協会ニュース

長期維持管理政策の歴史 vol.6/完

「長期継続管理」と「か強診」

1.歯管と初・再診料の変更

 歯管の初診月の引き下げとバーターで初診料の引き上げを実施。以前から支払側が問題としている初診時に歯管を算定し、3カ月以内に来院がない患者の割合が50%以上である歯科診療所が25%もあることに対し、「実際に継続管理を行った場合に算定すべき」との主張があった。これへの返答として、初診月の歯管は100点から80点とし、再診月は100点のままとするとともに初診から2カ月以内の算定開始の縛りをなくし、初診から2カ月以上経ってから最初の歯管を算定しても良い扱いとした。また、初診から6カ月を超える継続的な管理には、か強診の場合120点、か強診以外の場合100点の長期管理加算を認めるとした。初診料251点→261点、再診料51点→53点への引き上げに関して支払側は前回18年改定で十分ではないかとの意見であったが、歯科は中医協の調査でも明らかなコストを評価すべきとの主張を展開していた。2019年後半からの欧米での「コロナ禍」の急拡大、日本での感染者の拡大もあり、感染防止対策として受け入れたと思われる。

2.20年度改定での重点は長期継続管理による重症化予防

 「2020年度診療報酬改定では、①かかりつけ機能の評価を進める口腔機能低下への対応の充実、②口腔疾患の重症化予防、③生活の質に配慮した歯科医療の推進―に取り組むとされた。具体的には継続管理対象者の拡大の狙いでSPTの対象とならない歯周病患者へ歯周病重症化予防治療(P重防)が導入され、3カ月に1回算定できるとした。

【対象者】 対象者は、①2回目以降の歯周病検査を終えていること、②ポケットは4㎜未満である多くの部分は正常だが、部分的に限局した炎症またはBOPを認める「病状改善」した状態に対して、スケーリング・歯清・P基処等を行う―となる。G病名も対象だがP混検の患者は対象外である。目的はSPTの「症状安定」とP重防の「病状改善」とでほとんど全ての歯周病患者をカバーする形で重症化予防を進めるとともに初診料の繰り返しを抑制することが目的と思われる。

3. 世代別の口腔機能管理の再編

口腔機能管理・小児口腔機能管理は歯管の加算から独立した管理料と緩和された。また「特疾管」「歯在管」「周Ⅲ」の点数も引き上げ、管理への誘導を図った。

4. CAD/CAM冠の適応を上顎6番まで拡大

18年に下顎6番に導入されたCAD/CAM冠を上顎6番まで拡大しメタルフリーの一助としたが、1810月以降歯科を悩ましているのは12%金パラの逆ザヤ問題である。19年10月に1グラム1,675(税込)に改定した時点でも販売価格との逆ザヤは460円に達していた。この状態は今なお続いており、最大1グラム当たり1,000円に達する時もあった。協会・日本歯科医師会の粘り強い運動もあり素材の変動率による改定を1月・4月・7月・10月と、年4回行うこととなり、価格の参照時期も3カ月前から2カ月前の素材価格と短縮されたが、純パラジウムは価格の変動が激しく、円の上下もあり12%金パラの流通価格および素材価格とはかなり乖離した動きで高止まりのままである。22年度改定ではチタン冠やCAD/CAMインレーが導入された。硬さや強度に問題があるものの、対応策の一つとしてアピールする狙いが伺える。

5.22年は「コロナ禍」のなかでの改定となった

初・再診料を前回に続けて増点をしたが、P基処10点の廃止とセットでいつものやり方、スクラップアンドビルドである。2022年のテーマは地域包括ケアの推進であり、在宅歯科医療の改定が行われた。具体的には、以下の2点の通り。

  • 歯援診2の要件を引き下げるとともに、20分未満の診療の減算を一人だけの場合は70100から80100と減算幅を縮小し、訪問診療の増加を意図した。
  • 訪問口腔リハの内容変更。摂食機能障害に加えて20年改定で導入した「口腔機能低下症」の対象を65歳以上から50歳以上へと拡大。在宅への訪問診療を増やすための施策を次々と出してくるが、訪問専門ではない一般診療所では外来診療の合間にしか対応できない現状では拡大は難しい。

6.「か強診」の変更

SPT(Ⅰ)とSPT(Ⅱ)の統合が行われ、SPTとなり、か強診の届出の有無によって点数に差がつけられた。か強診の届出をしていない医療機関は、SPTの算定は3カ月に1回、歯周外科を実施した場合は月1回算定できる。か強診を届け出ている医療機関は毎月算定することができる。

【最後に…】

過去30年にわたる診療報酬改定の流れを雑誌「歯界展望」への拙稿から振り返ってみました。疾病治療から予防管理への流れの中で、行政の姿勢・方向に対し、開業医としての意見を届ける協会活動の大切さを改めて感じています。

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中川勝洋
東京歯科保険医協会 第3代会長、協会顧問

なかがわ・かつひろ:1967年東京歯科大学歯学部卒業、1967年桜田歯科診療所開設、1981年東京歯科保険医協会理事、昭和大学医学部医学博士授与。1993年協会副会長、2003年協会会長、2011年協会会長を辞し理事に。2022年理事を勇退し協会顧問に就任。

 

関ブロ 要望書提出/オンライン資格確認システムの原則義務化について

12月20日、オンライン資格確認システムの原則義務化について、関東ブロックの構成全9協会の会長・理事長による連名の共同要望書を、厚労相、デジタル相、中医協事務局、医療DX推進本部に提出した。
政府はオンライン資格確認システムを23年4月から義務化することを発表して以来、さまざまな施策を講じてきた。しかし、原則としてすべての医療機関に対して、①カードリーダーを備え、②マイナ保険証による資格確認作業を求めるという、いわゆる「義務化」を計画通りに施行することは明らかに困難な状況にある。
そのため、国民皆保険制度における資格確認手続きの方法の大変革を推進する政府に対して、責任ある対応を求めるものとして、要望書「1人の閉院・廃業者も出さないよう要望いたします」を提出した。

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「消費税及び地方消費税に係る仕入れ控除税額報告書」の提出について(令和2年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止・医療提供体制確保支援補助金)

厚生労働省より「消費税及び地方消費税に係る仕入れ控除税額報告書」の提出について(令和2年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止・医療提供体制確保支援補助金)という手紙が届いたという問い合わせが多く寄せられております。

これは2021年に行われた25万円の支援金についての報告書類のことです。
提出をしていない先生に対して手紙が届いているようです。
報告書の記入には25万円の「交付確定通知書」に記載されている日付と番号が必要です。
「交付確定通知書」が手元にない場合は支援補助金コールセンター(0120-974-036)に問い合わせをすれば日付や番号を教えてもらえます。

報告書の(1)には交付決定額を記入します。
多くの場合は25万円になるかと思います。

(2)には仕入れ税額控除額を記入します。
消費税の免税事業者の場合は0円と記入します。書類添付の必要はありません。
消費税の簡易課税の事業者の場合も0円と記入します。
簡易課税の場合は申告書の添付が必要となります。

その他、状況により計算が必要な場合もあるため、自身がどの事業者にあたるかわからない場合は、顧問税理士に確認をしてください。
個人で申告されている場合は協会にご相談ください。

なお、25万円の支援のあとに行われた8万円の支援金についても同様に仕入れ税額控除報告書の提出が必要です。

書類の書き方は以下のページに掲載をしておりますので、ご確認ください。
https://www.tokyo-sk.com/covid-19/#cyap104

報告書は以下のページからダウンロードできます。

↓↓25万円の支援金↓↓
「令和2年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止・医療提供体制確保支援補助金」について (mhlw.go.jp)

↓↓8万円の支援金↓↓
「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金」について (mhlw.go.jp)

東京歯科保険医新聞/新春号特別企画(2023.1月号)

東京歯科保険医新聞では、2023年1月号の紙面を彩る写真を先生方から募集しました。

この度は多数のご応募をいただき、誠にありがとうございました。

今回のテーマは『未来』。会員の先生それぞれが表現する“未来”をご覧ください。

 


▼以下、1月号の紙面に掲載した作品をご紹介します。※敬称略、順不同

「暗闇の先には輝き」/撮影:東京都中央区/臼井 伸行(葛飾区)

 

「干支にちなんで飛躍の年となります様に」/撮影:新潟県湯沢町/川本 弘(足立区)

 

「光の道」/撮影:神奈川県三浦市/神澤 晃(杉並区)

 

 

「躍動」/撮影:富山県立山町/吉田 真理(武蔵野市)

 

会長「年頭所感」/2023年1月1日

2023年 東京歯科保険医協会会長
年頭所感

2017年6月の定期総会で会長を拝命し、6回目の年頭所感として新年のご挨拶をさせていただきます。

5年前の年頭所感で本会会員数5277名とご報告し、今年5951名(1月1日現在)と会員数は順調に増加しております。この会員増には、既会員の皆様から多くのご紹介があり、この場を借りて先生方のご協力に厚く御礼申し上げます。また、未入会員の皆様におかれましては、本会へのご入会によって多くのメリットがあると自負しております。今一度、ご入会のご検討をよろしくお願い申し上げます。

さて、振り返ると22年はさまざまな出来事がありました。新型コロナウイルス感染症は、 20年初頭から全世界、日本国民、そして我々歯科医療機関を苦しめ、今年で4年目に突入します。22年、年明け早々に、それ以前にないレベルの「第6波」となる急激な感染拡大、さらに7月からの「第7波」は感染者が20万人を超える日も多く、日本の新規感染者数が7月末から4週連続で世界最多とWHOから報告されました。そして、「第8波」の中にある現在、全数調査が行われていないため患者数の把握は困難ですが、感染拡大は進んでいます。

