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歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.17】 壁を越えた人的交流に新たな展開

4つのグループと貴協会「メディア懇談会」の存在

2023年度も終わる時期になり、歯科界も新たなスタートを切ろうとしています。私も仕事柄、歯科大学、歯科技工士学校、歯科衛生士学校、歯科関連企業などの新入生・新入社員との新たな交流が始まります。

今回は、私が記者として初めて歯科界の門をくぐった1990 年以降、4つのグループ、および貴協会主催の「メディア懇談会」における人的交流を通じて、貴重な財産となった具体例を紹介します。

▼「齲蝕予防領域」グループ

まず、「齲蝕予防領域」グループです。歯科分野の主な臨床領域は外科、補綴、歯周、小児、矯正などですが、異例とはいえ某歯科大予防関係者、歯科衛生士、雑誌編集者などが個人の資格で集い、雑談や意見交換をするステージとしました。

当時は、まだ臨床家にとって予防は関心が薄く、齲蝕予防にフッ化物応用が浸透していない時代でしたが、本来は大事な分野のため、既にその重要性を評価していた臨床家グループとの出会いがありました。

雑談や議論が白熱し、自然と勉強になり、齲蝕予防の背景や海外の予防先進国の事情を知り、その見方と見識も広まり、そこで得たものは現在の私の歯科問題に携わる基本姿勢につながっています。

▼「マスコミ」グループ

次は、ある意味でご法度の「マスコミ」グループです。現在の歯科記者会とは別に、私が書籍編集者、広告代理店営業部員、歯科書籍の卸・営業部員などから抜てきした有志による歯科マスコミのグループです。

ここでは編集者の経験にもよりますが、出版社による違いを実感。多々勉強になりました。

仕事上、送付されてくる書籍は、すべて一読して書評します。中にはその後、全国的に著名になった歯科医師もおり、予想外の展開にさまざまなことを学ぶ機会もありました。

当時はまだ、大学教授を始めとする教員と開業医との区別意識が歴然としていた時代でした。そのため、開業医の書籍刊行は大変珍しく、歯科界でも〝大学〞に一目置かれている時代でした。私のみならず、マスコミの多くは「言ってはいけないことは言わない。これが原則だ」と念を押していました。

▼「歯科界論客交流会」グループ

そして忘れてはならないのが「歯科界論客交流会」グループです。これは、人脈と縁による歯科医師で臨床と医政に強い関心を持つ人に声をかけてできた交流会です。

「地方で論陣を張っている歯科医師が〝酒席での会話で終わり〞では残念だ」との発言から賛同者が次々と現れ始め、「意見対立でも分裂は回避すること」「お互いの意見の相違は認めること」「感情論はなし」などを掲げてのスタートでした。某先輩からは、「歯科は、次世代に移行しないと本当に時代遅れになるし、地味でも勉強はし続けなければダメだ」と激励されました。

私にとっては、国公立・私立、都心部と郊外などの類型を問わず、歯科医師としての熱い思いと意見を聞くためには、欠くことのできない貴重な〝場〞となりました。時には、さまざまな壁・抵抗感・不快な言動もありましたが、それを乗り越えたからこそ、現在の〝財産〞ができたと理解しています。

貴協会の「メディア懇談会」について

最後に、貴協会の「メディア懇談会」について触れます。

元々貴協会は、歯科界から「組織として、保険診療で良質な歯科診療の実現を主張している」と評され、一目置かれていましたが、その貴協会が2008年3月にメディア懇談会を立ち上げるとのことで、これに参加したのが私の貴協会との付き合いの原点でした。

参加は一般紙・歯科専門紙、記者・編集者を問わず、オープン形式での開催でした。一般紙と歯科専門紙では、関心を寄せる問題意識は類似していても、捉え方が違うケースがありました。また、貴協会会長をはじめ、参加した編集者や記者から直接、説明と意見や見解などを聞くことができ、学ぶことも多く、モノの見方も広がり、ここでも新しい出会いがありました。

時間の制約もあり、担当役員との質疑応答が十分にできないことが残念ですがその時の返答から〝喜怒哀楽〞が伝わり、これにも意味がありました。今後の開催に期待しています。

「東京歯科保険医新聞」2024年3月1日号(No.648号10面掲載)

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オフィス  オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立してオフィス  オクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

【IT相談室】 「Googleビジネスプロフィール」の大きなリスク②

管理者権限が第三者に渡ると…?

前回から「Googleビジネスプロフィール」がどのようなものかお話ししていますが、今回は管理者の権限を第三者(歯科医院関係者、管理委託をしている業者以外)が取得すると、どのようなリスクが生じるのか考えます。

私が今まで受けた相談について、内容をもとに5項目に分類してみました。 

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1)誤った基本情報の表示

第三者である不正使用者が管理者登録を行うと、正確ではない基本情報(住所、電話番号、営業時間など)が表示される可能性があります。これにより、患者さんの正しい情報発見が難しくなります。

2)予約や問い合わせの減少

誤った情報が表示されることで、患者さんが予約や問い合わせを行う際に混乱が生じ、歯科医院へのアクセスが減少する可能性があります。        

3)信頼性の損失

誤った情報や不正確なレビューなどが掲載されることで、患者さんや関係者が歯科医院に対して信頼を失う可能性があります。  

4)競合他社からの攻撃

競合する歯科医院や悪意ある第三者がビジネスプロフィールを不正に変更し、自院に不利益をもたらす可能性があります。    

5)法的な問題

不正使用は、法的な問題につながる可能性があります。商標や著作権の侵害、詐欺行為、悪意ある行為などが含まれる場合、法的手続きが検討される場合があります。

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次回は、以上のような事態に陥らないために、どうすれば良いかを考え、この項を閉じたいと思います。

クレセル株式会社

永田康祐

(東京歯科保険医新聞2024年3月号11面掲載)

【教えて!会長!! Vol.80】 難解な2024年度診療報酬改定/ ぜひ「新点数説明会」にご参加を

難解な2024年度診療報酬改定/ぜひ「新点数説明会」にご参加を

2024年度診療報酬改定をどう評価しますか。

 別件となりますが、会員の先生方におかれましては、日常の歯科医療のほかに政府、厚生労働省、東京都などからのさまざまな案件への対応に苦慮されているのではないでしょうか。私事ですが、並べてみると、①日常でのオンライン資格確認への対応、ならびに在宅診療時のためにモバイル端末での対応をどうするか(本紙5面参照)、②CDでのレセプト請求から9月末期限のオンライン請求にいつ切り替えるか、それとも猶予届出を出すか、③東京都による医療機関への物価高騰緊急対策支援金への対応、④生活保護法指定医療機関一般指導への対応、⑤厚労省の医療機関等情報支援システムGMISへの対応、などがあります。日々患者さんのために〝ちゃんと〞歯科医療に注力したいだけなのに、これらへの対応に時間・心身ともに拘束されています(もし、このほかにお困りなこと、疑問に思うことなどがありましたら、協会にご連絡、お問い合わせください)。

そして現在、複雑で難解な2024年度診療報酬改定の内容を会員の先生方に分かりやすくお伝えするために、まず私をはじめ役員と事務局員で理解を深めています。繰り返しになりますが、今次改定は複雑で難解だからです。本紙3面に改定の評価に関する政策委員長「談話」を掲載していますので、ぜひご参照ください。今次改定に向けて、当協会会員からの「声」を厚労省に届けた結果、初・再診料の引き上げ、外来環の分離、口腔機能管理での小機能・口機能の指導の評価、麻酔薬剤料の適用拡大、CAD/CAM冠の適用拡大、歯科技工士の処遇改善につながる新たな評価NI-TIロータリーファイル加算の要件緩和、歯科訪問診療1の20分要件廃止など、多くの要望が反映されました。しかし、残念ながらすべての項目で十分な評価、緩和が実現したわけではありません。さらに、スタッフに対する政府の賃上げ要求に応えるためのベースアップ評価料への対応を余儀なくされます。

 

いま、何をすべきでしょうか。

 本原稿を執筆している2月末時点では、詳細が不明な点が数多くあります。4月改定ですので3月中に多くの疑問が解決されるでしょう。また、実際に今次改定内容に基づく請求がスタートするのは6月ですからある程度の理解は進むでしょう。しかし、今次改定には施設基準の届出や研修の受講が必要な項目などが複数あります。したがって、6月まで何らアクションを起こさないでいると対応が困難になる可能性があります。そのため、現時点での、ご自身の診療所の状況把握が必要です。一例を挙げると、スタッフの雇用状況・給与・直近で昇給した年月日の把握、施設基準の届出状況、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所であるか否か、口腔機能管理の小機能あるいは口機能の算定状況および指導方法の実際と検査機器の所有状況、在宅診療を行っているか否かなど、今次改定は何も対応しないでいると自院にとってマイナス改定になってしまうので、必要な対策を講じる必要があります。

今次改定に対応する協会の新点数説明会は計3回、会場参加型での開催を準備しています(本紙12面参照)。ぜひ、先生ご自身の大切な医院のため、そして患者さんへのより良い歯科医療の円滑な提供のため、説明会にご参加いただき、充分な対策を講じていただきたいと思っています。

また、実施が本年122日に決まった健康保険証廃止への反対、健康保険証の存続を求める署名を行います。これ以上、患者・国民のための日々の歯科医療を滞らせないため、ぜひ一筆でも結構ですので署名にご協力ください。よろしくお願い申し上げます。

  東京歯科保険医協会

  会長 坪田有史

【談話】細かすぎて良く伝わらない診療報酬改定/政策委員長

細かすぎて良く伝わらない診療報酬改定

中央社会保険医療協議会(中医協)総会は214日、2024年度診療報酬改定案について、厚生労働副大臣に答申書を手渡した。今回の改定は、一つの項目で幾通りかの算定や似たような加算があり、算定方法を見出すまでに時間を要する。保険請求が複雑すぎるため、患者側・医療提供側双方が理解できるように簡素化する方針だったが真逆の結果となった。今回の改定内容を読み解くと、診療体制や個々の診療行為に適正な評価をつけようとした結果なのかもしれない。ただ、手当たり次第に施設基準で縛る仕組みは、かえって混乱を招く。まして、医療を受ける患者の立場で考えた場合、明細書を見ても自身が受けた診療行為が分からないだろう。

