映画紹介

映画紹介№34「手紙は覚えている/ Remember」 【2015年カナダ・ドイツ製作/アトム・エゴヤン監督】

映画紹介№34「手紙は覚えている/ Remember」 【2015年カナダ・ドイツ製作/アトム・エゴヤン監督】

「覚えているか?君が決行すると言ったことを」
「君が覚えていられるように、ここに書き出しておいた」
 認知症の高齢者が物忘れを補うために、物の名前などメモしておくことは日常、よく行われます。
 この映画は、誰かが「あなたはこの名前でこんな生い立ちだ」と誘導すれば、認知症の高齢者などはその人物になりきってしまうという乱暴な仮説をもとに展開するサスペンス作品です。
 主人公セヴは老人ホームに入居する90歳の高齢者。急に認知症が進行し、目を覚ますと眠る前のできごとをすっかり忘れ、ただオロオロしている老人です。
 同じ入居者の老人マックスから一通の手紙を受け取ります。手紙には、君も私もナチス親衛隊員に家族を殺されたアウシュビッツの収容所の生存者だ。敗戦間近に親衛隊員の収容所ブロックの責任者がユダヤ人になりすまし、戦後、アメリカへ移住し、ルディー・コランダーという名に変えて生きている。今、その名に該当する男は四人いるが、本名はオットー・ヴァリッシュだ。自分は脳梗塞で車椅子生活なので、体を動かせる君に、この男を探して復讐して欲しい…。と記されています。
 この1通の手紙とまだらな記憶だけを頼りに、まるで徘徊するように、よぼよぼのセヴ老人は、この男の暗殺の旅に出かけます。

口径22ミリのデリンジャーを購入し、移動…


 手紙には、クリーブランドに行き、翌朝は迎えに来た車に乗り、銃砲店で老人でも扱える軽い口径22ミリの拳銃を手に入れ、ホテルに泊まれと書いてありました。
 1人目の男も2人目の男も人違いで、3人目の男はすでに他界し、これも人違いでした。
 そして4人目の男。その男は、ソルトレークの湖の近くに住んでいました。
 男を待つ間、セブが居間にあったグランドピアノで得意の「ワグナー」を弾いていると
「ユダヤ人ならワーグナーは好まんだろう」と男が現れます。セブはその声に覚えがありました。
「いつか、君が来ると思っていた」
「私はナチの親衛隊員で、アウシュビッツのブロック責任者、クニベルト・シュトルムだ」
「違う、あんたはオットー・ヴァリッシュだ」
「何を言ってるんだ。君がオットー・ヴァリッシュじゃないか」
「 ともにアウシュビッツのブロック責任者だった」
「腕を見てみろ。君の番号は98814だ」
「私は98813だ」
「戦後、逃亡するために互いに彫ったんだ」
「忘れたのか。 君はセブと名前を変えたんだよ」
 すべてを悟り、絶望したセブは男を撃ち、そして自分の頭に銃口を向け、引き金を引きます。
 老人ホームに入居したセブが、実は、正真正銘のオットー・ヴァリッシュだとマックスは気付いていました。
 認知症がひどくなり、記憶が曖昧になってきたセブに偽の記憶の手紙を渡し、二人をまとめて、葬ろうと謀ったのです。
 スクリーンには、サウンド・オブ・ミュージックのトラップ大佐を演じたクリストファー・プラマーをはじめ、超ベテラン俳優が顔を揃えます。最近、これほど面白い認知症サスペンス映画はみたことがありません。
(協会理事/竹田正史)

映画紹介№33「Ex Machina/エクス・マキナ」 【2015年英国製作/アレックス・ガーランド監督・作品】

映画紹介№33「Ex Machina/エクス・マキナ」 【2015年英国製作/アレックス・ガーランド監督・作品】

 「私は不良品として破棄さ
  れるの?」
 「あなと一緒にいたいわ」
2016年、グーグルのAI「Alpha GO」がプロ棋士に圧勝。人間がAIに負け、スマホが進化し、技術への不安や恐れが私たちの心や生活に深く潜むようになってきました。
映画は人工知能や検索エンジンによるビッグデータを利用し、人間を超えた人工知能AIとそれを作り出す天才プログラマーの葛藤を、今を舞台にして描くサスペンス作品です。
13歳の時にブルーブックのプログラムを書き、グーグルやアップルのような検索エンジンの会社を創業した天才プログラマーは山岳地帯の中の研究施設に引きこもり、人間を超える知能と感覚と体を合わせ持つAIロボット「エヴァ」を秘密裏に完成させていました。
人工知能が人間と同等以上であると判定されるには誰かにチューリングテストをやってもらう必要があります。「ロボットだと分っていても、人間として感じてしまうかどうかを見極めたい…」というのが天才プログラマーの願望でした。
映画は、その任務を負う若い男性が研究所に1週間、泊まり込むところから始まります。
AIロボット「エヴァ」は機械と分かるように手足は配線や構造が丸見えのスケルトンに作られています。
若者はエヴァの美しさと人間らしいしぐさ、振る舞い、知性に驚き、その不気味さに次第に惹かれていくようになります。
「ここでエヴァを作った」
「AIが人の表情読み取り真似できるようにした」
「私は地球上の携帯電話をすべてハッキングし」
 「数限りない声と表情のサンプルを集めた」
 「これが彼女の脳だ」
 プログラマーはいくつもの試作品を指さしながら、
 「脳は電子回路を使わないでジェル状になっている」
 「記憶を有効に貯蔵し、思考を形成できる」
 「流動性ハードウェアだ」
 「人間の思考形態は検索エンジンそのものだ」
「ソフト ウェアはブルーブックだ」
エヴァは「あなたも私と一緒にいたい?」と若者を誘惑してきます。
「僕に恋するように設定をしたのですか?」
 「恋するように、設定してある」
 「彼女は君が最初の男だ」
 「なぜエヴァを作った?」
 「人工頭脳の到来は避けられない」
 「エヴァの誕生は進化だ」
 「いつかAIは人間を原始人のように見なすだろう」
 「やがて人間が絶滅する時が来るかもしれない」
エヴァは想像力や性的誘惑を使い、若者の恋心を利用し従順さを装い、自分を作ったプログラマーを殺害し、全身を人工皮膚で覆い、施設を脱出し、人間として街の雑踏の中に消えていきます。
人間と機械の境界線が曖昧になり、この映画を観た後は、知らぬ間に街に人間の姿を装った元AIが紛れ込んでいるかもしれないと思うようになりました。
タイトルの「エクス・マキナ」の「エクス」は元カレの「元」。「元マシン」という意味だそうです。第88回アカデミー賞で、視覚効果賞を獲得しました。
(協会理事/竹田正史)

本年6月に日本で初めて開催される「AI・人工知能EXPO」。日本ばかりでなく世界の最新の製品、技術が一堂に会す。

映画紹介№32「ルーム~ROOM~」 【2015年カナダ・アイルランド製作/レニー・エイブラハムソン監督・作品】

映画紹介№32「ルーム~ROOM~」

 「ママは17歳の時に学校の帰りに誘拐され」

「7年間、監禁されている」

映画はオーストリアのフリッツル監禁事件を基に描いた小説「部屋」を原作としたヒューマンドラマです。事件は、実の娘が18歳から24年間、父親に地下室に監禁され、肉体的、性的な暴力を受け、7人の子どもを出産。2008年に救出されたというものです。

「ぼく5歳になったよ。もう大きいよ」

映画は、監禁されている部屋で子ども産み、その子どもが五歳の誕生日を迎えたところから始まります。部屋にはトイレ、浴室、調理台、ベッド、クローゼットなど最低限の設備だけが用意されています。

「部屋の外は宇宙空間。TVの惑星と天国があるの」

「外に出ると死んでしまう」

子どもには母親だけがこの世界の住人だと教えてきましたが、もうごまかせない年齢になってきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外の世界を知らず、小さな暗い部屋で母親とTVの映像しか知りません。

「ドアの前で待つだけじゃ何も起こらない」

不思議の国のアリスの言葉に触発されて、逃げ出すことを決意します。

「あいつをだますの」

「モンテクリスト伯の脱出を真似するわ」

「死んだふりをするの」

「あいつは捨てる場所を探すわ。その前にトラックから転がって逃げ出す」

「そして最初に見た人に助けて!と叫ぶ」

そして脱出後、母子の世界は一変し、両親の離婚などの現実の変化に困惑し、新たな苦悩と再出発の日々が始まりました。

光に弱い目、弱い肌、雑菌免疫力低下のために、サングラス、日焼け止め、マスクを着用します。初めてのパンケーキ、初めての階段の昇り降りのリハも始まります。しかし、脱出して10日経っても、父親は犯人の産ませた子どもをまともに見ようとしません。押しかけるマスコミ、生活費のことなど想定していなかった問題が噴出してきます。

「ハッピーなはずなのに」

「ママは私の頭の中を知らない」

「ママが他人にはいつも優しくっていうから、あいつの犬を見に行ったのよ」

「どんな目で私を見る の?」

と、老いた母親を責めてしまいます。

マスコミは「子どもが大きくなった時、父親についてどう説明しますか」と質問してきます。

「部屋に帰ろうよ」

子どもが監禁されていた部屋を見たいといいます。

「これがあの部屋なの?」

「さようならイスさン、テーブルさん、ベッドさん」

「ママもお別れしてよ」

切ない心の高まりが流れる音楽でさらに高まります。

監禁ものの映画には、犯人の性格描写を克明に描いた映画「コレクター」などがありますが、この映画は脱出後の被害者の母子の苦悩、葛藤を描き、リハビリ、社会復帰を中心に人間の尊さを暖かく見つめます。

幸運を祈るお守りに、ママの抜けた歯を子どもが大事にしているのも面白いです。子どもの愛くるしい名演技に涙してしまいます。この作品で、主演女優のブリー・ラーソンは、アカデミー主演女優賞をとりました。

(協会理事/竹田正史)

映画紹介№31「アリスのままで~Still Alice 」 【2014年米国/リチャード・クラッツァー監督・作品】

映画紹介№31「アリスのままで~Still Alice  」 【2014年米国/リチャード・クラッツァー監督・作品】

「細胞が死んで」
「何もかも消えていくのを」
「今も感じるわ」
映画は治すことはおろか、進行さえ止めることができず、急速に記憶が壊れていく遺伝性若年性アルツハイマーの患者が、喪失と向き合う恐ろしい日々をリアルに描いたヒューマン・ドラマで、認知症の教科書のような映画です。
50歳の患者アリスは、コロンビア大学の聡明な言語学教授。夫も医学部の教授で、医大に通う息子と法科を卒業した長女と気がかりな末娘の3人の子どもに恵まれています。
「名前と住所をいうので繰り返してください」
「ジョンブラック、ワシン トン通り2丁目」
「今日は何日? ここはど こ? 水のスペルは?」

