教えて!会長!!  Vol.94「歯科衛生士が行う浸潤麻酔」

教えて!会長!! Vol.94「歯科衛生士が行う浸潤麻酔」

Q1 歯科衛生士が行う浸潤麻酔が話題になっています。

A1 本年2月に開催された厚生労働省の第2回歯科衛生士の業務のあり方等に関する検討会で、「歯科衛生士が行う診療補助としての浸潤麻酔行為について」と題して検討が行われ、資料が公表されました。そこでは「歯科衛生士が浸潤麻酔行為を実施するために必要な研修(事務局案)」として講義、実習の内容が示されました。多岐にわたるその内容は、(一社)日本歯科麻酔学会の認定制度である「日本歯科麻酔学会認定歯科衛生士」あるいは(一社)日本歯科医学振興機構の認定制度である「臨床歯科麻酔認定歯科衛生士」が注目されました。

Q2 歯科衛生士が行う浸潤麻酔の位置付けは。

A2 「歯科衛生士法」では、歯科衛生士が行える業務は、予防処置・診療補助・歯科保健指導です。歯科医師の診療を補助する診療補助は、歯科医師の監督・指示のもとに行います。したがって、歯科衛生実地指導料を算定する際、歯科医師から歯科衛生士への指示内容の要点をカルテに記載しなければならないのです。歯科衛生士の診療補助は、歯科医師のみができる「絶対的歯科医行為」に対して、「相対的歯科医行為」と呼ばれます。

歯科衛生士の局所浸潤麻酔行為は、過去にもさまざまな議論や意見がありましたが、現在の解釈は、診療補助の範囲内であり、歯科医師の監督・指示のもとで行うことは可とされています。具体的な範囲として厚労省は、「歯肉縁上および歯肉縁下の歯石除去(SRP)時の疼痛除去を目的とする場合としてはどうか」と示しています。その際の理由として、「骨に作用させる必要はない」「歯髄に作用させる必要はない」「1.8mlカートリッジ1本以内の傍骨膜注射で対応可能」としています。

Q3 研修の具体的な内容は。

A3 厚労省が示している必要な研修は、歯科衛生士養成施設などで全て履修できることが望ましいです。示されている具体的な研修内容は、講義で合計840分、実習で合計270

分とされ、合わせると18時間30分となります。

検討案の段階ではありますが、講義では、「倫理と法規制」「生理学」「局所麻酔薬の薬理学「局所麻酔のための解剖学」「バイタルサイン」「医療面接」「局所麻酔法」「歯科局所麻酔時の局所合併症と対応」「歯科治療中の全身的偶発症と対応」。実習では、「浸潤麻酔」「バイタルサイン・生体情報モニタリング」「急変時の対応」「シナリオシミュレーション(血管迷走神経反射・アナフィラキシー・過換気症候群)」です。これらは非常に広範囲にわたる充実した内容といえます。換言すると、歯科衛生士が局所浸潤麻酔行為のために学習するボリュームは、なかなかの量だという感想を持ちました。

歯科衛生士の診療補助として対応可能な行為が増えることは、歯科医業面や歯科衛生士のモチベーションアップにつながるなどのメリットがあるでしょう。前述した「日本歯科麻酔学会認定歯科衛生士」、あるいは「臨床歯科麻酔認定歯科衛生士」を取得するのは、患者、歯科医院、指示した歯科医師、さらに歯科衛生士自身にとって安全に浸潤麻酔を行うことの担保となると思います。しかし、これらの資格を得なければSRP時に歯科衛生士の局所浸潤麻酔ができない訳ではありません。また、万一何らかの事故が生じてしまった場合、当該歯科衛生士ならびに指示・監督した歯科医師に責任が生じることは言うまでもありません。

会長 坪田 有史

※「東京歯科保険医新聞」2025年5月号掲載