6「決議」抑制ありきの政策を転換して、次の諸施策を実施することを求める。     
1 誰もが必要な医療を受けられる医療保険制度の構築
経済的理由等により医療へのアクセスが阻害されることのないよう、⑴必要な医療を受けられずに多くのいのちが失われている危機的状況を踏まえ、医療費の窓口負担のない対象者の範囲の拡大を行うこと⑵多くの保険料滞納世帯が存在することを踏まえ、国民健康保険料の減免範囲を拡大するとともに、(略)保険料についても応能負担を貫徹する施策を速やかに行うこと⑶保険料滞納者にも正規の保険証を交付するとともに、マイナンバーカードと健康保険証の一体化に大きな不安を抱く市民も多いことも踏まえ、現行のままの健康保険証を選択する権利を認めること      
2 医療提供体制の充実 
3 公衆衛生体制の充実 
4 地域を支える存在としての医療・公衆衛生の重要性          
5 社会構造上の要因と公的取組

(略)当連合会は、医療と法的支援の相互の協働によって個人の権利を擁護することの重要性に鑑み、今後はより一層、医療関係者との連携を広げ、(略)医療者を起点とした前記の社会的要因に対する取組との協働を進めつつ、人権としての医療へのアクセスを保障するため、力を尽くす決
意である。
以上のとおり決議する。
2023年(令和5年)10月6日

日本弁護士連合会
 

東京歯科保険協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年11月号11面掲載)

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.14】近年の健保法改正研究会の動向に注目

「日弁連意見書」の趣旨反映を期待

◆健康保険法改正研究会の活動に注目集まる
健康保険法改正研究会(共同代表・弁護士:井上清成氏、石川善一氏)が新たなスタートを切ったことが注目されている。特に、保険医に対する指導・監査、患者調査などを巡り、健保法をクローズアップしていることに関心が集まっている。

◆第11回シンポジウムと指導・監査・患者調査
健保法は制定されて約100年が経過するが、医療界で必ず議論になる指導・監査について、日本弁護士連合会が課題視された項目をピックアップし、2014年8月22日付けで「健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書」として発表し、その理解を求めていた。その後の改正を含め、興味深い指摘と新たな課題を整理して問題提起をしている。
去る9月3日に健保法改正研究会が開催した第11回シンポジウムでは、その意見書を参考としつつ、「指導・監査における患者調査」など新たな資料をもとに7項目を示し、担当弁護士がそれぞれ解説した。具体的には、①選定理由の開示、②指導対象とする診療録の事前指定、③弁護士の指導への立会権、④録音の権利性、⑤患者調査に対する配慮、⑥中断手続きの適正な運用について、⑦指導・監査の機関の分理及び苦情申立手続きの確立―となっており、特に現実的な視点から⑤について議論が行われた。

◆国民の適切な医療を受ける権利擁護
意見書は、「保険医への信用棄損を最小限とするように配慮し、事実を的確に把握できる調査手続きをとり、調査結果を保険医等に提示するべき」と明記している。
この患者調査の意味合いの重さを共同代表の井上弁護士から、自身の経験事例を踏まえて、次のような説明があった。
「患者調査はいつ、どのような話、方法などは知らないもの、というより知らせないで実施。既に、 患者自身も『何を話していいのか』『どこまで話していいのか』など、素朴な感想を持ちますが、厚生局としては指導・監査の裏づけになる事実を取れればOKなのです。「患者調査」がある程度進んで、患者から相談を受けてからですと、その対応には苦労します。それは事実ですか ら…」。

今回の意見書の基本的視点は、「根底には『国民の適切な医療を受ける権利擁護』があるのですが、具体的に、診療報酬明細の平均点数が高いと、内容に問題がなくとも個別指導の対象に繰り返し選定されること」と指摘。さらに、「個別対象になると、不利益処分のおそれがある一方で、手続保障がなされていないこともあり、その選定にされないように、診療報酬の点数を抑える意識が働き、結果として患者・国民が本来受けられる、あるいは受けるべき医療を受けられないことがあり得る」とし、これを問題点に指摘した。明解な論理である。


◆対応認定弁護士制度

さらに、興味深い報告があった。研究会のこれまでの活動を支える人材として、保険医が適正な手続きで指導・監査を受けることができる権利を保障するため、指導・監査の制度に精通し、経験を積んだ弁護士を養成するのが狙いの「保険医指導・監査対策協会」を創設し、それを担う「対応認定弁護士制度」を設けているが、これが29人から32人に増員され、その理解が徐々に広まってきていると報告した。
こうした新しい動向に期待が寄せられている中、指導・監査を巡る保険行政の環境も変化してきているが、橋本賢二郎弁護士からは、「指導・監査の問題は必ずしも容易でなく、ハードルは高いのは事実」と冷静な対応を求める意見も提示されており、その意見などを踏まえながら着実に前に
進む可能性を示唆していた。


◆副代表で自民党衆議院の橋本岳議員が私論
なお、研究会副代表を務める自民党の橋本岳衆議院議員がシンポジウムの前に「かかりつけ医、分娩費用の保険適応と改正保険法」「研究会としての取り組み」などの経緯を説明しながら、財務省の意図や諸事情などを「個人的意見・推察」と前置きしながらも言及した。例えば、「まず分娩費には地域格差があります。現在は、出産費用は医療機関が自由に決めることができます。政府としては、保険適用で経年的に高騰する費用負担を抑えることに、最大の意図があります」とし、最後は、「財務省なりの理屈があるが、基本は予算削減で、財政のバランスを強調するが、まずは財政緊縮です」とまとめ、問題意識を示唆していた。
 いずれにしても、指導・監査を巡る保険行政の環境が変わりつつある中、慌てず確実に進めて行く時期に来ているようだ。今後も健保法改正研究会の動向に注目していくべきである。

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オフィス  オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立してオフィス  オクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

【IT相談室】 歯科医院の効果的なチャットアプリ活用と労働基準法の遵守 その2

今回は、「歯科医院の効果的なチャットアプリ活用と労働基準法の遵守」の2回目です。まず第1に、歯科医院でどのようにチャットアプリを運用すべきかを考えます。そして第2に、チャットアプリの運用上の注意点をご紹介します。

【チャットアプリの運用方法】

労働基準法や就業規則、労働契約など(以下、労基法等)を遵守しながらチャットアプリを効果的に活用するためには、以下のポイントに留意することが大切です。          

▼明確かつシンプルに:

チャットアプリを利用しての連絡事項は、明確かつシンプルにし、できるだけ具体的な表現にします。チャットでのやり取りは、早く終わるように心がけましょう。

▼就業時間内の活用:

業務連絡は原則として就業時間内に行い、就業時間外の連絡は避けます。就業時間外に使用する可能性がある場合には、あらかじめ使用規則を定めておきます。

▼緊急時の了解取得:

就業時間外の緊急連絡用にチャットを活用する場合についても、あらかじめ規則を定めておきます。

▼ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の尊重:

チャットアプリの使用に関する規則を作成する際には、ワーク・ライフ・バランスにも配慮します。規則を定めれば良いというものではなく、スタッフのプライベートな時間を尊重するように配慮します。

▼定期的な評価と改善:

チャットアプリの使用に関する規則は定期的に再評価し、スタッフの意見を取り入れつつ改善していくことが重要です。 

          

【チャットアプリの運用上の注意点】 

▼労働時間の記録:

操作開始時刻と終了時刻を記録します。就業時間外の操作であれば時間外労働になります。         

▼トレーニングとガイドラインの提供:

新入社員やスタッフに対して、チャットアプリの適切な使用方法とルールをトレーニングやガイドラインを通じて提供します。操作方法が分からないために業務に支障が生じないようにします

▼透明なコミュニケーション:

スタッフとのコミュニケーションを透明かつ開かれた形で行うことが大切です。労働時間や業務連絡に関するポリシーを共有し、スタッフからの意見や質問を歓迎します。   

▼柔軟な対応:

スタッフの個々の状況やライフスタイルに合わせて、柔軟な対応を心がけましょう。  

▼継続的な改善:

チャットアプリの運用方法は変化する状況に合わせて適宜見直し、改善します。スタッフからの意見や要望については適切に対応し、必要に応じて労働環境の向上に活用します。

           

【まとめ/労働法制遵守の理解を】

以上を総括すると、歯科医院の経営者としては、チャットアプリを効果的に活用する前提条件として、労働法制の遵守が必要です。軽い気持ちで導入をしてしまうと、就業規則などに抵触してしまう場合があるので注意します。また、チャットアプリでの会話が原因で、人間関係に傷がついてしまう場合もあり、この点にも注意が必要です。

チャットアプリの導入・活用にあたっては、便利な反面、注意すべき点も多いことをよく理解しておくことが必要です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2023年11月号11面掲載)

※「東京歯科保険医新聞」10月号の「IT相談室」はお休みました。

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)10月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)10月1日

【新聞10月号】

【1面】


1.協会設立50周年/会員らと盛大に祝う
2.健康保険証を残すべく医療機関の窮状を行政に
3.2024年度東京都予算等/保健医療局・福祉局に要望
4.レセプトのオンライン請求10月5日までパブコメ募集
5.「探針」
6.ニュースビュー

 

【2面】


7.「いい歯東京」めぐり 口腔機能維持PRなど要望/東京都来年度予算等に対し20項目要望
8. 都議会各会派とヒアリング/都要請20項目に理解示す
9.10月歯科用貴金属材料価格の随時改定/金パラ、14K等が引き上げに 
10.院長署名を実施中/診療報酬の大幅引き上げを!!

 

【3面】


11.オンライン資格確認〝義務化〟撤回訴訟/「大変意義深い」 弁護士が評価/裁判長が国に説明を要求
12.パブコメするのは「今でしょ」/レセプトオンライン請求義務化を中止へ
13.経営・税務相談Q&A第409「インボイス制度~よくいただくご質問をご紹介します! Vol.3 ~」

 

【4・5面】


14.研究会行事ご案内
15.10月会員無料相談

 

【6・7面】


16.50周年記念企画:記念シンポジウム、レセプション

 

【8面】


17.教えて!会長!! No.75「2024年度診療報酬改定」
18.2024年度診療報酬改定に向け議論の概要示される
19.グループ生命保険40周年を記念して抽選会も開催します!
20.秋の共済募集キャンペーン締切迫る!協会の3大制度

 

【9面】


21.症例研究「SPT算定中に歯周外科手術が必要になった場合の対応」


【10面】


22.連載「歯科界への私的回想録⑬」
23.理事会だより「第10・11回理事会」
24.9月協会活動日誌

 

【11面】


25.連載「歯科医療を経済から見てみる②」/尾﨑哲則
26.連載「~先生の一歩につなぐ~私の歯科訪問診療②」
27.ご案内/協会の適格請求書発行事業者の登録について
28.会員優待のご案内
29.デンタルブック登録のご案内
30.ミニデンタルショー出展企業・協賛企業

 

【12面】


31.神田川界隈(福島崇/世田谷区)
32.現行の健康保険証を残してください/署名とともに取り組みの声が続々と寄せられています
33.会員寄稿「声」/三枝遵子(台東区)
34.適切な診療報酬請求・カルテ記載こそ〝最善の指導対策〟/オン資トラブル、健康保険証は必要不可欠
35.オン資トラブルアンケートなど議題に/第3回メディア懇談会
36.インボイス制度研究会を開催/デンタルブックで配信中!

