映画紹介№21「 少女は自転車にのって 」

映画紹介№21「 少女は自転車にのって 」

【2012年サウジアラビア製作/ハイファ・アル=マンスール監督】

「神に従えば」
「神は天国に私の場所を」
「用意してくださるだろう」
 映画は、戒律に縛られ、女性の行動が厳しく制約されているサウジアラビアの首都リヤドを舞台に、自転車に乗る夢に奮闘する10歳の少女ワジダを描いた作品です。
 黒色の長いローブを身にまとい、黒い髪を後ろに束ねた少女たちがコーランの一節を読み上げています。
「整列して、もう1度」
 カメラは少女たちの足元に向けられ、隠れて着飾っている靴下、足首に巻きつけた色とりどりのミサンガを映し出します。
「ミサンガは」
「1本二リヤルよ」
 サウジアラビアはアラビア半島の80%を占め、人口3000万人。絶対君主制の国。世界一の産油国。30%近い出稼ぎ外国人に労働を委ね、さらに医療機関も学校も無料の豊かな国です。
 イスラム教の発祥地であり、メッカはイスラム教最大の聖地。アラブ諸国の中で最も厳しい戒律を守っています。
 1日5回、礼拝を知らせる「アザーン」の声が町中に流れます。
 男性は踵まで隠れる真白な「トープ」と呼ばれる服装。頭に赤白のチェック模様のスカーフを被ります。
「ヒジャブをどうしてつけていないの?」
 学校では適時、厳しい服装、持ち物検査が行われます。
「ラブソングのテープ、それとサッカー・チームのミサンガ」
「こんなものはみな禁止されているのを知っているでしょう」
「言うことを聞かないと、嫁に出されてしまうわ」
 女性への制約は厳しく、男性がいる場所では、衣服の上から黒色の長いローブ「アパーヤ」を着用し、黒色のスカーフ「ヒジャブ」で髪を覆い、黒色の布「ニカブ」で顔を覆っています。
「笑うのはやめなさい」
「外の男性に声が聞こえてしまいます」
 自動車の運転や1人歩きができない。選挙権がない。町のレストラン、銀行、役所、スーパーの店員は皆、男性で、病院と学校以外では働けません。
「自転車がほしいの」
「女が自転車なんてダメよ」
 自転車を買うために、賞金がもらえるコーランの暗誦大会に挑戦します。
「暗誦は淀みなく、発音が正確ではあること」
 少女ワジダは、図らずも優勝してしまいます。
「賞金は何をに使うの?」
「自転車を買います」
「なんですって!」
「パレスチナの同胞に寄付したほうがよいのでは」
と、賞金は結局、少女の手に渡りませんでした。
 一夫多妻制。父親は第2夫人の家に入り浸りで、家に帰って来ません。
「ママがずっと待ちわびていたわ。2週間、一体どこにいたの?」
「パパはママの最初の恋人で、最後の恋人だったわ」
「でも、これからは2人よ」
「あなたの自転車を買っておいたから。世界一幸せになってね」
 2012年、ヴェネチア国際映画祭で国際アートシアター連盟賞などを受賞。
 この映画は映画館のないサウジアラビアで、初めて作られた長編映画。しかも監督はサウジアラビア女性。
 最近の中東情勢を思うと、現地の普通の人たちの現実的な日常生活はどうなっているのか、思わず考えてしまいますが、この作品は新鮮な感動、希望にあふれ、思わず少女ワジダを応援したくなる映画です。
(協会理事/竹田正史)