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退き際の思考/「どうすれば良いのか」窮地で頼った協会(宮 優子さん【後編】)

退き際の思考/「どうすれば良いのか」窮地で頼った協会(宮 優子さん【後編】)

「どうすれば良いのか」窮地で頼った協会

                             宮 優子さん―【後編】

歯科医師としての“引退”に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生らにお話を伺い、引退を決意した理由や医院承継、閉院の苦労などを深堀りする。ここでは、今年4月をもって歯科医師を引退した宮優子先生(68歳)の後編。医院の譲渡や、協会との関わりについて伺った。

―前編では医院をM&Aで譲渡したことについて触れました。実際のM&Aの手続きについて教えてください。

M&A業者2社に登録して、譲渡先1件と面談、もう1件からもオファーをいただきましたが、これは残念ながらお断りしました。その後に最終的な譲渡先からのオファーがありましたので、計34件ほどの中から決めていった形です。譲渡に当たっては、「承継ノート」を作り、必要な情報をまとめました。また、従業員に対しては、従来の雇用条件を維持する方向性を伝えていたので、その点は問題なく進めることができました。

 

―譲渡先とはどのようなやり取りを。

これまでは個人の歯科医院ということもあり、慣習的にやってきたルールなどを改めて明文化する作業が必要で、ここが譲渡先との調整に時間を要した部分でした。過去に出した施設基準の届出書類などを揃えたり、譲渡先の医院に共有したりすることや、従業員の雇用契約書について合意形成を図る作業も大変でした。分からない点は、関係機関や業者などに問い合わせ、確認しながら解決しました。

― 歯科医院には取引業者も多いと思いますが、そのあたりの連絡は。

3年くらい前から「いつになるかわからないけど、引退する方向です」と雑談の中でなんとなく業者さんに伝えていました。また、引き継いでくださった院長先生が、私が引退することを改めて業者さんに周知してくれていて、担当者などからお礼のメッセージなどをいただきました。

◆「どうすれば良いのか」窮地で頼った協会

―会員として23年、協会に入会した理由は?

手頃な会費で相談に応じてくれるので、開業当初に入会を決めました。返戻や医院経営の相談ですごく重宝していました。助成金申請でも手続きが分かりづらく、「どこから手を付ければいいの?」という状態の時にサポートしていただいたので良かったと思っています。そして、特にお世話になったのは自院に税務調査が入った時でした。当時は、診療をしながら、毎日のように税務署への対応もするため、どうすれば良いのか分からず困っていました。そこで協会に相談したところ、税理士さんを紹介してくださいました。それまでは自分だけで税務処理をやっていて不足していた部分があったので、すごく助かりました。それ以降、その税理士さんと顧問契約をして支えてもらいました。

―講習会にもよく参加されたとか。

協会の講習会は夜に行われることが多いので、土日に診療していたりトライアスロンのトレーニングをしている私からすると、とても参加しやすく利用していました。医院の譲渡にあたっても協会主催の経営管理研究会「歯科医院の事業承継・継承の実態とポイント」(202312月開催)を受講して、参考にさせてもらいました。

― 三大共済制度(グループ生命保険、休業保障、保険医年金)も活用していただきました。

かつて主人が亡くなった際に、保険に何も入っていなかったんです。最初は風邪のような症状でしたが、なかなか治らずに「今年の風邪は長引くね」と話していた矢先に脳炎で倒れ、その半年後に亡くなりました。その時に強く感じたのが、自分に何かあった時に子どもたちや周囲に迷惑はかけられないということでした。それからは、とにかく万が一に備えようと、グループ生命保険や休業保障にも加入しました。保険医年金は、貯金をする感覚で加入していてその面ですごく良かったと感じています。

―現在も歯科医師として従事する同世代の先生にメッセージを。

診療所でのサプライズ誕生会で

歯科界はますますDX化が進み、この数年でも大きな変化がありました。私はその波についていけなかった一人だと思っています。デジタル機器を扱えずにイライラしたり、「やらなきゃいけないけど、どうすればいいの」というのが当たり前でした。でも娘に聞くと、私が半日かけて悩んでいたことを10分で解決してしまう。なんだかガックリしちゃうことも多くありました。そうした世の中の流れの中で現在も診療にあたる先生方は、本当に尊敬しています。今は心が壊れてしまうことも多い時代です。私も長年の診療姿勢が悪く腰椎が変形しましたが、歯科医師は身体に不具合が生じやすいと思うんです。だからこそ、もし経済的に許すのであれば、無理はしないでいてほしいと願っています。また、“仕事が趣味”という先生も多い業界ですが、気持ちを切り替えられる趣味などがあれば良いのかなと思っています。

 

 

 

―ありがとうございました。

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)10月1日号

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)10月1日号

こちらをクリック▶「東京歯科保険医新聞」2025年(令和7年)10月1日号

【1面】
1.26年度東京都予算要望/子ども医療費・個別指導など16項目で意見交換
2.署名とともに、「先生の声」をお寄せください/現場の声を国会議員に届けます
3.次期診療報酬改定では大幅引き上げを/全国で要求活動はじまる
4.「地域から医療をなくすな!緊急決起集会」
5.探針
6.ニュースビュー

【2面】
7.2024年度 5年ぶり「高点数」個別指導を実施/萎縮診療せず カルテ記載や請求内容を確実に
8.「保険でよい歯を」東京連絡会/石川都技会長と懇談
9.中医協総会/歯科医療の課題を整理 障害者医療や口腔機能管理など柱

【3面】
10.2026年度東京都予算要望/子ども医療費 10月から所得制限撤廃
11.早坂会長も署名を呼びかけ/保険証復活・資格確認書の一斉送付求める 関東ブロック協議会・街頭宣伝
12.被爆の歴史を次の世代へ/若者達が被爆者と体験を共有し、学びあう
13.厚労省資料から歯科の現況を考える/患者の視点で考える 診療報酬の引き上げの必要性

【4面】
14.経営・税務相談Q&A No.433“ 103万円の壁”撤廃で歯科医院への影響は?
15.通信員便りNo.154
16.10月会員無料相談のご案内

【5面】
17.研究会・行事ご案内

【6面】
18.退き際の思考 歯科医師をやめる(宮優子さん)/「どうすれば良いのか」窮地で頼った協会
19.共済キャンペーン

【7面】

20.第1回スタッフ講習会/ガイドラインなどに基づく医院ごとの対策を
21.ここがポイント!! 「資格情報のお知らせ」のみ持参時の対応/9月末で国保保険証が期限切れ
22.連載/協会探訪その②「運動本部」とは/保険診療の充実に政治への関与は不可欠
23.理事会だより
24.協会活動日誌

【8面】
25.第3回メディア懇談会/マイナ保険証の混乱状況報告 〝一人技工所〞の高齢化問題も
26.「保険でよい歯を」東京連絡会/イイ歯デー&歯の供養祭開催 巣鴨のとげぬき地蔵尊「高岩寺」で
27.神田川界隈/有病者歯科治療~私たちのできる事、できない事~(理事・川本弘/足立区)
28.東京都支援金情報/医療機関等物価高騰緊急対策支援金、生産性向上・職場環境整備等支援事業

【9・10面】
29.共済部折込

第3回メディア懇談会/マイナ保険証の混乱状況報告 〝一人技工所〟の高齢化問題も

第3回メディア懇談会/マイナ保険証の混乱状況報告 〝一人技工所〟の高齢化問題も

協会は912日、第3回メディア懇談会を開催した。広報・ホームページ部の小林顕部長が進行を務め、馬場安彦副会長が議題の説明を担当し、メディア45名が参加した。議題は、東京都予算要請・都議会各派への要請、マイナ保険証・健康保険証関連、診療報酬関連、歯科技工問題など。

 

 

◆健康保険証廃止後の医療機関の混乱

このうち②に関して、健康保険証が廃止された場合に予想される医療機関での混乱について質問が上がった。馬場副会長は、現在でも身体的なハンディから顔認証ができない患者が存在することや、マイナ保険証での受付がスムーズにできない患者への対応でスタッフの業務量が増えていることなどを指摘。また、資格確認方法の混在により、スタッフが混乱しているとした。

◆歯科技工問題では発言多数

次に④では、歯科技工士や歯科技工士教育機関の減少問題などで懇談に入った。参加者からは、いわゆる〝一人技工所〟における歯科技工士の高齢化が進んでいるとの指摘があり、この点を「構造的な問題ではないか」とし、さらに「大きな枠組みの課題が放置されているように見える。世の中的にこの問題が認識されていかなければ解決できない」とした。別の参加者からは、「歯科技工問題の大きな要因は、保険点数よりも業界の産業構造が不採算であることに問題があるのではないか」とのコメントがあった。

連載 協会探訪 その② 「〝運動本部〟とは/保険診療の充実に政治への関与は不可欠」/東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

連載 協会探訪 その② 「〝運動本部〟とは/保険診療の充実に政治への関与は不可欠」/東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

東京歯科保険医協会には「運動本部」と呼ばれる部署があります。協会探訪の第2回は、この運動本部を取り上げたいと思います。

運動本部は1997年に「これからも続く医療保険改革に対し、理事会が総力をあげて、その反対、改善運動に取り組めるよう位置づけ設置した」部署です。「国民とわれわれ歯科医師が共同して保険診療を充実させよう」というスローガンを、医療運動の面から進める、協会機構の中でも特別な位置づけとなっています。

現在の運動本部は社会保障制度、医療保険制度の改善・拡充のほか、国民が安心して医療機関を受診できるためのさまざまな活動を行っています。医療保険制度や診療報酬の改善・拡充については、地域医療や臨床の現場で起きている実態や抱えている問題を明らかにし、署名や現場の声とともに、国、東京都、国会議員や都議会議員、関係行政機関に対し要請や懇談などの活動を行います。また、国民が安心して医療機関を受診できるようにする活動では、窓口負担の軽減や改善、そして患者さんがいつでも、どこでも安心して医療・介護を受けられる医療提供体制を作ることを求めています。

ところで皆さんは、歯科医療にかかわる国会質問・答弁を聞いたことがありますか。例えば221019日に行われた第210回国会参議院予算委員会で、比嘉奈津美参議院議員(当時)から歯科医療に対する考えを問われた当時の内閣総理大臣の岸田文雄氏は、「口腔の健康は、全身の健康につながる。子どもから高齢者まで質の高い生活を営むために、口腔の健康が極めて重要であると認識しています。政府としては、生涯を通じた歯科健診の実現に向けた、具体的な検討を進めるなど、今後とも歯科口腔保健に関する施策を積極的に推進していきたいと考えております」と答弁しています。

このように予算委員会では予算の内容だけではなく、「いま優先して考えるべき課題」「判断や意思決定を必要とする重要な論点」などで質疑応答が行われることが多々あります。こうした国会の審議プロセスを経て、年度末の3月末頃に国の予算が採決されます。保険診療のための予算も同様です。ただし、診療報酬に関しては、次年度政府予算案の中の要求項目として扱われます。診療報酬改定率は、毎年12月下旬に、厚労大臣と財務大臣の間で決定され、それに基づき中医協などでの検討を経て診療報酬の内容が決まっていきます。

私が大学を卒業して歯科医師になったばかりのときは、「私たちは治療に専念していれば良いのに、どうして国政と関係あるの?」と思っていましたが、保険診療の仕組みを知るようになってから、徐々にこの点を理解し始めました。保険医の先生方と国民の方々に分かりやすく、かつ健康増進につながる保険診療を実現するためには、国にその必要性を理解してもらう必要があります。そして、そのリーダーシップをとっているのが運動本部です。

東京歯科保険医協会では、歯科保険医療の拡充が必要であることなどを、国会議員が理解を深められるよう議員会館に足を運び懇談や国会内学習会を行い、請願署名を届けています。

