第18回/最終回 歯科医療界自らによる正しい情報発信が必要

◆記事や番組の最優先課題は部数・視聴率の増

ビジネス誌「プレジデント」(2019年8月2日号)が、「若返り入門」という特集の中で、歯科を取り上げている。タイトルは「長生きしたいなら医者より歯医者の深い理由」。副題で「体が健康でも口の中がヤバい人の末路」とあるように、歯のケアを怠ると、さまざま深刻な病気を引き起こすという内容である。

歯科の重要性をうたったもので、歯科医療界にとっては歓迎すべき記事なのだが、一方で少々、違和感を覚えずにはいられなかった。「歯周病で体じゅうが病気だらけになる」として、脳・心疾患、糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症、ED(勃起不全)をはじめ、記事はたくさんの病名を挙げる。あたかも、歯周病菌が大半の生活習慣病の元凶と言わんばかりの書き方なのだ。

現実に沿えば、これらの病気の「一因となりうる」くらいの書き方が正しいだろう。しかし、マスコミは得てして、こうした煽るような取り上げ方をする。読者や視聴者の注目をいかに集めるかに腐心するのである。「週刊新潮」(2019年3月21日号)は「アルツハイマーと歯の怖い関係」という記事を掲載。歯周病菌が出す毒素がたんぱく質のアミロイドαを増やし、認知症を発症・悪化させるという。これ自体、真実の部分はあるにしても、歯さえケアしていれば、認知症を防げるというものではない。

ここで何を言いたいかというと、扇情的な表現が散りばめられた記事や番組は、たとえ真実を伝えていても、その信憑性をおとしめる結果になりかねないということである。

◆マスコミを見誤るな

うがった言い方をすれば、作り手の側は受け手の健康のことを考えて記事や番組を制作しているのではないのだ。どうしたら部数や視聴率を上げられるかが、彼らの最優先課題である。歯科のことを扱っても、その場限りで継続性も乏しい。多くの読者や視聴者は「話半分」くらいにしか受け取らず、しばらくしたらその内容など、すっかり忘れているだろう。

そのあたりを見誤ると、落とし穴にはまりかねない。歯科医療界はマスコミに過度な期待はせず、自身で正しい情報を日常的に発信する術を身につけるべきである。メディアに遠慮する必要はない。もっと大上段に構え、時には不遜になってもいいと思う。

◆知恵を絞り難局突破を

さて、昨年2018年4月から続いた私の連載も今回の第18回が最終回。この間、かなり辛辣で生意気な物言いをしてきた。数々の無礼をお許しいただきたい。

現在の歯科医療界は診療所数過剰、伸び悩む歯科医療費、経営悪化、地域偏在、材料高騰、歯科衛生士不足、貧困家庭のネグレクト、インプラントバッシング、歯科大の低迷など、問題は山積み。取り組むべき課題はあまりに多いが、もはや待ったなし。歯科医療界が一丸となって知恵を振り絞り、この難局を乗り切ってほしい。

 

【 略 歴 】田中 幾太郎(たなか・いくたろう)/1958年東京都生まれ。「週刊現代」記者を経て1990年にフリーに。医療、教育、企業問題を中心に執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベストセラーズ)。歯科関連では「残る歯科医消える歯科医」(財界展望新社)などがある。