【~先生の一歩につなぐ~ 私の歯科訪問診療】第1回(地域医療部担当理事・横山靖弘)

 「歯科訪問診療をはじめようと思っているが具体的なイメージがつかめない」「歯科訪問診療をしている先生はどのように行っているのだろう?」―。
 先生方は、訪問診療でお悩みではないですか?今号より地域医療部担当役員や部員、会員の先生らが印象に残った訪問診療の経験や患者との診療のエピソードをコラムにして掲載します。他の先生がどのように訪問診療をしているのか。実際の訪問診療のイメージをつかみ日々の診療に活かしていただければ幸いです。

地域医療部長 森元主税

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【第1回】地域医療部担当理事/横山 靖弘

 私が出会ったある患者Aさんの話をしたい。まだ、当院で歯科訪問診療に対する電話対応の打ち合わせができていない頃の出来事だ。
 歯科訪問診療の依頼の電話は、受付が取った。通院歴のあるAさんの娘さんからだった。細かい点は記憶にないが「歯が抜けて入れ歯が合わなくなった」という。Aさんは旦那さんが亡くなったことで一人暮らしとなり、時々娘さんがお孫さんを連れて様子を見にきていた。
 歯科訪問診療の依頼は娘さんからの電話だけなので口腔の状態などがよく分からない。受付がもう少し状況を聞いてくれればと思ったが仕方ない。義歯を製作してからだいぶ時間が経っているため、鈎歯がコアごと脱離して義歯が維持できなくなったのかもしれない。それなら脱離再装着は無理だとしても、隣在歯にクラスプを架け替えるだけで済みそうだなど、少ない情報であれこれ考えた。何もわからない状態だったが、Aさんが家で困っていることを思い「まずは行こう!」と、歯科訪問診療を開始したのである。
 今、先生が歯科訪問診療の依頼があってどうしようか迷っているとしたら、私は「すぐにでも行きなさい」と言いたい。
 まずは、住環境や家族構成、全身状態、口腔内や義歯の状況確認などを行い、今後の治療計画を立てるだけでも十分である。とにかく行って、口腔内を確認してみないと分からない。訪問するだけでも、患者はとても喜んでくれる。
 歯科訪問診療の多くは義歯関係で点数も100分の50点が加算されるものが多く、歯科訪問診療料と合わせれば2千点を超え、在宅であれば別に介護保険も請求できる。高価な機材も不要である。
歯科訪問診療を始めるのに不安を感じる先生もいるかもしれない。協会では「これから始める歯科訪問診療講習会」を定期的に開催している。まずは講習会に参加することからでもよい。何か一歩、歯科訪問診療に踏み出してみよう!

「東京歯科保険医新聞」2023年9月1日号(第642号)11面掲載