このようなことから「保険診療の充実に政治への関与は不可欠」であるのです。

連載 協会探訪 その①「東京歯科保険医協会が行っていること/大きな助けに」〝 頼れる〟協会の成り立ち/ 東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

協会探訪 その①「東京歯科保険医協会が行っていること/大きな助けに」〝 頼れる〟協会の成り立ち/ 東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

◆事の始めは「きっかけ」が大事

唐突ですが、先生方が東京歯科保険医協会に入会されたきっかけや動機は、どのようなものだったのでしょうか。

四半世紀前、勤務医だった私の職場では、開業する先輩たちが次々と退職していかれました。その後ろ姿を見つめつつ、「私もいつかは開業することになるのだろうか。でも、開業するにしてもどこから手を付けたらよいのかわからない…」。そんなことを思いつつ、現在のようにウェブで検索するにも、当時は情報量が少なすぎました。

一般会員時代の2013年5月11日に開催された協会「創立40周年特別企画」をスタッフさんと一緒に訪ねた時の1枚です(写真左が私)

そんな時、先に開業した先輩から「保険医協会というのがあるから、調べて電話してみたら良い。自分は神奈川だから神奈川協会に入会したけど、東京にもあるから」とアドバイスをいただきました。

このように、先輩のほか、ご両親の代から入会されている方、勤務先の院長が協会の会員だった方、お知り合いの先生からの薦めで入会された方など、紹介により入会されるケースが多いです。

 

  ◆協会キャッチフレーズと全国51協会・医会、そして保団連

  「保険で安心してきちんとした診療ができるようにしよう」。これは、当協会の長年のキャッチフレーズです (*1)。

当協会は19734月、「歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上をはかることを目的」に設立されました。歯科保険医(*2)の要求に基づく自主的な任意団体という性格を明確にし、今日までさまざまな活動を行ってきました。その結果、発足時の会員数は180名でしたが、25 年8月1日現在では6,032 名となっています。

全国の各都道府県には必ず保険医協会・医会があり、その総数は51。その連合体として全国保険医団体連合会(保団連)があります。保団連は69126日に「保険医の生活と権利を守り、保険医療の向上、医療保障の充実をはかる」ことを目的に結成され、2581日現在、全国では106,002(医科64,110名、歯科41,892名)の医師・歯科医師が入会しています。

開業前の私にとって、当協会は頼れるところだと感じたので、即入会し、新規開業時に指導相談を利用しました。その時の会長は、第2 代会長の大多和彦二先生、指導相談の担当は第3代会長の中川勝洋先生でした。

その後、会員無料相談デーを利用して、機器のリースについての不明点を協会顧問弁護士に相談するなど開業歯科医師人生の大きな助けとなってくれたのが、東京歯科保険医協会でした。

◆「保険医協会」と「歯科医師会」

では、改めて当協会と歯科医師会との違いは何でしょう。当協会には、歯科医師会と当協会の双方の会員である先生と、当協会のみの先生がいらっしゃいます。歯科医師会は公益社団法人であり、国民の歯と口の健康を守る活動をする総合団体です。当協会は、国民皆保険と保険医の生活を守る(*3)ことを目的に結成された任意団体です。公益社団法人と任意団体、大きくこの部分が違います。

現在会員の先生方は、どのような経緯で入会されたのでしょうか。

これから、連載企画として当協会と東京都で開業している先生方との関わり、国や自治体、メディアの方たちとの関わり、それに当たり協会執行部内でどのような活動を行っているかなど、お伝えしたいことを私が協会役員になる前の記憶をたどって書いてまいりたいと思います。

新入会の先生も、会員歴が長い先生も、少し立ち止まって、当協会の進む方向と先生方のポジション、そして、当協会は変貌する歯科医療環境を前に、どのような活動を進めようとしているのか、改めて振り返る機会としていただければ幸いです。

注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*1 「保険で安心してきちんとした診療をできるようにしよう」は1992年の第20回定期総会議案書の表紙に印刷されたのが始まりだと思います。この文言が掲載された経緯は不明です。

*2   以前勤務医の先生から「自分たちも保険医協会の構成員」である趣旨の発言がありました。それ以来、開業医・勤務医を含めて「歯科保険医」と表現するようにしています。

*3   設立当初の規約の第2条「目的と事業」では「本会は歯科保険医の生活と権利を守り、都民の歯科医療を守る立場を堅持し、医業経営の研究等活動を行う」としていました。1983(昭和58)年の第11回定期総会で「本会は歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上を図ることを目的とする」(現在も同じ)と変更されました。第11回定期総会では同時に、「低下はご免・運動」「130分・運動」「児・産・歯・運動」の三つの運動が提起されました。規約改正はこういった運動の中で行われたものです。

 

 

【プロフィール】早坂 美都(はやさか みと)/ 1965年12月生まれ。19913月 東北大学歯学部卒業、200110月美都デンタルクリニック(世田谷区)開設、同年東京歯科保険医協会に入会。2016年、理事に就任。2017年から広報・ホームページ部長就任し、2023年に副会長就任。2025年第53回定期総会を経て、理事会で第6代会長に選出された。協会設立52年目にして初の女性会長就任。唎酒師(ききさけし)の資格を持つ。

連載「協会探訪 その①」 東京歯科保険医協会会長 早坂 美都 東京歯科保険医協会が行っていること/「大きな助けに」〝 頼れる〟協会の成り立ち

連載「協会探訪 その①」 東京歯科保険医協会会長 早坂 美都

東京歯科保険医協会が行っていること/「大きな助けに」〝 頼れる〟協会の成り立ち

 ◆事の始めは「きっかけ」が大事

唐突ですが、先生方が東京歯科保険医協会に入会されたきっかけや動機は、どのようなものだったのでしょうか。

四半世紀前、勤務医だった私の職場では、開業する先輩たちが次々と退職していかれました。その後ろ姿を見つめつつ、「私もいつかは開業することになるのだろうか。でも、開業するにしてもどこから手を付けたらよいのかわからない…」。そんなことを思いつつ、現在のようにウェブで検索するにも、当時は情報量が少なすぎました。

一般会員時代の2013年5月11日に開催された協会「創立40周年特別企画」をスタッフさんと一緒に訪ねた時の1枚です(写真左が私)

そんな時、先に開業した先輩から「保険医協会というのがあるから、調べて電話してみたら良い。自分は神奈川だから神奈川協会に入会したけど、東京にもあるから」とアドバイスをいただきました。

このように、先輩のほか、ご両親の代から入会されている方、勤務先の院長が協会の会員だった方、お知り合いの先生からの薦めで入会された方など、紹介により入会されるケースが多いです。

 

 

 

◆協会キャッチフレーズと全国51協会・医会、そして保団連

「保険で安心してきちんとした診療ができるようにしよう」これは当協会の長年のキャッチフレーズです(*1)。

当協会は19734月、「歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上をはかることを目的」に設立されました。歯科保険医(*2)の要求に基づく自主的な任意団体という性格を明確にし、今日までさまざまな活動を行ってきました。その結果、発足時の会員数は180名でしたが、25 81日現在では6,032 名となっています。

全国の各都道府県には必ず保険医協会・医会があり、その総数は51。その連合体として全国保険医団体連合会(保団連)があります。保団連は69126日に「保険医の生活と権利を守り、保険医療の向上、医療保障の充実をはかる」ことを目的に結成され、2581日現在、全国では106,002(医科64,110名、歯科4,1892名)の医師・歯科医師が入会しています。

開業前の私にとって、当協会は頼れるところだと感じたので、即入会し、新規開業時に指導相談を利用しました。その時の会長は、第2 代会長の大多和彦二先生、指導相談の担当は第3代会長の中川勝洋先生でした。

その後、会員無料相談デーを利用して、機器のリースについての不明点を協会顧問弁護士に相談するなど開業歯科医師人生の大きな助けとなってくれたのが、東京歯科保険医協会でした。

◆「保険医協会」と「歯科医師会」

では、改めて当協会と歯科医師会との違いは何でしょう。当協会には、歯科医師会と当協会の双方の会員である先生と、当協会のみの先生がいらっしゃいます。歯科医師会は公益社団法人であり、国民の歯と口の健康を守る活動をする総合団体です。当協会は、国民皆保険と保険医の生活を守る(*3)ことを目的に結成された任意団体です。公益社団法人と任意団体、大きくこの部分が違います。

現在会員の先生方は、どのような経緯で入会されたのでしょうか。

これから、連載企画として当協会と東京都で開業している先生方との関わり、国や自治体、メディアの方たちとの関わり、それに当たり協会執行部内でどのような活動を行っているかなど、お伝えしたいことを私が協会役員になる前の記憶をたどって書いてまいりたいと思います。

新入会の先生も、会員歴が長い先生も、少し立ち止まって、当協会の進む方向と先生方のポジション、そして、当協会は変貌する歯科医療環境を前に、どのような活動を進めようとしているのか、改めて振り返る機会としていただければ幸いです。

注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*1 「保険で安心してきちんとした診療をできるようにしよう」は1992年の第20回定期総会議案書の表紙に印刷されたのが始まりだと思います。この文言が掲載された経緯は不明です。

*2 以前勤務医の先生から「自分たちも保険医協会の構成員」である趣旨の発言がありました。それ以来、開業医・勤務医を含めて「歯科保険医」と表現するようにしています。

*3 設立当初の規約の第2条「目的と事業」では「本会は歯科保険医の生活と権利を守り、都民の歯科医療を守る立場を堅持し、医業経営の研究等活動を行う」としていました。1983(昭和58)年の第11回定期総会で「本会は歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上を図ることを目的とする」(現在も同じ)と変更されました。第11回定期総会では同時に、「低下はご免・運動」「130分・運動」「児・産・歯・運動」の三つの運動が提起されました。規約改定はこういった運動の中で行われたものです。

 

 

 【プロフィール】 

早坂 美都(はやさか みと) 1965年12月生まれ。19913月 東北大学歯学部卒業、200110月美都デンタルクリニック(世田谷区)開設、同年東京歯科保険医協会に入会。2016年、理事に就任。2017年から広報・ホームページ部長就任し、2023年に副会長就任。2025年第53回定期総会を経て、理事会で第6代会長に選出された。協会設立52年目にして初の女性会長就任。唎酒師の資格を持つ。

【連載】退き際の思考/傾く医院経営…再建へ娘と二人三脚 「最高峰にもう一度」引退後の想い馳せる(宮 優子さん【前編】)

退き際の思考/傾く医院経営…再建へ娘と二人三脚 「最高峰にもう一度」引退後の想い馳せる(宮 優子さん【前編】)

 傾く医院経営…再建へ娘と二人三脚 「最高峰にもう一度」引退後の想い馳せる

宮 優子さん―前編

 歯科医師としての“引退”に着目した本企画。歯科医療の第一線を退いた先生や、閉院を検討する先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、 医院承継、閉院の苦労などを深堀りする

 歯科医師としての“引退”に着目した本企画。すでに歯科医療の第一線を退いた先生らにお話を伺い、引退を決意した理由や医院承継、閉院の苦労などを深堀りする。今回は、今年4月をもって歯科医師を引退した宮優子先生(68歳)の前編。歯科医師としての晩年、「自信がなくなっていった」という出来事や、引退後の生活について伺った。

 

 

 

 

 

―歯科医師を目指したきっかけは。

 中学のブラスバンド部で毎日約5時間クラリネットを練習していたら、マウスピースがすっぽりと入るように上顎前歯が出てしまったのです。高校生になり前歯の前突がコンプレックスでしたが、アメリカに留学し、大人でも矯正している人がいて驚きました。そこで歯科に興味を持ち、医療には無縁の家系でしたが、帰国後に歯学部受験を決めました。

「自信なくなった」歯科医療の変化

―歯科医師の引退を決めるまでについて教えてください。

 コロナ禍が訪れた時に、新しい事業を取り入れようとしてスタッフに協力をお願いすると、従業員全員が退職してしまうことがありました。長女が心配して会社を退職し、医院の正職員となって一緒に再建を目指してくれました。娘は企業の営業職だったので、売上の管理から新人教育まで引き受けてくれ、1年半ほどで軌道に乗せることができました。ただ、65歳を過ぎた頃から企業に勤める知人も定年退職をし始め、子育てが終わった私も「そろそろ引退かな」と思うようになりました。また、スタッフを正社員として雇用したことで、経営を考えると今までのように趣味のトライアスロンで海外のレースに出るために長期に休診することもできなくなってしまいました。歯科医療のDX化も影響が大きく、マイナ保険証の導入など、複雑な手続きに煩わしさを感じました。それまでは1人で医院を運営する自信がありましたが、私の不得意な仕事をスタッフにお願いしたり、私が主導して医院経営をすることは難しいと実感するようになりました。それに追い打ちをかけるように、視力は低下し、昨年3月にはひどいぎっくり腰になり、これが決定打になりました。

―そこから引退に向けてどのような動きを?

