訪問のすゝめ/久しぶりの来院、変わりきった患者…歯科訪問診療を決意/講習会参加で「思い強くなった」
「やってみると、何とかなった」―。久永常義先生(51歳/世田谷区)は昨年夏、歯科訪問診療の一歩を踏み出した。祖父は晩年、歯科訪問診療を受けながら最期を迎え、「いつかは自分も訪問を」という想いを抱いてきた。そんな時、久しぶりに来院した患者の姿を目の前に、ついに歯科訪問診療を決意。歯科訪問診療を始めるまでの経緯や経験について聞いた。
―歯科訪問診療を始めたきっかけを教えてください。
祖父が歯科の訪問診療を受けており、“口腔内をきちっとして旅立つ”という生き方が深く印象に残っていました。「どこから始めよう」と迷っている時に協会の「これから始める歯科訪問診療講習会」に参加したんです。コロナ禍も落ち着き、「そろそろかな」と思い、昨年歯科訪問診療のパンフレットを作成し、医院に置き始めました。
―最初の歯科訪問診療まではどのように。
5年ほど来院していた90歳代の患者さんが、パタリと来院されなくなったんです。その後、1年ほど経ち、久しぶりに来院すると付き添いが必要なほどすっかり変わりきっていました。一人暮らしという状況もあり、歯科訪問診療について説明した。
―事前にどのような準備をされましたか。
「高額な機器を揃えた」という話も聞きますが、協会の講習会では「診療所のような処置はできないことを前提に、少しずつ準備をしていく」とお聞きしていたので、準備の際に意識しました。歯科訪問診療の経験がある歯科衛生士もいたので、助言してもらいましたね。具体的には携帯型マイクロモーターや、簡易的な吸引器などを用意して、クリニックにあるものを持って行こうとすると忘れてしまうので、専用の訪問セットを用意しています。移動は自家用車で、移動が増えれば駐輪しやすい自転車も必要かなと考えています。
◆「孤独なんだ」訪問先での気づき◆
―訪問前に患者さんの周囲の方々と連携はされましたか。
事前にケアマネジャーさんとFAXで2、3回やり取りを重ね、現状の体調などを把握してから診療に臨みました。もともと5年ほど来院していた患者さんだったので、やりやすさはありました。
―最初はどのような診療を。
診療所の昼休みを利用してスタッフと一緒に伺い、口腔内の洗浄と義歯調整を行いました。診療の前後では、プライベートのお話もたくさんしました。自宅には会話できるコミュニケーションロボットが置かれていて、「きっと孤独なんだ」と感じ、処置だけして帰るのはかわいそうだという思いも抱きました。
―初めての歯科訪問診療はいかがでしたか。
訪問先でできることには限界があると感じました。それでも、患者さんが喜んでくれるならいいかなと思います。また、顔を見ればお互いに分かる関係ですから、歯科訪問診療をしてみて患者さんが安心して喜ばれていることがよく伝わりました。また、ご家族と一緒に通院されている高齢の患者さんには、「通うのが難しくなったら訪問しますよ」と声をかけるようにしています。遠慮されて「わざわざ来ていただかなくても…」と言われないよう、皆さんへ丁寧に説明しなければいけないと思っています。
◆講習会参加…歯科訪問診療の“同志”を前に意欲◆
―協会の講習会を受講してみて。
歯科訪問診療を志す先生の熱意が伝わり、「自分もやっていくんだ」という思いが強くなりました。手技を深めたり、実際の歯科訪問診療を見学できる機会があればぜひ参加してみたいですね。
―最後に歯科訪問診療を始めようと思っている先生にメッセ―ジを。
「行かなきゃ始まらない」というのが一番の実感です。行ってみなければ患者さんの状況が分からないし、そこで状況が掴めれば「これが必要だ」と、その次に繋がるので、困っている患者さんに何の手立ても打たないよりはいいのではないかと思います。
―ありがとうございました。
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