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【新春対談】“声をひろう”2人の女性リーダーが見据える組織作り(法政大学 ダイアナ・コー総長×東京歯科保険医協会 早坂美都会長)

【新春対談】“声をひろう”2人の女性リーダーが見据える組織作り(法政大学 ダイアナ・コー総長×東京歯科保険医協会 早坂美都会長)

 日本で初めての女性総理が就任した2025年。時を同じくして2人の女性リーダーが一足先にその任に就いた。1人は創立142年の伝統を誇り、優れた人材を輩出し続ける法政大学のダイアナ・コー総長。もう1人は設立約半世紀の歴史で初の女性会長となった当協会の早坂美都会長。
 十数年来の関係がある2人は昨年、就任初年度の慌ただしさの中、それぞれの組織の進化、発展に向け奔走した。そして、就任2年目となる2026年、2人はその視線の先に何を見据えるのか。今回はコー総長、早坂会長による新春特別対談の模様をお届けする。

■互いに尊敬し合う間柄

―2人の出会い

早坂:16年前、知り合いのつながりで初めてコー先生にお会いした時に、「笑顔が明るい素敵な方」というのが第一印象でした。

コー:共通の知人から「信頼できる方」と聞かされて、早坂先生にお会いしました。それ以来、歯科医師と学者という関係以上の学び合う関係が築けていると思います。

早坂:2025年3月頃に、総長になったことを聞き、とても驚きました。私自身もその時期は、会長に立候補すべきかどうか思いを巡らせていた時期でした。総長就任の知らせとコー先生が「風景が変わりますよ」と言ってくれたことが、私の背中を後押ししてくれました。

コー:それは嬉しいですね。私自身も早坂先生のように働く女性の頑張っている姿に共感しています。学部長やグローバル教育センター長としてグローバル化やDEI*の推進に取り組んできましたが、それが与える影響には組織的な限界を感じていました。大学全体でこれらの取り組みを進めたいとの思いから、総長より指名を受けて常務理事・副学長をお引き受けしましたが、その後もなお、大学全体を動かす力の限界を実感し、これまで大学から受けてきたご恩に報いたいという思いも重なり、総長として取り組みを発展させたいと考え立候補を決意しましたが、立候補する前は、重圧から3週間ほど寝られない日々が続きました。その中では、本学で初の女性総長だった田中優子先生にも相談しました。私は大変な部分にばかり目を向けていましたが、繋がりが増えたり、学びが多くなったり、得るものもたくさんあることがよく分かり、大きな一歩を踏み出す決意をしました。
*=Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭文字を取ったもの。

■キャリアで直面した壁

―これまでのキャリアの苦労

コー:日本の大学組織で女性、しかも外国出身という立場でリーダーシップを取っていくことは簡単ではありません。常務理事になった際にも男性中心の組織でどのように物事を進めていくかが全く分かりませんでした。また、私にとって日本語は第三言語なので、自由に使えない部分もあり、当初は総長としてやっていけるかどうか不安を感じていました。実際に何か発言しても、理解してもらえていないか無視されていると感じる場面もありましたし、制度や文化の壁に直面して、会議が終わった後に涙が出てくることがありました。ただ、ある時、本学の卒業生から「法政大学を通じて社会を良くしてください」と言われ、これが大きな気付きとなり、今でもモチベーションになっています。

早坂:トップに立つ“孤独感”はよく分かりますね。また、私も女性として妊娠、出産、育児と、キャリアを歩む上では苦しい場面もあり、悔しい思いをすることも多々ありました。それでも「必ず時代は変わる。新しい命を宿した人間が悲しい思いをしないでキャリアをつなぐことができる時代が必ず来る」という思いが原動力となり、ここまで歩んできました。

コー:早坂先生の経験は、今の若い世代の女性たちにも必ず伝わりますし、共感されるものだと思います。早坂先生のような方がいることで、今、多くの女性歯科医師が働きやすくなる社会に少しずつ変化していることでしょう。日本のジェンダーギャップ指数は世界的に見ても低い数値です。この問題は、私の専門領域でもあるので、本来であれば系統的に考えて政策を提言していくのですが、なかなか改善が見込まれない現状ですので、とにかくできることからやっていかなければと感じています。それは、女性教員が24%に留まる本学でも同じことが言えます。さまざまな課題を解決するには、教職員の力を合わせてチームとして対応しなければなりませんが、根本的には現状に対する危機感を共有し、教職員一人ひとりが当事者として関わっていただくことが重要だと考えています。また、組織の中の部局間の壁を越えて連携していくことも鍵だと考えます。

早坂:ジェンダーギャップについて、より具体的にどのような課題から解消していけば良いのでしょうか。

コー:まずは、どの分野でも管理職をはじめとする女性の人数を増やすことが重要でしょう。男性中心の社会では、「働く人のモデル」がどうしても、家事や子育てをしない、仕事中心の男性像になってしまいます。そこでは女性に限らず、現代の若い男性までもが、「働く人のモデル」に合わせることができず、組織に居続けることができないのです。生き方の多様性を追求していくことが大切だと思います。

■多様性と「声を聞く」文化

―組織のトップとして

早坂:会長として意識しているのは、会員の“生の声”を拾うことです。声なき声、サイレントマジョリティの意見をどのように汲み取るのかも大切なことです。あらゆる課題について、1つの答えでまとめないことが大切だと考えています。

コー:大学でも同じような課題があります。教職員や学生のニーズは多様で、時には相反する意見もあります。一人ひとりの声を丁寧に拾い、決して置き去りにしない文化を作ることが、結果的には組織の強さにつながると実感しています。

■制度改革は「できるところから」

―“一人ひとりの声を大切にする”組織づくりで大事なこと

コー:最初から完璧を目指すのではなく、まずはできるところから積み上げることが大切だと考えています。制度だけ作っても、人の意識が変わらなければ機能することはありません。だから「制度」と「人」を同時にアップデートしていくことが重要です。これはどのような組織にも共通することではないでしょうか。

早坂:歯科医院は特に小規模な組織が多いので、従業員が1人休むとたちまち業務が回らなくなるという状況は珍しくありません。それでも産休、育休などを取得できる環境を整えて、周囲もそれを支えなければいけません。

コー:結局は「周囲が支える文化」を創り出せるかどうかが重要だと思います。“女性だから”“男性だから”ではなく、誰かの人生の重要なタイミングを支え合える職場。それを作るには、小さな改善の積み重ねが不可欠です。

■若き女性研究者・歯科医師を目指す人へ

コー:自分に制限をかけずに、挑戦し続けることを大切にしてほしいと思います。すぐに成果が出なくても、そのプロセスは必ず自分の糧になります。恐れず一歩を踏み出せば、必ず新しい世界が見えてきます。

早坂:今は歯科大学で女子学生が半数を超える時代です。“女性だから”という理由で遠慮したり諦めたりする必要はありません。皆さんの力で歯科医療界の未来を作ってほしいと思います。私たちの世代は、そのための環境作りを進めていく責任があります。

―2026年の目標を

コー:本学がグローバルに開かれて、「多様性・包摂性・公平性」を実践する大学として、さらに社会から認められるようにしたいと思っています。その姿勢が社会にも良い影響を与えられればと願っています。

早坂:今、歯科医療の世界は転換期にあります。女性の割合が増え、価値観も働き方も多様化しています。誰もが公平に、そして誇りを持って働ける歯科医療界にしたい。そのために協会としてできることを一つずつ実行していく、そんな1年にしたいと思っています。

■おわりに―
 対談から見えてきた、2人の女性リーダーが語る“人”を中心に据えた組織作り。現場の声を汲み取り、相互に支え合うことができる組織風土をどのように育てることができるか。2026年、教育と歯科医療の両分野で、2人がどのような変革をもたらすのか、大きな期待が寄せられている。

▼紙面で見る(「東京歯科保険医新聞」2026年1月号6-7面)

▼過去のインタビューを見る

Profile

Diana Khor(ダイアナ・コー)/1983年香港大学社会学科卒業、1985年同大学院社会学研究科修士課程修了、1987年スタンフォード大学大学院社会学研究科修士課程修了、1994年同大学院社会学研究科博士課程修了。1999年より法政大学第一教養部専任講師に着任し、2005年に法学部教授。副学長・常務理事を歴任し、2025年3月より法政大学総長に就任。

【2026・年頭所感】歯科の重要性が深く認識されている今こそ(会長/早坂美都)

【2026・年頭所感】歯科の重要性が深く認識されている今こそ(会長/早坂美都)

明けましておめでとうございます。

会員の先生方におかれましては、2026年の新春を新たな気持ちでお迎えのこととお慶び申し上げます。また、日頃より東京歯科保険医協会の活動に対してご理解、ご協力を賜り、心より御礼申し上げます。

 保険で安心して、きちんとした診療ができるようにしよう

1973年4月に協会が設立されて以来、長く受け継がれてきた言葉です。以後、協会は歯科医療を通して都民、そして国民の皆さまの歯と口腔の健康のため、さらに何よりもその担い手であります歯科保険医の先生方の生活を守るために活動して参りました。

歯科医療は、人生の最期の日まで「自分の口でおいしく食べることができるようにすること」を目指しています。そのことは、年齢を重ねても健康で過ごせること、すなわち「健康長寿社会の実現」に貢献することでもあります。最近では、「口腔内の環境が全身疾患に大きく影響すること」が広く知られ、歯科の重要性に対する理解が深まりつつあります。歯科医療を正しく理解していただける時代に差しかかっていると言えるのではないでしょうか。

しかしながら、その歯科医療界にも数年来続く物価高騰、人手不足の波が押し寄せ、歯科医院経営に大きな影を落としており、このままでは国民の口腔内を守り続けることができません。

こうした状況を受け、昨年は「基本診療料を中心に、診療報酬の期中改定や、国の責任による国の補助金等での緊急財政措置を早急に行うこと」「2026年度診療報酬改定で、基本診療料を中心に少なくとも10%以上の大幅な引き上げを行うこと」「患者窓口負担を軽減すること」などを掲げ、会員の先生方の貴重な声が記された請願署名、要請署名を厚生労働委員会の国会議員一人ひとりに手渡しました。保険診療は国会での審議、承認が必要な国の予算、つまり国政に直結していますので、国会議員の歯科への理解を深めるため、また、今年施行となる診療報酬の改善につなげるためにも地道な活動が大切です。2026年度診療報酬改定にあたっては、今回も協会は『新点数説明会』を45月にかけて計3回開催いたします。新たな診療報酬を理解すべく、ぜひ、会場に足をお運びください。

また、健康保険証廃止によるトラブルが後を絶ちません。さらに、少子高齢化が急速に進み、医療技術の進展に伴う医療コストの急増なども重なり、1961年から60年以上続く国民皆保険制度を揺るがしかねない事態が続いています。国民皆保険制度は、国民の誰もがいつでも、全国どこでも公的保険によって一定の負担でカバーされた医療を受けることができるという、諸外国に類を見ない素晴らしいものです。質が保たれた医療を安心して受けられる環境維持のためにも、この制度を守らなければいけません。

協会は、患者、国民が安心して医療を受けられるよう、そして歯科医療機関が混乱なく患者を受け入れられるように、まずは資格確認書の全員交付を求めて、東京都知事と都内51自治体の首長に要望書を持参・送付しました。私も保団連関東ブロックの会長・理事長と共に新宿駅前で街頭宣伝を行い、多くの方々から署名をいただきました。今後も都民の方々に向けて、歯科治療と健康の重要性を理解していただくために幅広く活動していきます。

「食べることは生きること」です。協会は、6,043名(202512月時点)の会員の先生方に支えられながら、都民、そして国民の皆さまがより一層安心して歯科医療を受けることができるよう、さらなる努力を続けて参ります。今後ともご理解とご協力、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会会長 早坂 美都(2026年 年頭所感)

新春寄稿「私の一枚」

新春寄稿「私の一枚」

「東京歯科保険医新聞」2026年1月号に掲載した会員からの写真投稿を以下の通り、ご紹介させていただきます。ご応募いただき、誠にありがとうございました。

厳冬のモルゲンロート(早坂 美都 先生/世田谷区)

昨年の年始、マイナス15度ほどの時に撮影した八ヶ岳のモルゲンロートです。初日の出が山肌に映えるシーンを捉えた1枚。「モルゲンロート」とは、早朝に昇り始めた太陽の光に照らされて山肌が赤く染まる現象を指す登山用語です。語源はドイツ語で、「モルゲン(Morgen)」は「朝」、「ロート(rot)」は「赤い」という意味になります。

水平線から昇る日の出(坪田 有史 先生/文京区)

五島列島の小値賀島を4時50分に出航して福江島までの移動で乗船した太古定期フェリーからみた日の出。

 