▼個別改定項目の評価

物価高騰に対応する医療従事者の処遇改善を初・再診時に算定するベースアップ評価料は、たった1.2%の賃金アップを図るためのもので、医療従事者の人材確保に繋がるとは思えない。また、医療DX推進のために、ばらまかれる加算点数に財源を使われることにも違和感を覚える。

歯科外来診療環境体制加算(外来環)は、医療安全対策と感染対策に分けられた。初診料の注1との棲み分けに注目していきたい。周術期の口腔管理を推進するために対象患者が追加され、回復期の口腔機能管理料も新設された。しかし医科からの依頼がなくては算定できず、歯科疾患管理料等と併算定できないという致命的な要件も改善されておらず、算定率は伸び悩むことだろう。

在宅歯科診療に関しては、居宅への評価を推進する傾向は変わらず、施設への評価は薄利傾向に拍車がかかった。訪問診療の質を上げる議論をするべきではないだろうか。

それでも、当協会が要求してきた歯科医師による歯科訪問診療1の20分要件が廃止されたほか、医科保険医療機関への返書に対しても診療情報連携共有料が認められ、口腔機能管理の評価に対しては一定の前進が認められる。ICTの推進も今後の歯科医療のスタイルに変化を与える一歩になるやもしれない。

今回、最も衝撃を受けたのは金属(金パラ・銀合金)による単冠がクラウン・ブリッジ維持管理料(補管)の対象外になったことである。金パラ・銀合金のみ補管による縛りが無くなり、その他のチタンによるクラウンやCAD/CAM冠には、2年間の保証が残ることになったが、補管以前に起きた様々な問題が再燃しないことを望みたい。

また、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」の施設基準は、「口腔管理体制強化加算」に名称変更された。その役割が分かりにくいための名称変更が目的にもかかわらず、改定後の内容では役割が明確になったとは言えない。

2024年度診療報酬改定の施行が6月となった経緯は、システムベンダーに配慮したとされているが、これを機に、改定毎に複雑多岐にならないように注視していきたい。施行までに通知や疑義解釈で見直しが図られることを期待する。

▼抜本的な見直しが必要

多くの歯科医療機関の収入の中心は保険診療であるが、保険診療は算定ルールが定められているため、個人の努力では打開策や診療体制の充実も図れない。2024年には85歳以上の高齢者が1,000万人を超え、在宅医療のニーズが大幅に上昇すると言われている。その一方で医療を担う医師・歯科医師不足の問題も指摘されている。にもかかわらず、改定財源が不十分であり、医療の担い手不足の解消などには繋がらない。医療崩壊の危機打開には、抜本的な改定財源の見直しによる診療報酬の大幅な引き上げ、そして物価高騰で苦しい生活を強いられている患者の窓口負担の軽減措置を同時に実施していくことが必要だ。国民に必要な医療を提供できるような診療報酬改定の評価を切望する。

2024年2月27日

東京歯科保険医協会

政策委員長 松島良次

 

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)2月1日

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【新聞2月号】

【1面】

1.能登半島地震/甚大な被害 被災会員も
2.2024年度診療報酬改定/初・再診料の点数引き上げへ/外来環廃止・か強診の見直しなどを含む改定内容
3.探針
4.ニュースビュー

【2面】

5.診療報酬改定/中医協 広島で公聴会を開催/協会からパブコメ50本超提出
6.24度改定に向け厚労省要請を実施
7.医療技術評価提案 優先度が高い技術は27項目/CAD/CAMインレー修復に対する光学印象法やエンドクラウンなど


【3面】

8.マイナ保険証 利用率は4.29%/8カ月連続減 現行「健康保険証」の存続は必要
9.オン資トラブル いまだ半数以上の医療機関で/調査から健康保険証の重要性明らかに
10.<重要>CDーR・紙レセプト請求継続に届出が必要
11.IT相談室/「Googlビジネスプロフィール」の大きなリスク①/管理機能が第三者の手中に!!

【4面】

12.経営・税務相談Q&A第413 「減価償却」って何?/開業医のための〝確定申告〟の基本
13.書籍:「保険医の経営と税務 2024年版」
14.法律相談のご案内
15.2023年分確定申告個別相談会

【5面】

16.研究会・行事ご案内 
17.2024年度診療報酬改定新点数説明会 参加申し込みスタート
18.デンタルブックPR

【6・7面】

19.2024年度診療報酬改定「個別改定項目」


【8面】

20.教えて!会長!!No.79「エンドクラウンについて」
21.~先生の一歩につなぐ~私の歯科訪問診療/第6回 橋本健一理事
22.メディア懇談会/診療報酬改定など議題に 記者から被災地の状況報告も
23.通信員便りNo.139
24.共済部だより

【9面】

25.学校歯科治療調査「子どもの口腔崩壊、改善傾向も依然残る地域差 背景に何が?」
26.2023年分確定申告のポイント

【10面】

27.連載「歯科界への私的回想録⑯」/奥村勝氏
28.戦争の歴史を後世に/東京の地から伝える③完(理事/高山史年)
29.理事会だより「第17・18回理事会」
30.1月協会活動日誌

【11面】

31.連載「歯科医療を経済から見てみる⑤完」/尾﨑哲則氏
32.新規指導通知が来る前に/新規開業医講習会を開催「保険診療のルールから指導までを学ぶ」
33.MRONJ対策含む有病者治療/第3回学術研究会で柴原孝彦氏
34.介護サービス計画書の項目が変更に/厚生労働省が関連通知で新旧表記内容を対比

【12面】

35.神田川界隈「‟離婚した” 姓でわかる日本~煩雑な手続きに思う~」(阿部菜穂/理事・江東区)
36.協会史上初の快挙/年間会員増など2部門で全国1位/保団連が第51回定期大会を開催
37.退き際の思考 歯科医師をやめる/自作の“閉院計画”「前倒し重ねた」引退決意後の変化―前編(古田裕司さん)

【IT相談室】 「Googleビジネスプロフィール」の大きなリスク①

管理機能が第三者の手中に!!

「Googleビジネスプロフィール」は、事業者が自分の事業や店舗をGoogle上で効果的に紹介し、検索結果に表示されるようにするための無料のツールです。今回から3回にわたり、このツールの特徴と注意点などを紹介します。

Googleの検索やGoogleマップで医院名を検索した時、自動的に表示されるプロフィール機能を見たことはないでしょうか。Googleビジネスプロフィールを作成すると事業者の基本情報(営業時間、住所、電話番号など)がGoogleマップや検索結果に表示され、ユーザーが事業者の詳細情報を簡単に見つけ出すことができます。近年、よく誹謗中傷を書かれたり、マイナス評価をつけられたりするなど、歯科医院の運営側にさまざまな問題や不快感を突き付けてくる〝あれ〞です。
基本情報以外にも︑写真や動画の公開やサービス情報の掲載、予約ボタンの設置など、複数の機能を持っています。
ところで、「Googleマップへの口コミ」をご存知でしょうか。実は、「Googleビジネスプロフィール」は、この口コミへの返信を書いたり、削除依頼を出したりする管理機能も持っています。しかし、この「Googleビジネスプロフィール」の管理登録は、誰にでもできてしまうのです。
Googleが自動的に行っているサービスとはいえ、医院の大切な情報や口コミの返信を見ず知らずの業者や第三者が勝手に行っていたとしたら、一体どうなるでしょうか。悪意を持って情報を改ざんされる場合もあります。
次回は、「Googleビジネスプロフィール」には、どのようなリスクが潜んでいるのか、どう対策すれば良いのかを考えます。

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クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2024年2月号3面掲載)

※「東京歯科保険医新聞」2024年1月号の「IT相談室」はお休みました。

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.16】 歯科大学受験背景・歯科人生のスタート

さまざまな経緯から歯科医師を選んだ5氏から学ぶ

2024年1月13・14日の両日は、大学受験生自身の学力レベルを測る大学入学共通テスト(実施主体は独立行政法人大学入試センター)が多数の国公私立大学で実施された。この前哨戦ともいえる試験には、歯科医師を目指す受験生も参加している。

今回は、大学入学試験合格後、歯科医師国家試験に合格し、晴れて歯科医師となり、現在も診療に従事している歯科医師5氏について、共通試験がなかった時代の大学受験の背景と現在を紹介し、改めて歯科大学を考察するための参考に供したい。

◆営業マンから転身…多彩な人生模様

A氏は、歯科技工士となり歯科診療所の院内技工所に勤務したものの、苦労を重ね悩んだ末、歯科大を受験、合格した経歴を持つ。「歯科大受験で高校時代を思い出しましたが、もう後がないので必死でした」。歯科診療所を開設してから年経過、院長として奮闘中。歯科技工士として苦労した経験から、歯科技工士には丁寧に接するよう心がけているという。ご本人は「無理はしません。歯科医師の見方もありますが、技工士さんが苦労する箇所を知っていますから」とWライセンスの視点が自然に出てくるようだ。
次に紹介するB氏も歯科技工士として養成機関のインストラクターとして勤務。歯科技工士の世界でも名を残し、専門雑誌でも紹介され、特にクラウン・ブリッジが得意で専修科まで進み、その技術は卓越していたが、歯科医師への思いが断ち切れず歯科大を受験し、合格した。歯科医師となった後に入会した日本補綴歯科学会の学術大会に参加した時は控えめに〝歯科医師〞としての観点から質問をしているが、「技工士時代は、インプラントの評価が定まっておらず、業界雑誌も特集がない時代でしたから、隔世の感があります」とコメントしてくれた。
続くC氏は、父親は開業歯科医師であったが、筑波大に入学し体育専門学群マンをしていたが、サラリーマン生活をやめ、歯科大学受験に挑戦し、見事に合格。さらに、新卒で国試に合格。歯科医師としてスタートしたが、「合格してホッとしました。正直、お金もかかったためこれから借金の返済です。でも、私は歯科診療が楽しいです。別に親に反発したのではなく、高校時代に大好きなテニスで全国大会に推薦される結果を残したため筑波大に進学しました。両親も、よく容認してくれた思います」と両親に感謝。「今は、地区歯科医師会のテニスクラブに入会しています」と語る。
また、D氏は「国試不合格」という辛い経験。まさに国試浪人を経て晴れて合格し、念願の歯科医師になった人物だ。「周囲の目もあり、クラスメイトに会うのも控えるようになった。恥ずかしさと不甲斐なさもあったが、歯科医師を諦めるわけにいかず、本当に落ち込んだ」「新卒の時は自己採点して、厳しいかもしれないと『実感』。甘くみたわけではないが油断があったのかも。受験生に言いたい。油断禁物!です。試験が終わるまで全力で」と警笛を鳴らしている。
最後のE氏の母校は、国試合格率は芳しくなかったが、「国試の自己採点はそれなりの正解率だったので必ず合格すると思っていました。後日、大学からは、『君は、本学の国試合格者全員の中でトップクラスの正解率だった』との話を伺いました」と語った。
以上の5氏は、今も自ら選択した「歯科人生」を着実に歩んでいる。特に歯科大学では、一生の友人や恩人となるような人との縁や出会いがあり、歯科人生の「スタートの場」でもあるようだ。