 すでに202310月には知り合いに紹介されたMA業者に登録していました。当時は23年かけて決めるものだと思っていましたが、ぎっくり腰になった時にレントゲンを撮ると、長年の診療中の姿勢が影響したようで、腰椎が曲がっていて「早くやめないとまずい」と思い、急いで動きました。最終的に昨年7月に譲渡先との契約を結ぶことができました。

―患者さんの反応はいかがでしたか?

 30年以上診てきた患者さんの中には、驚かれていた方もいましたが、過去5年間に来院した方にははがきでお知らせしたのと、次の先生を丁寧に紹介したこともあり、大きな混乱はありませんでした。

自慢の“愛車”と―取材翌週も北海道でレース出場と、セカンドライフを謳歌する

「患者さんに育てられた」

―歯科医師人生を振り返っていかがですか。

 一番は「患者さんに育てられた」ということで、患者さんに感謝されることを喜びに続けることができました。例えば、主人と二人で診療していた土日には、平日に忙しくて受診できない患者さんが訪れます。若いのに「どうやって食べているんだろう?」と思うような口腔状態で、そんな方もある程度咀嚼できるようになると、すごく喜んでくれます。当時は休日診療をする医院も少なく、私が49歳の時に主人が急死した後も「日曜日の診療はやめちゃいけない」と思って続けました。また、4人の子育てをしながら、亡くなった主人が徳之島出身だったので徳之島大会に参加したくて、50歳になってからトライアスロンを始めました。土日も積極的に診療していましたが、海外のレースに出場する時には1週間の休診もありました。定休日がない代わりに、臨時休診日は結構ありました。そんなことを許してくださった患者さんにも感謝の気持ちでいっぱいです。

―診療現場から退いて、歯科への見方に変化はありましたか。

 私が歯科医師になりたての頃とは違い、情報が溢れていて、大変な面も多いと思いますが、そんな中で毎日一生懸命診療していらっしゃる先生方は、本当にすごいと思います。昔はなかったような患者さんとのコミュニケーションも求められる中で、対応していくのは大変だと感じています。

―セカンドキャリアや歯科医師を引退したあとの生活について教えてください。

 海外へ歯科のボランティア活動に行きたいと思っていますが、まだ引退したばかりで予定も多く実現していません。また、6月には自転車を持ってオランダへ、7月にはロシアのバイカル湖へ行きました。これまで忙し過ぎてできなかったので、ゆっくりトライアスロンのレースに参加したり、もっと孫と触れ合ったりする時間を増やしたいと思います。

―今後の目標を。

 趣味のトライアスロンで、昔はスイム3.8km、バイク180kmにフルマラソンという過酷なレースにも出場し、完走していましたが、身体の故障や老化もあって今はそうはいきません。でも診療をしていた頃から嫌なことがあっても、帰り道で走っていると「しょうがないか」と切り替えられるので身体を動かすことは特別なことです。生涯現役でいたいので、整骨院やピラティスに通いながらボディメンテナンスを続けています。今まで3回出場したアイアンマンレースの最高峰のハワイ・コナの大会にもう一度出場することが目標です。

―ありがとうございました。

※後編では医院の譲渡などについて聞く予定

過去の連載はこちら<退き際の思考 歯科医師をやめる>

#インタビュー #連載 #退き際の思考

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)9月1日号

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)9月1日号

こちらをクリック▶「東京歯科保険医新聞」2025年(令和7年)9月1日号

【1面】
  1.保険証問題、高額療養費制度、物価高騰…積もる課題の解決へ/社会保障充実に向け秋の運動へ
  2.会員拡大月間/診療に専念できる「安心」を届けます 未入会の先生をご入会 ・ ご紹介ください
  3.第40回医療研究フォーラム
  4.探針
  5.ニュースビュー

【2面】
  6.対象は 1,471 点以上/集団的個別指導 9月11・12 日実施
  7.後期高齢者2割負担配慮措置/9 月末で終了予定
  8.2025年9月/歯科用貴金属の随時改定情報
  9.ベースアップ評価料届け出機関数36.2%
10.院内感染防止対策講習会を開催/施設基準の新規届出と継続して届出するために

【3面】
11.保団連夏季セミナー 国民本位の医療アクセスとは何か
 ・歯科医療政策と医療の在り方を見直す契機/会長 早坂美都
 ・日本とCEDAWそしてジェンダーの変遷/理事 高山史年
12.歯科訪問診療講習会/講師持参の機材に興味津々
13.東京都支援金情報/医療機関等物価高騰緊急対策支援/生産性向上・職場環境整備等支援事業

【4面】
14.経営・税務相談Q&A No.432職員新規採用時の留意点
15.増えてます問い合わせ/ネットワークのセキュリティ強化「どこまで必要?」
16.9月会員無料相談のご案内

【5面】
17.研究会・行事ご案内

【6・7面】
18.特集/これからの資格確認

【8面】
19.連載/協会探訪その①「東京歯科保険医協会が行っていること」/「大きな助けに」〝頼れる〟協会の成り立ち
20.IT相談室/再考 歯科医院の情報発信①—概論編—
21.理事会だより
22.協会活動日誌

【9面】
23.症例研究「外来で通院していた患者が在宅に移行した場合の義歯修理の算定」

【10面】
24.退き際の思考 歯科医師をやめる(宮優子さん)/傾く医院経営…再建へ娘と二人三脚 「最高峰にもう一度」引退後の想い馳せる

【11面】
25.あなたも、参加しませんか!!/もう限界 平和と社会保障を立て直せ! 9 ・ 25「いのちまもる総行動」
26.大幅な診療報酬引き上げ必須/実調から見る歯科の実状
27.神田川界隈(理事・小林顕/板橋区)
28.歯の供養祭/「保険でよい歯を」東京連絡会が初開催/11月9日 とげぬき地蔵尊髙岩寺にて
29.通信員便りNo.153
30.会員優待サービス

【12面】
31.「戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録―下―」
・満州から中央区へ 情熱と自信(藤本浩平先生)
・父のうた声(吉田真理先生)
32.原水爆禁止2025年世界大会in長崎/原爆投下80年のいま 核兵器のない世界への願い新たに
33.共済/秋の募集キャンペーン

【13・14面】
34.共済部折込

【IT相談室】再考 歯科医院の情報発信①/概論編

【IT相談室】再考 歯科医院の情報発信①/概論編

弊社はこれまで、多くの歯科医院のホームページを制作させていただき、定期的にさまざまな分析を行ってきました。その結果に考察を交えて、情報発信の視点からより効果的なホームページを作る方法についてご説明します。

外注し、多額の費用を投じて立ち上げたホームページなのに、ネットの口コミやアクセス数ばかりに気を取られ、一喜一憂してしまう…。これは、医療機関の情報発信のあり方、さらに医療の本質から見ると、良いこととは言えません。改めて自院が地域の口腔の健康をどのように担うかに応じて、ホームページでどのような情報を発信すべきか、その方法を検討してください。        

◆認知経路のトップはホームページではない

これから開業する歯科医院では、院長先生自身が情報発信の重要性を理解しているため、ホームページを作らないことは考えられません。しかし、開業後、年月を経過した医院を中心に、いまだにホームページがない医院もあります。

弊社では、歯科医院の認知経路と来院動機を調べていますが、ホームページは必ずしもトップではありません。来院動機は、昔も今も「前を通って」が多く、紹介や看板、チラシなどの複合的な要素もあります。 

◆重要度減るホームページ

現在のITの世界にはAIが大きな影響を及ぼしており、検索画面の一番上にAIによる要約が出ることが普通になりました。現在の各検索エンジンは、AIによる要約やマップでの一覧、業種別のリスト、プロフィールの表示などで、閲覧者が検索画面を見るだけで情報が得られます。つまり、個別のホームページのアクセスが減る方向に注力しています。

さらに、以前からあるSNSも含め、医院認知経路の多様化も進行しています。

このように、今後も情報発信や認知経路、それらへの対処方法は変わっていきます。         

◆これからの発信方法

次回以降は、効果的な情報発信方法について、4回シリーズでご説明します。

保団連夏季セミナー/国民本位の医療アクセスとは何か

保団連夏季セミナー/国民本位の医療アクセスとは何か

会場の様子

8月2〜3日、全国保険医団体連合会は「第54回保団連夏季セミナー」を開催し、協会から役員、事務局が参加したほか、全国の保険医協会・医会から2日間で計345人が参加した。ここでは、当日参加した協会の早坂美都会長と高山史年理事のレポートを紹介する。

 

 

 

◆歯科医療政策と医療の在り方を見直す契機

会長/早坂美都

8月3日は、歯科医療の現状と医療アクセスをテーマに講座とシンポジウムが行われた。

午前の講座「追いつめられる歯科医師たちと歯科医療から遠ざけられる患者たち」では、保団連副会長の宇佐美宏氏が講演。戦後から現在に至る歯科医療政策の変遷を時系列で解説し、診療報酬制度の変化や歯科医療費の抑制政策により、医療現場が困難に直面している現状を説明した。「歯科医療費が軍事費と同程度に増えるのに29年もかかった」と指摘し、制度上の歪みや歯科技工士不足、大学定員割れなどの構造的問題も浮き彫りにした。歯科技工問題については、参加者から在宅医療で「義歯を作れる技工士が不足している」との声も上がり、深刻さが共有された。

シンポジウムの登壇者

午後は「患者の声から考える医療アクセスの課題と改善策」と題したシンポジウムが開催され、4人が登壇し、それぞれの視点から発言した。保団連副会長の橋本政宏氏は「命を守る医療機関が30分圏内に必要」と述べ、医療の地域格差と「受療権」の確保の重要性を強調。がん患者の水戸部ゆうこ氏は、自身の闘病体験をもとに、高額療養費の上限額が引き上げられると、負担が患者に重くのしかかると、強く訴えた。

社会医療法人社団健生会の蓮池安彦氏は、75歳以上の高齢者は「子や孫のために」と意識し、受診を控える傾向があり、これは「受療権の侵害」であると警鐘を鳴らした。京都大学大学院教授の諸富徹氏は、今後の財源確保として投資課税の必要性を提言し、欧米諸国では企業が精神疾患やがん治療に責任を持つ仕組みがあることを紹介した。

制度の限界と医療提供体制の持続可能性について、現場からの切実な声が多く示された本セミナーは、社会全体で医療の在り方を見直す契機となった。

◆日本とCEDAWそしてジェンダーの変遷

理事/高山史年

8月3日、早稲田大学名誉教授の浅倉むつ子氏を講師に迎えた講座「女性差別撤廃条約と日本のジェンダー平等」に参加し、講義と質疑を通じて日本社会が直面する課題と解決の方向性について深い学びを得た。日本が国連の女性差別撤廃条約(CEDAW)を批准してから約40年が経つが、ジェンダー平等の実現にはなお多くの壁が残されている。世界経済フォーラムによるジェンダー・ギャップ指数では、日本は先進国の中でも下位に位置し、男女の賃金格差、女性管理職の少なさ、政治分野での女性の不在が依然として課題となっている。