しかし、この3年間、歯科医療機関において感染拡大に繋がる大きな問題は報じられておらず、歯科医師やスタッフの方々の日々の対応が評価されるべきです。対策のための物品費や感染対策に時間を割くスタッフに対する経費は、残念ながら22年度診療報酬改定の中で十分な評価が得られたとは言えません。本会が実施した会員アンケート結果では、22年度診療報酬改定が「良かった」と回答した方は6.5%と少なく、さらに新興感染症の対策としての初・再診料の各3点引き上げについては「感染対策に見合う評価ではない」との回答が93%でした。次期改定に向けて、本会としてさらに現場の実情を国会議員や厚労省に訴えていきます。

オンライン資格確認の原則導入の期限が本年4月に迫ります。導入の原則義務化に対する会員アンケート結果は、78%が「反対」でした。会員の声を背景に本会が訴えてきた「原則」の撤回、ならびに配慮措置・経過措置については昨年末の中医協総会で決定されましたが、様々な理由で導入が困難な医療機関への配慮が必要であることは引き続き訴えていきます。また、10月に開始される「インボイス制度」のほか、「電子帳簿保存法」「マイナ保険証への一体化」「電子カルテの導入」「物価上昇」など、今後も数多くの課題が山積しています。

会員の声の大小に関わらず国会議員、行政、自治体、そしてメディアを通じて国民に伝え、歯科医療の改善の力となれるよう、引き続き活動して参ります。また、今後も会員の皆様の声を集めるため、アンケートをはじめ、各種調査を行いますので、その際はご協力賜りますようお願い申し上げます。

そして、本年は本会設立50周年を迎えます。今後も倍旧のご支援をよろしくお願いいたします。

 

 2023年1月1日

東京歯科保険医協会会長

坪田 有史

ハラスメント対策は万全ですか?「医院経営と雇用管理2022年版」のご案内

「医院経営と雇用管理2022年版」が3年ぶりに改訂されました。パワーハラスメント対策はセクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策とともに事業主の義務になり、対応が求められます。その他にも医療機関にも関係の深い「罰則付きの時間外労働の上限規定」、「年次有給休暇5日間の取得義務」、2021年4月から中小企業にも適用となった「パートタイム・有期雇用労働法」について、日常の医院経営に利用しやすいよう、詳しい解説を加えました。また、社会保険の手続きや就業規則のひな形なども掲載しており、実務に沿った内容も網羅しています。労務管理にお困りの際にはぜひご活用ください。希望の方は、下記URLからお申込みください。詳細は経営管理部(03-3205-2999)までお問い合わせください。

〔目次〕
第1章 職員雇用に必須の労働法・パート関係法令-労働基準法・労働契約法・パート労働法のポイント-
第2章 求人と採用・試用期間
第3章 職場における規律
第4章 労働時間・休憩時間
第5章 休日・休暇
第6章 賃金
第7章 安全衛生・健康管理
第8章 労働保険・社会保険
第9章 女性に関する特別規制
第10章 育児・介護休業制度
第11章 ハラスメント
第12章 退職・解雇 -労働契約の終了ー
第13章 懲戒
第14章 就業規則の意義と記載事項
    各種様式集/参考資料

※会員に1冊まで無料でお送りします。

※書籍の到着はお申込みをいただいてから1週間程度掛かりますので予めご了承ください。

 

申し込みはこちら→https://forms.gle/AsQQmPR4GzK4DYDv5

すべての歯科医療機関が安心して診療できるように

オンライン資格確認システムの導入に経過措置が設けられることは、導入できない事情を抱えていた歯科医療機関にとってはひとつの安心材料である。しかし、あくまでも経過措置であることから、政府は全保険医療機関を対象とした導入義務化の強硬姿勢は崩していない。経過措置の期間だけでは対応が難しい歯科医療機関もあり、今後も国に対して、〝原則義務化〟撤回を求め続けていく必要がある。
一方で、導入した医療機関に対し、ランニングコストなどの費用補填として、10月よりマイナ保険証利用の際に初診時の加算が始まったが、今回の中医協では、さらに現行の健康保険証の患者に対し、初・再診料に加算する案が示された。マイナカードを普及させる目的で、診療報酬を改定し、患者負担増を行ってよいものなのか。政府は24年秋にマイナ保険証の事実上義務化を打ち出しているが、現行の保険証がなくなれば、患者はセンシティブな情報にアクセスできるマイナカードを常時携帯しなければならなくなり、その不安は大きい。
医療DX化は本来、安心安全の医療のために行われるべきもので、すべての保険医療機関・国民に負担を強いるものであってはならない。今回の経過措置の設定は政府の強引な導入〝義務化〟に対する開業医の切実な声が反映された結果である。
協会は、今後もオンライン資格確認システム導入の〝原則義務化〟については撤回を求めていく。また、導入を行う歯科医療機関に対しては、サポートも行っていく。導入する、しないに関わらず、すべての歯科医療機関が安心して診療が続けられるよう働きかけを続けていく。何か不安なことがあれば、協会までぜひお寄せいただきたい。

 

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・オン資システム 4月開始間に合わず/経過措置示される

オン資システム 4月開始間に合わず/経過措置示される

「やむを得ない事情」6項目と期限 中医協 12・23

12月21日、23日に中央社会保険医療協議会(以下、「中医協」)の総会が開催され、オンライン資格確認(以下、「オン資」)の原則義務化について、2023年3月末までにシステム導入が完了しない保険医療機関等の「やむを得ない事情」の経過措置と診療報酬上の評価が決定された。
21日の総会には、12月11日時点のオン資の運用が可能な施設数は義務化対象施設(手書きレセプト請求医療機関を除く)に対して41.0%と低調であり、当初の導入目標に達しないことから、期限付きの経過措置を設けることが諮問されていた。
その後、23日の答申では、「やむを得ない事情」の6項目とその期限が示された(表1参照)。具体的な経過措置として、23年2月末までにベンダーと契約締結したが、導入に必要なシステム整備が未完了の保険医療機関について、システム整備が完了する日まで(遅くとも23年9月まで)を対象とした。
また、光回線のネットワーク環境が整備されていない場合や訪問診療のみを提供する場合、保険医療機関を廃止・休止する計画を定めている場合なども対象とした。その他、特に困難な事情がある場合として、「自然災害等により、継続的に導入が困難となる場合」「高齢の医師等でレセプトの取扱件数が少ない場合(目安として、23年4月時点で常勤の医師等が高齢で、月平均レセプト件数が50件以下)」「その他例外措置などと同視できる特に困難な事情がある場合」が例示された。経過措置には、23年3月末までに厚生局への届出(改修完了予定月を含む)を義務とした。なお、補助金(医療情報化支援基金)の対象期間は、それぞれ異なるので注意が必要である。
診療報酬上の評価としては、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」に関して、厚労大臣と財務大臣による大臣折衝が行われ、オン資の導入・普及の徹底の観点から、マイナ保険証を利用しなかった場合には、23年4月から12月末までの特例で再診時に2点の加算を設けるとともに、初診時は4点から6点に引き上げることも確認された(表2参照)。
連合委員の間宮清氏からは、「マイナ保険証を持参しないとペナルティー的に料金が高くなるのは納得できない」と疑義が出された。

 

 

 

 

 

 

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・すべての歯科医療機関が安心して診療できるように

<速報>オンライン資格確認システム導入補助金を受ける場合はポータルサイトへの登録が必要です

12月23日に行われた中医協にて、オンライン資格確認システム導入については、導入の補助金(42.9万円)を希望する場合、12月末までのカードリーダーの申請、2023年2月末までに業者との契約が必要となりました。一部導入に経過措置も設けられましたが、経過措置の対象であっても補助金(上限42.9万円)を申請するためには12月末までのカードリーダーの申請および2月末までの業者との契約が必要です。

 これにより、導入にあたって、補助金(上限42.9万円)を受ける場合は、ポータルサイトへの登録及びカードリーダーの申請を今月中に行う必要があります。

 ポータルサイトへの登録については、8月もしくは10月に支払基金より書留で届いている書面に記された「仮メールドレス」「仮パスワード」が必要となります。紛失・破棄している場合はオンライン資格等コールセンター(0800-0804583)に電話をし、一度登録の削除、および新規登録の作業が必要となります。削除には2~3営業日かかるため、ポータルサイトへの登録をしていない医療機関は早急に対応が必要です。また、登録後にカードリーダーを申請してください。

取り急ぎポータルサイトへの登録方法及びカードリーダーの申請についてまとめましたので、ご参考にしてください。

ポータルサイトへの登録方法およびカードリーダーの申請方法

登録は下記サイトより

医療機関等向けポータルサイト

また、2月末までに業者との契約を結ぶ必要もあります。ポータルサイトにて公表されておりますので、ご確認ください。

「オン資導入支援サービス業者オンライン資格確認に係る導入支援サービス」提供業者お問い合わせ先

現状、申請が1月以降になった場合については、補助金額が減額(32.1万円)となります。2月末までに業者と契約をしない場合は、補助金の対象外となります。

 

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)12月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)12月1日 第633号

【1面】

   1.オンライン資格確認・マイナ保険証/課題山積 医療機関に募る不安
   2.オンライン資格確認システムの導入に係る補助金支給
   3.多発する医療機関へのサイバー攻撃/ランサムウェア被害が増加傾向 厚労省が注意喚起
   4.オンライン資格確認の原則義務化・保険証廃止に関する実態・意識調査ご協力の御礼
   5.「探針」
   6.ニュースビュー

