歯科界の 私的回想録

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.17】 壁を越えた人的交流に新たな展開

4つのグループと貴協会「メディア懇談会」の存在

2023年度も終わる時期になり、歯科界も新たなスタートを切ろうとしています。私も仕事柄、歯科大学、歯科技工士学校、歯科衛生士学校、歯科関連企業などの新入生・新入社員との新たな交流が始まります。

今回は、私が記者として初めて歯科界の門をくぐった1990 年以降、4つのグループ、および貴協会主催の「メディア懇談会」における人的交流を通じて、貴重な財産となった具体例を紹介します。

▼「齲蝕予防領域」グループ

まず、「齲蝕予防領域」グループです。歯科分野の主な臨床領域は外科、補綴、歯周、小児、矯正などですが、異例とはいえ某歯科大予防関係者、歯科衛生士、雑誌編集者などが個人の資格で集い、雑談や意見交換をするステージとしました。

当時は、まだ臨床家にとって予防は関心が薄く、齲蝕予防にフッ化物応用が浸透していない時代でしたが、本来は大事な分野のため、既にその重要性を評価していた臨床家グループとの出会いがありました。

雑談や議論が白熱し、自然と勉強になり、齲蝕予防の背景や海外の予防先進国の事情を知り、その見方と見識も広まり、そこで得たものは現在の私の歯科問題に携わる基本姿勢につながっています。

▼「マスコミ」グループ

次は、ある意味でご法度の「マスコミ」グループです。現在の歯科記者会とは別に、私が書籍編集者、広告代理店営業部員、歯科書籍の卸・営業部員などから抜てきした有志による歯科マスコミのグループです。

ここでは編集者の経験にもよりますが、出版社による違いを実感。多々勉強になりました。

仕事上、送付されてくる書籍は、すべて一読して書評します。中にはその後、全国的に著名になった歯科医師もおり、予想外の展開にさまざまなことを学ぶ機会もありました。

当時はまだ、大学教授を始めとする教員と開業医との区別意識が歴然としていた時代でした。そのため、開業医の書籍刊行は大変珍しく、歯科界でも〝大学〞に一目置かれている時代でした。私のみならず、マスコミの多くは「言ってはいけないことは言わない。これが原則だ」と念を押していました。

▼「歯科界論客交流会」グループ

そして忘れてはならないのが「歯科界論客交流会」グループです。これは、人脈と縁による歯科医師で臨床と医政に強い関心を持つ人に声をかけてできた交流会です。

「地方で論陣を張っている歯科医師が〝酒席での会話で終わり〞では残念だ」との発言から賛同者が次々と現れ始め、「意見対立でも分裂は回避すること」「お互いの意見の相違は認めること」「感情論はなし」などを掲げてのスタートでした。某先輩からは、「歯科は、次世代に移行しないと本当に時代遅れになるし、地味でも勉強はし続けなければダメだ」と激励されました。

私にとっては、国公立・私立、都心部と郊外などの類型を問わず、歯科医師としての熱い思いと意見を聞くためには、欠くことのできない貴重な〝場〞となりました。時には、さまざまな壁・抵抗感・不快な言動もありましたが、それを乗り越えたからこそ、現在の〝財産〞ができたと理解しています。

貴協会の「メディア懇談会」について

最後に、貴協会の「メディア懇談会」について触れます。

元々貴協会は、歯科界から「組織として、保険診療で良質な歯科診療の実現を主張している」と評され、一目置かれていましたが、その貴協会が2008年3月にメディア懇談会を立ち上げるとのことで、これに参加したのが私の貴協会との付き合いの原点でした。

参加は一般紙・歯科専門紙、記者・編集者を問わず、オープン形式での開催でした。一般紙と歯科専門紙では、関心を寄せる問題意識は類似していても、捉え方が違うケースがありました。また、貴協会会長をはじめ、参加した編集者や記者から直接、説明と意見や見解などを聞くことができ、学ぶことも多く、モノの見方も広がり、ここでも新しい出会いがありました。

時間の制約もあり、担当役員との質疑応答が十分にできないことが残念ですがその時の返答から〝喜怒哀楽〞が伝わり、これにも意味がありました。今後の開催に期待しています。

「東京歯科保険医新聞」2024年3月1日号(No.648号10面掲載)

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オフィス  オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立してオフィス  オクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.16】 歯科大学受験背景・歯科人生のスタート

さまざまな経緯から歯科医師を選んだ5氏から学ぶ

2024年1月13・14日の両日は、大学受験生自身の学力レベルを測る大学入学共通テスト(実施主体は独立行政法人大学入試センター)が多数の国公私立大学で実施された。この前哨戦ともいえる試験には、歯科医師を目指す受験生も参加している。

今回は、大学入学試験合格後、歯科医師国家試験に合格し、晴れて歯科医師となり、現在も診療に従事している歯科医師5氏について、共通試験がなかった時代の大学受験の背景と現在を紹介し、改めて歯科大学を考察するための参考に供したい。

◆営業マンから転身…多彩な人生模様

A氏は、歯科技工士となり歯科診療所の院内技工所に勤務したものの、苦労を重ね悩んだ末、歯科大を受験、合格した経歴を持つ。「歯科大受験で高校時代を思い出しましたが、もう後がないので必死でした」。歯科診療所を開設してから年経過、院長として奮闘中。歯科技工士として苦労した経験から、歯科技工士には丁寧に接するよう心がけているという。ご本人は「無理はしません。歯科医師の見方もありますが、技工士さんが苦労する箇所を知っていますから」とWライセンスの視点が自然に出てくるようだ。
次に紹介するB氏も歯科技工士として養成機関のインストラクターとして勤務。歯科技工士の世界でも名を残し、専門雑誌でも紹介され、特にクラウン・ブリッジが得意で専修科まで進み、その技術は卓越していたが、歯科医師への思いが断ち切れず歯科大を受験し、合格した。歯科医師となった後に入会した日本補綴歯科学会の学術大会に参加した時は控えめに〝歯科医師〞としての観点から質問をしているが、「技工士時代は、インプラントの評価が定まっておらず、業界雑誌も特集がない時代でしたから、隔世の感があります」とコメントしてくれた。
続くC氏は、父親は開業歯科医師であったが、筑波大に入学し体育専門学群マンをしていたが、サラリーマン生活をやめ、歯科大学受験に挑戦し、見事に合格。さらに、新卒で国試に合格。歯科医師としてスタートしたが、「合格してホッとしました。正直、お金もかかったためこれから借金の返済です。でも、私は歯科診療が楽しいです。別に親に反発したのではなく、高校時代に大好きなテニスで全国大会に推薦される結果を残したため筑波大に進学しました。両親も、よく容認してくれた思います」と両親に感謝。「今は、地区歯科医師会のテニスクラブに入会しています」と語る。
また、D氏は「国試不合格」という辛い経験。まさに国試浪人を経て晴れて合格し、念願の歯科医師になった人物だ。「周囲の目もあり、クラスメイトに会うのも控えるようになった。恥ずかしさと不甲斐なさもあったが、歯科医師を諦めるわけにいかず、本当に落ち込んだ」「新卒の時は自己採点して、厳しいかもしれないと『実感』。甘くみたわけではないが油断があったのかも。受験生に言いたい。油断禁物!です。試験が終わるまで全力で」と警笛を鳴らしている。
最後のE氏の母校は、国試合格率は芳しくなかったが、「国試の自己採点はそれなりの正解率だったので必ず合格すると思っていました。後日、大学からは、『君は、本学の国試合格者全員の中でトップクラスの正解率だった』との話を伺いました」と語った。
以上の5氏は、今も自ら選択した「歯科人生」を着実に歩んでいる。特に歯科大学では、一生の友人や恩人となるような人との縁や出会いがあり、歯科人生の「スタートの場」でもあるようだ。

 

「東京歯科保険医新聞」2024年2月1日号(No.647号10面掲載)

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オフィス  オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立してオフィス  オクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.15】 大学文化祭から学び実感した現実とは大学文化祭から学び実感した現実とは

歯系大から総合大学に視野を広げて実感したこと

◆「井の中の蛙大海を知らず」の喩え

月の連休が過ぎ大学文化祭のピークは過ぎた。今年は例年と違い、東京医科歯科大学(東医歯大)、東京歯科大学(東歯大)、東京工業大学(東工大)、明治大学、法政大学、早稲田大学の文化祭巡りを行うという私としては初めての経験をしたが、様々なことを考察する機会になった。「井の中の蛙大海を知らず」という言葉があるが、まさに歯科とは直接関係のない〝文化祭〟でそれを実感することとなった。

