社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係わる取り組み~適正なレセプト請求に向けて~

Special Serial No.5/完 社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み/適正なレセプト請求に向けて あるべき水準の歯科医療を

 「東京歯科保険医新聞22年10月号(第631号)」より始まった本連載。医師であり社会保険診療報酬支払基金理事である山本光昭氏にご寄稿いただいた。今回が最終回となる。

 今回は、実施した処置などが認められず、疑問や不満等をお持ちになることが多々あるかと拝察いたしますので、審査結果(査定)に対する疑問等への対応について紹介させていただきます。

医学的妥当性が重要

 まずは、審査結果理由に目を通していただいて、保険診療に照らして自院の診療と請求内容に妥当性があると判断できるならば、各都道府県に設置された審査委員会に確認し、必要があれば、面談して意見交換をしていただければと思います。そこで個々の症例について歯科医学的妥当性が確認されれば、請求通りの復活もあるはずです。
 一方、審査委員会との面談の結果でも納得できない場合には、支払基金のホームページのトップ画面に「相談窓口のご案内」があり、そこから「審査に関する苦情等相談窓口」で電子メール・ファクシミリ・郵送で本部に対して照会することもできます。同窓口は、「審査結果に関する疑問・不満・苦情等」に関する照会窓口で、本部では、照会を受けた内容について、全国における状況も確認しながら、当該審査委員会に対して、より丁寧な対応をするように指示しております。
 なお、厚生労働省の定めた明確な「算定ルール」は絶対的なものとなりますので、仮に歯科医学的に、あるいは現実に問題が大きいならば、所属学会などを通じて国へ算定ルールの改定要望を出していただくことが大切だと思います。これによって、次回診療報酬改定時に算定ルールが見直され、さらに質の高い歯科医療になると考えております。

むすびに

 査定自体は「目的」ではなく適正なレセプト請求に向けての「手段」でしかありません。本来めざすべきは、審査を通じて、あるべき水準の歯科医療を全ての国民が享受できるための支援を行うことだというのが私の考えです。仮に、標準的な治療が行われていないということがあれば、あるべき水準の診療を行っていただくという働きかけがあっても良いのではないかとさえ思っております。
 世界の中で最も優れているといえるわが国の公的歯科医療保険制度を維持し、さらに歯科医療の質を高めていくために、引き続き、東京歯科保険医協会の皆様方のご理解とご支援をいただければと思います。
私も皆様方の診療現場の声を良くお聞きして、微力ながら、尽力してまいります。今後ともよろしくお願いいたします。

山本光昭 / 社会保険診療報酬支払基金 理事

やまもと・みつあき 1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、20157月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。

Special Serial No.4 社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み 適正なレセプト請求に向けて5つの留意点

今回は、適正なレセプト請求に向けてご留意いただきたいことを紹介させていただきます。

(1)保険診療には「算定ルール」が存在すること

 保険診療においては、療養担当規則、診療報酬点数表に係る算定告示、留意事項通知、疑義解釈資料に示されたいわゆる「算定ルール」がありますので、それに従う必要があるとともに、その内容は改定されることも多いので、日頃よりご確認いただければと考えております。
 特に、歯科診療報酬点数表は、個々の診療行為ごとに細かい要件に加えて算定単位が設定されています。なお、算定単位や算定回数は診療行為によって異なりますので、「算定ルール」として示されている、例えば「1歯につき」「1顎につき」「1口腔につき」「月1回に限り」などのルールを良く確認した上で請求することが重要ですので、よろしくお願い申し上げます。
 また、支払基金では審査の透明性をより高めるため、審査における一般的な取扱いについて「審査情報提供事例」として取りまとめ、支払基金のホームページで公表しておりますので、これも参考にしていただければと思います。