精神科医に立て続けにいくつか質問を受けた後、最初の質問に戻ると、答えられません。 短期記憶障害、MRI、PET検査の結果から、遺伝性若年性アルツハイマーと診断されます。
「アミロイド値が高く、子どもにも遺伝しますよ」
病態は急速に進み、人との約束も忘れ、見知ったキャンパスでも道に迷ってしまいます。
病態が進んだ時、自分が自分でいられるには自殺するしかないと、きつい睡眠薬ロヒプノール錠を手に入れ、自分に向けたビデオレター・ファイルを作成します。
「長女の名前は?」
「住んでる場所は?」
「誕生日は?」
この質問に1つでも答えられなくなったら、バタフライと名付けたフォルダーを開いてと呼びかけます。
病状は加速し、トイレは見つからず失禁、1カ月前を昨日と勘違い、意識は明瞭な日が少なく、曇ったまま、子ども時代に戻ったような毎日が訪れ、長女の名前も忘れてしまいます。アリスのすべての記憶がなくなる日は、刻一刻と近づいてきました。
ある日、わけもなくパソコンに触っていると、自殺を指示するビデオ・レターをクリックしてしまいます。
「はい、アリス、私よ」
「大事な話があるの」
「質問に答えられなくな っ たのね」
「あなたの人生は悲劇じゃ ないわ」
「輝かしいキャリア」
「恵まれた結婚」
「素晴らしい三人の子ども に恵まれたわ」
「1人だと確認して寝室 に行って!」
「寝室にはランプの乗っ た棚があるわ」
「1番上の引き出しの奥 に錠剤の入ったビンがあ るの」
「ビンには、水で全部飲 めと書いてあるわ」
「たくさん入っているけ ど、必ず全部飲んで」
「そしたら横になって寝 るの」
自分が自分でいられるため、過去の自分が語りかけるように実行を促します。
コップに水を入れ、錠剤が手のひらに移った時、誰かが入ってくる物音に驚き、錠剤は床にこぼれ落ちてしまいます。
「私がママの面倒みるわ」と、アリスが1番気にかけていた末の娘が帰ってきました。
人間ってなあに?記憶だけが人間?…。次から次に難解な問いを投げかけてくる恐ろしい映画です。
ジュリアン・ムーアの力のあふれる演技は第87回アカデミー賞で主演女優賞を獲得しました。監督自身もALS筋萎縮性側索硬化症を持病とし、2015年3月に亡くなり、彼の遺作となった映画だそうです。
 (協会理事/竹田正史)

映画紹介№30「いしゃ先生 」 【2015年日本作品/永江次郎監督・作品】

映画紹介№30「いしゃ先生 」

【2015年日本作品/永江次郎監督・作品】

「この村さ戻って 診療所やってくれないか」

「こんな見習いの身で 診療所の医者なんかできない」

映画は、東京女子医学専門学校を卒業し、無医村の故郷の医療に尽力した新米女医、志田周子(しだ・ちかこ)のものがたりです。

舞台は戦前戦後の日本の動乱期から混乱期。山形・左沢(あてらざわ)から峠を越したところにある山間のへき地、大井沢村(現・西川町)です。冬には雪が3メートルも積もり、周りから閉ざされてしまう山形屈指の豪雪地域です。

当時は車も電話もなく、手紙が唯一の通信手段。急な連絡は、電報という時代でした。村人が医療を受けるには、患者をそりに乗せ、数十キロもの峠を越え、左沢の病院に運ばねばなりませんでした。

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映画は昭和10年、父から「スグカエレ」の電報を受け取って、美しい紅葉の故郷、大井沢村に周子が帰って来るところから始まります。

小学校からは「♪ウサギ追いし/かの山~」の唱歌が聞こえ、教室の後ろの壁には、この映画の主題でもある「希望」や「道」と書かれた子どもたちの習字が何枚も貼り付けられています。

無医村の大井沢村に医師を置きたいと願う父は、代わりの者を見つけるまで3年間、村の医者をしてほしいと周子に頼みます。

周子は26歳で医者になったばかりで、未熟な自分に診療所の医師が務まるはずがないと不安だったが、父を思い、無謀な頼みに「三年間だけなら…」と、屈してしまいます。

しかし開業したにもかかわらず、診療所には当日も、次の日も、また次の日も村人はやってきません。

「あれが噂の女医者だっちゃ」

「いっちょ前でない医者に誰が命預けられるか」

「お金いっぱい請求されるとな」

悪い噂が飛び散り、村人と打ち解けることができない日々の中、死ぬかもしれない病人がいると聞いて訪問するものの、

「帰ってけろ」

「カネないからな」

門前払いを喰ってしまいます。あるいは、

「肺結核の疑いがあります」

「心配ねえ ただの風邪だ二、三日寝てれば治る」

そんな折、心臓発作を起こした第1号の患者が駆け込んで来ました。

「助けてけろ」

「ヨシさん!聞こえますか?」

蘇生させようと何度も何度も胸に拳を叩きつけますが、ちっとも反応がありません。

「ダメか」と諦めかけたその時、ヨシさんは息を吹き返しました。

それもつかの間、今度は

「これは盲腸炎です」

「すぐに左沢の病院へ」

その夜、雪の中、10人の男たちが箱そりで峠を越える途中で、患者は手遅れで死んでしまいました。

その後も、産婦人科の知識不足、自分の母の命さえ救えなかったことも加わり、なかなか村民にはその技量、思いを認めてもらえませんでした。

3年経って、村人の医療への偏見や拒絶、両親の死と降りかかる試練を乗り越え、恋人とも決別し、この地に生涯とどまる決断をします。

「私の夢は、誰でも医者にかかれる日がくることです」

「命だけは平等だと思うからです」

昭和36年4月1日、国民皆保険が制定されました。志田周子は翌37年1月、それを見届けるかのように天国へ旅立ちました。凛とした主演の平山あやが美しい。

                              (協会理事/竹田正史)

映画紹介№29「 あ ん 」 【2015年日・独・仏合作/河瀨直美監督作品】

映画紹介№29「 あ ん 」

【2015年日・独・仏合作/河瀨直美監督作品】

「このアルバイト募集」

「本当に年齢不問なの?」

映画は、13歳のころ軽いハンセン病を患い、そのまま60年も療養所に強制収容されてきた老女が、76歳にして初めて外の世界に挑み、働く、生きる、自由とはどんなこと?と、人間の大事な重い課題に触れる感動のドラマです。

療養所から出ることを夢見ている76歳の徳江さん、刑務所から自由になったものの借金の返済に追われているどら焼き屋の店長さん、母親ひとり親家庭の15歳の少女。籠から逃げたい黄色いカナリヤ。そして花満開の桜、葉桜、紅葉と移り変わる美しい季節が、この物語を紐解くキーとなります。垣根の外に出られないと、わかった時の苦しそうな眼差し。それが3人に共通する眼差しです。

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映画は店長がマンションの屋上から、この映画の舞台となる桜の花が満開の早朝の街並みを、タバコを片手に見渡しているところから始まります。

葉桜に変わった頃のある日、アルバイト募集の張り紙を見て店先に老婆が現れます。

「おいくつですか?」

「満で76歳」

「その歳では、無理だと思うんで…」

店長はやんわりと断わってしまいます。しかし、夕方に、また老婆が現れます。

「さっきもらったどら焼き食べてみたの」

「皮はまあまあだと思うのよ。ただ、あんがね…」

「あん 作ったことあるんですか?」

「ずっと作ってきたの」

こうしてハンセン病の後遺症で指が曲がって不自由な手の徳江がどら焼き屋で働くことになります。

徳江の作るあんは大評判。店の前に行列ができるほどになります。しかし、いいことはそう長くは続かず

「徳江さん ハンセン病じゃないかって」

「どこに住んでいるの?」

「人に知られたら、この店終わりよ」

案の定、徳江がハンセン病を患っていたことが近所に知れ渡り、客足は一気に遠のいてしまいます。

「こちらに非がないつもりで生きていても」

「世間の無理解に潰されてしまうことがあります」

ハンセン病は非結核性抗酸菌の一種で、らい菌が皮膚のマクロファージ内や抹消神経細胞内寄生によって引き起こされる感染症です。感染経路は経鼻、経気道。感染力は非常に弱く、2007年の統計によると、日本では年間0か1人で皆無に近い状況です。

1996年にらい予防法は廃止されましたが、断種、堕胎という人権蹂躙、入所時には持ち物を奪われ、名前さえも奪われたそうです。

ハンセン病の歴史は古く、紀元前後の時代を背景にした映画「ベンハー」では「死の谷」にたむろする患者、宮崎駿の「もののけ姫」松本清張の「砂の器」でも話題になりました。

現代のHIV感染症なども含めて、感染症医療は差別の温床になりかねず、取り組みや啓蒙には細心の注意が必要です。

映画はカンヌ映画祭をはじめ、多くの映画祭で賞を獲得しました。老女を演じるのは樹木希林。差別や偏見に抗うのはとても難しく、胸が苦しくなります。

「あっ、鳥だ!」

「鳥は自由でいいなあ」

「わたしも陽の当たる社会で生きたい」 

(協会理事/竹田正史)

映画紹介№28「セッション / WHIPLASH 」

映画紹介№28「セッション / WHIPLASH 」

【2014年米国/デミアン・チャゼル監督作品】

「テンポを合わせる気があるのか?」
「わざとバンドの邪魔をすると」
「ブチのめすぞ」
舞台はニューヨーク、秀才の集まるシェイファー音楽院大学。
映画は将来、偉大な音楽家になることを夢見て入学し、日夜、練習に励んでいる優秀な学生が、常軌を逸した教授の指導の餌食にされ生徒の能力を引き出すと称して、潰されてしまった生徒のリベンジドラマです。
トップシーンはシェイファー音楽院の秋期から始まります。スロー・テンポのドラムが次第にテンポを上げ、暗い部屋の中でドラムの練習に励む十九歳の青年が映し出されます。

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「名前は?」
「ニコールです」
「何年生?」
これがこの青年と教師の最初の出会いでした。
「フレッチャー教授が僕の演奏をみてた」
と青年は誇らしげに父親に報告します。
「ビリーゼインを頭からやる」
「ドラム、スウィング、テンポ!倍速で!」
指揮者であり教官である教授は常軌を逸した恫喝と暴力で生徒を指導します。
「音程がズレている奴がいる」
「115小節から」
「まだズレてる奴がいる」
「犯人はお前だ」
「わざと音程をズラしてバンドの邪魔をしたいのか」
「お菓子は落ちてない。なぜ下を見る?」
「自分で音程がズレていると思うか?」
「はい…」
すると大声で怒鳴りあげ、
「足手まといも限界だ。 デ ブ野郎!」
「音程よりメシが大事か」
「なぜ座っている。出ていけ!」
「自覚のなさが命取りだ」
レッスンは熱を帯び、狂気に満ち、常に完璧を求め、生徒ができないと容赦ない罵声を浴びせます。
「おまえはクズでオカマ唇のクソ野郎だ!」
「女の子みたいに泣いて。 私のドラムがヨダレまみれだ」
「もっと、もっと練習しろ」
来る日も来る日も、スティックで指は擦りむけ、血だらけになります。演奏家の宿命は練習です。
「君と会う余裕がない」
恋人とも別れ、異常な、切迫した世界にのめり込んでしいます。
3人の競争者の中で主演奏者に選ばれるが、不運にも会場に向かうバスが衝突事故を起こし、遅刻してしまいます。それを理由に、一方的に主奏者から降ろされてしまいます。
「クソ野郎、殺してやる、死ね」と、教授に殴りかかりコンサートのステージは滅茶苦茶になってしまいます。その後青年は退学となり、教授は精神的苦痛を与え、極端に行き過ぎた指導があったと密告され、大学を追い出されてしまいます。そして数カ月後の夏、二人に運命的な再会が訪れます。
「密告者は お前だな」
「私をナメルなよ」
いったんは退場するが、引き返し「キャラバン」の序奏を叩き始めます。2000人の会場は「キャラバン」の演奏に包まれ、盛り上がって行き、ドラマのソロが延々と続きます。
音楽業界に留まらず、あらゆる組織、業界に潜む無能な権力者や指導者による歪んだ情景を切り取った秀作です。第87回アカデミー賞五部門でノミネートされ、教授を演じたJ・K・シモンズの助演男優賞を含む3部門で受賞しました。
(協会理事/竹田正史)

