経営管理部長談話 「オンライン資格確認システムの導入は自由意思に任せるべき ―義務化は撤回を―」

 厚労省は2023年4月より「保険医療機関及び保険医療養担当規則」に、保険医療機関等での「電子資格確認」の実施を盛り込むことで、義務化を行うとした。しかし国民や保険医療機関は義務化に必要性を感じているであろうか。今回のオンライン資格確認システムの導入義務化は医療を利用してマイナンバーカード(以下マイナカード)普及を行う政策であることは明らかで、歯科医療に携わるものとして疑問を感じる。

 オンライン資格確認システムは、マイナカードに健康保険証機能を紐づけした「マイナ保険証」を読み取る機械=顔認証付きカードリーダー(以下カードリーダー)を保険医療機関等に設置し、本人確認を行う仕組みで、国は「医療DX」の基盤と位置付けている。

 マイナカードの普及はポイントを付与するなどして、普及促進を図っているが、「必要性が感じられない」「身分証明書は他にもある」「個人情報の漏えいが心配」「紛失や盗難が心配」(マイナンバー制度に関する世論調査 内閣府)などの理由で普及が進んでいない。そのため、だれもが利用する健康保険証の機能を追加し、医療機関にカードリーダーの設置を義務付けることで、導入促進を図ろうとしているのだろう。

 マイナ保険証の利用に関しても問題が多い。マイナ保険証は受診の度に提出が必要である。他にもマイナカードそのものに有効期限があり期限が切れれば使用ができない、更新の際には役所に行く必要があるなども指摘されている。

 カードリーダーの申し込み状況は、東京の歯科保険医療機関では47.7%(7/31現在)に留まっている。紙レセプトでの請求が認められている保険医療機関等は義務化の例外となったが、東京で67.6%の歯科医療機関が利用しているCD等による請求は義務化の対象となったままである。

 会員からは「保険証が有効であるか確認できる安心感がある」との声も聞くが、「カードリーダーやパソコンを置く場所が無い」「1日の来院患者が少ない当院では利用目的がよくわからない」「保険証だけで十分なのに、なぜわざわざマイナンバーを取り扱う必要があるのか、セキュリティ面の不安が増えるだけだ」など、必要性を疑問視する声が圧倒的だ。

 特に問題なのは、何も知らない高齢者などが端末にマイナカードを置いてしまい、知らないうちに保険証と紐付けられて2度と紐付けを解けないことだ。さらには、その作業に医療機関が協力してしまうことも大きな問題だ。また、通信障害や機械のエラーで利用ができなかった場合、このシステムを義務化した国は患者や医療機関に対して保障をするのだろうか。医療機関としてはマイナ保険証のみを持参した患者に対して、システムが使えない場合は10割負担で患者に受診してもらわざるを得なくなる。中医協の資料では導入することのメリットしか記されていないが、根本的にシステムが使えなくなるトラブルが起こった場合の対応など、まったく起こりえないような議論しかされていない。導入を義務化するのであれば、トラブルが起こった場合の対応について十分な議論が必要なのではないだろうか。

 厚労省ではオンライン資格確認システムの普及促進のため、カードリーダーを申し込んでいない医療機関等に電話をかけ、簡易書留での案内を始めた。案内を受け取った医療機関では不安になり、協会に問い合わせが多く寄せられている。

 私自身カードリーダーを導入し、実際にどのような問題があるか検証した。まず、設置の為の手続きやネット環境の整備が非常に複雑で大変であった。設置工事には半日を要しその間はカルテを見る事ができず保険診療ができなくなった。また狭い受付スペースへの設置のため場所が取られ不自由している。設置4ヶ月が経過した現在、マイナカードを使用した患者はたったの2名であった。乳幼児医療費助成制度(マル乳)等を利用の場合は、受給者証を原本で確認が必要なため、窓口業務は変わらない事にも気づいた。顔認証に使用するパソコンはWindowsに限定されており、更新の度に端末が使用不能になり、業者に連絡を取らざるを得ず、数時間利用できない等の問題が発生した。幸い現在は利用者が少なく大きなトラブルにはなっていないが、患者側の立場からすれば、使おうと思ったときに使えないことがあれば、義務化を指示した国ではなく医療機関に不信感を抱くだろう。このような問題点がある中での導入は院長の自由な判断に委ねられるべきであり、導入を決める際には実際にトラブルが起きた場合の対応をよく考える必要があるだろう。

 政府・厚労省には、現場の声に耳を傾け、現場が不安を抱かないよう丁寧に説明をするよう求める。「義務化になったら仕事を引退する」「保険医を辞める」と話している先生もいる。オンライン義務化のために辞めるのでは、地域医療へ与える影響も懸念される。現場にとってはそれほど重要な問題である。導入は自由意思に任せるべきで、強制的な「義務化」は撤回するよう強く求める。

2022年8月23日

経営管理部部長 相馬 基逸