浅倉氏は、抜本的な改革の「王道」として憲法第24条の改正を挙げたが、これは憲法第9条など他条文改定への波及リスクもあり、現実には非常に高いハードルが存在すると指摘。そのため現時点では、現行法を最大限活用し、着実な法整備を積み重ねる現実的アプローチが求められているという。

具体的には、選択的夫婦別姓を導入する民法改正、賃金格差是正やハラスメント対策を強化する労働法・均等法の改定、「LGBTQ+差別禁止法の整備」や、政治分野におけるクオータ制の導入などを挙げた。さらに、皇位継承制度の見直しによる女系継承の議論も憲法改正を要しない改革として可能だという。

これらの制度改革を通じて、CEDAWからの勧告に応えるだけでなく、日本の国際的な信頼回復にもつながると強調した。

今後、協会としてもこの視点を踏まえ、医療の現場から社会的課題に向き合い、現実的かつ継続的な取り組みを進めていくことが重要だと感じた。

【連載】退き際の思考/“52年ぶり”涙の再会  同窓の奮闘に活力「パワーもらった」(伊藤 栄子さん × 吉田 真理さん)

”涙の再会 同窓の奮闘に活力「パワーもらった」(伊藤 栄子さん × 吉田 真理さん)

“52年ぶり”涙の再会  同窓の奮闘に活力「パワーもらった」

(伊藤 栄子さん × 吉田 真理さん)

歯科医師としての“引退”に着目した本企画。歯科医療の第一線を退いた先生や、閉院を検討する先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、 医院承継、閉院の苦労などを深堀りする

 出席番号は、「13」と「38」。半世紀前、日本歯科大学のクラスメイトとして学生時代を過ごした伊藤栄子先生と吉田真理先生(ともに76歳)は、今回、本企画を通じた縁で実に52年ぶりの再会を果たした。自身のけがや加齢を機に、診療の縮小を考える伊藤先生と、現在も院長として医院経営をする吉田先生。分岐点に立つ伊藤先生は旧友との再会で何を感じたのか

再会の喜びに思わず涙する伊藤先生(左)と寄り添う吉田先生

―久しぶりの再会となりました。

伊藤先生(以下、伊藤):全然変わっていなくて、雰囲気は18歳の時と同じでしたね。亡き父は千葉県出身で、茂原市出身の真理ちゃんのことをモバラちゃんと呼んで可愛がっていました。亡くなる前まで「モバラちゃんはどうしてる?」と言っていたのが懐かしいです。

吉田先生(以下、吉田):昔、栄子さんの実家でステーキをご馳走になったんです。改めてその時のお礼を伝えたくて、今日再会できてとてもうれしいです。

―では、大学卒業後の歩みを教えてください。

伊藤:ビートルズが大好きで、それが興じてイギリスに留学するなど若い頃は自由に生きていましたね(笑)。でも父が亡くなって、30代前半で伊藤歯科医院を引き継ぎ、その後は同じく歯科医師だった母と医院経営をしました。

吉田:卒業後に結婚し、4年ほど勤務医として働き、その後に子どもが生まれ、10年ほど休業した後、同級生の医院で勤務医として復帰しました。以降は他院に勤務し、日本歯科大の非常勤講師として勤めました。2015年に吉田歯科医院を開業しました。

―伊藤先生は現在、診療の縮小を検討しているそうですね。

伊藤:年明け頃に患者さんの難抜歯をした際に、指を痛めてしまいました。そこから思うように診療ができず、今後の診療について考えるようになりました。長年診てきた患者さんが来られなくなったり、お亡くなりになったり、この年になるとそうした変化がありますが、代わりに若い患者さんの診療を始める、というのはなかなか難しいところです。いろいろな悩みの中で今後について迷っているところです。引退も頭によぎりましたが、今は診療所を移転して、訪問診療を中心とした医院にするなど診療の在り方を考えています。

―年齢を重ね、診療や医院経営を続ける難しさを感じているのですね。

伊藤:従業員を雇ったこともありましたが、人間関係に悩んだり、例えば従業員のためのベースアップ評価料のような複雑な仕組みを理解するより、一人で医院経営をした方が楽だと思うようになりました。自分にとってはそれがシンプルイズベストで、診療に集中できる形なんです。

吉田:私も今は健康に恵まれていますが、あとどのくらい続けられるかなと感じます。機器の買い替えなど考えることも多いのでさまざまな兼ね合いによって、退き際を考えるタイミングが訪れるかもしれません。

―歯科医療に関わるお互いの選択について、どのように感じますか。

伊藤:真理ちゃんは昔から勉強熱心だったので、そのまま院長として突っ走ってほしいと思います。お互いにこの年齢だから、何よりもずっと健康でいてほしいと思います。年明けのけがから気持ちが落ち込んでいましたが、今日、真理ちゃんを見たら学生の時と全く変わっておらず、とてもパワーをもらいました。この先どうするかは未定だけど、今日もらった活力で私も頑張りたいです。

吉田:栄子さんも健康に気を付け、やりたいことをやってほしいです。車の運転が大好きということなので、事故には気を付けてね。私も人との触れ合いを大切にして、進化しているデジタルや新技術に少しでも対応できるようになりたいと思っています。

≪患者との思い出「通じ合うものあった」≫

―長い歯科医師人生の中で、思い出深い患者さんもいたとか。

伊藤:ミュージシャンを目指していた患者さんを20年ほど診ていました。お金はないんだけど、必ず1年に何度か来院して、コーラが好きだから口腔内の状況が良くなかったんです。そんな彼が親の面倒を見るために帰郷することになり、「頑張れよ」と思いを込めて、最後にエアロスミスのコンサートに連れて行ったんです。それだけの話なんだけど、お互いロック魂みたいなもので通じ合うものがあって思い出に残っています。不思議なもので、長くお付き合いが続く患者さんは、一目見れば分かり、患者さんも「この先生なら大丈夫」と直感するのかな、と思います。

 ―最後に同世代の先生に向けて、メッセージをお願いします。

伊藤:ビートルズの名曲「Let It Be」の和訳ですが、「あるがままに」ということです。なるようにしかならないから、好きなことをしてほしい。せっかくこの世に生きてきているんだから大いに人生を楽しんでください。

吉田:引退は仕事を始めるよりも難しい決断だと思います。でも最後には「我が人生に悔いなし」と納得して終われるように健康で明るく生きてほしいと思います。

―ありがとうございました。

 

 

 

過去の連載はこちら<退き際の思考 歯科医師をやめる>

社会保障充実に向け秋の運動へ/保険証問題、高額療養費制度、物価高騰…積もる課題の解決へ

社会保障充実に向け秋の運動へ/保険証問題、高額療養費制度、物価高騰…積もる課題の解決へ

7月に行われた参議院選挙は、社会保障制度の在り方を問う契機となった。全国保険医団体連合会(保団連)は、事前に主要各政党へのアンケートを実施。医療・社会保障の充実、高額療養費制度改悪の撤回、健康保険証の新規発行復活、医薬品を保険給付から外さないことなど、医療分野に対する各党の考えを問い、積極的な情報発信のもと世論喚起に努めた。

選挙の結果、与党は6月の東京都議選に続き、参院選でも過半数を割る大幅な議席数減となった。これには国民の不安、不満が浮き彫りになったと見ることができよう。一方で、社会保障制度の縮小を掲げる政党もあり、少なからず今後の社会保障の在り方が問われる選挙となったのではないだろうか。保険医協会・医会としては、医師・歯科医師、医療現場の立場から今後も正しい情報提供を行い、分断や対立を煽るのではなく、社会保障の充実に向けた働きかけを行う必要があるだろう。

こうした情勢を踏まえ、協会でも秋から冬にかけての運動が本格化する。保団連を中心に、医療機関への財政措置や、2026年度診療報酬改定に向けた大幅な引き上げ要求を柱とした運動の議論が進む。資格確認や窓口負担増加など、じかに患者への影響が及ぶ課題については、患者に対する周知も重要な位置付けとなるだろう。

◆保険証復活・OTC・高額療養費…課題は山積

保団連、全国の保険医協会・医会は従来から健康保険証の存続や併用を求める署名に取り組んできた。保険証廃止による混乱や患者の不安を背景に、全国の医療現場からは健康保険証復活を前提に「資格確認書の全員交付」や「無保険者を生まない仕組み」の整備などを求める声があがっている。自治体や国への働きかけ、待合室での情報提供などを通じ、患者の受診を妨げることのない環境を作らなければならない。また、社会的にも注目されるOTCの保険外しや高額療養費制度について、物価高騰の中でさらなる自己負担の増加は患者にとって大きな痛手となる。

各地で患者団体との連携やオンライン署名が展開されており、医療現場からの声と国民の声を結びつける取り組みが進む。そして、来たる925日には「いのちまもる総行動」が予定されており、社会保障の立て直しを掲げた全国規模の集会が行われる。歯科医師の立場から地域医療を守る役割を再確認し、患者・国民と共に医療現場を守り、未来を築く決意を新たにする場として、会員の先生にもぜひ参加いただきたい。秋の運動は、国会と世論の双方に働きかけ、医療・社会保障の充実を求める重要な局面となるだろう。

戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録―下―

戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録―下―

1945年8月15日、先の大戦が終わり、今年80回目の夏を迎えた。戦前生まれの世代が高齢化していく中で、戦時経験が語り継がれる機会は少なくなっている。

残された時間でいかに後世に語り継いでいくか―。本企画では、会員から寄せられたご本人や家族の戦争体験を投稿いただいた。8月15日に続き、2氏の原稿を掲載する。

◆満州から中央区へ 情熱と自信/藤本 浩平(56歳)

私の家は代々歯科医の家系で、私は祖父の代から数えると3代目となります。祖父は歯科医師として九州歯科大学大学院を卒業後、昭和10年代に満州に渡り、奉天(現在の瀋陽)にて家庭を持ち、現地にて歯科医として終戦まで過ごしました。日本から満州に移民が行われた背景には、昭和7年(1932年)の満州国建国がありました。満州国での資源開発、都市建設は日本の国家的政策の一環として行われました。この為、都市や鉄道沿線のインフラ整備に伴う医療従事者の需要に応えるべく日本政府と南満州鉄道(満鉄)は高額な給与、住居の提供、家族帯同などの便宜を図り、医療従事者を優遇して満州に招致、祖父も歯科衛生の教育を受けた若き歯科医として、九州から大陸に渡りました。

家庭的にも祖父は地方出身の次男であり、地理的に比較的近い満州を新天地として希望を持って捉えていたのではないかと思います。祖父は歯科部門を持つ南満州鉄道奉天病院に勤務しておりました。奉天は拠点都市で、満鉄病院は日本の大学病院並みの設備を備える満鉄の主要病院でした。

祖父は日本人、中国人双方の歯科医療を担っておりました。このような環境の中で祖父は結婚し、昭和14年に父が生まれました。豊かな家庭生活を送っていたものの、4人兄弟の長男であった父親と姉以外の兄妹たちは、幼い時期に亡くなっています。昭和20年(1945年)の敗戦後、ソ連軍の侵攻による、中国東北部の混乱の中、家族4人で逃げるように引き揚げ船を目指し、やっとの思いで九州に戻ってきました。逃げる道のりで敵兵から金品を奪われた話を、祖父がしていたのを覚えております。