ハワイ島 マウナケア山頂から(伊藤 愛子 先生/世田谷区)

夏休みに標高4,205mの山頂までレンタカーで登って撮影。一番左がすばる望遠鏡。

 

中央アルプスの雪解け(吉田 真理 先生/武蔵野市)

機窓から撮った中央アルプスです。まもなく雪が解け動植物が生命を謳歌するようになります。

 

そうふ岩(下田 祐里江 先生/大田区)

東京から約600km南に位置するアホウドリの生息地の鳥島の先にある、高さ100mの突岩。

魔女の瞳(川本 弘 先生/足立区)


場所は福島県の五色沼。一切経山から見下ろした絵です。通称”魔女の瞳”と呼ばれています。

協会事務局休務のお知らせ

協会事務局休務のお知らせ

年末年始につき、以下の期間、東京歯科保険医協会事務局を休務とさせていただきます。あらかじめ、ご了承ください。

2025年12月27日(土)~2026年1月5日(月)

なお、年内の最終業務は20251226日(金)、新年の業務は202616日(火)から開始となります。

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)12月1日号

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)12月1日号

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)12月1日号

【1面】
  1. 実現必須/「大幅な診療報酬引き上げ」早坂会長会員の声を国会議員へ
  2.「オン資訴訟」控訴審始まる/原告棄却から1年
  3. 健康保険証/有効期限終了も来年3月末まで使用可能 12月2日以降原則 マイナ保険証か資格確認書で資格確認
  4. 協会事務局 休務のお知らせ
  5. 探針
  6. ニュースビュー


【2面】
  7. 中医協 歯科医療(その2)議論 口腔機能管理・歯周病治療・デジタル化/次期改定へ歯科保険制度の見直し本格化
  8. 3次元プリント有床義歯(3DFD)期中改定/12月1日から保険収載
  9. 中医協 在宅医療その4/訪問歯科の短時間化・制度の複雑化が深刻化 公平な評価体系へ見直し議論進む
10. 歯科領域の新規医療技術提案が確認/暫間的ダイレクトボンディングブリッジなど提出 来年1月開催の医療技術評価分科会で最終検討へ

【3面】
11. 3地区で会員地区懇談会を開催/保険請求の「迷い」解決 増点のコツで意見交換も
12. 2025年12月 歯科用貴金属の随時改定情報
13. 第40回医療研究フォーラム/会員の意識と実態調査 子ども医療費助成を発表
14. 来年は診療報酬改定/会員の皆様に「テキスト」をお届けします

【4面】
15. 経営・税務相談Q&A No.435 2025年の年末調整における注意点②完
16. 12月会員無料相談のご案内
17. 東京都支援金情報
18. お詫びと訂正
19. 3年ぶりに改訂版完成/冊子「医院経営と雇用管理」

【5面】
20. 研究会・行事ご案内
21. 2025年度第2回東京都歯科医師認知症対応力向上研修

【6面】
22. 連載/協会探訪その④ 会員同士の助け合いで備え、支える共済制度を守る—共済部とは—
23. 都内/「歯科」受診は医科より多い 「都民の健康と医療に関する実態と意識」で報告
24. IT相談室/再考歯科医院の情報発信③-ホームページが不要になる日-

【7面】
25.「保険でよい歯を」東京連絡会/とげぬき地蔵尊髙岩寺でアピール
26. 理事会だより
27. 協会活動日誌
28. 年末年始休診ポスターのご案内
29. 共済部だより

【8面】
30. 12月2日からの資格確認方法
31. 神田川界隈「どうしてもやりたいこと」(理事・阿部菜穂/江東区)
32. 第4回メディア懇談会を開催/健康保険証廃止と医療DXなどテーマ
33. 特別企画「今年の漢字 2025」応募結果発表

【IT相談室】再考 歯科医院の情報発信③-ホームページが不要になる日-

【IT相談室】再考 歯科医院の情報発信③-ホームページが不要になる日-

◆ホームページを持たない選択
インターネットを利用した情報発信の媒体として、すでにホームページがメインと言えなくなっている業界があります。代表的なものは飲食業で、新たに開業する店舗ではホームページがないことが珍しくありません。検索に対する受け皿は「食べログ」「ぐるなび」などの情報サイトに任せ、メインの媒体はInstagram、日々の情報発信はXを利用しています。特に個人経営の飲食店では、そのような傾向があります。
◆機動力と即応性に勝る情報媒体
その理由として考えられるのは、「ホームページはコストをかけて、きちんと作れば作るほど更新するのは困難になる」「文章や写真を用意してブログを更新するよりも、InstagramやXの方が手軽である」などです。若年層へのアピールには、機動力と即応性に優るTikTokなどを含めたSNSやYou Tubeなどが有効であることを、経営者自身が感じていることもあるでしょう。
一方、情報サイトについては、選ぶ側から見れば、簡素ではありますが統一されたレイアウトで、求める情報がどこにあるのかがすぐにわかり、選択から予約までスムーズに進めるというメリットがあります。
◆すべてを1つのレイアウトで
飲食店のほか、美容室や整体院などでも同様の傾向があり、それぞれ特定の情報サイトが勢力を持っています。過去数回解説してきたGoogleビジネスプロフィールやYahoo!プレイス、Microsoft社のBing Places for Businessなどは、特定の業界に限定せず、総てを統一したレイアウトで閲覧できるようにしようという、壮大な展望を持っていると言えるのではないでしょうか。
今後は、歯科医院の情報発信も同様に変化していくのでしょうか。次回はその点について説明します。

クレセル株式会社 (東京歯科保険医新聞2025年12月号6面掲載)

連載/協会探訪 その④ 「会員同士の助け合いで備え、支える共済制度を守る<共済部>」

連載/協会探訪 その④ 「会員同士の助け合いで備え、支える共済制度を守る<共済部>」/東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

先生方は、開業時や家族を持った時に、漠然とした不安を感じたことはありませんか。ご自身が病気やケガをして診療ができなくなった時のことを想像し、ご自身のクリニックのことが心配になったことはありませんか。

東京歯科保険医協会ではこうした先生方の不安に寄り添う共済制度をご用意しています。

今回は、その共済制度を担当している「共済部」をご紹介します。

◆協会の三大共済制度

共済制度詳解の各種パンフレット

共済部では、開業医の経営と保険医の生活を守る重要な活動として、主に3種類の「共済制度」を取り扱っています。

私たち歯科医師は、歯科医院における経営者であると同時に、歯科医療の中心的な担い手でもあります。そのため、病気やケガなどで診療に従事できなくなった場合には、すぐに収入が断たれてしまい、医業の継続のみならず生活にも支障が生じてしまいます。また、歯科医師にふさわしい公的年金制度がないため、リタイヤ後の生活設計がしづらいという困難さがあります。

そのような状況に対し、全国組織である全国保険医団体連合会(以下、保団連)が1968年に保険医年金を、1970年に保険医休業保障共済制度(後に、保険医休業保障共済保険に改変/以下、休業保障)を設立しました。さらに東京歯科保険医協会では1982年に独自のグループ生命保険を立ち上げて以降、これらを三大共済制度として取り扱っています。

◆協会・保団連が進める共済活動

保険会社任せにせず、団体の主体性・自主性をもって、共済制度を取り扱っていることが大きな特徴です。このことにより、保険医にふさわしい保障額と割安な掛け金、および利用しやすい制度内容を実現してきました。

特に、休業保障は自主共済として発足し、保険業法の改定後も、保険制度に関する法令に準拠した「一般社団法人 全国保険医休業保障共済会」(以下、共済会)を設立し、運営を行ってきました。

共済部では、保団連や共済会と連携し、制度の管理を行うとともに、健全な運営および会員加入者の要望に沿った改善を進めています。各制度の募集に当たっては、委託生命保険会社へ協力を依頼するとともに、診療報酬改定直後に開催する新点数説明会、および各種研究会・講習会などで共済部役員自らが先頭に立ち、募集活動を行うなどしています。

そのほか、「共済研究会」として、スペシャルゲストをお招きして、健康や保険商品に関する内容をメインに開催してきました。

新点数説明会や講習会などの際には担当役員、事務局や生命保険会社職員が協力し、会員の先生方に共済制度をご案内しています。ぜひお耳を傾けていただければ幸いです。

◆会員同士の〝助け合い〟

共済部では、毎日の当たり前を支えるご提案をしています。保険医の生活を守るためにできたのが、三大共済制度です。これらの特徴や良さをここで全てご紹介するには、とても紙面が足りません。各先生の生活事情、家庭環境、クリニックの経営体系なども違います。少しでも気になった方は、協会共済部あてに連絡をくだされば、いつでも先生方に寄り添ったご提案をさせていただきます。

自分ひとりでは守り切れない人生のリスクを、「会員同士の助け合いで備え、支える」。そして、それを繋ぐのが、東京歯科保険医協会共済部の大切な役目です。

 

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)11月1日号

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)11月1日号

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)11月1日号

【お詫びと訂正】4面「経営・税務相談Q&A No.434 2025年の年末調整における注意点①」に掲載した表に誤りがありましたので、以下の通り訂正しお詫び申し上げます。

【1面】
  1.関東ブロックが緊急決起集会を開催 診療報酬の大幅引き上げで物価高騰・賃上げに対応を
  2.自維連立合意文書 物価高騰対策の対象に「診療所」の記載がない!診療所の厳しさを署名で国会に届けよう
  3.16年ぶりに改訂!「医科歯科連携ナビゲーション2025」発行
  4.探針
  5.ニュースビュー


【2面】
  6.中医協総会 消費税の公表データに重大ミス/歯科の補填率97.6%へ
  7.新規開業医講習会を開催 新規個別指導の指摘項目を詳解
  8.新規個別指導の指摘項目を詳解 前回受講から4年近い方は12月に受講を
  9.2025年12月歯科用貴金属の随時改定情報
10.会員優待サービス

【3面】
11.政策委員長談話「患者の安心を守るためにOTC類似薬の保険適用除外に慎重な議論を求める」
12.スマホ保険証の読み取り機能 導入の歯科医療機関は約15%
13.「保険でよい歯を」東京連絡会第32回定期総会記念講演会

【4面】
14.経営・税務相談Q&A No.434 2025年の年末調整における注意点①
15.第1回経営管理研究会を開催 補助金・助成金の最新情報 専門家が解説
16.10月会員無料相談のご案内
17.東京都支援金情報

【5面】
18.研究会・行事ご案内

【6面】
19.連載/協会探訪その③保険請求と学術 強い味方の 「社保・学術部」

【7面】
20.「保険でよい歯を」東京連絡会 イイ歯デー&歯の供養祭開催/巣鴨のとげぬき地蔵尊「高岩寺」で
21.再考 歯科医院の情報発信②-AIモードを活かしたHP広報-
22.要望提出 国の交付金で医療機関支援を/自治体から支援金情報提供も
23.理事会だより
24.協会活動日誌
25.通信員便りNo.155
26.共済部だより

【8面】
27.ウクライナ・パレスチナ情勢が示す 核抑止論の破綻
28.神田川界隈「おいしくないメーラード反応」(理事・岡田尚彦/世田谷区)
29.患者さんへの情報提供文書用紙 ご案内
30.「今年の漢字 2025」募集中
31.「2026年新年号巻頭写真」募集中
32.年末年始休診ポスターのご案内

【IT相談室】再考 歯科医院の情報発信②-AIモードを活かしたHP広報-

【IT相談室】再考 歯科医院の情報発信②-AIモードを活かしたHP広報-

2025年9月からGoogleの検索エンジンで「AIモード」が提供されています。Googleのトップページの検索語を入力する部分の右側にある、音声検索のマイクのマーク、画像検索のマークの右に「AIモード」とあるのに気付いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

◆検索とAIが統合される
すでにAIを使っていただいている方はお分かりのこととは思いますが、GoogleのAIモード操作方法や回答の内容などは、Googleが提供している対話型AIの「Gemini」に似ています。違いは、表示がリッチで親切なことです。
そして、回答画面のリンクをクリックすると分かりますが、なかなか元となるホームページにはたどり着きません。

◆まとめ情報に
 自院のコンテンツを追加 前回もお伝えしましたがAIを含む現在の検索エンジンは、検索エンジンが提供するまとめ情報へのアクセスを重視しており、結果として診療所などが運営しているホームページへのアクセスは、大きく減っています。
この状況への対応策の第一歩は、検索エンジンが提供するまとめ情報、GoogleですとGoogleビジネスプロフィールにコンテンツを追加することです。Googleビジネスプロフィールは、アカウントを登録すると自院の登録内容を変更でき、自院の診療内容やブログの更新などを登録できます。
ホームページへのアクセスが減る方向に対抗するのではなく、検索エンジンが提供するまとめ情報を豊富にすることで、時代の流れに乗りながら自院の診療内容をアピールするようにしてはいかがでしょうか。
今回はGoogle検索を例に取りましたが、MicrosoftやYahooでも同様です。
次回以降も、AI時代の情報発信についてお伝えします。

