第7回 歯科医療界の悲劇につながるステマ問題

◆ハンドピース問題も再び注目の的か

週刊誌で歯科医療界の由々しき問題を伝える記事を見つけた。「女性セブン」(小学館発行)2018年8月23・30日合併号の「行ってはいけないゾッとする歯医者」というレポートだ。

「5大タブー」と称し、「銀歯」「レジン」「歯周病」「インプラント」などにまつわる問題をピックアップ。ここまでは雑誌がよく取り上げるテーマだが、5番目のタブーが業界の暗部を抉り出すものだった。「ステマ」問題である。

ステマとは、ステルス・マーケティングの略。ステルスは「こっそり行う」という意味。ステマは消費者に宣伝と気付かれないように行う広告手法だ。

特に目立つのは、健康に関するもの。テレビの情報番組や雑誌の健康記事で、広告とはわからない形で商品を取り上げ、企業から宣伝費が支払われる。法的にあいまいな部分が多く、すき間を突く格好で、この手法が頻繁に使われてきた。

「女性セブン」の記事では、インターネット上で歯科のステマが横行していると指摘。六十代の女性が無料の歯科治療相談サイトを開くと、ベテランの歯科医師が親切に回答。同医師のクリニックに通院するようになり、勧められるまま高額のインプラント治療に踏み切ることになったという。

この患者にとっては、インプラントが適切だったかもしれず、一見、問題があるようには思えない。しかし、実際には無料相談サイト自体が宣伝媒体であり、善意の第三者を装って患者を誘導するステマだったのだ。

◆口コミサイトの信用度

インターネットで、歯科に関してもっとも活用されているのは、診療所選びだろう。ネット上では、各地域の歯科医院の評価を載せている口コミサイトを数多く見つけることができる。その地域での情報を持っていない利用者にとっては便利なサイトだ。が、前出の記事は「歯科情報サイトの多くが患者を誘引するステマである」と一刀両断に切って捨てる。

こうした口コミサイトの中には、良心的なものもあるが、利用者にとっては区別がつかない。歯科医院の関係者やネット広告会社の社員が一般の患者を装って、投稿しているケースも少なくない。こうしたステマが氾濫している業界だと思われること自体、歯科医療界にとって悲劇である。

◆ハンドピース問題再び

最後に、ステマとは別のテーマを扱った記事にも触れておきたい。2018年8月28日の「毎日新聞」朝刊の「歯科医院の院内感染対策/徹底狙い診療報酬に差」という記事は「ハンドピース」問題を取り上げていた。厚生労働省がハンドピースを患者ごとに交換して滅菌する感染対策が十分かどうかで、診療報酬に差をつける仕組みを十月から導入するというもの。

ハンドピースをめぐっては、かつて「読売新聞」がさかんに取り上げていた。その報道のあり方も含め、次回、この問題をもう少し掘り下げてみたい。

 

【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。