帰国後、祖父は小倉、戸畑にて歯科医院を開業し、日本での生活が始まりました。6歳で帰国した父も九州歯科大学を卒業し、大学院教育の後、親子二人で診療室を営んでいました。父は当時から海外志向が強く、1970年代にかけて、若い歯科医の一人としてアメリカで最新の歯科医療を学ぶために渡米。インディアナ大学補綴科大学院に入学しました。大学院卒業後、フロリダ大学補綴科で教鞭をとった後、日本に帰国。やがて、東京都中央区にて開業、藤本補綴臨床研修会を通して多くの日本の臨床家に対して咬合理論、補綴治療に関する教育を行ってきました。

当時6歳だった私も、父親のアメリカ時代に現地の教育を受け、東京歯科大学卒業後、ワシントン大学歯周病科大学院に進み、卒業後は臨床教授として3年勤務した後に帰国、父親の診療と研修会活動を支えました。現在24歳になる我が家の愚息も4代目の歯科医になる予定であります。

満州での戦中、日本での厳しい戦後、高度成長時代を歯科医として懸命に生きた祖父と父親、バブル経済の繁栄と衰退の1990年代、コロナ禍の混乱を経て今に至る私、大きな変革期を迎えている歯科医療の環境の中、生きて行く4代目に、社会からどのような歯科医療を求められるのか見守ってゆきたい。誇りを持って歯科医として活躍した祖父、父親と同様に4代目にも歯科医療を情熱と自信を持って取り組む歯科医として活躍することを願っております。

◆父のうた声/吉田 真理(76歳)

父は、戦争のことを話しませんでしたので私には分かりませんが、この写真を見ますと何も言葉が出ません。陸軍軍医(中尉)として戦地に赴いた父。当時の現地を調べてみますと、激戦地となっており、多くの人が命を失 ったようです。

戦地では、生きて帰国できるかわからない状況で、遥か離れた故郷や父母のことを偲んでいたのではないでしょうか。私の記憶にありますのは、父が「ブンガワンソロ 清き流れ」と口ずさんでいたことです。インドネシアにある大河を歌った曲で、ゆったりした美しいメロディーは人の心を癒してくれ、今も多くの人々に愛されているようです。

父のことを想いますと涙が出てきます。現在、戦争をしている国があり、そこでは多くの尊い命が失われます。ちょうど今年は戦後80年にあたります。恒久平和な世界であってほしいと思います。

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)8月1日号

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)8月1日号

こちらをクリック▶「東京歯科保険医新聞」2025年(令和7年)8月1日号

【1面】

 1.厚生労働省要請を実施/現場の診療行為保険点数の乖離訴え CAD/CAMや口腔機能管理の要件緩和など要求

 2.中医協/10月から医DXのマイナ保険証利用率さらに引き上げ

 3.多くが9月末に有効期限/国保の健康保険証 全加入者に「資格確認書」を 都・区市町村へ緊急要請

 4.要注意/施設基準などの“8月定例報告”829日までに提出を

 5.探針

 6.ニュースビュー

 

【2面】

 7.指導計画と指導実施状況が明らかに/生活保護の個別指導予定は6件 協会の開示請求 により詳細判明

 8.光ディスク等でのレセプト請求/猶予届出は8月末まで!

 9.歯科訪問診療講習会に79名参加/「具体例が分かりやすい」の声 ダイジェスト版動画配信中

10.医療機関等物価高騰緊急支援金(20254月~9月分)/Jグランツ申請は101日開始 書面申請は818日から 歯科診療所の支援金は7.8万円

11.生産性向上・職場環境整備等支援事業/支援金18万円を歯科診療所に支給 申請開始は84()予定

 

【3面】

12.保団連第3回代議員会開催/協会 早坂会長が「資格確認書の一斉送付」要求 施設基準改善執行部は「厚労省要請で訴えたい」

13.後期高齢者の保険証 有効期限終了/8月は「資格確認書」の確認を忘れずに

14.第53回定期総会記念講演/「歯科はマイナ保険証の必要性低い」続く混乱、記者がひも解く 市の窓口整備に22億円計画も

15.厚労省が異例の通知/期限切れの保険証でも診療可能

 

【4面】

16.経営・税務相談Q&A No.431/ご存じですか?「育児・介護休業法」の改正

17.第1回 ドクター・スタッフ講習会/「また会いたい」接遇の“5要素学ぶ

188月会員無料相談のご案内

192025年度第1回東京都歯科医師認知症対応力向上研修

20.東京都歯科衛生士会主催<東京都委託事業>歯周治療の基本研修会「ベーシックSRPコース」

 

【5面】

21.研究会・行事ご案内

22.「夏季休診案内」のご紹介

 

【6面】

23IT相談室/AIとは何か活用上の注意-最後は自分の責任で-

24.「保険でよい歯を」東京連絡会/オーラルフレイルで市民講演会

25.暑中お見舞い名刺広告

 

【7面】

26.新体制後初のメディア懇談会開催/診療報酬への「根本的な政策提言」を

27.通信員便りNo.152

28.理事会だより

29.協会活動日誌

30.共済部だより

31.会員優待

 

【8面】

32.「戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録」 私の戦前と戦中、そして戦後80年(渡辺吉明)、ビルマからの手紙(下田祐里江)、『B』(西田紘一)

33.神田川界隈(理事・濱崎啓吾/練馬区)

新体制後初のメディア懇談会開催/診療報酬への「根本的な政策提言」を/インフレ時代の診療報酬のあり方問う声

新体制後初のメディア懇談会開催/診療報酬への「根本的な政策提言」を/インフレ時代の診療報酬のあり方問う声

協会は711日、第2回メディア懇談会を開催した。議題は、①協会が実施した国会行動、②子ども医療費助成制度の状況、③次期診療報酬改定―などとし、67名のメディア側参加者と懇談した。 

(左から)小林顕部長、早坂美都会長

冒頭、新会長の早坂美都氏、広報・ホームページ部新部長の小林顕氏がそれぞれ挨拶。早坂会長は今後の取り組みについて、歯科医療改善に向けた国会議員や行政への働きかけの強化のほか、保険医の生活を守っていくことなどに力を入れていくと説明した。会長就任前まで広報・ホームページ部長として本懇談会に参加してきたこともあり、参加者からは新体制への期待の声が上がった。

マイナ保険証問題については、「世の中の雰囲気が変わったと思った」と協会や全国保険医団体連合会の活動を評価する声が上がった。また、協会が都内の自治体に資格確認書の一律配布を要請することなどを踏まえ、区市町村への積極的なアプローチの必要性についての意見が目立った。

会場の様子。ほか2名がオンライン参加した

さらに、施行まで1年を切った2026年度診療報酬改定に関しては、インフレ時代の診療報酬の在り方を問う参加者からの提言も。具体的には、建設業界では契約時の金額、条件などに対し、物価変動に合わせて調整するインフレスライド条項が運用されていることを例に、「『毎回、診療報酬を上げてほしい』と要望するのではなく、根本的な政策提言をすべき時代になっているのではないか」と、診療報酬の在り方そのものに言及する発言もあった。早坂会長は材料費、人件費などの高騰を引き合いに、「漫然と訴えていくのではなく、統計学も用いながら『医療機関がこれだけ大変な状態にある』という数値を示していくのは重要だと考える」とした。

保団連第3回代議員会開催/協会 早坂会長が「資格確認書の一斉送付」要求/施設基準改善 執行部は「厚労省要請で訴えたい」

保団連第3回代議員会開催/協会 早坂会長が「資格確認書の一斉送付」要求/施設基準改善 執行部は「厚労省要請で訴えたい」

     早坂美都会長

全国保険医団体連合会(保団連)は6月29日、千代田区の都市センターホテルで2024~25年度第3回代議員会を開催し、全国の協会・医会から代議員や事務局が参加した。当協会からは、代議員として早坂美都会長のほか、加藤開、坪田有史、本橋昌宏の各副会長が代議員として参加した。
当日の討論では、全国から発言通告が145本寄せられた。協会からは、早坂会長が、「健康保険証存続とともに、資格確認書の一斉送付に取り組もう」と発言し、執行部は「国・自治体・保険者に対応を迫る働きかけを引き続き強めたい」と返答した。そのほか、①子ども医療費助成制度の拡充について、②オンライン資格確認システムのスマホ搭載に係る補助金全額を求める、③ベースアップ評価料ではなく診療報酬本体で賃上げを、④都内歯科診療所が直面する経営課題と解決に向けて、⑤実態調査の結果を踏まえた次期診療報酬改定への要望-の5本を文書で発言した。
フロア発言では、加藤副会長が「施設基準の細分化で会員は困っている。8月28日に保団連が行う厚労省要請で、施設基準の簡素化を訴えてほしい」と要望し保団連の考えを質した。執行部は「歯科の施設基準は、大規模な診療所ばかり潤うような改定となっている。また、技術と全く関係ないものが設けられている。これらを厚労省要請で訴えたい」と約束した。
その後、会務報告、24年度決算および監査報告を全会一致で可決し、「医療機関への緊急財政措置、期中改定を強く求める特別決議」を承認し、閉会した。

◆保団連特別決議はこちらから
 ➜hodanren.doc-net.or.jp/info/declaration/2025-06-29-2/

第53回定期総会記念講演/「歯科はマイナ保険証の必要性低い」 続く混乱、記者がひも解く/市の窓口整備に22億円計画も

第53回定期総会記念講演/「歯科はマイナ保険証の必要性低い」 続く混乱、記者がひも解く/市の窓口整備に22億円計画も

53回定期総会(616日)では、「マイナ保険証と保険証廃止~担当記者の2年間」をテーマに、東京新聞社会部編集委員の長久保宏美氏が記念講演を行った。

長久保宏美氏

長久保氏は、まずマイナ保険証の利用率について、20254月時点で全国平均は28.655%である一方、国家公務員共済全体の平均は29.57%、厚生労働省(第一)共済組合が33.0%、厚生労働省共済組合厚生労働本省本部が39.04%、総務省共済組合が33.52%と、国家公務員でも利用率が芳しくない状況を強調。また、東京都における電子処方箋の導入状況は24.7%(全国平均は29.3%)であり、歯科では東京が2%(全国は4%)と非常に低いことを指摘。医科、歯科の双方において、電子処方箋の普及が進んでいない実情を報告し、このまま導入が進まなければ、「政府が説明するようなマイナ保険証の利点を享受することはできない」とし、自らの考えを示した。

 

◆渋谷区・世田谷区 国保加入者全員に資格確認書送付

後期高齢者については、国会で野党議員の追及などもあり、267月まで暫定的に1年間延長して資格確認書を交付する措置が決まったと解説。さらに、渋谷区と世田谷区では、マイナ保険証の有無にかかわらず国保加入者全員に資格確認書を送付する対応を決めたことに言及し、両区長ともマイナ保険証を否定しているのではなく、制度の切り替え時期に受診トラブルがないようにとの配慮から、議会で承認を得たと説明した。その背景として、国保の標準システムの場合、マイナ保険証とのひも付けの有無確認の情報更新が1カ月に1回であるため、ひも付け解除手続き者の把握漏れなど、トラブルを防ぐための措置が必要であったことが挙げられた。

◆電子証明書の失効問題・更新手続きの混乱

マイナンバーカードのICチップに搭載された電子証明書の有効期限が5年であり、25年度中に電子証明書の有効期限を迎え失効するケースが1,580万件、10年目のカード本体の更新を迎えて失効するのが1,200万件と予測されていることを説明。既に川崎市では電子証明書やカード本体の更新を希望する市民で窓口が大混雑となり、対応できない状況が発生した。このため、同市では窓口整備に22億円をかける計画があることを紹介した。

また、区市町村に代わり地方公共団体情報システム機構から発送されるお知らせの電子証明書更新当日の注意書き事項に、「健康保険証のサービスを利用できない場合があります」という文言がある点に触れ、「更新日は保険証として使えなくなる可能性がある」ことへの懸念を表明した。