映画紹介№27「グローリー/明日への行進“Selma”」

「グローリー/明日への行進“Selma”」 【2014年米・英製作/エバ・デュバーネイ監督作品】 「この栄誉を」 「2000万人の黒人とともに」 「お受けします」 舞台は1960年代の米国アラバマ州セルマ。旧植民地の相次ぐ独立、冷戦、ベトナム戦争。テレビの普及。国内では黒人の公民権運動が高まり、セルマの「血の日曜日」が起きてしまいます。映画はこれに焦点を当て、黒人の選挙権の獲得までを描いた感動の作品です。 525人のデモ隊は差別主義者の州知事によって抑圧されましたが、「血の日曜」の暴力はテレビや新聞に取り上げられ、世論が大きく変わっていきます。 映画は1964年、キング牧師がノーベル平和賞を授与されるところから始まります。 キング牧師250pix「南部では威嚇や脅迫で投 票所にも入れない」 「黒人の選挙権を保障する 連邦法を制定していただ きたい」 と、ジョンソン大統領に申し入れますが、「まだ早い、もう少し待ってくれ」と公民権法の制定に動いてくれません。「待てません」「南部では黒人差別で何千人も殺されています」 キング牧師の運動はインドのガンジーの非暴力主義に基づき「交渉」「デモ」「抵抗」を繰り返す正攻法です。 朝には全国紙の一面に載り夜にはテレビのニュースに映るくらいじゃないと白人の意識は変わらない。混乱や監獄行きも、命を失う危険も承知で、人種差別を崩壊させる戦術としてセルマからモンゴメリーまで80㎞の抗議行進を計画します。 一方、差別主義の州知事は 「われわれはこの州で黒人の反抗は許さない」 「ここは南部連合発祥の地」 「何世代も続く隔離政策こそが国のあるべき姿だ」 保安官に指示し、警察隊、騎馬隊をアラバマ川の対岸に出動させ、「とっ捕まえて、川にぶち込んでしまえ」と、デモ行進を待ち構えています。525人の黒人は、教会を出てアラバマ川に達します。 警官隊は丸腰の人々に次から次へ、殴る、蹴るの暴力を繰り返し、騎馬隊は逃げる者に鞭を振りかざし、追い詰めていきます。両親を守り、若い黒人青年は銃で撃たれ、死んでしまいました。 「白だの黒だの関係ない」 「人はみな平等と信じられ るなら」 「セルマに来てほしい」 と、全米の国民に呼びかけます。 裁判所は、「憲法の原則からすれば」「平和的な方法で集まりデモをする権利は正当である」として、大統領も運動の勢いに押され、モンゴメリーへの五日間の行進を認めました。大統領も「人種や肌の色で選挙権を奪われてはならない」として、議会に選挙権の制限を撤廃する法律を提案しました。 キング牧師は13年間、非暴力を貫き公民権運動を牽引してきましたが、それから3年後の1968年に39歳で暗殺されました。 閉じた社会の中で、権力者と被抑圧者、暴力と非暴力、そして黒と白の対比が効いていて、映画は緊張感にみなぎっています。 俳優のブラッド・ピットや人気トーク番組のオブラ・ウィンフリーらが製作を担当。主題歌「グローリー」は第87回アカデミー賞で主題歌賞を受賞しました。 (協会理事/竹田正史)

映画紹介№26「Inch’Allah ~ クロエの祈り ~ 」

映画紹介№26「Inch’Allah ~ クロエの祈り ~ 」

【2012年カナダ・フランス製作/アナイス・バルボー=ラヴァレット監督】

 「何してるの!」
 「お腹の赤ん坊が武装して いるかもよ」
 「この子は最強の兵士になるわ」
 舞台はイスラエル、ヨルダン川西岸の紛争が絶えない地域。カナダ人の女性産婦人科医クロエは赤十字のボランティアとして、イスラエル側で暮らしながら分離壁の出入り口、イスラエル軍の検問所を行き来して、パレスチナ側の産婦人科診療所で働いています。
 同じアパートに暮らす検問所配属のユダヤ女性兵士とは友達。一方では、パレスチナ人妊婦患者とは診療を通して家族ぐるみの付き合いをしています。
 紛争地域での女医の最初の軽い気持ちは、やがて対立するユダヤ人とパレスチナ人の間に立たされます。映画は出口の見えないパレスチナ紛争の厳しい現実を描くドラマ作品となっています。
 大勢の人々で賑わう大通り、広場のレストラン、居酒屋、小鳥屋、カフェ街などイスラエル側の一見、平穏で豊かな街の描写から始まります。
分離壁の出入り口である検問所では自動小銃を持ったイスラエル兵が身分証明書チェックをしています。
 「よし。通ってよし」
 兵士は待合室、診察室、薬品棚、検査室など、診療所を抜き打ちに調べにやって来ます。
 高さ八メートルものコンクリートの巨大な分離壁。ゴミでごった返す難民キャンプ。
 「ユダヤ人入植地で銃声」
イスラエルがニュース速報を流します。
 「入植地で武装した3人が 発砲」
「入植者2人が重傷」
 これを聞いてパレスチナ人は小躍りして歓びの声をあげています。
 イスラエル軍のトラックの音。検問所は騒然とし、検問は強化され、パレスチナ人の男たちは学校に集合せよと命令が出されます。トラックの走行を邪魔する子どもはひき殺ろされてしまいました。
 そんな中、妊婦に陣痛がきて、今にも生まれそうになるが、出血がひどく、病院への搬送が必要になります。
 「お願いだ、通してくれ」
 「病院へ運ばないと」
 「後ろに下がりなさい」
 「下がらないと発砲するぞ」
 「下がれ! これは戦争なんだ」
 死産。
 母親は出産後、自爆テロに身を投げてしまいます。
 「どうした?白人女」
 「診療所では医者だけど」
 「ここでは無力だなあ」
 1993年9月、アメリカのクリントン大統領が間に入り、イスラエルのラビン首相とPLOのアラファト議長の間で、パレスチナ暫定自治協定がなされ、「ガザ地区、ヨルダン川西岸地区からイスラエル軍は撤退」としたにもかかわらず、この地域でのユダヤ人の人口は増え続けているそうです。
 2014年にもユダヤ人少年3人の遺体が発見され、その後、16歳のパレスチナ人少年が殺害され、互いに相手が殺害したと、悲しみと怒り、そして報復の連鎖が起きています。
  映画は、「話し合い、違いを理解して、歩み寄る」ことの大切さをあらためて教えてくれます。いち早く和平案が合意され、悲しい紛争がなくなるよう祈るばかりです。
 カナダとフランスの合作映画。2012年に第37回トロント国際映画祭で上映され、日本では劇場で未公開、WOWOで放送されました。
  (協会理事/竹田正史)

映画紹介№25「刑務所の中」

映画紹介№25「刑務所の中」

【2002年日本制作 / 崔洋一 監督】

「銃砲刀剣類不法所持取締違反で懲役3年」
 映画は北海道、日高の刑務所を舞台に受刑者の機械的な生活を淡々と映し出します。受刑者の更生物語でも脱走物語でもありません。〝シャバ〟から見ると、どうでもいいような断片的な人間模様や刑務所ならではの風変わりな規則や暮らしを紹介します。
 映画は朝の配食準備に忙しい調理室から始まります。6時30分起床、バケツ、ほうきと雑巾で部屋、トイレの隅々まで掃除。
「303室点検!」
 看守に向かって直立不動で整列。大きな声で、
「イチッ、ニッ、サンッ、シッ!」
「5名異常なし」
 5人の受刑者は銃砲刀剣類不法所持、火薬類取締法違反、麻薬取締法違反、殺人罪、連続コンビニ強盗事件、学校荒らし強盗…の罪で服役している者たちです。
7時40分に朝の配食。
「米7分、麦3分のどんぶり飯」
「タマネギと切りふの味噌汁」
「マグロのフレーク」
「金時豆の煮豆」
 返事は常に「ハイッ!」と応え、部屋を出たら隊列を組み、
「イチッ、ニッ、サンッ、シッ!」と、腰に手を当て小走りで移動します。作業場は工場、看守は「先生」と呼ばれ、一段と高い所から受刑者に目を光らせています。
 少しでも違う行動を取る時には「願います!」と大声で手を挙げて看守の指示を仰がねばなりません。
「願います!」
「何だ?」
「用便 、願います」
「朝、済ませて来なかったのか?」
 ティシュ箱づくりの作業は午後4時30分で終わります。午後4時45分に夕方の点検があり、4時50分には夕配食があります。
「春雨スープ?」
「ほら牛だよ、牛だよ!」
 風変わりな規律はあるが暴力は一切なく、テレビも見られる、雑誌も読める。合宿所のような健康な生活です。
「コラッ!お前何やっているんだ!」
「そんなことをしてもいいと思っているのか!」
 雑誌のクロスワードに答を記入した些細なことでも、懲罰房(独房)に連行されてしまいます。
「医務」と呼ばれる健康診査は週2回。医務官が体調不良を申し出た者を一列に並ばせ、立ったまま、検温、診察を行います。
「薬指と小指の間にできものができました!」
 体温、患部を診て、即座に処置の診断を下します。
刑務所では、毎日の作業は定時に終わるし、免業日と呼ばれる土日の休みもあります。3度の食事は欠かすことなく出てきます。受刑者の楽しみは、四肢の不自由なお年寄りと同じように提供される食事。そのメニューに一喜一憂します。
「正月に羊かんが出るってほんとうかい?」
「出るよ」
「去年は甘酒とマグロの刺身が出た」
「大晦日の夕食はおせちだ」
 この映画には映画「ショウシャンクの空」のように脱走をもくろむ受刑者と暴力的な看守。緊張感や重い空気は全くありません。人間模様を違った視点から考えさせられる作品です。
 主人公演じる山崎努をはじめ、松重豊、香川照之、椎名桔平、大杉連など、豪華な役者ぞろいのコミカルな映画で、映画の好きな人は絶対に満足するでしょう。
 (協会理事/竹田正史)

映画紹介№24「世界が食べられなくなる日」

映画紹介№24「世界が食べられなくなる日」

【2012年仏製作 / ジャン=ポール・ジョー監督】

「二十世紀に世界を激変させた技術が2つあります」
「核エネルギーと遺伝子組み換え技術です」
 映画は遺伝子組み換え食物と放射能の迫りくる脅威に警鐘を鳴らします。
 米国の多国籍企業モンサント社のGM(genetica-lly modified)飼料と農薬ランドアップを長期給餌したラットの実験と福島第1原発事故後の周辺農家の取材を中心に「GM作物刈り取り隊」や「狙われる途上国セネガル」の有機農業活動を交えて伝える衝撃的なドキュメンタリーです。

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 映画はフランス・カーン大学のセラリーニ教授の動物実験室から始まります。
 モンサント社はたった3ヶ月の実験結果からGM作物は安全であると発表。セラリーニ教授はラットの寿命2年間の追跡調査を行ったところ
「4、5ヶ月頃から喉元に 初期の腫瘍が発生した」
「オスには腎腫瘍が多く」
「メスには乳腺繊維種、角 化性棘細胞腫が多い」
「15ケ月目に、五、六セ ンチの腫瘍に肥大化した」
など、GM作物はラットに巨大な腫瘍を発症させ、安全性はおろか、きわめて危険なものである事実が明らかになりました。
 現状では、GM作物は飼料や加工食品にも使われ、誰もがGM摂取を避けられません。また、荷役、輸送する港湾労働者やトラックの運転手は、GM作物に付着する農薬ガスを吸って、健康を害されています。
 一方、フランスには原発が16施設あり、炉の数56機が稼働する世界第2位の原発保有国ですが、深刻な原発事故を何度も経験しています。
 1980年、サンローランデゾー原発で冷却装置が故障、チェエルノブイリ原発事故の2年前の1984年にはビュジェイ原発で冷却水の沸騰事故、1999年にはブライエ原発でもロワール川氾濫で施設が浸水し2号機、4号機の外部電力喪失事故がありました。
 そして日本では2011年3月、福島原発1号機が地震、津波で浸水、爆発、メルトダウンとなり、事故前の年間1ミリシーベルトが事故後は20ミリシーベルトにも上昇しました。