◆学生の問題意識再確認で驚きを覚える
まず、2024年月1日に東工大と統合する東医歯大。残念ながら、あいにくの荒天のためか、来場者が極めて少ない現実を見せつけられた。そして、歯学部の存在を感じることはなく、学生のコメントを得ることはゼロ。受付担当の医学部学生も歯学部との連携の不具合からか、その対応は困惑した様子であった。 続いて東歯大。東歯大への高い評価について、実行委員長に感想を尋ねると、「建学者である血脇守之助先生の言葉『歯科医師たる前に人間たれ』は意識しています。奢ることなく、来場する人の数に関係なく、謙虚に対応です」との言葉に驚愕した。立場があるとしても敬服。東歯大生としての問題意識・母校愛を見せつけられた。
 新型コロナ対策への「制限なし」としては数年ぶりの本来の文化祭の姿に戻った東工大。とかく難関校・理系の堅いイメージが先行しがちだが、全体規模、企画展示数、活気ある来場者数と往来の様子、学生の問題意識を再確認した。「〝東京工業大学〟に憧れて入学しました。それが学生の途中で大学統合。新大学名は〝東京科学大学〟ですか?ガッカリです。でも上の偉い人が決めたことですから仕方ないです。目標は大学院に進学して、社会から評価される研究に専念することです。やはり東工大が大好きです」と本音を吐露していた。

◆文化祭から垣間見る大学と学生と将来と

翻って総合大学。4年制総合大学である明治大学は新たなキャンパスでの開催ということで、学生がエンターテイメントを中心とした企画に溌剌・活発に文化祭を満喫。新設の校友会コーナーでは、「親父より上ですが、先輩に会えて楽しいです。やはり〝明治は一つ〟ですね」と、会話の中での一言で歓談は続いた。同様に法政大学も新キャンパスで自由活発に来場者に積極的な営業対応する姿が目立っていた。「法政も頑張っています。新しい法政を私たちが作ります」と、女子学生の威勢のいい声掛けに右往左往。また、最寄り駅から行列の早稲田大学では、伝統を再考させられた。政治家による対談など〝硬派向けの企画〟もあり、硬軟取り合わせた企画や研究発表に注目。それには「早稲田らしい」と納得。「早稲田は社会に意見を言います」と雄弁会会員の言葉が印象的であり、旧来の文化祭の残像を残していた。
 まさに〝文化祭〟から、大学・学生、そして将来が見えてきます。

◆卒業後も先輩・後輩の人間関係は続く
文化祭では学生との裏話を含めた会話に浸ることが大半であったが、青春の一部である「文化祭」には、その大学の個性が反映しているのを肌で感じた。「母校の文化祭が一番楽しい」という感情は当然であり、思いを寄せるは自然である。その一方、企画点数、模擬店数・内容、研究成果などを見聞きして理解が進み、発表・説明者に説明を求めて話が弾むなど、貴重な時間になった。各人は母校で過ごした時間は消すことはできない。まして母校名は、一生背負って生きていくものだ。卒業後の進路はマチマチであるが、先輩・後輩の関係は続いていく。

◆勘違いに浸りながら得意満面に
歯科大学も歯系大学があり、それぞれ歴史・伝統を構築している。建学の精神を再確認・維持していくことは大学の責務かもしれない。母校以外の大学については、「名前だけは知っている」のは普通であり、専門家でない者は他の歯系大学の歴史・文化は知らない。「イメージと言葉」が一人歩きをし、そこにいる自分は〝井の中の蛙〟かもしれない。社会を見る目にはその自覚が必要であり、常にそこが問われているのかもしれない。私自身、ネット社会という情報過多に覆われた社会に、知らないうちに生かされている側面もあるが、その中で自分自身による判断・決断を日々余儀なく行っている。取材という「人に会う仕事」をしていると、「すべて知っている」という勘違いに浸り、そこには得意満面になっている自分がいるのかもしれない。

 

「東京歯科保険医新聞」2023年12月1日号(No.646号10面掲載)

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オフィス  オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立してオフィス  オクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

 

 

 

 

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.14】近年の健保法改正研究会の動向に注目

「日弁連意見書」の趣旨反映を期待

◆健康保険法改正研究会の活動に注目集まる
健康保険法改正研究会(共同代表・弁護士:井上清成氏、石川善一氏)が新たなスタートを切ったことが注目されている。特に、保険医に対する指導・監査、患者調査などを巡り、健保法をクローズアップしていることに関心が集まっている。

◆第11回シンポジウムと指導・監査・患者調査
健保法は制定されて約100年が経過するが、医療界で必ず議論になる指導・監査について、日本弁護士連合会が課題視された項目をピックアップし、2014年8月22日付けで「健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書」として発表し、その理解を求めていた。その後の改正を含め、興味深い指摘と新たな課題を整理して問題提起をしている。
去る9月3日に健保法改正研究会が開催した第11回シンポジウムでは、その意見書を参考としつつ、「指導・監査における患者調査」など新たな資料をもとに7項目を示し、担当弁護士がそれぞれ解説した。具体的には、①選定理由の開示、②指導対象とする診療録の事前指定、③弁護士の指導への立会権、④録音の権利性、⑤患者調査に対する配慮、⑥中断手続きの適正な運用について、⑦指導・監査の機関の分理及び苦情申立手続きの確立―となっており、特に現実的な視点から⑤について議論が行われた。

◆国民の適切な医療を受ける権利擁護
意見書は、「保険医への信用棄損を最小限とするように配慮し、事実を的確に把握できる調査手続きをとり、調査結果を保険医等に提示するべき」と明記している。
この患者調査の意味合いの重さを共同代表の井上弁護士から、自身の経験事例を踏まえて、次のような説明があった。
「患者調査はいつ、どのような話、方法などは知らないもの、というより知らせないで実施。既に、 患者自身も『何を話していいのか』『どこまで話していいのか』など、素朴な感想を持ちますが、厚生局としては指導・監査の裏づけになる事実を取れればOKなのです。「患者調査」がある程度進んで、患者から相談を受けてからですと、その対応には苦労します。それは事実ですか ら…」。

今回の意見書の基本的視点は、「根底には『国民の適切な医療を受ける権利擁護』があるのですが、具体的に、診療報酬明細の平均点数が高いと、内容に問題がなくとも個別指導の対象に繰り返し選定されること」と指摘。さらに、「個別対象になると、不利益処分のおそれがある一方で、手続保障がなされていないこともあり、その選定にされないように、診療報酬の点数を抑える意識が働き、結果として患者・国民が本来受けられる、あるいは受けるべき医療を受けられないことがあり得る」とし、これを問題点に指摘した。明解な論理である。


◆対応認定弁護士制度

さらに、興味深い報告があった。研究会のこれまでの活動を支える人材として、保険医が適正な手続きで指導・監査を受けることができる権利を保障するため、指導・監査の制度に精通し、経験を積んだ弁護士を養成するのが狙いの「保険医指導・監査対策協会」を創設し、それを担う「対応認定弁護士制度」を設けているが、これが29人から32人に増員され、その理解が徐々に広まってきていると報告した。
こうした新しい動向に期待が寄せられている中、指導・監査を巡る保険行政の環境も変化してきているが、橋本賢二郎弁護士からは、「指導・監査の問題は必ずしも容易でなく、ハードルは高いのは事実」と冷静な対応を求める意見も提示されており、その意見などを踏まえながら着実に前に
進む可能性を示唆していた。


◆副代表で自民党衆議院の橋本岳議員が私論
なお、研究会副代表を務める自民党の橋本岳衆議院議員がシンポジウムの前に「かかりつけ医、分娩費用の保険適応と改正保険法」「研究会としての取り組み」などの経緯を説明しながら、財務省の意図や諸事情などを「個人的意見・推察」と前置きしながらも言及した。例えば、「まず分娩費には地域格差があります。現在は、出産費用は医療機関が自由に決めることができます。政府としては、保険適用で経年的に高騰する費用負担を抑えることに、最大の意図があります」とし、最後は、「財務省なりの理屈があるが、基本は予算削減で、財政のバランスを強調するが、まずは財政緊縮です」とまとめ、問題意識を示唆していた。
 いずれにしても、指導・監査を巡る保険行政の環境が変わりつつある中、慌てず確実に進めて行く時期に来ているようだ。今後も健保法改正研究会の動向に注目していくべきである。

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オフィス  オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立してオフィス  オクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.13】東京歯科保険医協会が50周年記念シンポ開催

歯科の今後を巡り田口東京歯科大教授と宮原基金歯科専門役が講演

会員数が6000名を超えた東京歯科保険医協会(坪田有史会長)が、9月10日に千代田区平河町の都市センターホテルで設立周年記念企画を開催し、シンポジウム「これからの歯科を考える」を実施した。
このシンポジウムには、東京歯科大学教授で元厚生労働省医政局歯科保健課長の田口円裕氏、社会保険診療報酬支払基金審査統括部歯科専門役で前厚労省保険局歯科医療管理官の宮原勇治氏がシンポジストとして所見を紹介した。
両氏ともその経歴から関心を集めたが、今後の歯科医療の方向や診療報酬改定などに示唆を与える内容が多数あり、参加者からは高い評価を得たようだ。

