第9回 いま歯科医療界全体で必要な取り組みとは

以後の展開次第で歯科にプラスの作用

今回まず取り上げるのは、今後の展開次第で歯科医療界にとってプラスになるのではないかと思われる記事。2018年11月11日の「毎日新聞」朝刊が報じた「健保組合/生活習慣病重視/歯科予防後回し/医療費抑制の妨げに」である。

東京大学政策ビジョン研究センターの研究ユニットが健康保険組合連合会の情報を基に分析。2016年度の1363健保組合を調べたところ、がんの医療費抑制を重視していたのは513組合、糖尿病が529組合あったのに対し、歯科は128組合にとどまったという。歯科の1人当たりの年間医療費は約1万7000円で、がんの約1万6000円や糖尿病の約1万3000円より高かったと報告している。

この記事では、全国の健保組合が「がんや糖尿病など中高年に多い病気の対策を優先させる一方、歯科を重く見ているのは1割未満」とし、「歯科を重視すれば医療費全体の削減が見込まれる」としている。

◆読み方で変わる印象

読み方によっては、業界にとってマイナスになりかねない内容である。健保組合が加盟者に、ブラッシングなど予防の大切さをもっと啓蒙をすれば、歯科の医療費を抑えられるといっているからだ。歯科治療にかかる費用をいかに減らすかばかりが強調されているようにも映る。

だが、もう1つの捉え方もできる。この記事は予防歯科の重要性を訴えているわけで、そこに歯科医師らがいかに関わるかが問われているのだ。

筆者の私見だが、歯科医療界全体として、そのあたりのアピールが足りないように感じている。

歯の疾患が全身の健康に及ぼす影響について、一般の人たちはそれほど深く理解しているわけではない。たとえば、歯周病が動脈硬化につながるとか、糖尿病を悪化させるといった情報に触れる機会はあまり多くない。何よりも重要なのは、それに関し具体的なデータを示せるかどうかにある。そうしたデータの収集と整備は、歯科医療関係団体が一丸となって取り組むべきだろう。

◆データ発信の大切さ

データの発信がもたらす影響は小さくない。2018年11月13日の「東京新聞」朝刊は東京歯科保険医協会の調査報告を基に「子どもの口腔崩壊/東京で3校に1校」という記事を掲載。都内の小中学校の3校に1校で、口腔崩壊の児童・生徒がいたという。理由としては、経済的困窮や時間的問題に加え、育児放棄、いわゆるネグレクトが疑われるケースもあった。

こうした記事が歯科医療界にプラスになることはいうまでもない。改めて、歯科の重要性に注目が集まるからだ。メディアが取り上げるには、やはり具体的なデータがあればこそである。

最後に、事件のニュースも1つ。10月22日に診療報酬の水増し請求で数億円を詐取し、歯科医師2人が神奈川県警に逮捕されたというもの。 各紙が取り上げたが、こうした報道で歯科に対する信頼が一気に崩れてしまうのは、あまりに残念である。

 

【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。