 

「東京歯科保険医新聞」2024年2月1日号(No.647号10面掲載)

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オフィス  オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立してオフィス  オクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

歯科医療を経済から見てみるNo.5 完 医療経済学的なものの見方から

「歯科医療を経済から見てみる」というタイトルの連載でお話を進めています。いろいろな経済資料や経済学的観点から歯科医療を考えていきます。今回は、経済学的な視点から歯科保健政策を見ていきます。

医療経済評価の手法はいくつかありますが、費用便益分析が良く使われています。この手法は、得られた便益をすべて金銭価値に換算して、治療もしくは予防にかかった費用と比較する方法です。得られた効果をその方法を使用しなかった時に要する費用や死亡・障害などといった結果に着目し、金銭価値に換算することとなります。異業種間の比較検討が可能であり、一般にマクロな事業を対象とすることが多く、「フッ化物を応用したう蝕予防の効果」などに用いられています。測定された便益が費用を上回れば、分析の対象となる治療もしくは予防法は有益となります。ただし、医療の効果を金銭換算することができる場合にしか使えません。

費用便益分析について見て行きます。具体的な例としては、「学校におけるフッ化物洗口の効果を評価」になります。今までは、毎年の定期歯科検診の結果から「DMF歯数」の減少から有用だと判断されていました。しかし、新たに学校現場に「別途投資」する価値があるのかについては、結果を出すことができませんでした。

このようなシミュレーションは、今までは歯科検診からの推定でしたが、今後は電子化されたレセプトを用い、実際の歯科医療費の動向を確認することも可能となっていきます。

さて、今までは、学校保健と公的医療保険制度は別物として扱われることが多かったのですが、今後、地域保健医療を一体化して進めるにあたり、区市町村は縦割り的な行政を効率的に運用するため、より効率的に予算を割り振ることが求められます。学校保健で指摘された疾患であっても、治療費は公的医療保険制度で支払われることを考えれば、当然であると考えられます。特別区(区)では、各区の方針で原則、高校卒業までの医療を無償化していますので、このことも考えておく必要があると思われます。

一方、歯科への患者が減るのではないかと思われる方がいらっしゃると思います。現在までのフッ化物の応用状況と都道府県別の歯科医療費の分析では、明らかな差が出るほどにはなっていません。むしろ、ここで重要なのは、歯の形態的欠損や喪失を防ぐことによって、次に求められるのが機能回復です。すなわち、形態的修復から機能回復への「歯科医療の転換」が、間近に迫っていると思われます。ここに、「新しい病名」と「新技術」が提案されることによって、保険診療も変わっていくことになるかと考えられます。

◆エピローグ

最後になりますが、5回の連載について、お読みいただきありがとうございました。「医療経済」は、大きな意味では公衆衛生分野に含まれますが、中区分では「医療管理学」領域になります。医科では、医療経済学という専門分野がありますが、かなり経済学的な知識がないと難しい分野です。歯科領域を中心にご興味のある方は、これを機に「歯科医療管理学」を少し覗いてみてはいかがでしょうか。

 

「東京歯科保険医新聞」2024年2月1日号(No.647)11面掲載

尾﨑哲則( おざき・てつのり)1983年日本大学歯学部卒業。1987年同大学大学院歯学研究科修了。1998年日本大学歯学部助教授。2002年日本大学歯学部医療人間科学分野教授、日本大学歯学部附属歯科衛生専門学校校長、日本歯科医療管理学会常任理事。2008年日本歯科医療管理学会副会長、2019年日本歯科医療管理学会理事長。ほかに、日本公衆衛生学会理事、日本産業衛生学会生涯教育委員会委員長、社会歯科学会副理事長などを務める。

【教えて!会長!! Vol.79】 エンドクラウンについて

【教えて! 会長!! No.79】 エンドクラウンについて 

◆大臼歯CAD/CAM冠(エンドクラウン)とは。

 本年1月日に開催された厚生労働省の医療技術評価分科会で、「大臼歯CAD/CAM冠(エンドクラウン)︶﹂が﹁診療報酬改定において対応する優先度が高い技術」と判定されました。この判定により、2024年度改定で「大臼歯CAD/CAM冠(エンドクラウン︶﹂が保険収載される可能性が高くなりました。なお、本技術は既存のCAD/CAM冠の適応拡大として、公益社団法人日本補綴歯科学会が医療評価提案書として昨年6月に厚労省に提出しています。 

提案書に記された内容を一部改変して以下に示します。

◆中医協で「大臼歯CAD/CAM冠について、要件を見直す」とされていましたが。

 協会から厚生労働省が公募した「令和6年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理」に関するパブリックコメントで、本件に関連したコメントを提出しました。

「歯科用金属アレルギー患者以外の第一大臼歯CAD/CAM冠の現行の算定要件は明確なエビデンスに裏付けられていない要件であり、歯科医師の裁量権が制限されていて問題である。一方、医療技術評価提案書に対して、『大臼歯CAD/CAM冠(エンドクラウン)』が診療報酬改定において対応する優先度が高い技術とされている。これまでの議論の整理(案)では、『大臼歯CAD/CAM冠について、要件を見直す』とあるが、エンドクラウンを保険収載することのみを指しているのであれば承服できない。対合が義歯などで咬合力が低くCAD/CAM冠の強度に不安がないケースなど、歯科医師の診断ならびに裁量権に基づく算定要件の緩和が必要である」という内容です。

厚労省が「骨太の方針」にしたがって、金パラの代替材料による歯冠修復を推進することに対して、協会は全面的な反対はしていません。しかし、患者・国民の安心・安全のためにエビデンスが低い技術の保険収載には慎重であるべき、また歯科医師の裁量権を制限する算定要件を緩和すべきと、今後も意見していきます。

 

東京歯科保険協会

会長  坪田有史

(東京歯科保険医新聞20242月号8面掲載)

東京歯科保険医新聞2024年(令和6年)1月1日

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【新聞1月号】
※お詫び※4面「経営・税務相談Q&A No.412」の【表:「措置法 26 条」を適用した場合の概算経費率計算表】内の「2,500万円超 3,000万円以下」の算式につきまして、紙面上では「(A)×72%+ 50万円」となっておりましたが、正しくは「(A)×70%+ 50万円」でした。訂正してお詫び申し上げます。

【1面】

1.巻頭写真「青き富士山」(撮影:早坂美都副会長) 
2.年頭所感「会員6000名時代 今後もさらなる発展を目指します」
3.探針
4.ニュースビュー

【2面】

5.歯科改定率0 ・57%増 経営改善には不十分
6.政策委員長談話/プラス改定を実感できる実態に見合った診療報酬改定を切望する
7.理事・部員政策学習会/理事会学習会開催
8.2022 年度個別指導結果 開示請求で明らかに
9.新点数説明会ご案内

【3面】

10.歯科技工所アンケート結果/歯科技工所の厳しい経営状況が浮き彫りに 「歯科技工所アンケート」の集計結果がまとまる

【4面】

11.法律相談、経営&税務相談のご案内
12.謹賀新年名刺広告

【5面】

13.研究会・行事ご案内
14.経営・税務相談Q&A第412回「「措置法26条」使ってますか?開業医のための‶確定申告”の基本」
15.シャープニング・SRP実習 講義と実習でレベルアップ!
16.坪田会長が語った!歯科医院の事業承継・継承の実態/経営管理研究会

【6・7面】

17.新春号特別インタビュー・土井善晴さん
18.新春企画/会員写真投稿

【8面】

19.教えて!会長!! No.78「PEEK冠の基本的な考え方」
20.トラブル回避の秘訣は「丁寧な説明」医事相談研究会を開催
21.~先生の一歩につなぐ~私の歯科訪問診療/第5回 池川 裕子理事
22.会員投稿「襷を繋げるということ」/川本 弘氏(足立区)
23.理事会だより「第16回理事会」
24.12月協会活動日誌

【9面】

25.症例研究「新たに保険収載されたPEEKブロック(CAD/CAM冠用材料(Ⅴ))の算定」

【10面】

26.今の協会から近未来の協会を展望する「なぜ、私が協会に」これからの歯科医療を担う若手会員に聞く
27.退き際の思考 歯科医師をやめる/10年越しの夢叶えたセカンドキャリア「神様から2つのチャンスを」―後編(中野多美子さん)

【11面】

28.認知症患者自立の鍵は/医科歯科連携研究会「社会との共生が重要」と訴える
29.地域医療研究会を開催/歯科だけでなく多職種連携を 歯科訪問診療の重要ポイントを解説
30.第2回学術ベーシック講座を開催/多職種連携の重要性と実践方法に言及
31.歯科技工問題の解決が歯科医療費総枠拡大の突破口
32.グループ生命保険40周年記念抽選会
33.共済部だより

