”涙の再会 同窓の奮闘に活力「パワーもらった」(伊藤 栄子さん × 吉田 真理さん)
“52年ぶり”涙の再会 同窓の奮闘に活力「パワーもらった」
(伊藤 栄子さん × 吉田 真理さん)
歯科医師としての“引退”に着目した本企画。歯科医療の第一線を退いた先生や、閉院を検討する先生にお話を伺い、引退を決意した理由や、 医院承継、閉院の苦労などを深堀りする―。
出席番号は、「13」と「38」。半世紀前、日本歯科大学のクラスメイトとして学生時代を過ごした伊藤栄子先生と吉田真理先生(ともに76歳)は、今回、本企画を通じた縁で実に52年ぶりの再会を果たした。自身のけがや加齢を機に、診療の縮小を考える伊藤先生と、現在も院長として医院経営をする吉田先生。分岐点に立つ伊藤先生は旧友との再会で何を感じたのか―。
―久しぶりの再会となりました。
伊藤先生(以下、伊藤):全然変わっていなくて、雰囲気は18歳の時と同じでしたね。亡き父は千葉県出身で、茂原市出身の真理ちゃんのことを“モバラちゃん”と呼んで可愛がっていました。亡くなる前まで「モバラちゃんはどうしてる?」と言っていたのが懐かしいです。
吉田先生(以下、吉田):昔、栄子さんの実家でステーキをご馳走になったんです。改めてその時のお礼を伝えたくて、今日再会できてとてもうれしいです。
―では、大学卒業後の歩みを教えてください。
伊藤:ビートルズが大好きで、それが興じてイギリスに留学するなど若い頃は自由に生きていましたね(笑)。でも父が亡くなって、30代前半で伊藤歯科医院を引き継ぎ、その後は同じく歯科医師だった母と医院経営をしました。
吉田:卒業後に結婚し、4年ほど勤務医として働き、その後に子どもが生まれ、10年ほど休業した後、同級生の医院で勤務医として復帰しました。以降は他院に勤務し、日本歯科大の非常勤講師として勤めました。2015年に吉田歯科医院を開業しました。
―伊藤先生は現在、診療の縮小を検討しているそうですね。
伊藤:年明け頃に患者さんの難抜歯をした際に、指を痛めてしまいました。そこから思うように診療ができず、今後の診療について考えるようになりました。長年診てきた患者さんが来られなくなったり、お亡くなりになったり、この年になるとそうした変化がありますが、代わりに若い患者さんの診療を始める、というのはなかなか難しいところです。いろいろな悩みの中で今後について迷っているところです。引退も頭によぎりましたが、今は診療所を移転して、訪問診療を中心とした医院にするなど診療の在り方を考えています。
―年齢を重ね、診療や医院経営を続ける難しさを感じているのですね。
伊藤:従業員を雇ったこともありましたが、人間関係に悩んだり、例えば従業員のためのベースアップ評価料のような複雑な仕組みを理解するより、一人で医院経営をした方が楽だと思うようになりました。自分にとってはそれがシンプルイズベストで、診療に集中できる形なんです。
吉田:私も今は健康に恵まれていますが、あとどのくらい続けられるかなと感じます。機器の買い替えなど考えることも多いのでさまざまな兼ね合いによって、退き際を考えるタイミングが訪れるかもしれません。
―歯科医療に関わるお互いの選択について、どのように感じますか。
伊藤:真理ちゃんは昔から勉強熱心だったので、そのまま院長として突っ走ってほしいと思います。お互いにこの年齢だから、何よりもずっと健康でいてほしいと思います。年明けのけがから気持ちが落ち込んでいましたが、今日、真理ちゃんを見たら学生の時と全く変わっておらず、とてもパワーをもらいました。この先どうするかは未定だけど、今日もらった活力で私も頑張りたいです。
吉田:栄子さんも健康に気を付け、やりたいことをやってほしいです。車の運転が大好きということなので、事故には気を付けてね。私も人との触れ合いを大切にして、進化しているデジタルや新技術に少しでも対応できるようになりたいと思っています。
≪患者との思い出「通じ合うものあった」≫
―長い歯科医師人生の中で、思い出深い患者さんもいたとか。
伊藤:ミュージシャンを目指していた患者さんを20年ほど診ていました。お金はないんだけど、必ず1年に何度か来院して、コーラが好きだから口腔内の状況が良くなかったんです。そんな彼が親の面倒を見るために帰郷することになり、「頑張れよ」と思いを込めて、最後にエアロスミスのコンサートに連れて行ったんです。それだけの話なんだけど、お互い“ロック魂”みたいなもので通じ合うものがあって思い出に残っています。不思議なもので、長くお付き合いが続く患者さんは、一目見れば分かり、患者さんも「この先生なら大丈夫」と直感するのかな、と思います。
―最後に同世代の先生に向けて、メッセージをお願いします。
伊藤:ビートルズの名曲「Let It Be」の和訳ですが、「あるがままに」ということです。なるようにしかならないから、好きなことをしてほしい。せっかくこの世に生きてきているんだから大いに人生を楽しんでください。
吉田:引退は仕事を始めるよりも難しい決断だと思います。でも最後には「我が人生に悔いなし」と納得して終われるように健康で明るく生きてほしいと思います。
―ありがとうございました。