第10回 沖縄県の子ども口腔崩壊を投げかけた波紋を追う

養護教諭による子ども歯科受診促進案も登場

この欄でたびたび取り上げてきた「子どもの口腔崩壊」問題だが、2018年11月23日の「沖縄タイムス」朝刊の記事はいささかショッキングな内容だった。「虫歯要受診7割行かず」というもの。

沖縄県内の小中学校と特別支援学校の歯科検診で、要受診と診断された児童・生徒の71.9%が未受診だったことが沖縄県保険医協会の調べで分かったという。全国の各保険医協会が調べた21都府県の平均は56.5%である。沖縄県の数字は突出して高かった。

また、文部科学省による2017年度調査では、県内12歳児の永久歯の平均虫歯本数は1人当たり1.7本。全国平均0.82本の倍以上で、国内ワーストだった。

アイスクリームなど甘いものの沖縄県内の消費量は全国最低水準。学校の給食後の歯磨きやフッ素洗口の実施率も全国平均とほとんど変わらないにもかかわらず、こうした結果が出てしまったのはなぜなのか。

◆一番の問題は貧困大きく響く県民所得

いくつかの要素が絡み合っていることが推測されるが、その中で一番の問題は貧困である。2018年8月末に内閣府が報告したデータによると、2015年度の沖縄県の県民所得は216万6000円で、47都道府県中、最低。全国平均は319万円だから、100万円以上も少ない。一番多い東京都(537万8000円)の4割程度にすぎなかった。

◆広がる歯科医療ニーズ消化器守る仕事へシフト

「沖縄タイムス」の記事中で、沖縄県保険医協会の照屋正信理事が医療費の徴収方法にも言及。沖縄県では医療費の自己負担ゼロの流れが進んでいるにもかかわらず、通院時に窓口で自己負担が一切発生しない「現物給付」方式を小中学生に導入している市はないという。一時的でも現金を用意しなければ診察を受けられない現状は、受診控え、受診抑制を招いていると照屋理事は指摘する。それだけ同県の貧困や格差は深刻なのだ。

同紙の2018年11月25日朝刊の社説では「健康格差にも踏み込め」と題し、行政に積極的な対応を求めるとの主張を展開。「歯科未受診を家庭だけの責任とせず、援助の視点を広げたほうがいい。経済的・時間的余裕がない家庭の子どもたちを養護教諭らが歯科に連れて行くのも一つの方策だ」と記していたが、なかなかの慧眼だと感じた。

気になった記事をもう一つ。11月21日の「中日新聞」朝刊では「口腔ケアで尊厳を守る/終末期医療に歯科医師も参加」という記事を掲載。病院や在宅での終末期チーム医療に歯科医師が積極的に関わりだしたことをレポート。歯科医療のニーズの広がりを好意的に捉えた内容だった。

同記事では大阪歯科大の高橋一也教授の「歯科医師の意識を虫歯治療から口腔という消化器を守る仕事へシフトさせたい」というコメントも紹介。歯科教育の分野でも、大きくシフトチェンジする時期に来ているようだ。

 

【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。