(2)医薬品には適応疾病が定められていること

 審査にあたっては、医薬品の処方について、医薬品添付文書に記載されている効能、または効果の欄の適応疾病との不一致が問題視されます。特に、ジェネリックも普及しているなかで、有効成分が同じでも、効能又は効果の適応疾患が異なることが多々あり、歯科医学的には効果があり妥当性があっても、保険診療では適応外と審査されることもあり得ます。そのため、医薬品の添付文書は今一度良くご確認をお願いできればと思います。

(3)「画一的又は一律的」「傾向的」と思われる過剰な診療行為は請求内容が認められない場合があること

 本来、個々の患者の病態や個人差などによって診療内容はバリエーションがあるはずにも関わらず、ある特定の歯科医療機関では他の歯科医療機関と比較して、「画一的又は一律的」「傾向的」と思われる過剰な処置の実施などが際立つ場合などがあり、「返戻」を行ない、その妥当性を確認したうえで、請求内容が認められないことがありえます。

(4)提出されたレセプト からの情報で審査が行われること

 審査委員は、提出されたレセプトに記載された情報のみで審査を行っており、カルテに記載されている個々の診察の詳細がわからない状況にあります。審査は同じ専門性をもつ歯科医師によるピア・レビュー(同僚評価)ですので、個々の患者の口腔内の状況に合わせた診療かどうかを「症状詳記」という形でご提出いただくことで、妥当性を認めることがあります。

(5)審査委員は、診療側と支払側との板挟みになっていること

 査定に関しては、「一連」や「同一部位」といった文言などの厚生労働省の定めている一部の算定ルールに曖昧さがあることなどが、診療側(歯科医療機関)と支払側(保険者)との間で常に問題となっています。
 支払側(保険者)は、歯科医学的な知識や経験を必ずしも持ち合わせていません。そのため、支払側の再審査請求は、文書等に記載されたルール等との整合性について厳密さを求める傾向にあり、審査委員が苦労されることが多いことにご理解をいただければと思います。

 次回は、審査結果(査定)に対する疑問等への対応について、紹介させていただきます。

山本光昭 / 社会保険診療報酬支払基金 理事

やまもと・みつあき 1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、20157月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。

Special Serial No.3 社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み 審査結果の不合理な差異解消に向けて

 審査支払に関する業務において、都道府県間における審査結果の歯科医学的な説明のつかない不合理な差異が現在最も大きな課題であり、今回は、審査結果の不合理な差異解消に向けての取り組みを紹介させていただきます。

 審査結果の不合理な差異解消に向けて、まずコンピュータチェックルールや審査基準の全国統一化を進めるとともに、審査の差異の「可視化レポーティング」による差異の見える化を進めています。また、AIによるレセプト振分機能は全国データで行われていることにより、審査業務の効率化だけなく、不合理な差異の覚知のきっかけにもつながっていると考えております。なお、適正なレセプト請求に資するように、電子点数表やコンピュータチェックルールなど「請求支払」に係る情報、審査の一般的な取扱いや審査情報提供事例など「審査」に係る情報は、支払基金のホームページを通じて、歯科医療機関のレセコンに取り込みやすい電子媒体による提供も含め、積極的な公開、情報提供を図っているところですので、積極的にご活用いただければと考えております。

(1)審査基準の全国統一化

同一審査委員会内での審査委員間の差異を無くすために各都道府県の審査委員会において独自の審査基準である「取決事項」が作られている場合があり、そのため、本部に設置された検討会で審査基準の統一化を進めています。また、22(令和4)

10月の審査事務集約後は、審査事務センター等において診療科別の事務組織を構成し、職員が複数の都道府県の審査事務を担当することで把握できる都道府県間の審査結果の差異事例などについて確認していくなかで、取り扱いの統一をさらに進めていくことにしています。なお、歯科については、「歯科」「歯科口腔外科」「矯正歯科」「小児歯科」を分けることなく、1つの診療科として取り扱われることとなります。