◆「」表示問題「簡単には解決できない」

また、全国保険医団体連合会(保団連)の調査では、回答した医療機関の窓口の9割で何らかのトラブルがあり、一旦10割負担を患者に求めた事例が1,241件あることを挙げ、「資格情報のお知らせ」を単体で使おうとする患者も多いことが指摘された。さらに、技術的な問題として、戸籍の旧字、異体字などを扱う自治体系システムと医療系の中間サーバーの経由する運用では、文字コードの違いによる「」表示の問題があり、「これは簡単には解決できない」と述べた。

◆マイナ保険証の対応が廃業判断に影響

加えて、歯科では患者との関係性が構築されているケースも多く、「マイナ保険証による資格確認の必要性が低い」ことを指摘した。また、帝国データバンクの調査結果をもとに、歯科医院の倒産・廃業・解散件数は過去最多を記録しており、26年には1,000件を超えると予想されているなど、マイナ保険証対応のための出費が、高齢歯科医師の廃業への判断を早めている可能性も示唆した。

質疑では、マイナ保険証導入に関する国の費用対効果の問題などについて、デジタル化による医療費削減効果の試算がないことへの疑義や、電子証明書の失効に伴う更新手続きの負担増、重複診療の削減効果に対する疑問、個人情報の監視目的としての利用についてなど、多数の質問が挙がった。長久保氏は、まだ多くの不明点があるとしつつ、現状のトラブルが数年間続くと予測し、マイナ保険証問題が解決しない状態で、「資格確認書との併用が続くことで医療現場においての混乱はなくならないであろう」と述べた。

第53回定期総会記念講演の会場風景

PROFILE:長久保宏美(ながくぼ・ひろみ)

東京新聞編集局社会部編集委員/1961年、茨城県生まれ。1988年、中日新聞社入社。水戸支局、東京本社社会部、東京都庁キャップ、警察庁など担当後、宇都宮支局長、編集局デスク長を経て選挙調査室長。2018年から福島特別支局長。2020年から編集委員。「マイナ保険証」の問題など取材。

【IT相談室】 AIとは何か④/活用上の注意-最後は自分の責任で-

【IT相談室】 AIとは何か④/活用上の注意-最後は自分の責任で-

AIは、多くの分野に大きな影響をもたらす有益な技術革新です。非常に便利である反面、注意すべきこともありますので、今回はその点についてご説明します。

◆AIは嘘をつく

2024年末、アメリカの弁護士がAIで作成した架空の判例を訴訟資料として提出する事件がありました。AIはインターネット上の膨大な情報をこちらの指示通りにまとめる便利なものですが、間違った情報を提示することがあります。これはAIのハルシネーション(幻覚・妄想)と呼ばれ問題になっています。存在しない医学用語を作り出した例もあります。

◆AIは自信満々

「安定動作する最終安全版」「これなら大丈夫です」「完全防御バージョン」。これらは全て、当社でAIを利用してプログラミングを作った際の返答です。何度繰り返してもエラーがなくならないのですが、それでもAIは毎回このように答えます。

冒頭のようなAIによる架空の判例が問題になったことは初めてではなく、裁判所から警告が出されていたにもかかわらず、発生しました。その弁護士は、「AIに確認したところ、大丈夫だと回答があった」と弁明したそうです。

◆最終責任は自分で持つ

あるホームページにおける特定のページを要約して評価するようAIに指示したところ、回答がおかしいため確認すると、AIはそのページを読み込んでいなかったことがありました。AIの回答はそのまま信用できない面があります。特に、医療は人体・人命に直接関わる行為を含みますので、AIはあくまで参考程度に、最終的には自分で責任を持って確認する姿勢が重要です。

戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録 ―上―

戦後80年 伝えたい記憶、戦時の記録 ―上―

1945年8月15日、先の大戦が終わり、今年80回目の夏を迎えた。戦前生まれの世代が高齢化していく中で、戦時経験が語り継がれる機会は少なくなっている。

残された時間でいかに後世に語り継いでいくか―。ここでは「上巻」として、会員ご本人や家族の戦争体験を投稿いただいた中から3点をご紹介する。「下巻」は改めてご紹介させていただく。

◆私の戦前と戦中、そして戦後80年 渡辺 吉明(90歳)

渡辺吉明氏(90歳)

1941年、私が鶴巻国民学校(現・新宿区立鶴巻小学校)1年生になった年の128日、日本とアメリカの戦争が始まった。

この太平洋戦争開戦の翌春418日、現在も住む自宅周辺が米軍のB25爆撃機により空襲を受け、映画館などが燃えたことを鮮明に覚えている。近くの病院や早稲田大学の校舎にも被害が発生したことを後日知った。日本軍機の応戦は一切なく、当時は首都の制空権すら、まったく奪われていたようだ。

3年生になると、戦局の悪化と共に学童疎開が始まった。私は、父の郷里である熊本県天草郡宮地村切越にあった父の実弟の農家に縁故疎開することになった。父親と疎開する学童2名の行程は、東京・熊本間はEL(電気機関車)の直行列車に乗り車中一泊。熊本市内一泊。さらに、熊本から三角間はSL(蒸気機関車)列車で移動し、三角から天草へは九州商船での船旅となり、移動には二泊三日かかった。当時の天草は完全な離れ小島で、接岸設備がない島には商船から伝馬船に乗り換えて上陸した。

43年、小宮地国民学校に転入。戦時教育や一連の農作業の訓練を受けたが、あまり抵抗感はなかったと記憶している。ただ、天草島上空は、熊本方面に爆撃へ向かう米軍のB29爆撃機の空路であったため、登校しても空襲警報が鳴ると授業は中止、帰宅させられた。

45年815日敗戦。474月、天草郡の宮地新制中学校に入学。新制中学の教科書だった「あたらしい憲法のはなし」を学び、国民主権と戦争放棄に「若い血が沸き立ち」、私の戦後が始まった。ただ、私は戦前から相変わらず、家の前を走る都電ファンで、今でいう「鉄ちゃん」だった。

50年7月、疎開先より帰京。59年東京歯科大学卒業。89年、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)の時、被爆した広島電鉄(650形、現役)に初めて乗車。「運転席の裏には、〝被爆電車〟の説明板があり、原爆を風化させない地道な努力を感じました」「核兵器と人類は、絶対に共存はできません。核廃絶を訴えるのは当たり前」などの声を聞いた。私の趣味としての路面電車と反核への思いが結びついたのが、この広島での被爆電車との出会いだった。そして、被爆の実相を伝える〝語り部〟としての被爆電車に乗って、当時を追体験しながら親子で学ぶことを東京反核医師の会として企画し、原水禁世界大会での「動く分科会」実施を提案。02年に実現させ、24年に11回目を迎えている。

60年代には患者に誘われ、平和行進に参加して以来、「東京反核医師の会」の運動に役員として関わってきた。17年、「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のノーベル平和賞受賞を記念し、翌年11月に第28回「反核医師のつどい」を開催し、全国から194名が参加。「被爆の実相に立ち返り、核なき世界を目指す」ことを確認した。

被爆80年、私たち「東京反核医師の会」は、「日本政府に核兵器禁止条約の署名、批准を求める署名」に協力、賛同しています。

◆ビルマからの手紙 下田 祐里江(57歳)

生前の母は、毎年、桜の咲く頃に、長兄である叔父の供養のためと称して、腹違いの妹の叔母と靖国神社にお花見に出かけていた。その母も一昨年亡くなり、遺品整理をしていた時に、叔父からの軍事郵便はがきのコピーとビルマの土が入った袋が出てきた。叔父は召集令状を受け群馬からビルマに行き、そこで病死した。はがきの字は、教師になることを夢見ていた叔父らしく、とても達筆で、几帳面に整然とした文面であった。実母を3歳で亡くした末っ子の母を案じている内容と、「日本男児としてお国の為に頑張る」と、検閲を気にしている様子がうかがえた。ビルマで病気になり、具合が悪いことも書いてあり、心配させないようにと、明るい文章であったが、「故郷の群馬の利根川は氾濫していないか?」「皆は元気で仲良くしているか?長男なのに、実母の法要ができなくて申し訳ない」「利根川や赤城山を思い出し、やはり故郷は良い」と何度も書いてあった。

叔父の戦死通知書

戦死の通知書と遺骨の代わりの小さな石ころが一粒入った小さな木箱が実家に届けられた。当時、幼かった母は、気丈な祖父が、人目のつかない場所で、がっくりと肩を落とし泣いていた姿を見たと話してくれた。終戦の1年前のことである。もっと早く戦争が終わっていたらと、皆がそう思っていたに違いない。

私が歯学部に入学することが決まった時に、入学金を工面するため、母と一緒に群馬銀行に口座の解約をしに行った。その際、戦死した叔父のお墓(供養塔)にもお参りした。私の両親の世代は、物のない時代であり、青春時代に制約を受けて我慢を強いられてきた年代である。せめて晩年は我慢を強いらないようにと思い、母の希望通り在宅介護で見送った(こちらは、超大変だったが…)。母の出棺の際に、叔父のビルマからの手紙と土、私の歯科医師免許の写しも入れた。きっと、戦死した叔父に報告してくれているかな?

私は、自分が希望する歯科医師になれたことに感謝せずにはいられない。

 

◆『B』/西田 紘一(85歳)

西田紘一氏(85歳)

昭和15年生まれの私は、今年85歳になった。父は歯科医師で、私もその道に入り、60年が過ぎた。幼くして短い戦時下を経験した一人として、当時を振り返ってみた。

4歳の頃、最初に覚えたアルファベットは「B」だった。「B29」の「B」である。意味も分からず、大人たちの会話から拾い覚えたのだろう。焼夷弾の標的にされることを恐れ、灯火管制のもと、電灯を消す生活が日常だった。

私の生家は大阪府堺市の旧市街地にあり、一階が住居、二階が歯科医院の木造二階建てだったが、公共機関への延焼を防ぐため、強制疎開*1で取り壊された。戦火を逃れるように、およそ南へ18キロ離れた岸和田市久米田の里山に身を寄せた。そこから、堺大空襲*2の煙が遠くに上るのを見上げた記憶が残っている。

人的な犠牲も身近にあった。母の弟は東北帝大で冶金を学んだあと、出征した。しばらくして南方で戦死。葬儀の際に、堺市大道を行く私たちの葬列に、自転車を降りて頭を垂れられた人々の姿を今でも鮮明に覚えている。その後、母が中耳炎で亡くなり、さらに妹が栄養失調で命を落とした。サルファ剤もペニシリンも、ましてや食べ物もない時代だった。父と子の二人で寄り添って生きてきたが、その詳細な記憶は定かではない。ただ、まだ袖を通していない妹の小さなセーラー服が、きちんと畳まれて桐箪笥の奥に大切にしまわれていたことは、今でも忘れられない。

夏のある朝、隣組のおじさんが「今日の昼にHさん宅の庭に集まるように」と知らせに来た。玉音放送だった。子どもだった私には内容が正確に理解できず、近くの大人に尋ねた。「戦争終わったんや」との答えに、心がふっと軽くなった気がしたのを覚えている。「もうB29は飛んで来ないんだ」。

戦争は、生き残った父と私から、家や仕事場だけでなく、家族までも奪った。最大の被害者は父である。戦後育ちの私の苦労など、足元にも及ばない。

私は亡き父の年齢を超えたが、なおフリーランスの歯科医師として働ける場をいただいている。ありがたいことであり、墓終いで近くなった我が家の墓に、毎月手を合わせ、感謝の言葉を捧げている。

あれから80年、戦争や争いが未だ絶えない現代ではあるが、世界中の人々が穏やかな心を大切に、楽しく生きる日々が来ることを願うことしきりである。

  *1=建物疎開や学童疎開がある。空襲による被害を受け、民家から周囲の公共建造物への延焼を防ぐために建物を壊したのが建物疎開だった。

  *2=1945710日にあったこの空襲で、1,860人が亡くなった。(堺市ホームページより)

