第2回 福利厚生と捉えてビジネス化する商社も登場

前回も触れたが、歯科衛生士問題について、どのような報道があったのかを引き続き見ていきたい。

「歯科衛生士の確保が難しい」という話は、都内の診療所を取材していてもよく耳にするが、地方はより深刻のようだ。実際、地方紙による報道が目立つ。

宮城県の「河北新報」は、2017年11月17日の朝刊で「歯科衛生士足りなーい/新卒争奪戦─求人倍率10倍にも」という記事を載せた。県内の養成機関では卒業人数の10倍以上の求人があり、県歯科医師会は県の補助を受け、有資格者の復職支援を始めるという。

同紙は12月6日の朝刊でも、県議会11月定例会で歯科衛生士不足解消に向け、実態調査に乗り出す方針が示されたと報道。2016年度の県内における歯科衛生士就業人数は1841人。人口10万人当たり79.0人で、全国平均の97.6人を大きく下回っていた。有資格者の半数近くが未就業との報告もあり、就業を後押ししていく方針も確認された。

この2件の報道を読む限り、具体策にやや欠ける感じが否めない。復職支援に関して「最新の技術や知識を習得する研修を開く」と記事にはあるが、受講希望者をどうやって掘り起こすのかには触れていない。そうした研修を開いても、閑古鳥が鳴く結果にならないだろうか。もちろん、やらないよりやったほうがましだが、もう少し工夫が必要な気がする。

◆ビジネスに繋げる動き

2018年2月1日の「中国新聞」朝刊の記事では、もっと具体的な対策が描かれていた。山口県下松市で歯科衛生士不足を解消するために、専門学校を新たに設立するというもの。下松市、市歯科医師会、広島県の学校法人の三者で2年後の開校に向け、覚書が交わされたという。

地元で歯科衛生士を育てようとする姿勢は評価できる。ただ、大きな期待を寄せるのは禁物だ。2010年度以降、歯科衛生士の養成機関はそれまでの2年制から3年制以上が義務付けられ、敬遠する受験者が続出。定員割れを起こしている専門学校が少なくない。この下松市の専門学校も、当初は定員150人の予定だったが、120人に変更された。

歯科衛生士不足をビジネスに結びつけようとする動きを伝えたのは、2018年2月22日の「日経産業新聞」。伊藤忠商事が歯科医院向けに福利厚生の代行事業を始めるというもの。歯科衛生士の大半が女性でありながら、託児所など育児関連の支援がないことに、同社は着目。個人医院向けに育児施設関連の支援をはじめとする福利厚生サービスを提供する。

いかにも日経グループらしい切り口だが、2015年5月19日に「西日本新聞」が報じた夕刊の記事はひと味違った。福岡県の歯科クリニックが隣接する土地に保育園を開設するというニュースだ。産休や育休を終えた歯科衛生士が職場復帰しやすい環境をつくるのが狙い。

紙幅が尽きたので、次回もう1度だけ、歯科衛生士問題を取り上げ、筆者が思う解決への道筋を述べさせていただきたい。

 

【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。