【12面】

34.健康保険証存続請願署名の取り組み
35.オン資訴訟 国はトラブル調査を”軽視” 傍聴席に会員の姿「一度は裁判所に」
36.診療報酬の引き上げは不十分 署名を携え議員に要請
37.2024年1月 歯科用貴金属の随時改定情報
38.神田川界隈「運動で脳機能が向上?」(岡田尚彦理事)

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.15】 大学文化祭から学び実感した現実とは大学文化祭から学び実感した現実とは

歯系大から総合大学に視野を広げて実感したこと

◆「井の中の蛙大海を知らず」の喩え

月の連休が過ぎ大学文化祭のピークは過ぎた。今年は例年と違い、東京医科歯科大学(東医歯大)、東京歯科大学(東歯大)、東京工業大学(東工大)、明治大学、法政大学、早稲田大学の文化祭巡りを行うという私としては初めての経験をしたが、様々なことを考察する機会になった。「井の中の蛙大海を知らず」という言葉があるが、まさに歯科とは直接関係のない〝文化祭〟でそれを実感することとなった。

◆学生の問題意識再確認で驚きを覚える
まず、2024年月1日に東工大と統合する東医歯大。残念ながら、あいにくの荒天のためか、来場者が極めて少ない現実を見せつけられた。そして、歯学部の存在を感じることはなく、学生のコメントを得ることはゼロ。受付担当の医学部学生も歯学部との連携の不具合からか、その対応は困惑した様子であった。 続いて東歯大。東歯大への高い評価について、実行委員長に感想を尋ねると、「建学者である血脇守之助先生の言葉『歯科医師たる前に人間たれ』は意識しています。奢ることなく、来場する人の数に関係なく、謙虚に対応です」との言葉に驚愕した。立場があるとしても敬服。東歯大生としての問題意識・母校愛を見せつけられた。
 新型コロナ対策への「制限なし」としては数年ぶりの本来の文化祭の姿に戻った東工大。とかく難関校・理系の堅いイメージが先行しがちだが、全体規模、企画展示数、活気ある来場者数と往来の様子、学生の問題意識を再確認した。「〝東京工業大学〟に憧れて入学しました。それが学生の途中で大学統合。新大学名は〝東京科学大学〟ですか?ガッカリです。でも上の偉い人が決めたことですから仕方ないです。目標は大学院に進学して、社会から評価される研究に専念することです。やはり東工大が大好きです」と本音を吐露していた。

◆文化祭から垣間見る大学と学生と将来と

翻って総合大学。4年制総合大学である明治大学は新たなキャンパスでの開催ということで、学生がエンターテイメントを中心とした企画に溌剌・活発に文化祭を満喫。新設の校友会コーナーでは、「親父より上ですが、先輩に会えて楽しいです。やはり〝明治は一つ〟ですね」と、会話の中での一言で歓談は続いた。同様に法政大学も新キャンパスで自由活発に来場者に積極的な営業対応する姿が目立っていた。「法政も頑張っています。新しい法政を私たちが作ります」と、女子学生の威勢のいい声掛けに右往左往。また、最寄り駅から行列の早稲田大学では、伝統を再考させられた。政治家による対談など〝硬派向けの企画〟もあり、硬軟取り合わせた企画や研究発表に注目。それには「早稲田らしい」と納得。「早稲田は社会に意見を言います」と雄弁会会員の言葉が印象的であり、旧来の文化祭の残像を残していた。
 まさに〝文化祭〟から、大学・学生、そして将来が見えてきます。

◆卒業後も先輩・後輩の人間関係は続く
文化祭では学生との裏話を含めた会話に浸ることが大半であったが、青春の一部である「文化祭」には、その大学の個性が反映しているのを肌で感じた。「母校の文化祭が一番楽しい」という感情は当然であり、思いを寄せるは自然である。その一方、企画点数、模擬店数・内容、研究成果などを見聞きして理解が進み、発表・説明者に説明を求めて話が弾むなど、貴重な時間になった。各人は母校で過ごした時間は消すことはできない。まして母校名は、一生背負って生きていくものだ。卒業後の進路はマチマチであるが、先輩・後輩の関係は続いていく。

◆勘違いに浸りながら得意満面に
歯科大学も歯系大学があり、それぞれ歴史・伝統を構築している。建学の精神を再確認・維持していくことは大学の責務かもしれない。母校以外の大学については、「名前だけは知っている」のは普通であり、専門家でない者は他の歯系大学の歴史・文化は知らない。「イメージと言葉」が一人歩きをし、そこにいる自分は〝井の中の蛙〟かもしれない。社会を見る目にはその自覚が必要であり、常にそこが問われているのかもしれない。私自身、ネット社会という情報過多に覆われた社会に、知らないうちに生かされている側面もあるが、その中で自分自身による判断・決断を日々余儀なく行っている。取材という「人に会う仕事」をしていると、「すべて知っている」という勘違いに浸り、そこには得意満面になっている自分がいるのかもしれない。

 

「東京歯科保険医新聞」2023年12月1日号(No.646号10面掲載)

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オフィス  オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立してオフィス  オクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

 

 

 

 

【教えて!会長!! Vol.78】 PEEK冠の基本的な考え方

【教えて!会長!! Vol.78】 PEEK冠の基本的な考え方

◆日本補綴歯科学会からPEEK冠に関して発表があったそうですが。

 12月1日発行の「東京歯科保険医新聞」第645号「『PEEK 』について」に引き続き、会員から多数の問い合わせがある「PEEK冠」について今回も取り上げます。202312月付けで公益社団法人日本補綴歯科学会(以下、補綴学会)から「PEEK冠に関する基本的な考え方(第1報)」(以下、「PEEK冠の考え方」)が発表されました。詳細は、補綴学会のホームページを参照していただくこととして、その内容をピックアップして紹介します。なお、「PEEK冠の考え方」は「1.概要」、「2.保険診療におけるPEEK冠について」、「3.PEEK冠の製作」、の3項目で構成されています。

 

◆「概要の記載」はどのようなものでしょうか。

 まず「概要」では、以下のようにPEEK冠の特徴を記載しています。「PEEK冠は、非金属性のPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を材料としてCAD/CAMシステムを用いて歯冠修復する医療技術である。PEEKは生体安全性が高く、高強度で破折リスクが少ない材料。生体親和性が高く、成分の溶出量が少なく、金属アレルギー患者にも適用できる」とし、続けて「一方、ハイブリッドレジンと比較して、高い破壊靱性があるため、支台歯形成においてCAD/CAM冠に比べて、全部金属冠程度に歯質削除量が少なく咬合面やマージン部の厚みが小さくても破折しにくい。従って、上下顎大臼歯に適用可能である。歯冠色にすることはできるが、光透過性を付与することが困難な材料である、現行のCAD/CAM冠に相当するような審美性は有していない。20症例の最後方臼歯を含む大臼歯(23装置中11装置は最後方大臼歯)に装着し、6カ月の経過観察で脱離、破折はなく、咬合接触が維持され治療法として有効であることが報告され、装着後2年の経過観察でも破折や脱離は認められていない」としています。

 

◆「保険診療におけるPEEK冠について」は。

 保険診療に関しては、「適応症は、保持力に十分な歯冠高径があること、過度な咬合圧が加わらないこと等が求められる。部分床義歯の支台歯については、適応症とするためのエビデンスが得られていない。適応症は、大臼歯の単冠症例で上下顎両側の大臼歯。第二大臼歯が欠損して事実上の最後方大臼歯になった第一大臼歯も適用」としています。

 

◆「PEEK冠の製作」については。

 PEEK冠の製作の記載は、CAD/CAM冠との相違点にアンダーラインを付記して説明しています。「支台歯形成は、1.01.5㎜以上の咬合面クリアランス。軸面テーパーは片側610°の範囲におさめる。マージン形態は、ディープシャンファーとし、そのクリアランスは、軸面で1.0㎜以上、辺縁部で約0.8㎜以上にする。鋭利な部分がないように丸みを帯びた形状にする。研磨は、シリコーンポイント後につや出し用研磨剤を用いてバフ研磨を行う」としています。続けて「装着は、接着性レジンセメントを使用することが必須であり、(1)口腔内試適後、PEEK冠内面を弱圧下(0.10.2MPa)でアルミナサンドブラスト処理することが必須である、(2)乾燥後に専用プライマーを塗布し光照射を行う(PEEKは光透過性がないため)、(3)乾燥後に接着性レジンセメントをPEEK冠内面に塗布して装着する、(4)PEEKは光透過性がないため光照射によるクラウン内面の重合は期待できないため化学重合型かデュアルキュア型のセメントを使用する。トレーサビリティシールの管理は、診療録に貼付するなど、保存して管理すること」などとしています。

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以上、補綴学会の「PEEK冠の考え方」について、紙面の都合もあり改変、ピックアップしながら紹介しました。既に、PEEK冠の内面への接着レジンセメントの接着が困難であることや弾性率が低いため、外力で撓たわみやすく、脱離・脱落の可能性が低くないのでは、との懸念が指摘されています。臨床エビデンスも十分とはいえないため、今後、眼前の患者さんに説明できる高いエビデンスの蓄積が望まれます。

東京歯科保険協会

会長  坪田有史

(東京歯科保険医新聞20241月号8面掲載)

【2024年・年頭所感】会員6,000名時代 今後もさらなる発展を目指します/坪田有史会長

 2017年6月の定期総会で会長を拝命し、7回目の年頭所感として新年のご挨拶をさせていただきます。

 一昨年の年頭所感で本会会員数5,937名、昨年1月では5,951名と順調に会員数が増加していることをご報告してきました。さらに昨年6月には6,000名の区切りを超え、2023年12月1日時点で6,030名の会員数となりました。東京都内の歯科医師の任意団体として、昨年も多くの先生にご入会いただき感謝申し上げます。この会員増には、既会員の先生方からの多くのご紹介があり、この場をお借りして先生方のご協力に心から御礼申し上げます。また、未入会の先生方におかれましては、本会入会によって、数多くのメリットがありますので、入会のご検討をよろしくお願い申し上げます。

