社保・学術部長談話

社保・学術部長談話

「指導と監査の暗い闇に一筋の光が差し込んだ」、そんなイメージを抱かせる意見書が日本弁護士連合会から発出された。現状の指導は、その対象となった保険医に対し診療報酬の返還や保険医指定の取消に留まらず歯科医業そのものの停止などの処分に至る契機となっている。しかし、それだけ厳しい不利益処分を前に保険医は自らを防御する権利を有してはいない。この意見書は、この点を厳しく言及し、適正な手続処遇を受ける権利を保障するように求めている。

その具体的な内容の柱は、①選定理由の開示、② 指導対象となる診療録の事前指定、③ 弁護士の指導への立会権、④ 録音の権利性、⑤ 患者調査に対する配慮、⑥ 中断手続きの適正な運用、⑦ 指導と監査の機関の分離及び苦情申立手続の確立―の七本からなる。特に、①の「選定理由の開示」については、当会でも再三要望してきた。

厚労省は開示しない理由を「選定理由が情報提供であった場合、保険医療機関は情報提供者の割り出しを行い、その者に害を及ぼす可能性があり、情報提供源が失われるおそれがある」と繰り返してきた。要するに、起きてもいない「おそれ」が開示しない理由である。また、時には青森地裁やその控訴審判決で、個別指導選定理由の不開示を違法として慰謝料を求める請求が棄却されたことを持ち出し、法的にも義務はないと主張する。これについても、あくまで、「損害賠償請求」が棄却されただけで、法的に開示義務がないことを容認した判決ではない。

個別指導では、4日前に15名、前日に15名のカルテが指定される。東京では、それが、配達記録郵便で通知されることから、郵便事情により、前日の午後四時を過ぎても届かないなど、悲痛な声が協会に寄せられている。日頃よりカルテ管理を怠らない医療機関でも、これらの状況下では前日に指定された15名分のカルテを確認し、質問に適格な回答をするのは困難である。個別指導が重篤な不利益処分につながる以上、保険医は一定の防御を行う必要があり、選定理由を事前に知ることや対象カルテを今一度確認する時間を確保することはむしろ当然である。その他、弁護士の帯同や指導時の録音のかかえる問題点など、意見書はその事象をよくとらえ改善を求めていることなど、真に共感ができる点は多い。

「患者調査」や「指導の中断」に対する考え方など、まだまだ最前線で戦う保険医の意見を届ける必要があると思うが、私たち保険医が本当に考えるべきことは、第三者である日本弁護士連合会から投げられたボールをしっかりと受け止め、如何に活用するかである。

行き過ぎた指導や監査に打ち勝ち、国民の適切な医療を受ける権利を空洞化させない戦いをはじめようではないか。

その第一歩として関東信越厚生局東京事務所にこの意見書を届けようと思う。

2014年9月29日

東京歯科保険医協会

社保・学術部長 加藤 開