【2面】

   7.2023年1月 歯科用貴金属価格改定 金パラは引き上げ・銀合金は引き下げ
   8.昨年度 高点数による個別指導の実施はゼロ
   9.オン資とマイナ保険証等で強い抗議/保団連関ブロ協議会が決議と特別決議
   10.12月より新たな局所止血材が保険収載
   11.オーラ注が8~9月に出荷調整
   12.東京歯科保険医協会ホームページご案内

【3面】

   13.ドクター・スタッフ講習会~シャープニング・SRP実習~開催/“スタッフ教育にご活用を”
   14.第4回メディア懇談会“オン資”原則義務化・健康保険証廃止など医療機関側の負担を主張
   15.義歯政策の基本を伝授/第1回若手歯科医師向けベーシック講座
   16.会員寄稿「声」未だ見えぬ歯科医療の行方~患者さんを想いながら~(矢澤奈保美氏/大田区開業)
   17.「歯科医療費の総枠拡大」で一致/保団連歯科全国交流集会を開催
   18.休業保障制度ご案内
   19.共済部だより

【4面】

   20.教えて会長!! No.65「電子処方箋って?」
   21.経営・税務相談Q&A No.399「年末調整・領収書の再発行」
   22.IT相談室/オンライン資格確認システム導入で気を付けたい「無駄な投資」永田康祐(クレセル株式会社)
   23.法律相談、経営&税務相談
   24.東京歯科保険医協会 Facebookご案内

【5面】

   25.研究会・行事案内
   26.会員優待のご案内
   27.年末年始 協会事務局休務のお知らせ

【6・7面】

   28.ヴィンヤード多摩・森谷尊文氏インタビュー「ぶどう栽培から広がる共生社会 社会貢献に想い馳せる」
   29.東京歯科保険医協会 資料請求ご案内

【8面】

   30.【Special Serial No.3】社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み/審査結果の不合理な差異解消に向けて 山本光昭氏(社会保険診療報酬支払基金 理事)
   31.協会史を振り返り現在・未来を見つめるvol.5 「口腔機能管理と『か強診』」(中川勝洋氏)

【9面】

  32.症例研究/居宅での訪問診療

【10面】

   33.連載/歯科界への私的回想録③(オクネット・奥村勝氏)「マスクが教える『世界文化の相違』と『着用者の深層心理』」
   34.通信員便り No.128
   35.理事会だより
   36.協会活動日誌/2022年11月

【11面】

   37.「患者さんの声を集める」待合室キャンペーン開始/アンケートに答えた患者さんにカタログギフトが当たる!
   38.衆・参両院の与野党 国会議員に要請実施/オン資導入「選択の自由」と75歳以上2割化の中止を求める
   39.加藤厚生労働大臣に要望証/日歯
   40.歯科技工シンポジウム10・29 大臣告示7:3問題
   41.保険でより良い歯科医療実現を/いい歯デー宣伝行動を巣鴨で実施
   42.目の前に実物保存の「第五福竜丸」
   43.書籍案内

【12面】

   44.年末年始 休診案内ポスター&卓上型プレート
   45.神田川界隈/国民が求める歯科医療界(藤野健正監事/渋谷区)
   46.特別企画「今年の漢字」2022応募結果発表
   47.「歯の健康の大切さに気付けた」などの声が!保険医協会 健康まつり2022

談話 「防衛費ではなく医療・社会保障を充実させ平和な日本を」

12月5日岸田首相は、防衛費を5年間で総額43兆円とするよう指示しました。現行の防衛費予算を倍にしようというもので、相手国のミサイル発射拠点をたたく反撃能力の整備などにあてるとしています。専守防衛を国是としてきた日本が、相手国を射程範囲に含める戦力を保持するということは、相手国に脅威を与え、ひいては果てしない軍拡競争に突入してしまう恐れがあります。

防衛費増額の財源は、歳出改革、剰余金や税外収入の活用、税制措置などを挙げています。実際に政府の有識者会議では財源の一つに国立病院機構と地域医療機能推進機構の積立金合わせて約1,500億円の早期返納を挙げています。歳出の削減では医療費や社会保障関連費用が狙われています。自民党幹部からは「社会保障の水準を切り下げも議論」という意見も出ています。首相も2027年度約1兆円強の増税を示しました。東日本大震災からの復興予算にあてるため、所得税に上乗せされている「復興特別所得税」の一部を活用する案も出ています。

世界銀行が公表したデータによれば、2022年9月現在の合計特殊出生率世界ランキングで日本は187カ国中174位です。このままでは少子化で日本が亡びてしまいます。内閣府の子育て予算国際比較(対GDP比)ではスウェーデン2.9%、フランス2.8%、イギリス2.2%、ドイツ1.9%、日本0.6%となっています。防衛費を増やすより、少子化対策や医療・社会保障の改善が急務です。今が岐路の時です。私たちの医療や社会保障を守る運動は本当の意味で「国を守る」ことにつながっていくのです。

東京歯科保険医協会は命と健康を守る医療人としての立場から、あらゆる戦争に反対します。引き続き、憲法を守り、社会保障の充実、平和な日本を目指す活動を行っていきます。

 

2022年1214

東京歯科保険医協会

反核平和担当理事 矢野 正明

長期維持管理政策の歴史 vol.5

口腔機能管理と「か強診」

 2018年4月は6年に1度の医療・介護の同時改定であり、地域包括ケアシステムの構築を目指た内容で、歯科においても、

①かかりつけ歯科医の機能の評価

②周術期等の口腔機能管理の推進

③質の高い在宅医療の確保

などを行うとともに、安心・安全な歯科医療の充実として、

㋑院内感染防止対策の推進

㋺ライフステージに対応した口腔機能管理の推進

㋩全身的な疾患を有する患者に対する歯科医療の充実

が取り上げられた。

 また、「院内感染防止対策の推進」としては初・再診料の見直しが行われた。これは14年、および17年に口腔内で使用する機器(タービン等)について、患者ごとの交換に関する記事が新聞掲載されたことに対する厚労省の対応で院内感染防止対策を推進するとして初診料に対する施設基準の新設と併せて、10月1日以降に初・再診料の見直しを行った。初診料3点、再診料3点の引き上げだが、歯科外来診療環境体制加算(外来環)を算定している歯科医療機関は1点の引き上げで世間向けのポーズである。

 20年度改定でも感染防御への対応として初・再診料ともに引き上げられ初診料は261点、再診料は53点となったが中医協の論議での1回あたり268円のコストには見合ってはいない。「かかりつけ
歯科医機能の推進」として各種医科との連携関係の管理料が見直され、管理がより強く打ち出された。また、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)の施設基準見直しが行われた。
初期齲蝕およびSPTの管理実績の追加、研修内容の見直しおよび地域連携の参加実績の要件を追加した。

①フッ化物歯面塗布処置又はエナメル質初期齲蝕管理加算あわせて10回以上

②SPT(Ⅰ)またはSPT(Ⅱ)があわせて30回以上

③訪問診療1または訪問診療2が5回以上

④情Ⅰ又は診療情報連携共有料の算定が5回以上

⑤地域連携に関する会議への参加実績

など、大変細かな条件が追加され、施設基準の届出を行う歯科医療機関には高いハードルとなり、既届出医療機関も20年3月
31日までに新しい要件を満たすことができなければ返上というルールで選別を図った。

質の高い在宅医療の確保
 20分要件を厳格化し、20分に満たない場合の70/100算定を取り入れる一方、一人のみの訪問の評価は引き上げるとともに歯科訪問診療移行加算を新設。また、歯科衛生士同行の評価としての歯科訪問診療補助加算(訪補助)も歯援診に限っていたものを歯科訪問診療を行う医療機関へと拡大し、かかりつけ歯科医として在宅診療にも積極的に取り組むよう誘導した。
 また、「歯援診」を1と2に分化するとともに「歯在管」および「訪問口腔リハ」を見直して在宅に関しては「歯援診」届出医療機関を「か強診」届出よりも重視している様子が見て取れる。
歯科衛生士が訪問する場合の患者が住む建物の概念を同一建物から単一建物へ変更、「同一日」ではなく「同一月」に何人を診療したかによって算定する方式に変更され、かかりつけ歯科医の訪問には手厚いが訪問専門の保険医療機関には厳しい内容となった。

 ライフステージに対応した口腔機能管理の推進15歳未満の子どもの口腔機能発達不全、および65歳以上の高齢者の口腔機能の低下に対して「口腔機能発達不全症」「口腔機能低下症」の新しい病名を導入し、歯管に対する加算100点を新設した。低下症の診断基準の検査項目として新たに「咀嚼能力検査」「咬合圧検査」「舌圧検査」を導入した。「咀嚼能力検査」「咬合圧検査」は有床義歯咀嚼機能検査1・2にも利用されエビデンスに基づく算定を強化した。


メタルフリー修復の拡大
 先進国で臼歯部にメタル歯冠修復をする国は少なく、以前からメタルフリーが求められていたが、下顎第一大臼歯に限りCAD/CAM冠が導入された。条件は厳しく上下左右の第二大臼歯が全て残存し、左右の咬合支持がある患者とされた。20年にはパラジウム合金の逆ザヤ問題もあり上顎第一大臼歯にも拡大されたが脆弱性の問題がある。
20年改定に向けて歯科では「長期継続管理による重症化予防」がメインで「歯管」の見直しとともに、初・再診料の引き上げを行った。支払側は前回で十分ではとの意見であったが診療側はコストを重視して欲しいと要求、10 点・2点の増点とされたが、この時点では「コロナ禍」は認識され
ておらず20年4月を迎えた。

 

中川勝洋
東京歯科保険医協会 第3代会長、協会顧問

なかがわ・かつひろ:1967年東京歯科大学歯学部卒業、1967年桜田歯科診療所開設、1981年東京歯科保険医協会理事、昭和大学医学部医学博士授与。1993年協会副会長、2003年協会会長、2011年協会会長を辞し理事に。2022年理事を勇退し協会顧問に就任。

 

【教えて!会長!! Vol.65】電子処方箋って?