 特に、2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症の影響により、患者が減少し、それ以前に比べ、歯科医療機関の多くが減収となりました。そこで本会会員の会費を3カ月分免除する直接的支援と、国や都の助成金などへの申請を支援することなどを行いました。それらの実施当初から現在に至るまで、最も重要視したのは情報共有でした。
 本会の情報発信ツールとして、FAXニュース、Facebook、本会ホームページがありますが、最も効果があったのはデンタルブックメールニュースでした。情報をスピーディーに会員に届けるため、原則、週3回(月、水、金)、会員のメールアドレスに発信させていただきました。オンライン資格確認システム関連、マイナ保険証、マイナポータル、電子処方箋、そして12月に期中収載された「松風PEEKブロック」の情報など、「どこよりも早く正確に」を心がけて会員との情報共有を図っています。
 歯科医療に関わるインボイス制度と電子帳簿保存法の施行、数カ月後の2024年度診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬などの「トリプル改定」を控えています。さらに、政府は今後、オンライン資格確認システム関連、レセプトのオンライン請求、そして、電子カルテ導入など、数々のシステムを医療機関に義務化しようと準備しています。
 これらの情報を直接、スピーディーに会員へお知らせすることが本会の重要な役割と捉えています。現在、デンタルブックは70%超の会員に発信していますが、100%の会員への情報共有を目指しています。今後の重要な情報を入手していただくため、まだデンタルブックにメールアドレスを登録されていない先生は、本会事務局までご連絡ください。

 本会は1973年4月に設立され、昨年設立50周年を迎えました。そこで、9月10日に都市センターホテル(東京都千代田区)にて「東京歯科保険医協会 50周年記念企画 これからの歯科を考える〜今後もより一層頼りになる存在としてあるために〜」を開催しました。会員のほか、他協会の関係者、国会議員、都議会議員ら、200名を超える参加者が一堂に会し、半世紀の歩みを振り返りながら、将来の展望を語る貴重な時間をともに過ごしました。
 本会設立から50年、その間、多くの会員、関係各位に支えていただきました。これからも一層、患者、国民に良質な歯科保険医療を提供するための一助になる存在として、さらなる発展を目指します。
 今後も倍旧のご支援をよろしくお願い申し上げます。

2024年1月1日
 東京歯科保険医協会
                会長 坪田 有史

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)12月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)12月1日

【新聞12月号】

【1面】

1.中医協 24年度診療報酬改定議論が本格的に始まる 
2.収益悪化が拡大 個人立 前年度比で損益率6%減 医療経済実態調査
3.探針
4.ニュースビュー

【2面】

5.政策委員長談話/次期診療報酬は大幅なプラス改定が不可欠である
6.中医協・社保審/歯科用貴金属随時改定/オン資モバイル端末も議論に
7.大臼歯のCAD/CAM冠用材料/新たにタイプ(Ⅴ)が追加(松風ブロックPEEK) 
8.各方面から健康保険証存続要求の動き/立憲廃止時期延期の法案提出」
9.「健康保険証の存続を求める」関東ブロック決議

【3面】

10.追悼/中川先生は、私の知識や人格形成に深く関わってくださった
11.保険証の存続と診療報酬の引き上げを!/署名を携え、国会議員に緊急要請
12.物価高騰に対する各自治体の支援策
13.歯科医療費の総枠拡大を/秋の歯科決起集会開催
14.会員寄稿「声」/私はいつまで〝若手〟の歯科医師?(福田友莉加/目黒区)


【4面】

15.経営・税務相談Q&A第411回「年末調整~ 2023年分の変更点と電子化について~」
16.電子取引データの保存方法について~電子帳簿保存法の改正 歯科医院でやっておきたい準備~/税理士法人 税制経営研究所

【5面】

17.研究会・行事ご案内
18.会員優待のご案内

【6面】

19.interview/藤山美里・佐藤静香氏/「都・歯科衛生士会に新風「とにかくやってみよう」復職支援&離職防止の両輪で取り組む」

【7面】

20.退き際の思考 歯科医師をやめる/「一生働けるわけではない」医院継承の〝反省〟―前編
21.第2回学術研究会/歯周基本治療の重要性を説く
22.23年度会員地区懇談会/理不尽なAI審査について討論!
23.12月会員無料相談

【8面】

24.教えて!会長!! No.77
25.先生の一歩につなぐ~歯科訪問診療
26.第4回メディア懇談会
27.事務局休務のお知らせ
28.保険医休業保障共済保険のご案内
29.共済部だより
30.年末年始休診ポスター案内

【9面】

31.症例研究「Ni−Tiロータリーファイルを用いた加圧根管充填処置」

【10面】

32.連載「歯科界への私的回想録⑮」/奥村勝氏
33.理事会だより「第14・15回理事会」
34.11月協会活動日誌

【11面】

35.連載「歯科医療を経済から見てみる④」/尾﨑哲則氏
36.第1回学術ベーシック講座/フツーの歯科医院でこそ行うべき口腔機能低下症の管理
37.<1面から続く>中央社会保険医療協議会(10月27日、11月17日開催)の論点

【12面】

38.神田川界隈「医療の裁量権は誰のもの」(川本弘/理事・足立区)
39.戦争の歴史を後世に/東京の地から伝える②(理事/高山史年)
40.歯科治療への保険適用拡充など訴える/イイハデー街頭宣伝in西巣鴨駅前を実施/「保険でよい歯を」東京連絡会
41.「保険でよい歯を」東京連絡会が総会記念講演/歯科技工問題の現状と運動推進の展望~日本の歯科技工を守るために~
42.オーラルフレイル予防の大切さ訴える/日本高齢者大会in東京を開催
43.特別企画「今年の漢字2023」応募結果発表

【教えて!会長!! Vol.77】 「PEEK」について

<東京歯科保険医新聞2023年12月号8面掲載>

▼PEEKに関する過去の「教えて!会長!!」はコチラ
【教えて!会長!! Vol.53】PEEKによる大臼歯歯冠修復物

◆12月から保険適用となった「PEEK」とは。

11月22日の中医協でCAD/CAM冠材料(Ⅴ)として「松風ブロックPEEK」レジンブロックが保険医療材料として承認されました(本紙2面に関連記事)。「ポリエーテルエーテルケトン」の頭文字で「PEEK」と呼称されます。熱可塑性樹脂の中に機械的強度や耐熱性に優れたエンジニアリングプラスチックがあり、さらに優れた性能を有するものがスーパーエンジニアリングプラスチックと分類され、その中に「PEEK」は位置しています。この「PEEK」ですが、その優れた性能から金属の代替材料として医療機器、自動車部品などでも注目されています。すでに歯科領域では前装冠のコーピングやインプラント上部構造用フレームとして使用され、その生体安全性や口腔内環境に適した材料といわれています。その理由として、高い機械的強度、高靱性(割れにくく粘り強さを持つ)、耐摩耗性があり、吸水性が低い、耐熱性があり衝撃吸収能を有し、密度が金属材料やジルコニアと比較して小さいため、非常に軽いなどの特徴があるためです。

◆2年に1度の診療報酬改定前年の12月1日から保険適用となるのはなぜですか。

2年ごとの診療報酬改定ではない3・6912月に保険適用になることを「期中収載」と呼称しています。日本補綴歯科学会が2022年度診療報酬改定に向け、21年に保険未収載技術として「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)による大臼歯歯冠修復物」の申請技術名で医療技術評価提案書を提出しています。22年度改定の時には「PEEK」のレジンブロックが保険医療材料ではないため、医療技術評価分科会では評価されませんでした。今回、保険医療材料等専門組織で「『松風ブロックPEEK』レジンブロック」が可と判定され、中医協において承認されました。なお、24年度改定に向けて日本補綴歯科学会が申請技術名「PEEKによる大臼歯歯冠修復物」で再度提出していますが、24年度改定の提案書が反映された訳ではありません。また、2223年の「骨太の方針」に「市場価格に左右されない歯科用材料の導入を推進する」と明記されました。これが、本適用に影響したと推測されます。今後、比較的早期に「PEEK」レジンブロックを販売している他メーカーの製品が保険適用されるでしょう。

◆臨床上のエビデンスについて。

広島大学で行われた2023ケースの大臼歯の6カ月の臨床追跡調査が報告されています。その結果は、臨床的に問題がなく、金属によるクラウンの代替材料として期待できるとされています。そのほかの臨床研究の報告は現時点では見つけられないため、2023ケースの半年の臨床応用の結果のみで、保険適用が承認されたこととなります。今後、患者さんに説明できる高いエビデンスとなる臨床研究が報告されることに期待します。

東京歯科保険協会
会長 坪田有史
(東京歯科保険医新聞2023年12月号8面掲載)

歯科医療を経済から見てみるNo.4 社会医療診療行為別統計(レセプトデータ)からみた年齢別歯科受診の状況

「歯科医療を経済から見てみる」とのタイトルで4回目の連載となります。いろいろな経済資料や経済学的観点から歯科医療を考えていきます。今回は、「社会医療診療行為別統計」から、年代別等の歯科受診の特性を見てみました。

社会医療診療行為別統計は、全国の保険医療機関および保険薬局から社会保険診療報酬支払基金支部および国民健康保険団体連合会に提出され、当該年6月審査分(原則、5月診療分)として審査決定された医療保険制度の診療報酬明細書および調剤報酬明細書のうち、「レセプト情報・特定健診等情報データベース(以下、「NDB」という)」に蓄積されているものすべてを集計対象としました。

今回は、1カ月分の初再診回数を取り上げてみました。すなわち、受診回数を見てみました。2018年をとした場合の各年度の比率を、1示しています。2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響で、80を割っていることがみられます。その後、ゆっくりと回復していきましたが、後期高齢者医療は2022年に100超えたのに対し、一般医療は戻っていないことが見えています。しかし、22年の5月は、まだ類相当の影響があったかと考えています。ここまでは、今まで言われてきたことです。次に、年齢階級別の初再診回数を1と同様に18年を100とした場合の各年度の比率を2に示しました。ここで、注目は2020年のカーブです。60歳代後半を中心に、各年齢階級で大きく低下しています。そして、このカーブをよく見ると、この60歳代後半を中心として、両側は緩やかな減少となっています。しかし、この歯科診療全体が多く低下した時期に、10歳代後半は18年レベルを超えていました。意外に思われるかもしれませんが、20年の5月は、この年代にとっては学校も部活も、塾もなく、行き場所を失っている中で、歯科受診が行われたと思われます。これは、あくまでも年度との比較です。