クレセル株式会社 (東京歯科保険医新聞2025年11月号6面掲載

連載/協会探訪 その③ 「保険請求と学術/強い味方の<社保・学術部>」/東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

連載/協会探訪 その③ 「保険請求と学術/強い味方の<社保・学術部>」/東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

協会の「社保・学術部」は、理事会の執行機能を補佐する専門部のうちの一つで、おそらく、会員の先生方にとっては、一番なじみのある部署ではないでしょうか。

社保・学術部は、診療報酬の正しい解釈や算定・請求方法の解説をはじめとした医療保険制度全般に関する事項の全て、および学術関連情報の提供なども担当しています。役員・部員21名を中心に、会員サポートを行っています。同じ臨床医だからこそ共感できる懇切・丁寧な相談体制の構築を常に心がけています。保険請求や返戻・査定の電話相談は年間1万件以上あり、事務局が主体となって対応しています。

たくさんの相談を受ける中で、納得できない審査については、審査支払機関への改善要求につなげています。

◆社保と学術を統一した部署は協会ならでは

①多数の会員が参加した2018年4:月の「新点数説明会」の様子です。来たる2026年度診療報酬改定でもこの説明会を開催しますが、改定内容の趨勢は本年末の2026年度政府予算案の決定にあわせて明らかになります。大事な情報は協会機関紙、ホームページデンタルブックメールニュース、F-nexで適時お知らせします

2年に一度の診療報酬改定の際には、テキストを作成し、「新点数説明会」を開催しています(写真①②)。参加経験をお持ちの先生は、かなり多いことでしょう。私も会員になってからは、欠かさず参加しております。

②新点数説明会の質疑応答で受けた質問は、会場内の控室で役員と部員、事務局の担当者が共同で対応。回答が準備できると、会場へ戻り即答します。表には出ない、舞台裏の地道な作業です

コロナ禍以降は、密集を避けるため事前申込制を基本としましたので、会場から参加者があふれるようなことはなくなりましたが、やや以前の2006年度改定時の新点数説明会では、座席が足りなくなり、会場内の通路や階段、さらには場外の廊下に座って受講するほどでした(写真③④)。新点数説明会の会場では、レセプトコンピュータや医療機器などの展示説明のほか、共済制度の案内も行っています。

最近の返戻・査定の傾向や個別指導と新規個別指導の現状などを解説するための社保研究会が今年の8月末に開催されましたが、社保・学術部が担当です。

学術関連では、翌日からの診療に活かせる歯内療法や歯周治療などベーシックなものから最先端治療まで、各分野を代表する講師を選定し、定期的に学術研究会を開催しています。

社保と学術を統一した部署は、協会ならではの存在です。歯科では保険請求と学術は関連があります。歯科では自費治療もありますので、複合的関係性を統一的に捉えた活動を行っています。

③この写真は2006年度改定時の新点数説明会会場です。席を取れなかった先生方が、座席最後部の通路にぎっしりと座り込んでいます。それでもあふれた先生方には、廊下で聞いていただく事態となってしまいました。ご迷惑をおかけしました

 

 

 

 

 

 

◆健康保険証は国民皆保険制度の象徴

さて、保険請求の基となっている健康保険法は1927年に施行されましたが、当時はまだ歯科医療は大変贅沢な医療でした。歯科医師数も少なく受診率も低かったのです。その後、61年に国民皆保険制度が実現し、誰もが医療サービスを受けるための手段として健康保険証が発行されました。2512月には、その国民皆保険制度の象徴ともいえる健康保険証が廃止(制度は存続)されようとしています。

健康保険制度の成り立ちについて、要となる事柄を振り返り、大きな流れを把握することは決して無駄なことではありません。そのことは、また別の機会に解説させていただこうと思います。

退き際の思考/「どうすれば良いのか」窮地で頼った協会(宮 優子さん【後編】)

退き際の思考/「どうすれば良いのか」窮地で頼った協会(宮 優子さん【後編】)

「どうすれば良いのか」窮地で頼った協会

                             宮 優子さん―【後編】

歯科医師としての“引退”に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生らにお話を伺い、引退を決意した理由や医院承継、閉院の苦労などを深堀りする。ここでは、今年4月をもって歯科医師を引退した宮優子先生(68歳)の後編。医院の譲渡や、協会との関わりについて伺った。

―前編では医院をM&Aで譲渡したことについて触れました。実際のM&Aの手続きについて教えてください。

M&A業者2社に登録して、譲渡先1件と面談、もう1件からもオファーをいただきましたが、これは残念ながらお断りしました。その後に最終的な譲渡先からのオファーがありましたので、計34件ほどの中から決めていった形です。譲渡に当たっては、「承継ノート」を作り、必要な情報をまとめました。また、従業員に対しては、従来の雇用条件を維持する方向性を伝えていたので、その点は問題なく進めることができました。

 

―譲渡先とはどのようなやり取りを。

これまでは個人の歯科医院ということもあり、慣習的にやってきたルールなどを改めて明文化する作業が必要で、ここが譲渡先との調整に時間を要した部分でした。過去に出した施設基準の届出書類などを揃えたり、譲渡先の医院に共有したりすることや、従業員の雇用契約書について合意形成を図る作業も大変でした。分からない点は、関係機関や業者などに問い合わせ、確認しながら解決しました。

― 歯科医院には取引業者も多いと思いますが、そのあたりの連絡は。

3年くらい前から「いつになるかわからないけど、引退する方向です」と雑談の中でなんとなく業者さんに伝えていました。また、引き継いでくださった院長先生が、私が引退することを改めて業者さんに周知してくれていて、担当者などからお礼のメッセージなどをいただきました。

◆「どうすれば良いのか」窮地で頼った協会

―会員として23年、協会に入会した理由は?

手頃な会費で相談に応じてくれるので、開業当初に入会を決めました。返戻や医院経営の相談ですごく重宝していました。助成金申請でも手続きが分かりづらく、「どこから手を付ければいいの?」という状態の時にサポートしていただいたので良かったと思っています。そして、特にお世話になったのは自院に税務調査が入った時でした。当時は、診療をしながら、毎日のように税務署への対応もするため、どうすれば良いのか分からず困っていました。そこで協会に相談したところ、税理士さんを紹介してくださいました。それまでは自分だけで税務処理をやっていて不足していた部分があったので、すごく助かりました。それ以降、その税理士さんと顧問契約をして支えてもらいました。

―講習会にもよく参加されたとか。

協会の講習会は夜に行われることが多いので、土日に診療していたりトライアスロンのトレーニングをしている私からすると、とても参加しやすく利用していました。医院の譲渡にあたっても協会主催の経営管理研究会「歯科医院の事業承継・継承の実態とポイント」(202312月開催)を受講して、参考にさせてもらいました。

― 三大共済制度(グループ生命保険、休業保障、保険医年金)も活用していただきました。

かつて主人が亡くなった際に、保険に何も入っていなかったんです。最初は風邪のような症状でしたが、なかなか治らずに「今年の風邪は長引くね」と話していた矢先に脳炎で倒れ、その半年後に亡くなりました。その時に強く感じたのが、自分に何かあった時に子どもたちや周囲に迷惑はかけられないということでした。それからは、とにかく万が一に備えようと、グループ生命保険や休業保障にも加入しました。保険医年金は、貯金をする感覚で加入していてその面ですごく良かったと感じています。

―現在も歯科医師として従事する同世代の先生にメッセージを。

診療所でのサプライズ誕生会で

歯科界はますますDX化が進み、この数年でも大きな変化がありました。私はその波についていけなかった一人だと思っています。デジタル機器を扱えずにイライラしたり、「やらなきゃいけないけど、どうすればいいの」というのが当たり前でした。でも娘に聞くと、私が半日かけて悩んでいたことを10分で解決してしまう。なんだかガックリしちゃうことも多くありました。そうした世の中の流れの中で現在も診療にあたる先生方は、本当に尊敬しています。今は心が壊れてしまうことも多い時代です。私も長年の診療姿勢が悪く腰椎が変形しましたが、歯科医師は身体に不具合が生じやすいと思うんです。だからこそ、もし経済的に許すのであれば、無理はしないでいてほしいと願っています。また、“仕事が趣味”という先生も多い業界ですが、気持ちを切り替えられる趣味などがあれば良いのかなと思っています。

 

 

 

―ありがとうございました。

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)10月1日号

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)10月1日号

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【1面】
1.26年度東京都予算要望/子ども医療費・個別指導など16項目で意見交換
2.署名とともに、「先生の声」をお寄せください/現場の声を国会議員に届けます
3.次期診療報酬改定では大幅引き上げを/全国で要求活動はじまる
4.「地域から医療をなくすな!緊急決起集会」
5.探針
6.ニュースビュー

【2面】
7.2024年度 5年ぶり「高点数」個別指導を実施/萎縮診療せず カルテ記載や請求内容を確実に
8.「保険でよい歯を」東京連絡会/石川都技会長と懇談
9.中医協総会/歯科医療の課題を整理 障害者医療や口腔機能管理など柱

【3面】
10.2026年度東京都予算要望/子ども医療費 10月から所得制限撤廃
11.早坂会長も署名を呼びかけ/保険証復活・資格確認書の一斉送付求める 関東ブロック協議会・街頭宣伝
12.被爆の歴史を次の世代へ/若者達が被爆者と体験を共有し、学びあう
13.厚労省資料から歯科の現況を考える/患者の視点で考える 診療報酬の引き上げの必要性

【4面】
14.経営・税務相談Q&A No.433“ 103万円の壁”撤廃で歯科医院への影響は?
15.通信員便りNo.154
16.10月会員無料相談のご案内

【5面】
17.研究会・行事ご案内

【6面】
18.退き際の思考 歯科医師をやめる(宮優子さん)/「どうすれば良いのか」窮地で頼った協会
19.共済キャンペーン

【7面】

20.第1回スタッフ講習会/ガイドラインなどに基づく医院ごとの対策を
21.ここがポイント!! 「資格情報のお知らせ」のみ持参時の対応/9月末で国保保険証が期限切れ
22.連載/協会探訪その②「運動本部」とは/保険診療の充実に政治への関与は不可欠
23.理事会だより
24.協会活動日誌

【8面】
25.第3回メディア懇談会/マイナ保険証の混乱状況報告 〝一人技工所〞の高齢化問題も
26.「保険でよい歯を」東京連絡会/イイ歯デー&歯の供養祭開催 巣鴨のとげぬき地蔵尊「高岩寺」で
27.神田川界隈/有病者歯科治療~私たちのできる事、できない事~(理事・川本弘/足立区)
28.東京都支援金情報/医療機関等物価高騰緊急対策支援金、生産性向上・職場環境整備等支援事業

【9・10面】
29.共済部折込

第3回メディア懇談会/マイナ保険証の混乱状況報告 〝一人技工所〟の高齢化問題も

第3回メディア懇談会/マイナ保険証の混乱状況報告 〝一人技工所〟の高齢化問題も

協会は912日、第3回メディア懇談会を開催した。広報・ホームページ部の小林顕部長が進行を務め、馬場安彦副会長が議題の説明を担当し、メディア45名が参加した。議題は、東京都予算要請・都議会各派への要請、マイナ保険証・健康保険証関連、診療報酬関連、歯科技工問題など。

 

 

◆健康保険証廃止後の医療機関の混乱

このうち②に関して、健康保険証が廃止された場合に予想される医療機関での混乱について質問が上がった。馬場副会長は、現在でも身体的なハンディから顔認証ができない患者が存在することや、マイナ保険証での受付がスムーズにできない患者への対応でスタッフの業務量が増えていることなどを指摘。また、資格確認方法の混在により、スタッフが混乱しているとした。

◆歯科技工問題では発言多数

次に④では、歯科技工士や歯科技工士教育機関の減少問題などで懇談に入った。参加者からは、いわゆる〝一人技工所〟における歯科技工士の高齢化が進んでいるとの指摘があり、この点を「構造的な問題ではないか」とし、さらに「大きな枠組みの課題が放置されているように見える。世の中的にこの問題が認識されていかなければ解決できない」とした。別の参加者からは、「歯科技工問題の大きな要因は、保険点数よりも業界の産業構造が不採算であることに問題があるのではないか」とのコメントがあった。

連載 協会探訪 その② 「〝運動本部〟とは/保険診療の充実に政治への関与は不可欠」/東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

連載 協会探訪 その② 「〝運動本部〟とは/保険診療の充実に政治への関与は不可欠」/東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