 

【13・14面】


37.共済部チラシ

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.13】東京歯科保険医協会が50周年記念シンポ開催

歯科の今後を巡り田口東京歯科大教授と宮原基金歯科専門役が講演

会員数が6000名を超えた東京歯科保険医協会(坪田有史会長)が、9月10日に千代田区平河町の都市センターホテルで設立周年記念企画を開催し、シンポジウム「これからの歯科を考える」を実施した。
このシンポジウムには、東京歯科大学教授で元厚生労働省医政局歯科保健課長の田口円裕氏、社会保険診療報酬支払基金審査統括部歯科専門役で前厚労省保険局歯科医療管理官の宮原勇治氏がシンポジストとして所見を紹介した。
両氏ともその経歴から関心を集めたが、今後の歯科医療の方向や診療報酬改定などに示唆を与える内容が多数あり、参加者からは高い評価を得たようだ。

◆田口円裕氏の講演内容

まず、田口教授は現状認識として、「日本の人口動態」「地域包括ケアシステム」「2040年を展望した社会保障改革の新たな局面と課題」などの経緯・背景を中心に説明。臨床的な視点からも「う蝕有病率とう蝕の処置状況の年次推移」「20歳以上の歯を有する者の割合の推移」「4ミリ以上の歯周ポケットのある者の割合」などについて、具体的な数字を示して展望した。
一方、歯科にとって看過できない「歯科保健医療を取り巻く基本施策」を全体からの観点から逐次説明したが、特に開業医にとって懸念される「診療報酬改定の概要」についてもポイントを指。
最後に、これからの歯科保健医療の在り方として、私見と断りながらも「歯を残す技術の評価」
「地域歯科保健と歯科医療の連携」「予防給付的評価の導入」「口腔機能に着目した評価」「健康格差解消に向けたエビデンスに基づく施策推進(一次予防による歯科疾患予防)」を挙げた。そして歯科医師・研究者には、「患者への適切な歯科医療や歯科保健管理の支援」がポイントとした上で、結論として「個人の歯科疾患予防と口腔機能維向上と公衆衛生的視点を持った対策が不可欠であ、歯科保健医療政策の推進になる」とし、歯科診療も〝診療所完結型”から“地域完結型”に移行していくことを前提にしていくとが基本政策である」とした。

◆宮原勇治氏の講演内容

続いて宮原基金歯科専門役は、コロナ禍の時に厚労省保険局医療課で歯科管理官を務めていた経験あり、厚労省として慌しく対応していた経験を明らかにしながら、政府の資料類のデータの見方や読み方、言葉の解釈などをユーモアを交えつつ、歯科保険診療の視点から解説を進めた。歯科保健医療を取り巻く基本政策を再確認しながら、口腔保健推進に関わる法律概要を基本的事項策定、財政上の措置。特に、診療報酬改定の説明では、中央社会保険医療協議会(中医協)の裏舞台の一部を紹介した。
この中医協で診療側、支払側の議論・意見が対立した場合の微妙な「落としどころ」のヒントも指摘した。支払側の発言・意見が大きいことは事実だと理解しているようで、水面下での議論で意識しておくことは重要であることを示唆。
また、一般には知られていない「診療報酬と補助金」の関係にも言及。特に、補助金の定義・在り方については歯科医療界の議論では、あまり聞かれない内容であり、貴重な情報でもあった。
最後は、「診療側だけの議論では進みません。患者に何がメリットになるのか説明できなくては難しいです。この視点をクリアにしなくてはダメですね」と改めて強調していた。

◆質疑応答の模様

両氏の講演を終えた後、会場から「中医協で支払側から″重症化予防〟という歯科の今後を巡り田口東京歯科大教授と宮原基金歯科専門役が講演東京歯科保険医協会が50周年記念シンポ開催田口円裕氏宮原勇治氏ことを指摘して、疾病対象の保険診療には如何かという趣旨の発言がありましたが、田口先生はどう思われますか」と質問されると田口教授は「以前から釈然としない思いはありまし
た。元々予防の分野の人間ですから、苦心したところです。正々堂々と″予防〟としての評価をすべきではないか」と発言すると、会場から拍手が沸き起こる場面があった。東京歯科保険医協会の活動内容を理解している田口教授ならではの本音でもあった。両氏の講演内容は前記の通りである、「たかが講師、されど講師」であり、ここに同協会の姿勢を窺うことができ、さらに同協会の存在と今後の活動に期待が寄せられそうだ。

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

【教えて!会長!! Vol.75】2024年度診療報酬改定

2024年度診療報酬改定の進捗状況を教えてください。

本年8月30日に開催された第553回中央社会保険医療協議会総会(以下、中医協)において、本年月から行われてきた2024年度(令和6年度)診療報酬改定の論点や議論などが整理されました。
これらで整理された内容により、2024年度改定に向けた具体的な議論がさらに進み、具体的な改定内容が決まっていきます。
なお、厚生労働省のホームページに資料が掲載されていますので、検索していただければ詳細を確認できます。
多くの項目が取り上げられていますが、本稿では、いくつかの項目をピックアップして改定内容について推測してみます。中医協の資料には、各項目での「現状と課題」のあとに「論点」「主な意見」が記載されています。以下に、例としてかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(以下、か強診)、口腔機能管理料、歯科衛生実地指導料(以下、実地指)についての記載を示します。
【歯科医療提供体制】   
1.現状と課題/か強診について
・ライフステージに応じた継続的な口腔の管理や医療安全の取組、連携に係る取組に積極的に取り組む歯科医療機関として、平成28年度診療報酬改定においてか強診を新設し、以降施設基準の見直しなどが行われており、施設基準の届出医療機関数は年々増加している。
・か強診の施設基準には歯科疾患の重症化予防や歯科訪問診療に関する実績要件などが必須とされており、小児の歯科治療に関する要件は設定されていない。
《論点》
・かかりつけ歯科医に求められる機能や病院における歯科医療など、歯科医療機関の機能・役割に応じた評価について、どのように考えるか。
《主な意見》
・ライフコースに応じた歯科疾患の重症化予防や地域包括ケアシステムにおける連携などが重要であり、か強診にはこれらの役割が求められている。一方で患者にとっては、か強診とそれ以外の歯科診療所の違いが分かりにくいという指摘もあり、か強診がどのような役割を担うべきか考える必
要がある。

・歯科医療機関の機能分化や連携を適切にすすめ、地域の状況に応じた歯科医療提供体制を構築すためにも、在宅歯科医療、医療安全や院内感染対策など関連する施設基準を整理・検討すべき。
◆私の推測
厚労省側は政策として、か強診の届出医療機関数を増やしたいのか、抑制したいのかなどの方向性が不明である。
厚労省が示す論点からは、小児の歯科治療の実績について追加されるなど施設基準の変更が行われる可能性があり、歯科医師側からみるとか強診の施設基準は厳しくなる可能性がある。

2.現状と課題/口腔機能管理について     
・小児および高齢者に対する口腔機能管理については、2022年度(令和4年度)診療報酬改定において対象患者の見直しを行ったが、算定状況は低調である。
《論点》
・口腔疾患の重症化予防や年齢に応じた口腔機能管理をさらに推進するため、診療報酬のあり方について、どのように考えるか。
《主な意見》
・口腔機能の管理については、口腔機能管理の中で行われる口腔機能獲得や口腔機能向上のための訓練に対する評価について検討すべき。          
◆私の推測
厚労省側は小児および高齢者に対する口腔機能管理について、算定数を増やすための方策を提示するものと考えられる。
また、以前からの課題とされていたが、診断して病名をつけた後、口腔機能に対する訓練の評価が新設されるかについて注目される。

3.現状と課題/実地指について
・歯科衛生士による実地指導を評価した実地指は、平成8 年に新設されて以降、平成22年の障がい者に対する実地指導の評価新設を除き、大きな見直しは行われていない。
《主な意見》
・歯科衛生士による実地指は重症化予防の観点から非常に重要である。近年は、ブラッシング方法の指導等だけでなく口腔機能や生活習慣などの観点からも歯科保健指導が行われており、実態に応じた評価を検討すべき。
◆私の推測
歯科衛生士の雇用などに関して様々な問題が生じていることに対して実地指を変更するが、影響率が高くなるので実地指の点数を単純に増点することは困難な状況であり、時間要件、あるいは内容によって応じた点数配分が設定されるといった見直しが行われると推測される。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

協会は、今後も2024年度診療報酬改定について検討し、よりよい改定が行われるよう行政側に要望していきますので、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会
会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年10月号8面掲載)

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)9月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)9月1日

【新聞9月号】

【1面】

1.医師・歯科医師9割が「健康保険証残すべき」/約77 万人 ひも付けなし
2.「資格情報」文書交付へ
3.会員の皆様の役に立つ活動を行っています/未入会の先生をご紹介ください
4.50周年記念企画
5.「探針」
6.ニュースビュー

【2面】

7.談話「次期診療報酬改定に向けて~診療側の視点に立った適切な評価を〜」
8.2024年度診療報改定/施行を4月から6月に変更
9.集団的個別指導は9月7・8日実施/平均点数1,476点以上が選定
10.オン資が対応できない場合の対応/健康保険証の提示こそ確実な解決策

【3面】

11.歯科医療を経済から見てみる(1)「『 家計調査』から歯科医療を見てみると…」
12.オン資トラブル実態調査第2弾結果/現場の実態が浮き彫りに
13.都内の各自治体/物価高騰支援金スタート

【4面】

14.経営・税務相談Q&A No.408「インボイス制度~よくいただくご質問をご紹介します! Vol.2 ~」
15.9月会員無料相談

【5面】

16.研究会・行事ご案内

【6面】

17.東京歯科保険医協会50周年記念企画

【7面】

18.これから始める歯科訪問診療講習会/「臨床の基礎」をテーマに開催
19.TBI&PMTC・デブライドメント講習会を開催/”あきらめないサポート”が大切
20.未経験スタッフのための基礎講習会を開催/日頃の疑問や悩みも解決
21.院内感染防止対策講習会を開催/会員からの熱望に即応し企画
22.書評「マイナ保険証の罠」
23.保険医美術展が銀座で開催/協会から4名が力作を出展

【8面】

24.教えて!会長!!vol.74「半世紀を迎えて」
25.共済部だより
26.デンタルブックご案内

【9面】

27.症例研究「保険外併用療養費と院内掲示」

【10面】

28.連載「歯科界への私的回想録⑫」
29.理事会だより「第10回理事会」
30.8月協会活動日誌
31.協会設立50周年を迎え「回顧」
32.“健康保険証”請願署名にご協力ください