電子処方箋について教えてください。

 「電子処方箋」とは、電子的に処方箋の運用を行う仕組みです。そのほか、複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤された情報の参照、それらを活用した重複投薬などのチェックなどが行えると紹介されています。運用開始は2023年1月からですから、来月からスタートします。
社会保険診療報酬支払基金から11月の振込通知書が送付された封筒に「電子処方箋の導入準備をはじめましょう!」との案内が同封されていました。また、オンライン資格確認のために顔認証付きカードリーダーを申し込むために登録した「医療機関等向けポータルサイト」からも、「電子処方箋」の導入を促す内容のメールが届いています。それらに反応して、当会会員から協会に「電子処方箋」についての問い合わせの数が増加しています。

先電子処方箋の導入に必要なものは?

 まずHPKIカードの発行申請が必要です。歯科医師は一般財団法人医療情報システム開発センターに発行申請を行います。そこからはシステム事業者へ発注し、パソコン(オンライン資格確認の機器など)の設定などを経て、運用開始します。その後、補助金申請という流れが示されています。

HPKIカードとは?

 HPKIカードは資格証明書です。所持する人が医師・歯科医師・薬剤師の資格を有する者であることを証明するカードです。電子処方箋を導入すると、従来のハンコによる記名押印、あるいは署名ではなく、HPKIカードの電子証明書の情報を用いて、電子的に署名を行うので、電子処方箋を導入する場合は、HPKIカードが必要になるのです。なお、HPKIカードの発行手数料は、5万5000円(税込み)で、カードの有効期限は約5年です。また更新料は5万5000円で、継続するためにはランニングコストが発生します。

歯科にも必要ですか?

 行政は、電子処方箋を医療機関・薬局の多くに導入してもらうことを目指しています。歯科医療機関もその対象です。行政側は、歯科医療機関への導入メリットを示しています。しかし、私見ですが、処方の頻度が高い薬剤が、抗生剤や消炎鎮痛剤のみであったり、また院内処方を行っている歯科医療機関に導入のメリットが多くあるのでしょうか。HPKIカードの発行手数料からそのランニングコストと効果にも疑問があります。概要は、「オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関等向けポータルサイト(QRコード)」の中にある電子処方箋の案内ページをご覧ください。
 今後も適宜、本紙をはじめ、デンタルブックメールニュース、協会ホームページなどでお知らせします。

東京歯科保険医協会 会長 坪田 有史
(東京歯科保険医新聞2022年12月号4面掲載)

 

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オンライン資格確認システムの導入に係る補助金支給について

本会はオンライン資格確認のシステム導入の義務化について撤回を求めつつ、中医協で経過措置を得られるように継続して関係各所へ働きかけを行っていますが、残念ながら現時点では「義務化」撤回に至っておりません。

政府は、オンライン資格確認システムの医療機関への普及に向けて、補助金とその期限を示し、誘導をしています。以下の医療機関は、来年4月からオンライン資格確認システムの導入が義務化されます。

20234月1日から義務化が対象となる医療機関≫

〇オンラインでレセプトを請求している医療機関

〇電子媒体でレセプトを請求している医療機関

※紙レセプトで請求をしている医療機関は義務化の対象外です。

現時点におけるシステム整備に係る補助金支給の要件は、①12月末までの間にカードリーダーを申し込み、②232月末までにシステム業者と契約を結び、③同年3月末までにシステム運用準備を完了した場合に、④42・9万円を上限として支払われます。

現在、レセコンベンダー等の中では、11月末までにベンダーへの申し込みを行わない場合には、補助金申請に間に合わないとして、案内を行っているところもあります。

 当会では引き続き、義務化対象外の拡大や、補助金の支給要件緩和・期限の延長に向けて、取り組みを進めていますが、今般、レセコンベンダーの示している期限も迫ってきていることから、改めて状況をご案内させていただくこととしました。

 導入を前提に検討されている方は、レセコンベンダー等への連絡を開始されることをお勧めいたします。

◆オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関向けポータルサイト

◆オンライン資格確認導入対応業者お問い合わせ先PDF

◆オンライン資格確認に係る導入支援サービス提供業者お問い合わせ先PDF

 

本会はオンライン資格確認のシステム導入の義務化について撤回を求めつつ、中医協で経過措置を得られるように継続して関係各所へ働きかけを行っています。つきましては、引き続き、当会活動にご協力いただきますようお願い申し上げます。

東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)11月1日

こちらをクリック▶東京歯科保険医新聞2022年(令和4年)11月1日 第632号

【1面】

   1.オン資導入「義務化」は撤回を/導入しない自由必要
   2.来年秋 健康保険証廃止/全国で批判の声相次ぐ
   3.オンライン資格確認の原則義務化・保険証廃止に関する実態・意識調査ご協力のお願い
   4.「保険医協会 健康まつり2022」約800人来場し大盛況
   5.「探針」
   6.ニュースビュー

【2面】

   7.談話/健康保険証の廃止は今後大きな禍根と問題を生じさせる(政策委員長 松島良次氏)
   8.「事務負担増」「情報漏洩」オン資「義務化」に疑問の声
   9.歯科診療所 利点わずか/電子処方箋システム
   10.東京歯科保険医協会ホームページご案内

【3面】

   11.75歳以上2割化 10月から開始/窓口業務に多大な混乱
   12.開業歯科会員アンケート/今次診療報酬改定 4割が評価せず
   13.第1回学術研究会/スタンダードプリコーションと飛沫対策の強化が有効
   14.これから始める歯科訪問診療講習会/踏み出そう!歯科訪問診療!
   15.「保険でよい『歯』を」東京連絡会2022講演会
   16.新規開業医講習会/最新の指導情報を解説 講習内容は毎回リニューアル
   17.書籍案内「歯科疾患管理計画書(初回用)」

【4面】

   18.経営・税務相談Q&A No.398「書類等の保存期間~電子カルテの保存ルールは?~」
   19.研究会・行事のご案内①
   20.法律相談、経営&税務相談

【5面】

   21.研究会・行事のご案内②

【6面】

   22.東京大学・本田由紀氏インタビュー「残存する『戦後日本型循環モデル』打開で新たな社会の構築を」

【7面】

   23.【Special Serial No.2】社会保険診療報酬支払基金の概要と審査に係る取組み/審査支払に関する業務の概要 山本光昭氏(社会保険診療報酬支払基金 理事)
   24.保険医協会 健康まつり2022/詳報(1面続き)

【8面】

   25.教えて!会長!!Vol.64「医療情報を確認できる仕組みの拡大」
   26.IT相談室/“どうしても気になる”検索順位…SEO対策 Vol.2「SEOの本質」永田康祐(クレセル株式会社)
   27.中川勝洋氏連載、お休みのお知らせ

【9面】

   28.症例研究/Ni-Tiロータリーファイルを用いた加圧根管充填処置

【10面】

   29.連載/歯科界への私的回想録②(オクネット・奥村勝氏)「歯科業界マスコミの限界と期待」
   30.理事会だより
   31.生活保護指定医療機関 一般指導を実施/指定更新の医療機関中心に動画配信・受講確認票の提出が必要
   32.電子書籍「デンタルブック」ご案内
   33.協会活動日誌/2022年10月

【11面】

   34.会員寄稿「声」歯科医師と地域のつながり~町会長として地元を想う~(貝塚浩二氏/葛飾区開業)
   35.インボイス制度の正体【後編】制度の概要と影響(協会顧問税理士・荒川俊之氏)
   36.平和の尊さ訴える/3年ぶり現地開催「反核医師のつどい」
   37.休業保障制度お申し込みご案内
   38.共済部だより

【12面】

   39.医療研究フォーラム/会場・オンラインで同時開催 馬場副会長・相馬理事が発表
   40.神田川界隈/自分の歯は自分で?(半田紀穂子理事/台東区)
   41.通信員便り No.127
   42.新春号特別企画・「今年の漢字2023」募集中
   43.年末年始 休診案内ポスター&卓上型プレート

第18回/最終回 それでも保険制度に守られている?

【今後の技術革新を保険制度の変革につなげるには…】

1年半にわたるこの連載も、今回で最終回です。そこで、多くの歯科医療者が感じているであろう保険制度への不満と、技術革新がそうした状況を打破できるのかについての考察をまとめます。

◆70年代から「保険は限界」とされた

東京歯科保険医協会が東京都23区内に届出のある歯科技工所の経営実態を調べた調査(2021年1月18日公表、有効回答211件)によれば、2019年度の売上で「80%以上が保険」という回答が52%でした。そして、「総売上500万円以内」という回答が27%であるなど、個人ラボを中心に低収入で長時間労働、という実態を浮き彫りにしました。

以前から、保険技工の不採算性が問題でしたが、テナント料、人件費など固定コストが高い23区内の歯科技工所でも保険技工を中心にしているところが意外に多いことが印象的です。

私が歯科業界に入った1990年代の終わり頃から、「保険では食べられない」、「保険ではちゃんとした治療ができない」という声をたくさん聞いてきました。

こうした「保険診療限界説」は医科ではあまり聞きませんが、歯科ではかなり昔から語られてきました。『日本歯科新聞』の1977年5月11日号には、諸外国に比べて日本の歯科の保険診療単価が極めて低く抑えられていることを示す表が掲載されました。その号のコラムのタイトルは「限界に来た保険制度」というもの…。低単価政策に悩まされながらも、多くの歯科医師、歯科技工士らが保険診療を担ってきました。月刊『アポロニア21』に掲載した完全自費診療に移行した歯科医師のエッセイに、「保険扱い」の文言を看板に入れられなくなるのが不安、という一節があったのを覚えています。

◆技術革新は制度を変革するか?