東京歯科保険医協会には「運動本部」と呼ばれる部署があります。協会探訪の第2回は、この運動本部を取り上げたいと思います。

運動本部は1997年に「これからも続く医療保険改革に対し、理事会が総力をあげて、その反対、改善運動に取り組めるよう位置づけ設置した」部署です。「国民とわれわれ歯科医師が共同して保険診療を充実させよう」というスローガンを、医療運動の面から進める、協会機構の中でも特別な位置づけとなっています。

現在の運動本部は社会保障制度、医療保険制度の改善・拡充のほか、国民が安心して医療機関を受診できるためのさまざまな活動を行っています。医療保険制度や診療報酬の改善・拡充については、地域医療や臨床の現場で起きている実態や抱えている問題を明らかにし、署名や現場の声とともに、国、東京都、国会議員や都議会議員、関係行政機関に対し要請や懇談などの活動を行います。また、国民が安心して医療機関を受診できるようにする活動では、窓口負担の軽減や改善、そして患者さんがいつでも、どこでも安心して医療・介護を受けられる医療提供体制を作ることを求めています。

ところで皆さんは、歯科医療にかかわる国会質問・答弁を聞いたことがありますか。例えば221019日に行われた第210回国会参議院予算委員会で、比嘉奈津美参議院議員(当時)から歯科医療に対する考えを問われた当時の内閣総理大臣の岸田文雄氏は、「口腔の健康は、全身の健康につながる。子どもから高齢者まで質の高い生活を営むために、口腔の健康が極めて重要であると認識しています。政府としては、生涯を通じた歯科健診の実現に向けた、具体的な検討を進めるなど、今後とも歯科口腔保健に関する施策を積極的に推進していきたいと考えております」と答弁しています。

このように予算委員会では予算の内容だけではなく、「いま優先して考えるべき課題」「判断や意思決定を必要とする重要な論点」などで質疑応答が行われることが多々あります。こうした国会の審議プロセスを経て、年度末の3月末頃に国の予算が採決されます。保険診療のための予算も同様です。ただし、診療報酬に関しては、次年度政府予算案の中の要求項目として扱われます。診療報酬改定率は、毎年12月下旬に、厚労大臣と財務大臣の間で決定され、それに基づき中医協などでの検討を経て診療報酬の内容が決まっていきます。

私が大学を卒業して歯科医師になったばかりのときは、「私たちは治療に専念していれば良いのに、どうして国政と関係あるの?」と思っていましたが、保険診療の仕組みを知るようになってから、徐々にこの点を理解し始めました。保険医の先生方と国民の方々に分かりやすく、かつ健康増進につながる保険診療を実現するためには、国にその必要性を理解してもらう必要があります。そして、そのリーダーシップをとっているのが運動本部です。

東京歯科保険医協会では、歯科保険医療の拡充が必要であることなどを、国会議員が理解を深められるよう議員会館に足を運び懇談や国会内学習会を行い、請願署名を届けています。

このようなことから「保険診療の充実に政治への関与は不可欠」であるのです。

連載 協会探訪 その①「東京歯科保険医協会が行っていること/大きな助けに」〝 頼れる〟協会の成り立ち/ 東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

協会探訪 その①「東京歯科保険医協会が行っていること/大きな助けに」〝 頼れる〟協会の成り立ち/ 東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

◆事の始めは「きっかけ」が大事

唐突ですが、先生方が東京歯科保険医協会に入会されたきっかけや動機は、どのようなものだったのでしょうか。

四半世紀前、勤務医だった私の職場では、開業する先輩たちが次々と退職していかれました。その後ろ姿を見つめつつ、「私もいつかは開業することになるのだろうか。でも、開業するにしてもどこから手を付けたらよいのかわからない…」。そんなことを思いつつ、現在のようにウェブで検索するにも、当時は情報量が少なすぎました。

一般会員時代の2013年5月11日に開催された協会「創立40周年特別企画」をスタッフさんと一緒に訪ねた時の1枚です(写真左が私)

そんな時、先に開業した先輩から「保険医協会というのがあるから、調べて電話してみたら良い。自分は神奈川だから神奈川協会に入会したけど、東京にもあるから」とアドバイスをいただきました。

このように、先輩のほか、ご両親の代から入会されている方、勤務先の院長が協会の会員だった方、お知り合いの先生からの薦めで入会された方など、紹介により入会されるケースが多いです。

 

  ◆協会キャッチフレーズと全国51協会・医会、そして保団連

  「保険で安心してきちんとした診療ができるようにしよう」。これは、当協会の長年のキャッチフレーズです (*1)。

当協会は19734月、「歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上をはかることを目的」に設立されました。歯科保険医(*2)の要求に基づく自主的な任意団体という性格を明確にし、今日までさまざまな活動を行ってきました。その結果、発足時の会員数は180名でしたが、25 年8月1日現在では6,032 名となっています。

全国の各都道府県には必ず保険医協会・医会があり、その総数は51。その連合体として全国保険医団体連合会(保団連)があります。保団連は69126日に「保険医の生活と権利を守り、保険医療の向上、医療保障の充実をはかる」ことを目的に結成され、2581日現在、全国では106,002(医科64,110名、歯科41,892名)の医師・歯科医師が入会しています。

開業前の私にとって、当協会は頼れるところだと感じたので、即入会し、新規開業時に指導相談を利用しました。その時の会長は、第2 代会長の大多和彦二先生、指導相談の担当は第3代会長の中川勝洋先生でした。

その後、会員無料相談デーを利用して、機器のリースについての不明点を協会顧問弁護士に相談するなど開業歯科医師人生の大きな助けとなってくれたのが、東京歯科保険医協会でした。

◆「保険医協会」と「歯科医師会」

では、改めて当協会と歯科医師会との違いは何でしょう。当協会には、歯科医師会と当協会の双方の会員である先生と、当協会のみの先生がいらっしゃいます。歯科医師会は公益社団法人であり、国民の歯と口の健康を守る活動をする総合団体です。当協会は、国民皆保険と保険医の生活を守る(*3)ことを目的に結成された任意団体です。公益社団法人と任意団体、大きくこの部分が違います。

現在会員の先生方は、どのような経緯で入会されたのでしょうか。

これから、連載企画として当協会と東京都で開業している先生方との関わり、国や自治体、メディアの方たちとの関わり、それに当たり協会執行部内でどのような活動を行っているかなど、お伝えしたいことを私が協会役員になる前の記憶をたどって書いてまいりたいと思います。

新入会の先生も、会員歴が長い先生も、少し立ち止まって、当協会の進む方向と先生方のポジション、そして、当協会は変貌する歯科医療環境を前に、どのような活動を進めようとしているのか、改めて振り返る機会としていただければ幸いです。

注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*1 「保険で安心してきちんとした診療をできるようにしよう」は1992年の第20回定期総会議案書の表紙に印刷されたのが始まりだと思います。この文言が掲載された経緯は不明です。

*2   以前勤務医の先生から「自分たちも保険医協会の構成員」である趣旨の発言がありました。それ以来、開業医・勤務医を含めて「歯科保険医」と表現するようにしています。

*3   設立当初の規約の第2条「目的と事業」では「本会は歯科保険医の生活と権利を守り、都民の歯科医療を守る立場を堅持し、医業経営の研究等活動を行う」としていました。1983(昭和58)年の第11回定期総会で「本会は歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上を図ることを目的とする」(現在も同じ)と変更されました。第11回定期総会では同時に、「低下はご免・運動」「130分・運動」「児・産・歯・運動」の三つの運動が提起されました。規約改正はこういった運動の中で行われたものです。

 

 

【プロフィール】早坂 美都(はやさか みと)/ 1965年12月生まれ。19913月 東北大学歯学部卒業、200110月美都デンタルクリニック(世田谷区)開設、同年東京歯科保険医協会に入会。2016年、理事に就任。2017年から広報・ホームページ部長就任し、2023年に副会長就任。2025年第53回定期総会を経て、理事会で第6代会長に選出された。協会設立52年目にして初の女性会長就任。唎酒師(ききさけし)の資格を持つ。

【IT相談室】再考 歯科医院の情報発信①-概論編-

【IT相談室】再考 歯科医院の情報発信①-概論編-

弊社はこれまで、多くの歯科医院のホームページを制作させていただき、定期的にさまざまな分析を行ってきました。その結果に考察を交えて、情報発信の視点からより効果的なホームページを作る方法についてご説明します。

外注し、多額の費用を投じて立ち上げたホームページなのに、ネットの口コミやアクセス数ばかりに気を取られ、一喜一憂してしまう…。これは、医療機関の情報発信のあり方、さらに医療の本質から見ると、良いこととは言えません。改めて自院が地域の口腔の健康をどのように担うかに応じて、ホームページでどのような情報を発信すべきか、その方法を検討してください。        

◆認知経路のトップはホームページではない

これから開業する歯科医院では、院長先生自身が情報発信の重要性を理解しているため、ホームページを作らないことは考えられません。しかし、開業後、年月を経過した医院を中心に、いまだにホームページがない医院もあります。

弊社では、歯科医院の認知経路と来院動機を調べていますが、ホームページは必ずしもトップではありません。来院動機は、昔も今も「前を通って」が多く、紹介や看板、チラシなどの複合的な要素もあります。 

◆重要度減るホームページ

現在のITの世界にはAIが大きな影響を及ぼしており、検索画面の一番上にAIによる要約が出ることが普通になりました。現在の各検索エンジンは、AIによる要約やマップでの一覧、業種別のリスト、プロフィールの表示などで、閲覧者が検索画面を見るだけで情報が得られます。つまり、個別のホームページのアクセスが減る方向に注力しています。

さらに、以前からあるSNSも含め、医院認知経路の多様化も進行しています。

このように、今後も情報発信や認知経路、それらへの対処方法は変わっていきます。         

◆これからの発信方法

次回以降は、効果的な情報発信方法について、4回シリーズでご説明します。

クレセル株式会社

(東京歯科保険医新聞2025年9月号8面掲載)

連載「協会探訪 その①」 東京歯科保険医協会会長 早坂 美都 東京歯科保険医協会が行っていること/「大きな助けに」〝 頼れる〟協会の成り立ち

連載「協会探訪 その①」 東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

東京歯科保険医協会が行っていること/「大きな助けに」〝 頼れる〟協会の成り立ち

 ◆事の始めは「きっかけ」が大事

唐突ですが、先生方が東京歯科保険医協会に入会されたきっかけや動機は、どのようなものだったのでしょうか。

四半世紀前、勤務医だった私の職場では、開業する先輩たちが次々と退職していかれました。その後ろ姿を見つめつつ、「私もいつかは開業することになるのだろうか。でも、開業するにしてもどこから手を付けたらよいのかわからない…」。そんなことを思いつつ、現在のようにウェブで検索するにも、当時は情報量が少なすぎました。

一般会員時代の2013年5月11日に開催された協会「創立40周年特別企画」をスタッフさんと一緒に訪ねた時の1枚です(写真左が私)

そんな時、先に開業した先輩から「保険医協会というのがあるから、調べて電話してみたら良い。自分は神奈川だから神奈川協会に入会したけど、東京にもあるから」とアドバイスをいただきました。

このように、先輩のほか、ご両親の代から入会されている方、勤務先の院長が協会の会員だった方、お知り合いの先生からの薦めで入会された方など、紹介により入会されるケースが多いです。

 

 

 

◆協会キャッチフレーズと全国51協会・医会、そして保団連

「保険で安心してきちんとした診療ができるようにしよう」これは当協会の長年のキャッチフレーズです(*1)。

当協会は19734月、「歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上をはかることを目的」に設立されました。歯科保険医(*2)の要求に基づく自主的な任意団体という性格を明確にし、今日までさまざまな活動を行ってきました。その結果、発足時の会員数は180名でしたが、25 81日現在では6,032 名となっています。

全国の各都道府県には必ず保険医協会・医会があり、その総数は51。その連合体として全国保険医団体連合会(保団連)があります。保団連は69126日に「保険医の生活と権利を守り、保険医療の向上、医療保障の充実をはかる」ことを目的に結成され、2581日現在、全国では106,002(医科64,110名、歯科4,1892名)の医師・歯科医師が入会しています。

開業前の私にとって、当協会は頼れるところだと感じたので、即入会し、新規開業時に指導相談を利用しました。その時の会長は、第2 代会長の大多和彦二先生、指導相談の担当は第3代会長の中川勝洋先生でした。

その後、会員無料相談デーを利用して、機器のリースについての不明点を協会顧問弁護士に相談するなど開業歯科医師人生の大きな助けとなってくれたのが、東京歯科保険医協会でした。