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 2人の子を持ち、現在もう1人を身ごもる母親は、「政府は嘘ばかり言って子どもを守ろうとしない」「放射線汚染したものやGM野菜など食べたくない」
 第1号機周辺の農家では
「牛は全部処分した」
「原発がなかったらこんなことにはならなかった」
「地震だけなら我慢もできるが、放射能はどうしようもない」
「今までもっと原発に反対 しなければいけなかった」
 監督は人間は自ら作った「ウラン」や「遺伝子組み換え」というモンスターを安易に捉え安易に扱ってきた。そんな魔物を怒らせたら、それを止めることができない。遺伝子組み換え作物も原発の放射線被爆も未来の子どもたちに深刻な問題を残すと、語気を強めます。
 この映画は「宇宙戦争」の原作を著したH・G・ウェルズの「神々の糧」(映画「巨大な生物の島」の原作)を思い出させます。世界が食べられなくなる日が本当にやって来るかもしれません。

◆この映画を2015年11月7日午後6時30分より、渋谷区文化総合センター大和田にて無料自主上映します。ぜひ、ご参加ください。 (協会理事 竹田正史)

映画紹介№23「 American Sniper ~ アメリカンスナイパー ~ 」

映画紹介№23「 American Sniper ~ アメリカンスナイパー ~ 」

【2014年米国製作 / クリント・イーストウッド 監督】

「女と子どもが出てきた」
「部隊に近づいている」
「女が何か隠し持っている」
 この映画は、イラク戦争に4度従軍し、160人以上を狙撃し、その栄誉を称え、『レジェンド』と呼ばれた狙撃手・クリス・カイルの自伝「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」を基に、戦場と家族の狭間での葛藤を描いた作品です。
 瓦礫の町の完全制圧を目指して、アメリカ海兵隊の戦車、歩兵が掃討作戦を展開しています。これを後方の建物の屋上からネイビー・シールズ(海軍特殊部隊)が援護しています。
「対戦車手榴弾だ」
「子どもに渡した」
 男は子どもに照準を合わせ、スナイパー・ライフルの引き金引き、さらに母親とみられる女を狙撃しました。
「殺やられる前に殺れ」 これがこの男の初めての残酷な狙撃体験でした。
 男は幼い時から厳しい父親の猟銃に付いて回り、初めての狩りで、1発で鹿を仕留めました。
「一流のハンターになれるぞ」
と父親は息子を褒め、
「弱い羊たちを守る牧羊犬になれ」
「オオカミにはなるな」
と教えてきました。
 男は30歳になるまで、カウボーイに憧れ、ロデオに明け暮れていましたが、タンザニア、ケニアのアメリカ大使館爆破事件を機に、「俺はテロリストを殺したい」と突如、愛国心に目覚め、海軍に志願し、特殊部隊ネイビー・シールズに配属されます。
「狙撃手は海兵隊員1名を護衛し」
「建物の制圧を監視する」
「何があろうと彼らを守れ」
 男はイラク戦争で活躍し、『レジェンド』と呼ばれ、敵からは『悪魔』と恐れられアルカイダ側から18万ドルの賞金が賭けられています。しかし、「奴らにも450メートル先から頭を撃ち抜く狙撃兵がいる」。
 敵方に元オリンピック射撃選手だった男が、1000メートル級の狙撃兵として現れます。中尉が、伍長が…。海兵隊は苦戦を強いられます。
 2回、3回とイラク派遣を繰り返すうちに、男の心にも変化があらわれます。
「なぜまたイラクへ行く の」
「家族はここにいるのよ」
「お願い。 人間らしさを取り戻して」
妻の熱心な懇願で第四回派遣を最後に軍を辞めると決心しました。軍を辞めた後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に襲われ、同じ悩みを持つ退役傷痍軍人の支援に打ち込みます。
 2013年2月2日、力になろうとしたPTSDに悩む元海兵隊の兵士と射撃場に向かいますが、その彼に射殺されることになります。
 アメリカではこの映画をめぐり、オバマ大統領夫人を巻き込んで「あまりに好戦的とか」「過度のヒローイズムだ」といった大論争があったそうです。
「殺される前に殺す」という戦場での当たり前の戦争原理が、子どもだろうが女であろうが殺すことになります。
 「許されざる者」「 グラン・トリノ」など一貫して「アメリカ」を描いてきたクリントン・イーストウッド監督は、この映画で戦争を美化するのではなく、洗いざらいの戦場を再現して、観客に戦争の是非を問う作品としました。
 米国での興行成績は「アバター」を超えた大傑作だといわれています。
(協会理事/竹田正史)

映画紹介№22「イフ・アイ・ステイ if I stay」

映画紹介№22「イフ・アイ・ステイ ~ if I stay ~」

【2014年米国製作 / R・J・カトラー 監督】

「ベートーヴェンは26歳で」
「聴覚とピアニストの職を失った」
「彼は作曲家に転身し、大成功した」
 舞台はアメリカ西岸北部の真冬のポートランド。
 映画は大雪で学校も職場も休みになった日、家族4人が出かけ、スリップ事故に巻き込まれ、主人公の少女が助かるまで、24時間の彼女の思いを描きます。
 少女の父は弟が生まれてバンドを引退し、学校の先生に。母親は旅行代理店で働いて、元パンク少女。
「人生は計画通りにはいかない」
 彼女は小学2年生の時、チェロの響きに魅了され、クラシック音楽の秩序と骨組みが大好きと、チェロ奏者になること夢見ています。
「ルイス&クラークもいい大学だけど」
「ジュリアードは」
「最高峰の音楽学校よ」
 事故当日は、2ヶ月前に受けたジュリアード音楽院の合否の手紙が来る、落ち着かない日でした。少女は思い描いた未来になるのか、今は不安の真っただ中にいる17歳の高校生です。ポートランド全域が大雪で学校も職場も休みになってしまいました。
「ママも休みよ」
「今日は何をする」
「実家に行く?」
 家族4人で出かけることになりました。目の醒めるような森林の冬景色の中、雪で車がスリップし、対向車に突っ込んでしまいます。映画はここから始まります。
「挿管を」
「酸素マスクを」
「少年はまだ意識がありま す」
 少女は道路に放り出され、救急隊員の助けで、蘇生措置を付けられた、意識不明の自分の姿を見ます。母親は即死、父親は手術中に死亡。弟は脳内出血が酷く、集中治療室での管理に入ったが、間もなく死亡。
「容態は?」
「骨折、脳挫傷、脳内出血」
「超音波とX線の準備、呼吸療法士を」
「脾臓を摘出」
 手術は何時間もかかります。彼女だけが昏睡状態で生死の境を彷徨っています。
「息子一家が事故にあったそうだが」と、祖父母が駆けつけてきます。
「あの事故でよく生きています」
「母親は即死でした」
「父親は手術中に死亡」
 チェロ奏者を目指し、ジュリアード音楽院を目指す少女の自分、父母に温かく身守られている自分。彼氏との出会いやさまざまな幸せな日々が回想されます。病院には嘆き悲しみ、自分を死の淵から呼び戻そうと、たくさんの友人や彼氏が駆けつけています。
「昏睡中の彼女から」。
「人工呼吸器を外してみます」
「外せればいい兆候です」
 多感な少女の初恋、友情、家族を描いた優しさが溢れている青春映画です。
「どうしたら生きる気力がでるのかしら?」
「おじいちゃん、どうしたらいい?」
 映画はスティーブン・スピルバーグの映画「ラブリー・ボーン」のような魂が身体から抜け出す幽体離脱というスタイルをとっており、事故までの楽しい日々を回想していきます。
「僕は待っている」
「君に会える時を」
 あの「キック・アス」や「キャリー」の子役クロエ・グレース・モレッツが大きくなって、魅力満載の演技を披露する映画になっています。
(協会理事/竹田正史)

映画紹介№21「フランキー&アリス~ Frankie & Alice ~」

映画紹介№21「フランキー&アリス~ Frankie & Alice ~」

【2010年カナダ製作/ジェフリー・サックス監督】

「ちょっと」
「大丈夫ですか?」
「聞こえていますか?」
 舞台は米国、1972年のカリフォルニア州ロサンゼルス。映画は1人の人間の中に、別の人間が同居している多重人格障害。今日では解離性同一性障害と呼ばれる心の病に悩む「売れっ子黒人ストリッパー」が、原因の解明に懸命な心理療法士ドクター・オズワルドの助けを借りて、自分の封じ込めてきた忌まわしい過去と向き合って、本当の自分を取り戻して行く姿を、熱く描いていく感動的なドラマになっています。
カメラは、フランキーの生まれ育った1957年ジョージア州サバンナの殺風景な地と空を分かつ夕暮れの地平線を映し出します。
「天才がまたクロスワードを完成させている」
「それ私じゃないよ」
「あなたよ」
「記憶にないわ」
 ある夜、黒人イケメン男を連れ込んだ部屋で、床に転がっている子どもの「おもちゃ」が忌まわしく、切ない過去を彷彿させ、身体が硬直し、みるみるうちに形相が険しくなり、フランキーの別人格、白人の人種差別主義者の「アリス」に移り変わって行きます。
「触らないで 汚い手で くそったれニガー」
「おまえの体は不品行、性欲、情欲、貪欲で汚れている」
「おまえは神の激怒に触れるに違いない」
と男をなじり見下す言葉をまくし立てます。男は戸惑い
「フランキー、一体 どうしたんだ?」
「わたしはフランキーじゃないわ。“ アリス”よ」
 彼女は、そばにあった鈍器で男の頭を殴り飛ばし、そのまま路上に飛び出し、意識を失ってしまいます。
「混乱気味です」
「酔っぱらってはいないようです」
「名前はフランク・K・マードックさんですですね」
「違います」
 病院に搬送され、サイコテラピストのボズワルド・ドクターの診察で、記憶障害の兆候はあるが眼振症候はない。フランキーの一連の不自然な行動は“解離性同一性障害”と診断します。
「わたしのダンス 見たことある?」
「君はダンサーか」
「クラシックバレエ?」
「違うわ」
「エキゾチックなダンス」
「ストリッパーなの」
 解離性同一性障害とは、自分の中にいくつもの人格が現れ、ある人格が現れている時には、別の人格の時の記憶がなく、生活面でさまざまな支障が出るそうです。これらの症状は、辛い体験を自分から切り離そうとするために起こる、一種の心の防衛反応と考えられているようです。
 映画での白人娘「アリス」の人格に移り変わった時のアリスの言動は、人種差別問題にもなり兼ねません。
 原因の解明にはまっていく医師オズワルドを演じるステラン・スカルスガルドの渋い安定した演技は圧巻で、フランキー演じるハル・ベリーは第68回ゴールデングローブ賞にノミネートされました。1人で3人の人格を演じ分け、役者冥利に尽きる魅惑的な素晴らしい演技を発揮しています。
(協会理事/竹田正史)