保険制度には不満がある、けれども保険の仕事は続けたいという本音がある中、技術革新がさまざまな矛盾を解決してくれるとの期待も大きいようです。

その代表格がCAD/CAM技術。10年ほど前、院内用CAD/CAMを導入したドイツの歯科診療所を取材した際、「委託技工の工賃が上がって、単冠のクラウンならこうした機械に頼るしかないんだ…」との院長の率直なコメントに、同行してくれたメーカーの方の顔が凍り付いたのを思い出します。その後、機器やソフトの精度が飛躍的に向上し、「デジタルデンティストリー」の隆盛に繋がっています。

当時から、「光学印象データを海外に飛ばす国際流通が進むだろう」、「作業工程が効率化され、歯科技工士不足が解消されるだろう」などの予測が見られま 技術革新は制度を変革するか?した。日本はCAD/CAM冠を積極的に保険診療に導入している特異な国ですが、現状、保険技工では海外委託が(表向き)認められておらず、歯科技工士の不足はより深刻化しています。

逆に、治療効率が上がることによるオーバートリートメントを心配する意見も。アメリカ歯科医師会(ADA)のご意見番、ゴードン・クリステンセン氏は『JADA』(2013年10月号)に「2012年の1年間で全米で5450万本のクラウンがセットされた」との論文を掲載。CAD/CAMで簡単にクラウンが作製できるようになり、充填処置で済む症例でも「簡単で価格も高い」という理由から、より侵襲の大きいクラウンが選択されたと批判したのです。技術革新が、必ずしも患者利益には結び付かない例だと言えます。

今後の技術革新を保険制度の変革につなげるのであれば、歯科業界の都合だけで議論するのではなく、患者利益の視点が大切なのだと考えています。

(最終回)

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第16回 「歯科先進国では〇〇」ってホント?

【日本はもう少し自信を】

よく、「アメリカやスウェーデンなどの歯科先進国に比べると、日本は…」といった、日本を卑下するような論調を聞くことがあります。しかし、「歯科先進国」というのは定義が曖昧で、イメージが先行しているようです。

歯の健康意識や歯科疾患の実態を見ると、日本はもう少し自信を持って良いように思えてきます。

◆「アメリカ人の歯は悪かった」の理由

2015年に「アメリカ人の歯は、イギリス人より悪い」というニュースが話題になりました。国際的な医学雑誌「BMJ」が、同年のクリスマス版(左記表紙参照)で「25歳以上、の成人の欠損歯数を比較したところ、アメリカ7.31本に対して、イギリス6.97本だった」という記事を掲載。各国のメディアが取り上げました。

これがニュースになった理由は、欧米人の間で「イギリス人は、歯の健康に無頓着で、歯が汚い」、「アメリカ人は、歯の健康への意識が高く、歯がキレイ」というのが共通のイメージになっており、予想と異なる結果だったためです。

こうした比較はデータ元によって大きな違いが生まれるものですが、いずれにしても、日本(65〜69歳で平均6.7本、厚生労働省2016年)より良好とはいえない数字です。

アメリカの歯の健康度が低いのは、主として人種間格差によるものと考えられています。白人、アジア系に比べ、ヒスパニック、黒人の健康度が低く、それが全体のレベルも下げている構造になっているのです。公的医療が未整備で、社会経済的なリスクが表面化しやすいと言えます。

◆歯科先進国は18世紀にもあった

「歯科先進国ネタ」は、かなり以前から見られます。18世紀の終わり、ロンドンやバース(日本で言えば熱海のようなところ)で、歯科医院を開業していたシュバリエ・ラスピーニは、イタリアの大学で外科医のライセンスを取ったと宣伝。「イギリスと違い、イタリアやフランスでは、人々の歯への意識が高い」として、イタリア直伝の歯みがきや精油を手広く販売していました。ラスピーニは、インドなどにも通信販売ビジネスを展開し、さらにはフランスの最先端技術だった陶製人工歯のイギリス、アメリカへの伝播にも一役買ったとされています。

当時、イタリアやフランスは先進国で、イギリスなどは辺境の途上国とされました。これらの先進国から来たものであれば、多くの人が競って商品やサービスを購入したため、「イタリア、フランスでは…」が通用したのです。

◆「歯科先進国」の健康意識

歯科先進国の意識の高さを反映するとされる定期受診率も、再検討の余地がありそうです。「スウェーデンでは、国民の歯科保健意識が高く、国民全員が歯科健診を受けている」とされますが、赤司征大氏(ホワイトクロス代表・歯科医師)が、欧州各国における過去1年間の歯科受診経験を比較したところ、デンマーク78%、ドイツ77%などに対して、スウェーデンは71% でした。このうち、予防目的の受診の割合はノルウェーの79%、イギリス72% に対して、スウェーデンは60% でした(『アポロニア21』2016年11月号「安田編集室」)。これを掛け合わせると、予防目的で定期受診しているスウェーデン人は四

2.6%となります。日本の31.3%(日本歯科医師会、2018年)より高いものの、「国民全員」というのとはだいぶ差がありそうです。

あるスウェーデンのインプラント専門医が「インプラントも残存歯に含めることがある」と講演で指摘したのを聞いたことがあります。国際比較では基準を合わせるのも難しいのです。

自分たちの立ち位置を知るために、外国をベンチマークすることには一定の意義があるとは思いますが、実態をきちんと理解した上で議論することが大切ではないかと感じます。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第15回 集団免疫と社会保障のシステム

【注目されるその後のスウェーデン】

日本も含めて各国で新型コロナの感染者数が増加。「第3波が到来」との危機感が高まっています。深刻な感染拡大が続いたヨーロッパの中で、これまでロックダウン(都市封鎖)のような強い対策を取ってこなかったスウェーデン政府が、11月16日に「9人以上の集会を禁止」などの行動制限に踏み切りました。緩かった対策の背景には、人口の一定割合が感染すれば、それ以上の感染が広がらないという「集団免疫」への期待もあったとされます。集団免疫への期待は妥当だったのでしょうか。

◆冷静な判断と情報開示!?

スウェーデンは、ヨーロッパ全土でコロナ禍が広がった後も、他国で試みられたような強い措置を取らなかったことが知られています。コンサートなどは中止、映画館でも席を空けて

座るように求めるなど、まったく放置した訳ではないそうですが、飲食店の多くは自粛せずに営業を続けました。

結果、感染者数、死者数が周辺諸国より高い状態が続き、10月までの人口10万人対累積死者数はノルウェーの11倍、フィンランドの9倍に上っています(ジョンズ・ホプキンス大学)。

無為無策のように批判されたスウェーデンですが、7月17日には政府が「わが国は新型コロナウイルスに対する集団免疫を獲得したようだ」と発表。それまで北欧で問題児とされた防疫施策が、一転して評価されるようになりました。

特筆すべきなのは、学校が通常通り授業を続けたことです。「防疫上のリスクを考慮しても、学ぶ権利を侵害する事態ではない」と判断されたそうですが、新型コロナウイルスについては、若年層の感染・重症化リスクが低いことは、当然、考慮されたものと考えられ、その意味では冷静な判断がなされたといえるでしょう。

「集団免疫宣言」の後、世界中のメディアが「ひょっとして、スウェーデンの方策は正しかったのではないか」と論評を始めました。日本では、「スウェーデン政府は、悪い情報も含めて情報開示して国民からの信頼が高かった」と、日本政府の隠蔽体質を暗に批判する論調も見られました。

しかし、10月以降の感染再拡大により、ついに強い措置(それでも、周辺諸国よりは緩いが…)に踏み切らざるを得なかったということです。

◆医療改革で「制度のはざま」に

ただし、スウェーデン政府が未知のウイルス感染症に対しても、積極的で大規模な措置を講じなかった理由を考える必要があります。

スウェーデンでは、1922年のエーデル改革によって、「医療はランスティング(県)」、「介護福祉はコミューン( 市町村)」と、運営主体と財源を整理しました(下記表を参照)。ハーバード大学公衆衛生学大学院のデービッド・ジョーンズ氏らが「ランセット」(2020年9月19日)に掲載した論文「集団免疫の歴史」では、今を去ること110年前、1910年に起こった家畜の集団流産に始まり、その後、ヒトのジフテリアから学問的に観察されるようになった集団免疫について論述した上で、ワクチンなどがない段階では、人々の接触を減らすなどの措置が優先されるべきで、人々を感染させても構わないとする集団免疫を目指す施策は難しいと指摘しています。

現在も世界各地で「みんなで免疫を付ければ良いのだ」と、集団免疫を目指そうという人々がいるのは事実です。しかし、こうしたことは、公衆衛生の専門家から見れば望ましくないのかもしれません。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第14回 その後の歯科医師需給問題はどうなっている?