(2)審査の差異の可視化

 レポーティングの実施審査結果の差異の見える化を図ることを目的として、各都道府県毎の事務点検や審査委員の審査結果について、まず機械的に抽出した条件で「検証前レポート」を作成。その後、差異が適正な理由によるものか、歯科医学的に説明のつかない不合理な差異であるかを検証し、「検証結果レポート」を支払基金のホームページで公表しており、歯科の事例は、現時点では審査情報提供事例がレポーティングの対象となっています。

 検証により差異が見られた場合は、算定ルールに係るものと歯科医学的な判断によるものとに整理し、算定ルールに係るもののうち職員起因により差異が見られる場合は上司による教育、審査委員起因による場合は歯科担当副審査委員長等から周知して改善を図っています。

(3)国保連との審査基準の取り扱いの統一

 支払基金(社保)と国保連(国保)との審査基準の全国統一の推進方策として、まずは、支払基金と国保中央会および国保連のそれぞれの組織内において全国統一された事例について情報共有を行い、できる限り両機関で審査基準を統一する作業を鋭意進めています。また、厚生労働省や国保中央会と連携して、双方の審査委員の併任の具体化に向けた検討も行っています。

 次回は、適正なレセプト請求に向けてご留意いただきたいことを紹介させていただきます。

 

山本光昭 / 社会保険診療報酬支払基金 理事

やまもと・みつあき 1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、20157月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。

Special Serial No.2 社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み 審査支払に関する業務の概要

今回は、審査支払に関する業務の概要について紹介させていただきます。
「審査支払業務のフロー」(図1)に示す通り、まず氏名や番号誤りなど単純な事務的ミスについてはASP (Application Service Provider)によるチェック、そして電子点数表によるチェック(コンピュータチェック)などを経て、受付を行います。

「審査支払業務のフロー」(図1)


次に、審査は、まず、調剤レセプトとの照合チェック(突合点検)、複数月のレセプトとの照合チェック(縦覧点検)、AI (Artificial Intelligence:人工知能)によるレセプト振分が行われます。その後、厚生労働省が定めた算定ルールや支払基金独自の点検条件などのチェック項目(チェックマスタ・点検条件)に基づき、「電子付せん」としてマーキング(コンピュータチェック)を行います。なお、コンピュータチェックは審査委員の歯科医学的な確認が必要な項目のマーキングであり、個別の症例毎に歯科医学的な判断がなされ、機械的に処理されることはありません。
審査委員による審査は、コンピュータ画面上で行われますが、事務職員のサポートを受けながら、チェックがついた項目について査定の必要性の是非を判断していきます。審査委員による画面審査完了後、審査委員会での合議による決定が行われ、審査結果の連絡後、歯科医療機関への支払が行われます。

AIを活用し、過去の審査結果に基づき振分

ところで、AIは「審査」そのものをしているわけではなく、過去の審査結果に基づき、歯科医師による審査を必要とするレセプトか否かの「振分」を行っています。なお、AIには、受付レセプトを過去レセプトと突き合わせてグループ分けし、グループ毎に過去レセプトにおける審査結果をもとに査定・返戻率を算出して振り分ける「minhash」(図2)、過去レセプトの情報と審査結果とを木構造を用いて査定となる条件分岐(決定木分析)を学習し、決定木における誤りを修正しながら複数の決定木を作成(再学習)し査定可能性を算出して振り分ける「xgboost」(図3)の2種類を用いています。

「minhashによる判定のしくみ」(図2)

「xgboostによる判定のしくみ」(図3)

 

次回は、審査結果の都道府県間の不合理な差異解消に向けての取組みについて紹介させていただきます。

※上記図1~3いずれも社会保険診療報酬支払基金「月刊基金(2021年9月号)」掲載図を基に作成(執筆者ご提供)

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山本光昭 / 社会保険診療報酬支払基金 理事

やまもと・みつあき 1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、2015年7月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。

Special Serial No.1 社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み 適正なレセプト請求に向けて


―はじめに

本連載では、社会保険診療報酬支払基金の概要とともに、特に、皆様とのご縁が深い審査支払業務に関し、適正なレセプト請求に向けての私見もあわせて紹介させていただきます。