映画紹介№21「 少女は自転車にのって 」

映画紹介№21「 少女は自転車にのって 」

【2012年サウジアラビア製作/ハイファ・アル=マンスール監督】

「神に従えば」
「神は天国に私の場所を」
「用意してくださるだろう」
 映画は、戒律に縛られ、女性の行動が厳しく制約されているサウジアラビアの首都リヤドを舞台に、自転車に乗る夢に奮闘する10歳の少女ワジダを描いた作品です。
 黒色の長いローブを身にまとい、黒い髪を後ろに束ねた少女たちがコーランの一節を読み上げています。
「整列して、もう1度」
 カメラは少女たちの足元に向けられ、隠れて着飾っている靴下、足首に巻きつけた色とりどりのミサンガを映し出します。
「ミサンガは」
「1本二リヤルよ」
 サウジアラビアはアラビア半島の80%を占め、人口3000万人。絶対君主制の国。世界一の産油国。30%近い出稼ぎ外国人に労働を委ね、さらに医療機関も学校も無料の豊かな国です。
 イスラム教の発祥地であり、メッカはイスラム教最大の聖地。アラブ諸国の中で最も厳しい戒律を守っています。
 1日5回、礼拝を知らせる「アザーン」の声が町中に流れます。
 男性は踵まで隠れる真白な「トープ」と呼ばれる服装。頭に赤白のチェック模様のスカーフを被ります。
「ヒジャブをどうしてつけていないの?」
 学校では適時、厳しい服装、持ち物検査が行われます。
「ラブソングのテープ、それとサッカー・チームのミサンガ」
「こんなものはみな禁止されているのを知っているでしょう」
「言うことを聞かないと、嫁に出されてしまうわ」
 女性への制約は厳しく、男性がいる場所では、衣服の上から黒色の長いローブ「アパーヤ」を着用し、黒色のスカーフ「ヒジャブ」で髪を覆い、黒色の布「ニカブ」で顔を覆っています。
「笑うのはやめなさい」
「外の男性に声が聞こえてしまいます」
 自動車の運転や1人歩きができない。選挙権がない。町のレストラン、銀行、役所、スーパーの店員は皆、男性で、病院と学校以外では働けません。
「自転車がほしいの」
「女が自転車なんてダメよ」
 自転車を買うために、賞金がもらえるコーランの暗誦大会に挑戦します。
「暗誦は淀みなく、発音が正確ではあること」
 少女ワジダは、図らずも優勝してしまいます。
「賞金は何をに使うの?」
「自転車を買います」
「なんですって!」
「パレスチナの同胞に寄付したほうがよいのでは」
と、賞金は結局、少女の手に渡りませんでした。
 一夫多妻制。父親は第2夫人の家に入り浸りで、家に帰って来ません。
「ママがずっと待ちわびていたわ。2週間、一体どこにいたの?」
「パパはママの最初の恋人で、最後の恋人だったわ」
「でも、これからは2人よ」
「あなたの自転車を買っておいたから。世界一幸せになってね」
 2012年、ヴェネチア国際映画祭で国際アートシアター連盟賞などを受賞。
 この映画は映画館のないサウジアラビアで、初めて作られた長編映画。しかも監督はサウジアラビア女性。
 最近の中東情勢を思うと、現地の普通の人たちの現実的な日常生活はどうなっているのか、思わず考えてしまいますが、この作品は新鮮な感動、希望にあふれ、思わず少女ワジダを応援したくなる映画です。
(協会理事/竹田正史)

映画紹介⑳「モンサントの不自然な食べもの」

映画紹介⑳「モンサントの不自然な食べもの」

【2008年仏・加・独制作/マリー・モニク・ロバン監督】

「モンサントってどんな会社なの?」
「遺伝子組み換え作物は、本当にヒトや環境に安全 なの?」
 映画は、ひとりの女性が、モンサント社の冷酷無比なアグリビジネス(農業ビジネス)の実態とモンサントをめぐる疑惑に、検索に検索を重ねて食と命が脅かされる実態に迫るドキュメンタリー作品です。

モンサント②001
「作物をつくるには、除草が欠かせません」
「強力な当社製の除草剤の“ラウンドアップ“にも枯れない大豆」
「それが、当社の遺伝子組み換え除草剤耐性大豆です」
「人や家畜にはまったく害がありません」とモンサント社は答えます。
 しかし、研究者はその危険性を指摘しました。
「最初は正常な細胞分裂に見える」
「しかし、分裂の過程で遺伝子が不安定になり、ガンのように異常になりま す」。
 アメリカの第40代ロナルド・レーガン大統領(1981~89年)は小さな政府を志向し、企業の利益のため規制緩和政策をとりました。
 続く第41代ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(1989~93年)は、バイオテクノロジー推進に邪魔になる規制をすべて廃止しました。
 食品や薬品の安全性を厳しく管理するはずのFDA(アメリカの食品医薬品局)副長官に就任したモンサントの弁護士は、「在来種と遺伝子組み換え種は実質的にはなにも変わらない」として、新しい法律や規制作りませんでした。
 これらのことが現在のモンサントの問題を生み出した元凶だと、ドキュメンタリーは指摘します。
 インドでは在来種の綿花は耐殺虫剤遺伝子組み換え綿花で、メキシコでは在来種トウモロコは駆逐されてしまいました。
 メキシコでは遺伝子組み換え作物の栽培を国内で禁止していても、アメリカと結んでいるFTA(自由貿易協定)により、アメリカ産「遺伝子組み換えトウモロコシ」の輸入を阻止できません。

モンサント①003
 一方、アルゼンチンでは遺伝子組み換え作物国内栽培を許可していますが、その輸入を禁止するEU諸国には輸出できません。
 モンサント社は、菜種、からし菜、オクラ、ナスなど、殺虫剤や除草剤と一体的に売り込む遺伝子組み換え種子を作り続けています。農家は、毎年の種子代金、一ヘクタール当たりの特許ライセンス料、除草剤や殺虫剤料を支払わねばなりません。契約違反があると、モンサント・ポリスを使って訴ええられてしまいます。
 日本では、遺伝子組み換え作物の表示が義務づけられています。しかし、国産・輸入牛豚鶏肉、国内の謬・豚飼育場や養鶏場の飼料、納豆、もやし、マヨネーズ、菜種油など多種多様の加工品に、遺伝子組み換え作物が使用されている製品がかなり生産、流通しており、不安になります。さらに、現在進行中のTPP交渉の結果、多数の国がメキシコやアルゼンチンのようになりかねないかと心配です。
「種子を握れば、食料のす べてを掌握できます」
「爆弾や軍隊よりもはるか に強力に世界を支配でき る」
 この映画は2008年にフランスで公開され、日本では同年六月、NHKで「アグリビジネスの巨人”モンサント”の世界侵略」として最初に放映。その後、12年に劇場公開され、レイチェル・カーソン賞などを受賞しました。

モンサント③

◆協会が4月12日に自主無料上映会
 4月12日午後1時、当協会の事務所ビルの隣でこの映画の無料上映会を開催いたします。どなたでも無料でご覧になれますので、ぜひ、お越しください。

 (協会理事/竹田正史)

映画紹介⑲「アデル、ブルーは熱い色」

映画紹介⑲「アデル、ブルーは熱い色」

【2013年フランス/アブデラティフ・ケシシュ監督】

「ある男性が私には際立っ
て見えました」
「視線がその方に引き寄せられ」
「男性も私を特別な視線で
見ていました」
 この映画は2013年の最大の問題作といわれ、映画史上にも残るであろと絶賛されている作品です。
 舞台は冬も近いフランス北部の街。映画は朝寝坊し、路線バスに乗り遅れる高校生アデルの通学風景から始まります。
 映画は「愛」と「実存」をテーマに、愛に興じるアデルとエマの物語となっています。国語の授業では、女性心裡を細かく描写した小説「アリアンヌの生涯」が輪読されています。
 奔放なアデルの存在は心地よく、ほとばしるエマとの愛に心苦しむ姿には、瞬時も目が離せません。
 アデルは堅実な父母のもと郊外の住宅街に住み、読書が大好きな文科系の高校2年生。団子鼻で前歯が2本飛出し、半開きの締まりのない顔立ちですが、ミロのビーナス風のギリシャ系美人です。クラスでは男の子に最も人気があり、1学年上の男子学生と寝てはみたものの、ただそれだけという物足りなさで長く続きません。
 一方、エマは美術学校の四年生。青い髪を刈り上げ、まるで宝塚歌劇団の男役。前衛女流画家をめざしています。
「この個所をクレーヴ奥方と比べてみよう」「彼らの出会いが定められた運命だったことを考えてほしい」「誰かと偶然に出会い、自然に視線を交わすとき、ひとめぼれといってもよいが、どういう感情が生まれてくるだろうか?」と、国語の教師は生徒に問いかけます。
 二人は偶然に出会い、アデルもレズビアンのエマにひと目惚れし、半生その愛に取りつかれてしまいます。
「女の方が好き?」
「男も女も両方とも試して
みた」
「やっぱ、女の方がいい」
 映画はノーカット。途切れることなく愛し合う2人の激しいシーンをカメラが追っていきます。
「これ知っている?」
「サルトルよ」
「難しいけど、『汚れた手』 とか戯曲は好き」
「『実存主義とは何か』も必
読書だよ」
「人間は生まれ、存在し、 自らの行動を決定する動 物なんだ」
 2人の環境は余りにも違います。エマの家では、食事は有名海鮮仲買から取り寄せた生牡蠣にワイン。アデルのほうは庶民的なパスタ。「好きなことを見つけるために大学に行くがいい」とするエマのインテリで富裕な両親に対して、職人的なアデルの父親は「絵で食べていくのは大変だ。芸術的な面もいいが、生活のためには堅実な職業につくことが大事だ」と、エマの芸術一辺倒に釘を刺します。
 やがて、2人に破局が訪れます。
「いつからその男と寝てい
るの?」
「私をバカにして!」
 アデルを演じるのはアデル・エグザルホプロス。エマは「マリー・アントワネットに別れを告げて」のレア・セドゥ。レズビアンの過激な描写が衝撃的、芸術的で、第68回カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを獲得し、監督、主演女優2人にも同賞が贈られました。
  (協会理事/竹田正史)

映画紹介⑱「 博士と私の危険な関係 ~Augustine~ 」

映画紹介⑱「 博士と私の危険な関係 ~Augustine~ 」

【2012年フランス/アリス・ウィンクール監督】

「オーギュスティーヌ、ど うしたの?」
「体調が悪いの」
「仮病に決まっているわ」
 映画は、患者オーギュスティーヌのヒステリーの病状、検査、診断、治療の経過を通して「ヒステリーとは?」を学ぶには格好の教材となっています。
 舞台は神経症の女性患者が集まるパリ・サルペトリエール病院。時代は1853年。主治医のシャルコールは、フロイトも門下として学び、パーキンソン氏病の命名者でもあります。19歳のメイドのオーギュスティーヌに右手の痙攣、全身の硬直が仕事をしている時に起き、転倒。喉を掻きむしり、のたうち回るヒステリーの大発作が発症しました。
「やめて」
「お願いやめて」
 誰かに首を絞められているかのように悶え苦しむ様は、中世の魔女の姿を彷彿させました。それ以来、右目の大きな瞼は開かなくなってしまいました。
 スクリーンに「Augustine」のタイトルが写し出され、物語りはここから始まります。
 彼女の発作に興味を持ったシャルコールは「痛みは?」「発作はいつ?」「あざだらけだけど。発作の頻度は?」「舌を出して」「感じるか?」「ここは?」と打診、触診、聴診を彼女の全身隈なく繰り返し行ないます。
 彼女は体が成熟しているのに、月経がありませんでした。
「どうして私にはないの」
「治れば月経も始まる」
 ヒステリーには、情緒の不安定、知覚の麻痺、首が回らない、吐き気、体調不良、片頭痛、眩暈、生理痛、鬱状態などさまざまな病状と発作があります。
 毎夜、オーギュスティーヌは「神様 私の病気を治してください」「神様 私の目を開けて下さい」と祈り続けました。
「頭が正常か、異常かを 調べたい」
「週の曜日を言ってみて」
「月、火、水…」
 シャルコールは学会員が集まる定例公開講義の場で、患者・オーギュスティーヌを供覧に付し「鏡をみて」「光がみえるね」「光を追って」と、彼女に催眠療法を施し、彼女の病態は卵巣ヒステリー症で、右目が麻痺しているヒステリー性ウインクの典型例だと診断しました。
 ヒステリーは19世紀初頭までは、女性の骨盤内鬱血によるものとされていましたが、シャルコーの催眠術療法を経て、フロイトでは無意識下での抑圧から発症するとされてきました。1990年代になって、アメリカ精神障害の診断と統計マニュアルで「解離性障害」と「身体表現性障害」に、WHOでは「解離性(転換性)障害」に分類され、今日ではヒステリーという用語は消えてしまいました。
 ある日、オーギュスティーヌは血まみれの動物たちの屠畜場の夢を見て、翌朝19歳にして、初潮を迎え、ヒステリー症は瓦解しました。
 オーギュスティーヌを演じるのは歌手のソコ。全裸で体当たりの演技をしています。シャルコールを演じるのはベテラン俳優ヴァンサン・ランドン。2013年第38回セザール賞にノミネートされた、官能的な作品でもあります。
  (協会理事 竹田正史)