【歯科医師削減の先行例、オランダはいま】

◆歯科衛生士がう蝕治療

日本歯科医師会が、人口10万人当たりの理想的な歯科医師数として考えているのは50人台だとされています。これは、小児う蝕の蔓延に対して、歯科医師数が不足していた頃の数字で、現在、オランダが同程度となっています。

当然、オランダでは深刻な歯科医師不足となっており、ドイツなどEU圏内の諸国から歯科医師を受け入れて来ました。しかし、外国人歯科医師は数年で帰国してしまう傾向にあるため2020年から歯科衛生士が簡単な歯科治療を行う制度がスタートしました。

政策決定の段階で「タービン、抜歯鉗子を持たせるのか?」と話題になりましたが、そこまでではなく、C1程度の初期う蝕の治療が歯科衛生士業務となったのです。エア・アブレージョンの技術革新で非切削によるう蝕治療が可能になったことが、制度改革を後押しした面もあるようです。

う蝕、歯周病の大半の治療、メインテナンスを歯科衛生士業務とし、歯科医師は、より高度で難易度の高い診断、治療に特化する方向性といえます。

◆日本で歯学部廃止はありうるか

なぜ、オランダは歯科医師業務の見直しを迫られるまで歯科医師不足になったのでしょうか。

「むし歯、欠損が減れば歯科医療が縮小する」と予測し、歯科大学の廃止に踏み切ったものの、予想に反し、歯周管理や摂食機能療法、口腔がんへの対応など、歯科医療需要がむしろ拡大したのが最大の原因でしょう。

もともと、オランダは日本以上の歯科医師過剰国として知られていました。そこで、暫定的にすべての歯科大学を閉鎖。その後、四校だけを再び開設して調整した経緯があります。

こうした大がかりな調整は、教育システムへの国家の関与の度合いが大きいから可能になったことであり、学校経営の独立性の高い私立大学が歯科医師育成の主軸を担っている日本とは明らかに風土が違います。私立大学の場合、学校運営上、国の施策だとしても簡単には定員削減には応じられないためです。

日本でも1990年代、歯科医師需給問題が真剣に議論されました(左記の入学定員削減状況の表参照)。その際、対応策とされたのが以下の三つです。

①歯科大学の定員削減

②歯科医師国家試験の難関化

③(保険医)定年制

その後、実現したのは歯科大学の定員削減、歯科国試の難関化に限られます。

定員削減の一方で、多くの国立大学の歯学部附属病院が医学部に吸収され、基礎系科目の共通化なども進みました。また、高齢化の影響もあって医科との連携が必須となり、国家試験でも医科準用の問題が増えました。歯学部の医学部化が進んだのは事実でしょう。

オランダのように、一時的とはいえ完全に歯学部を廃止してしまうと、その後、歯科医療の業態が多様化して需要が拡大しても対応が難しくなって来ますから、現実的な処方箋が求められます。

医学部化が難しい単科大学では、「母国での受験失敗組を含む留学生枠を拡充」(神歯大)、「幅広く医療関連の専門職大学を目指す」(大歯大)など、国内の歯科医師育成だけに留まらない領域を拡大し始めています。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第13回 個別指導・監査はなぜ必要か

【悪質な逸脱を未然に防ぐ仕組みは?】

個別指導、監査の現行制度を批判する意見の中に、「戦前の行政手続がそのまま残されている」というものがあります。多くの保険医にとって恐怖の対象である個別指導、監査は、何が根本的な問題なのでしょうか。

◆個別指導、監査の運用改善

戦前の法制度では、行政官の裁量権が広く解釈されており、行政手続の権限を制限する仕組みも未整備だったとされますが、健康保険制度では、戦前の制度が現在まで引き続いているとの指摘があります。例えば、

①個別指導で「いつでも監査に移行するぞ」と脅す

②理由なく頻繁に指導を中断して精神的に圧迫する

③「お土産」的意味合いでの自主返還を暗に求める

などの事例は、「厚生労働行政の組織が戦前の制度を引きずっていて、警察官が検事や裁判官を兼ねているようなものだから」との指摘もあります。

こうした健康保険法の不備を改善して、保険医、保険医療機関の権利を守るべく活動している健康保険法改正研究会(石川善一、井上清成共同代表)は、弁護士が積極的に個別指導、監査に関与する活動を推進しています。

同研究会では、個別指導と監査を峻別し、「懇切丁寧を旨とする個別指導」と「行政処分の意味合いがあり証拠保全、尋問などが必要となる監査」とは、担当者も分けるべきだと主張しています。さらに、請求ルールからの逸脱の程度と、それによる処分の重さとのバランスを取るよう、求めています。実際には、そうした制度そのものを変えることには相当なハードルがありますが、現行制度のもとでも経験値の高い弁護士が関わることで保険医、保険医療機関の利益が守られる面も大きいようです。

◆いっそ、公営医療にしてみたら…

歯科メディアで仕事をしていると、「〇〇県で、個別指導で自殺者が出たようだ」などの話が寄せられることがあります。自殺と個別指導との因果関係が明確でなければ、報道は難しいため、こうした情報のほとんどが「お蔵入り」となります。しかし、その傍らで「そもそも、なぜ厚労省がこうした監視を行う必要があるのか」と疑問を持ちました。

保険制度は、原則的には保険者と医療側との契約なので、両者間の契約違反があれば契約解除、賠償請求というルールさえあれば良いはずです。しかし、日本では多額の公費が充当されているため、保険点数の改定、保険ルールの監視も行政が行う仕組みになっています。

さらに、時々、指導医療官の一部も豪語するように「オレたちが医療費削減の役割を担う」という意味合いも、あるのかもしれません。

本当に国が関与するのであれば、イギリスや北欧のような公営医療(NHS)の仕組みとして、年間予算の範囲で医療提供すれば、指導の行き過ぎはなくなるかもしれませんが、本

当にそれが医療従事者にとっても、患者さんにとっても、幸せなことかといえば疑問も残ります。

自由開業医制の良さを生かすためにも、ルールからの逸脱を予防し、「本当のワル」のみを未然に排除する仕組みを改めて模索する時期に来ているかもしれません。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第12回 医療保険ではちゃんとした治療ができない?

【保険診療の憲法上の根拠は第13条の幸福追求権】

よく、「保険ではちゃんとした治療ができない」、「保険診療は貧困層向け」という考えを示す歯科医師がいます。

しかし、不思議なことに、医科では、そういった声を聞くことはめったにありません。これは、なぜなのでしょうか。

保険診療の質に懐疑的な歯科医療従事者の多くは、公的医療保険制度が社会保障の1つという点から、「保険診療の憲法上の根拠は、憲法第25条の生存権だ」と考えているようです。しかし、憲法第25条は、生活保護(と、これに付随する医療給付など)に関する規定だとされています。

仮に、保険診療が生存権によるものだとすれば、1億円を超えるような高額な薬剤が収載されたり、貴金属を使用しているのに歯科医療従事者の評判が悪い「金パラ」で歯冠修復したりする必要はないはずです。

◆二木氏による「幸福追求権」とは

医療経済学者の二木立氏( 日本福祉大学名誉教授)は、保険制度を議論する際の大前提として、「保険診療の憲法上の根拠は、第十三条の幸福追求権だ」と説明します。

幸福追求権は、プライバシー権などで持ち出されることが多い比較的新しい人権ですが、質の高い保険診療が担保されるための権利だと言えます。

さらに二木氏によれば、「過去、医療費の削減を進めた政権でも、最適な医療保障という基本を外れたことはない」とのこと。日本の医療政策が「保険診療は最低限の医療」という考え方で実施されたことはないというのです。

◆「救貧法」の原則

保険診療を含めた社会保障を、貧困者向けの最低保障と見なすか、高度な質を保証するべきと考えるかは、各国の社会制度の成立過程によって違います。

例えば、地域包括ケアシステムを比較すると、イギリス、アメリカ、カナダなどは貧困者救済のニュアンスが強く出る傾向にあります。いずれの組織も対象者を厳しく絞り、徹底して費用対効果を重視します。

カナダ・ケベック州を中心とするケア組織「PRISMA」の担当者によれば、地域包括ケアシステムの「顧客」はサービス利用者ではないとのことで、納税者である地域住民の負担軽減のための活動と位置づけています。

どの組織も対象は主に貧困層。日本のように地域の高齢者全員を見守るという発想は希薄です。これらアングロサクソン系の国は、エリザベスⅠ世時代(17世紀初め)の救貧法(Poor Laws)からの伝統で、地域の貧困は地域の責任、貧困者への給付は必要最小限に、という原則が出来上がってきました。その後、大きな改正を経たものの、こうした原則が、社会保障の考え方に大きく影響しているものと考えられます。

そのため、公営医療(NHS)を持つイギリスにしても、民間保険中心のアメリカにしても、「必要最小限の給付が望ましい」とする発想は共通しているようです。

これに対して、幸福追求権を根拠として公的医療保険制度を運営している日本では、患者さんにとって最適、最良の医療を提供することが求められます。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第11回 なぜ、 歯科を給付しない国が多いか?

【歯科疾患は罹患者数が多く社会の損失も大きい】

2019年に、国際的な影響力のある医学雑誌「ランセット」が口腔保健の特集を掲載しました。その際、「歯科疾患は罹患者数が多く、社会の損失も大きいのに、各国政府は無視してきた」と指摘しました。これは、「公的医療システムでの歯科給付が必要だ」との訴えです。

では、なぜ歯科を給付しない国が多かったのでしょうか。

◆「治す医療」が給付対象

ヨーロッパを見ると、日本と似た構造を持つドイツなどは成人にも歯科給付がなされますが、租税を財源に公営医療を運営するイギリスや北欧諸国の歯科給付は原則、未成年まで。南欧諸国では、それすらも一般的ではありません。

近年では、歯周病や根尖病巣などの歯科疾患が、他の臓器にも影響することが知られるようになりました。このことは、医療制度の中に歯科給付を位置付けていく方向性にあると見られますが、長らく、「歯科治療はぜいたく品であり、公的給付になじまない」という考え方があったのは事実のようです。

そのため、成人の歯冠修復は公的給付の対象外で、給付対象となる未成年でも、ステンレススチールの乳歯冠などが一般的だったなど、徹底的にコストカットが図られてきました。これらは、かなりの富裕国でも見られる傾向のため、財政難が理由ではなさそうです。

1つ考えられるのは、公的医療システムが「治すための医療」を給付するように設計されてきたのに対し、歯科医療が、必ずしも「治す」ことだけに留まらない性質を持っていたことが挙げられます。