◆田口円裕氏の講演内容

まず、田口教授は現状認識として、「日本の人口動態」「地域包括ケアシステム」「2040年を展望した社会保障改革の新たな局面と課題」などの経緯・背景を中心に説明。臨床的な視点からも「う蝕有病率とう蝕の処置状況の年次推移」「20歳以上の歯を有する者の割合の推移」「4ミリ以上の歯周ポケットのある者の割合」などについて、具体的な数字を示して展望した。
一方、歯科にとって看過できない「歯科保健医療を取り巻く基本施策」を全体からの観点から逐次説明したが、特に開業医にとって懸念される「診療報酬改定の概要」についてもポイントを指。
最後に、これからの歯科保健医療の在り方として、私見と断りながらも「歯を残す技術の評価」
「地域歯科保健と歯科医療の連携」「予防給付的評価の導入」「口腔機能に着目した評価」「健康格差解消に向けたエビデンスに基づく施策推進(一次予防による歯科疾患予防)」を挙げた。そして歯科医師・研究者には、「患者への適切な歯科医療や歯科保健管理の支援」がポイントとした上で、結論として「個人の歯科疾患予防と口腔機能維向上と公衆衛生的視点を持った対策が不可欠であ、歯科保健医療政策の推進になる」とし、歯科診療も〝診療所完結型”から“地域完結型”に移行していくことを前提にしていくとが基本政策である」とした。

◆宮原勇治氏の講演内容

続いて宮原基金歯科専門役は、コロナ禍の時に厚労省保険局医療課で歯科管理官を務めていた経験あり、厚労省として慌しく対応していた経験を明らかにしながら、政府の資料類のデータの見方や読み方、言葉の解釈などをユーモアを交えつつ、歯科保険診療の視点から解説を進めた。歯科保健医療を取り巻く基本政策を再確認しながら、口腔保健推進に関わる法律概要を基本的事項策定、財政上の措置。特に、診療報酬改定の説明では、中央社会保険医療協議会(中医協)の裏舞台の一部を紹介した。
この中医協で診療側、支払側の議論・意見が対立した場合の微妙な「落としどころ」のヒントも指摘した。支払側の発言・意見が大きいことは事実だと理解しているようで、水面下での議論で意識しておくことは重要であることを示唆。
また、一般には知られていない「診療報酬と補助金」の関係にも言及。特に、補助金の定義・在り方については歯科医療界の議論では、あまり聞かれない内容であり、貴重な情報でもあった。
最後は、「診療側だけの議論では進みません。患者に何がメリットになるのか説明できなくては難しいです。この視点をクリアにしなくてはダメですね」と改めて強調していた。

◆質疑応答の模様

両氏の講演を終えた後、会場から「中医協で支払側から″重症化予防〟という歯科の今後を巡り田口東京歯科大教授と宮原基金歯科専門役が講演東京歯科保険医協会が50周年記念シンポ開催田口円裕氏宮原勇治氏ことを指摘して、疾病対象の保険診療には如何かという趣旨の発言がありましたが、田口先生はどう思われますか」と質問されると田口教授は「以前から釈然としない思いはありまし
た。元々予防の分野の人間ですから、苦心したところです。正々堂々と″予防〟としての評価をすべきではないか」と発言すると、会場から拍手が沸き起こる場面があった。東京歯科保険医協会の活動内容を理解している田口教授ならではの本音でもあった。両氏の講演内容は前記の通りである、「たかが講師、されど講師」であり、ここに同協会の姿勢を窺うことができ、さらに同協会の存在と今後の活動に期待が寄せられそうだ。

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.12】 「口唇口蓋裂議員連盟」が会合/槇昭和大歯科病院長が講演/歯科から島村議員が参加

▼設立は6月20日

自民党・公明党の与党による「口唇口蓋裂議員連盟」の設立総会が620日に行われ、初会合を開催した。役員として、会長には衆議院の橋本岳議員(自民党)、事務局長に細野豪志議員(自民党)、事務局次長に吉田宣弘議員(公明党)、幹事に山本博司議員(公明党)、顧問には野田聖子議員(自民党)が、それぞれ選任された。

▼7月27日に第2回会合

続いて同議連は727日、参議院議員会館内の会議室で第2回会合を開催した。今回は、昭和大学歯科病院長で同大特任教授も務める槇宏太郎氏が講師に招かれ“口唇口蓋裂”について講演を行った。

会合は、吉田事務局次長の司会で進められ、特に口唇口蓋裂の課題として、前回、指摘された内容を集約した。「現在18歳未満は育成医療、18歳以上は更生医療に分類されている。その一方で、顎修正手術並びに手術後の歯科矯正治療は身体の成長がほぼ完了する18歳以降が望ましいとされているが、現在の更生医療制度下での身体障害者手帳の取得が取りづらい」などと指摘。患者側からも「育成医療の年齢期限延長」などを求める声があることを紹介。こうした社会的な課題に対し、臨床的な発症(生誕)からその後の成長過程に伴う口唇口蓋裂症状への対応について説明を行った。

▼昭和大歯学部病の槇院長の講演内容

一方、槇病院長は、口唇口蓋裂学会理事長を歴任した経験から、改めて口唇口蓋裂の形成外科・口腔外科から矯正歯科診療を臨床的な視点から説明。まず「外科的診療のその技術も発展してきている。日本のレベルはトップクラスであると思われる。矯正歯科も上顎と下顎の成長速度が違うので、下顎が前に出てしまうのです。その問題への対応が重要ですが、そのレベルも良くなっています」としつつ、「障害者総合支援法、自律支援医療(更生医療・育成医療)」についても併せて説明。特に、障害者総合支援法の対象として区市町村が実施主体になる“自立支援医療”にも言及し、「対象は18歳未満で、音声、言語、咀嚼機能障害のある児童であること」などを紹介した。

講演後に行われた質疑応答では役員(議員)の橋本会長から「育成医療・更生医療の適用には規定があるが、口唇口蓋者の治療が終える術後の年齢が2326歳となるとその差のギャップをどう理解するのか」との質問があり、続いて、自民党参議院の島村大議員が「治療期間のことを考えると、ある程度の期間が必要。具体的には夏休みなどになるが、生徒には大事な教育もあるため、その点への配慮が必要」と指摘した。

そのほかの参加議員からは、「育成医療・更生医療の適用年齢の延期への課題は何か」「日本口蓋裂学会の認定制度が2019年度からスタートしているが認定医は全体のどの程度を占めているのか」などの質問があった。

▼友の会会員からは本音を交えた報告が

さらに、口唇・口蓋裂友の会会員からは、「診療できる病院も限定されているのが現実。都市部と地方では違いがあります。手術後の診療の対応がバラバラです」「まだ、社会に知られていないのも事実。紹介された診療所で『本院では診られない』と、断られることもありました」など、現状からの意見を交えた報告が行われ、その改善項目を役員に訴えた。

▼育成医療と更生医療の課題検討を再確認

なお、今回の会合では、特に行政・法律面からの指摘がクローズアップされたが、育成医療(18歳まで)と更生医療(18歳以上)への理解・課題などが、さらに議論を詰める必要があると各議員から再確認され、衆院法制局からも、「今後のこの年齢規定の件、厚労省と議論すべく申し入れしています」と報告された。内閣提出法案と議員立法の相違と適否などについて、専門の立場からの説明も行われた。

歯科医療界ではあまり話題にならない「口唇口蓋裂」ですが、議連の活躍に期待します。 ただ、私の立場からは、患者関係者には、さらに歯科への理解を願うばかりです。

 

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.11】 3年半ぶりの対面形式メディア懇談会の意義/痛感した意見交換・雑談の「忘れてはいけない価値」

◆通算96回目のメディア懇談会

7月14日、東京歯科保険医協会が2023年度第2回メディア懇談会(メディア懇)を開催しました。083 18日の初開催以来、通算96回目とのことでした。今回は参加に当たり、会場における対面形式とオンライン形式(Zoom)の選択を可能としました。コロナ禍による203月のオンライン開催以後、実に3年半ぶりとなる会場対面形式によるメディア懇に出席しました。早坂美都副会長の司会、坪田有史会長の報告・解説で進められました。

この日の議題は、①マイナ保険証・オン資トラブル関連( 今後の協会の動向)、国会要請、署名、メディア懇直近の会員からの問い合わせ、②オンライン請求義務化撤回関連(社保・学術部長談話)、③東京都2024年度予算要請関連、④第51回定期総会の開催後報告関連、⑤50周年記念企画―などでした。内容は、協会広報・ホームページ部のまとめ記事に譲ります。