一方、歯科受診者のボリュームゾーンは、60歳代後半から70歳代です(下表参照)。また、10歳代後半は一番受診者が少ない階級であり、全体への影響は少なく、そのため最初に示したような結果になったと考えられます。

必ずしも、歯科受診行動については、全体が同一の行動を取ることは少なく、年代や性別ごとにそれぞれ特性があることが見えてきます。

今回は、NDBのレセプトデータから、受診者の年齢階級データを取り上げてみました。診療行為については見ていませんが、診療行為に関わるNDBが診療報酬改定の際の基本資料に使われていることに関心を持っていただければ幸いです。

 

 

 

 

「東京歯科保険医新聞」2023年12月1日号(No.645)11面掲載

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尾﨑哲則( おざき・てつのり)1983年日本大学歯学部卒業。1987年同大学大学院歯学研究科修了。1998年日本大学歯学部助教授。2002年日本大学歯学部医療人間科学分野教授、日本大学歯学部附属歯科衛生専門学校校長、日本歯科医療管理学会常任理事。2008年日本歯科医療管理学会副会長、2019年日本歯科医療管理学会理事長。ほかに、日本公衆衛生学会理事、日本産業衛生学会生涯教育委員会委員長、社会歯科学会副理事長などを務める。

 

 

歯科医療を経済から見てみるNo.3 家計調査からみた歯科受診の地域差

「歯科医療を経済から見てみる」というタイトルの連載は、今回で3回目となります。いろいろな経済資料や経済学的観点から、歯科医療を考えていきます。今回も、「家計調査」からですが、居住地域別の歯科受診の特性を見てみました。家計調査は、家計から支払われた金額で示されています。

今回は、2022年の居住地域別の1年間の1世帯当たりの歯科診療代・医科診療代の全世帯平均支出金額および受診回数を居住地域の人口規模別に示しました(下記表参照)。

なお、「大都市」は、政令指定都市および東京都区部、「中都市」は大都市を除く人口15万以上の市で、「小都市A]は人口5万以上の市(大都市、中都市を除く)で、「小都市B・町村]は人口5万未満の市および町村です。

全国のデータを見ますと、医科への受診回数は一世帯当たり、21回であるのに対し、歯科は5.5回でした。また、受診1回あたりの平均支出額は医科で約2,000円であるのに対して歯科は約4,000円でした。このことにより、歯科医療機関での窓口支払い額から見ると、「歯科は高い」という患者さんの思いに共感できると思いました。なお、この支出額には、保険外も含まれていることを考慮してください。

さて、居住地域別のデータについて、最初に支出額をみますと、大都市では24,700円、そして小都市B・町村18,700円であり、人口規模が小さくなるにしたがって減少していくことが分かります。これは医科の支出額も同様でした。

次いで受診回数を見ると、大都市・中都市および小都市では約5.6回であり、あまり差がないことがみえますが、小都市B・町村は4.9回であり、この間に差がみられました。しかし、医科では人口規模が小さくなるのに伴い、若干低下するものの、あまり差はありませんでした。このデータから、小都市B・町村以外では、ある程度、一般的な歯科医療が充足されているとも考えられます。そこで、1受診回数当たりの支出額をみると、大都市のみが4,400円と高く、他は3,800円代でほとんど差がありませんでした。大都市部での支出額が高いのは、保険外診療など影響も考えられますが、他の因子も考えていく必要はありましょう。

以上から、歯科への家計からの支出額は、受診回数と1受診回数当たりの支出額の関係から、居住地別の家計からの歯科支出額の差が見られたと考えられました。新型コロナウイルス感染症の影響がある程度軽減されたと考えて、2022年度のデータを用いました。

このような特徴をご存じであったでしょうか。

「東京歯科保険医新聞」2023年11月1日号(No.644)8面掲載

 

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尾﨑哲則( おざき・てつのり)1983年日本大学歯学部卒業。1987年同大学大学院歯学研究科修了。1998年日本大学歯学部助教授。2002年日本大学歯学部医療人間科学分野教授、日本大学歯学部附属歯科衛生専門学校校長、日本歯科医療管理学会常任理事。2008年日本歯科医療管理学会副会長、2019年日本歯科医療管理学会理事長。ほかに、日本公衆衛生学会理事、日本産業衛生学会生涯教育委員会委員長、社会歯科学会副理事長などを務める。

【談話】次期診療報酬は 大幅なプラス改定が不可欠である/政策委員長

次期診療報酬は 大幅なプラス改定が不可欠である

財務省の財政制度等審議会(以下「財政審」)は11月20日、来年度予算案の編成に向けた提案にあたる「秋の建議」の中で、2024年度診療報酬改定について初・再診料を中心に診療所の報酬単価を引き下げ、「マイナス改定」を提言した。
しかし、財政審がマイナス改定の根拠とした機動的調査による診療所における収益・費用・利益の状況は、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、医療機関の収益が落ち込んでいた2020年を土台に比較することで収益の上昇率を強調し、社会保障費を削減したい財務省の意図が反映された合理性を欠いた比較データである。建議の中で用いるには実態を反映したデータではないため、不適当である。
診療報酬改定を巡っては、国の低医療費抑制策が敷かれ、前回の本体の改定率はわずか0.43%に抑えられ、歯科においては2014年度以降の改定率は1パーセントにも満たない状況である。財務省が示す医療費の伸びは高齢人口の増加や、医療費の高度化等による医療費の自然増を示すものに過ぎず、医療機関の経営実態を示したものではない。それにも関わらず、恣意的なデータを持ち出して「極めて良好な経営状況」とすることは、誤った方向に誘導することに他ならない。
現在、歯科材料費、水道光熱費等、物価高騰が歯科医院経営に与えている影響が前回改定時よりも増して大きい。現場からは歯科医院経営の苦しさに耐え切れないという声も上がっている。また建議では新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類感染症に変更され、「経済情勢は平時に戻った」と主張しているが、医療機関においては感染症対策が不要になったわけではなく、感染対策にかかる物品の購入や人材確保等の費用の支出が継続するなど「有事」の対応が求められている。
新型コロナの影響や物価高騰で疲弊している医療機関に対してマイナス改定を求めることは、国民に対して安心できる歯科医療の提供を阻むだけでなく、岸田首相が民間企業と同様に求める医療・介護従事者の賃上げの実現は不可能である。地域医療を守り、国民が安心して医療にかかれるためにも次期診療報酬改定は大幅なプラス改定が不可欠である。
よって診療報酬の大幅なプラス改定を強く要望する。
2023年11月27日
東京歯科保険医協会
政策委員長 松島良次

※参考:歯科改定率の推移/20140.99%、160.61%、180.69%、200.59%、220.29

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)11月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)11月1日

【新聞11月号】

【1面】

1.10・26秋の歯科決起集会
2.歯科技工所アンケート速報/可処分所得300万円以下が48%
3.厚労省に届け!!パブコメに託す「現場の声」
4.訃報 中川勝洋元会長が逝去
5.探針
6.ニュースビュー

【2面】

7.〝2つの署名〞にご協力を/診療報酬引き上げと保険証存続を行政に
8.訪問診療時のオンライン資格確認/モバイル端末を利用した運用に
9.マイナ保険証トラブルで「診療を妨げるようなことは…」/多くの署名集める先生に聞く
10.オン資補助金で武見厚労大臣あてに「要請書」
11.また、オンライン資格確認で/保険証と異なる負担割合が!!/未だ収拾を見ない誤表示問題

【3面】

12.物価高騰に対する支援金各自治体で続々/協会の要望活動が実り始める
13.会員寄稿「声」:「最適な歯科医療を求めて~理工学の門叩く~」(駒形葵/文京区)
14.第38回保団連医療研究フォーラム開催
15.新規開業医講習会/新規指導通知が来る前に―保険診療のルールから指導までを学ぶ
16.訪問時の悩みを解消 歯科訪問診療懇談会/事前アンケート回答を深掘り
17.協会が提出したパブリック・コメント4件

【4面】

18.経営・税務相談Q&A第410回「求人会社との契約内容にご注意を!~トラブルが多発しています~」
19.11月会員無料相談

【5面】

20.研究会・行事ご案内

【6面】

21.interview/石川功和氏/「歯科技工士は『患者さんの人生を担う』師・村岡博氏の教え」・歯科技工士の『後世に道を』都技会長の展望」

【7面】

22.「やっぱりキミが必要だ 健康保険証請願署名」ポスター企画

【8面】

23.連載「歯科医療を経済から見てみる③」/尾﨑哲則氏
24.連載「~先生の一歩につなぐ~私の歯科訪問診療③」
25.通信員便りNo.138
26.会員優待のご案内
27.デンタルブックPR

【9面】

28.症例研究「口腔機能低下症の診断の流れと有床義歯の製作について」

【10面】

29.連載「歯科界への私的回想録⑭」/奥村勝氏
30.理事会だより「第12・13回理事会」
31.10月協会活動日誌

【11面】

32.教えて!会長!! No.76「日弁連の10.6『決議』」
33.診療報酬とスタッフ賃金の引き上げを/いのちまもる「10・19総行動」に約3,000人参加
34.IT相談室「歯科医院の効果的なチャットアプリ活用と労働基準法の遵守No.2
35.休業保障制度PR
36.共済部だより

【12面】

37.神田川界隈「休薬が必要?~最近のトラブル事例から~」(濱﨑啓吾/理事・練馬区)
38.インボイス制度始まる/歯科医院の対応についてはデンタルブックにて解説動画を配信中!
39.被爆者運動継承に向け報告多数/札幌で第33回反核医師のつどい
40.戦争の歴史を後世に/東京の地から伝える(理事/高山史年)
41.新年号特別企画のお知らせ
42.「今年の漢字2023募集中」
43.年末年始休診ポスターのご案内