最初に公的医療システムが整備された1920年代、医療技術はまだまだ未発達な状態で、日本を含め、怪我や病気になった場合の所得補償(傷病手当)が、保険給付の主軸に据えられました。

その後、1940年代以降に公営医療が整備された頃には、医療技術の発達により、病院や保健所などでの傷病治療への給付ができるようになります。

こうして「治す医療」の発展と同時に、医療保険制度が整備されてきましたが、歯科は、必ずしも「治す」ことをゴールにしておらず、病院や保健所でのサービス提供にもなじまなかったといえます。

◆「補綴を含めてこそ」という主張

歯科医療従事者の中にも「欠損補綴や歯冠修復は修理(直す)であって、治療(治す)ではない」と考える人が少なくありません。矯正の対象となる歯列異常も、医学的な定義はまちまちで、医療現場ですら「正常でないから異常だ」という循環論法がまかり通っています。 さらには、「最終補綴」といった用語に見られるように、何かの完成品をセットすることをゴールと考える向きもあり、術後管理、経過観察といった、「治す医療」で一般的なあり方とは一定の距離があったのも事実でしょう。

そのため、公的医療システムに、歯科をフルカバーで入れる国が少なかったのではないかと考えられます。

翻って、日本で成人の欠損補綴も含めた給付が行われてきた背景には、保険制度発足当初から、歯科医師会などからの「補綴を含めてこその歯科医療」との主張が強かった点が挙げられます。

現在、諸外国で拡充が検討されているのは、欠損補綴よりも歯科検診や口腔ケアなどの予防管理、歯周疾患や根尖病巣などの慢性炎症対策が主軸になっているようです。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第10回 「患者負担無料化」に関する効果とコスト考

医療従事者と社会保障政策研究者の見解】

日本では、保険診療を受診する際、患者さんが窓口負担を支払う仕組みを採用しています。 この窓口負担を軽減すれば、経済的理由による受診抑制がなくなり、健康格差が是正されるはずだ、との考え方があります。今回は、この効果と、そうした「患者負担無料化」のコストを誰が支払うのか、などについて考えてみます。

◆患者負担無料化と予防意識の関係

東京歯科保険医協会では、小児の患者負担がない東京23区と、一部負担のある多摩地域での口腔の健康状態を比較。患者負担がない23区のほうが健康の度合いが高いことを示唆しました(2018年発表)。

このように、患者負担を軽減、またはゼロ負担にすることが望ましいという考え方が医療従事者の間に多く見られますが、社会保障政策の研究者からは、疑問の声が呈されることがあります。例えば、慶応大学総合政策学部教授(政策科学)で、元中医協委員の印南一路氏は、「患者負担軽減策は良いが、ゼロ負担はバラマキに過ぎず、健康増進に寄与しない」と批判しており、一定の支持を得ています。

窓口負担の軽減が受診抑制を緩和する一方で、完全に「タダ」にしてしまうと、健康づくり、予防への動機づけがなくなってしまうことも事実のようです。実際、23区内の子どもが歯科受診する際、まったくお金を持ってこない場合も少なくなく、TBIで推奨する歯ブラシを購入させることもできないという話を聞きました。

歯科診療所側では、窓口負担に関係なく診療報酬単価は変わりませんから、予防を徹底しなくても収益面では困りません。そのため、「また、悪くなったら来てください」で済ませてしまう歯科診療所が多くなるのではないかという懸念があります。

京都市では、小児へのむし歯治療(=予防ではない)の無料化が早くから実施されていますが、当初から「予防へのインセンティブが弱まる」という批判が見られました。

◆予防コストを診療所が負担

実は、無料化と予防への動機づけを両立させるために、「むし歯になったら、歯科診療所が損をする」というシステムを採用している国があります。

スウェーデンは、未成年(対象年齢は23歳まで/2019年から)の歯科の自己負担が無料ですが、そのコストの大半は歯科診療所が担っている構造です。ストックホルム市開業のヘーク・利香氏によれば、「地域住民の保健医療に責任を持つランスティンゲット(県に相当)から、子ども1人について人頭割りで歯科診療所に払われる健診料(約1万円)が、小児の診療報酬のすべて」とのことです。

この費用の範囲で詳細な定期健診を行い、もし、受け持ちの子どもが歯科疾患を発症したら、治療費は診療所の持ち出しとされています。健診だけでも年間1万円でペイできるとは思えませんが、むし歯治療が必要になれば大変な損失になります。時折、「スウェーデンの歯科医師は予防に熱心で」などといわれますが、そうしなければ大赤字になってしまうのです。

このように、「誰がコストを負担するのか」によって、制度の在り方が大きく変わることがあります。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第9回 新型コロナ感染症に見る/医療システムに優劣はあるか?

【後の明暗を分けた感染防止の初動対策】

新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の拡大防止にいち早く成功した国と、多くの犠牲者を生んだり深刻な経済不安を招いたりしている国の間で明暗が分かれています。それらの違いは、医療システムの優劣で説明できるでしょうか?

◆慢性疾患がメインターゲットに

新型コロナ対応は、通常の医療とは異なる社会インフラ(警察や軍隊など)も動員される「防疫」で、医療システムの力量をそのまま反映する訳ではありません。

とはいえ、「医療システムの充実したヨーロッパで、なぜ多数の死者が」という疑問を多くの人が抱いたのは不思議なことではありません。

治療薬が存在しない段階では、どの国でも可能な措置は隔離、行動制限などだけですが、「入院施設が足りない」、「検査キットが足りない」といった問題が噴出したことには、理由があります。

◆医療財政危機時のヨーロッパ諸国の対応

医療財政の危機に陥った1970年代以降のヨーロッパ諸国は、「いかに医療資源を使わせないようにするか」を追求してきたといっても過言ではありません。

◆非感染性疾患群

さらには、世界的な保健上の最大の問題となったのは、生活習慣に起因する非感染性疾患群(NCDs)で、世界保健機関(WHO)は、これまでもそうした慢性疾患に重点を置いて

きました。

このNCDsの多くは完治が期待しにくい複合的な病気であり、個々の生活習慣に起因するところが大きい分、予防も困難です。そこで、医療改革の目標は、以下の2点が中心となりました。

①多少の病気でも元気に過ごせる「健康寿命」を伸ばす。

②病床配置のムダを削減して医療費を効率的に配分する。

途上国の急性感染症そうした中、ややもすると「途上国で起きる他人事」と思われてきた急性感染症は、大きな盲点だったのです。

◆医療システムの3つのモデルと特色

現在のヨーロッパ諸国の医療システムは、歯科を含めて3つのモデルに分類できます。日本は1920年代にビスマルクモデル採用。

  • ノルディックモデル:イギリス、北欧など。税金を財源として政府機関が運営する国営医療で、比較的手厚い給付。未成年の歯科治療は全額給付。

②南欧モデル:スペイン、イタリアなど。イギリス型の国営医療がモデルだが、予算の関係で貧困層向けの医療給付に偏る。そのため、歯科給付はほとんどない。

③ビスマルクモデル=ドイツ、スイス、オランダなど。社会保険料を財源として診療側と保険者の調整で運営されており、比較的手厚い給付。成人の歯科治療費も給付する国が多い。

日本は、1920年代から③に分類される医療システムを持っていますが、各国とも、国内事情を反映して設立当初とは大きく変化させてきました。

ビスマルクモデルの国も、保険者の運営が難しくなって公費が充当されると、イギリス並みの国家管理が導入されるようになっています。

◆医療制度が変わる?

世界各国の医療システムは、慢性疾患や高齢化に向けて最適化されてきました。仮に、COVID―19で痛手を受けたとしても、急性感染症をメインターゲットとするような改革はなされないのではないでしょうか。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第8回 大規模な防疫は医療か?

防疫対策で費用対効果を考えることは困難】

◆「新型コロナ対策」に関する費用対効果 

感染症や精神病にかかった人を隔離することは、病院が出来た当初の役割の中心でした。これらの防疫を実施するのは、必ずしも医療従事者とは限りません。

実際、明治時代の日本でコレラが流行した際、病人を見つけて「避病院」という隔離施設に連行するのは警察の役割でした。

大規模感染症は「社会全体の脅威」ですから、個々の患者さんが治るかどうかは大きな問題ではなく、感染を広げないことが防疫の第一命題。つまり、通常の医療と防疫は質的に異なっているのです。通常の医療は「商品」だからこそ、費用対効果の考慮が重要です。

一方、警察、場合によっては軍隊も関わるような防疫では、中国で叫ばれた「防疫戦争に勝ち抜け!」というスローガンに象徴されるように、費用対効果を考えるのは困難です。ドイツやイギリスでは「新型コロナウイルスに国民の大多数を感染させ、集団免疫を得てはどうか?」という施策が検討されたりしました。

このように膨大な損害を許容しうるのも、防疫が戦争に近いものだからだといえます。「ポストコロナ」の社会はCOVID―19流行の前後で、医療を含めた社会のあり方が大きく変貌するのは確実だと思われます。

小社では、WEB会議システムの「ZOOM」を使ったWEB取材が増えてきています。歯科診療所では、遠隔診療をはじめ医療現場でのスマホの活用が大幅に拡大する可能性があります。

遠隔診療には「近隣のクリニックを受診する人が減る」という懸念がある一方、今後、歯科診療所数が急速に減少すると予測される地域での訪問診療や巡回診療などでの活用が期待され、全体的には、医療の費用対効果を改善する方策と見る向きもあります。

