談話「患者の安心を守るためにOTC類似薬の保険適用除外に慎重な議論を求める」

談話「患者の安心を守るためにOTC類似薬の保険適用除外に慎重な議論を求める」

談話「患者の安心を守るためにOTC類似薬の保険適用除外に慎重な議論を求める」

日々、患者と向き合う私たち歯科医師にとって、患者が安心して受診できる環境を守ることは極めて重要である。

政府が「骨太の方針2025」で示した「OTC類似薬の保険給付の見直し」、すなわちOTC類似薬を保険適用から除外する政策は、患者の安心と医療制度への信頼を揺るがす恐れがある。政府・与党は、この施策により軽微な症状での受診を減らし、医療現場の負担軽減や社会保障費の抑制につながると説明しているが、実際には以下のような懸念がある。

重症化リスクと医療費の増加

OTC類似薬が保険適用外となると、経済的負担を理由に受診を控える患者が増える可能性がある。その結果、初期段階で治療を受けられず、病気が重症化してから受診するケースが増加し、かえって医療費や医療現場の負担が増える恐れがある。

また、国の負担は削減されたとしても、自己負担分は大幅に増え、国民全体の医療費はむしろ増加する。実際に、難病を抱えており、塗り薬や飲み薬が欠かせない方のケースでは、月の自己負担が3,000円から約20万円に増えるとの試算もある。子どもの場合は、保険診療の窓口負担分の多くが自治体で助成され医療費は抑えられているが、OTC類似薬が保険適用外となれば、助成の対象からも外れるため、子育て世帯には大きな負担となる。

患者の安全確保と服薬管理の問題

現在、処方薬は医師・歯科医師による診断と服薬指導を受けた上で使用するが、OTC類似薬を自己判断で購入・使用する場合は、服薬管理が不十分となり、飲み合わせによる副作用や誤飲事故が発生するリスクがある。さらに、適切な薬剤選択や用量調整ができず、治療効果が不十分になることや、不適切な抗菌薬使用による薬剤耐性菌の増加などにつながりかねない。

特に高齢者や複数の疾患を抱える患者では、服薬内容が複雑になるため、医療者による確認が不可欠である。

マイナ保険証との整合性

国は、マイナ保険証を通じて過去の診療情報や薬剤情報を共有し、質の高い医療を実現することを目指している。しかし、OTC類似薬が保険適用外となると、それらの使用情報が診療記録に反映されないため、患者の服薬状況を正確に把握できなくなり、国が推進する「データを活用した安全な医療」の理念と整合しない結果を招く恐れがある。

歯科診療における影響

歯科診療においても、術後の消炎薬や口腔内の殺菌を目的としたうがい薬など、OTC類似薬とされる薬剤が用いられている。れらが保険適用外となると、患者が自己判断で薬剤を購入することで、適切な服用や衛生管理が行われにくくなり、術後感染症や副作用のリスクが増加するなど、安全性の低下につながる可能性がある。

さらに、患者負担の増加は、経済的理由による受診抑制が増加する可能性がある。特に歯科は所得が減ると受診控えが起こりやすいと言われているため影響が大きく、口腔健康の悪化が全身の健康に影響を及ぼす可能性も高い。

医療現場への影響

冒頭でも触れたが、政府・与党は、OTC類似薬を保険適用から除外することで、軽微な症状の患者受診を減らすことができ、医療現場の負担軽減や医療費の抑制が図れると説明しているが、OTC類似薬が保険適応外になったからといって、必ずしも軽症患者が受診を控えるとは限らない。むしろ、患者に市販薬の選び方や使用方法を説明する必要が生じるため、医療現場の業務が複雑化する可能性がある。

また、市販薬は一度に複数錠単位で購入する必要がある場合が多く、必要量以上の薬剤が手元に残り、無駄な医薬品が増えることも懸念される。

結びに

社会保障費の抑制や医療現場の負担軽減は重要な課題だが、社会保障費の抑制を名目に患者負担を増やすのではなく、医師・歯科医師による適切な診断と処方を通じて重症化を防ぎ、医療費全体を抑えることこそ重要である。

私たち歯科保険医は、国民皆保険制度を守り、患者が安心して治療を受けられる環境を維持するため、慎重な議論を求める。

2025年10月9日

東京歯科保険医協会

政策委員長  松島