◆「保険医協会」と「歯科医師会」

では、改めて当協会と歯科医師会との違いは何でしょう。当協会には、歯科医師会と当協会の双方の会員である先生と、当協会のみの先生がいらっしゃいます。歯科医師会は公益社団法人であり、国民の歯と口の健康を守る活動をする総合団体です。当協会は、国民皆保険と保険医の生活を守る(*3)ことを目的に結成された任意団体です。公益社団法人と任意団体、大きくこの部分が違います。

現在会員の先生方は、どのような経緯で入会されたのでしょうか。

これから、連載企画として当協会と東京都で開業している先生方との関わり、国や自治体、メディアの方たちとの関わり、それに当たり協会執行部内でどのような活動を行っているかなど、お伝えしたいことを私が協会役員になる前の記憶をたどって書いてまいりたいと思います。

新入会の先生も、会員歴が長い先生も、少し立ち止まって、当協会の進む方向と先生方のポジション、そして、当協会は変貌する歯科医療環境を前に、どのような活動を進めようとしているのか、改めて振り返る機会としていただければ幸いです。

注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*1 「保険で安心してきちんとした診療をできるようにしよう」は1992年の第20回定期総会議案書の表紙に印刷されたのが始まりだと思います。この文言が掲載された経緯は不明です。

*2 以前勤務医の先生から「自分たちも保険医協会の構成員」である趣旨の発言がありました。それ以来、開業医・勤務医を含めて「歯科保険医」と表現するようにしています。

*3 設立当初の規約の第2条「目的と事業」では「本会は歯科保険医の生活と権利を守り、都民の歯科医療を守る立場を堅持し、医業経営の研究等活動を行う」としていました。1983(昭和58)年の第11回定期総会で「本会は歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上を図ることを目的とする」(現在も同じ)と変更されました。第11回定期総会では同時に、「低下はご免・運動」「130分・運動」「児・産・歯・運動」の三つの運動が提起されました。規約改定はこういった運動の中で行われたものです。

 

 

 【プロフィール】 

早坂 美都(はやさか みと) 1965年12月生まれ。19913月 東北大学歯学部卒業、200110月美都デンタルクリニック(世田谷区)開設、同年東京歯科保険医協会に入会。2016年、理事に就任。2017年から広報・ホームページ部長就任し、2023年に副会長就任。2025年第53回定期総会を経て、理事会で第6代会長に選出された。協会設立52年目にして初の女性会長就任。唎酒師の資格を持つ。

【連載】退き際の思考/傾く医院経営…再建へ娘と二人三脚 「最高峰にもう一度」引退後の想い馳せる(宮 優子さん【前編】)

退き際の思考/傾く医院経営…再建へ娘と二人三脚 「最高峰にもう一度」引退後の想い馳せる(宮 優子さん【前編】)

 傾く医院経営…再建へ娘と二人三脚 「最高峰にもう一度」引退後の想い馳せる

宮 優子さん―前編

 歯科医師としての“引退”に着目した本企画。歯科医療の第一線を退いた先生や、閉院を検討する先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、 医院承継、閉院の苦労などを深堀りする

 歯科医師としての“引退”に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生らにお話を伺い、引退を決意した理由や医院承継、閉院の苦労などを深堀りする。今回は、今年4月をもって歯科医師を引退した宮優子先生(68歳)の前編。歯科医師としての晩年、「自信がなくなっていった」という出来事や、引退後の生活について伺った。

 

 

 

 

 

―歯科医師を目指したきっかけは。

 中学のブラスバンド部で毎日約5時間クラリネットを練習していたら、マウスピースがすっぽりと入るように上顎前歯が出てしまったのです。高校生になり前歯の前突がコンプレックスでしたが、アメリカに留学し、大人でも矯正している人がいて驚きました。そこで歯科に興味を持ち、医療には無縁の家系でしたが、帰国後に歯学部受験を決めました。

「自信なくなった」歯科医療の変化

―歯科医師の引退を決めるまでについて教えてください。

 コロナ禍が訪れた時に、新しい事業を取り入れようとしてスタッフに協力をお願いすると、従業員全員が退職してしまうことがありました。長女が心配して会社を退職し、医院の正職員となって一緒に再建を目指してくれました。娘は企業の営業職だったので、売上の管理から新人教育まで引き受けてくれ、1年半ほどで軌道に乗せることができました。ただ、65歳を過ぎた頃から企業に勤める知人も定年退職をし始め、子育てが終わった私も「そろそろ引退かな」と思うようになりました。また、スタッフを正社員として雇用したことで、経営を考えると今までのように趣味のトライアスロンで海外のレースに出るために長期に休診することもできなくなってしまいました。歯科医療のDX化も影響が大きく、マイナ保険証の導入など、複雑な手続きに煩わしさを感じました。それまでは1人で医院を運営する自信がありましたが、私の不得意な仕事をスタッフにお願いしたり、私が主導して医院経営をすることは難しいと実感するようになりました。それに追い打ちをかけるように、視力は低下し、昨年3月にはひどいぎっくり腰になり、これが決定打になりました。

―そこから引退に向けてどのような動きを?

 すでに202310月には知り合いに紹介されたMA業者に登録していました。当時は23年かけて決めるものだと思っていましたが、ぎっくり腰になった時にレントゲンを撮ると、長年の診療中の姿勢が影響したようで、腰椎が曲がっていて「早くやめないとまずい」と思い、急いで動きました。最終的に昨年7月に譲渡先との契約を結ぶことができました。

―患者さんの反応はいかがでしたか?

 30年以上診てきた患者さんの中には、驚かれていた方もいましたが、過去5年間に来院した方にははがきでお知らせしたのと、次の先生を丁寧に紹介したこともあり、大きな混乱はありませんでした。

自慢の“愛車”と―取材翌週も北海道でレース出場と、セカンドライフを謳歌する

「患者さんに育てられた」

―歯科医師人生を振り返っていかがですか。

 一番は「患者さんに育てられた」ということで、患者さんに感謝されることを喜びに続けることができました。例えば、主人と二人で診療していた土日には、平日に忙しくて受診できない患者さんが訪れます。若いのに「どうやって食べているんだろう?」と思うような口腔状態で、そんな方もある程度咀嚼できるようになると、すごく喜んでくれます。当時は休日診療をする医院も少なく、私が49歳の時に主人が急死した後も「日曜日の診療はやめちゃいけない」と思って続けました。また、4人の子育てをしながら、亡くなった主人が徳之島出身だったので徳之島大会に参加したくて、50歳になってからトライアスロンを始めました。土日も積極的に診療していましたが、海外のレースに出場する時には1週間の休診もありました。定休日がない代わりに、臨時休診日は結構ありました。そんなことを許してくださった患者さんにも感謝の気持ちでいっぱいです。

―診療現場から退いて、歯科への見方に変化はありましたか。

 私が歯科医師になりたての頃とは違い、情報が溢れていて、大変な面も多いと思いますが、そんな中で毎日一生懸命診療していらっしゃる先生方は、本当にすごいと思います。昔はなかったような患者さんとのコミュニケーションも求められる中で、対応していくのは大変だと感じています。

―セカンドキャリアや歯科医師を引退したあとの生活について教えてください。

 海外へ歯科のボランティア活動に行きたいと思っていますが、まだ引退したばかりで予定も多く実現していません。また、6月には自転車を持ってオランダへ、7月にはロシアのバイカル湖へ行きました。これまで忙し過ぎてできなかったので、ゆっくりトライアスロンのレースに参加したり、もっと孫と触れ合ったりする時間を増やしたいと思います。

―今後の目標を。

 趣味のトライアスロンで、昔はスイム3.8km、バイク180kmにフルマラソンという過酷なレースにも出場し、完走していましたが、身体の故障や老化もあって今はそうはいきません。でも診療をしていた頃から嫌なことがあっても、帰り道で走っていると「しょうがないか」と切り替えられるので身体を動かすことは特別なことです。生涯現役でいたいので、整骨院やピラティスに通いながらボディメンテナンスを続けています。今まで3回出場したアイアンマンレースの最高峰のハワイ・コナの大会にもう一度出場することが目標です。

―ありがとうございました。

※後編では医院の譲渡などについて聞く予定

過去の連載はこちら<退き際の思考 歯科医師をやめる>

#インタビュー #連載 #退き際の思考

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)9月1日号

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)9月1日号

こちらをクリック▶「東京歯科保険医新聞」2025年(令和7年)9月1日号

【1面】
  1.保険証問題、高額療養費制度、物価高騰…積もる課題の解決へ/社会保障充実に向け秋の運動へ
  2.会員拡大月間/診療に専念できる「安心」を届けます 未入会の先生をご入会 ・ ご紹介ください
  3.第40回医療研究フォーラム
  4.探針
  5.ニュースビュー

【2面】
  6.対象は 1,471 点以上/集団的個別指導 9月11・12 日実施
  7.後期高齢者2割負担配慮措置/9 月末で終了予定
  8.2025年9月/歯科用貴金属の随時改定情報
  9.ベースアップ評価料届け出機関数36.2%
10.院内感染防止対策講習会を開催/施設基準の新規届出と継続して届出するために

【3面】
11.保団連夏季セミナー 国民本位の医療アクセスとは何か
 ・歯科医療政策と医療の在り方を見直す契機/会長 早坂美都
 ・日本とCEDAWそしてジェンダーの変遷/理事 高山史年
12.歯科訪問診療講習会/講師持参の機材に興味津々
13.東京都支援金情報/医療機関等物価高騰緊急対策支援/生産性向上・職場環境整備等支援事業

【4面】
14.経営・税務相談Q&A No.432職員新規採用時の留意点
15.増えてます問い合わせ/ネットワークのセキュリティ強化「どこまで必要?」
16.9月会員無料相談のご案内

【5面】
17.研究会・行事ご案内

【6・7面】
18.特集/これからの資格確認

【8面】
19.連載/協会探訪その①「東京歯科保険医協会が行っていること」/「大きな助けに」〝頼れる〟協会の成り立ち
20.IT相談室/再考 歯科医院の情報発信①—概論編—
21.理事会だより
22.協会活動日誌

【9面】
23.症例研究「外来で通院していた患者が在宅に移行した場合の義歯修理の算定」

【10面】
24.退き際の思考 歯科医師をやめる(宮優子さん)/傾く医院経営…再建へ娘と二人三脚 「最高峰にもう一度」引退後の想い馳せる

【11面】
25.あなたも、参加しませんか!!/もう限界 平和と社会保障を立て直せ! 9 ・ 25「いのちまもる総行動」
26.大幅な診療報酬引き上げ必須/実調から見る歯科の実状
27.神田川界隈(理事・小林顕/板橋区)
28.歯の供養祭/「保険でよい歯を」東京連絡会が初開催/11月9日 とげぬき地蔵尊髙岩寺にて
29.通信員便りNo.153
30.会員優待サービス

【12面】
31.「戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録―下―」
・満州から中央区へ 情熱と自信(藤本浩平先生)
・父のうた声(吉田真理先生)
32.原水爆禁止2025年世界大会in長崎/原爆投下80年のいま 核兵器のない世界への願い新たに
33.共済/秋の募集キャンペーン

【13・14面】
34.共済部折込

【IT相談室】再考 歯科医院の情報発信①/概論編

【IT相談室】再考 歯科医院の情報発信①/概論編

弊社はこれまで、多くの歯科医院のホームページを制作させていただき、定期的にさまざまな分析を行ってきました。その結果に考察を交えて、情報発信の視点からより効果的なホームページを作る方法についてご説明します。

外注し、多額の費用を投じて立ち上げたホームページなのに、ネットの口コミやアクセス数ばかりに気を取られ、一喜一憂してしまう…。これは、医療機関の情報発信のあり方、さらに医療の本質から見ると、良いこととは言えません。改めて自院が地域の口腔の健康をどのように担うかに応じて、ホームページでどのような情報を発信すべきか、その方法を検討してください。        

◆認知経路のトップはホームページではない

これから開業する歯科医院では、院長先生自身が情報発信の重要性を理解しているため、ホームページを作らないことは考えられません。しかし、開業後、年月を経過した医院を中心に、いまだにホームページがない医院もあります。

弊社では、歯科医院の認知経路と来院動機を調べていますが、ホームページは必ずしもトップではありません。来院動機は、昔も今も「前を通って」が多く、紹介や看板、チラシなどの複合的な要素もあります。 

◆重要度減るホームページ

現在のITの世界にはAIが大きな影響を及ぼしており、検索画面の一番上にAIによる要約が出ることが普通になりました。現在の各検索エンジンは、AIによる要約やマップでの一覧、業種別のリスト、プロフィールの表示などで、閲覧者が検索画面を見るだけで情報が得られます。つまり、個別のホームページのアクセスが減る方向に注力しています。