映画紹介⑰「 鉄くず拾いの物語 ~An Episode in the life of an Iron Picker~」

映画紹介⑰「 鉄くず拾いの物語 ~An Episode in the  life of an Iron Picker~」

【2013年ボスニア・ヘルツェゴビナ・スロベニア・フランス合作/ダニス・タノヴィッチ監督】

「どうした?」
「お腹が痛いの」
「それは大変だ」
「医者に行かなきゃ」
 ある日、夫が仕事から帰ると、妊娠5カ月の妻が激しい腹痛でうずくまっています。
 舞台はボスニア・ヘルツェゴビナの小さな村。ロマ族の夫婦は2人の幼い娘と暮らしています。職のない夫が鉄くずを拾い、それを売って生活する貧しい家族に、突然飛び込んで来た苦難、苦悩をドキュメンタリータッチで描いた作品です。
「赤ちゃんが、お腹の中で 死んでるって」
 村の診療所の診断によると、五カ月の胎児はすでにお腹の中で死んでいる。命にかかわる状態なので、町の病院で手術を受けなさいといわれます。
 死んでいる胎児が、子宮頸管が閉じているために体外に排出されず、子宮の中に留まったままでいる「稽留流産(けいりゅうりゅうざん)」で、最初は出血、腹痛などの自覚症状がないので放置してしまい、胎児の腐敗、強い腹痛と出血、さらには敗血症など、母体は刻一刻と危険な状態に陥っていきます。
「搔爬手術さえすればすぐ よくなりますよ」
 夫は妻と子ども2人を車に乗せ、遠く離れた町の産婦人科病院にきました。
「とりあえず出血だけは止 めました」
「保険証がないのですが」
「手術代が980マルクかかります」
 夫は、今はそんな大金はない、分割払いではだめですか、このままでは妻が死んでしまうと、看護師に懇願しますが、
「院長は 分割払いはダメ だといっています。手術 を受けたいのなら、お金 が必要です」
と、病院から追い出されてしまいます。夜になり腹痛と出血が激しくなり、再び病院に駆けつけたが、院長の命令だからと診てもらえません。1日、2日と時間がたち、猶予のない状態が続きます。仕方なく、義妹がわたしの保険証を使えばといって、保険証を渡してくれます。
「保険証さえあれば、断らないよ」
「もう病院へは行きたくないわ」
「お前に何かあったら子どもたちはどうなる」
「死ぬかもしれないぞ」
 別の病院に行き、義妹の名をかたり、身分証明書の提示は、うまくごまかすことができました。
「なぜ今まで放置を?もう少し遅かったら、大変でした」
「有難うございました」
 すると、医者は「いえ、医師として当然のことです」と、ふんぞり返って満足そうにこたえました。
 手術が必要にもかかわらず、保険証がなくて高額な治療費が払えないために手術を拒否される理不尽な事件が起きたと、新聞でも報道され、これを知った監督は本人たちを訪れ、この映画を作ることになったと述べています。
 一人の医者は、お金がないなら治療はできないと追い返し、もう一人の医者は、保険証さえあれば本人確認もせずに治療する。この二人の医者はいつも自分の中にも住む嫌な奴らです。
 一度も演技経験がない事件の当事者たちが出演し、2013年ベルリン国際映画祭銀熊賞審査員グランプリ、主演男優特別賞を受賞した驚きの映画です。
  (協会理事/竹田正史)

映画紹介⑯「ダラス・バイヤーズクラブ~ Dallas Buyers Club~」

映画紹介⑯「ダラス・バイヤーズクラブ~ Dallas Buyers Club~」

【2013年米国/ジャン・マルク・バレ 監督】

「ロック・ハドソンがエイズで入院だとよ」
「ハリウッドの名優が」
 舞台は1980年代のアメリカ、テキサス州ダラス。政府、製薬会社、エイズ専門医はエイズ治療に有効な手立てが打てず、エイズ患者は瀕死状態。次々と死んでいました。
「HIV陽性と、結果が出ました。エイズを発症させるウイルスです」
「静脈注射によるドラッグや同姓との性交渉…」
「オレがホモだっていうのか?」
「健康体であれば500から1500はあるのに」
「T細胞の数が9」
「あなたの余命は30日しかありません」
 1985年、酒、女、賭博、ドラッグに明け暮れる電気技師のロン・ウッドルーフという男が、「余命30日」との宣告受けました。当時エイズ患者の71%が同性愛者、17%が静脈注射による麻薬常用者でした。
「肺水腫になると足がつる。肺炎はコカインのせい」
 アメリカではドイツのデキストラン硫酸、フランスのddc、イスラエルのAL721、日本のインターフェロンαなどは未承認薬でした。
「売ってくれ、金はいくらでも出す。オレはどうせ死ぬんだから」
 政府が臨床試験を許可したエイズ薬はもともと抗癌剤として開発されたもので、T細胞の免疫力の回復も見られるものの、組織細胞を破壊する毒性が強く、貧血、癌、骨髄機能不全、痙攣、発熱、難聴、勃起不全など、さまざまな副作用を引き起こしていました。
「オメエたち、医者が使う薬で90%の患者が半年以内に死んでいる」
「政府が外国の未承認の薬剤の使用を認めないなら、オレたちエイズ患者がやるしかない」
 男は未承認の医薬を販売する密売組織、「ダラス・バイヤーズクラブ」を組織し、エイズ延命のための未承認薬をメキシコ、フランス、ドイツ、上海、日本など世界中から密入し、自分たちで使おうと考えました。
「死んでもクラブは責任を取らない」、
「脳がやられても、ペプチドTを飲めば大丈夫」
「ゆっくり点滴しろ、インターフェロンα、とてもきつい薬だから」
「これは毒性の低い治療薬フランスのddcだ」
「免疫系の回復のためにビタミン剤と亜鉛を飲め。アロエと必須アミノ酸もだ」
「加工食品は食うな」
と、自己責任と自己管理を会員に言い聞かせます。やがてクラブは政府機関や病院と対立し、監視されます。
「死にたくないわ」
「死なないさ」
 男は、肺出血、止まらない咳、寒気、頭の割れそうな激痛など絶望的な病状を未承認の薬剤と健康管理で克服し、「余命30日」と宣告されてから7年も生き、1992年に亡くなります。切なさと悲しみ、力強さと勇気が充満した熱い熱い内容で、エイズについて深く理解できる驚きの作品です。
 すさまじい演技でエイズ患者を演じたマシュー・マコノヒーは第86回アカデミー賞で主演男優賞、ゲイのお友達を演じたジャレッド・レトは助演男優賞を獲得しました。
  (協会理事/竹田正史)

映画紹介⑮「朝食、昼食、そして夕食~18COMIDAS~」

映画紹介⑮「朝食、昼食、そして夕食~18COMIDAS~」

【2010年スペイン・アルゼンチン合作/ホルヘ・コイラ監督】

「あの音は何だ?」
「海老の唐揚げの音だ」
 映画は18に及ぶ食卓を舞台に、誰にでもある「人生のひとコマ」を切り取った群像劇になっています。
 舞台はスペイン。ガリシアの世界遺産の街、サンティアゴ・デ・コンポステーラ。
中年男2人がバルで朝から酔っ払って、山盛りいっぱいの海老の唐揚げを食べています。映画はこの2人の力強い朝食で始まり、昼食で盛り上がり、老人と若い恋人との切ない別れ話の夕食へとつながって行きます。
 食卓では食欲と魂が開放され、運命と心が揺り動かされてしまうことがあります。
「朝からビール?」
若い妻は仕事に出かける夫に素っ気ない態度です。
「今日、仕事ある?」
若いカップルはベッドから這い出し、コーヒーをそそくさと飲み、バイトに飛び出していきます。
「朝食をする約束だよ」
 脇役専門の男優は新しいテーブルクロスを窓ぎわに敷いて、トースト、生ハム、チェリー、コーヒーと恋人のために朝食の盛りつけをしています。
 夫と息子を送り出したあと、若妻は手作りの昼食に昔の恋人を誘います。
「料理するの?」
「子どもがいるから仕方なく」
旦那は仕事、息子は学校。ふたりの昼食に緊張した空気が流れます。
 八十を越えた老夫婦。部屋の隅の狭いテーブルで黙々と食べています。妻は夫の側で微笑んでいます。
「肉体美からして体育教師ならどう?」
「ゲイがバレるから?」
「あなたの夢をこの1週間見たの」
「旦那とは?」
「帰るなんていわないでくれ。最高のディナーを作るよ」
 脇役男優は恋人のために夕食の準備を始めます。
「フルーツ・サラダは食べないの?」
「せっかく作ったのに」
「彼が兄さんのために料理したんだ」
「ワインを開けたよ」
「後は肉を焼くだけだ」
 脇役男優は恋人にすぐ来るよう電話で催促します。
「あなたにとって奇妙で、変な女にうつるかも」
「兄さんには分からないだろうが、これが僕なんだ」
「何年も考え続けたんだ」
「僕は彼を愛している、だから彼を大切にする」
「1日中、考えていた」
「君が今朝ビールを飲んだわけを」
「数日、息子と旅に出たいの」
「いまテーブルに2人分のお皿を置いた」
「アルゼンチン風なパスタに」
「少々辛味のニンニクにオレガノ」
「君が息子とどこかに行きたいというのなら引き止めない」
「息子を愛しているし、今の生活が好きだ」
 金持ち老人と若い恋人が高級レストランの夕食で別ればなしをしています。
「孤独で苦しむのは辛い」と弱音を吐いています
 日常的な食卓の中で食べることについてなにかしら考えさせられ、なにかしら勇気づけられます。また、豪華な料理ではなく、ガリシアの人々が普段はどんなものを食べているのかよく分かります。
 若妻のエスペランサ・ペドレーニョ、恋人ルイス・トサル、ゲイや脇役男優の熱のこもった昼食シーンは圧巻です。

  (協会理事/竹田正史)

