院内盗難・患者さん負傷責任の所在は…

№277:2012.6.1:505号

質問1

待合室で患者が目を離したすきに盗難事件が発生。患者の財布がなくなった。医院として責任を問われることはあるか。

患者の持ち物については、原則として患者の自己責任となり、盗難が発生したとしても、基本的に医院に責任はありません。しかし、待合室に手荷物を置いたまま治療をして、その間、受付が不在になるなど、医院の体制的不備によって盗難が発生した場合は、医院の管理責任が問われる場合が出てきます。医療機関は誰もが自由に出入りできるところです。そのため待合室等では盗難などが発生する可能性はつきものです。そこで、医院としては、盗難を未然に防ぐための体制を整える必要があります。歯科では、自費治療もあり一定の額を持ち寄っている患者もいます。そのため、患者に対しては、貴重品は自分で管理し、目を離さないよう注意を喚起することが大切です。また、従業員に対しては、治療が終わった後も待合室に長くいる患者や、挙動が不審な人に対しては「どうかされましたか」など、声を掛けることが重要です。また、患者から「貴重品を預かってほしい」と申し出があった場合、原則としては預かるべきではありません。この場合、万一、盗難や紛失が発生した際は、全面的に医院の責任を問われる場合がありますのでご注意下さい。

質問2

患者が院内の段差につまずき、けがをした。医院として責任を問われることはあるか。

医療施設では安全確保における安全配慮義務があり、来院した人の生命および健康等を危険から保護するように配慮する義務を負っています。そのため、来院した人が院内でけがを負わないよう配慮する必要がでてきます。この配慮については、明確な基準はありませんが、例えば、つまずきやすい段差を放置していたり、雨水をそのままにして、廊下が滑りやすい等、事故の発生が予見可能であるにもかかわらず、何も措置を講じることなく事故が発生した場合、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。また、安全配慮義務以外にも工作物責任というものがあります。これは民法第七百十七条で定められたもので、建物やその内部が通常有すべき安全性を欠いている状態にあれば、工作物責任に従って医院が責任を問われる場合があります。事故は未然に防がなくてはならないものですが、偶発的にさまざまなことが起こるものです。したがって、それらをすべて未然に防ぐことは困難なものです。このような時に役立つのが、施設賠償責任保険というものです。施設の構造上、または安全確保に問題があり、他人にけがをさせてしまったり、物を壊してしまった場合、医院が負うことになる損害賠償額を補填してくれる保険です。開業されている先生の場合は、通常は医師賠償責任保険に加入することで、施設賠償責任保険にも加入していることになりますが、保険契約にはさまざまなものがあります。万全を期すためにも、契約内容を確認しておくことをお勧めいたします。