また、新型コロナウイルスのワクチン開発を切望する声が日増しに高まっています。日本は、ワクチンの普及に慎重な国として知られていますが、「インフルエンザなどでの定期接種を拡充すべきだ」との意見も見られます。ワクチン慎重論の根拠は「副反応で苦しむ人がいる」というものですが、ヨーロッパで浮上した集団免疫の考え方からすれば「社会のためだ。個人の都合など知らない」という極論もまかり通ってしまうかもしれません。ワクチンとは人工的な集団免疫に他ならないからです。

これから先、「ポストコロナ」の社会が、人々にとって住みにくいものにならず、新しい可能性を拓くものであることを祈りたいと思っています。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第7回 世界的な感染拡大をプラスに転じる

【危機感だけでなく将来の可能性にも目を向ける】

新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID―19」)の拡大が止まりません。歯科医療界でも、大規模なデンタルショーや学会などが軒並み中止となり、歯科大学の卒業式も中止、規模縮小などが相次いでいます。

こうした事態に対し、WHO(世界保健機関)はパンデミックを宣言。2019年3月25日には「不要不急の外出を控えてほしい」との小池百合子東京都知事の発言が、都民に緊張感を与えました。

一方、権威ある学術雑誌を含め、これまでとは想像できないほどのスピードで、次々に感染経路、病態の変化、予防法、治療法などについての情報発信が続いています。

◆黒死病で整った社会制度

中でも、中国大陸とシンガポールからの発信が目立ちますが、防疫施策では遅れが指摘された中国が、その一方で冷静な目で状況を把握し、膨大な医学業績を蓄積しつつあることは注目に値します。

感染症対策に限らず、社会的に大きなインパクトのある事故や災害が発生した場合、継続的なデータ収集と分析が、その後の対応に活かされることが多いもの。特に、今回のCOVID―19では、台湾政府の対応が適切、迅速、徹底的だとして高く評価されています。これは、過去のSARS対策での苦い経験を踏まえたものと言われています。

ヨーロッパの代表的な防疫施策は、いずれも14世紀から19世紀まで断続的に流行した黒死病(現在では、ペストだけではないとされている)への対策がルーツです。代表格は以下の3つで、現在の感染対策に反映されています。

①汚染地域からの人や荷物を一定期間、上陸させないで監視する検疫(イタリア)

②地域の衛生行政のセンターとなる保健所(フランス)

③住民の死因を記録、発表 する死亡統計表(イギリス)

◆「歯の病気」が死亡統計表に

死亡統計表は19世紀初頭まで断続的に発行され、その後の疫学調査やエビデンスに基づく医療・保健に直結しました。

ロンドンとその周辺において、最小の行政単位である教区ごとに毎週木曜日に発行され、一般の人も読むことができました。

当初、ペストでの死亡者数の変化を追うことで、危険な地域を特定することが目的でしたが、ペストの流行が一段落すると、別の死因が数多く記録されるようになります。例えば、17〜18世紀の記録に「Teeth」と「Dentition」との記録が非常に多く見られます(厳密には歯科疾患ではなく、乳歯萌出時の胃腸疾患)。この病気での死亡者数が、17世紀の資料ではペストなどと同程度だったことが分かります。

これらを記録したのは、教区の事務官です。そのため「医師でない素人による記録」だとされ、死因統計に用いられにくかった資料です。しかし、それら素人が100年単位で記録し続けた伝統が、大規模な疫学調査を可能にしたことが重要といえます。その後、コレラや壊血病の予防につながる疫学研究で、イギリスが世界をリードしたのは、こうした統計の経験があったからに他なりません。

現在、われわれを苦しめるCOVID―19の感染拡大も、社会に新たな仕組みや技術をもたらしてくれるかもしれません。危機感に煽られるだけでなく、そうした将来の可能性にも目を向けておきたいものです。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第6回 感染症が18世紀の歯科を発展させた

◆「隔離」は医療の原点なのか?

新型コロナウイルス肺炎の広がりが連日報道され、街を行き交う人の多くがマスクを着用しています。2019年2月15、16日開催の中部デンタルショーでも、出展関係者全員へのマスク着用の指示があったということです。

18世紀までヨーロッパにおける病院の役割の中心は、「治療」ではなく感染症や精神疾患の患者、貧困者の「隔離」にあったと聞いて、「今ほど肌感覚で理解できることはないかもしれない」と感じました。

現在の中国・武漢市で、短期間に隔離用の病院を作ったことが話題になっていますが、これは、伝統的な病院の役割に即したものとも言えます。

◆島国の日本特有の感染症観

ややもすると、島国の日本は「伝染病は外から来るもの」という意識が強く、いまだに「武漢に立ち寄った人がハイリスク」という前提の水際作戦を重視していますが、二次感染以降の国内感染が確認されている現在、対応のフェイズが変わりました。むしろ、「あらゆる人から感染源が持ち込まれる」という前提での感染経路の遮断が必要です。 

特に、日本の歯科医療現場では、目を覆うゴーグルの普及が思うように進んでいませんが、歯科医療はさまざまなエアロゾル手技を伴いますから、今後、目の粘膜保護が重視されていくと考えられます。

一方で、アメリカでインフルエンザが猛威をふるっているのに、日本ではインフルエンザの感染者が、今年に入って少ないのは、「新型肺炎ショック」によって人々の衛生意識が高まったからではないか、とも言えそうです。

「病気は外国から」、という風潮は、18世紀のイギリスでも顕著に見られました。当時、梅毒がイギリスとフランスという長く敵対してきた両国で大流行。すでに、一種の「花柳病」というイメージが強くありましたが、イギリスでは「フランス病」(フランス人からうつされた)、フランスでは「イギリス病」(イギリス人が持ち込んだ)という、まさに被害者意識丸出しのネーミングで呼び合っていました。

◆梅毒の広がりで欠損補綴が発展した

イギリス、特にロンドンで大流行したのは、「梅毒になると、ペストにならない」という俗説を信じ込んだ紳士らが、梅毒をうつしてもらおうとして、売春宿に殺到したためともいわれています。

梅毒は、重症化すると鼻などが破壊されてしまいますから、同時代の両国の義歯の画像を見ると、鼻や唇に補綴をしたり、口蓋を塞ぐ装置などがセットされている大がかりなものが珍しくありません。

当時の欠損補綴症例は、むし歯や歯周病によるものだけでなく、梅毒由来のものも少なくなかったと思われます。

こうして、大規模な欠損に対応した高度な補綴技術が発展した、とも言えそうですが、これらは「見た目を整えるもの」に過ぎず、咀嚼をサポートする機能は期待されていなかったようです。

今回の感染症騒ぎは、さまざまな面で近代医療の出発点を顧みる機会になっていると感じます。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。

第5回 歯科が家庭医機能を果たす時代 !?

◆途上国でインプラントが流行

それぞれの社会で必要とされる歯科医療と、実際に提供されているものとの間が、かなりかけ離れていて驚ろかされることがあります。例えば、深刻な歯科医療従事者不足が問題になっているカンボジアで、大半の歯科医師の関心事はインプラント。急増するう蝕の予防には、高いニーズがあるはずなのに、関心を持たないのだそうです。

世界保健機関(WHO)の数少ない歯科医官として、口腔保健の普及に当たっている牧野由佳氏(アフリカ地域事務所)によれば、口腔保健を途上国でも定着させていくために必要ことは、以下の3点。

①基本的なサービスへのアクセスの確保

②住民のニーズに合った人材の育成

③予防、治療の金銭的負担の軽減

つまり、小児う蝕が急増して予防が急務なのに、インプラントばかり追求しているカンボジアは、②の条件を満たしていないことになります。

また、CAD/CAM冠の技工というと、技術そのものは先進国的ですが、実は、ニーズがあるのは途上国の方です。先進国には、効率的に治療しなければならない大規模な欠損などは稀だからです。これらも、ある意味では、普及している地域とニーズのある地域が噛み合わない歯科医療と言えるかもしれません。

◆歯科への要請は家庭医の機能

では、現在の日本では何が求められるのでしょうか。結論から言えば、全身疾患を早期発見する役割が求められていると考えられます。

歯科医師国家試験でも、医科領域の問題が増えており、歯科と医科の境界が急速に薄まっている印象です。歯科医院でも医科疾患に対処する必要が出てきたためだと考えられます。 次の診療報酬改定で、二百床を超える病院への初診、再診で紹介状がない場合には追加負担が求められるようになります。これは、まずは家庭医を受診する流れを強化し、すでにパンク状態にある大病院の診療機能を改善しようとする政策です。

日本は、イギリスや北欧諸国と異なり、家庭医を独途上国でインプラントが流行立して育成してきた歴史が浅く、「もとは何かの専門医だった家庭医」がプライマリ・ケアを担う構造になっています。そのため、充分なスクリーニング機能が果たせず、誤診や見落としのリスクが懸念されます。

実際、私自身も、喉の痛みや出血に悩んで街の二カ所のクリニックを受診しましたが、「風邪」、「心理的な問題」などの診断。結局、自分の判断で近隣の病院で検査を受け、進行がんが見つかりました。

家庭医への受診を促して機能分化を推進するのは、医療費削減の上でも避けて通れないものの、肝心の家庭医が地域にいない、というのが日本の現状だと言えます。そこで、既存の医療機関が、個々に家庭医機能を高めていくよう求められます。これは、歯科でも例外ではなく、例えば、口腔の状況から全身疾患の徴候を判別する能力が要求されます。

 

【略 歴】水谷惟紗久(みずたに・いさく): 株式会社日本歯科新聞社『アポロニア21 』編集長。1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。慶応義塾大学大学院修了(文学修士)。早大大学院修了(社会科学修士)。社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て、1999 年より現職。著書に「18世紀イギリスのデンティスト」(日本歯科新聞社、2010年)など。2017年大阪歯科大学客員教授。2018年末、下咽頭がんにより声を失う。