【11面】

33.~先生の一歩につなぐ~私の歯科訪問診療
34.マイナ保険証トラブル/会員から不安の声「国民は安全なシステムだと思い込み…」
35.IT相談室「歯科医院の効果的なチャットアプリ活用と労働基準法の遵守 その1」
36.通信員便り №137東京歯科保険医新聞2023.9月号(No.642)

【12面】

37.神田川界隈(早坂美都/世田谷区)
38.原水爆禁止2023年世界大会
39.申請期限迫る9月末まで/オン資システム導入補助金
40.保団連情報サービスのご案内
41.会員優待ご案内

【13・14面】

42.秋の共済キャンペーン

【Health Care】 No.5/完 訪日外国人の診療対応~診療価格と病院経営~

医療経済学の専門家で東京大学大学院特任教授の田倉智之氏による連載5回目。テーマは「訪日外国人の診療対応—診療価格と病院経営」。なお、本連載は、今回で最終回となる。

訪日外国人は、政策や景気に関わる議論において、大きな注目を集めている。その理由の一つとして、「収入」が挙げられる。すなわち、訪日外国人は我が国に経済的な恩恵をもたらすと考えられている。実際、COVID―19蔓延前の観光庁の2019年度調査[1]では、訪日外国人の旅行消費額は年間4兆8千億円となっていた。このインパクトについてピントこない読者もいらっしゃると思われるが、同時期の歯科診療医療費(国民医療費)の3兆150億円と比べると、我が国にとって大きな収入源であることを理解されるはずである。

本連載の第1 回において、国民皆保険制度の財政や医療イノベーションの活性は、実体経済の動向と関係が深いことに触れた。つまり、一見、臨床等とは関係がないように見える実体経済は、医療の発展においても重要な訳である。訪日外国人の観光収入も同様で、その一部はまわりまわって公費等として医療分野を支える財源にもなる。また、インバウンドの医療ツーリズム等は、病院経営に直接的な恩恵をもたらすと期待される。

一方で、診療対応を中心にマイナス面も存在する。東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えていた19年頃に、訪日外国人の診療負担や経済負担にまつわる臨床現場のトラブルが話題になっていたのをご記憶の方も多いと思われる。特に、自由診療に比較的なじみの薄い医科診療の請求において、未収金の発生や診療の赤字化が問題となっていた。それらを踏まえ、その対策で実施された政策事業の研究成果[]から、診療価格と病院経営に関わる学際的な神髄を紹介する。まず診療価格の検討は、コスト(原価)を算定することが必須となり、間接費も含むすべての原価を1患者等へ集約する、原価計算を行うことが望まれる。ただし、このコストの単価は、稼働率(診療数)の影響を受ける点に注意が必要である[]

自由診療では、コストに相対する(車の両輪的な)要素として、患者の経済力が重要になる。この経済力は、診療介入による成果との関係を論じるため、支払意思額調査(WTP)で整理がなされる場合がある。この支払水準と原価水準のバランスが取れたところは、医療機関における収支均衡も実現し、医療者や患者(保険者)等の関係者全員にとって、納得感のある適正な診療価格となる訳である(下図参照)。利益率に対する関心も高まる病院経営の立場では、医療費原価を下げ、支払意思額を上げる努力が必要になる。そのためには、第3回のテーマでも解説をしたとおり、提供する診療やサービスの価値を伸ばし、それを患者や保険者に認識をさせることも重要になる。価値が大きいと分かれば、患者は自ずと集まり、支払水準も上昇することが期待される。ただし、その基盤となる診療成果の向上には、コストの増加もついてまわる。そこで通常は、診療価格をできるだけ最大化させることが理想になる。ただし、価格上昇に伴い、支払能力から患者数が減ることも予想される。そこで、診療成果を高めつつ診療価格を抑え、患者を多く集めて稼働率を上げる戦略が検討される。この選択肢は、再受診が多い疾患において効果的と言われているが、一見の患者である訪日外国人に対しても、日本のブランド向上の面で一定の意義があると解釈される。

ここまで、訪日外国人に対する自由診療について話題を提供してきたが、医の倫理等に立ち返れば、医療を経済力等で論じることに一定の懸念があるのも事実である。その点から、経済的な不公平性の影響を極力抑えた我が国の皆保険制度が、大変素晴らしいことに改めて気づかされる。ただし、この公的医療保険制度においても、先に挙げた戦略の概念は、DPC制度等へも一部導入されているようである。

田倉 智之(たくら・ともゆき):博士(医学)、修士(工学)東京大学 大学院医学系研究科 医療経済政策学講座 特任教授。1992年に北海道大学大学院工学研究科修了。東京大学医学部の研修を経て、2010年より大阪大学大学院医学系研究科 特任教授。2017年より現職。厚生労働省(中医協)費用対効果評価専門組織 委員長、内閣府 客員主任研究官、大阪大学医学部招聘教授、東邦大学医学部客員教授、日本循環器学会 Circulation Reports Associate Editor、日本心臓リハビリテーション学会 評議員など歴任

【文献】

[1] 訪日外国人消費動向調査の結果概要. 2020. 観光庁.

[ 2 ] Tomoyuki Takura, et al. Int. J. Environ. Res. PublicHealth,18(11), 5837, 2021.

[ 3 ] 訪日外国人の診療価格算定方法マニュアル.2020.厚生労働行政推進調査事業.

【Health Care】 No.4 新興感染症の医療介護 医療か経済か両方か

医療経済学の専門家で東京大学大学院特任教授の田倉智之氏による連載の4回目。今回のテーマは「新興感染症の医療介護医療か経済か両方か」。

COVID―19については、まだ不明な点が多く臨床的な議論などもあるため、油断は禁物ではあるが、社会的にはある程度落ち着いてきたと推察される。このような新興感染症は、繰り返す感染の波なども視野に入れた長期的な取り組みが必要であるうえ、「社会的距離(social distance)」を始めとする裾野の広い感染症対策が不可欠であり、衛生資材などの健康医療産業のみならず、経済活動全般に大きな影響を及ぼすことは論を待たない。

一般に、感染症対策を含む医療システムにおける活動は、それを支える原資自体が社会全般の経済活動と相互関係にあるため、継続的な対策が必要な場合ほど、臨床的な課題と経済的な側面のバランスを図りながら、社会システムの発展に努める必要がある。

そのため、ハイリスク層である高齢者や基礎疾患を有する国民の健康・生命の確保を最優先にしつつも、経済活動の低下をできるだけ小さくする努力は、各種の防疫活動(行動変容)の推進とともに重要な視点と思慮される。例えば、重症患者の受け皿(ICUなど)を確保することは、臨床成績を担保しながら経済活動の許容範囲を拡げる可能性もあり、結果として、医療を支える経済的な損失は減少するため、感染症対策にかかる費用は相殺され、死亡者数も低く抑えられることが想像される。

そこで次に、この社会経済的な投資と回収のバランスの意義について、関わる概念やデータを整理してみる(コンセプト:図1)。COVID―19のような臨床的な特性および経済(社会)的な影響を有する特異な感染症に適切かつ効率的に相対し、市民の健康・生命のみならず医療制度などの国民福祉を恒常的に支えるためには、従来(平常時)の医療提供体制の強化に加え、感染症蔓延(緊急時)に伴う財政支援などが不可欠と考えられる。特に、ICUとともにHCU(高度治療室)などをも有効活用し、集中治療供給体制の拡充を行うには、平常時の備えとして、人工呼吸器および関連設備などとともに、医師・看護師などのマンパワーの充足も必要になる。これらは、社会保障や医療経営の負担を高める懸念も生じるが、感染慢性時に実体経済へのマイナス影響を抑制し、経済的な成果を生むことも期待される。例えば、ICUも含む急性期病床の人口あたりの密度が高いと、COVID―19による人口あたり死亡者数が低い傾向も認められる(図2, p< 0.01)[1]

加えて、国内総生産(GDP)の成長率と急性期病床の人口あたりの密度の関係を眺めると、平常時の急性期病床の密度は、COVID―19の蔓延に伴うGDPの成長率のマイナス影響を減じる傾向も示唆される(p<0.05)。以上から、不確実性の高い感染症の特徴に配慮しつつ、感染蔓延時のみならず平常時の備えや終息後の防疫を促進するには、経済活動の継続性も視野に入れて、中長期的な応対や関係者の意識改革を進めることが望まれる。新興感染症への対応策とはつまるところ、医療と経済の両立が理想であるため、臨床対応を優先しつつも、経済復興を早める工夫も不可欠であると考えられる。

これらは、国民のコンセンサスの醸成が前提でもあるため、普段より国民全体で共有すべきテーマと推察される。 

田倉 智之(たくら・ともゆき):博士(医学)、修士(工学)東京大学 大学院医学系研究科 医療経済政策学講座 特任教授。1992年に北海道大学大学院工学研究科修了。東京大学医学部の研修を経て、2010年より大阪大学大学院医学系研究科 特任教授。2017年より現職。厚生労働省(中医協)費用対効果評価専門組織 委員長、内閣府 客員主任研究官、大阪大学医学部招聘教授、東邦大学医学部客員教授、日本循環器学会 Circulation Reports Associate Editor、日本心臓リハビリテーション学会 評議員など歴任

【文献】

[1]田倉智之. 医療のグローバル化とその課題_国際診療の社会経済. 整形・災害外科. Vol.64 No.3, pp.341-347. 2021

【Health Care】 No.3 アドヒアランスを制することが次世代の目標

医療経済学の専門家で東京大学大学院特任教授の田倉智之氏による連載の3回目。今回のテーマは「アドヒアランスを制することが次世代の目標」。

 アドヒアランスは、医療者から患者等への一方通行ではなく協同のもとで、患者が治療の必要性について理解し、自発的、積極的に参加する姿勢を指す概念である。WHOの定義(2003年)を意訳すると、「人間の主体的な健康行動が適切(医療専門家の方針と一致)であること」になる。なお、狭義の生物学面や疾病機序が同様でも、長期予後に差異が生じるケースは散見するが、その背景として、患者固有のアドヒアランスの存在も想像される。以上から、アドヒアランスの見える化とそのコントロールは、健康寿命や社会経済に大きな恩恵をもたらすと期待される[]

例えば、服薬コンプライアンスや患者モラルハザードは、臨床成績と密接に関係し、健康行動だけでなく医療費などの社会経済的要因にも大きな影響を与えることが明らかになっている[2、3]。つまり、これらの向上は、患者の慢性疾患の負担だけでなく、経済的負担も軽減するわけである[ ]。特に、自己管理やヘルスリテラシーを含む広義のアドヒアランスは、疾病予防行動に影響を与える[]。このような中、限られた共有財の枯渇を避け、医療資源の配分の公平性を管理する必要もある厚生政策では、有害事象につながる可能性のある重複受診に伴う医療費の増加も懸念されている[1、5、6]