〝対面(会場)〞で参加しますと、毎回熱心な一般紙マスコミの記者諸氏、そして今回、新たな新聞社の記者参加もあり、リアルで新鮮な印象がありました。常連諸氏とは早速、挨拶・雑談を交わしました。そこで、改めて〝対面形式の意義〞を考察してみました。

◆改めて問う対面式の意義

主催者(司会)側からの報告と説明が終わると、質疑応答を開始。マスコミ側から「問題の評価」「事実の確認」「今後の活動」などが質され、主催者側が丁寧に回答。貴会の見解を確認しました。

◆一般紙と専門紙の相違

ここで、懸念される一般マスコミと業界マスコミの違いが確認できましたので指摘しておきます。マイナ保険証・オン資トラブル関連は、本質的には医療機関の共通問題です。ただし「歯科と医科の経済的・診療形態などの背景に相違があることを一般マスコミはもっと理解してほしい」と痛感しました。また、マスコミからの質問に、回答する側の表情・表現・言葉、ニュアンスから、見えない「情報」も得られました。これが「対面形式の意義」の一つです。

また、メディア懇開始前と終了後の雑談からも〝新たな情報〞を得ることができました。本音として、これがマスコミ関係者には非常に重要になります。質問に対する回答によっては、憶測・推測が働き、次の質問や問題意識に影響を与える場合もあります。

◆オンライン形式の効果

諸事情で会場参加できない・しない場合には、確かにオンライン形式の意義があります。まさに進化した文化の恩恵です。同時にネットから配布資料を得られるよう配慮されていますので対面形式と同様になり、経費・時間などの点からは、その効果は明確です。

さて、618日に開催された貴会総会の中で、記念講演会を行った社会保険診療報酬支払基金理事の山本光昭氏が興味深い報告をしていました。行政へのアプローチ方法として、①業務関係の手続きからアプローチ、②法人幹部の出身高校や大学の同窓のルートを通じる、③様々な講演会、セミナーなどで、これはと思える行政官の講師がいた場合、すばやく名刺交換―と強調していました。特に大事なのは、③で指摘している〝名刺交換〞です。これは、対面形式のメディア懇談会(記者会見とは様相が違います)でも指摘できます。

◆枠を超える〝縁〞とは

今回のメディア懇では、新たに参加したマスコミ記者諸氏と名刺交換。挨拶を含め意見交換しました。もちろん社交辞令で終わることもありますが、それは承知の上です。今回、来場しなかったマスコミ関係者は新規記者と〝縁〞ができませんでした。やはり、関係当事者と直接、意見交換・雑談することで人間関係ができ、時には、想定外に意味がある話を聞くこともできたりします。そして、年齢、性別、派閥、組織、職階、さらには国境などの枠を超えたタテとヨコのつながり、点と線のつながりが面に拡がり、ネットワーク化し、広い人脈形成へと発展して行くことが多々あります。

現在行われているFacebookLINE、各種SNSなどによる連絡、情報提供、意見交換、これはまさに世界の潮流です。一方で「効率第一」「無駄の排除」を最優先とする価値観が社会を占めています。だからこそ、人と人との意見交換・雑談の意味が、「忘れてはいけない価値」だと痛感したのが、今回のメディア懇談会でした。

 

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.10】 口蓋裂診療の「チーム医療」から学ぶ/主体は形成外科医・口腔外科医・矯正歯科医・言語聴覚士など

歯科にある学会の中で特異な学会であるのが一般社団法人日本口蓋裂学会である。その総会・学術集会が52526日の両日、東京・千代田区の一橋講堂(総合学術センター)で開催された。一般臨床家からは、関心の低い臨床分野であるが、疾患は500人当たり1人(0.2%)が罹患する先天性疾患である。そうした疾患を対象に研究する学会であり、三十余名の会員数から構成されている。臨床では、医師、歯科医師、言語聴覚士、心理職など多職種が担い、歯科の分野では、主に口腔外科、矯正歯科、小児歯科、歯科衛生士、歯科技工士が担っている。

また、患者(患児)本人とその家族が集うグループが全国各地にあり、例えば「口友会」(東京)、「たんぽぽ会」(愛知)、「笑みたち会」(大阪)などが地味ながら活動しており、そこでの参加者間の交流が貴重な時間になっており、ここが大きな特徴だ。「同じ立場の人とは話がしやすいし、気が紛れましたので、精神的には落ち着きましたね」(東京・Y氏)、「生を授かった後、不愉快な経験をされた人もいるかも知れません。しかし、当時の関係者に歯科医師等がいらっしゃり、本当にお世話になりました」(大阪府・K氏)は、振り返りながらコメントしていた。基本的には、「臨床・予後を通して歯科医師ほか関係者に感謝」というものであった。

▶口唇口蓋裂診療は〝チーム医療〞が要諦

こうした背景がある学会から、見えて来る姿もあった。今回、講演・示説の演題(70題)から私が確認したのだが、演題を多く発表した順で見ると、阪大11、東医歯大8、昭和大8、東北大7、愛知学院大7、九大5、大阪母子医療センター5であった。当然であるが、研究・臨床の主となる大学は、歴史、地域性、同系病院の存在などの条件もあり、今回の学術大会の演題における研究症例報告数だけで評価は論じられないが、患者視点からすれば、全国のどの地域でも気兼ねなく相談・受診できることが望ましい。その点については、現在はネット社会であり随分改善されてきている。臨床対応で実績・評価を得ているのは、昭和大、愛知学院大、大阪母子医療センターなどである。口唇口蓋裂診療はチーム医療が要諦とされているが、前記の専門職のチーム医療で対応をしている。某教授は「口蓋裂症の診療は、ある意味でチーム医療をしていくのが大前提で、さらに、患児の家族との理解・相互信頼がないと診療ができません」と述べている。

▶何気ない当たり前のことが重要

当日の学会では、「言語聴覚士の集い」が企画された。座長の井上直子氏(言語聴覚士/大阪母子医療センター)と佐藤亜希子氏(帝京平成大学講師)から、その意図が説明され、「乳幼児から成人期までの言語管理が環境整備、言語評価・訓練などステージに応じた役割があります。臨床は医療施設だけでなく、福祉・教育施設などさまざまであり、多岐にわたっています」。そこで言語管理を指摘されると、私自身がそうでしたから、2019年の新潟大会で、赤神周子氏(言語聴覚士/鳥取大学医学部歯科口腔外科)が、口蓋裂児の鼻咽腔閉鎖機能の課題に言及したことを思い出す。「口腔機能の増加は、当然ながら食事・会話を支え、社会生活を支える基本です。乳幼児からこの問題に関係する〝発音・構音〞は重要です。まさに、形成外科医・口腔外科医・矯正歯科医・言語聴覚士などの〝チーム医療〞が大切です。出生前診断、手術、構音構築、患児の精神成長など個々のステージでの対応・連携がシームレスに実施されることが重要」と強調していた。さらに、コロナ禍での生活から学んだことと共通するのが、何気ない当たり前のことがいかに重要なのかという点であり、これを再認識してほしいです。

補足となるが、保険適用となる歯科分野の先天性疾患としては、顎変形症、唇顎口蓋裂、6歯以上の先天性部分(性)無歯症、口腔・顔面・指趾症候群、その他顎・口腔の先天異常(顎・口腔の奇形、変形を伴う先天性疾患であり、当該疾患に起因する咬合異常について、歯科矯正の必要性が認められる場合)などがある。

▶関連議員連盟が発足

世間、巷間では〝見た目が一番〞という言葉が躍る時もあり、複雑な気持ちになるのも口唇口蓋裂患児(患者)の本音で悩みは尽きない。

こうした中で、与党の国会議員有志が620日、「口唇口蓋裂議員連盟」を設立したニュースが舞い込んできた。今後の活動は詳細には不明だが、患者の視点に立った活動に期待したい。

なお、会長には橋本岳衆院議員(自民)、事務局長には細野豪志衆院議員(自民)が就いたという。

 

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.9】東京歯科保険医協会の歴史と存在性/取材活動と貴会設立50周年を重ねて思うこと

6月は、歯科界でも各団体の総会・代議員会の開催が目白押しに予定されています。まず、貴会が6月18日に開催する第51回定期総会をはじめ、日本歯科医師会(代議員会:6月15日16)、日本歯科技工士会(総会:6月17)、日本歯科衛生士会(代議員会:6月11)、東京都歯科医師会(代議員会:6月22)があげられます。

