「税務調査」その実際と対応/機関紙2016年6月1日号(№555号)より 

「税務調査」その実際と対応/機関紙2016年6月1日号(№555号)より 

質問① 開業して間もないのだが、税務調査とはどのようなものか。

回答① 税務調査は確定申告の内容に間違いがないか、税務署の職員が書類等を調査することです。税務調査には「強制調査」と「任意調査」の2種類があります。強制調査とは、国税局査察部が脱税疑いのある納税者に対して強制的に調査を行うものです。令状を持って強制的に調査が行われることから、事前に脱税の証拠を固めてから行われます。税金に関してあらゆるものを押収できるため、ほぼ抵抗はできません。しかし、強制調査の対象は脱税額が偽り不正により多額である時、または悪質なものであるといわれているので、税務調査の大半は任意調査になります。任意調査は、納税者の同意、協力を得て行われています。ただし、税務署には質問検査権という権利があり、質問については正当な理由がない限り拒否してはならないということになっています。正当な理由がないにもかかわらず断った場合には、所定の罰則が科せられます。このように、任意調査は間接的に強制力のある税務調査といえます。3~5年ごとに定期的に税務調査があるといわれていますが、そのようなケースでは、ある程度の売上高や規模がある、または会計処理や税務処理に問題がある場合が多く、実際には開業してから10年以上も税務調査がないケースもあります。

 

質問② 税務調査(任意調査)の通知を受ける際、どのようなことに注意すればよいか。

回答② 国税通則法第74条の9では、税務調査(任意調査)を行う際に、税務職員は一定事項について予め納税者等に通知することが定められています。具体的には、「調査を行う場所」「調査の目的」「調査の対象となる税目」「調査の対象となる期間」「調査の対処となる帳簿書類その他の物件」などであり、これらをすべて通知しなければいけません。そもそも「任意調査」は、「される」のではなく「させる」のが基本です。「なぜ調査をするのか」「何を調べたいのか」その説明を求め、調査の範囲を限定させることが大事です。つまり、予め通知した事項に反する調査はできません。例えば、「過去三年分の調査」と通知を受けたのであれば、調査中に税務署職員が「過去五年分について調査したい」ということは原則的にできません。したがって、口頭で行われる通知内容は納税者側できちんと把握する必要があります。協会では事前通知チェックシートも用意していますので、お気軽にご相談ください。

 

質問③ 事前に、どのようなことを準備すればよいのか。

回答③ 税務調査において、税務署の勝手な見解で税金を課すことはできません。法律に規定があるかないかが非常に重要になります。法的に対処するには証拠が重要ですので、例えば、領収証に一緒に食事した相手の名前・目的を控えるなど、日頃からこまめに証拠の保存を心がけましょう。歯科診療所の税務調査で特に指摘されやすいのは「自費治療」「金属売却益」「専従者給与」「交際費」などです。税務調査の中ではアポイント帳と日計表を突き合せ、アポイント帳に記載のある患者の収入が日計表に記載がない場合、「自費治療の計上漏れ」と指摘することが多いそうです。義歯の無償修理の場合でも、あたかも自費治療の計上漏れのように指摘されるケースもあるので、日計表で無償修理と分かるように記載しておきましょう。近年、「金属売却益」の計上漏れを指摘されるケースが目立っています。これは「雑収入」に該当するので、会計処理の際にご注意ください。そのほか、専従者給与の妥当性を指摘されるケースも目立ちます。専従者については業務日誌を作成し、労務に従事した期間や労務提供の程度などを税務署側に説明できるように準備してください。税務調査の中では帳簿の持ち帰りを求められるケースが非常に多くあります。国税通則法第七十四条の七では、帳簿書類について、必要があれば留め置き(帳簿の持ち帰り)を認めていますが、事務運営方針の中では納税者に必要性を説明した上で「その理解と協力の下、承諾を得て実施する」としています。したがって、業務に支障があると判断したような場合は留め置きを断ることができます。税務署から調査を行いたい旨の連絡があった場合は帳簿の留め置き、カルテの閲覧要請、どう対応すべきかなど、準備事項はたくさんあるので、ぜひ協会へご相談ください。