以上を整理すると、アドヒアランス(健康関連行動)の定義は、議論の立場によってやや変わるものと考えられる。つまり、公共市場を背景に集団の健康を論じる場合は、「自主/積極性」に「社会協調性」「モラルハザード」も関係してくるわけである。そこで、ここからは、広義のアドヒアランスの見える化とともに、その長期の臨床経済効果を検証した我が国の研究を紹介する[ ]。この研究は、定量化されたアドヒアランス(10水準のASHRO*スコア:低いと良い)が長期(48カ月間)の医療・介護費用や生命予後、他の臨床指標に与える影響を48,456人(循環器領域)のコホートで検証しつつ、予測モデルを開発している。

ASHROスコアは、収縮期血圧、LDLコレステロール、HbA1c、eGFR等の因子とも有意な相関関係を担保しつつスコア化されている。危険因子を揃えた予測モデルの全死亡に対する検証の結果、スコアの低い群と高い群の間には、3年以上後の累積死亡率に統計学的有意な差が認められている(2vs.7%、p< 0・001)。また、生命予後(全死亡)に対するASHROスコアのオッズ比は、1.860 95 % CI:1.740- 1・980、p<0・001)である。さらに、48カ月後の医療・介護費用の変位は、アドヒアランスが悪い群(スコア10)は、平均(スコア5)に対して、一定の精度のもとで将来の医療介護の累積費用が140%以上増加することを示している()。

ここまでの話しを医療保険財政のひっ迫等を背景にまとめると、やや大げさに聞こえるかもしれないが、アドヒアランスを制することで、将来、医療システムの安定供給を手に入れられると考えられる。すなわち、医療制度において国民のもっとも重要な財産(価値)を安定供給と見なした場合、アドヒアランスの向上が大きな価値を育むことになる。

田倉 智之(たくら・ともゆき):博士(医学)、修士(工学)東京大学 大学院医学系研究科 医療経済政策学講座 特任教授。1992年に北海道大学大学院工学研究科修了。東京大学医学部の研修を経て、2010年より大阪大学大学院医学系研究科 特任教授。2017年より現職。厚生労働省(中医協)費用対効果評価専門組織 委員長、内閣府 客員主任研究官、大阪大学医学部招聘教授、東邦大学医学部客員教授、日本循環器学会 Circulation Reports Associate Editor、日本心臓リハビリテーション学会 評議員など歴任

 

*Adherence Score for Healthcare Resource Outcome

【文献】

1 Takura T, et al. Development of a predictive model for integrated medical and long-term care resource consumption based on health behaviour: application of healthcare big data of patients with circulatory diseases. BMC medicine. 2021;19(1):15.

2 Cleemput I, et al. A review of the literature on the economics of noncompliance. Room for methodological improvement. Health Policy. 2002;59:65‒94.

3 Robertson CT, et al. Distinguishing moral hazard from access for high-cost healthcare under insurance. Plos One. 2020;15:e0231768.

4 Neiman AB, et al. CDC grand rounds: improving medication adherence for chronic disease management̶innovations and opportunities. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2017;66:1248‒51.

5 Hassanally K. Overgrazing in general practice: the new tragedy of the commons. Br J Gen Pract. 2015;65:81.

6 Porco TC, et al. When does overuse of antibiotics become a tragedy of the commons? Plos One. 2012;7:e46505.

【IT相談室】 歯科医院の効果的なチャットアプリ活用と労働基準法の遵守 その1

近年、SNSやチャットアプリ(以下、SNSなど)がコミュニケーション手段として広く活用されるようになりました。歯科医院においても業務の効率化やスムーズなコミュニケーションの手段として活用するケースが増えています。しかし、SNSなどを活用した業務連絡等については、一斉に連絡ができるなど便利な反面、注意しなければいけない点があります。これらの点について解説し、適切な運用方法について考えてみましょう。

【労働条件とチャットアプリの関係】

労働基準法は、労働者の権利保護と健全な労働環境の確保を目的として制定された法律です。この法律に基づき、就業規則や労働契約などが結ばれ、賃金や労働時間、休憩時間など労働条件が定められます。さて、労働基準法や就業規則、労働契約など(以下、労働基準法等)で定められている就業時間とは、始業時刻から終業時刻までの時間のことであり、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。休憩時間や終業時刻以後の時間は、労働者は使用者の指揮命令下にはありません。このことを念頭に少し考えてみたいと思います。

【就業時間との関係】

就業時間外にSNSなどを使って業務連絡を行う場合には注意が必要です。仕事に関する連絡は簡単な場合であっても〝仕事〞であり、賃金支払いの対象となります。また、就業時間外に送られたSNSなどの連絡を「見なければいけない」「必要に応じて返信をしなければいけない」など、あらかじめ定めておく必要もあります。これらを事前に定めておくことで、業務連絡としての活用が可能となるでしょう。これらの取り決めがない場合は、見るも見ないも受け手任せになり、業務連絡としての役割を果たすことができません。また、緊急連絡としての機能も果たせなくなります。前提として、就業時間外にSNSなどを利用した業務連絡を行う場合には、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)の締結・届出が必要になります。36協定の締結・届出がない場合には、就業時間後や休日にSNSなどを活用した業務連絡は違反行為になりますので注意が必要です。

【自己判断による労働の回避】

SNSなどで業務連絡を行ったところ、スタッフが気を利かせて、就業時間外に自主的に翌日の準備を行った。仕事への意欲については褒めたいところですが、この場合も時間外労働として賃金が発生する可能性があります。明確な指示はなくとも、SNSなどの連絡が〝指示〞と取られれば、時間外労働と解釈されかねません。

【利用の制限】

36協定を締結・届出し、SNSなどの利用について取り決めをしてもそれだけでは不十分です。先輩スタッフが後輩スタッフに、就業時間外にSNSなどを活用して仕事のアドバイスをするなども考えられます。就業時間外にメモのつもりで行ったSNSなどの投稿を見た後輩スタッフが、そのことでやり取りを行うなどした場合には、業務と取られる可能性があります。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞20239月号11面掲載)

※「東京歯科保険医新聞」7月号の「IT相談室」はお休みました。

【IT相談室】 マイナンバーカードの不具合

今年に入ってからマイナンバーカードについてのニュースを聞かない日はありません。今回は一体、何が起きているのかを確認したいと思います。

最近、一番多いケースが、「他人の情報に紐づけられて間違った情報が表示される」もしくは「誤って紐づいた口座にお金が振り込まれる」などの「個人の誤認」です。

そもそもマイナンバーカードは、当初、住民基本台帳と似たような機能を担うことを想定して設計されていました。主に行政サービスを受ける際の本人であることの証明や、個人データへの参照の鍵とすることが目的でした。

個人に関する情報は、国、都道府県、区市町村などがそれぞれ個別に管理しています。これをマイナンバーカードを鍵として、ばらばらに管理された情報を統合するのではなく、それぞれを「連携」させることで参照できる仕組みとすることが狙いです。

今では銀行口座、健康保険証、今後は運転免許証とも連携します。

この「連携」は国、都道府県、区市町村など別々のデータベースに接続していくので非常に煩雑で「間違い」「誤解」「うっかり」などの人的なミスが多く起こり得ます。このため、連携システム構築作業の中に「徹底したテストと改善」を実施する必要があります。今の問題は、それができていないために起きているのであり、設計段階の問題とも言えます。そしてここまで大規模な情報連携の経験を誰も持っていないことも根本的な問題です。

元々、マイナンバーの設計を行った時点で、ここまで広範囲に連携を行うことが計画されていたなら、もっと準備も上手にできたことでしょう。締切だけ決まっていて計画もなく、とりあえずスタートさせるという流れに、どの自治体の担当者も追い立てられているのではないでしょうか。さまざまな情報との連携を包括的に考え計画を立てなければ、今後もこのような問題の発生は必ず続きます。まさにⅠT系の「あるある」です。

さて、ここからは実際に歯科医院内で似たようなトラブルが起きた場合のお話です。

トラブルが起きた時には、院内の操作や機械に問題があったのか、それともデータベースの情報連携に問題があるのか、現場スタッフは瞬時に判断ができないので一時的な混乱が予想されます。

「他人の情報が表示される。本人の情報が参照できない」という場合はデータベースの情報連携に問題がある場合が多いです。さまざまなトラブルを想定して、現場スタッフは焦らず騒がず対処できるように、日頃から院内でのコミュニケーションを取っておくとよいでしょう。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞20238月号4面掲載)

※「東京歯科保険医新聞」7月号「IT相談室」はお休みしました。

【教えて!会長!! Vol.74】 半世紀を迎えて

協会設立から50周年とのこと。

東京歯科保険医協会は、国民皆保険制度を守るとともに、保険診療の充実を図るため、歯科保険医の要望に応えるべくして50年前にスタートし、50周年を迎えました。過去から現在までのすべての会員の先生方、事務局員、そして協会にご協力、ご支援を賜った方々に対し、協会を代表して心から御礼申し上げます。直前に迫っておりますが、2023年9月10日(日)に都市センターホテル(千代田区平河町)で東京歯科保険医協会設立50周年記念として、記念シンポジウムならびに記念レセプションを開催します。「これからの歯科を考える」と題しての記念シンポジウムに引き続き、記念レセプションでは参加されたすべての方に記念品のプレゼント、また豪華景品が当たる抽選会、ミニデンタルショーなどを企画しました。詳細は、このホームページにも記載しています。スタッフやご家族の方も無料で参加できます。協会が設立以来半世紀を迎えることができたことを多くの方をお迎えし、ともに喜びを分かち合いたいと思います。奮ってご参加のほど、よろしくお願い申し上げます。

協会の経緯と現状を教えてください。

今から50年前、第1回の総会は1973年4月22日に開かれ、当時の会員数は180名と記録されています。そして、10年前となる40周年に作成した記念誌「『現在過去未来へ』2」に、当時の松島良次会長が挨拶文で「あと数十名で歯科会員5,000名となる予定」と記されています。すなわち、40年間で約28倍の会員数となり、東京都の多くの歯科医師の先生方にとって協会が必要とされてきたことが分かります。

本年6月18日に第1回から数えて51回目の第51回定期総会が開催され、その直前に会員数は6,000名を超え、現在の会員数は、6,024名(2023年8月25日現在)と直近10年間で1,000名以上の先生がご入会されました。この会員増は、さまざまな要因がありますが、その一つには既会員の先生からのご紹介によるものも少なくありません。新たな会員をご紹介いただいた会員の先生に対して、この場をお借りして感謝申し上げます。

現在の協会は、日々の保険診療についての会員の疑問に答えるとともに、開業医の医院経営のサポート・共済保険・税務・学術・スタッフ教育・平和運動まで幅広い活動を行っています。保険請求のサポートのため「電子書籍デンタルブック」を無料提供し、さらに行政などが発する情報を速やかに共有するため、デンタルブックニュースとしてメールで随時会員に配信しています。

一方、厚生労働省や東京都に対しては一人の歯科医師が個人で意見を届けることは容易ではありません。そこで、特に保険制度や歯科医業にかかわる要望を中心に協会は、多くの歯科医師で構成されている一団体としてさまざまなアプローチを行っています。それらのアプローチをするためには、バックアップするツールが必要です。例えば、会員アンケートの結果、あるいは先生方に署名していただいた紙署名用紙の束を持って、国会議員や行政に会員の声を要望として届けています。今後もご協力よろしくお願い申し上げます。