◆ホームページに見る貴会の歴史と活動方針

特に貴会は、50周年を迎えることもあり、その意義があります。貴会の歴史をホームページから紐解くと、以下の通りです。

「東京歯科保険医協会は1973年4月、『歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上をはかることを目的』に設立されました。開業歯科保険医の要求にもとづく自主的な団体という性格を明確にし今日まで様々な活動を行ってきました。その結果、発足時の会員数は180名でしたが、2023年3月31日現在で約5980名となっています」。

続いて、全国保険医団体連合会(保団連)についてては、以下の通りです。

「全国の各都道府県には必ず保険医協会・保険医会があり、その連合体として全国保険医団体連合会(保団連)があります。保団連は1969年1月26日に『保険医の生活と権利を守り、保険医療の向上、医療保障の充実をはかる』ことを目的に結成され、2021年2月1日現在、全国では約10万7000名(医科6万5000名、歯科4万2000名)の医師・歯科医師が加入しています。東京歯科保険医協会も保団連の構成団体です」。

以上ですが、以前の総会で報告されましたが、会員数の増加には新たな意味がありそうです。そもそも貴会は、①医療の基本ベースである保険医・保険診療について行政に懇談・要請、②市民・患者視点の姿勢も持つ、③必要により意見・声明などを社会に提起―などを重視、実施し、その存在価値は大きいと思います。

私は、初代会長の小林昌平氏とは縁がありませんでしたが、記者として取材活動を始めたのが1990年からなので、2代目会長の大多和彦二氏とは、緊張して名刺交換をした記憶があります。以後、中川勝洋氏、松島良次氏、坪田有史氏の各会長とは意見交換を重ねながら勉強をさせていただいています。

◆顔となる機関紙の編集

さて、貴会の〝顔〟となる機関紙「東京歯科保険医新聞」は、独自の編集方針からして注目すべき存在です。私自身、取材活動に当たり、貴紙の「何が問題なのか」「何に注目しているのか」を参考にしています。保険診療をする開業医からすれば、日々その診療項目の理解、点数、解釈などの確認に努めているはずですので、貴会の行政に対する問題意識をも併せ、一目置いているのではないでしょうか。その理由は、臨機応変なるアンケート調査、行政からの資料を基にしたデータ作成など、説得力のある主張・論調があるからです。同時にそれは、保険医・患者の立場からの論点があることの証左でした。評価する時は評価、しかし問題がある時は厳しい指摘を適宜しています。

◆熱い議論に期待

50年の歴史を重ねてきましたが、ネット時代を迎えた現在、広報活動・新聞の在り方についても熱い議論が交わされていると思います。時代の趨勢を理解しながら、将来を見据えての活動をしているものと、私は理解しています。

4月に開催された日本デジタル歯科学会学術大会の中で、木本克彦神歯大教授は講演の最後に、「IT化やDXは着実に日常の歯科の臨床へ浸透してきており、その中心的な役割を果たしているのがCAD/CAMシステム」と指摘しました。その一方で、かつて、中医協会長を務めた土田武史氏の過去の認識ですが、「歯科は保険診療に対するシンパシーが薄い。混合診療の部分的容認・脱保険への接近を懸念」と、某専門紙に記していました(2007年6月)。これは、まさに〝保険診療の在り方・範囲〟など、現在でも喫緊かつ重要な問題となっております。だからこそ、「東京歯科保険医協会の活動にさらなる期待が寄せられることは間違いない」と、私は考えています。

 

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.8】男女格差解消の示唆なるか/日本歯科医学会史上初の女性会頭が誕生

4月から新年度がスタートしていますが、それは学会シーズンの到来でもあります。

▼会頭は川口陽子氏

既に公表されていますが2025年に開催される日本歯科医学会(日歯学会)学術大会における大会会頭に、東京医科歯科大学名誉教授で日歯学会副会長の川口陽子氏が就任しました。女性は初めてです。日歯学会には専門分科会25、認定分会21が構成学会として所属しています。時代の趨勢・反映に伴い、新たな学会や分科会が逐次承認されています。歯科基礎、歯科保存、補綴歯科、口腔外科、歯科理工、矯正歯科、口腔衛生などの歴史ある学会を始め、歯周病、小児歯科なども続きました。最近では、口腔検査、口腔内科、睡眠歯科、デジタル歯科が承認されています。臨床で関心が高い老年歯科、口腔インプラント、審美歯科なども貢献しています。いずれも、今後の研究成果が臨床に反映し、患者が恩恵を受け歯科保健に不安のない時代が来ることが期待されています。

こうした背景・歴史を振り返ると、やはり専門分科会の補綴歯科は独特でありました。「補綴を知らずして、歯科を語るな」との発言があった時代が懐かしくなります。もちろん、臨床において、歯科の基本的診療分野であり、その重要性は変わりません。社会的な課題になっている小児に関連した歯科医療の充実、地域包括ケアシステムに関係する老年歯科も、今後のさらなる研究が注目されます。認定分科会では、日本口腔リハビリテーション学会、日本口腔検査学会、日本デジタル歯科学会など、時代を反映した学会が、新たな潮流として今後さらに注目されそうです。

こうした時代の推移の中で、今回の川口副会長の会頭就任人事については、日歯学会の新しい時代の到来を示唆しているとの指摘もあります。日本歯科保存学会の次期会長は、6月の総会で林美加子阪大歯学部教授が正式に決定されるようです。こちらも、女性会長は初めてのことです。

▼日本学術会議シンポも

問題点を指摘 一方、昨年1月13日に日本学術会議が公開シンポジウム「歯学分野におけるジェンダー・ダイバーシティ〜課題と展望について〜」をオンライン開催しました。熊谷日登美日大教授(生物資源科)、樋田京子北大歯学部教授(口腔病理)、久保庭雅恵阪大准教授(予防歯科)、田村文誉日歯大教授(口腔リハビリテーション科)の4氏が講師。座長は、樋田教授と川口名誉教授が務めました。関係者によればポイントは以下の通りです。「世界経済フォーラム(WEF)が発表している2021年のジェンダーギャップ指数として、日本は世界156カ国中120位。主要7カ国(G7)では最下位」とした上で、「近年では、歯学部女子学生の割合が増加し、中には50%に達している大学もありますが、依然として女性教員の数、特に教授職など上位職における女性の割合は医学部に比べても顕著に低いこと、学会や歯科医療団体で役員に就く数も少ない」と指摘されたようです。

▼学会にも変化の兆しか

社会では「男女格差解消」が謳われていますが、今回の日歯学会人事は「男社会」と称された学会にも変化の兆し、女性研究者が活躍する時代が訪れたのかもしれません。小児歯科、矯正歯科をはじめ、基礎系の分野(分子免疫学など)でも活躍されている女性研究者がいるのも事実です。かつて保存学会の重鎮(某大学名誉教授)は「これからは女性研究者が活躍する時代が来るかもしれない。というよりあえて言えば、歯科は女性のほうが向いているかもしれない」と、たいへん興味深い発言をしました。歯科大学・歯科学会での課題かもしれません。研究領域の相違もありますが、対外的視点からすれば、男女格差解消が世界的な潮流になっています。

今回の日歯学会の動きは5年後、10年後などを見据えた、新しい歯科学会の到来を示唆するものでした。

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.7】有権者が問われる/統一地方選挙&投票行動が道を拓く

4月になり新年度がスタートし、入社式・入学式が各地で開催されていると思いますが、市民には重要な統一地方選挙が控えています。参院議員選挙があった昨年、全国保険医団体連合会(保団連)は、4月8日から6月12日まで「『選挙に行こう』ムービーコンテスト」を実施しました。この企画の趣旨は重要であり意味がありました。その重要性は、私が大学時代に読んだマックス・ヴェーバーの「職業としての政治」の趣旨に通じるものがありました。形式的に読了しただけでしたが、政治に関心を持つ契機になりました。国政に影響を与えるのが主権者である国民です。〝政治は生活〟ですので、選挙は有権者の意思を示す貴重な機会です。

◆医療政策に注目

現在、国会の各委員会で審議が行われていますが、やはり注目しているのが医療政策です。マスコミ的には、物価高騰、少子化への政策になりますが、「地方政策は、結局は国政政策に拘束されるので限界を感じる」「選挙でも国政と地方では違うのではないか」などの意見がありますが、今回の統一地方選挙は国政に向けての市民の意見表明になります。ですから、公益財団法人明るい選挙推進協会などは、国政選挙前に、①選挙違反のないきれいな選挙が行われること、②有権者がこぞって投票に参加すること、③有権者が普段から政治と選挙に関心を持ち、候補者の人物や政見、政党の政策などを見る目を養うこと―を目的に啓発活動を行っています。ここに指摘されていることはすべて統一地方選挙でも同様です。