【13面】

44.「すべての医療機関を守るため 診療報酬の大幅引き上げを求める医師・歯科医師要請署名」用紙

歯科医療を経済から見てみるNo.2 家計調査からみた歯科関連支出の特性

「歯科医療を経済から見てみる」というタイトルの連載でお話を進めていきます。いろいろな経済資料や経済学的観点から、歯科医療を考えていきます。今回も、「家計調査」からですが、歯科関連支出の特性を見てみました。前回の繰り返しとなりますが、家計調査は、家計から支払われた金額で示されています。

今回は、2022年の1年間の年間収入五分位階級別1世帯当たりの各項目の全世帯平均支出金額との比を図に示しました。ⅠからⅤは、世帯の年間収入による区分で、ⅠからⅤに向かって収入が増加していきます。縦軸は、支払額を平均額に対する比で示しています。平均支出額を1としています。

横軸の項目を見ますと、「」マークがついているものは包括項目です。医薬品はすべての医薬品の総額ですが、その中から感冒薬と胃腸薬を別途に示しています。同様に、保健医療サービスは包括項目で、ここから医科診療代と歯科診療代を別途示しています。歯ブラシは単独の項目として、石けん類・化粧品は包括項目とし、その中から歯磨き(歯磨剤を示します。なお、この項目に入っているのは、設定された時期では、ほとんどの歯磨剤が化粧品歯磨剤であったためです)を特出しています。まったく別途項目として、たばこをあげました。

◆歯科診療代と歯磨剤

まず、見ていただきたいのが歯科診療代です。先月触れたように、収入による支出比が大きいことが、棒グラフ間の傾きが大きいことから見て取れます。すなわち、収入が多い家庭ほど多く支出していることが見られます。歯科関連項目として、歯ブラシと歯磨きを見ますと、両項目とも同様に収入が多い家庭ほど多く支出しています。歯磨きは若干差が弱い項目です。しかし、この2項目を見ると平均支出額(左表参照)で、歯磨き1966円、歯ブラシ3817円と2倍ほどの額ですが、Ⅰ区分とⅤ区分の差は、歯ブラシは1254円、歯磨き1588円で、歯磨きのほうが差は少ない傾向が見られます。これは、多くの日本人が歯磨剤を意識して選択しているためかと思われます。

 

◆医科関連項目の特徴

医科関連項目では、医科診療代に見られるように、収入による差はあまりありません。感冒薬だけ差が出ていますが、胃腸薬は、医薬品全体同様に差はほとんどありません。保健医療サービスもⅤ区分のみが高い傾向はありますが、これは多くの診療行為が国民皆保険制度にカバーされているためと考えられます。

今回、たばこを取り上げましたが、これは、収入が高いⅤ区分が低いのは偶然ではなく、ほぼ毎年見られます。各方向から見ていくと、収入が高い人ほど健康意識が高い傾向が見られます。これについては、歯科診療の際も気にかけていくと良いかもしれません。

いずれにせよ、歯科関連は収入による差が見られる傾向が強く、歯科診療代以外でも日常生活関係からも見られました。

このような特徴をご存じであったでしょうか。

「東京歯科保険医新聞」2023101日号(No.64311面掲載

 

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尾﨑哲則( おざき・てつのり)1983年日本大学歯学部卒業。1987年同大学大学院歯学研究科修了。1998年日本大学歯学部助教授。2002年日本大学歯学部医療人間科学分野教授、日本大学歯学部附属歯科衛生専門学校校長、日本歯科医療管理学会常任理事。2008年日本歯科医療管理学会副会長、2019年日本歯科医療管理学会理事長。ほかに、日本公衆衛生学会理事、日本産業衛生学会生涯教育委員会委員長、社会歯科学会副理事長などを

歯科医療を経済から見てみるNo.1 「家計調査」から歯科医療を見てみると…

歯科医療を経済から見てみる」というタイトルで、5回の連載でお話を進めていく予定です。いろいろな、経済資料や経済学的観点から、歯科医療を考えていきます。今回は、「家計調査」から見てみました。

ところで、「家計調査」をご存じですか?

総務省統計局のホームページから引用すると、「家計調査は、一定の統計上の抽出方法に基づき選定された全国約9000世帯の方々を対象として、家計の収入・支出、貯蓄・負債などを毎月調査しています。家計調査の結果は、我が国の景気動向の把握、生活保護基準の検討、消費者物価指数の品目選定及びウエイト作成などの基礎資料として利用されている」になります。

したがって、国民医療費や医療経済実態調査は、どちらかというと診療側から見ていきますが、この調査は、家計から支払われた金額で示されいます。

今回は、2019年から2022年までの4年間の年間収入五分位階級別1世帯当たり支出金額を12に示しました。ⅠからⅤは、世帯の年間収入による区分で、ⅠからⅤに向かって収入が増加していきます。縦軸は、支払額を円単位で示しています。そのため、医療機関での診療行為に対する支払額を示しますので、国民医療費とは異なり、自費診療分も入りますが、保険診療では一部負担金額になります。歯磨剤や歯ブラシ購入費は、別途項目がありますので入りません。

さて、歯科診療代の年度ごとの平均額は、2019年は18812円、20年は18294円、21年は21441円で、22年は22000円でした。19年から20年で低下し、その後、緩やかに22年に向けて増加しています。

診療報酬改定の年である20年は、通常、家計からの支出も増加が想定されましたが、実際に、減少したことは、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたと考えられます。

しかし、特に、見ていただきたいのは、1です。年間収入により歯科診療代に差がみられ、年間収入の区分がⅠからに向けて、歯科診療代が増加している点です。いずれの年もこの傾向を示しており、これは、歯科診療代の特徴です。弾力的な支出項目と言われていますが、世界の先進国では同様な傾向がありますが、保険制度でのカバー範囲が最も多い日本でも、このような差があることは今後も検討していく必要がありましょう。

一方、医科診療代の年度ごとの平均額は、19 年は4374円、20年は4850 円、21年は42344 円で、22年は43727円で、歯科とほぼ同様の傾向を示しています。しかし、年間収入により医科診療代に差がほとんどみられません(2)。

このような、特徴をご存じであったでしょうか。今回は示しませんでしたが、「家計調査」は、地域格差も見ることができるなど、いろいろな分析ができることでも知られています。

 

「東京歯科保険医新聞」202391日号(No.6423面掲載

 


尾﨑哲則( おざき・てつのり)1983年日本大学歯学部卒業。1987年同大学大学院歯学研究科修了。1998年日本大学歯学部助教授。2002年日本大学歯学部医療人間科学分野教授、日本大学歯学部附属歯科衛生専門学校校長、日本歯科医療管理学会常任理事。2008年日本歯科医療管理学会副会長、2019年日本歯科医療管理学会理事長。ほかに、日本公衆衛生学会理事、日本産業衛生学会生涯教育委員会委員長、社会歯科学会副理事長などを歴任。

【教えて!会長!! Vol.76】日弁連の10.6「決議」

日弁連が最近の人権と医療、医療のアクセス権に関する「決議」を発表したようですが、その経緯、主な内容について。

政府は本年7月25日に、「令和6年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」(以下、「概算要求基準」)を閣議決定しました。そこには、社会保障費の伸びを抑制する方針を明記
しています。その方針を背景として本年10月6日、日本弁護士連合会(日弁連/小林元治会長)が「人権としての『医療のアクセス』が保障される社会の実現を目指す決議」を発表しました。以下に、その抜粋をご紹介します。なお、ネット上には全文が掲載されていますので、ぜひご一読していただきたいと思います。
◆ 「決議」抜粋

「国民健康保険の滞納者は約195万世帯、全利用世帯中の約11%におよぶ。民間の調査によれば、保険料滞納や窓口負担が払えないなどの経済的理由から医療を受けることができずにいのちを落とす人が後を絶たない。(略)国や地方自治体には、人権としての医療へのアクセス権を実効的に補
償するため、医療保険制度、医療提供体制、公衆衛生体制などを整備、拡充する責務がある。(略)当連合会は、国及び地方自治体に対し、医療へのアクセス権を保障するため、医療費日弁連の10.6「決議」抑制ありきの政策を転換して、次の諸施策を実施することを求める。     
1 誰もが必要な医療を受けられる医療保険制度の構築
経済的理由等により医療へのアクセスが阻害されることのないよう、⑴必要な医療を受けられずに多くのいのちが失われている危機的状況を踏まえ、医療費の窓口負担のない対象者の範囲の拡大を行うこと⑵多くの保険料滞納世帯が存在することを踏まえ、国民健康保険料の減免範囲を拡大するとともに、(略)保険料についても応能負担を貫徹する施策を速やかに行うこと⑶保険料滞納者にも正規の保険証を交付するとともに、マイナンバーカードと健康保険証の一体化に大きな不安を抱く市民も多いことも踏まえ、現行のままの健康保険証を選択する権利を認めること      
2 医療提供体制の充実 
3 公衆衛生体制の充実 
4 地域を支える存在としての医療・公衆衛生の重要性          
5 社会構造上の要因と公的取組

(略)当連合会は、医療と法的支援の相互の協働によって個人の権利を擁護することの重要性に鑑み、今後はより一層、医療関係者との連携を広げ、(略)医療者を起点とした前記の社会的要因に対する取組との協働を進めつつ、人権としての医療へのアクセスを保障するため、力を尽くす決
意である。
以上のとおり決議する。
2023年(令和5年)10月6日

日本弁護士連合会
 

東京歯科保険協会

会長 坪田有史

(東京歯科保険医新聞2023年11月号11面掲載)

歯科界への私的回想録【NARRATIVE Vol.14】近年の健保法改正研究会の動向に注目

「日弁連意見書」の趣旨反映を期待

◆健康保険法改正研究会の活動に注目集まる
健康保険法改正研究会(共同代表・弁護士:井上清成氏、石川善一氏)が新たなスタートを切ったことが注目されている。特に、保険医に対する指導・監査、患者調査などを巡り、健保法をクローズアップしていることに関心が集まっている。