映画紹介⑭「サイド・エフェクト SideEffects」

映画紹介⑭「サイド・エフェクト SideEffects」

【2013年米国/スチィーブン・ソダーバーグ監督】

「眠ったまま殺す?」
「彼女は殺人犯?、それとも薬の被害者なの?」
 「本人は覚えてないのです」
「夢遊病はうつ薬の副作用です」
 この映画は「うつ病」の病態や処方される薬、副作用(Side  Effects)の夢遊病など、現代病「鬱」を映画を通して分かり易く教えてくれる作品です。
 映画は町全体を舐め回すカメラの空撮、ここが大事なところですが、カメラは大きな高いビルに向かって、ビルの1室、殺人現場に滑り込みます。
 オープニングは、ヒッチコックの映画「サイコ」の模倣ですが、この空撮はサイコ・サスペンス映画には多く取り入れられています。
 物語は事件の3ヶ月前。28歳の妻が心に毒の霧が立ち込めると表現する「うつ病」で病んでいます。
「社会復帰のパンフをもらったよ」
 出所した夫との生活が始まっても、駐車場内での自損事故、電車への飛び込み自殺未遂など「うつ病」による自傷や自殺行為が治まらず、夫の声かけにも、当人は眠りに落ちたままで歩き回る夢遊病状態という奇異な行動が頻発していました。
「抗うつ剤アブリクサでうつ状態改善し、新薬デラトレックで夢遊病を改善しましょう」
 ドクターのこの処方で妻の「うつ病」は快方に向かってきました。
「やっと眠れるようになって、夫婦の絆が戻った」と、ドクターは夫婦に感謝されます。
 しかし、引越しやパーティなどが重なり、「うつ」や夢遊病が再発するようになりました。
「やめろ!やめろ!やめろ!」
 ある夜、夫の制止も聞かず、夫の体を包丁でブス、ブスと突き刺して殺してしまいました。
「私は寝てて」
「起きたら彼が倒れてて」
「動かなかった」
「それしか覚えていません」
 妻はこのように証言し、TVに声名を発表しました。
「回復への希望を胸に、医師を訪れました」
「それが悲劇への道だとは、想像もしていませんでした」
 抗うつ剤販売会社は安全性や副作用の危険性を軽視していたのではと、事件の責任を問われます。
「彼女が薬の被害者だとすれば」
「あなたも訴えられることになる」
 主治医としての責任を負うたドクターは、女に処方した抗うつ剤について調査をしてみると、殺人事件の背後にある医師と製薬会社、投資会社の謀略にたどり着きます。
 頭の中が覗けるわけでないので、本当に精神を病んでいるのかどうかは分からない。
 患者に騙されるドクターの「やられたらやり返す」倍返しの痛快なラストは驚きです。
 ジュード・ロウ、「ドラゴン・タトゥーの女」の怪しいキュートなルーニー・マーラの魅力はこの映画を華やかにしてくれます。巨匠スチィーブン・ソダーバーグ監督の引退作品といわれています。
  (協会理事/竹田正史)

映画紹介⑬「モネ・ゲーム Gambit」

映画紹介⑬「モネ・ゲーム Gambit」

【2012年米国・英国合作/マイケル・ホフマン監督】

「計画通り、すり替えた?」
「ああ絶対にバレないよ」
「ピカソも描けるの?」
 舞台はイギリス・ロンドン、最高級のサボイホテル。主人公の男は美術の学芸員で鑑定士。自分の雇い主で思い込みと妄想癖の激しい美術コレクターには無能呼ばわりされています。
 男はこの屈折した不快な感情を晴らすべく、雇主の所蔵する印象派の巨匠・モネの本物の絵「積みワラ」を贋作「積みワラ」とすり替えてしまうという設定のリベンジ映画です。
 モネの「積みワラ」は1891年9月15日に完成しました。この題材の絵は「積み藁(夜明け)」と「積み藁(夕暮れ)」の2枚を描きました。「夜明け」の方はオークションを通して売却され、現在はこの男の雇主が所有しています。
 一方、「夕暮れ」はパリの美術館に所有されました。1941年、ナチがこれを略奪し、ゲーリング総督の別荘、カリハルに飾られていました。
 1945年に連合軍のパットン将軍がここを攻略し、テキサス州アルナゴ出身のブズナウスキー軍曹がこの絵を持ち出したといわれ、その後、絵は行方知れずになってしまいました。
 男はテキサスに住む軍曹の娘、カウ・ガールと日本人絵画コレクターも仲間に入れて、この計画を実行します。
「1200万ドルといい切れ」
「絶対に譲歩するな」
 贋作とは誰かが製作した絵画、彫刻、書物などの芸術品、工芸品などを模倣して作った物をいい、本物を知り尽くしてこそ、完璧な贋作ができあがります。
 世の中、デジタル化が進み、切り貼り、コピー&ペースト・・・と、加工など容易にできる贋作・捏造の時代になってしまいました。騙されるほうが悪い風潮の嫌な世の中です。
「あなたは積み藁の夜明けの片割れだけをお持ちですが」
「夕暮れと両方をお持ちになっていれば、その価値はもっとが上がります」
と、巧みに収集欲を煽り立てます。
「これはモネのインパストの技法です」
「この指先を使った、いとも繊細なタッチ」
「本物に、間違いございません」
と、鑑定士は断言します。
 しかし、もう1人の鑑定士は
「これは贋作です」
「インパストはモネの特徴だが」
「モネは重ね書きはしなかった」
 思い込みの激しさから統合失調症が疑われるような性格の男は、1度、本物と鑑定されたものは、後ですり替えられたとしても、気がつくことはありません。人間が何かを信じ、思い込んだ時の病的な盲点をトリックに使った映画です。
 映画は「泥棒貴族」のリメイクで、コリン・ファースとキャメロン・ディアスが演じ、素晴らしいモネの絵画を堪能できます。
 贋作ものの映画には、オードリー・ヘップバーンの「おしゃれ泥棒」。 贋札ものの映画では「ヒトラーの贋札」などのすばらしい作品があります。 
   (協会理事/竹田正史)

映画紹介⑫ 「故郷よ~ La Terre outragee~」

映画紹介⑫ 「故郷よ La Terre outragee」

【2011年フランス/ウクライナ/ポーランド/ドイツ合作  ミハエル・ボガニム監督・作品】

「森林火災が起きたので」
「行かなきゃいけない」
「上の命令だ」
 愛していると言い残し、男はそれっきり帰って来ませんでした。
 舞台は、ウクライナの廃墟の町プリピャチ。原発のあるチェルノブイリの町に隣接し、人口5万人の美しい町でした。
原発事故から10年が経ち今ではこの町に原発事故観光ツアーの人々が訪れるようになりました。
映画は故郷から強制退去させられ、原発事故によって人生を翻弄された女の「失われた故郷」への10年後の揺れ動く想い、葛藤を描いて行きます。
 物語は、原発事故の起きた1986年4月25日から住民が退去させられる29日までの5準備に追われて大賑わいでした。
 しかし、自然の異変は原発事故があったことを教えてくれていました。
 逃げ場を失った「こうの鳥」の大群が大空を埋め尽くし、野生の大鹿が人里に現れ、番犬はけたたましく吠え、牛は柵を越え暴れ回ります。りんごの木は赤く枯れ、小川には大量の魚が浮いていました。雷鳴が轟き、激しい雨が降り、気象は不安定になりました。原発周辺は、武装した軍隊が、非常線を張っていました。
 26日は、女の結婚式でした。マイクを握って「百万本のバラの花が/あなたの人生をバラ色に染める」と歌っている最中に、新郎は「行かねばクビになる」と半ば脅されて、「山火事の消化活動」に連行されてしまいました。
 暗雲が立ちこめ、振り注ぐ大粒の雨は墨汁のように真っ黒でした。
 原子炉の煙突からは、不気味な青白い焔が立ち昇っていました。
「彼に会わせてください」
「彼は大量の放射能を浴びています」
「なんで?」
「彼に会えばあなたも死んでしまいます」
 29日になって、やっと原発事故が起きたことが住民に知らされました。
「全員、家を出て下さい」
「私物の持ち出しは禁止です」
 住民は、ほんの2、3日の避難だと軽く考えていました。
 10年経って、事故が起きた4炉は厚いコンクリートの壁で固められ、その異様な姿は「石棺」と呼ばれるようになりました。
 女と母は隣町に住み、月の半分はプリピチャで観光ガイドをして暮らしています。
「解体作業員は発電所内の消火活動後、石棺を作りました」
「4000人が亡くなりました」
 母親は娘を心配し、
「いつまでも思い出さないで」
「結婚して子ども産みなさい」
 大観覧車は結局、誰も乗ることもなく赤く錆びついたまま、今も広場に残っています。
 ヒロインのこの女には、「007/慰めの報酬」でボンド・ガールを演じた魅惑的なウクライナ出身のオルガ・キュリレンコが起用されました。  
  (竹田正史/協会理事)

映画紹介⑪ 「愛、アムール/Amour」

映画紹介⑪ 「愛、アムール/Amour」

【2012年仏・独・墺合作/ミヒャエル・ハネケ監督】

「消防署です」
「誰かいますか?」
 室内に異臭が漂っています。部屋には大きなグランドピアノがあります。消防署員が室内を捜査しています。寝室ベッドには枕もとに花が散りばめられ、綺麗に身なりを整えられた老婆が弔われたかのように横たわっています。死後、何日も経っています。映画はここから始まります。
  舞台はフランス。とある閑静なパリの高級アパルトマン。元音楽教師の八十代の老夫婦が平穏に暮らしています。朝食中に、突然、妻が人形のように、動かなくなってしまいました。
「どうしたんだ?」
「アンヌ、わたしだよ」
 検査の結果、内頸動脈動脈狭窄症による発作だと分かりました。
 この病気の怖いのは、大脳への血流が不足し、狭窄部に形成された血栓は、はがれて脳に飛び、一過性の虚血発作や脳梗塞を引き起こしてしまいます。
 半身の運動障害や知覚障害、失語症、言語障害、構音障害、顔面下半分の麻痺、認知障害などの脳障害の症状が次々に起こり、顚末は悲惨です。
 妻の狭窄部の掻爬手術はうまく行かず、結局、右側四肢の麻痺から車椅子の生活になってしまいます。
 長年にわたって連れ添ってきた健康時の、いわば対等な夫婦の関係が一変し、介護される者と介護する者の関係に置き換わり、互いに不安に満ちた生活が始まります。
 映画は、この2人の間にいまにも良からぬ何かが起きそうな予感を感じさせ、見る者をハラハラさせるサスペンス・ドラマとなっています。
 元音楽教師の妻は気性が荒く、引き下がることの苦手なプライドの高い女。夫は相手に譲るタイプの主体性に欠けがちな優しい男です。2人の関係は補完関係にあり、良好な男女関係でした。
 しかし妻の身体が半身麻痺で、移動も、食事も、トイレも夫に依存せねば生きて行けなくなると、自尊心の強い女には耐えがたい屈辱です。
 男が妻の介護をする姿は、傍から見ると美しい愛に見えるものの、その愛は深刻です。
「どちらにしろホスピスに送られるだけだ」
 夫は雇っていた看護師もヘルパーも娘の手伝いもみな断ってしまいます。
「あなたには感謝しているけど」
「もう終わりにしたいわ」
 夫は鍵を掛け、誰も中に入れなくしてしまいます。
「水を飲まないの?」
「脱水で死んじゃうよ」
 口に含んだ水を夫の顔にツバと一緒に吹っかけようとします。夫は思わず、妻の顔を引っ叩いてしまいます。夫は、妻の依存を一身に受けている喜びを失い、やがて妻の顔を枕と布団に埋め尽くしてしまいます。
 この映画は第六十五回カンヌ国際映画祭でパルムドール賞を受賞しました。
「ファニーゲーム」「白いリボン」のミヒャエル・ハネケ監督が描く追い詰められた老夫婦の「愛、アムール」と、谷崎潤一郎の「春琴抄」の「偏愛」とが重なるのを感じます。          (竹田正史/協会理事)

