第53回定期総会記念講演/「歯科はマイナ保険証の必要性低い」 続く混乱、記者がひも解く/市の窓口整備に22億円計画も

第53回定期総会記念講演/「歯科はマイナ保険証の必要性低い」 続く混乱、記者がひも解く/市の窓口整備に22億円計画も

53回定期総会(616日)では、「マイナ保険証と保険証廃止~担当記者の2年間」をテーマに、東京新聞社会部編集委員の長久保宏美氏が記念講演を行った。

長久保宏美氏

長久保氏は、まずマイナ保険証の利用率について、20254月時点で全国平均は28.655%である一方、国家公務員共済全体の平均は29.57%、厚生労働省(第一)共済組合が33.0%、厚生労働省共済組合厚生労働本省本部が39.04%、総務省共済組合が33.52%と、国家公務員でも利用率が芳しくない状況を強調。また、東京都における電子処方箋の導入状況は24.7%(全国平均は29.3%)であり、歯科では東京が2%(全国は4%)と非常に低いことを指摘。医科、歯科の双方において、電子処方箋の普及が進んでいない実情を報告し、このまま導入が進まなければ、「政府が説明するようなマイナ保険証の利点を享受することはできない」とし、自らの考えを示した。

 

◆渋谷区・世田谷区 国保加入者全員に資格確認書送付

後期高齢者については、国会で野党議員の追及などもあり、267月まで暫定的に1年間延長して資格確認書を交付する措置が決まったと解説。さらに、渋谷区と世田谷区では、マイナ保険証の有無にかかわらず国保加入者全員に資格確認書を送付する対応を決めたことに言及し、両区長ともマイナ保険証を否定しているのではなく、制度の切り替え時期に受診トラブルがないようにとの配慮から、議会で承認を得たと説明した。その背景として、国保の標準システムの場合、マイナ保険証とのひも付けの有無確認の情報更新が1カ月に1回であるため、ひも付け解除手続き者の把握漏れなど、トラブルを防ぐための措置が必要であったことが挙げられた。

◆電子証明書の失効問題・更新手続きの混乱

マイナンバーカードのICチップに搭載された電子証明書の有効期限が5年であり、25年度中に電子証明書の有効期限を迎え失効するケースが1,580万件、10年目のカード本体の更新を迎えて失効するのが1,200万件と予測されていることを説明。既に川崎市では電子証明書やカード本体の更新を希望する市民で窓口が大混雑となり、対応できない状況が発生した。このため、同市では窓口整備に22億円をかける計画があることを紹介した。

また、区市町村に代わり地方公共団体情報システム機構から発送されるお知らせの電子証明書更新当日の注意書き事項に、「健康保険証のサービスを利用できない場合があります」という文言がある点に触れ、「更新日は保険証として使えなくなる可能性がある」ことへの懸念を表明した。

◆「」表示問題「簡単には解決できない」

また、全国保険医団体連合会(保団連)の調査では、回答した医療機関の窓口の9割で何らかのトラブルがあり、一旦10割負担を患者に求めた事例が1,241件あることを挙げ、「資格情報のお知らせ」を単体で使おうとする患者も多いことが指摘された。さらに、技術的な問題として、戸籍の旧字、異体字などを扱う自治体系システムと医療系の中間サーバーの経由する運用では、文字コードの違いによる「」表示の問題があり、「これは簡単には解決できない」と述べた。

◆マイナ保険証の対応が廃業判断に影響

加えて、歯科では患者との関係性が構築されているケースも多く、「マイナ保険証による資格確認の必要性が低い」ことを指摘した。また、帝国データバンクの調査結果をもとに、歯科医院の倒産・廃業・解散件数は過去最多を記録しており、26年には1,000件を超えると予想されているなど、マイナ保険証対応のための出費が、高齢歯科医師の廃業への判断を早めている可能性も示唆した。

質疑では、マイナ保険証導入に関する国の費用対効果の問題などについて、デジタル化による医療費削減効果の試算がないことへの疑義や、電子証明書の失効に伴う更新手続きの負担増、重複診療の削減効果に対する疑問、個人情報の監視目的としての利用についてなど、多数の質問が挙がった。長久保氏は、まだ多くの不明点があるとしつつ、現状のトラブルが数年間続くと予測し、マイナ保険証問題が解決しない状態で、「資格確認書との併用が続くことで医療現場においての混乱はなくならないであろう」と述べた。

第53回定期総会記念講演の会場風景

PROFILE:長久保宏美(ながくぼ・ひろみ)

東京新聞編集局社会部編集委員/1961年、茨城県生まれ。1988年、中日新聞社入社。水戸支局、東京本社社会部、東京都庁キャップ、警察庁など担当後、宇都宮支局長、編集局デスク長を経て選挙調査室長。2018年から福島特別支局長。2020年から編集委員。「マイナ保険証」の問題など取材。