医院承継について/2019年8月号(No.359)より

医院承継について

 

質問1 将来的に息子に医院承継をする予定だが、テナントではなく自己所有の土地と建物であり、最近、近隣の土地価格が高騰しているので、相続の際に税金がかかるのではないかと心配になってきた。今年から個人でも事業承継する際に税制優遇が受けられると聞いた。メリットがあれば活用したいので、どのような制度なのか聞きたい。

回答1 2019年度の税制改正で、新しく「個人版事業承継税制」が創設されました。これは、「特定事業用資産」を承継時に贈与・相続した際に、贈与税・相続税の支払いが猶予される、といった制度です。「特定事業用資産」とは、土地建物、固定資産(ユニット、デジタルX線撮影装置、事業用車両など)を指します。なお、「特定事業用資産」として認められるためには、青色申告の決算書への記載が必要です。あくまでも相続税・贈与税の支払いが猶予されるだけであり、「減免」されるわけではありません。また、申請するにあたって、「個人事業承継計画」の提出が必要になります。土地建物限定で相続税・贈与税の負担軽減を考えるのであれば、事業用宅地の評価額が最大で80%減額される「小規模宅地の特例」を活用したほうがメリットが大きい場合もあります。承継の際は先生の現状に沿って、どれが一番有利な制度であるかを勘案した上で制度の活用を検討しましょう。また、協会では月に一度、協会顧問税理士の無料相談を行っています。ぜひ、ご活用ください。

 

質問2 現在、個人で医院を経営しているが、高齢のため医院承継を考えている。一緒に働いている息子が継ぐ予定なのだが、どのように承継したらいいか。暫くは一緒に働く予定だが、どういった手続きが必要なのか。

回答2 医院承継の手続きに関しては、現院長(以下、「大先生」)は廃業、次期院長(以下、「若先生」)は新規開業の手続きが必要です。それぞれ保健所、厚生局、税務署、労働基準監督署など、必要な行政機関へ届出を行い、開設者・管理者を変更します。届出には、新規と遡及の二種類があり、患者さんを継続して診療する場合は、遡及の届出が必要です。しかし、形式的に開設者・管理者を変更することだけが、医院承継ではありません。大先生が長年診療してきた患者さんは、代替わりにより先生が変更になり、不安に感じるでしょう。円滑に引き継ぐために、日頃から患者さんのカルテなどについて意見交換をしましょう。また、大先生と若先生が、お互いの考えを明確にし、経営理念・治療方針を統一していかなければ、衝突してしまうこともあり、患者さんだけでなくスタッフにも混乱が生じかねません。若先生が勤務医として一緒に診療しているのであれば、一度にすべてを承継するのではなく、徐々に若先生に経営を任せられるように、今までどのような経営理念・治療方針を掲げて診療をしてきたのかを伝えていくといいでしょう。諸手続きの内容の詳細に関しては全国保険医団体連合会発行の「保険医の経営と税務―2019年版―」を参考にしてください。まだ、お手元にない先生は、協会の経営管理部までお問い合わせください。