◆第11回シンポジウムと指導・監査・患者調査
健保法は制定されて約100年が経過するが、医療界で必ず議論になる指導・監査について、日本弁護士連合会が課題視された項目をピックアップし、2014年8月22日付けで「健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書」として発表し、その理解を求めていた。その後の改正を含め、興味深い指摘と新たな課題を整理して問題提起をしている。
去る9月3日に健保法改正研究会が開催した第11回シンポジウムでは、その意見書を参考としつつ、「指導・監査における患者調査」など新たな資料をもとに7項目を示し、担当弁護士がそれぞれ解説した。具体的には、①選定理由の開示、②指導対象とする診療録の事前指定、③弁護士の指導への立会権、④録音の権利性、⑤患者調査に対する配慮、⑥中断手続きの適正な運用について、⑦指導・監査の機関の分理及び苦情申立手続きの確立―となっており、特に現実的な視点から⑤について議論が行われた。

◆国民の適切な医療を受ける権利擁護
意見書は、「保険医への信用棄損を最小限とするように配慮し、事実を的確に把握できる調査手続きをとり、調査結果を保険医等に提示するべき」と明記している。
この患者調査の意味合いの重さを共同代表の井上弁護士から、自身の経験事例を踏まえて、次のような説明があった。
「患者調査はいつ、どのような話、方法などは知らないもの、というより知らせないで実施。既に、 患者自身も『何を話していいのか』『どこまで話していいのか』など、素朴な感想を持ちますが、厚生局としては指導・監査の裏づけになる事実を取れればOKなのです。「患者調査」がある程度進んで、患者から相談を受けてからですと、その対応には苦労します。それは事実ですか ら…」。

今回の意見書の基本的視点は、「根底には『国民の適切な医療を受ける権利擁護』があるのですが、具体的に、診療報酬明細の平均点数が高いと、内容に問題がなくとも個別指導の対象に繰り返し選定されること」と指摘。さらに、「個別対象になると、不利益処分のおそれがある一方で、手続保障がなされていないこともあり、その選定にされないように、診療報酬の点数を抑える意識が働き、結果として患者・国民が本来受けられる、あるいは受けるべき医療を受けられないことがあり得る」とし、これを問題点に指摘した。明解な論理である。


◆対応認定弁護士制度

さらに、興味深い報告があった。研究会のこれまでの活動を支える人材として、保険医が適正な手続きで指導・監査を受けることができる権利を保障するため、指導・監査の制度に精通し、経験を積んだ弁護士を養成するのが狙いの「保険医指導・監査対策協会」を創設し、それを担う「対応認定弁護士制度」を設けているが、これが29人から32人に増員され、その理解が徐々に広まってきていると報告した。
こうした新しい動向に期待が寄せられている中、指導・監査を巡る保険行政の環境も変化してきているが、橋本賢二郎弁護士からは、「指導・監査の問題は必ずしも容易でなく、ハードルは高いのは事実」と冷静な対応を求める意見も提示されており、その意見などを踏まえながら着実に前に
進む可能性を示唆していた。


◆副代表で自民党衆議院の橋本岳議員が私論
なお、研究会副代表を務める自民党の橋本岳衆議院議員がシンポジウムの前に「かかりつけ医、分娩費用の保険適応と改正保険法」「研究会としての取り組み」などの経緯を説明しながら、財務省の意図や諸事情などを「個人的意見・推察」と前置きしながらも言及した。例えば、「まず分娩費には地域格差があります。現在は、出産費用は医療機関が自由に決めることができます。政府としては、保険適用で経年的に高騰する費用負担を抑えることに、最大の意図があります」とし、最後は、「財務省なりの理屈があるが、基本は予算削減で、財政のバランスを強調するが、まずは財政緊縮です」とまとめ、問題意識を示唆していた。
 いずれにしても、指導・監査を巡る保険行政の環境が変わりつつある中、慌てず確実に進めて行く時期に来ているようだ。今後も健保法改正研究会の動向に注目していくべきである。

✎奥村勝氏プロフィール

おくむら・まさる オフィス  オクネット代表、歯科ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒業、東京歯科技工専門学校卒業。日本歯科新聞社記者・雑誌編集長を歴任・退社。さらに医学情報社創刊雑誌の編集長歴任。その後、独立してオフィス  オクネットを設立。「歯科ニュース」「永田町ニュース」をネット配信。明治大学校友会代議員(兼墨田区地域支部長)、明大マスコミクラブ会員。

【IT相談室】 歯科医院の効果的なチャットアプリ活用と労働基準法の遵守 その2

今回は、「歯科医院の効果的なチャットアプリ活用と労働基準法の遵守」の2回目です。まず第1に、歯科医院でどのようにチャットアプリを運用すべきかを考えます。そして第2に、チャットアプリの運用上の注意点をご紹介します。

【チャットアプリの運用方法】

労働基準法や就業規則、労働契約など(以下、労基法等)を遵守しながらチャットアプリを効果的に活用するためには、以下のポイントに留意することが大切です。          

▼明確かつシンプルに:

チャットアプリを利用しての連絡事項は、明確かつシンプルにし、できるだけ具体的な表現にします。チャットでのやり取りは、早く終わるように心がけましょう。

▼就業時間内の活用:

業務連絡は原則として就業時間内に行い、就業時間外の連絡は避けます。就業時間外に使用する可能性がある場合には、あらかじめ使用規則を定めておきます。

▼緊急時の了解取得:

就業時間外の緊急連絡用にチャットを活用する場合についても、あらかじめ規則を定めておきます。

▼ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の尊重:

チャットアプリの使用に関する規則を作成する際には、ワーク・ライフ・バランスにも配慮します。規則を定めれば良いというものではなく、スタッフのプライベートな時間を尊重するように配慮します。

▼定期的な評価と改善:

チャットアプリの使用に関する規則は定期的に再評価し、スタッフの意見を取り入れつつ改善していくことが重要です。 

          

【チャットアプリの運用上の注意点】 

▼労働時間の記録:

操作開始時刻と終了時刻を記録します。就業時間外の操作であれば時間外労働になります。         

▼トレーニングとガイドラインの提供:

新入社員やスタッフに対して、チャットアプリの適切な使用方法とルールをトレーニングやガイドラインを通じて提供します。操作方法が分からないために業務に支障が生じないようにします

▼透明なコミュニケーション:

スタッフとのコミュニケーションを透明かつ開かれた形で行うことが大切です。労働時間や業務連絡に関するポリシーを共有し、スタッフからの意見や質問を歓迎します。   

▼柔軟な対応:

スタッフの個々の状況やライフスタイルに合わせて、柔軟な対応を心がけましょう。  

▼継続的な改善:

チャットアプリの運用方法は変化する状況に合わせて適宜見直し、改善します。スタッフからの意見や要望については適切に対応し、必要に応じて労働環境の向上に活用します。

           

【まとめ/労働法制遵守の理解を】

以上を総括すると、歯科医院の経営者としては、チャットアプリを効果的に活用する前提条件として、労働法制の遵守が必要です。軽い気持ちで導入をしてしまうと、就業規則などに抵触してしまう場合があるので注意します。また、チャットアプリでの会話が原因で、人間関係に傷がついてしまう場合もあり、この点にも注意が必要です。

チャットアプリの導入・活用にあたっては、便利な反面、注意すべき点も多いことをよく理解しておくことが必要です。

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クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2023年11月号11面掲載)

※「東京歯科保険医新聞」10月号の「IT相談室」はお休みました。

東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)10月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2023年(令和5年)10月1日

【新聞10月号】

【1面】


1.協会設立50周年/会員らと盛大に祝う
2.健康保険証を残すべく医療機関の窮状を行政に
3.2024年度東京都予算等/保健医療局・福祉局に要望
4.レセプトのオンライン請求10月5日までパブコメ募集
5.「探針」
6.ニュースビュー

 

【2面】


7.「いい歯東京」めぐり 口腔機能維持PRなど要望/東京都来年度予算等に対し20項目要望
8. 都議会各会派とヒアリング/都要請20項目に理解示す
9.10月歯科用貴金属材料価格の随時改定/金パラ、14K等が引き上げに 
10.院長署名を実施中/診療報酬の大幅引き上げを!!

 

【3面】


11.オンライン資格確認〝義務化〟撤回訴訟/「大変意義深い」 弁護士が評価/裁判長が国に説明を要求
12.パブコメするのは「今でしょ」/レセプトオンライン請求義務化を中止へ
13.経営・税務相談Q&A第409「インボイス制度~よくいただくご質問をご紹介します! Vol.3 ~」

 

【4・5面】


14.研究会行事ご案内
15.10月会員無料相談

 

【6・7面】


16.50周年記念企画:記念シンポジウム、レセプション

 

【8面】


17.教えて!会長!! No.75「2024年度診療報酬改定」
18.2024年度診療報酬改定に向け議論の概要示される
19.グループ生命保険40周年を記念して抽選会も開催します!
20.秋の共済募集キャンペーン締切迫る!協会の3大制度

 

【9面】


21.症例研究「SPT算定中に歯周外科手術が必要になった場合の対応」


【10面】


22.連載「歯科界への私的回想録⑬」
23.理事会だより「第10・11回理事会」
24.9月協会活動日誌

 

【11面】


25.連載「歯科医療を経済から見てみる②」/尾﨑哲則
26.連載「~先生の一歩につなぐ~私の歯科訪問診療②」
27.ご案内/協会の適格請求書発行事業者の登録について
28.会員優待のご案内
29.デンタルブック登録のご案内
30.ミニデンタルショー出展企業・協賛企業

 

【12面】


31.神田川界隈(福島崇/世田谷区)
32.現行の健康保険証を残してください/署名とともに取り組みの声が続々と寄せられています
33.会員寄稿「声」/三枝遵子(台東区)
34.適切な診療報酬請求・カルテ記載こそ〝最善の指導対策〟/オン資トラブル、健康保険証は必要不可欠
35.オン資トラブルアンケートなど議題に/第3回メディア懇談会
36.インボイス制度研究会を開催/デンタルブックで配信中!

 

【13・14面】


37.共済部チラシ