連載/協会探訪 その⑪ 歯科医療の歴史と保険医協会<補綴含む歯科医療の背景に歯科医師法と健保法>/東京歯科保険医協会会長 早坂美都

連載/協会探訪 その⑪ 歯科医療の歴史と保険医協会<補綴含む歯科医療の背景に歯科医師法と健保法>/東京歯科保険医協会会長 早坂美都

私たち歯科保険医が、毎日、当たり前のように行っている歯科医療。今年も会員の先生方は、診療報酬改定で大変な苦労をしていることと察します。

東京歯科保険医協会は、医療運動、診療報酬改善、学術向上の融合的な発展を目指していますが、元々は運動団体です。19734月、「歯科保険医の経営・生活ならびに権利を守り、国民の歯科医療と健康の充実および向上をはかることを目的」に設立され、発足時にはたった180名の歯科医師でした。

以後、歯科保険医の要求に基づく自主的な団体として、今日までさまざまな活動を展開。その結果、会員数は202661日現在で6,094名となっています。

【大正11年の健康保険法制定から歯科医療は保険給付に】

1906年に旧歯科医師法制定さる

現在の日本の歯科医療制度の基礎ができあがったのは、1906(明治39)年で、旧歯科医師法が旧医師法と同じ時期に制定され、歯科医師が独立した専門職として法律に位置付けられました。

その16年後の1922(大正11)年に健康保険法が制定されました。関東大震災などの影響から保険給付は4年後の1926年から始まりました。そして、制度発足当初から、歯科医療(補綴を含む)は医療と同様に保険給付となりました。

このことは、日本の歯科医療の歴史の大きな転換点でした。補綴治療を保険給付することについては、時代背景とともにかなり議論されたようです。

【歯科補綴への健康保険給付】

ところで、旧歯科医師法についてですが、私が調べたところでは、1896(明治29)年頃から旧医師法を制定する動きがありました。しかしながら、1899(明治32)年に明治医会(東京帝国大学医学部系)が発表した医師法案は、「歯科医師について,本法は適用しない」との内容でした。その後、医師法案に歯科医師を入れる方策がないか、歯科関係者の間で医科関係団体との交渉を含めた対応が続きました。その結果、当時の大日本歯科医師会は、医師法とは別に歯科医師の身分に関する法律を制定することを目指し、歯科医師法草案を190410月に作成し、19063月、帝国議会で「医師法」と「歯科医師法」が同時に可決・成立しました。

一般的には、新たな法律を制定するには、それ相応のプロセスを要します。おそらく当時のこの動きがなければ医師法のみが制定され、歯科医師法の制定までには、さらに相当な時間を要した可能性が高いと考えられます。医師法と同時に歯科医師法が制定されたことで、その後の健康保険法の制定による診療報酬制度に対しても影響が出た可能性は否定できません。

健康保険法(1922年制定)では、歯科の給付において「保険経済上の観点から当分の間、歯科技工を含まない」との政府の方針がありました。補綴を給付に含めると保険財政が圧迫されてしまうことを懸念したためです。また、諸外国の給付状況も参考にされました。健康保険制度が始まった頃にモデルとなったヨーロッパでは、16カ国中歯科の給付が行われていたのはその半分でした。さらに、補綴を給付していたのは、イギリス、ソビエト、ハンガリーなど、わずかな国々だけだったのです。

歯科補綴への健康保険給付に対して、当時の日本聨合歯科医師会は血脇守之助会長名で内務大臣に対して「歯科治療は補綴を含めてはじめて意味があり、除外するのはおかしい」趣旨の意見書を提出しています。結果的に我が国の医療保険では、制度開始時から歯科補綴を含む標準的な歯科治療の多くが保険給付されています。

最近では、急速な人口の高齢化により、医療・介護の連携、要介護者に対する在宅歯科医療を提供していく機会が増えています。その多くが義歯の修理や調整であることを考えると、義歯の保険給付がなければ非常に困難な状況になることは容易に想像できます。少子高齢化に伴い、基礎疾患を持つ高齢者の歯科治療が増えてきております。このような状況を背景に、今後の歯科医療政策では、適切な歯科保険診療の充実と歯科医師臨床研修制度や教育内容などを含めた歯科医師養成が重要になります。

先人が築いた歯科医師法と健康保険制度で、歯科補綴を含めた歯科医療の基礎があるからこそ、私たち歯科保険医は国民皆保険を継承し、さらに発展をさせる必要があります。

次号より、日本における歯科医学の発展や歴史と共に、私たちが所属する「保険医協会」がどの地域から始まったのか、その後、どのような歩みにより日本全国に広がっていったのか、少しずつ紹介していきます。

≪参考文献≫

◆「日本の歯科医療制度の礎とこれからの展望」,上條英之(東京歯科大学歯科社会保障学教授),歯科学報

◆「戦後保険医運動の歴史」,保団連,労働旬報社