―支払基金の位置づけ

戦前と戦後すぐの時期は、「歯科医師会」が歯科の審査支払業務を担ってきましたが、1947(昭和22)年に当時の歯科医師会は解散させられ、混乱が生じたため、1948(昭和23)年に新たに審査支払業務を担う「特殊法人」として支払基金が発足。その後、行政改革の一環の中で2003(平成15)年に「特別の法律に基づく民間法人」へと移行しています。
支払基金の特徴は、診療担当者代表、保険者代表、被保険者代表、公益代表から同数ずつの役員で構成されている「中立の第三者機関」という点です。一時、国民健康保険(国保)の審査支払業務を行っている各都道府県の「国民健康保険団体連合会(国保連)」およびその中央組織の「国民健康保険中央会(中央会)」と、支払基金を統合すべきという議論が起こりました。
しかしながら、国保連や中央会の役員構成は主として首長という「保険者」そのものであって、組織体としては「中立の第三者機関」という性格ではありません。また、審査支払業務以外の業務は両者で大きく異なり、現在では審査支払システムの共同開発や審査基準の統一など、審査支払業務を中心に連携を図っているところです。

―支払基金の業務の概要

表1に示すとおり、主な業務としては、①審査支払に関する業務、②保健医療情報の活用に関する業務、③保険者等との財政調整等に関する業務―の3つがあります。
支払基金発足以来、皆様とのご縁が深いのが、いわゆる「社保」のレセプトの審査支払業務で、近年ですと、新たに「オンライン資格確認等システム」の運用など歯科医療現場におけるDXの一翼を担うこととなり、顔認証付きカードリーダーの導入などでも皆様とのご縁が深くなってきています。

次回以降、審査支払に関する業務の概要、審査結果の都道府県間の不合理な差異解消に向けての取り組み、適正なレセプト請求に向けてご留意いただきたいこと、審査結果(査定)に対する疑問等への対応について、紹介させていただきます。

表1.社会保険診療報酬支払基金の主な業務

①審査支払に関する業務  主として被用者保険(いわゆる「社保」)における診療報酬の適正な審査と迅速な支払を行っています。審査においては、医学・歯科医学的な観点を踏まえ、保険診療(診療報酬点数表、療養 担当規則等)に適合するかどうかを確認しています。さらに、「紛争処理機関」として、医療機関や保険者から申し立てがあった場合には、再審査を行っています。
② 保健医療情報の活用に関する業務
オンライン資格確認等のシステムの運用、電子処方箋管理サービスの開発、健康スコアリングレポートの作成、データヘルスポータルサイトの運営、NDBの受託業務などを行っています。データヘルス改革の確立に貢献する役割を担っており、今後、医療におけるビッグデータ分析、医療DXの中核機関としての役割が期待されています。
③ 保険者等との財政調整等に関する業務 日本の公的医療保険は、健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療等に分かれており、医療費が増嵩しやすい高齢者の割合が大きい保険者は財政が厳しくなる状況にあります。そのため、保険者間の財政調整が法律で定められ、法律に基づき、財政調整業務を行っています。また、特定健診等の決済代行、特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給などの業務も行っています。

山本光昭 / 社会保険診療報酬支払基金 理事

やまもと・みつあき 1984年3月、神戸大学医学部医学科卒業後、厚生省に入省。横浜市衛生局での公衆衛生実務を経て、広島県福祉保健部健康対策課長、厚生省健康政策局指導課課長補佐、同省国立病院部運営企画課課長補佐、茨城県保健福祉部長、厚生労働省東京検疫所長、内閣府参事官(ライフサイエンス担当)、独立行政法人国立病院機構本部医療部長、独立行政法人福祉医療機構審議役、厚生労働省近畿厚生局長などを歴任し、2015年7月、厚生労働省退職。兵庫県健康福祉部医監、同県健康福祉部長、東京都中央区保健所長を経て、2021年4月より現職。