また、歯科界のあらゆる情報をチョイスして、できるだけ迅速に会員へデンタルブックニュースとしてメール配信、あるいはFAX、協会ホームページなどを通じて発信しています。その際、行政などから発出される少し難解な文章を平易に解説し、さらにその文章の裏、そしてその先を読んだ上で、情報を会員と共有することに努めています。来年は改定年度で「トリプル改定」が行われますので、先生方にとって情報を知ることが特に重要と言えます。

我々は、2020年前半から長期に渡って新型コロナ感染症による影響を受けてきていす。そして、本年になってオンライン資格確認の原則義務化、マイナ保険証への対応、電子処方箋の導入、続けてオンライン請求の義務化、そして電子カルテの導入など、さらに順番にさまざまな項目が強制されることが予定されています。すなわち、歯科保険医の環境は現在から将来に向かって、対応が困難となる可能性がある案件が控えています。協会は会員のため、これらの案件への対策、対応を行う所存です。

未だ会員になられていない先生がいらっしゃいましたら、ぜひ入会をご検討ください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これからも東京歯科保険医協会は、歯科医師が保険で安心してきちんとした診療が日々できるよう、そして患者・国民から信頼される歯科診療を提供するためのサポートを行なっていきます。重ねて半世紀と長きに渡って協会を大きく成長させてくださった先輩方や会員の先生方に心より感謝申し上げます。今後も協会のさらなる発展のためご協力をよろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年9月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.73】 「電子カルテ」とは その3

さらに「電子カルテ」について教えてください。

電子カルテについて、これまで639号から2回にわたって取り上げてきました。電子カルテには先月号で解説した「電子保存の三原則」である「真正性」「見読性」「保存性」を備える必要があります。また、「電子保存の三原則」とともに「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」にも対応していなければなりません。電子カルテに詳しい識者の方にお聞きしたところ、歯科において「電子保存の三原則」ならびに「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠し、適切に許容できる市販システムは、現時点では数少ないとのことでした。

「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」とは?

厚生労働省が策定した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」とは、個人情報の中でも厳重な保護が必要とされる患者の電子カルテなどの医療情報を適切に管理するために国が定めたガイドラインです。本ガイドラインは、2005年に第1版が公表され、患者の個人情報を守るため、個人情報保護法、e文章法、医療法、医師法などを根拠として作成されています。なお、改正個人情報保護法の施行など、法律の改正に合わせて版を重ね、直近のガイドラインは、本年5月に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」として公表されています。本改定は、本年4月から保険医療機関・薬局でオンライン資格確認の導入が原則義務化されたタイミングでネットワーク関連のセキュリティ対策がより多くの医療機関などに求められるため、実施されました。すなわち、保険医療機関としてガイドラインの理解が求められています。ガイドラインの詳細は、下記QRを読み込みご覧ください。

電子カルテに変更を余儀なくされるのはいつ頃ですか?

2030年に普及率90%という数字が示されていますが、未だ不明ですし、歯科では難しいのではないかと思います。歯科医療機関の経済的な問題以外に、理由の一つとして医科に比較してレセプト作成と連動させる必要性がある歯科にとって、標準化した規格を作成することのハードルが高いのではと考えます。したがって、電子カルテは現時点ですぐに対応しなければならない訳ではありませんが、オンライン資格確認の導入から始まった国が考える医療DXの先にある「電子カルテ」について、本会は情報収集、知識向上を今後も図っていきます。「電子カルテ」が現在使用しているレセコンに代わって原則義務化となり、強制的に導入しなければならなくなった時、国に正しい意見、要望ができるよう、さらに会員に明確に説明できるよう今後も準備を進めます。会員の先生方におかれましては、質問あるいはご意見があれば本会までお寄せください。

東京歯科保険医協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年8月号8面掲載)

【教えて!会長!! Vol.72】 「電子カルテ」とは その2

 今、なぜ、電子カルテを取り上げるのですか。

前号の電子カルテの普及率には、驚きました。前回の続きで電子カルテについて解説します。今年4月の中医協総会で「医療DX」として全国の医療機関・薬局において、電子カルテ情報の一部の共有、閲覧を可能とする電子カルテ情報交換サービス(仮称)の構築に取り組み、医療機関における標準規格に対応した電子カルテの導入を推進することが示されました。「診療報酬改定DX対応方針取組スケジュール(案)」では、病院、診療所、薬局などが対象であることが示されており、診療所の対象には歯科の表記があり、歯科医療機関にも電子カルテの導入が予定されています。

医療機関に光回線によるオンライン環境を構築させるためのオンライン資格確認システム、マイナ保険証、そして環境構築後にオンライン請求、電子処方箋と、次々に強権的な義務化が予定されています。これらの先に、電子カルテ導入が予定されています。

前号の電子カルテの普及率には、驚きました。

厚労省の医療施設調査の結果を示しました(下記参照)。直近の2020 年(令和2年)の調査(聞き取り調査)では、歯科診療所の電子カルテの普及率は48.7%と示されています。先日、協会会員の新規開業医相談会において、事前アンケートでの「カルテの作成方法は?」との問いに対し、電子カルテを導入していると回答された先生を担当させていただきました。お話しを聞いたところ、電子カルテではなく、レセコンから紙に印刷されていました。なお、その時の相談者全体で事前に電子カルテを導入していると回答された会員は6月13日時点で46%でしたが、すべての会員が電子カルテでなく、レセコンでの対応でした。したがって、多くの方がレセコンと電子カルテを間違えて認識されていることがわかります。恣意的ではないにせよ、行政側が現実とまったく違う数字を利用して電子カルテ導入を推し進めることができないようにすることが必要です。したがって、電子カルテとレセコンを間違えないよう、ご確認をよろしくお願い申し上げます。なお、協会は近々、厚労省に対して、正確な調査を行うように要請する予定です。

「電子保存の三原則」とは。

従前、紙媒体による管理が義務付けられていた診療録などが、1999年(平成11年)4月の厚生省通知「診療録等の電子媒体の保存について」によって規制緩和され、いわゆる「電子保存」が認められました。この通知では、医療情報システムの安全管理に加えて、診療に供する情報を扱うため、医療固有の要求事項が示されています。これが「電子保存の三原則」と呼ばれ、「真正性」「見読性」「保存性」の3つの要件で構成されています。

「真正性」とは、第三者からみて作成者の責任の所在が明確であり、かつ、書き換え、消去・混同、改ざんを防止していることです。また、記名・押印が必要な文書については、電子署名、タイムスタンプを付すことが必要です。

「見読性」とは、診療に用いるのに支障がないことと、監査などに差し支えないようにすることで、必要に応じて肉眼で見読可能な状態にできること、直ちに書面に表示できることです。

「保存性」とは、記録された情報が法令に定める保存期間内、復元可能な状態で真正性を保ち、見読できる状態で保存されることです。

将来、電子カルテの導入を強いられた時のため、電子カルテを十分に理解した上で、正しいカルテの記載や算定要件に沿った請求を知識として持つ必要があります。そして協会は、導入費用やランニングコストなどの歯科医業に関係するさまざまな問題に対して、現場の意見を行政側に訴えていきます。

 

東京歯科保険医協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年7月号8面掲載)

 

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.12】 「口唇口蓋裂議員連盟」が会合/槇昭和大歯科病院長が講演/歯科から島村議員が参加

▼設立は6月20日

自民党・公明党の与党による「口唇口蓋裂議員連盟」の設立総会が620日に行われ、初会合を開催した。役員として、会長には衆議院の橋本岳議員(自民党)、事務局長に細野豪志議員(自民党)、事務局次長に吉田宣弘議員(公明党)、幹事に山本博司議員(公明党)、顧問には野田聖子議員(自民党)が、それぞれ選任された。

▼7月27日に第2回会合

続いて同議連は727日、参議院議員会館内の会議室で第2回会合を開催した。今回は、昭和大学歯科病院長で同大特任教授も務める槇宏太郎氏が講師に招かれ“口唇口蓋裂”について講演を行った。

会合は、吉田事務局次長の司会で進められ、特に口唇口蓋裂の課題として、前回、指摘された内容を集約した。「現在18歳未満は育成医療、18歳以上は更生医療に分類されている。その一方で、顎修正手術並びに手術後の歯科矯正治療は身体の成長がほぼ完了する18歳以降が望ましいとされているが、現在の更生医療制度下での身体障害者手帳の取得が取りづらい」などと指摘。患者側からも「育成医療の年齢期限延長」などを求める声があることを紹介。こうした社会的な課題に対し、臨床的な発症(生誕)からその後の成長過程に伴う口唇口蓋裂症状への対応について説明を行った。

▼昭和大歯学部病の槇院長の講演内容

一方、槇病院長は、口唇口蓋裂学会理事長を歴任した経験から、改めて口唇口蓋裂の形成外科・口腔外科から矯正歯科診療を臨床的な視点から説明。まず「外科的診療のその技術も発展してきている。日本のレベルはトップクラスであると思われる。矯正歯科も上顎と下顎の成長速度が違うので、下顎が前に出てしまうのです。その問題への対応が重要ですが、そのレベルも良くなっています」としつつ、「障害者総合支援法、自律支援医療(更生医療・育成医療)」についても併せて説明。特に、障害者総合支援法の対象として区市町村が実施主体になる“自立支援医療”にも言及し、「対象は18歳未満で、音声、言語、咀嚼機能障害のある児童であること」などを紹介した。

講演後に行われた質疑応答では役員(議員)の橋本会長から「育成医療・更生医療の適用には規定があるが、口唇口蓋者の治療が終える術後の年齢が2326歳となるとその差のギャップをどう理解するのか」との質問があり、続いて、自民党参議院の島村大議員が「治療期間のことを考えると、ある程度の期間が必要。具体的には夏休みなどになるが、生徒には大事な教育もあるため、その点への配慮が必要」と指摘した。

そのほかの参加議員からは、「育成医療・更生医療の適用年齢の延期への課題は何か」「日本口蓋裂学会の認定制度が2019年度からスタートしているが認定医は全体のどの程度を占めているのか」などの質問があった。

▼友の会会員からは本音を交えた報告が

さらに、口唇・口蓋裂友の会会員からは、「診療できる病院も限定されているのが現実。都市部と地方では違いがあります。手術後の診療の対応がバラバラです」「まだ、社会に知られていないのも事実。紹介された診療所で『本院では診られない』と、断られることもありました」など、現状からの意見を交えた報告が行われ、その改善項目を役員に訴えた。

▼育成医療と更生医療の課題検討を再確認

なお、今回の会合では、特に行政・法律面からの指摘がクローズアップされたが、育成医療(18歳まで)と更生医療(18歳以上)への理解・課題などが、さらに議論を詰める必要があると各議員から再確認され、衆院法制局からも、「今後のこの年齢規定の件、厚労省と議論すべく申し入れしています」と報告された。内閣提出法案と議員立法の相違と適否などについて、専門の立場からの説明も行われた。

