映画紹介№28「セッション / WHIPLASH 」

映画紹介№28「セッション / WHIPLASH 」

【2014年米国/デミアン・チャゼル監督作品】

「テンポを合わせる気があるのか?」
「わざとバンドの邪魔をすると」
「ブチのめすぞ」
舞台はニューヨーク、秀才の集まるシェイファー音楽院大学。
映画は将来、偉大な音楽家になることを夢見て入学し、日夜、練習に励んでいる優秀な学生が、常軌を逸した教授の指導の餌食にされ生徒の能力を引き出すと称して、潰されてしまった生徒のリベンジドラマです。
トップシーンはシェイファー音楽院の秋期から始まります。スロー・テンポのドラムが次第にテンポを上げ、暗い部屋の中でドラムの練習に励む十九歳の青年が映し出されます。

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「名前は?」
「ニコールです」
「何年生?」
これがこの青年と教師の最初の出会いでした。
「フレッチャー教授が僕の演奏をみてた」
と青年は誇らしげに父親に報告します。
「ビリーゼインを頭からやる」
「ドラム、スウィング、テンポ!倍速で!」
指揮者であり教官である教授は常軌を逸した恫喝と暴力で生徒を指導します。
「音程がズレている奴がいる」
「115小節から」
「まだズレてる奴がいる」
「犯人はお前だ」
「わざと音程をズラしてバンドの邪魔をしたいのか」
「お菓子は落ちてない。なぜ下を見る?」
「自分で音程がズレていると思うか?」
「はい…」
すると大声で怒鳴りあげ、
「足手まといも限界だ。 デ ブ野郎!」
「音程よりメシが大事か」
「なぜ座っている。出ていけ!」
「自覚のなさが命取りだ」
レッスンは熱を帯び、狂気に満ち、常に完璧を求め、生徒ができないと容赦ない罵声を浴びせます。
「おまえはクズでオカマ唇のクソ野郎だ!」
「女の子みたいに泣いて。 私のドラムがヨダレまみれだ」
「もっと、もっと練習しろ」
来る日も来る日も、スティックで指は擦りむけ、血だらけになります。演奏家の宿命は練習です。
「君と会う余裕がない」
恋人とも別れ、異常な、切迫した世界にのめり込んでしいます。
3人の競争者の中で主演奏者に選ばれるが、不運にも会場に向かうバスが衝突事故を起こし、遅刻してしまいます。それを理由に、一方的に主奏者から降ろされてしまいます。
「クソ野郎、殺してやる、死ね」と、教授に殴りかかりコンサートのステージは滅茶苦茶になってしまいます。その後青年は退学となり、教授は精神的苦痛を与え、極端に行き過ぎた指導があったと密告され、大学を追い出されてしまいます。そして数カ月後の夏、二人に運命的な再会が訪れます。
「密告者は お前だな」
「私をナメルなよ」
いったんは退場するが、引き返し「キャラバン」の序奏を叩き始めます。2000人の会場は「キャラバン」の演奏に包まれ、盛り上がって行き、ドラマのソロが延々と続きます。
音楽業界に留まらず、あらゆる組織、業界に潜む無能な権力者や指導者による歪んだ情景を切り取った秀作です。第87回アカデミー賞五部門でノミネートされ、教授を演じたJ・K・シモンズの助演男優賞を含む3部門で受賞しました。
(協会理事/竹田正史)