さらに、以前からあるSNSも含め、医院認知経路の多様化も進行しています。

このように、今後も情報発信や認知経路、それらへの対処方法は変わっていきます。         

◆これからの発信方法

次回以降は、効果的な情報発信方法について、4回シリーズでご説明します。

保団連夏季セミナー/国民本位の医療アクセスとは何か

保団連夏季セミナー/国民本位の医療アクセスとは何か

会場の様子

8月2〜3日、全国保険医団体連合会は「第54回保団連夏季セミナー」を開催し、協会から役員、事務局が参加したほか、全国の保険医協会・医会から2日間で計345人が参加した。ここでは、当日参加した協会の早坂美都会長と高山史年理事のレポートを紹介する。

 

 

 

◆歯科医療政策と医療の在り方を見直す契機

会長/早坂美都

8月3日は、歯科医療の現状と医療アクセスをテーマに講座とシンポジウムが行われた。

午前の講座「追いつめられる歯科医師たちと歯科医療から遠ざけられる患者たち」では、保団連副会長の宇佐美宏氏が講演。戦後から現在に至る歯科医療政策の変遷を時系列で解説し、診療報酬制度の変化や歯科医療費の抑制政策により、医療現場が困難に直面している現状を説明した。「歯科医療費が軍事費と同程度に増えるのに29年もかかった」と指摘し、制度上の歪みや歯科技工士不足、大学定員割れなどの構造的問題も浮き彫りにした。歯科技工問題については、参加者から在宅医療で「義歯を作れる技工士が不足している」との声も上がり、深刻さが共有された。

シンポジウムの登壇者

午後は「患者の声から考える医療アクセスの課題と改善策」と題したシンポジウムが開催され、4人が登壇し、それぞれの視点から発言した。保団連副会長の橋本政宏氏は「命を守る医療機関が30分圏内に必要」と述べ、医療の地域格差と「受療権」の確保の重要性を強調。がん患者の水戸部ゆうこ氏は、自身の闘病体験をもとに、高額療養費の上限額が引き上げられると、負担が患者に重くのしかかると、強く訴えた。

社会医療法人社団健生会の蓮池安彦氏は、75歳以上の高齢者は「子や孫のために」と意識し、受診を控える傾向があり、これは「受療権の侵害」であると警鐘を鳴らした。京都大学大学院教授の諸富徹氏は、今後の財源確保として投資課税の必要性を提言し、欧米諸国では企業が精神疾患やがん治療に責任を持つ仕組みがあることを紹介した。

制度の限界と医療提供体制の持続可能性について、現場からの切実な声が多く示された本セミナーは、社会全体で医療の在り方を見直す契機となった。

◆日本とCEDAWそしてジェンダーの変遷

理事/高山史年

8月3日、早稲田大学名誉教授の浅倉むつ子氏を講師に迎えた講座「女性差別撤廃条約と日本のジェンダー平等」に参加し、講義と質疑を通じて日本社会が直面する課題と解決の方向性について深い学びを得た。日本が国連の女性差別撤廃条約(CEDAW)を批准してから約40年が経つが、ジェンダー平等の実現にはなお多くの壁が残されている。世界経済フォーラムによるジェンダー・ギャップ指数では、日本は先進国の中でも下位に位置し、男女の賃金格差、女性管理職の少なさ、政治分野での女性の不在が依然として課題となっている。

浅倉氏は、抜本的な改革の「王道」として憲法第24条の改正を挙げたが、これは憲法第9条など他条文改定への波及リスクもあり、現実には非常に高いハードルが存在すると指摘。そのため現時点では、現行法を最大限活用し、着実な法整備を積み重ねる現実的アプローチが求められているという。

具体的には、選択的夫婦別姓を導入する民法改正、賃金格差是正やハラスメント対策を強化する労働法・均等法の改定、「LGBTQ+差別禁止法の整備」や、政治分野におけるクオータ制の導入などを挙げた。さらに、皇位継承制度の見直しによる女系継承の議論も憲法改正を要しない改革として可能だという。

これらの制度改革を通じて、CEDAWからの勧告に応えるだけでなく、日本の国際的な信頼回復にもつながると強調した。

今後、協会としてもこの視点を踏まえ、医療の現場から社会的課題に向き合い、現実的かつ継続的な取り組みを進めていくことが重要だと感じた。

【連載】退き際の思考/“52年ぶり”涙の再会  同窓の奮闘に活力「パワーもらった」(伊藤 栄子さん × 吉田 真理さん)

”涙の再会 同窓の奮闘に活力「パワーもらった」(伊藤 栄子さん × 吉田 真理さん)

“52年ぶり”涙の再会  同窓の奮闘に活力「パワーもらった」

(伊藤 栄子さん × 吉田 真理さん)

歯科医師としての“引退”に着目した本企画。歯科医療の第一線を退いた先生や、閉院を検討する先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、 医院承継、閉院の苦労などを深堀りする

 出席番号は、「13」と「38」。半世紀前、日本歯科大学のクラスメイトとして学生時代を過ごした伊藤栄子先生と吉田真理先生(ともに76歳)は、今回、本企画を通じた縁で実に52年ぶりの再会を果たした。自身のけがや加齢を機に、診療の縮小を考える伊藤先生と、現在も院長として医院経営をする吉田先生。分岐点に立つ伊藤先生は旧友との再会で何を感じたのか

再会の喜びに思わず涙する伊藤先生(左)と寄り添う吉田先生

―久しぶりの再会となりました。

伊藤先生(以下、伊藤):全然変わっていなくて、雰囲気は18歳の時と同じでしたね。亡き父は千葉県出身で、茂原市出身の真理ちゃんのことをモバラちゃんと呼んで可愛がっていました。亡くなる前まで「モバラちゃんはどうしてる?」と言っていたのが懐かしいです。

吉田先生(以下、吉田):昔、栄子さんの実家でステーキをご馳走になったんです。改めてその時のお礼を伝えたくて、今日再会できてとてもうれしいです。

―では、大学卒業後の歩みを教えてください。

伊藤:ビートルズが大好きで、それが興じてイギリスに留学するなど若い頃は自由に生きていましたね(笑)。でも父が亡くなって、30代前半で伊藤歯科医院を引き継ぎ、その後は同じく歯科医師だった母と医院経営をしました。

吉田:卒業後に結婚し、4年ほど勤務医として働き、その後に子どもが生まれ、10年ほど休業した後、同級生の医院で勤務医として復帰しました。以降は他院に勤務し、日本歯科大の非常勤講師として勤めました。2015年に吉田歯科医院を開業しました。

―伊藤先生は現在、診療の縮小を検討しているそうですね。

伊藤:年明け頃に患者さんの難抜歯をした際に、指を痛めてしまいました。そこから思うように診療ができず、今後の診療について考えるようになりました。長年診てきた患者さんが来られなくなったり、お亡くなりになったり、この年になるとそうした変化がありますが、代わりに若い患者さんの診療を始める、というのはなかなか難しいところです。いろいろな悩みの中で今後について迷っているところです。引退も頭によぎりましたが、今は診療所を移転して、訪問診療を中心とした医院にするなど診療の在り方を考えています。

―年齢を重ね、診療や医院経営を続ける難しさを感じているのですね。

伊藤:従業員を雇ったこともありましたが、人間関係に悩んだり、例えば従業員のためのベースアップ評価料のような複雑な仕組みを理解するより、一人で医院経営をした方が楽だと思うようになりました。自分にとってはそれがシンプルイズベストで、診療に集中できる形なんです。

吉田:私も今は健康に恵まれていますが、あとどのくらい続けられるかなと感じます。機器の買い替えなど考えることも多いのでさまざまな兼ね合いによって、退き際を考えるタイミングが訪れるかもしれません。

―歯科医療に関わるお互いの選択について、どのように感じますか。

伊藤:真理ちゃんは昔から勉強熱心だったので、そのまま院長として突っ走ってほしいと思います。お互いにこの年齢だから、何よりもずっと健康でいてほしいと思います。年明けのけがから気持ちが落ち込んでいましたが、今日、真理ちゃんを見たら学生の時と全く変わっておらず、とてもパワーをもらいました。この先どうするかは未定だけど、今日もらった活力で私も頑張りたいです。

吉田:栄子さんも健康に気を付け、やりたいことをやってほしいです。車の運転が大好きということなので、事故には気を付けてね。私も人との触れ合いを大切にして、進化しているデジタルや新技術に少しでも対応できるようになりたいと思っています。

≪患者との思い出「通じ合うものあった」≫

―長い歯科医師人生の中で、思い出深い患者さんもいたとか。

伊藤:ミュージシャンを目指していた患者さんを20年ほど診ていました。お金はないんだけど、必ず1年に何度か来院して、コーラが好きだから口腔内の状況が良くなかったんです。そんな彼が親の面倒を見るために帰郷することになり、「頑張れよ」と思いを込めて、最後にエアロスミスのコンサートに連れて行ったんです。それだけの話なんだけど、お互いロック魂みたいなもので通じ合うものがあって思い出に残っています。不思議なもので、長くお付き合いが続く患者さんは、一目見れば分かり、患者さんも「この先生なら大丈夫」と直感するのかな、と思います。

 ―最後に同世代の先生に向けて、メッセージをお願いします。

伊藤:ビートルズの名曲「Let It Be」の和訳ですが、「あるがままに」ということです。なるようにしかならないから、好きなことをしてほしい。せっかくこの世に生きてきているんだから大いに人生を楽しんでください。

吉田:引退は仕事を始めるよりも難しい決断だと思います。でも最後には「我が人生に悔いなし」と納得して終われるように健康で明るく生きてほしいと思います。

―ありがとうございました。

 

 

 

過去の連載はこちら<退き際の思考 歯科医師をやめる>

社会保障充実に向け秋の運動へ/保険証問題、高額療養費制度、物価高騰…積もる課題の解決へ

社会保障充実に向け秋の運動へ/保険証問題、高額療養費制度、物価高騰…積もる課題の解決へ

7月に行われた参議院選挙は、社会保障制度の在り方を問う契機となった。全国保険医団体連合会(保団連)は、事前に主要各政党へのアンケートを実施。医療・社会保障の充実、高額療養費制度改悪の撤回、健康保険証の新規発行復活、医薬品を保険給付から外さないことなど、医療分野に対する各党の考えを問い、積極的な情報発信のもと世論喚起に努めた。

選挙の結果、与党は6月の東京都議選に続き、参院選でも過半数を割る大幅な議席数減となった。これには国民の不安、不満が浮き彫りになったと見ることができよう。一方で、社会保障制度の縮小を掲げる政党もあり、少なからず今後の社会保障の在り方が問われる選挙となったのではないだろうか。保険医協会・医会としては、医師・歯科医師、医療現場の立場から今後も正しい情報提供を行い、分断や対立を煽るのではなく、社会保障の充実に向けた働きかけを行う必要があるだろう。

こうした情勢を踏まえ、協会でも秋から冬にかけての運動が本格化する。保団連を中心に、医療機関への財政措置や、2026年度診療報酬改定に向けた大幅な引き上げ要求を柱とした運動の議論が進む。資格確認や窓口負担増加など、じかに患者への影響が及ぶ課題については、患者に対する周知も重要な位置付けとなるだろう。

◆保険証復活・OTC・高額療養費…課題は山積

保団連、全国の保険医協会・医会は従来から健康保険証の存続や併用を求める署名に取り組んできた。保険証廃止による混乱や患者の不安を背景に、全国の医療現場からは健康保険証復活を前提に「資格確認書の全員交付」や「無保険者を生まない仕組み」の整備などを求める声があがっている。自治体や国への働きかけ、待合室での情報提供などを通じ、患者の受診を妨げることのない環境を作らなければならない。また、社会的にも注目されるOTCの保険外しや高額療養費制度について、物価高騰の中でさらなる自己負担の増加は患者にとって大きな痛手となる。

各地で患者団体との連携やオンライン署名が展開されており、医療現場からの声と国民の声を結びつける取り組みが進む。そして、来たる925日には「いのちまもる総行動」が予定されており、社会保障の立て直しを掲げた全国規模の集会が行われる。歯科医師の立場から地域医療を守る役割を再確認し、患者・国民と共に医療現場を守り、未来を築く決意を新たにする場として、会員の先生にもぜひ参加いただきたい。秋の運動は、国会と世論の双方に働きかけ、医療・社会保障の充実を求める重要な局面となるだろう。

戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録―下―

戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録―下―

1945年8月15日、先の大戦が終わり、今年80回目の夏を迎えた。戦前生まれの世代が高齢化していく中で、戦時経験が語り継がれる機会は少なくなっている。

残された時間でいかに後世に語り継いでいくか―。本企画では、会員から寄せられたご本人や家族の戦争体験を投稿いただいた。8月15日に続き、2氏の原稿を掲載する。

◆満州から中央区へ 情熱と自信/藤本 浩平(56歳)