一方、候補者のチラシやパンフレットから問題意識を知ることができます。私的なことですが、大学校友会の諸先輩方は、トラック運送、材木卸、印刷、不動産、教育などの業界に関係しています。投票行動は自身に関与する業界が支援する候補者、あるいは独自で判断して投票するなど様々です。しかし、前回支持した議員や政党に問題があれば、投票行動を変える勇気・判断も必要です。こうした行動が候補者、議会、行政に緊張感を生じさせます。超高齢社会が到来している現在、個人的ではありますが、候補者には特に医療政策に関心を持っていただくことを期待しています。

区議・市議レベルでも、少なくとも「医療問題」、さらには「歯科問題」に関心を有しているか否かに留意しています。現実的にはどの候補者も概ね同じとの指摘がありますが、そこがポイントになります。候補者自身のチラシやパンフレットに、ひと言でも歯科に関係する用語や言葉があるかを注意して読んでいます。あえて言えば、「医科歯科連携による地域保健」「かかりつけ医・歯科医が必要」などの明記です。それを明記している候補者は、その政策の重要性を理解しているはずです。本来であれば、こうした文言を理解して候補者に工夫して明記させることなども、大事な選挙活動の一つと考えます。

◆発想の転換期

今は、選挙活動の発想の転換の時期にきています。国や地方自治体は、ネット時代における選挙方法の具体的な議論をどこまでしているのか、正直疑問です。繰り返しになりますが、国・地方選挙を問わず投票行動を促すことは大事です。選挙結果から新たな期待や反省がありますがこれも貴重な経験になります。懸念材料は〝無関心〟です。そこからは、新たな道は拓けません。選挙に当選すれば、とりあえず4年間は任せることになります。そのため有権者は議員に厳しい監視の目を向ける必要があります。地方選挙の在り方の議論云々はありますが、原点は一人ひとりの「清き一票」のため、まさに「選挙に行こう!」になります。

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想【NARRATIVE Vol.6】歯科行政の変遷と 厚労省歯科保健課長への課題・期待

去る2月14日、次期日本歯科医師会会長に高橋英登氏(日本歯科医師連盟会長)が内定し、新しい執行部に期待が寄せられることになりました。高橋氏は、立候補時の挨拶で「〝物言う歯科医師会〟に変革していきたい」と述べていましたので、今後の言動に注目していきたいところです。

さて、1月23日に召集された第211回国会での衆院予算委員会では、2023年度予算成立に向け審議を進めていますが、歯科を担う厚労省の所轄内容は、国民の生活に密着している分野が非常に多く、国民が身近に感じる政策が多いのは事実です。私が歯科医療界に身を置いたのが90年からですが、当時は厚労省医政局歯科衛生課長(後年、歯科保健課に改称)は宮武光吉氏(東京医科歯科大学)で以後、佐治靖介氏(大阪大学・故人)、石井拓男氏(愛知学院大学)、上條英之氏(東京歯科大学)、瀧口徹氏(新潟大学)、山内雅司氏(愛知学院大学)、日高勝美氏(九州大学)、鳥山佳夫氏(大阪大学)、田口円裕氏(長崎大学)、そして現在の小椋正之氏(長崎大学)により今日に至っています。各氏への寸評は控えますが私はこの方々には本当にお世話になりました。

現在に至るまでの間、強く印象に残っていることは、「歯科衛生課が歯科保健課に改称」(7年)、「健康増進法」(02年)、「贈収賄容疑で歯科医師ら逮捕」(04年)、「食育基本法」(05年)、「歯科技工物海外委託訴訟東京地裁判決」(08年)、「歯科口腔保健法」(11年)、「インプラント訴訟判決」(13年)などがあります。一方、歯科行政では、やはり「8020運動」が始動したことによる「8020運動推進事業」(92年)、「健康日本21(第一次)」(00年)、「健康日本21(第二次)」(13年)が歯科医療界の方向性・時代認識に大きな影響を与えたと思います。

当時、懇意にしていました日F(特定非営利活動法人日本フッ化物むし歯予防協会)の有志から、地域歯科保健、予防歯科の推進、フロリデーションの課題、フッ化物の応用、歯科衛生士との関係など意見交換を重ねてきました。さらに個人的でしたが、自由参加にして、一般社団法人日本口腔衛生学会会員、業界マスコミ人、歯科企業関係者の有志と大学関係者・開業医との懇談する機会を設け理解を深めました。貴重な経験であり、私の歯科への基本認識を培いました。

時代変遷がある中で、歯科行政でも厚労省医政局歯科保健課に設置されていた「歯科口腔保健推進室」が訓令室から省令室に昇格(17年)してスタート。まさに、歯科口腔保健法の下で、基本的施策、財政上措置、口腔保健支援センターの普及に努めると同時に、関係省庁との調整・連携の司令塔的責務を担うことになりました。

そして、「骨太の方針2022」で話題になった「国民皆歯科健診」。政策に伴う法的整備、事業の推進計画などの課題への対応が急務とされてきました。こうした中で、今後の歯科医療の役割について、前歯科保健課長の田口東京歯科大教授は、①従来の「治療中心型」だけでなく、口腔機能の維持・回復していく「治療・管理・連携型」の治療が求められる、②歯科診療報酬改定は、継続的な口腔管理、口腔疾患の重症化予防や口腔機能に着目した改定になる、③地域において、病院歯科と歯科診療所の役割分担・機能分化。歯科診療所間での役割分担に着目した提供体制の構築が進む、④診療室完結型から「かかりつけ歯科医」を中心とした地域完結型体制に転換していく―との4項目を掲げました。

◆将来を見据えた構想

近年では、新たに歯科と「食事・栄養」の議論がクローズアップされています。歯科医療界として時代遅れにならないよう、ネット社会におけるIT活用による歯科診療・地域歯科保健、さらに将来を見据えた歯科独自の「1・5次歯科診療所」構想の検討など、課題は目白押しです。国民の健康観、人口動態の激変、歯科疾病構造の変化などへの理解と適切な判断が求められる歯科保健課の責務は増すばかりです。

かつて、宮武氏が鶴見大学歯学部教授時代に、「多様化する国民の行政需要に応えるため、各種のネットワークを駆使し、優れた感性を持ち適正な判断ができる者が必要となる。高い教養を基礎に、優れた専門知識を持つ行政官が歯科衛生行政に参入されることを望む」と述べていましたが、まさに現在がそうなのかもしれません。

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想【NARRATIVE Vol.5】 歯系大学は受験生獲得イメージ戦略立案を

明大の「都市型大学宣言」と「子どもクリニック」経営を参考に

毎年23月は、大学受験のピークです。大学は少子化の影響を直接受けますが、その事情は私立の歯科大学や総合大学の歯学部も同様で、各校とも志願者・受験生の獲得に必死です。

◆受験生獲得の一手を

ところで、医学部や歯学部などの専門家養成機関ではないものの、発想やヒントの参考事例として、明治大学(以下、「明大」)の取り組みの一部を紹介したいと思います。医療系学部を併設していない明大ではありますが、総合大学として真剣に検討してきたと理解しています。

明大志願者数が初めて全国1位になった2010年度、マスコミがその取り組みを取り上げました(2014年度からは9年連続で近畿大学)。ポイントの一つに、都心から郊外への移転が主流になった1980年代、当時の納谷廣美教授の「都市型大学宣言」の影響があったようです。日本で初めて、大学の高層ビル化を図った明大の都市型キャンパス「リバティタワー」建設以後、入試改革、新学部創設、地方学生の確保などが進められました。まさにブランドイメージの大転換が受験生から評価されたようです。当時、郊外へ移転した大学は、近年は都心部に回帰しています。まさに、大学は現在の社会状況や受験生の価値観を捉えることが重要のようです。なお、私立歯系大学の某教授は、納谷教授の講演を傍聴し、さっそく教授を学内に講師として招き、改めてご講演をいただいたと、数年前に告白していました。

◆医歯薬系学部のない明大が「子どもクリニック」

また、新たな〝時代〟を実感したのは20211月で、駿河台キャンパス内に「明治大学子どものこころクリニック」が開設された時でした。その趣旨は、児童・思春期は、学生が臨床実習をする上でアプローチしやすい年齢層のため、新たな教育効果が期待できる、オリジナルの教育システムを有することで、公認心理師・臨床心理士養成大学として全国でも先進的な存在となる、大学院では臨床心理学専修の学生への教育(臨床実習)機能、文学部では臨床心理学専攻の学生への教育(実習)機能がそれぞれ拡充されることで、大学本体にもシナジー効果が期待できる―という3点でした。

◆今後の社会に期待される イメージ創りと発信を

さらに、もう一つのポイントは、認知症患者を含む在宅医療に深く取り組んでいる医師で、全国在宅支援医協会や日本在宅ケアアライアンスなどの会長を務める新田國夫氏を明大の講師に招いていたことです。

