第11回 惜しまれる歯科健診調査とマスコミの着目点

◆日本人の3/4が早く歯科治療していればと後悔

調査報告を基にした記事で、気になったものを2つほど取り上げたい。

1つ目は、2018年12月27日「毎日新聞」夕刊の「どうすれば安全安心/半数超が歯科先延ばし」という記事。日本歯科医師会が昨年4月に15~79歳の男女1万人を対象に行ったインターネット調査「歯科医療に関する生活者調査Part2」(11月8日発表)を基にしている。

歯科健診や受診を「できるだけ先延ばしする」、「どちらかというと先延ばしする」と答えた人が53%に上ることが明らかになったという。しかも、二十代に先延ばし派がもっとも多く、6割を超えていた。

日本歯科医師会の調査報告には、この記事には出てこない、さらに気になるデータが載っていた。実に、全体の75.7%は「もっと早くから歯の健診や治療をしておけばよかった」と答えたというのだ。

300字足らずの短い記事なので、そこまで載せることができなかったのだと推察されるが、実にもったいない気がした。4人のうち3人もの日本人が「もっと早く歯医者に行っておけばよかった」と後悔しているのだ。しかも、先延ばし派ではない人たちの中にも、「もっと、対応を急いでいれば…」と反省しているケースが少なくないことも明らかになった。

こうした実態を広くアピールできれば、歯科治療の重要性がもっとクローズアップされるのにと、非常に残念に思った次第である。

◆歯科の倒産数急増

もう1つ気になったのは、月刊誌「日経ヘルスケア」の2017年12月号に載った「介護事業者の倒産が過去最多/原因は見通しの甘さと人手不足」という記事。東京商工リサーチ情報本部の課長が昨年1~10月の老人福祉・介護事業や病院・診療所の倒産件数を報告するとともに、その背景をリポートしている。

病院・診療所の倒産件数は37件。うち23件が歯科医療機関の倒産だった。その原因について、同課長は「歯科医療機関が飽和状態にあり患者を増やしにくいこと、人材確保が難しくなっていること」などを挙げる。ここでいう「人材」とは歯科衛生士等のことを指すものと思われる。

今年2018年の1月9日には、帝国データバンクが先のデータに11~12月分を加え た昨年1年間のトータルを発表している。歯科診療所の倒産件数は23件と変わらなかったので、昨年の最後の2カ月間には倒産はなかったということだろう。

ただ、帝国データバンクの調査で深刻な状況も浮き彫りになっている。年間23件の倒産件数は、2000年以降で最多だった2009年、2012年、2014年の各15件を大きく上回っていたのだ。

昨年の医療機関(病院、診療所、歯科診療所)全体の倒産数は40件と、2010年以来の高い水準にあったが、歯科が足を引っ張ったと分析している。

◆歯科医療界の構造改革を

あえて不遜な言い方をさせていただくが、歯科医療界の抜本的な構造改革を考える時期に来ているのではないだろうか。

 

【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。