歯科医療界ではあまり話題にならない「口唇口蓋裂」ですが、議連の活躍に期待します。 ただ、私の立場からは、患者関係者には、さらに歯科への理解を願うばかりです。

 

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.11】 3年半ぶりの対面形式メディア懇談会の意義/痛感した意見交換・雑談の「忘れてはいけない価値」

◆通算96回目のメディア懇談会

7月14日、東京歯科保険医協会が2023年度第2回メディア懇談会(メディア懇)を開催しました。083 18日の初開催以来、通算96回目とのことでした。今回は参加に当たり、会場における対面形式とオンライン形式(Zoom)の選択を可能としました。コロナ禍による203月のオンライン開催以後、実に3年半ぶりとなる会場対面形式によるメディア懇に出席しました。早坂美都副会長の司会、坪田有史会長の報告・解説で進められました。

この日の議題は、①マイナ保険証・オン資トラブル関連( 今後の協会の動向)、国会要請、署名、メディア懇直近の会員からの問い合わせ、②オンライン請求義務化撤回関連(社保・学術部長談話)、③東京都2024年度予算要請関連、④第51回定期総会の開催後報告関連、⑤50周年記念企画―などでした。内容は、協会広報・ホームページ部のまとめ記事に譲ります。

〝対面(会場)〞で参加しますと、毎回熱心な一般紙マスコミの記者諸氏、そして今回、新たな新聞社の記者参加もあり、リアルで新鮮な印象がありました。常連諸氏とは早速、挨拶・雑談を交わしました。そこで、改めて〝対面形式の意義〞を考察してみました。

◆改めて問う対面式の意義

主催者(司会)側からの報告と説明が終わると、質疑応答を開始。マスコミ側から「問題の評価」「事実の確認」「今後の活動」などが質され、主催者側が丁寧に回答。貴会の見解を確認しました。

◆一般紙と専門紙の相違

ここで、懸念される一般マスコミと業界マスコミの違いが確認できましたので指摘しておきます。マイナ保険証・オン資トラブル関連は、本質的には医療機関の共通問題です。ただし「歯科と医科の経済的・診療形態などの背景に相違があることを一般マスコミはもっと理解してほしい」と痛感しました。また、マスコミからの質問に、回答する側の表情・表現・言葉、ニュアンスから、見えない「情報」も得られました。これが「対面形式の意義」の一つです。

また、メディア懇開始前と終了後の雑談からも〝新たな情報〞を得ることができました。本音として、これがマスコミ関係者には非常に重要になります。質問に対する回答によっては、憶測・推測が働き、次の質問や問題意識に影響を与える場合もあります。

◆オンライン形式の効果

諸事情で会場参加できない・しない場合には、確かにオンライン形式の意義があります。まさに進化した文化の恩恵です。同時にネットから配布資料を得られるよう配慮されていますので対面形式と同様になり、経費・時間などの点からは、その効果は明確です。

さて、618日に開催された貴会総会の中で、記念講演会を行った社会保険診療報酬支払基金理事の山本光昭氏が興味深い報告をしていました。行政へのアプローチ方法として、①業務関係の手続きからアプローチ、②法人幹部の出身高校や大学の同窓のルートを通じる、③様々な講演会、セミナーなどで、これはと思える行政官の講師がいた場合、すばやく名刺交換―と強調していました。特に大事なのは、③で指摘している〝名刺交換〞です。これは、対面形式のメディア懇談会(記者会見とは様相が違います)でも指摘できます。

◆枠を超える〝縁〞とは

今回のメディア懇では、新たに参加したマスコミ記者諸氏と名刺交換。挨拶を含め意見交換しました。もちろん社交辞令で終わることもありますが、それは承知の上です。今回、来場しなかったマスコミ関係者は新規記者と〝縁〞ができませんでした。やはり、関係当事者と直接、意見交換・雑談することで人間関係ができ、時には、想定外に意味がある話を聞くこともできたりします。そして、年齢、性別、派閥、組織、職階、さらには国境などの枠を超えたタテとヨコのつながり、点と線のつながりが面に拡がり、ネットワーク化し、広い人脈形成へと発展して行くことが多々あります。

現在行われているFacebookLINE、各種SNSなどによる連絡、情報提供、意見交換、これはまさに世界の潮流です。一方で「効率第一」「無駄の排除」を最優先とする価値観が社会を占めています。だからこそ、人と人との意見交換・雑談の意味が、「忘れてはいけない価値」だと痛感したのが、今回のメディア懇談会でした。

 

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.10】 口蓋裂診療の「チーム医療」から学ぶ/主体は形成外科医・口腔外科医・矯正歯科医・言語聴覚士など

歯科にある学会の中で特異な学会であるのが一般社団法人日本口蓋裂学会である。その総会・学術集会が52526日の両日、東京・千代田区の一橋講堂(総合学術センター)で開催された。一般臨床家からは、関心の低い臨床分野であるが、疾患は500人当たり1人(0.2%)が罹患する先天性疾患である。そうした疾患を対象に研究する学会であり、三十余名の会員数から構成されている。臨床では、医師、歯科医師、言語聴覚士、心理職など多職種が担い、歯科の分野では、主に口腔外科、矯正歯科、小児歯科、歯科衛生士、歯科技工士が担っている。

また、患者(患児)本人とその家族が集うグループが全国各地にあり、例えば「口友会」(東京)、「たんぽぽ会」(愛知)、「笑みたち会」(大阪)などが地味ながら活動しており、そこでの参加者間の交流が貴重な時間になっており、ここが大きな特徴だ。「同じ立場の人とは話がしやすいし、気が紛れましたので、精神的には落ち着きましたね」(東京・Y氏)、「生を授かった後、不愉快な経験をされた人もいるかも知れません。しかし、当時の関係者に歯科医師等がいらっしゃり、本当にお世話になりました」(大阪府・K氏)は、振り返りながらコメントしていた。基本的には、「臨床・予後を通して歯科医師ほか関係者に感謝」というものであった。

▶口唇口蓋裂診療は〝チーム医療〞が要諦

こうした背景がある学会から、見えて来る姿もあった。今回、講演・示説の演題(70題)から私が確認したのだが、演題を多く発表した順で見ると、阪大11、東医歯大8、昭和大8、東北大7、愛知学院大7、九大5、大阪母子医療センター5であった。当然であるが、研究・臨床の主となる大学は、歴史、地域性、同系病院の存在などの条件もあり、今回の学術大会の演題における研究症例報告数だけで評価は論じられないが、患者視点からすれば、全国のどの地域でも気兼ねなく相談・受診できることが望ましい。その点については、現在はネット社会であり随分改善されてきている。臨床対応で実績・評価を得ているのは、昭和大、愛知学院大、大阪母子医療センターなどである。口唇口蓋裂診療はチーム医療が要諦とされているが、前記の専門職のチーム医療で対応をしている。某教授は「口蓋裂症の診療は、ある意味でチーム医療をしていくのが大前提で、さらに、患児の家族との理解・相互信頼がないと診療ができません」と述べている。

▶何気ない当たり前のことが重要

当日の学会では、「言語聴覚士の集い」が企画された。座長の井上直子氏(言語聴覚士/大阪母子医療センター)と佐藤亜希子氏(帝京平成大学講師)から、その意図が説明され、「乳幼児から成人期までの言語管理が環境整備、言語評価・訓練などステージに応じた役割があります。臨床は医療施設だけでなく、福祉・教育施設などさまざまであり、多岐にわたっています」。そこで言語管理を指摘されると、私自身がそうでしたから、2019年の新潟大会で、赤神周子氏(言語聴覚士/鳥取大学医学部歯科口腔外科)が、口蓋裂児の鼻咽腔閉鎖機能の課題に言及したことを思い出す。「口腔機能の増加は、当然ながら食事・会話を支え、社会生活を支える基本です。乳幼児からこの問題に関係する〝発音・構音〞は重要です。まさに、形成外科医・口腔外科医・矯正歯科医・言語聴覚士などの〝チーム医療〞が大切です。出生前診断、手術、構音構築、患児の精神成長など個々のステージでの対応・連携がシームレスに実施されることが重要」と強調していた。さらに、コロナ禍での生活から学んだことと共通するのが、何気ない当たり前のことがいかに重要なのかという点であり、これを再認識してほしいです。

補足となるが、保険適用となる歯科分野の先天性疾患としては、顎変形症、唇顎口蓋裂、6歯以上の先天性部分(性)無歯症、口腔・顔面・指趾症候群、その他顎・口腔の先天異常(顎・口腔の奇形、変形を伴う先天性疾患であり、当該疾患に起因する咬合異常について、歯科矯正の必要性が認められる場合)などがある。

▶関連議員連盟が発足

世間、巷間では〝見た目が一番〞という言葉が躍る時もあり、複雑な気持ちになるのも口唇口蓋裂患児(患者)の本音で悩みは尽きない。

こうした中で、与党の国会議員有志が620日、「口唇口蓋裂議員連盟」を設立したニュースが舞い込んできた。今後の活動は詳細には不明だが、患者の視点に立った活動に期待したい。

なお、会長には橋本岳衆院議員(自民)、事務局長には細野豪志衆院議員(自民)が就いたという。

 

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

【Health Care】 No.2 医療価値評価は必要か、論じるのは難しいのか

医療経済学の専門家で東京大学大学院特任教授の田倉智之氏による連載の2回目。今回のテーマは「医療価値評価は必要か、論じるのは難しいのか」。

 やや僭越であるものの、読者である医療関係者の多くは、「医療価値」について深く考える機会は、さほど多くないと拝察する。一方で、医療システムの課題にまつわるニュースを見聞きする時に、その解決策の一つとして、医療価値が語られているのに気が付く場合もあるはずである。つまり、医療制度の綻びや不条理、または医療経営の本質や不満の議論などにおいて、医療価値は述べられることが多い傾向にある。例えば、診療報酬の水準に関わるステークホルダー間の討論は、医療価値に対する相互の認識の差異が背景にあり、それが顕在化したケースとも考えられる。特に最近、高額な医薬品などの薬価収載では、製造販売業者から行政当局者へ不満が述べられる時に、医療価値的なキーワードが挙げられることも増えている。ただし、この医療価値を臨床経済面から具体的かつ科学的に示すことは、一筋縄にはいかず、議論が噛み合わない場合も多い。今後、医療介護の発展や国民福祉の向上のために、さらなる経済投資や資源整備が必要になるが、それを目指すには、ステークホルダー間で合理的な合意形成が重要になると、前回述べた。それに対して重要な役割を果たすと期待されるのが「医療介護の価値評価」である。そこで今回は、この価値評価について、健康や生命を扱う医療介護分野の特性も考慮しつつ、学際的な観点から、その考え方を整理してみる。実体経済(リアルワールド)を標榜した医療価値の議論においては、一般に、費用対効果分析と限界効用理論を応用することで、医療サービスが有する価値の評価が限定的ながらも可能になる。その主な理論を次に概説する。通常、ミクロ経済学では、基礎的な効用理論を背景とした需給均衡に基づいて価格が収斂し、サービス提供の効率が最大化される[]。また、この需要と供給が均衡した価格は、価値を体現するとみなされる。

