従業員の給与支払/機関紙2015年10月1日号(№547号)より 

従業員の給与支払/機関紙2015年10月1日号(№547号)より 

質問① 電車遅延で従業員が一時間ほど遅刻した場合、一時間分の賃金はどうなるのか。

回答① 法的義務から説明しますと、その従業員は一時間の労働義務を履行できなかったことになりますので、事業者は従業員に対して1時間分の賃金を支払う義務はありません。「遅延証明書」を提出したとしても同じです。ただし、例外があります。就業規則や労働協約、個別の雇用契約書で「電車の遅延等は遅刻控除をしない」等の定めがある場合は、控除しないことになります。また、従業員から「通勤手段がない」との連絡を受け、自宅待機等を命じた場合は、労働基準法第26条に規定する「使用者の責に帰すべき事由による休業」となり、平均賃金の六割以上の支払いが必要となります。一方、「通勤手段が無いので休みたい」「迂回するので遅れる」など、出勤するかしないかは本人の選択に任せ、その結果、休む場合には有給取得になる等の説明をします。また、遅れて出勤してきた場合には、遅れて労働した時間分の賃金カットも許されます。しかし、電車遅延は、本人の不可抗力によるものであることから、賃金カット等をすれば労使の信頼関係に悪影響を与える可能性もあり、使用者の判断で賃金カットをしない事業者も少なくありません。

そのため、このような場合にどう対応をするか、事前に院内で取り決めをしておいた方がよいでしょう。

質問② 従業員が出勤予定の日が、医院の都合で急に休診することになった時の賃金支払いは必要になるのか。

回答② 労基法第26条では「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合」には「その平均賃金の60%以上の手当てを支払わなければならない」と規定されているので、この場合は、支払義務があるといえます。

ここで注意すべきトラブルとして、賃金支払が100%か60%かで揉めるケースが挙げられます。これは、「使用者の責に帰すべき事由」について、民法の規定が適用されるケースがあるためです。よって、事業者の故意・過失等による休診の場合は、事業者に賃金全額(100%)の支払義務が生じることになります。労基法第26条との違いは、民法が「使用者の故意、過失又は信義則上これと同視すべきもの」がある場合にのみ賃金支払義務を負わせているのに対し、労基法はそれよりも広く、不可抗力の場合を除いて事業者に賃金支払義務を負わせる形になっていることです。民法上の要件を満たして賃金全額(100%)の請求権があれば、労基法にも該当しているといえるため、少なくとも平均賃金の60%以上を支払わない限り労基法違反となり、罰則適応の対象ということになります。休診の事情によっては、民法の規定は適用されず、労基法のみ適用される場合もあります。トラブルを回避するためにも、就業規則等で「医院の責に帰すべき事由による休診の場合は、労基法第12条に規定する平均賃金の百分の60を支給する」など、明確な定めをすることが重要です。