私の家は代々歯科医の家系で、私は祖父の代から数えると3代目となります。祖父は歯科医師として九州歯科大学大学院を卒業後、昭和10年代に満州に渡り、奉天(現在の瀋陽)にて家庭を持ち、現地にて歯科医として終戦まで過ごしました。日本から満州に移民が行われた背景には、昭和7年(1932年)の満州国建国がありました。満州国での資源開発、都市建設は日本の国家的政策の一環として行われました。この為、都市や鉄道沿線のインフラ整備に伴う医療従事者の需要に応えるべく日本政府と南満州鉄道(満鉄)は高額な給与、住居の提供、家族帯同などの便宜を図り、医療従事者を優遇して満州に招致、祖父も歯科衛生の教育を受けた若き歯科医として、九州から大陸に渡りました。

家庭的にも祖父は地方出身の次男であり、地理的に比較的近い満州を新天地として希望を持って捉えていたのではないかと思います。祖父は歯科部門を持つ南満州鉄道奉天病院に勤務しておりました。奉天は拠点都市で、満鉄病院は日本の大学病院並みの設備を備える満鉄の主要病院でした。

祖父は日本人、中国人双方の歯科医療を担っておりました。このような環境の中で祖父は結婚し、昭和14年に父が生まれました。豊かな家庭生活を送っていたものの、4人兄弟の長男であった父親と姉以外の兄妹たちは、幼い時期に亡くなっています。昭和20年(1945年)の敗戦後、ソ連軍の侵攻による、中国東北部の混乱の中、家族4人で逃げるように引き揚げ船を目指し、やっとの思いで九州に戻ってきました。逃げる道のりで敵兵から金品を奪われた話を、祖父がしていたのを覚えております。

帰国後、祖父は小倉、戸畑にて歯科医院を開業し、日本での生活が始まりました。6歳で帰国した父も九州歯科大学を卒業し、大学院教育の後、親子二人で診療室を営んでいました。父は当時から海外志向が強く、1970年代にかけて、若い歯科医の一人としてアメリカで最新の歯科医療を学ぶために渡米。インディアナ大学補綴科大学院に入学しました。大学院卒業後、フロリダ大学補綴科で教鞭をとった後、日本に帰国。やがて、東京都中央区にて開業、藤本補綴臨床研修会を通して多くの日本の臨床家に対して咬合理論、補綴治療に関する教育を行ってきました。

当時6歳だった私も、父親のアメリカ時代に現地の教育を受け、東京歯科大学卒業後、ワシントン大学歯周病科大学院に進み、卒業後は臨床教授として3年勤務した後に帰国、父親の診療と研修会活動を支えました。現在24歳になる我が家の愚息も4代目の歯科医になる予定であります。

満州での戦中、日本での厳しい戦後、高度成長時代を歯科医として懸命に生きた祖父と父親、バブル経済の繁栄と衰退の1990年代、コロナ禍の混乱を経て今に至る私、大きな変革期を迎えている歯科医療の環境の中、生きて行く4代目に、社会からどのような歯科医療を求められるのか見守ってゆきたい。誇りを持って歯科医として活躍した祖父、父親と同様に4代目にも歯科医療を情熱と自信を持って取り組む歯科医として活躍することを願っております。

◆父のうた声/吉田 真理(76歳)

父は、戦争のことを話しませんでしたので私には分かりませんが、この写真を見ますと何も言葉が出ません。陸軍軍医(中尉)として戦地に赴いた父。当時の現地を調べてみますと、激戦地となっており、多くの人が命を失 ったようです。

戦地では、生きて帰国できるかわからない状況で、遥か離れた故郷や父母のことを偲んでいたのではないでしょうか。私の記憶にありますのは、父が「ブンガワンソロ 清き流れ」と口ずさんでいたことです。インドネシアにある大河を歌った曲で、ゆったりした美しいメロディーは人の心を癒してくれ、今も多くの人々に愛されているようです。

父のことを想いますと涙が出てきます。現在、戦争をしている国があり、そこでは多くの尊い命が失われます。ちょうど今年は戦後80年にあたります。恒久平和な世界であってほしいと思います。

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)8月1日号

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)8月1日号

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【1面】

 1.厚生労働省要請を実施/現場の診療行為保険点数の乖離訴え CAD/CAMや口腔機能管理の要件緩和など要求

 2.中医協/10月から医DXのマイナ保険証利用率さらに引き上げ

 3.多くが9月末に有効期限/国保の健康保険証 全加入者に「資格確認書」を 都・区市町村へ緊急要請

 4.要注意/施設基準などの“8月定例報告”829日までに提出を

 5.探針

 6.ニュースビュー

 

【2面】

 7.指導計画と指導実施状況が明らかに/生活保護の個別指導予定は6件 協会の開示請求 により詳細判明

 8.光ディスク等でのレセプト請求/猶予届出は8月末まで!

 9.歯科訪問診療講習会に79名参加/「具体例が分かりやすい」の声 ダイジェスト版動画配信中

10.医療機関等物価高騰緊急支援金(20254月~9月分)/Jグランツ申請は101日開始 書面申請は818日から 歯科診療所の支援金は7.8万円

11.生産性向上・職場環境整備等支援事業/支援金18万円を歯科診療所に支給 申請開始は84()予定

 

【3面】

12.保団連第3回代議員会開催/協会 早坂会長が「資格確認書の一斉送付」要求 施設基準改善執行部は「厚労省要請で訴えたい」

13.後期高齢者の保険証 有効期限終了/8月は「資格確認書」の確認を忘れずに

14.第53回定期総会記念講演/「歯科はマイナ保険証の必要性低い」続く混乱、記者がひも解く 市の窓口整備に22億円計画も

15.厚労省が異例の通知/期限切れの保険証でも診療可能

 

【4面】

16.経営・税務相談Q&A No.431/ご存じですか?「育児・介護休業法」の改正

17.第1回 ドクター・スタッフ講習会/「また会いたい」接遇の“5要素学ぶ

188月会員無料相談のご案内

192025年度第1回東京都歯科医師認知症対応力向上研修

20.東京都歯科衛生士会主催<東京都委託事業>歯周治療の基本研修会「ベーシックSRPコース」

 

【5面】

21.研究会・行事ご案内

22.「夏季休診案内」のご紹介

 

【6面】

23IT相談室/AIとは何か活用上の注意-最後は自分の責任で-

24.「保険でよい歯を」東京連絡会/オーラルフレイルで市民講演会

25.暑中お見舞い名刺広告

 

【7面】

26.新体制後初のメディア懇談会開催/診療報酬への「根本的な政策提言」を

27.通信員便りNo.152

28.理事会だより

29.協会活動日誌

30.共済部だより

31.会員優待

 

【8面】

32.「戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録」 私の戦前と戦中、そして戦後80年(渡辺吉明)、ビルマからの手紙(下田祐里江)、『B』(西田紘一)

33.神田川界隈(理事・濱崎啓吾/練馬区)

新体制後初のメディア懇談会開催/診療報酬への「根本的な政策提言」を/インフレ時代の診療報酬のあり方問う声

新体制後初のメディア懇談会開催/診療報酬への「根本的な政策提言」を/インフレ時代の診療報酬のあり方問う声

協会は711日、第2回メディア懇談会を開催した。議題は、①協会が実施した国会行動、②子ども医療費助成制度の状況、③次期診療報酬改定―などとし、67名のメディア側参加者と懇談した。 

(左から)小林顕部長、早坂美都会長

冒頭、新会長の早坂美都氏、広報・ホームページ部新部長の小林顕氏がそれぞれ挨拶。早坂会長は今後の取り組みについて、歯科医療改善に向けた国会議員や行政への働きかけの強化のほか、保険医の生活を守っていくことなどに力を入れていくと説明した。会長就任前まで広報・ホームページ部長として本懇談会に参加してきたこともあり、参加者からは新体制への期待の声が上がった。

マイナ保険証問題については、「世の中の雰囲気が変わったと思った」と協会や全国保険医団体連合会の活動を評価する声が上がった。また、協会が都内の自治体に資格確認書の一律配布を要請することなどを踏まえ、区市町村への積極的なアプローチの必要性についての意見が目立った。

会場の様子。ほか2名がオンライン参加した

さらに、施行まで1年を切った2026年度診療報酬改定に関しては、インフレ時代の診療報酬の在り方を問う参加者からの提言も。具体的には、建設業界では契約時の金額、条件などに対し、物価変動に合わせて調整するインフレスライド条項が運用されていることを例に、「『毎回、診療報酬を上げてほしい』と要望するのではなく、根本的な政策提言をすべき時代になっているのではないか」と、診療報酬の在り方そのものに言及する発言もあった。早坂会長は材料費、人件費などの高騰を引き合いに、「漫然と訴えていくのではなく、統計学も用いながら『医療機関がこれだけ大変な状態にある』という数値を示していくのは重要だと考える」とした。

保団連第3回代議員会開催/協会 早坂会長が「資格確認書の一斉送付」要求/施設基準改善 執行部は「厚労省要請で訴えたい」

保団連第3回代議員会開催/協会 早坂会長が「資格確認書の一斉送付」要求/施設基準改善 執行部は「厚労省要請で訴えたい」

     早坂美都会長

全国保険医団体連合会(保団連)は6月29日、千代田区の都市センターホテルで2024~25年度第3回代議員会を開催し、全国の協会・医会から代議員や事務局が参加した。当協会からは、代議員として早坂美都会長のほか、加藤開、坪田有史、本橋昌宏の各副会長が代議員として参加した。
当日の討論では、全国から発言通告が145本寄せられた。協会からは、早坂会長が、「健康保険証存続とともに、資格確認書の一斉送付に取り組もう」と発言し、執行部は「国・自治体・保険者に対応を迫る働きかけを引き続き強めたい」と返答した。そのほか、①子ども医療費助成制度の拡充について、②オンライン資格確認システムのスマホ搭載に係る補助金全額を求める、③ベースアップ評価料ではなく診療報酬本体で賃上げを、④都内歯科診療所が直面する経営課題と解決に向けて、⑤実態調査の結果を踏まえた次期診療報酬改定への要望-の5本を文書で発言した。
フロア発言では、加藤副会長が「施設基準の細分化で会員は困っている。8月28日に保団連が行う厚労省要請で、施設基準の簡素化を訴えてほしい」と要望し保団連の考えを質した。執行部は「歯科の施設基準は、大規模な診療所ばかり潤うような改定となっている。また、技術と全く関係ないものが設けられている。これらを厚労省要請で訴えたい」と約束した。
その後、会務報告、24年度決算および監査報告を全会一致で可決し、「医療機関への緊急財政措置、期中改定を強く求める特別決議」を承認し、閉会した。

◆保団連特別決議はこちらから
 ➜hodanren.doc-net.or.jp/info/declaration/2025-06-29-2/

第53回定期総会記念講演/「歯科はマイナ保険証の必要性低い」 続く混乱、記者がひも解く/市の窓口整備に22億円計画も

第53回定期総会記念講演/「歯科はマイナ保険証の必要性低い」 続く混乱、記者がひも解く/市の窓口整備に22億円計画も

53回定期総会(616日)では、「マイナ保険証と保険証廃止~担当記者の2年間」をテーマに、東京新聞社会部編集委員の長久保宏美氏が記念講演を行った。

長久保宏美氏

長久保氏は、まずマイナ保険証の利用率について、20254月時点で全国平均は28.655%である一方、国家公務員共済全体の平均は29.57%、厚生労働省(第一)共済組合が33.0%、厚生労働省共済組合厚生労働本省本部が39.04%、総務省共済組合が33.52%と、国家公務員でも利用率が芳しくない状況を強調。また、東京都における電子処方箋の導入状況は24.7%(全国平均は29.3%)であり、歯科では東京が2%(全国は4%)と非常に低いことを指摘。医科、歯科の双方において、電子処方箋の普及が進んでいない実情を報告し、このまま導入が進まなければ、「政府が説明するようなマイナ保険証の利点を享受することはできない」とし、自らの考えを示した。

 

◆渋谷区・世田谷区 国保加入者全員に資格確認書送付

後期高齢者については、国会で野党議員の追及などもあり、267月まで暫定的に1年間延長して資格確認書を交付する措置が決まったと解説。さらに、渋谷区と世田谷区では、マイナ保険証の有無にかかわらず国保加入者全員に資格確認書を送付する対応を決めたことに言及し、両区長ともマイナ保険証を否定しているのではなく、制度の切り替え時期に受診トラブルがないようにとの配慮から、議会で承認を得たと説明した。その背景として、国保の標準システムの場合、マイナ保険証とのひも付けの有無確認の情報更新が1カ月に1回であるため、ひも付け解除手続き者の把握漏れなど、トラブルを防ぐための措置が必要であったことが挙げられた。