新田氏は当時について「依頼があったので、何も考えず素直に受けただけでした。講義も在宅療養ではなく、単に地域についてでした。明大で医師の講義が珍しいのか、受講生は意外に多くいたと記憶していますし、試験もしましたよ。まあ、大学が私に何を期待したのかは不明でしたが」と当時を振り返っていました。志望大学決定の理由は様々ありますが、そこでの大学の〝イメージ〟の存在は看過できませんし、高校の進路指導の教員・学生に影響を与えています。かつて前明大学長の土屋恵一郎氏は退任前に、「大学として社会保障分野の研究がないのが今後の課題」と打ち明けていました。

一方、歯科では、17歯系大学が加盟する日本私立歯科大学協会が尽力しています。株式会社大学通信の取材で歯系大学の今後の可能性を羽村章専務理事が、歯科への理解・イメージアップを期待して、ホームページ上で「予防がクローズアップされる時代/歯科医師が地域の健康を支える」と強調。さらに「大学教授ほか大学人も、時代が変わったことを意識してほしいです」と指摘していました。また、事務局長の白石薫憲氏も「今後、社会から期待される〝歯科〟であり、そのイメージの提供は大きいです」と述べています。

看護学部を新設する大学や歯学・栄養学の連携授業を実施している大学などで既に新しいイメージ創りが図られています。確かにイメージは変わりつつありますので、地味ながらも真摯な活動が求められます。なお、前鶴見大学学長の大山喬史氏は、当時「地域の商店街などのイベントには可能な限り出席。歯科の括りから一歩踏み出して地域貢献です」と示唆に含んだコメントをしていました。

今後の歯系大学・歯科医療界に期待したいです。

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想【NARRATIVE Vol.4】 「たかが事務局、されど事務局」 組織を支える“事務局”の重要性を理解

新年、2023年がスタートしました。マスコミは一斉に業界・企業の「今年はコロナ禍の課題を踏まえながらも、新規スタートの年にしていきたい」との趣旨の新年挨拶文や名刺広告で紙面を埋め尽くしているはずです。

そこで、従来の新年挨拶は他紙に譲り、今回は特異な観点から話を進めます。新年の挨拶回りは恒例行事であり、歯科界では、日本歯科医師会(日歯)、日本歯科商工協会、日本歯学図書出版協会、さらに歯科学会の多くの担当部(事務局)が置かれている一般財団法人口腔保健協会もその一つです。

1月15(旧成人の日)以降、業界組織の新年会が開催され、「今年も新たな気持ちで、歯科界は一致団結して飛躍する年になるように頑張りましょう」などの挨拶で活動が始まるのですが、それは事務局のお世話になるということでした。

特に、日歯事務局(医療課・調査課・広報課)は重要視していましたし、同時に地元歯科医師会の行事、日本歯科医学会所属学会の学術大会、企業展示会などの取材でお世話になるのは、いつも地元歯科医師会事務局でした。

香川県歯科医師会主催の会合を取材した際、まず会長から事務局長を紹介されました。その中で、「本県歯は、事務局に全幅の信頼を置いて会務活動をしています。最終的な責任は会長・役員にあるのは当然ですが、事務局員は県歯の一部です」と発言していたことが記憶に残っています。

民間企業でも、確かに対外的に目立つ部署があります。以前、日本歯学図書出版協会の新年会で、某社長が「企画、編集、広報などは目立つ部署なのは事実。同時に地味ですが、総務、庶務、経理等なども組織を支えており、まさに組織は一つ。その点を新たに自覚してほしい」と理解を求めていました。

かつて、厚生労働省(旧厚生省)は、求める部署に直接伺うことができ、時間があれば歯科保健(旧歯科衛生)課長と意見交換・雑談することが可能でした。しかし0811月に起きた元・厚生事務次官の殺害事件以後は、警備員配置や来庁者のチェックが行われ自由な出入りができなくなりました(厚生省職員が同伴する場合は可能)。事前予約を取り、庁舎の受付でチェックを受け、許可されて入場できるようになりました。日歯でも以前は担当課に直接行き、雑談を交わすことができましたが、現在は担当者が受付に降りて要件を確認することが基本になっています。

以上のような様々な場面、経緯を事務局員は知っています。だからこそ「たかが事務局、されど事務局」であり、その重要性は変わらないと考えます。現実的には、会員とそのスタッフの把握、労働環境、対外的対応、理事会などの資料作成、予定外の対応など様々で、日々の労務・作業のボリュームは、想像以上のものと理解しています。

今年は、会場対面方式とオンライン方式の両者を兼ね備えたハイブリッド方式による会合が主流になるとの観測もありますが、コロナ感染管理においては事務局の責務も出てきます。

以前、某日歯役員に1日同行させていただきましたが、確かに激務でした。そして、そこで黙して淡々と事務作業しているのが事務局員。「これが重要であり、組織を支えているのだな」と理解した場面でした。組織ですから、会員数の相違があります。221130日現在、東京都歯科医師会(1種会員5865)から島根県歯科医師会(1種会員227)まで、約26倍の開きがあります。しかし、少数会員の組織でも、事務局は、懸命に諸作業に取り組み、運営しています。

また、私は自分の経験から日本医師会、日本薬剤師会、日本看護協会など、歯科に関連する団体の広報担当部とのパイプ構築は必須と判断し、事務局への挨拶は絶えず意識しています。事務局にも歴史がありますので、その評価は難しいですが、忘れてはならないのは、繰り返しとなりますが「たかが事務局、されど事務局」です。

新年の始動に際し、歯科医療関連の各団体に改めて期待しています。

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想【NARRATIVE  Vol.3】マスクが教える「世界文化の相違」と「着用者の深層心理」

国際観光都市「浅草」は未だ〝マスク人間〟の社会

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止策として発令されていた「蔓延防止等重点措置」が去る3月21日に解除され、以後は収束への傾向を示し、今月で約8カ月以上経ちますが、1111日には、「新しい波に入りつつある」と政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が発言し、第8波を迎えているとの認識を示しました。

 ところで、国際的な観光地である浅草では、外国人を含めた観光客数は徐々に回復しつつありましたが、残念ながらまだ浅草は「マスク人間」の社会です。そんな中、「マスク着用・非着用」論なる新たな議論が起きています。欧米をはじめとする諸外国の多くが「非マスク」との情報も影響してか、「室内マスク・室外非マスク」論を支持する識者も出てきています。

マスクから教わったこと

 こうした現状の中で、生活上の必需品と化しているマスクから、教わることがありました。

 まず、秀明大学の堀井光俊准教授(英国ケント大卒)著の「マスクと日本人」(秀明出版会/2012年12月刊)。「不安に直面すると人間は何かしなくてはならない。行動により不安から完全に逃れられないにしてもそれに圧倒されなくても済む。安値でどこに行っても売っている上に、容易に装着でき社会的に抵抗もないマスクは、いわば不安を行動への昇華するための便利な道具なのだ。それは、象徴的に不安を吸収してくれるのである。要するに、マスクは現代の『お守り』なのだ」と指摘しています。

 また、元日歯常務理事で深井保健科学研究所の深井穫博所長の論文(一部)ですが「『口をへの字に曲げた厳しい表情』『口を尖らせた不満の態度』など、口はある種の感情を象徴する部分となっています。顔の大きさや色、眼、鼻、口などの形態と配置や表情はその人を識別するための固有のものであると共に、感情を表現する『心の窓』ともなり、相手とのコミュニケーションに大きな役割を果たしています」と、口元の機能・意義を説明しています。

 現在、私は「マスク人間」ですが、そこで気が付いたことがあります。マスク着用で周囲の人たちを気にすることなく話す自分がいるのです。やはり、自分の口元へのコンプレックスが働き、さらにその自分にも納得しているのです。

 以上のような心理が脳裏をかすめたのは事実です。

マスクに求められること

 マスク着用が一般化している中で、「聴覚障害者の約7割が『口元が見えない』ことでコミュニケーションに困っている」と三好彰氏(三好耳鼻咽喉科クリニック院長・仙台市)がネットで報告しているのを知りました。三好氏自身が実施した聴覚障害者へのアンケートでわかったようです。そこで「耳マーク」の付いたマスクを着用・普及を訴えています。マスク着用により聴覚障害者が困ることについて複数回答を求めたところ、「口元が見えない」(66.7%)、「相手の発音不明瞭」(66.7%)が最も多く、「声掛けに気付かない」(35.6%)、「口元を見てもらえない」(29.6%)。さらに対処法は「筆談」(63.0%)、「マスクをズラしてもらう」(26.7%)、「手話・指文字」(25.2%)の順であったようです。そこで、口元が見える透明マスクの普及への期待が半数以上あったようです。

