自費治療費の未収金の時効年数と回収方法について

№270:2011.11.1:497号

質問1

自費治療代金30万円を支払ってもらえず未収になっている患者がいる。毎年数回、請求(催告)をしていれば、時効は関係ないと判断しているが問題はないか。

そのような対応だけでは、時効が成立してしまいます。民法では診療等を行った日の翌日から3年で時効が成立します(民法第170条)。その間に、口頭や手紙で請求すれば、催告をしたことになり、6ヶ月間は時効期間が延長します。しかし、これは一時的に6ヶ月間延長するものであり、この6ヶ月の間に訴訟を行うなど、より強力な手段を取らなければなりません(民法第153条)。したがって、催告をしているだけでは時効が成立してしまい、最大で3年6ヶ月経過すると、その治療費については患者の支払の義務はなくなってしまいます。なお、延長された6ヶ月の間に、催告を繰り返したとしても再延長はありません。くれぐれもご注意ください。

質問2

訴訟などせずに自費治療代金の未収金について時効成立を防ぐよい方法はないか。

回収に努力したとしても、思うようにいかず時間が経過してしまうと、いよいよ時効という問題が浮上してきます。「3年経過したので払わない」といわれないためには、時効を止めなければなりません。これを「時効の中断」といいます。時効が中断されれば、時効期間がリセットされ、その時点から改めて時効が進行することになるのです。これは、回収に向けた新たな時間をつくることができるので、強力な武器といえます。しかし、単に電話や手紙で催告しているだけでは「時効の中断」にはなりません。次のいずれかによる事由、すなわち、①患者に債務があることを承諾してもらう、②裁判で請求する(請求を却下されたり、取下げられた場合は、時効の中断にならない)―が必要になります(民法第147条)。つまり、先生が患者に請求できる権利があることを、患者本人、もしくは裁判所に認めてもらう必要が出てきます。患者が簡単に承諾すれば話は早いのですが、何らかの理由で支払を拒んでいるようなケースでは、患者の承諾を得るのも困難です。そこで、効果を発揮するのが「内容証明郵便」による催告です。内容証明郵便は「いつ・誰が・誰に・どのような内容の郵便を送った」のかを郵便局という公的な機関が証明してくれるものです。この郵便を利用することで、債務について請求をした証拠にすることができます。文面には、必ず期日を指定した上で、支払いを促して下さい。催告を受けた患者が「代金の一部を支払った」、あるいは「少し待ってほしい」といった文面の回答を返信してきた場合は、その債務について、患者から承諾を得たと判断することができます。つまり、これは「時効の中断」となり、時効期間が再び3年に戻ります。未収金について、どこまで追求するかは、その金額と、かかるコストとの費用対効果もありますが、回収に向けた努力は不可欠です。そしてその過程を必ず残しておくことが大切です。