◆電子証明書の失効問題・更新手続きの混乱

マイナンバーカードのICチップに搭載された電子証明書の有効期限が5年であり、25年度中に電子証明書の有効期限を迎え失効するケースが1,580万件、10年目のカード本体の更新を迎えて失効するのが1,200万件と予測されていることを説明。既に川崎市では電子証明書やカード本体の更新を希望する市民で窓口が大混雑となり、対応できない状況が発生した。このため、同市では窓口整備に22億円をかける計画があることを紹介した。

また、区市町村に代わり地方公共団体情報システム機構から発送されるお知らせの電子証明書更新当日の注意書き事項に、「健康保険証のサービスを利用できない場合があります」という文言がある点に触れ、「更新日は保険証として使えなくなる可能性がある」ことへの懸念を表明した。

◆「」表示問題「簡単には解決できない」

また、全国保険医団体連合会(保団連)の調査では、回答した医療機関の窓口の9割で何らかのトラブルがあり、一旦10割負担を患者に求めた事例が1,241件あることを挙げ、「資格情報のお知らせ」を単体で使おうとする患者も多いことが指摘された。さらに、技術的な問題として、戸籍の旧字、異体字などを扱う自治体系システムと医療系の中間サーバーの経由する運用では、文字コードの違いによる「」表示の問題があり、「これは簡単には解決できない」と述べた。

◆マイナ保険証の対応が廃業判断に影響

加えて、歯科では患者との関係性が構築されているケースも多く、「マイナ保険証による資格確認の必要性が低い」ことを指摘した。また、帝国データバンクの調査結果をもとに、歯科医院の倒産・廃業・解散件数は過去最多を記録しており、26年には1,000件を超えると予想されているなど、マイナ保険証対応のための出費が、高齢歯科医師の廃業への判断を早めている可能性も示唆した。

質疑では、マイナ保険証導入に関する国の費用対効果の問題などについて、デジタル化による医療費削減効果の試算がないことへの疑義や、電子証明書の失効に伴う更新手続きの負担増、重複診療の削減効果に対する疑問、個人情報の監視目的としての利用についてなど、多数の質問が挙がった。長久保氏は、まだ多くの不明点があるとしつつ、現状のトラブルが数年間続くと予測し、マイナ保険証問題が解決しない状態で、「資格確認書との併用が続くことで医療現場においての混乱はなくならないであろう」と述べた。

第53回定期総会記念講演の会場風景

PROFILE:長久保宏美(ながくぼ・ひろみ)

東京新聞編集局社会部編集委員/1961年、茨城県生まれ。1988年、中日新聞社入社。水戸支局、東京本社社会部、東京都庁キャップ、警察庁など担当後、宇都宮支局長、編集局デスク長を経て選挙調査室長。2018年から福島特別支局長。2020年から編集委員。「マイナ保険証」の問題など取材。

【IT相談室】 AIとは何か④/活用上の注意-最後は自分の責任で-

【IT相談室】 AIとは何か④/活用上の注意-最後は自分の責任で-

AIは、多くの分野に大きな影響をもたらす有益な技術革新です。非常に便利である反面、注意すべきこともありますので、今回はその点についてご説明します。

◆AIは嘘をつく

2024年末、アメリカの弁護士がAIで作成した架空の判例を訴訟資料として提出する事件がありました。AIはインターネット上の膨大な情報をこちらの指示通りにまとめる便利なものですが、間違った情報を提示することがあります。これはAIのハルシネーション(幻覚・妄想)と呼ばれ問題になっています。存在しない医学用語を作り出した例もあります。

◆AIは自信満々

「安定動作する最終安全版」「これなら大丈夫です」「完全防御バージョン」。これらは全て、当社でAIを利用してプログラミングを作った際の返答です。何度繰り返してもエラーがなくならないのですが、それでもAIは毎回このように答えます。

冒頭のようなAIによる架空の判例が問題になったことは初めてではなく、裁判所から警告が出されていたにもかかわらず、発生しました。その弁護士は、「AIに確認したところ、大丈夫だと回答があった」と弁明したそうです。

◆最終責任は自分で持つ

あるホームページにおける特定のページを要約して評価するようAIに指示したところ、回答がおかしいため確認すると、AIはそのページを読み込んでいなかったことがありました。AIの回答はそのまま信用できない面があります。特に、医療は人体・人命に直接関わる行為を含みますので、AIはあくまで参考程度に、最終的には自分で責任を持って確認する姿勢が重要です。

戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録 ―上―

戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録 ―上―

1945年8月15日、先の大戦が終わり、今年80回目の夏を迎えた。戦前生まれの世代が高齢化していく中で、戦時経験が語り継がれる機会は少なくなっている。

残された時間でいかに後世に語り継いでいくか―。ここでは「上巻」として、会員ご本人や家族の戦争体験を投稿いただいた中から3点をご紹介する。「下巻」は改めてご紹介させていただく。

◆私の戦前と戦中、そして戦後80年 渡辺 吉明(90歳)

渡辺吉明氏(90歳)

1941年、私が鶴巻国民学校(現・新宿区立鶴巻小学校)1年生になった年の128日、日本とアメリカの戦争が始まった。

この太平洋戦争開戦の翌春418日、現在も住む自宅周辺が米軍のB25爆撃機により空襲を受け、映画館などが燃えたことを鮮明に覚えている。近くの病院や早稲田大学の校舎にも被害が発生したことを後日知った。日本軍機の応戦は一切なく、当時は首都の制空権すら、まったく奪われていたようだ。

3年生になると、戦局の悪化と共に学童疎開が始まった。私は、父の郷里である熊本県天草郡宮地村切越にあった父の実弟の農家に縁故疎開することになった。父親と疎開する学童2名の行程は、東京・熊本間はEL(電気機関車)の直行列車に乗り車中一泊。熊本市内一泊。さらに、熊本から三角間はSL(蒸気機関車)列車で移動し、三角から天草へは九州商船での船旅となり、移動には二泊三日かかった。当時の天草は完全な離れ小島で、接岸設備がない島には商船から伝馬船に乗り換えて上陸した。

43年、小宮地国民学校に転入。戦時教育や一連の農作業の訓練を受けたが、あまり抵抗感はなかったと記憶している。ただ、天草島上空は、熊本方面に爆撃へ向かう米軍のB29爆撃機の空路であったため、登校しても空襲警報が鳴ると授業は中止、帰宅させられた。

45年815日敗戦。474月、天草郡の宮地新制中学校に入学。新制中学の教科書だった「あたらしい憲法のはなし」を学び、国民主権と戦争放棄に「若い血が沸き立ち」、私の戦後が始まった。ただ、私は戦前から相変わらず、家の前を走る都電ファンで、今でいう「鉄ちゃん」だった。

50年7月、疎開先より帰京。59年東京歯科大学卒業。89年、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)の時、被爆した広島電鉄(650形、現役)に初めて乗車。「運転席の裏には、〝被爆電車〟の説明板があり、原爆を風化させない地道な努力を感じました」「核兵器と人類は、絶対に共存はできません。核廃絶を訴えるのは当たり前」などの声を聞いた。私の趣味としての路面電車と反核への思いが結びついたのが、この広島での被爆電車との出会いだった。そして、被爆の実相を伝える〝語り部〟としての被爆電車に乗って、当時を追体験しながら親子で学ぶことを東京反核医師の会として企画し、原水禁世界大会での「動く分科会」実施を提案。02年に実現させ、24年に11回目を迎えている。

60年代には患者に誘われ、平和行進に参加して以来、「東京反核医師の会」の運動に役員として関わってきた。17年、「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のノーベル平和賞受賞を記念し、翌年11月に第28回「反核医師のつどい」を開催し、全国から194名が参加。「被爆の実相に立ち返り、核なき世界を目指す」ことを確認した。

被爆80年、私たち「東京反核医師の会」は、「日本政府に核兵器禁止条約の署名、批准を求める署名」に協力、賛同しています。

◆ビルマからの手紙 下田 祐里江(57歳)

生前の母は、毎年、桜の咲く頃に、長兄である叔父の供養のためと称して、腹違いの妹の叔母と靖国神社にお花見に出かけていた。その母も一昨年亡くなり、遺品整理をしていた時に、叔父からの軍事郵便はがきのコピーとビルマの土が入った袋が出てきた。叔父は召集令状を受け群馬からビルマに行き、そこで病死した。はがきの字は、教師になることを夢見ていた叔父らしく、とても達筆で、几帳面に整然とした文面であった。実母を3歳で亡くした末っ子の母を案じている内容と、「日本男児としてお国の為に頑張る」と、検閲を気にしている様子がうかがえた。ビルマで病気になり、具合が悪いことも書いてあり、心配させないようにと、明るい文章であったが、「故郷の群馬の利根川は氾濫していないか?」「皆は元気で仲良くしているか?長男なのに、実母の法要ができなくて申し訳ない」「利根川や赤城山を思い出し、やはり故郷は良い」と何度も書いてあった。

叔父の戦死通知書

戦死の通知書と遺骨の代わりの小さな石ころが一粒入った小さな木箱が実家に届けられた。当時、幼かった母は、気丈な祖父が、人目のつかない場所で、がっくりと肩を落とし泣いていた姿を見たと話してくれた。終戦の1年前のことである。もっと早く戦争が終わっていたらと、皆がそう思っていたに違いない。

私が歯学部に入学することが決まった時に、入学金を工面するため、母と一緒に群馬銀行に口座の解約をしに行った。その際、戦死した叔父のお墓(供養塔)にもお参りした。私の両親の世代は、物のない時代であり、青春時代に制約を受けて我慢を強いられてきた年代である。せめて晩年は我慢を強いらないようにと思い、母の希望通り在宅介護で見送った(こちらは、超大変だったが…)。母の出棺の際に、叔父のビルマからの手紙と土、私の歯科医師免許の写しも入れた。きっと、戦死した叔父に報告してくれているかな?

私は、自分が希望する歯科医師になれたことに感謝せずにはいられない。

 

◆『B』/西田 紘一(85歳)

西田紘一氏(85歳)

昭和15年生まれの私は、今年85歳になった。父は歯科医師で、私もその道に入り、60年が過ぎた。幼くして短い戦時下を経験した一人として、当時を振り返ってみた。

4歳の頃、最初に覚えたアルファベットは「B」だった。「B29」の「B」である。意味も分からず、大人たちの会話から拾い覚えたのだろう。焼夷弾の標的にされることを恐れ、灯火管制のもと、電灯を消す生活が日常だった。

私の生家は大阪府堺市の旧市街地にあり、一階が住居、二階が歯科医院の木造二階建てだったが、公共機関への延焼を防ぐため、強制疎開*1で取り壊された。戦火を逃れるように、およそ南へ18キロ離れた岸和田市久米田の里山に身を寄せた。そこから、堺大空襲*2の煙が遠くに上るのを見上げた記憶が残っている。

人的な犠牲も身近にあった。母の弟は東北帝大で冶金を学んだあと、出征した。しばらくして南方で戦死。葬儀の際に、堺市大道を行く私たちの葬列に、自転車を降りて頭を垂れられた人々の姿を今でも鮮明に覚えている。その後、母が中耳炎で亡くなり、さらに妹が栄養失調で命を落とした。サルファ剤もペニシリンも、ましてや食べ物もない時代だった。父と子の二人で寄り添って生きてきたが、その詳細な記憶は定かではない。ただ、まだ袖を通していない妹の小さなセーラー服が、きちんと畳まれて桐箪笥の奥に大切にしまわれていたことは、今でも忘れられない。

夏のある朝、隣組のおじさんが「今日の昼にHさん宅の庭に集まるように」と知らせに来た。玉音放送だった。子どもだった私には内容が正確に理解できず、近くの大人に尋ねた。「戦争終わったんや」との答えに、心がふっと軽くなった気がしたのを覚えている。「もうB29は飛んで来ないんだ」。

戦争は、生き残った父と私から、家や仕事場だけでなく、家族までも奪った。最大の被害者は父である。戦後育ちの私の苦労など、足元にも及ばない。

私は亡き父の年齢を超えたが、なおフリーランスの歯科医師として働ける場をいただいている。ありがたいことであり、墓終いで近くなった我が家の墓に、毎月手を合わせ、感謝の言葉を捧げている。

あれから80年、戦争や争いが未だ絶えない現代ではあるが、世界中の人々が穏やかな心を大切に、楽しく生きる日々が来ることを願うことしきりである。

  *1=建物疎開や学童疎開がある。空襲による被害を受け、民家から周囲の公共建造物への延焼を防ぐために建物を壊したのが建物疎開だった。

  *2=1945710日にあったこの空襲で、1,860人が亡くなった。(堺市ホームページより)