監事の藤野健正氏が勇退/引き続き協会「顧問」として会務協力

監事の藤野健正氏が勇退/引き続き協会「顧問」として会務協力

(左から)坪田有史氏、藤野健正氏

監事の藤野健正氏が、今総会を機に退任を表明した。藤野氏は1981年11月に協会会員となり01年6月に理事、11年6月に副会長、15年6月から再度理事を務め、19年6月から監事に。今後は協会顧問として、これまでの経験を活かしていただくことになった。

【IT相談室】 AIとは何か③/そのメリットは

【IT相談室】AIとは何か③/そのメリットは

AIの利用方法として、マウスピース矯正のようにAIが組み込まれたシステムを利用する方法と、AIサービスをご自分で利用する方法があります。

今回は、主にAIサービスをご自分で利用する場合におけるAIのメリットをご説明します。

◆AIは実現してくれる

例えば、予防歯科のパンフレットを作る時、これまでであれば原稿をまとめ、印刷会社やデザイナーに依頼します。AIを利用する際には、ラフ画像や指示を「ChatGPT」などのLLM(large language model/大規模言語モデル)に入力すれば、パンフレットの原稿が作成できます。できあがった原稿を印刷会社に送って、パンフレットを作成します。また、いくつかのキーワードを用意すれば、医院のブログも作成できます。上手に活用すれば、ホームページの更新頻度が上げられるかも知れません。Microsoft社の「Microsoft365 Copilot」というサービスでは、AIがPowerpointプレゼンテーションを作成する機能もあります。

◆AIはすぐやってくれる

パンフレットを印刷会社に依頼したり、ブログをスタッフに依頼すると、仕上がりまでに時間がかかります。AIは数分という単位で仕上げてくれます。修正を何度でも素早く対応してくれます。スタッフに仕事を依頼する時のような説得も不要です。

◆AIはいつでも助けてくれる

誤字脱字の校正などの簡単な作業から、医院の年間の事業計画のまとめや経営課題の解決まで、AIは幅広い知識で、いつでも、いつまでも相談でき、具体的なアウトプットをしてくれるアシスタントです。言葉で指示が出せること、少しずつ修正しながら仕上げていけることが最大のメリットです。

このように大変便利なAIですが、活用の上で注意すべき点があります。次回は、その点についてご説明します。

退任のご挨拶/8年間の感謝  東京歯科保険医協会前会長  坪田 有史

退任のご挨拶/8年間の感謝 東京歯科保険医協会前会長 坪田 有史

2012年1月に本会に入会させていただき、136月に理事、156月に副会長、176月に会長を拝命しました。会長職を務めさせていただいた8年間、会員の先生方、事務局の方々には大変お世話になりました。会長という責任のある立場で、会員そして患者、国民の視点を常に第一に考えるように心がけてきました。

8年間、さまざまな経験をさせていただき、充実した時間を過ごせたことに心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

新会長所信表明/歯科医療を正しく理解してもらうべき時代

新会長所信表明/歯科医療を正しく理解してもらうべき時代

◆世界に誇る国民皆保険制度を次世代へ

このたび、第53回総会におきまして、東京歯科保険医協会第6代会長に就任いたしました。誠に光栄に存じますとともに、その責務の重大さに身の引き締まる思いでございます。今後は一層の覚悟をもって職責を果たしてまいります。

「保険で安心して、きちんとした診療ができるようにしよう」―これは、1973年に当協会を設立された初代会長・小林昌平先生から受け継がれてきた、協会の根幹をなす理念です。私は、第2代会長・大多和彦二先生の時代に入会し、第3代会長・中川勝洋先生には新規開業時にご指導をいただきました。その後、第4代会長松島良次先生、第5代会長坪田有史先生のもとで理事、副会長と務めさせていただき、協会活動の現場を間近に見てまいりました。

今回、会長に立候補した背景には、いくつかの強い思いがあります。

まず1つ目に、歯科医療は国政と密接に関わっているということ。診療報酬の改定は国家予算に直結し、国会議員への要請活動や厚労省・都への働きかけは、医療を守るために欠かせない活動です。

2つ目に、保険医の先生方の生活を守るという視点も重要です。当協会が提供する休業保障制度や保険医年金、グループ生命保険は非常に優れた制度であり、もっと多くの会員に知っていただきたいと考えています。

3つ目に、メディアとの連携強化も課題です。広報活動を通じて、歯科医師の実情や課題を社会に広く伝えていくため、メディア関係者との関係性を一層深めていきたいと思います。

最後に4つ目として、事務局の働き方改革にも引き続き取り組み、負担軽減と業務の効率化を図ってまいります。

我々の目指す歯科医療は、「人生の最期の日まで自分の口でおいしく食べられること」、すなわち健康長寿社会の実現に貢献することです。近年、口腔環境が全身疾患に及ぼす影響が広く知られるようになり、歯科の重要性が再認識されています。まさに、歯科医療を正しく理解してもらうべき時代です。

一方で、少子高齢化と医療費増加により、1961年に始まった国民皆保険制度がいま、大きな岐路に立たされています。この世界に誇る制度を次世代に引き継ぐためにも、医療の質の向上を目指し、誰もが安心して医療を受けられる環境を守らねばなりません。

「食べることは生きること」、国民の皆さまが安心して歯科医療を受けられる社会をめざし、会員の皆さまと力を合わせて協会活動を一層推進してまいります。今後ともご指導・ご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会

6代会長  早坂美都

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東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)7月1日号

東京歯科保険医新聞2025年(令和7年)7月1日号

こちらをクリック▶「東京歯科保険医新聞」2025年(令和7年)7月1日号

【1面】
  1.第53回定期総会開催/新会長に早坂美都氏/女性で初 会員のため歯科医療の課題に対処
  2.第53回定期総会「決議」
  3.「骨太の方針2025」閣議決定
  4.「探針」
  5.ニュース・ビュー

【2面】
  6.「アットホームな雰囲気」初参加の会員らも懇談/記念講演はマイナ問題 東京新聞・長久保氏
  7.都議選/第1党・都民ファ 渋谷区・世田谷区の「資格確認書」発送対応に/「先進的な取り組みを横展開」東京歯科アンケートで回答
  8.まもなく施設基準などの“8月定例報告”
  9.東京都支援金情報/物価高騰緊急支援金要綱など公表
10.東京都支援金情報/生産性向上・職場環境整備等支援事業

【3面】
11.新会長所信表明/歯科医療を正しく理解してもらうべき時代
12.退任のご挨拶/8年間の感謝 東京歯科保険医協会前会長 坪田有史
13.今回選出された役員一覧《任期は第55回定期総会まで》
14.はじめまして!! 新理事紹介/小林顕「皆さまのお役に立てるよう」
15.監事の藤野健正氏が勇退/引き続き協会「顧問」として会務協力
16.懇親会参加来賓一覧
17.第53回定期総会祝電・メッセージ等一覧

【4面】
18.経営・税務相談Q&A No.430/従業員の夏季休暇と、有給の計画的付与
19.IT相談室/AIとは何か③ そのメリットは
20.7月会員無料相談のご案内
21.会員優待

【5面】
22.研究会・行事ご案内

【6面】
23.ここが“勘所”/CAD/CAM冠の特性 接着の注意事項も解説
24.第3回施設基準講習会を開催/外安全1・外感染2・口管強など研修要件対応 新規に届出を行う会員を対象
25.保険請求のルールも取り上げ/2025年度新規個別指導の計画概要を解説 新規開業医習会で「知りたいことが理解できた」
26.理事会だより
27.協会活動日誌
28.共済部だより

【7面】
29.医科歯科連携研究会を開催/地域連携のポイントは自ら足を運ぶこと
30.神田川界隈(理事・福島崇/大田区)
31.マイナ保険証でトラブル/オンライン資格確認できず
32.マイナ保険証問題/第1回メディア懇談会「患者への周知不十分」
33.通信員便り №151
34.投稿募集

【8面】
35.良い歯署名提出集会に400名超/保険でより良い歯科医療を求める請願署名19万1216筆を提出
36.一部自治体除き/都全域で所得制限撤廃へ 子ども医療費無償化の進捗
37.地域医療部長談話「子ども医療費助成制度の拡充を全国へ」

【インタビュー】山下 泰子氏(文京学院大学名誉教授・法学博士)/後編

【インタビュー】目標は女性差別撤廃条約“選択議定書”批准/ネパールでの女性教員育成も(後編)/山下 泰子氏(文京学院大学名誉教授・法学博士)

(左から)早坂美都副会長、山下泰子氏

 

「戦後民主主義教育の洗礼を受けた」―。戦中・戦後と歴史的な社会の変化とともに幼少期を過ごす中で、自らの人権意識が醸成されたと語る文京学院大学・山下泰子名誉教授(86歳)。前編に引き続き、女性差別撤廃条約の選択議定書批准の課題ほか、自身が奔走するネパールでの活動について聞いた。聞き手は、協会の早坂美都副会長。

◆ 前編から続く:【インタビュー】山下 泰子氏(文京学院大学名誉教授・法学博士)/前編 はここをクリック )

―選択議定書の批准について、政府による踏み込んだ議論が行われていないのが現状なのかもしれませんね。

2024年10月の国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)での建設的対話の後、「総括所見」が示されました。まず、第9項で、「委員会(CEDAW)は、2020年に採択された第5次男女共同参画基本計画において、締約国(日本)が 『女性差別撤廃条約の選択議定書について真剣な検討を進める』としていることに関心をもって留意する。しかし、この問題に関して省庁間研究会を23回開催したにもかかわらず、締約国が選択議定書の批准の検討に時間をかけすぎていることを遺憾に思う」と懸念を表明しました。その上、第10項で、「締約国に対して、委員会の前回の勧告に沿って、選択議定書の批准に対するいかなる障害にも速やかに対処し、取り除くよう勧告する」「締約国に対し、本条約、委員会の一般勧告および選択議定書の下で委員会が決定した先例について、これらが司法手続きにおいて全面的に考慮されるために、裁判官、弁護士、法執行専門職の能力構築を強化するよう勧告する」と、2つを勧告したのです。私たちは今後、日本政府による勧告の実施をしっかりモニターしなければなりません。

―ジェンダー平等における日本と海外の違いとは。

日本の平等法制は、妥協の産物だといえます。例えば、男女雇用機会均等法は”男女平等法”ではありません。候補者男女均等法も理念法なので、政党を拘束するものではなく、衆議院の女性議員比率は15.7%で、世界185カ国中142*に低迷しています。フランスではパリテ法で政党に候補者数を男女同等とすることを義務づけており、国連組織におけるジェンダー平等の目標も5050です。

ジェンダー平等に向けて、日本に求められているのは、①女性差別撤廃条約選択議定書の批准、②人権侵害を扱う政府から独立した国内人権機関の設置、③包括的反差別法の制定の3つです。

―歯科医療界に置き換えると、近年、女性歯科医師の割合が増えていますが、組織のトップは依然として男性という医療機関が多いと思われます。

確かにそこも変えないといけませんね。第5次男女共同参画基本計画では、指導的地位に就く女性の割合の目標値を30%程度と定めており、そうしたことを念頭に置かなければならないと思います。また、男性歯科医師が出産、育児休暇を取れる環境を作ることも大切です。大谷翔平選手でさえ、父親休暇を取りました。家事、育児、介護、家庭責任は夫婦二人で担わなければなりません。