一方、公益性の高い医療分野においては、効率性も考慮しつつ衡平性(wellbeingなどのバランス)の視点を取り入れ、患者の診療要望(選好、支払意思)と政府の医療財政(所得再配分、財政収支)の調和を念頭に公益的な価値を論じる必要がある。したがって医療の価値は、厚生経済学なども背景に、個人と社会の関係も織りまぜながら、健康プログラム単位あたりの効用(健康成果)と費用(資源消費)の変位のバランスを検討することになる(図1)[ ]。その結果、ある予算範囲内で効用を最大化すると、そのパフォーマンスが高いほど集団全体の効用が大きくなり、利害関係者の「価値」が高まることになる。この医療における価値評価のアプローチは、他の概念的な議論に比べて、実体経済や日常生活(国民コンセンサス)の価値観(例:1QALY*当り600万円前後)との整合性も比較的取れるため、公的部門における医療サービスの価値を検討するのに適していると考えられる[]

 

例えば、患者の医療費が年間約500万円で財政負担が1兆6千億円程度の規模の「末期腎不全患者」に対する透析医療について、その価値を評価した本邦の報告がある(図2)[ ]。その研究の意義を整理すると、救命や健康の社会経済的な価値を定量的に示した(費用対効果:約650万円/QALY)ことが挙げられる。すなわち、年間医療費が高額であり財政負担が大きくても、国民の価値判断の基準から眺めると、診療報酬の水準は適切であると理解される訳である。

田倉 智之(たくら・ともゆき):博士(医学)、修士(工学)東京大学 大学院医学系研究科 医療経済政策学講座 特任教授。1992年に北海道大学大学院工学研究科修了。東京大学医学部の研修を経て、2010年より大阪大学大学院医学系研究科 特任教授。2017年より現職。厚生労働省(中医協)費用対効果評価専門組織 委員長、内閣府 客員主任研究官、大阪大学医学部招聘教授、東邦大学医学部客員教授、日本循環器学会 Circulation Reports Associate Editor、日本心臓リハビリテーション学会 評議員など歴任

*注釈)

QALY:質調整生存年(完全な健康水準で1年間の生存を確保する単位/2019年度より公的医療保険制度に導入された概念で、1QALY当り500万円~750万円が評価基準)

【文献】

1] 田倉智之. 医学書院. 2021.

2 Tomoyuki Takura.IntechOpen. 2022.

3] 田倉智之. 日本看護協会出版. 2023.

4 Tomoyuki Takura, et al. Clinicoecon Outcomes Res. 2019.

【Health Care】 No.1 医療介護システムの発展に不可欠な視点とは

医療経済学の専門家で東京大学大学院特任教授の田倉智之氏の連載を始める。全6回にわたり、医療介護システムの発展、費用対効果評価や、診療価値と病院経営などをテーマとする。第1回は「医療介護システムの発展に不可欠な視点とは」—。

医療介護分野は、誰もができるだけ低い経済負担で、公平に診療やケアを受けられるようにすべきである。そのため、世界の多くの国では、1978年のアルマ・アタ宣言などにならって、多かれ少なかれ医療介護分野を公的制度として整備してきている。一方で、近年注目を集めるユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)の推進には、社会経済的な要因が大きな影響を及ぼすことも明らかとなっている[1]。すなわち、医療介護の環境整備において、臨床と経済の調和が望まれている訳である。また、医療介護分野の進歩に影響をおよぼす各種イノベーションも、社会経済的なメカニズム(バリューチェーン)をとおして、UHCと関係が深いことが示唆されている[2]。以上のように、今後の医療介護システムの発展には、臨床的な議論を中心としつつも、経済的な側面を論じることの重要性が増している。

ではなぜ、近年において医療経済的な要因が顕在化してきたのかを考えると、次のような医療介護分野を取り巻く潮流が挙げられる。一つ目は、言うまでもなく社会保障財源のひっ迫である(図1)。この背景は至極簡単で、医療や介護の需要増加(高齢化の進展)と実体経済の伸び悩み(GDPの停滞)が大きな割合を占める[]。二つ目は、治療技術のイノベーションとその超高額化である。この両者を合わせると、数量増加と単価上昇により、国民医療費等が膨らんでいくことは容易に想像される。一方で、現役世代の人口減少と経済負担の許容水準から、保険財源の収入が追い付いていないようである。結局のところ、受益と負担のバランス低下が根源と考えられる。これらを俯瞰すると、将来の医療介護システムの発展に不可欠な視点は、おのずと明らかになってくる。そのキーワードは、価値評価と健康行動である。

まずは、医療介護システムの価値(存在意義)を、ステークホルダーの間で再認識する必要がある。その価値をUHCの理念も絡めて一言で表すと、「安定供給」となる。享受をしているからこそ認識できる価値(診療)のみならず、失ってみて初めてわかる価値(健康)は、この概念で整理がなされる。このように考えると、医療価値等を評価し関係者で共有することは、国民や患者の負担の議論のみならず未来に向けた医療介護のかじ取り(意思決定)に

おいて、計り知れない意義がある。さらに、価値に見合った行動変容を促える。特に、アドヒアランスの見える化とそのコントロールは、健康寿命や社会経済に大きな恩恵をもたらすと期待される[](図2)。

最近、医療保険制度に導入された効用値をアウトカム指標とする費用対効果評価や、介護保険制度に導入された介護サービスの質の評価と科学的介護の取組の推進は、間接的ながらも、上記のようなコンセプトに連なる施策であると想像される。

文 献

1) Tomoyuki Takura, Hiroko Miura. Socioeconomic Determinants of Universal Health Coverage in the Asian Region. Int. J. Environ. Res. Public Health. 2022; 19(4):2376.

2) ユニバーサルヘルスカバレッジと医療革新. 東京大学22世紀医療センターシンポジウム. 2023. http://sympo-ut-22c.umin.jp/2023/pdf/2023-4.pdf (Access: 2023.03.07)

3) 田倉智之. 医療の価値と価格-選択と決定の時代へ. 東京. 医学書院; pp.0-276. 2021

4) Tomoyuki Takura, Keiko Goto, Asao Honda. Development of a predictive model for integrated

medical and long-term care resource consumption based on health behaviour: application of

healthcare big data of patients with circulatory diseases. BMC medicine. 19(1):15. 2021.

 

 

田倉 智之(たくら・ともゆき):博士(医学)、修士(工学)東京大学 大学院医学系研究科 医療経済政策学講座 特任教授。1992年に北海道大学大学院工学研究科修了。東京大学医学部の研修を経て、2010年より大阪大学大学院医学系研究科 特任教授。2017年より現職。厚生労働省(中医協)費用対効果評価専門組織 委員長、内閣府 客員主任研究官、大阪大学医学部招聘教授、東邦大学医学部客員教授、日本循環器学会 Circulation Reports Associate Editor、日本心臓リハビリテーション学会 評議員など歴任。

 

 

 

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)8月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)8月1日

【新聞8月号】

【1面】

1.要件緩和を要請 CAD/CAM・ニッケルチタンの加算など
2.2024年度診療報酬改定 中医協で議論始まる
3.物価高騰対策支援 各自治体で支援始まる
4.「探針」
5.ニュースビュー

【2面】

6.オン資「義務化」撤回訴訟 争点は法律の委任
7.指導結果通知の遅れが改善 会員の切実な声が実る
8.第52回保団連夏季セミナー
9.2022年歯科疾患実態調査 8020達成率は51.6%で微増

【3面】

10.社会医療診療行為別統計 検査増 初診・再診減
11.第1回学術研究会 認知症を〝口〟から支えるには
12.新規開業医講習会を開催 新規個別指導を中心に解説
13.第1回これから始める歯科訪問診療講習会~保険請求の基本
14.院内感染防止対策講習会を開催
15.お知らせ/8月1日以降書籍購入時送料が変更

【4面】

16.経税Q&A第407・インボイス制度~よくあるご質問をご紹介します!~
17.IT相談室「マイナンバーカードの不具合 何が起きているのか?」
18.第1回東京都歯科医師認知症対応力向上研修
19.8月会員無料相談

【5面】

20.研究会・行事ご案内

【6面】

21.インタビュー/新井麻衣子氏「能楽師にして三児の母」

【7面】

22.東京歯科保険医協会50周年記念企画

【8面】

23.教えて!会長!!vol.73「電子カルテ 3」
24.通信員便りNo.136
25.暑中見舞い名刺広告

【9面】

26.症例研究「歯科診療特別対応加算」

【10面】

27.連載「歯科界への私的回想録⑪」
28.理事会だより「第6・7・8回理事会」
29.7月協会活動日誌
30.会員優待ご案内
31.デンタルブックご案内
32.保団連情報サービスのご案内

【11面】

33.Health Care⑥完田倉智之氏/訪日外国人の診療対応
34.当選おめでとうございます!! 高級ステーキ肉をゲット
35.共済部だより

【12面】

36.神田川界隈(松島良次/目黒区)
37.第2回メディア懇談会 3年半ぶりリアル開催
38.「よい歯」東京連絡会が夏の市民講演会
39.第23回IPPNW世界大会
40.協会設立50周年を迎え 「回顧」

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)7月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)7月1日

【新聞7月号】

【1面】

1.第51回定期総会を開催 坪田有史会長が信任され4期目に
2.マイナ保険証厚労省調査 「メリット実感なし」56%超
3.「探針」
4.ニュースビュー

【2面】

5.第51回定期総会記念講演 社会保険診療報酬支払基金理事 山本光昭氏「保健医療の中での歯科分野への期待」
6.第51回定期総会「決議」
7.「骨太方針」閣議決定
8.今回選出された役員一覧《任期は第53回定期総会まで》
9.第51回定期総会祝電・メッセージ等一覧

【3面】

10.保険証廃止はありえない!国会内集会「命につながる問題」各団体が訴え
11.「保険でよい歯」を東京連絡会が議員要請
12.今年度は6件実施予定 生活保護の指導計画
13.都が歯科医療機関に1万円支給へ 物価高騰対策支援の要請が実る
14.7月金銀パラジウム合金等の随時改定 金パラは引き下げ14Kは引き上げ
15.会員優待ご案内

【4面】

16.経営・税務相談Q&A No.406 年次有給休暇夏季休暇にあてられる?
17.7月会員無料相談

【5面】

18.研究会・行事ご案内
19.「デンタルスタッフのための歯科保険診療ハンドブック2023年版」のご案内

【6面】

20.インタビュー/堤未果「『何のため』議論なくデジタル化進む日本 ショック ・ ドクトリンに見る保険証廃止問題『立ち止まって』」

【7面】

21.オン資トラブル事例アンケート「保険者情報の反映不備」が最多 メディアから相次ぐ反響
22.オンライン請求「義務化」方針の撤回を求める要請署名316筆を国会議員に
23.全国保険医写真展 2氏が入選
24.協会設立50周年を迎え「回顧」
25.書籍のご案内&読者プレゼント「堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法」