映画紹介⑩「誤診~First do no harm」 1979年米国/ジェームズ・ブリッジス監督

映画紹介⑩「誤診~First do no harm」 1979年米国/ジェームズ・ブリッジス監督

「医療に忠実たることを誓います」
「己れの診断により、患者のために」
「何よりも患者に害をなさぬことを」
 映画は「ヒポクラテスの誓い」から始まります。
 ひとりの母親が息子を薬漬けにしてしまう医者のやり方に不安を抱き、息子を救うために駆けずり回る衝撃のメディカル・サスペンスドラマとなっています。
 舞台は、アメリカのカンザス・シティー。3人の子どもに恵まれ、幸せに暮らす平凡な普通の夫婦の末っ子の幼いロビーに突然に悲劇が訪れます。
「ロビーが学校で転んだそうよ」と電話が入ります。これがロビーの最初の軽いてんかん発作でした。
「ママ、早く来て!」
「ロビーが変だ」
 ロビーはからだが硬直して身動きしません。これが2度目の発作でした。
「突発性てんかんで…」
「突発性って?」
「原因不明ということですよ」
 CT、造影剤X線。脳波、脳腫瘍、腰椎穿刺などさまざまな検査を受けます。
「70%の子は 最初の薬で発作をほどよく抑えられます」
「まずフェノバルビタールを試してみましょう」
 薬による幻覚症状、興奮、発熱などの副作用が発生し、副作用を抑えるための更なる薬の投与となり、悪循環が重なっていきます。子どもはみるみるうちにやつれて行きます。
「今度の薬は」
「ジラチン」
「フェノバルビを減らしジラチンを増やしているの」
「ロビーは実験台みたいに薬を試されているんだ」
と同じてんかんを持つ友だちの忠告を受けます。
 後になって、夫が会社の支部に移動したため、無保険になっていることがわかりました。病院からの高額な治療費の請求で家計は火の車になってしまいます。息子のてんかん発作のために家庭が壊されていきます。
「どこかが間違っているわ。治療のはずが悪くなるばかり」
「薬を与え、その副作用を治すのにまた薬」
「その副作用にはまた別の薬」
「息子は発疹が出て、「リンパ腺が腫れ、痔になり、歯茎が腫れ」
「酔っ払いか、ゾンビみたいにフラフラだわ」
「それって病気のせいなの? 治療のせいなの?」
 母親は必死で病気の本を集め、ある治療法を見つけました。
「ケトン体産生性食事よ」
ホプキンズ大学病院で検証されていた「ケトン食事療法」でした。
「別の選択をします」
と病院の手術の提案を拒絶します。
 ケトン食事療法とは、糖・炭水化物を減らし、脂肪を増やした食事で、血中のケトン体を増加させ、人為的に絶食状態を作ります。その絶食状態がてんかんの発作を抑えるという治療法です。
 母親はこの治療法に可能性を見出し、息子のてんかん発作を克服していきます。
「マーガレット・サッチャー、鉄の女の涙」で見事な演技でアカデミー・主演女優に輝いたメリル・ストリーブを主演にして1997年に作られたアメリカ合衆国のテレビ映画です。
  (竹田正史/協会理事)

映画紹介⑨「ジャンゴ~DJYANGO~」 2012年アメリカ/ スクエンティン・タランティーノ監督

映画紹介⑨「ジャンゴ~DJYANGO~」

【 2012年アメリカ/ スクエンティン・タランティーノ監督 】

白人が黒人を奴隷にして、どれほどひどいことをしていたかを描いた映画「ルーツ」「マンディンゴ」に続いて、クエンティン・タランティーノ監督は最新作「繋がれざる者 ジャンゴ」を作りました。
「奴隷商人を探しています」
「私はドクター・キング・シュルツです」
「何の医者だ?」
「歯科医だ」
映画「DJANGO」の舞台は1858年、南北戦争の3年前。奴隷制を真っ正面から取り上げました。
鎖で繋がれた6人の奴隷が、灼熱の砂漠を移動しています。馬に乗った3人の白人が銃とムチで護衛しています。映画はこの残忍苦痛なシーンから始まります。
ドイツ人歯科医と黒人ジャンゴの2人は賞金稼ぎをしながら、ジャンゴの妻を奴隷にしている冷酷無比なミシシッピーの大農園主を打ちのめし、愛しい妻を奪還しようとする痛快ラブストーリーです。
農場主は奴隷同士の死闘を楽しみ、脱走を図れば、犬の食餌にしてしまいます。女には子どもを生ませ、繁殖した子どもは、奴隷市場で売りさばきます。奴隷をいじめ殺して、喜んでいる最悪の変質者です。
この農場主を演じるのは、悪役がはまり役となったレオナルド・デカプリオです。
2つの映画を合わせて見ると、「リンカーン」も「ジャンゴ」も、より面白くなります。南北戦争が終わって以降百年、新たな黒人差別社会が始まります
ちなみに、日本では憲法第18条が奴隷禁止条項であります。
(竹田正史/協会理事)

映画紹介⑧ 「リンカーン」

映画紹介⑧ 「リンカーン」

「黒人は皆殺しにされました」
「俺たちも南軍の白人を皆殺しにした」
映画は靴で敵の顔を踏み潰し、北軍の黒人は銃剣で南軍の白人を容赦なく、南軍の白人は黒人を串刺しに。怨念に満ちた熾烈なジェンキンズ・フェリー戦場のシーンから始まります。
その時、1865年1月、大統領再選から2ヶ月たち、南北戦争は4年目を迎えていました。 南北戦争(1861~65年)は、奴隷制度を廃止し、保護貿易を進めるリンカーンの政策に反発して、奴隷制度を存続させ、自由貿易を求めて離脱した南部11州との内戦。戦況は北軍に優位。残された課題は「奴隷開放宣言」を確固たるものにする合衆国憲法修正第13条を下院で早く通過させ、戦争を終結することでした。
法案を通すには共和党内の急進派をなだめ、野党の民主党議員を取り込まねばなりません。
「修正案第13条!」
「通れば400万人の黒人が開放され」
「白人が脅かされる」
映画は法案成立までの政界裏工作を丁寧に描いて行きます。「奴隷制もしくは自発的でない隷属は、アメリカ合衆国内およびその法がおよぶいかなる場所でも、存在してはならない」これが憲法修正第13条です。
残念ですが、この映画ではスピルバーグ監督は黒人奴隷の悲惨な状況まで描きませんでした。
 リンカーンに扮するのはミュージカル映画「ナイン」などを演じたダニエル・ルイ=ルイスです。

 

A DANGEROUS METHOD ~危険なメソッド~

A DANGEROUS METHOD~危険なメソッド~

2011年 イギリス・ドイツ・カナダ・スイス/デヴィッド・クローネンバーグ監督

 かもめ①修正版:宮戸島2013-03-17_14-33-13_289

「私は君を担当するユングだ」
「精神病じゃないわ」
 映画はフロイトとその後継者と目されていたユングとの決裂がどのようにして起きたのかを解明しようとするサスペンス作品です。 舞台は1904年、チューリッヒのブルクヘルツリ病院。
 29歳の精神科医ユングは、フロイトの「談話療法」を運び込まれた「統合失調症」の若いロシア系ユダヤ女性を治験します。
「毎日君の話を聴こう」
「1、2時間だ」
「聴くだけだ」
 フロイトの談話療法(精神分析治療)は、意識の下に眠っている抑圧された性的な願望や激しい感情、道徳観に背く考えを患者自らの自由連想で見付だし、それを言葉に出せば、病気は改善方向に向かうというものです。一種のカタルシス(解除反応、浄化)療法です。
「4歳くらいの時、お皿かなにかを割って」
「父親は怒って、お尻を叩いたわ」
「すごく怖くておもらしをしたら」
「またぶたれたわ」
「それに興奮し、とても気持ちよかった」
 女は幼少期の体験を吐露し、意識下にあつた性的トラウマを引き出すことに成功します。この解除反応のあと、彼女の統合失調症は劇的に治癒していきます。

すすきDSCF0820 一方、映画では、ユングが自分が編み出した言語連想実験で妊婦の深層の心理を探ろうとする実験映像を見せてくれます。
 連想実験は簡単な単語を用意し、性的単語に対して「男」などと被験者に連想してもらい、応答にかかる時間の測定をします。
「夫の関心を失うのを恐れている」などの深層心理を引き出します。
 元精神科医で患者のドクター・グロスはユングに乱暴な提案をします。
「一夫一婦制が性の抑制の片棒をかついでいる」
「思うがままに快楽に身を委ねろ」
「そうすれば神経症もヒステリーも治る」
そしてドクター・グロスはユングに尋ねます。
「患者と寝たことは?」
ユングはグロスの提案を取り込んで、医師と患者の一線を超え、この医者志望のロシア女患者と秘密の情事を重ねてしまいます。
 貞淑な妻よりもはるかに魅惑的な患者との危険なメソッドに囚われ、欲望と罪悪感の狭間で激しく揺れ動きます。
 フロイトはユングに警告します。
「神秘主義に迷うのは危険だ」
 ユングもフロイトに反発します。
「なんでもかんでも性衝動一辺倒では幅が狭い」
 フロイトとユングの決裂にはふたりの理論の違いが大きいが、他にも違いが対比的に描かれます。
 フロイトは小柄でアパート住まい。八人の子供。貧しいユダヤ人。ユングは長身で大富豪の家柄。レマン湖畔の豪華な家。赤い帆のヨット。豊かなアーリア人でした。
 この映画は名優たちの演技の気迫が見るものを圧倒し、フロイトやユングを身近かなものにしてくれます。 
(協会理事/竹田正史)

東ベルリンから来た女 “Barbara”

東ベルリンから来た女 “Barbara”

     2012年ドイツ/クリスチャン・ベッツオルト監督

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 映画は女が病院前でバスから降りるところから始まります。

「彼女か?」

「絶対早めには来ない」

「そういう女だ」

 2人の男が病院の2階の窓から外のベンチに座り、タバコを吸いながら、定刻まで時間を潰している女を見ています。張り詰めた空気が流れています。

 映画の舞台は1980年の夏、東ドイツ。ベルリンの壁が崩壊する九年前のことです。西ドイツへの脱出を計画する女が、ある選択を決断するまでの日々を描いたドラマです。

 この女は女医で、恋人の住む西ベルリンに行きたい一心で外国旅行許可申請をしました。しかし申請は却下され、東ベルリンの大病院での勤務を外され、逃走のおそれがあると、秘密警察の24四時間の監視が付き、ベルリンを遠く離れたドイツ北部、バルト海沿岸の田舎町に赴任させらます。不審な遠出をすると、秘密警察がこれを嗅ぎつけ家宅捜査はもとより、女性警察官により膣の中まで調べる身体検査を行ないます。

 近くの労働収容所から脱走した少女が担ぎ込まれてきました。

「ダニによる髄膜炎か?」

「真ダニの生息地の草むらに6日間隠れていた」

「髄液の採取をするわ」

 土地の若い青年が失恋から3階からの転落自殺を図り、病院に搬送されてきました。

「膝関節の脱臼、頭部負傷です」

「頭蓋のX線写真では血栓ができた可能性があるわ」

「診断には開頭が必要よ」

 青年に脳障害が発症します。

 女は病院での忙しい日常の診療業務を淡々とこなしています。

 しかし、いつ密告されるかもしれないという猜疑心に固まっているので、誰にも心を許せません。病院の職員にも、優しく接してくれる上司の男性医師にも距離を置き、自分の方から馴染もうとしません。

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 しかし、男性医師は女に心を開くよう辛抱強く何度も話しかけてきます。

「来週  遠心分離器が届く」

「君も、作ってくれないかな?」

「ねえ、あなたはなぜこんな田舎にいるの?」

 男は「保育器では助からない子を助ける未熟児用の機器の操作を自分の助手が間違えて、圧力が異常に上昇し、2人の子どもの網膜が破壊された。その責任を取らされ、ここに回された」と告白します。

 しかし、男はそんな目に合わされても、誠実に東ドイツで生きようとしています。

 

 西ベルリンに住み、豊かで、セクシーな都会的な恋人と、貧しく、凡庸なこの田舎風の男とでは、まるっきりタイプも生き方も違います。2人の男の狭間で激しい性と静かな思いに揺れ動く女。

 この女がどちらの男を選ぶのか、女のサガが流れる緊迫したサスペンス映画です。

 この映画は、表面的には会話の少ないとても静かな仕上がりになっています。

 

 ニーナ・ホス演じるヒロインの女医バルバラが、海鳥が鳴き、強い風でざわめく林の小道を自転車で走り抜ける姿、知的で頑とした美しさは抜群です。

 2012年ベルリン国際映画祭で銀熊賞の監督賞を受賞しました。

                                                        (協会理事/竹田正史)