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映画紹介⑱「 博士と私の危険な関係 ~Augustine~ 」

映画紹介⑱「 博士と私の危険な関係 ~Augustine~ 」

【2012年フランス/アリス・ウィンクール監督】

「オーギュスティーヌ、ど うしたの?」
「体調が悪いの」
「仮病に決まっているわ」
 映画は、患者オーギュスティーヌのヒステリーの病状、検査、診断、治療の経過を通して「ヒステリーとは?」を学ぶには格好の教材となっています。
 舞台は神経症の女性患者が集まるパリ・サルペトリエール病院。時代は1853年。主治医のシャルコールは、フロイトも門下として学び、パーキンソン氏病の命名者でもあります。19歳のメイドのオーギュスティーヌに右手の痙攣、全身の硬直が仕事をしている時に起き、転倒。喉を掻きむしり、のたうち回るヒステリーの大発作が発症しました。
「やめて」
「お願いやめて」
 誰かに首を絞められているかのように悶え苦しむ様は、中世の魔女の姿を彷彿させました。それ以来、右目の大きな瞼は開かなくなってしまいました。
 スクリーンに「Augustine」のタイトルが写し出され、物語りはここから始まります。
 彼女の発作に興味を持ったシャルコールは「痛みは?」「発作はいつ?」「あざだらけだけど。発作の頻度は?」「舌を出して」「感じるか?」「ここは?」と打診、触診、聴診を彼女の全身隈なく繰り返し行ないます。
 彼女は体が成熟しているのに、月経がありませんでした。
「どうして私にはないの」
「治れば月経も始まる」
 ヒステリーには、情緒の不安定、知覚の麻痺、首が回らない、吐き気、体調不良、片頭痛、眩暈、生理痛、鬱状態などさまざまな病状と発作があります。
 毎夜、オーギュスティーヌは「神様 私の病気を治してください」「神様 私の目を開けて下さい」と祈り続けました。
「頭が正常か、異常かを 調べたい」
「週の曜日を言ってみて」
「月、火、水…」
 シャルコールは学会員が集まる定例公開講義の場で、患者・オーギュスティーヌを供覧に付し「鏡をみて」「光がみえるね」「光を追って」と、彼女に催眠療法を施し、彼女の病態は卵巣ヒステリー症で、右目が麻痺しているヒステリー性ウインクの典型例だと診断しました。
 ヒステリーは19世紀初頭までは、女性の骨盤内鬱血によるものとされていましたが、シャルコーの催眠術療法を経て、フロイトでは無意識下での抑圧から発症するとされてきました。1990年代になって、アメリカ精神障害の診断と統計マニュアルで「解離性障害」と「身体表現性障害」に、WHOでは「解離性(転換性)障害」に分類され、今日ではヒステリーという用語は消えてしまいました。
 ある日、オーギュスティーヌは血まみれの動物たちの屠畜場の夢を見て、翌朝19歳にして、初潮を迎え、ヒステリー症は瓦解しました。
 オーギュスティーヌを演じるのは歌手のソコ。全裸で体当たりの演技をしています。シャルコールを演じるのはベテラン俳優ヴァンサン・ランドン。2013年第38回セザール賞にノミネートされた、官能的な作品でもあります。
  (協会理事 竹田正史)