【8面】

26.教えて!会長!! Vol.72「電子カルテ」とは その2
27.施設基準のための講習会を開催認知症や多職種連携等の重要性確認
28.歯科技工士・中川直樹さんに総理表彰 国際アビリンピック金メダリスト
29.接遇講習会に58人が参加 「接遇の5原則」を伝授
30.休業保障制度/開業医・勤務医の先生へ
31.共済部だより

【9面】

32.症例研究「咬合調整と口腔内装置の再製作」

【10面】

33.連載/歯科界への私的回想録⑩(オクネット・奥村勝氏)「口蓋裂診療の〝チーム医療〟から学ぶ…」
34.第3回保団連代議員会 保険証廃止問題で今後の対応討議
35.理事会だより「2023年度第第4・5 回(暫定)理事会」
36.6月協会活動日誌

【11面】

37.Health Care④(田倉智之/東京大学大学院 特任教授)/新興感染症の…
38.不安払拭が大前提 マイナトラブル今秋まで総点検も
39.通信員便り № 135
40.お知らせ 【8月1日以降】書籍購入時の送料が変更となります

【12面】

41.ご協力ありがとうございました<国会議員に署名提出>【要請】健康保険証廃止・・・
42.神田川界隈/歯科技工士がいなくなる前に(森元主税理事/北区)
43.「思い切って患者さんに説明を」署名取り組んだ会員の想い
44.夏季休診ポスターのご案内
45.50周年記念企画

【インタビュー】堤未果(ジャーナリスト)「何のため」議論なくデジタル化進む日本/ショック ・ ドクトリンに見る保険証廃止問題 「立ち止まって」

▶堤未果さん(ジャーナリスト)のインタビュー全文を読む

▼書籍プレゼントのご案内(会員限定)/「堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法」

 

 

 

 

過去のインタビューはこちらから

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)6月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)6月1日

【新聞6月号】

【1面】

1.マイナ保険証にトラブル続出/健康保険証廃止は撤回を!
2.地域医療に悪影響「閉院に追い込まれる医院も」
3.東京歯科保険医協会2023年度第51回定期総会のご案内/記念講演案内
4.「探針」
5.ニュースビュー

【2面】

6.社保・学術部長談話「〜現場の声を反映し、医療機関側に裁量権を与えよ〜」
7.オンライン請求「義務化」方針の撤回を求める署名にご協力を―現場の声を…
8.改定時期は今夏までに決定/診療報酬改定DX対応方針を提示
9.7月歯科用貴金属価格改定/金パラは引き下げ
10.治療薬治療薬「シダキュア」歯科医療機関が注意喚起
11.保団連情報サービスのご案内

【3面】

12.2023年度指導計画/新規個別指導の予定件数 前年比133件増加
13.教えて!会長!!Vol.71「電子カルテ」とはその1
14.会員寄稿 「声」/かかりつけ歯科医」の色~子ども編~(長尾広美氏)
15.50周年記念企画/これからの歯科を考える…

【4面】

16.経営・税務Q&A第405回「テナントオーナーから家賃の値上げの通知が来た」
17.6月会員無料相談
18.書籍紹介「デンタルスタッフのための歯科保険診療ハンドブック2023年版」

【5面】

19.研究会・行事ご案内

【6面】

20.インタビュー/荻原博子氏「健康保険証廃止、情報の中央集権化/今のやり方は危険」

【7面】

21.第三次オン資「義務化」撤回訴訟/原告団へのご参加を
22.オン資「義務化」撤回訴訟/第二次訴訟で原告団結成集会
23.マイナ保険証・オン資システム/トラブル報道相次ぐ 阿部理事にテレビ取材も
24.心底考えたのは「患者さんの不自由な思いを防ぎたい」/署名525筆を持参
25.協会設立50周年を迎え「回顧」

【8面】

26.Health Care③(田倉智之/東京大学大学院 特任教授)/アドヒアランスを制する…
27.共済部だより/グループ生命保険・保険医休業保障共済保険・保険医年金
28.第2休保2023年度募集キャンペーンのご案内
29.書評:日本歯科評論/別冊「CAD/CAM冠 CAD/CAMインレー」

【9面】

30.症例研究「糖尿病患者の歯清と総医、混合歯列期のP重防」

【10面】

31.連載/歯科界への私的回想録⑨(オクネット・奥村勝氏)「協会の歴史と存在性」
32.世田谷地区は警戒を厳に/歯科診療所狙う窃盗事件多発~身の安全を最優先に
33.理事会だより「2023年度第1・2回(暫定)理事会」
34.5月協会活動日誌

【11面】

35.全国から集めた署名 67万余を国会に提出
36.オンライン請求〝義務化〟をすれば歯科は大変なことに
37.署名へのご協力ありがとうございました
38.IT相談室「初心者向けIT用語を解説」/クレセル・永田氏
39.会員優待ご案内
40.デンタルブックご案内

【12面】

41.2023年度第1回メディア懇談会/健康保険証廃止の問題点を指摘
42.通信員便りNo.134
43.8月1日から書籍購入時の送料が変更となります
44.お詫びと訂正
45.神田川界隈/過渡期(川戸二三江副会長/渋谷区)

【13・14面】

46.共済部折込(第2休業保障制度)

【IT相談室】初心者向けIT用語を解説

WEBに係る歯科関連の法令やトラブル対応などについて、
歯科専門にサイト制作、運用、コンサルディングを手掛ける専門家が解説する本連載。
今回のテーマは、診療所のPCでUSBメモリを使用すると危険なの?
―。

「IT相談室」過去の連載はこちらから

 ここ最近の本連載では、レセコンやオンライン資格確認システムの管理、運用上のポイントや、サイバー攻撃に関する内容を執筆してきました。一方で、会員の先生方から「クラウド、サーバー、何のことやら理解できず…」「初心者もわかるような解説がほしい!」「用語が難しくて大変」というご意見をいただいています。
そこで今回は、インターネットやWEBに関連した基本的な用語を解説してみたいと思います。たくさんの用語があるので、この連載だけでは書ききれませんが、ネット関係の業者との打ち合わせや、自院のネット環境を整える時のためなど…何かのきっかけになればと思います。それではどうぞ。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2023年6月号11面掲載)

【IT相談室】診療所のPCでUSBメモリを使用すると危険なの?

WEBに係る歯科関連の法令やトラブル対応などについて、
歯科専門にサイト制作、運用、コンサルディングを手掛ける専門家が解説する本連載。
今回のテーマは、診療所のPCでUSBメモリを使用すると危険なの?
―。

「IT相談室」過去の連載はこちらから

 診療室のレセコンに限らず、個人で使用しているパソコンからUSBを介して他のパソコンとファイルを共有する場合には、ウイルス感染のリスクが常に存在します。特に、「入れた記憶の無いどこかで見たことのあるアイコン」が入っていた場合には、ウイルス感染が懸念され、USBを媒介とした感染である可能性があります。
 このようなUSBの使用による感染を回避するためには、以下の注意点を守ることが重要です。
まず、ウイルス感染のリスクを軽減するために、USBを使用する前には必ずウイルススキャンを実行し、USBそのものがウイルスに感染していない安全な状態であることを確認する必要があります。また、ファイルを共有する際には、共有先のパソコンがウイルス対策ソフトウェアで保護されていることが大切です。万が一、USBが感染している場合でも、ウイルス対策ソフトウェアがパソコンを感染から守ってくれます。
 ウイルスに感染してしまうと、センシティブな医療情報が含まれるレセコンのデータが漏洩するリスクがあります。漏洩した情報が悪用された場合、患者や社会からの信頼を失いかねません。そのため、パソコン間でファイルを共有する場合には、細心の注意を払うことが必要です。マルウェアと言われる悪意を持ったウイルスに感染した場合、情報漏洩のほか、医療情報を含むデータが改ざんされたり、削除されたりする可能性があります。このようなことになると、患者の医療に影響が出るだけでなく、法的な問題にも発展する可能性があります。
 最後に、共有するファイルが機密情報である場合には、暗号化することでセキュリティを強化することができます。暗号化することで、不正アクセスや盗聴などからファイルを保護することもできます。
 以上の注意点を守ることで、USBを介してファイルを共有する際のウイルス感染やセキュリティリスクを軽減できます。しかし、完全にリスクを排除することは困難であるため、機密情報の入ったPCにはUSBをはじめ外部からのアクセスを一切排除する業務の流れが最高の対策です。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2023年5月号11面掲載)

【IT相談室】レセコンをクラウドで管理する場合のメリットとデメリット

WEBに係る歯科関連の法令やトラブル対応などについて、
歯科専門にサイト制作、運用、コンサルディングを手掛ける専門家が解説する本連載。
今回はレセコンをクラウドで管理する場合のメリットとデメリット
について―。

「IT相談室」過去の連載はこちらから

 歯科診療所の心臓部ともいえるレセコンの運用、データをどのように管理するのかは永遠の課題かもしれませんが、近頃はクラウド形式で運用管理される人が増えてきました。そこで今回は、クラウド管理のメリット、デメリットを考えてみます。
 まず、メリットですが、院内のサーバー等がなくなることで設備が簡略化されるため、コストダウンに繋がる可能性があります。クラウド専用のセキュリティが考慮された回線が必要になる場合もありますが、それを差し引いてもコストは下がります。すべてクラウド上で常に最新の状態になっていますので、レセコンメーカーの方が来訪しての作業、電話やメールなどを利用したアップデートなどは必要なくなり、煩わしい作業や時間等の拘束からも解放されることでしょう。
 そして、これまで院内で物理的に保管されていたデータが常にさらされてきた火災、水害、事故などの脅威、盗難などによる紛失という危険性。これらはクラウド化によって払拭されるため、心理的にも大きなメリットではないでしょうか。
 デメリットは、データはクラウドでもそこに接続する回線が通じていなければアクセスできないということです。接続が不安定なケースや、回線の障害が発生した時には、その段階からレセコンには一切アクセスできなくなります。忙しい時間帯に回線の不調でアクセスできなくなった時、レセコン業者と回線業者に対して別々に連絡をするなどの対応を誰がどのように行うか、予め決めておいたほうが良いでしょう。また、クラウドは外部にあるコンピュータですので、操作に若干の遅さを感じることがあります。このちょっとした遅れをものすごく大きなストレス、業務時間のロスと考える方もいらっしゃると思います。導入前に、必ず一度はデモンストレーションを実施すべきです。
 そして何よりも、クラウドという〝保管庫〟に障害が発生して「データがなくなる、漏えいする」というリスクも考えなければなりません。IT業界では有名なエピソードですが、2012年に、あるレンタルサーバー企業がアップデート作業時に誤って顧客データをすべて削除するという事故がありました。データは復旧することができず、顧客は大きな損害を被りました。しかし、月々の使用料が返還されただけで、それ以上の補償がないという状況で、顧客にとって大きなダメージが残る事故となりました。 
 レセコンをクラウドで管理する際には、既に導入している診療所が、万が一の時の備えをどのようにしているのかを、必ず確認してみてください。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2023年4月号4面掲載)