―女性差別撤廃条約の選択議定書への批准や、所得税法56条の改正などを含むいわゆる「ジェンダー4署名」と、それらと歯科医師との関わりについて教えてください。

1953年に平塚らいてうらが創設した日本婦人団体連合会(婦団連/小畑雅子会長)を中心に取り組む4つの署名が「ジェンダー4署名」です。日本がもっとジェンダー平等で男女ともに生きやすい社会になるために必要な要件を国会に請願するものです。例えば、所得税法第56条の改正は、家族で医院を営む歯科医師にも関係するのではないでしょうか。配偶者や家族が関わっても事業経費として認められず、それが女性の経済的自立を妨げていると女性差別撤廃委員会(CEDAW)が懸念を示しています。2024年の総括所見第45項(a)は、「女性の家族経営企業での労働を認めるよう所得税法第56条を改正すること」を、勧告しました。これは、ジェンダー4署名の1つの成果です。

―山下先生は、ネパールでも活動されているそうですね。

これまでにネパールを65回ほど訪問してきました。1999年には半年間かけて、ネパール全土を調査し、山奥の学校には女の先生がおらず、女の子が学校教育から見放されている現状を目の当たりにしました。女の先生が学校にいれば、女の子が学校に行きやすくなるという考えのもと、女性教員の養成を始めました。山村から学びにくる学生のためにポカラというところに女子学生寮・さくら寮をつくり、ポカラ女子短大と連携して教員養成課程を創設。通算14年間で100人の山村の女性教員を育てました。東京歯科保険医協会の高山史年理事ご夫妻は毎年、ネパール・ポカラで開催する「さくら寮卒業生教員のフォローアップ研修」にボランティアで参加し、女性教員の歯科検診・治療と「歯の大切さ、歯みがきの仕方」を講義していただいています。歯科医師のいない地域に住んでいる女性教員にとって、誠に貴重な機会で大変喜ばれています。私たちも、とっても感謝しています。

ネパールでの活動には、当協会の高山史年理事(前列中央)も参加している

―最後に今後の目標を。

今年は、日本が女性差別撤廃条約を批准して40年目にあたります。なんとかして、“選択議定書の批准”を実現したいと思っています。女性の権利が国際基準になることで、人口減少による労働力不足を緩和することができます。次世代にジェンダー平等な明るい未来を残したいです。

―ありがとうございました。

*=内閣府男女共同参画局「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」(20254月)より

Profile

やました・やすこ/東京都生まれ。法学博士、文京学院大学名誉教授、ジェンダー法学会元理事長。国際女性の地位協会名誉会長、日本ネパール女性教育協会理事長、男女共同参画社会づくり功労者内閣総理大臣表彰(2015年)、外務大臣表彰(2017年)。

はじめまして!! 新理事紹介/小林顕(こばやし  あきら) 理事

はじめまして!! 新理事紹介/小林顕(こばやし あきら) 理事

◆「皆様のお役に立てるよう」

去る6月15日に開催されました第53回定期総会における役員選挙により、新しく理事に就任いたしました。会員歴37年、広報・ホームページ部員を13年務めさせていただきましたが、協会運営については新参者です。先輩方のご指導の下、皆様のお役に立てるよう精進して参ります。よろしくお願いいたします。

教えて!会長!! Vol.95「マイナンバーカードに関する有効期限」

教えて!会長!! Vol.95「マイナンバーカードに関する有効期限」

Q マイナンバーカードに関する有効期限について注意喚起されているようですが。

 保団連(全国保険医団体連合会)が5月に、マイナ保険証に関する本年24月の調査結果を発表しました。その結果、有効期限切れのトラブルが31%あり、202489月に行った前回調査の14.1%から2倍以上に増えていたことが明らかになりました。

厚生労働省が示した資料を以下に紹介します。

・マイナンバーカードには、①発行時から10年(未成年者は5年)のカード本体の有効期限と、②発行時から5年の電子証明書の有効期限の2種類が設定されている。

・マイナ保険証の利用に当たっては、マイナンバーカードの電子証明書を用いて本人認証を行なっているが、正確かつ電子的な資格確認だけでなく、よりよい医療の提供のためには、電子証明書を期限内に適切に更新していただく必要がある。

※電子証明書の有効期限が切れると、マイナ保険証としてだけでなく、マイナポータルを通じた電子申請や、コンビニ交付などの各種手続でも利用ができなくなる。

・なお、マイナンバーカードの電子証明書の有効期限は、(中略)有効期限切れとともに、医療保険の資格自体が喪失するものではない。

有効期限切れのトラブルが増えた一因としては、25年はマイナンバーカード制度が始まって10年目、さらにマイナポイント事業開始から5年目に当たることがあります。有効期限切れを迎える方は、約2千800万人と報告されています。

 Q マイナンバーカードに関する有効期限は、広く周知されているのでしょうか。

A 私が診療している患者さんにお聞きしたところ、大半の方はご存じではなかったです。マイナ保険証で受診される患者さんと我々医療機関にとって、この問題が日常の保険診療の障害になる可能性は高いといわれています。これらの危惧への対策が一つの理由だと推察していますが、厚労省は43日、マイナ保険証の有無を問わず、75歳以上の全員に「資格確認書」を配布することを決めました。経年的に発生するトラブルからみても適切な判断と評価しますが、そもそも現行の健康保険証を残して徐々に移行することにすれば、無駄な税金を使わなくて済んだのに…。と思わずにはいられません。

さらに世田谷区と渋谷区は、すべての国民健康保険加入者に「資格確認書」を配布することを発表しました。これを受けて、福岡資麿厚労大臣は516日に両自治体の対応に異論を述べました。国は、健康保険証を発行するのと同じ状況になる世田谷区と渋谷区の動きを望ましくないと考えているのでしょう。しかし自治体としては、一斉送付した方が住民の混乱を防ぎ、行政コストが減少すると判断したのでしょう。私は、都内のそのほかの自治体にこの流れが広がることを期待したいです。

◆お知らせ

突然ですが、この「教えて!会長!!」は今回が最終回となります。178月1日発行の本紙第569号に第1回を掲載させていただいてから約8年間、休むことなく会員の先生方、また全国の関係者の方々に向け、歯科医業・医療に役立つ情報を毎月執筆してきたつもりです。最後にこの場をお借りして、御礼をお伝えします。長い間、ご高覧をいただきありがとうございました。そして、今後も東京歯科保険医協会へのご理解・ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

東京歯科保険医協会

会長 坪田有史

※「東京歯科保険医新聞」2025年5月号掲載

【お知らせ】デンタルブックの復旧について

サーバーの不具合により、デンタルブックにログインできない状況が続いておりましたが7月4日(金)午後2時現在、復旧いたしました。

会員の皆さまにご迷惑をおかけしましたことを深くお詫びいたします。

デンタルブックには以下からログインできます。
▼デンタルブックへログイン


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【お知らせ】デンタルブックの不具合について

【お知らせ】デンタルブックの不具合について

7月4日(金)午前10時現在、サーバーの一部に不具合が発生し、デンタルブックにログインできない状況となっております。
復旧に向けて作業をしており、復旧次第改めてお知らせいたします。

会員の皆さまにはご迷惑をおかけしており、誠に申し訳ございません。

※【7月4日14時 更新】デンタルブックは復旧いたしました。ご迷惑をおかけしましたことを深くお詫びいたします。(【お知らせ】デンタルブックの復旧について

第53回定期総会開催/新会長に早坂美都氏 女性で初/会員のため歯科医療の課題に対処

第53回定期総会開催/新会長に早坂美都氏女性で初/会員のため歯科医療の課題に対処

協会は615日、新宿区内のTKP市ヶ谷カンファレンスセンターで第53回定期総会を開催し、会員ら47人が参加した。2017年から48年にわたり会長を務めた坪田有史氏が退任し、新たに会長として選出された早坂美都氏(左写真)が抱負を述べた。第6代会長となり、協会設立から約半世紀の中で初めての女性会長となった。

◆各議案が承認/会員からは要望も

役員改選では立候補した23名全員が信任選出。現職の役員に加え、小林顕氏が新理事に就任した。また、これまで副会長や広報・ホームページ部長などを歴任してきた藤野健正監事が退任し、新たに顧問となった。

その後に行われた臨時理事会で早坂新会長ほか、加藤開、坪田有史、馬場安彦、本橋昌宏、山本鐵雄の各氏が副会長に選出された。

当日は併せて、東京新聞編集局社会部編集委員の長久保宏美氏による記念講演が行われた。続く懇親会では、会員や関係者らが交流を深めた。

定期総会の冒頭、坪田氏は会員をはじめ、役員、部員らにこれまでの感謝の意を表し、会長職を退く意向を表明した。その後、池川裕子理事が関係団体などから寄せられたメッセージを読み上げた。また、議長には、島倉洋造氏、橋村威慶氏がそれぞれ選出され、議事を進行した。

1号議案「2024年度の活動報告の承認を求める件」、第2号議案「2024年度決算報告の承認を求める件」「会計監査・会務監査報告」を行い、いずれも賛成多数で承認された。

続いて、第3号議案「2025年度活動計画案の承認を求める件」、第4号議案「2025年度予算案の承認を求める件」が提案され、こちらも賛成多数で承認された。第3号議案には、26年度診療報酬改定に向けた厚生労働省への働きかけや、従業員の雇用確保など歯科医院経営を守る取り組みを盛り込んだ。また、マイナ保険証問題を念頭に、全国民へ「資格確認書」の発行を国などに求めていくことも明記した。

さらに、第5号議案「役員改選の件」では役員選挙で理事、監事が選出されたほか、顧問、事務局長がそれぞれ承認された。

最後に第6号議案として、「決議採択の件」も賛成多数で承認された。

各議案に対し、参加した会員からは、医療機関への支援金の給付を東京都へ要望してほしいという声や、事務局体制や会員サポート体制の維持を求める意見などが出され、それぞれ執行部が返答した。

「アットホームな雰囲気」初参加の会員らも懇親

◆記念講演はマイナ問題 東京新聞・長久保氏

定期総会終了後、長久保氏による記念講演が行われた。テーマは「マイナ保険証と保険証廃止―担当記者の2年間」で、55人が聴講した。

長久保氏はマイナ保険証問題が取り沙汰されて以来、最前線で取材を続けてきた。講演では、多くのマイナンバーカードの電子証明書が2025年に有効期限を迎える問題については、既に川崎市の窓口で対応できない状況が起きていることを説明。一方で全国的にマイナ保険証の利用率は低迷しており、「メリットが十分に活かしきれていない」と指摘した。本講演の模様は本紙8月号で詳報する予定。

◆新旧会長が抱負と謝辞

会員や関連団体、議員らが参加した懇親会には、63人が集った。新会長お披露目となった冒頭の挨拶で早坂氏は「国民の皆さまが、より一層安心して歯科医療を受けることができるよう、さらなる努力を続ける」と抱負を述べた。その後、全国保険医団体連合会の天谷静雄副会長、東京保険医協会の須田昭夫会長らも登壇し、祝辞を送った。

その後、早坂新会長から坪田有史前会長に退任の花束が贈られた。坪田氏は「患者、国民のために思考を巡らせてきた」と会長任期を振り返り、「これからの協会もよろしくお願いします。本当に8年間ありがとうございました」と謝辞を述べた。

◆初参加の会員「協会はアットホーム」

会場には、初めて定期総会に訪れた会員の姿もあった。佐藤洋一先生(豊島区)は、「若手や新規開業の先生によりプッシュ型のPRができれば、より協会が発展していくのではないか」と、さらなる協会活動に期待。定期総会については「アットホームな雰囲気で会員の先生方と気軽に意見交換ができる楽しい時間を過ごせました。また次回も参加したい」と笑みを浮かべた。また、扇山隆先生(江戸川区)は、数年来続く健康保険証廃止問題をきっかけに、協会活動への関心が高まったと明かし、協会活動の報告や今後の見通しがまとめられた議案書を手にし、「活動の様子が詳しく載っているので、これを読むことが大切だと思った。参加してみなければわからないこともたくさんあった」と初めて足を運んだ定期総会を振り返った。