 また、全日本ろうあ連盟本部事務所の倉野直紀所長は、手話通訳を通して「ろうあ者は、相手と真正面に向かい、手話、相手の顔の表情、口元を見て理解します。歯科技工士のろうあ者がいることは知っていますが、やはり相手の表情と口元を見て理解しているはずです。口元が見えるマスクなら相手と深いコミュニケーションができます」と説明しています。

 もう一つの事例として映画「アマノジャック・思春期」(2017年/岡倉光輝監督)があります。「下顎前突でいじめ・差別を受けコンプレックス抱えた生徒が、マスクで口元を隠す行為・精神的葛藤の恋愛」を描いた作品で、監督自身の経験からの作品です。

 感染防止対策効果の議論とは別に、マスクから世界各地の文化・風習の違い、ろうあ・口唇裂・下顎前突者などの口元へのコンプレックのある人から、マスクに求められる点に違いがあることを学びました。

 歯科関係者には、マスク着用者の隠された複雑な深層心理について、より一層、敏感になってほしいところです。

 

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想【NARRATIVE Vol.2】歯科業界マスコミの限界と期待

業界紙・誌ごとに背景やカラーがある

 その業界を展望・判断するには、〝業界紙・誌を読んで理解できる〞と言われている。論調・記事内容から課題も垣間見え判断される。医療情報の源泉の多くは厚生労働省(以下、「厚労省」)。その厚労省には全国紙やテレビ局などが加盟する厚生労働記者会と医療関係等の専門メディアが加盟する厚生日比谷クラブがある。

 その厚生日比谷クラブに歯科界からは、日本歯科医師会(日歯)、医歯薬出版、ヒョーロン・パブリッシャーズ、日本歯科新聞社が所属している。当然であるが、三師会を構成する日歯以外の日本医師会、日本薬剤師会、全国保険医団体連合会、薬事新報社、日本医事新報社などが所属している。クラブで得られた情報を基に配信記事を作成していく。歯科はさらに歯科記者会(原則:月1回会見開催・日歯会館)があり、前出の4社の他にデンタルダイヤモンド社、クインテッセンス出版、医歯薬新報などが所属している。日歯から新たな情報提供を受け、会見に臨んだ記者・編集者との質疑応答もされている。なお、現在は廃刊したが、会員であったデンタルタイム21、歯界報知も独自に情報を提供していた。

1990年代から歯科界マスコミに関係したが、当時の日歯会長は中原爽氏(日歯大)。以後、臼田貞夫氏(日大歯学部)、井堂孝純氏(大歯大)、大久保満男氏(日大歯学部)、高木幹正氏( 大歯大)、山科透氏(大歯大)、堀憲郎氏(日歯大)。改めてその経緯を振り返ると、歯科記者会・歯科マスコミの変化を痛感している。業界紙・誌には各社の背景や独自カラー・編集方針があり、互いにその特性を黙認していた。新聞系では影響力があった日本歯科新聞社の編集方針は〝読者目線〞。新聞社としての主張や掲載記事を通して、時には日歯に異論・問題提起する時もあった。それは〝日歯のための新聞ではない〞とする編集方針があったことがその所以かもしれない。現在はネット社会であり、業界マスコミの在り方も新たに問われている。

業界マスコミの限界

 編集部時代は、日歯代議員会・日歯連盟評議員会の傍聴席は満席であり、広報部員を派遣し取材させていた地方県歯もあり、業界組織である日技・日衛の広報担当者も傍聴に来ていた。

まさに、日歯代議員会(当時は年2回)は、歯科界が注目した議論の場であった。休憩時間での代議員同士の雑談、懇意にしている地方代議員からの情報提供などがあり、会場は〝緊張感〞のある雰囲気が漂っていた。こうした関係から生じる被取材者との相互信頼が構築されたが、同時に情感が伴う関係も始まり、この微妙な関係の整理もあり自分自身が問われていた。企業でもあるマスコミとしては、長年支援を得ている広告主、個人的関係の強い地区歯科医師会、歯系大学教授、県歯役員、有力読者を看過できないこともあった。直接影響を受ける営業・編集からして、〝業界マスコミ〞の限界を確認し始めた時期でもあった。

必要に応じてベテラン、中堅、若手の編集部員同士で熱い議論をかわすこともあった。現在はコロナ禍もあり日歯代議員会も静寂な中での開催であり、条件制約もあり日歯執行部との質疑応答は稀であり、〝日歯代議員会の報告会〞の感もなくはない。そこには、結果として業界マスコミの〝日歯広報化〞の懸念もある。

業界マスコミへの期待

 影響力のある全国版マスコミは、社会的に注目される事件なら一気加勢に取材攻勢をかけて本論に迫ってくる。事件が収束すれば去っていく一過性でもある。

しかし、業界マスコミはそうではない。日々の歯科界を巡る情報の中で、日歯からの情報は重要であるが、その上で、歯科記者会各社の編集部で議論を重ね、現状認識・課題など、ある種の緊張感を与える記事・特集を期待したい。

 

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科界への私的回想録 【NARRATIVE Vol.1】1枚のハガキに募る 感謝の思い/奥村 勝

専門紙記者から見えた先天性の歯科疾患

 私は1954年に口唇口蓋裂児として生を授かり、歯科界に身を置き現在に至っています。まさに歯科界にお世話になっている人間です。歯科専門紙記者として、齲蝕、歯周病、義歯、インプラントなどの関連学会ほか、日本歯科医師会代議員会、日本歯科医師連盟評議員会、日本学校歯科医会評議員会、日本歯科技工士会代議員会(当時)、厚生労働省の関係有識者会議、中医協などを取材してきました。当然ですが、日本口蓋裂学会の存在は承知していましたが、専門紙の読者は関心がありませんし、社内の編集会議でも話題になることはありませんでした。先天性の歯科疾患は、一部の専門の歯科医師が携わる特殊な分野で、一般的な歯科医師からは関心外に置かれていると痛感しました。

丹下一郎先生のこと

 母は16年1月に乳がんで亡くなりましたが、遺品を整理している中で、1枚のかなりの年月を経たと思われるハガキが目に留まりました。私の口唇口蓋裂を執刀した丹下一郎先生(当時/東京大学医学部形成外科、現在/順天堂大学名誉教授)からのものでした。その一文に「わたくしは今後とも、顔かたちの変形に悩む方々をお救いすることを一生の念願とし、あなた方の友として診療を続けて参りたいと思っています」とありました。先生の患者に対しての医療人としての率直な優しい思いが伝わりました。
 私自身、瘢痕がある顔貌でここまで年月を重ねて来ましたが、特別イヤな思いは、正直なところ“ゼロ”ではなかったですが、気持ちの中で苦悩した記憶はありません。

母の自責の念

 一方で、この瘢痕のことを母に質問することはしなかった、というより敢えて避けてきたのかもしれません。というのも、口唇口蓋裂児を生んだ母親は、「私が悪かった、妊娠中にもう少し注意していれば、本人に一生辛い思いをさせることはなかったのに」「できるなら、私が代わってあげたい。本当に申し訳ない」といった自責の念にとらわれた言葉を吐露していることを、日記から知っていました。そのことを思うと、問いただすようなことをしては、母に「やはり勝は、私を責めている」と思われはしないかと察し、自然に“事実を受け入れて普通に生活すればいい”と思ったのです。

最善を尽くしての治療

 こうした経緯の中で、少なくともハガキの文面から伝わる当時の外科学の技術を駆使し、最善を尽くして下さった丹下先生ほか関係者の方々に“感謝したい”という気持ちが募ってきました。昭和30年代当時と現在の外科手術レベルの相違はありますが、その当時において最善を尽くして対応していただいたことがすべてなのです。亡き母は慈恵医大(実父・内科医の母校)に献体した人間ですが、篤志献体の組織「白菊会」のある年の定例総会で、矯正歯科医の福原達郎先生(昭和大名誉教授)がその特別講演の中で、「『医療人は患者に対しての治療には最善を尽くし、患者の気持ちを鑑みる上では優し過ぎるということはない』と述べたようで、その言葉が強く印象に残っている」と生前、母は言っていました。
 一般的に口唇口蓋裂の治療には、口腔外科、矯正歯科、小児歯科、一般歯科、形成外科、耳鼻咽喉科、言語療法などが関わる分野ですが、各専門家が患者への思いを込めて最善を尽くしての治療があったことで、現在の自分があることを改めて痛感しています。振り返ると特に、今でいう「かかりつけ歯科医」であった故 清信弘雄先生を始めとする歯科医師・歯科関係者には本当にお世話になり、また今回、コラムを書かせていただくことになり、改めて歯科がもう少し社会から正当に評価されることを期待して、時には耳の痛い指摘などもあるかもしれませんが、ささやかな経験からの思いを綴っていきますので、何卒よろしくお願いいたします。

奥村 勝

(東京歯科保険医新聞2022年10月号10面掲載)

◆奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立しオクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。